木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.8 2000.3.13
Newsletter of the Forest Management and Research Network

複層林の是非を問う・第5回森林施業研究会への参加を!

 中央林政審議会は、我が国における今後の森林整備の目標として、長伐期、混交林とともに複層林の造成を掲げた。これを受けて、林野庁は、人工林のおよそ30%を複層林に誘導する事業に着手している。しかし、複層林施業は、その理念の普及とは反対に、森林施業の現場に、様々な技術的、経営的問題を引き起こしている。そこで、この4月、日大生物資源科学部(神奈川県藤沢市)で開催される林学会大会にあわせて開かれる第5回森林施業研究会では、この「複層林」を取り上げ、その技術的、経営的側面を検証することとした。複層林施業を推進する行政官、林業現場で複層林造成に取り組む技術者、林業経営者、そして複層林を研究する研究者が一同に会し、「複層林」の是非、その可能性と問題点と徹底討議しましょう!もちろん、未来の森林管理・林業の担い手たる学生の参加、森林に関心のある一般市民の討議への参加も大歓迎である。

第5回森林施業研究会
徹底討論「複層林は是か非か? その可能性と問題点を探る」

話題提供者 

藤森隆郎(日本林業技術協会)「複層林施業とは _その意義と問題点_」
竹内郁雄(森林総研・生産技術部)「複層林施業は可能か?」
藤江 達之「林野行政における複層林施業の位置づけ」(予定)

林学会大会3日目(4月2日)午前9時より

日本大学生物資源科学部(藤沢市)

施業研究会の全国世話人会・交流会で熱き論議を!

恒例の全国世話人会兼交流会は、研究会前夜(4月1日午後6時〜)に開催の予定です。

1年間の活動を総括し、次年度の方針を確認し、さらに情報交換と人的ネットワークを拡大する全国世話人会に、多数の参加を!

なお、参加希望者は、会場の準備も都合もありますので、3月25日までに、下記の神奈川県森林研究所の田村さんまで電子メール、FAXなどお申し込みください。

田村 淳 (神奈川県森林研究所)
TEL:046-248-0321; FAX:046-247-7545
E-mail: kfri01@cb3.so-net.ne.jp

最近の霞ヶ関・・・林野庁の動き

桜井尚武(首席研究企画官)

森林・林業・木材産業基本方向の検討

昨年7月に基本方向検討会の報告が出ました。一昨年7月に農業基本法が食料・農業・農村基本法に改定されて、これを実行に移すための行政の基本計画の策定作業が進んでいます。また、この改定を受けて、研究の憲法である農林水産研究基本目標が昨年11月に策定されました。この基本目標は国の研究の方向を示す科学技術基本計画を受けて各省庁で策定するものの一つです。さて、この基本目標に示された研究方向を実行するための指針として、分野別の研究技術開発戦略(仮称)の策定作業が行われています。この戦略は国の研究の方向を実行に移す指針と言うことになりますが、それを受けて、実際に研究を進める研究所は自所の研究基本計画を改訂する作業を行っています。政府が出した原則を省庁が受けて、それを内部部局が受けて、更に実行部隊たる研究所が受けるという多重構造で日本の行政は進んで居るんですね。呆れるほど面倒くさい鎖に連なっているわけですが、生物社会も食物連鎖とか物質循環とかいった、複雑多岐にわたる鎖に連なって居るんだから、それと比べればかわいいもんです。

 ところで、林野庁は昭和38年に定めた森林法、林業基本法を、基本方向検討会の報告を受けて新たな基本法に改訂する作業に入りました。現在は7月頃を目処とした林政改革大綱をつくるための林政の基本方向作りが各課で行われていますし、そのために集中的に作業をする基本政策検討室も拡充強化されました。新しい基本法の名前がどうなるかはまだ明らかでありませんが、農業の基本法の名前の評判がいいので、森林・林業・木材産業基本法という声も根強くあります。新しい林政の方向はこれまでの木材生産重視から、森林の持つ多面的機能の重視、資源の循環利用、木材産業の振興を推進することとしています。それでは具体的にはどうするか?それがこれからの問題です。こう書くと、なんだ今までと同じじゃあないか、という声が聞こえそうですね。そうです、確かに今までと大しては変わりません。新しい林業技術と言ったって、太古変わらぬ基本の上に乗って、ささやかな創意工夫をする程度というのと似ています。

新しい林政ー霞ヶ関の行政官は何を考えているか

 これまで、林政は自然に合った施業を採用して地道に実行していれば、それが自然が持つ多様な機能が自ずと発揮され公益性も確保されるとする、フランスの哲学者ライプニッツが唱えた予定調和論の上に立っていました。ところが、前提であるところの、「自然に合った施業」が地道に実行されなくなってしまった現在、予定調和があるものとして補助金をバラ撒いても、森林の劣化は止まらないということを認めたという点に大きな変更があります。赤字を抱えた林野特別会計のしがらみのなかでは生態系の原則に従った施業を実行できなかったことも大きな要因です。このような実態を認識して予定調和論に基づいた林政施策という基本を変え、森林計画の策定は地元の市町村が策定するようにし、保育が必要なのに保育されない放置林については公的関与を強める、という姿勢に変わったということです。で、実態はどうなるかというと、今、具体的に取るべき作業をどうするかと各原課(行政を執行する課を原課、局を原局と言うんだそうで、林野庁は原局)が頭をひねっている最中です。

