木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.12 2001.5.22
Newsletter of the Forest Management and Research Network

第6回「森林業施業研究会シンポジウム」−森林の機能区分と適性配置−報告

大洞智宏・渡邉仁志(岐阜県森林科学研究所)

 森林施業研究会が主催する第6回「森林業施業研究会シンポジウム」が、第112回日本林学会(岐阜大学)の最終日(2001年4月5日)に開催された。今回のシンポジウムは、大学・国・都道府県の研究機関のほか,行政機関からも約130名の参加者があり,森林施業への問題意識が極めて高いことがうかがえた。会場では今回のテーマ「森林の機能区分と適性配置」に沿って,大学、県、国,各々の立場から,機能区分を行う方法,機能評価を行う場合の留意点,実際に機能区分を行った事例について3つの話題提供がなされ,その後,活発な討論が行われた。

1.GISは森林管理にどこまで使えるのか?

 伊藤哲(宮崎大学農学部)

2.植物の多様性からみた森林の機能評価と配置

 長池卓男(山梨県森林総合研究所)

3.機能区分と配置を考慮した森林管理の取り組み

 池田伸(関東森林管理局東京分局森林技術センター)

 

 これらの話題提供に先立って、主催者を代表して鈴木和次郎氏(森林総合研究所)が挨拶に立ち、このシンポジウムと今回のテーマの趣旨を説明した。この中で氏は,これからの森林管理の単位について,従来行われてきた林分単位ではなく,景観や地域などといった,一段階上のスケールで考えていく必要があると述べた。そのうえで,森林の「生態系管理」を実践する方法として,森林の機能区分をすること,森林管理の単位を見直すこと,またそのうえで適正な森林施業を実施することが必要であると指摘した。

 

GISは森林管理に利用できる


Fig.1:資源(生産力)と撹乱(災害頻度)の2軸による森林の機能区分の考え方


Fig.2:資源と撹乱の分布に基づく潜在的機能区分の評価例


   地形的な環境変異が考慮されていない人工林施業

 伊藤氏は,GIS(地理情報システム)を用いて森林の機能区分を行った事例をもとに,GISを森林管理に利用する方法について言及した。氏ははじめに森林機能区分の問題点として,・森林の現況だけを重視しすぎてその森林が本来もつ潜在的な機能を軽視していること,・流域単位でのゾーニングを考えた場合,上流から下流への影響予測が困難なこと,・情報の処理に手間がかかること,の3点を提起した。続いて海外の事例を紹介しながら,国内で森林の基礎情報が十分に揃えられていない(ように見える)現状を語った。例えばカナダ西部では,現場作業者のためのマニュアルが整備されており,現地がどのような立地環境にあり,また施業を行うにあたり何に留意すればよいか一目瞭然であるという。一方,日本では,森林の立地条件ごとに機能評価がされ(例えば「森林計画業務必携」),それが図化されているものの,実際には現場でそれほど活用されていないことを報告した。このような現状をふまえた上で,氏が宮崎県のある地域の森林をGIS上で機能評価した事例をもとに,森林の基礎情報を整理するツールとしてのGISの可能性について語った。まとめとして,GISは森林の機能評価を行う上で大変有効であることを指摘され,残された課題として,いかにして森林を取りまく社会情勢(インフラの整備,消費動向など)を機能区分に導入するか,どのような考え方でゾーニングを行うか,流域単位でどのように森林管理を行っていくかなど,機能区分を行う上での考え方を整理する必要があるとした。

 

植物の多様性から森林の機能を評価する

 長池氏は,植物の多様性についての研究を通して,森林の機能評価と配置について述べた。まず新潟県内における調査の結果から,異なった森林管理をすることによって,種の多様性が地域的スケールで見た場合にどのように変わってくるかについてに報告した。その結果、種の多様性は原生林,二次林などに比べ,人工林などの方が高いが,出現する種類を比較すると人工林では低頻度種や共通種が多くを占めていることを紹介した。そのうえで,人工林における多様度の高さは,主に攪乱耐性種によって成り立っていること,つまりこれは「見せかけの多様度の高さ」であることを指摘した。このことから,多様性を語る場合,どんな生態的特徴を持つ種によって構成されているかを検討することが大切だとした。次に人工林での種多様性について,山梨県内におけるカラマツ人工林と落葉広葉樹二次林との比較研究の途中経過を報告した。最後に,北海道の自然公園での事例をふまえながら,森林の機能区分と適性配置について,・どのくらいの範囲内に,・どのような林分を,・どのくらいの面積で,・どのような場所に,・どのように配置されるべきか,を検討しながら行う必要があると結んだ。

 

機能区分と適正配置を実践

 
コンテナ苗とマルチシートを使った水辺林の再生試験   キツツキ類の導入を狙った自助努力型巣箱の設置

 池田氏は,関東森林管理局所管の茨城県七会村の国有林で,実際に森林の機能区分と配置を考慮して森林管理を行っている実践例を紹介した。小面積的であることから「箱庭的実験」という表現であったが,極めて先進的で意味のある実践であると考える。この試験は,20haの小流域を対象に,平成8年〜平成84年という長い期間を利用し,森林の機能区分と配置を行っていくものである。森林技術センターでは,針葉樹一斉人工林からなる流域を針葉樹育成林,広葉樹育成林,渓畔保残区などに区分し,機能にあわせた広葉樹の導入を計画しているという。その事例として,広葉樹育成林には,徐々に広葉樹の導入を行っていること,渓畔保残区では水辺林としてケヤキ,ハルニレ,ハンノキなどの植栽を行っていること,林道沿いの法面に広葉樹を積極的に植栽していることを述べた。またこのほかにも森林の機能を評価するため,同じ試験地内で樹木の巻き枯しを行い、動物による枯死木の利用についてモニタリング調査を行っていることも紹介した。

 

 これらの話題提供の後、総合討論が行われた。討論の中では,適正な配置とは何か,機能区分をどのスケールで考えるべきなのか,など活発な議論が交わされた。またGISについて,GISは意志決定を支援するためのツールであり,その上で行われた機能評価を実際に採用するか否か,についての議論は別に行わなければならない,という確認がなされた。

 最後に、研究会代表の渡邊定元氏(立正大学)が全体を総括し,まとめを行った。その中で、森林機能区分などでのスケールの考え方として、自然条件に合わせたゾーニングと利用する人間の側からのゾーニングの組み合わせかたが重要であるとした。また、調査や解析の方法として、現在はデジタル化の時代といわれているが,細部についてはアナログ的な手法を大切にしなければならないとした。

 

<シンポジウム参加者からの意見や感想>

岐阜県におけるゾーニングについての状況や今後の展開方向

                      黒崎隆司(岐阜県森林課)

4月5日に開催された第6回森林施業研究会シンポジウムに参加させていただきありがとうございました。岐阜県におけるゾーニングについての状況や今後の展開方向について、述べてみたいと思います。

1 法律改正と森林計画

 昨年12月に国で取りまとめられた林政改革大綱及び林政改革プログラムでは、森林・林業政策の基本的な考え方が木材生産を主体にしたものから、森林の多面的な機能を持続的に発揮させるため、将来にわたって適正な整備・保全を図るものへと大幅に変わりました。そして、この基本的な考え方及びその実現を図るための基本的な事項を定めるため、森林・林業基本法、森林法、林業経営基盤強化等促進のための資金融通暫定措置法の3つの森林・林業に関する法律案が3月16日の閣議決定を経て、今国会に提出されています。

これらの法律を基に、森林・林業政策の基本的な部分を担う森林計画制度は、森林法の改正により、大幅に見直されることが予定され、従来の計画内容に、森林を主に発揮すべき機能毎に「水土保全林」「森林と人との共生林」「資源の循環利用林」の3つに区分(ゾーニング)して、望ましい森林の姿を示すとともに、それを導くための施業に関する内容が追加されることとなっています。

2 森林計画制度について

ここで、森林計画制度の流れについて簡単に説明します。

森林・林業基本法では第11条第1項に森林・林業基本計画(従来の森林資源基本計画及び重要な林産物の需要及び供給に関する長期の見通し)が規定されており、森林計画制度では、農林水産大臣が立てる全国森林計画はこの基本計画に即し、知事が立てる地域森林計画は全国森林計画に則し、市町村長が立てる市町村森林整備計画は地域森林計画に適合し、森林所有者が立てる森林施業計画は市町村森林整備計画に適合することが求められ、国から森林所有者までが制度の中で繋がっています。