 タテマエで言えば、先月中は各県の林政担当者・研究担当者がヒアリングと称して、霞ヶ関の原課の課長補佐・係長と来年度予算の重点課題について意見交換をしていました。さて、農業関係は新しい農政を推進するに対しての方向を説明するために、各課長が昨年冬に分担して各県を廻り、農政関係者、農協、農業者等に会いにゆきました。林野庁もほぼ同時期に林政の新しい方向の説明と県等の意見収集のために課長・室長が各県を廻りました。新しい水田農政の説明に、農業は今年も地域廻りをしていました。このような作業で、国の施策や予算要求には県側/現場の意見が採り入れられている筈なんです。しかし、地方の意見を聞かない、という文句が多いんですね。地方の意見を反映させないのか、技術的に難しいのか、それとも実は地方が適当な意見を言っていないのか、このへんはよく分かりません。

 最初に列記した各種の方針書についても、色んな先生方、委員方の意見を基に彼らの了解も取って出したものの筈なんですが、当然ですけど、批判が多い。策定した側からは、それじゃあどうしたらいいんだよ、具体的な提案をしてよ、という声が漏れます。案外、批判する側も含めて、我が国の有識者と行政に当たる者はこの程度の者なんじゃあないかな、余り理想を求めても無理なものはできないよ、と思ってしまいます。とはいっても、ここへ来て2年の観察ですが、行政は随分と物わかりが良くなったように思います。これまでの方針が大幅に変わり、施策の行く先がまだはっきりしていない現在であるという状態も、行政側が色んな意見に耳を傾けて、納得できるものを探そうという姿勢になっていることも利いて居るんでしょう。意見を言う側は、いいアイデアと思ったものは根気強く主張し続ける、ダメなものは止めるように対案を以てこれも根気強く主張し続ける、勿論担当者(課長補佐・係長かな)の耳に届ける、現場も見せる、こういったことが大事で、効を奏する秘訣だと思います。

 うるさい、物わかりの悪い担当も居ますが、みんながそうではありません。また、行政の担当官は一カ所にそんなに長くはいません。だから、前回うまく行かなかったからとあきらめず、状況は刻一刻と変わっているので、主張は一度であきらめず根気よく繰り返すといいと思います。あきらめてはいけないんです。多くの行政官は国民のためによかれと思っていることを実行したいんですよ、実は。

行政を行うってのはどんなことをするのか

 あまりに当たり前でバカにするな、と叱られそうですが、でも、案外とこのことを知らない人が多い。最近、橋本龍太郎元首相の秘書官で通産官僚出身の人が、誰が行政改革をダメにするか、というような単行本を出しました。その中に色々書かれて居るんですが、その一つ。自分の上司や代議士の指示質問のための報告づくりにものすごい時間を割いている、これがなければ職員のサービス残業が減るだけでなく、職員を随分と減らすことが可能だ、というがありますが、これは実感として事実だなあと思うのです。行政の仕事は、国民・社会が必要なことを実現するために法律の原案を作ったり、通達を出したりするだけでなく、予算措置をして、補助金とか交付金とかで事業を実行させるのが重要な仕事です。そのため、予算要求の原案を作ったりするわけですが、その案を次々と上司にあげて了解をとり、課の案とする。この作業が大変。原案には、最近とみに科学的データに裏付けられたものとすること、が求められているので、その根拠づくりをする。また、国民・社会ニーズに対応すべきとも言われているので、毎年年明けに行われるヒアリングで県行政官や団体から色々聞いて、本や新聞も読んで、それらも加味した課の重点課題に沿って案を作る。この案が簡単にはOKを貰えず何度も作り直しとなる。ようやく課長のクリアを経て、次は林政課の調整を経て林野庁の案件となり、ついで官房の調整をクリアすると省の案件となって大蔵省へ要求することができるようになる。この間、また大蔵からも勿論ですが、クレームが付くたびに担当官は資料の訂正、収集と説明文の作り直し・・・、大変なもんです。できないと、いつまでも帰れない。時間との勝負の日々が続くわけです。

 先週、省総務審議官が庁内で急逝しました。日頃から過剰勤務は是正するように、との総務課会議からの注意が流れていましたが、

この事件を受けて、さらに定時退庁の促進、有給休暇を取りやすいように、特段の事項がある場合はともかく恒常的な残業をしないよう/させないよう担当課長等は気を配ること、との指令が出ました。しかし、行政に対する世間の要求は大きいし(と言われるし)、それを無視できない以上無駄と思える手続きも止めるわけには行かないし、で、絶対的な上意下達システムを何とかしない限り是正は難しいなと思うのです。かといって、上の言うことを聞かない部下という組織も困りもんだし・・・。