今回話題となったゾーニングついては、国で基準案を示し、県で指針を作成し、地域の森林・林業の実状に通じた市町村がゾーンを設定することとなっています(森林法第10条の5)。

しかしながら、国の基準をそのまま県や市町村にあてはめて、森林づくりを進めても無理が生じることが考えられるため、国の基準と比較しながら、県や市町村で独自の案を検討することが求められます。

3 ゾーニングの経緯

今回のゾーニングについては、平成8年11月に公表された森林資源基本計画の中で、森林整備の推進方向として表されたものが発端だと思います。ここでは、「水土保全 概ね1,260万ha」「森林と人との共生 概ね560万ha」「資源の循環利用 概ね700万ha」の3区分と面積が示され、施業方法についても言及されています。これを受け、平成9年度に全国森林計画が改定され、地域森林計画も一斉に変更しました。地域森林計画では、森林整備の推進方向について、森林施業上の留意点を示しながら計画内容に加えるとともに、3区分毎の面積を示しました。しかし、ここでは面積の表示のみで、図面に表示することができず、極めてわかりにくいものでした。

4 岐阜県の取り組み

(1)森林機能区分図の作成

岐阜県でのゾーニングの取り組みは、昭和52年度から林野庁が定める「森林の機能別調査実施要領の制定について」に基づき、全県の民有林について、森林機能区分図を作成したことに始まるものと思われます。ここでは、森林機能を木材生産、水源かん養、山地災害防止、保健保全機能の4区分とし、HMLの3段階に評価しました。そして、一つの小班では各機能は重複しています。森林機能区分図は、500mメッシュ単位に算出した機能評価データを準林班単位(5〜10ha程度)に入力し、局所的に現れるものは小班単位に入力して、作成してあります。なお、昭和62年度に、森林機能は木材等生産機能、水源かん養機能、山地災害防止機能、生活環境保全機能、保健文化機能の5区分に分類され、現在の姿になっています。

(2)岐阜県の森林立地の作成

昭和55年度には、今までの森林に関する調査結果等を集大成して、適地適木思想の普及による木材生産機能の更なる発揮や優良柱材生産による地域材の振興などを目指して、「岐阜県の森林立地」という形で取りまとめました。

 ここでは、国有林の協力も得ながら県内の森林の地立地環境条件を明らかにして、全県の森林土壌図を作成するとともに、民有林を木材生産機能をベースにスギ・ヒノキの地位指数も示しながら森林施業基準図としてゾーニングし、スギ・ヒノキの優良柱材及び優良大径材の生産可能な範囲を示し、雪の影響を考慮したスギ・ヒノキ優良材及び一般材施業基準(植栽本数、間伐、枝打ち基準)とともに優良材生産の普及に努めました。

(3)森林の施業判定マトリックス表の作成

昭和62年度に森林資源の基本計画が改定され、従来の拡大造林を主体にした森林造成から、多様な森林づくりへと森林整備方針が変わり、単層林整備、複層林整備、育成天然林整備が打ち出されました。県では、昭和63年度にこれらの多様な森林施業をわかりやすく実施できるように森林簿の小班のデータ又は現実の林相から、目指すべき森林施業が導ける森林の施業マトリックス表を作成しました。このマトリックス表を使用すれば、小班毎に施業指針が示され、具体的な優良材生産や育成天然林施業等の対象林分を判定することができます。

(4)現在のゾーニング

現在のゾーニングは、平成8年に改定された森林資源基本計画に基づき、当面の森林整備の推進方向を森林機能の組合せによって3つに区分し、それぞれは重複しない形で整理されています。ここでは、森林機能に次のような順位を付け、機能評価が重複する場合は、この優先順に森林整備の推進方向を決めていきます。

・山地災害防止機能、・生活環境保全機能、・保健文化機能、・水源かん養機能、・木材等生産機能

例えば、ある林分(小班)で、山地災害防止機能と木材生産機能が重複して高いと判定された場合は、山地災害防止機能を優先して、水土保全林となります。

この原則をもとに、森林GISを利用して森林計画図の小班を色分けしました。ただし、水源かん養機能と木材等生産機能が重複する場合は、原則では水土保全林になりますが、過去の施業実績や適地等の関係から木材等生産機能を優先するようにしています。