今後の林政の方向

 こう構えた割には大したことはないんです。三重の速水林業がFSCの認証を取りました。「気軽に認証に取り組んだけれど、反響が大きいのでちょっと驚いた。日本の今までの林業経営でも持続性は確保できていたと思うが、昨今はかなりの問題が出てきている。生態系に対する配慮と森林管理の社会性に関しては日本では総論的な認識しかなく、具体的な配慮が殆ど議論されていない。数値的な押さえを含む計画性が実は最も欠落しているといったところが問題でないか」という意見を速水さんから聞きました。先の基本方向検討会の委員に出られていた時にもこのような意見を頂きました。遅蒔きながら、林野庁もこの意見を入れた対応をすることを考えていますが、実態はどうなるか、何ができるか、この辺は皆さんのご意見をたくさん頂き、より現場の了解が取れる林政を行いたいという雰囲気があります。

 間伐推進は緊急の課題と言われてきましたが、来年度も「間伐緊急5ヶ年対策」を立ち上げて、152万haを平成12_16年度までに行うことを目的にしています。今年度は2次補正予算を前倒しで適用して5万haを行うとしています。これが、実際に必要なところに予算が来るかどうか、またその予算の配賦の仕方が問題だと言うことは、施業研究会で再々指摘されているわけですが、それも考慮したのか森林組合の大括りを今進めています。

 さらに色々書かないと、研究会の皆様の気は済まないのでしょうが、そのことはよく分かるのですが、時間がないようなので後日書かせていただきます。

 なお、ご質問やご意見のある方は、事務局へ直接メールで投げ込んでください。可能な範囲ならばお答えします。そうそう、少し前の林業技術に、木平農工大教授が林野庁もパブリックコメント(PC)を始めたが、これは画期的なことだと言っていました。私も及ばずながらPCのまねごとをしてみましょう。

私のジグザグエッセイ(3)

市民参加の必要性

菅沼好一(栃木県職員)

 最近、環境白書を久しぶりに見ることがありました。森林についていろいろと記述があって面白く読ませていただきました。

 私は現在、県営林管理や保安林整備を主な担当業務としております。県営林は分収契約した森林の管理でスギ・ヒノキを中心とした人工林の除・間伐、枝打ち、収穫です。特別会計制度で実施しており、少しでも黒字経営となるようがんばっています。保安林整備事業は保安林で所有者が管理を放棄した人工林の管理で本数調整伐が中心になっています。

今までの林業の手法からは概ね妥当な仕事をしているつもりですが、国民・県民が期待している作業であるかは自信が持てません。国税が投入されているものは会計検査があり、県税ならば県の監査があります。これらは法令に基づいて実施されているか、投資効果があるかをチェックします。会計検査や県の監査が国民・県民の望んでいるものかよくわかりません。さらに森林が次世代まで影響するものであるならば未来に対する配慮が大きく求められるべきだと思います。

 国民・県民の森林への関心がボランティア参加などの形にも現れています。さまざまな方が参加するので情報に広がりが生れるのでより洗練されたものとなります。都市計画では世田谷区に代表されるように市民参加形式が認められつつあります。森林整備においても、より広範囲に市民参加がなされることがよりよい森林整備につながってゆくと思います。市民参加の場に研究者も一緒に入ることで得られるものがあると思います。

 森林の仕事は何に対して責任を持つかと考えると森林との相互作用に係る現在と未来の生き物に対してであると思います。問題を明確にするために単純化したり矮小化したりが当たり前のこととして行われてきましたが空間的にも時間的にも大きな存在である森林を原寸大で扱って行けるようになれればと思います。

 

<編集後記>

水戸市の郊外に「不動山」と言うところがある。不動山は、藩政時代に水戸藩により、御立山(領主林)として管理されてきた藩有林で、その後、国有林に編入され、水戸市の水源を守る水源かん養保安林として、長らく施業の対象にはならず、保全されてきた老齢なスギ・ヒノキ・サワラなどからなる針葉樹人工林である。ところが、この不動山のご多分にもれず、周辺の宅地化が進み、不動山に隣接する事態となった。そこに生じた問題は、住民からの伐採要求であった。すなわち、台風や強風時に、老木がきしみ、風倒により家屋や人に被害が及ぶのではないかとの心配の声であったと言う。もちろん、自然環境や歴史的遺産を守ろうと、この伐採に強く反対する人たちもいたことはいたのだが、森林管理署は、保安林の伐採に否定的ではあったが、管理責任を取られることをおそれ、伐採に同意した。結果的には、隣接部が50m幅で伐採されることになった。公売された材を見に行った。署の職員によれば、伐採木の年輪を数えたところ当初の予想を越えて、中には300年を越える樹木もあったと言う。長伐期施業や森林の生態系管理が叫ばれる中で、こうした老齢人工林の存在は、将来の施業の指針を策定する上で、貴重な資料となる歴史的遺産である。そうした人工林が、無計画な土地開発の犠牲になったと思うと残念でならない。その跡地に樹木を植栽するというが、これらの樹木が100年後に同じ憂き目に遭うこともありうるのだが・・・(狢)。


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