これらの考え方を基に、本格的に稼働した本県の森林GISを使用して、平成11年度に樹立した宮・庄川地域森林計画から、図面に示して公表しています。

5 これからのゾーニングと新たな施策

現在、林野庁で検討されているゾーニングの基本的な考え方は、森林機能の5機能の重複度合いを基礎的な指標として、保安林や自然公園等、法令的に施業が規定されているものを区分し、森林所有者の意向等も勘案しながら区域を設定することになるようです。

 そして、森林計画制度の中では、公益的機能別施業森林の区域として規定され、地域森林計画においては、区域設定の指針を作成し、この指針に基づき、地域の森林・林業の実状に精通した市町村が区域を定めることになっています。

 また、森林施業計画もゾーンを設定した森林を望ましい姿に導くため、従来の団地共同森林施業計画を中心とした施策から期待される施業を着実に実行することができる計画への転換が図られます。

しかし、市町村には、ゾーニングを行うために必要なデータが乏しいため、県で市町村毎のゾーニング案を作成し、市町村に説明・提示した上で、市町村において、森林・林業の実状を勘案しながら検討し、区域を設定してもらうよう考えています。そして、今後の森林・林業施策はゾーニングを基に仕組まれることから、県の示すゾーニング案を県の各事業担当間で調整するとともに、市町村内の合意形成を図って、望ましい森林へ導くことが求められます。そのためには、県と市町村が連携し、新たな森林管理の方法や支援策を講じながら進める必要があります。

なお、スケジュール的には、改正森林法の公布を受けて、平成13年12月31日までに地域森林計画を樹立及び変更し、平成14年3月31日までに市町村森林整備計画を樹立及び変更することから、平成13年度中には、行政段階でのゾーニングはひとまず実施されることになっており、平成14年度からはゾーニングに基づいた望ましい森林づくりを進めるため、造林事業や林道事業等の新らたな施策が始まることになっています。

 

今さら、GIS ・・・・・!?

加藤正人(北海道立林業試験場 資源解析科) 

シンポには始めて参加させていただきました。私自身、持続可能な森林経営のための石狩川モデル森林の研究分野の事務局を担当しており、テーマ名「森林の機能区分と適正配置」とその主旨、話題提供者の挑戦的で新鮮な演題に引かれ参加しました。

(1)GISは森林管理にどこまで使えるのか? 伊藤哲氏(宮崎大農)

 森林計画部門で都道府県の半数以上がGISの整備・導入に取り組んでいる中で、演題については失礼ながら何をいまさらという気持ちで聞かせていただきました。広域面積の北海道も約60万haの道有林が平成11年度に地図化を終了し、出先の17の道有林管理センターに機器を整備しました。さらに、約170万haの一般民有林の地図化についても平成14年度までに終え、出先の42の林業指導事務所にGISを整備すべく支援しているところです。現場では森林の機能区分の見直しとゾーニングの必要性、森林情報の管理、一般市民に対する主題図などの迅速な提供からGISは森林管理の必携のツールとして捉えています。

 さて、冒頭に伊藤氏より演題名が異なることを発言がありました。数値地図とGISを用いた地形解析から,林地生産力と土地の脆さ(災害発生頻度)のポテンシャルを推定し,これらの2軸で,生産林や保全林に機能区分できることについて、GISを用いると、簡単に区分図(主題図)が作成できること、生態学の知見を踏まえ森林計画分野(頑張ってほしいとの要望)との共同で多様な施業や生態的管理を模索することが重要であるとの内容であったと思います。県の森林計画担当者からの意見もありましたが、機能区分については現状の課題を踏まえ行政担当者と連携して進めていくことが、より実用的なシステム構築につながるので、伊藤氏の森林生態的知見を積極的に他分野に投げかけてほしいと感じました。

 (2)植物の多様性から見た森林の機能評価と配置 長池卓男氏(山梨森林総研)

 山梨県の森林生態系モニタリング調査事業(県単)の現地見学や中間報告書、日林誌の総説を拝見していましたが、カラマツ人工林と広葉樹林の生物多様性取り組みに先駆的に取り組まれている発表を聞き、北海道も遅れをとらないようにと刺激を受けました。

(3)機能区分と配置を考慮した森林管理の取り組み 池田伸氏(関東森林管理局東京分局森林技術センター)

 具体的な実証の場として、水辺林の造成,林道の法面や路肩への広葉樹の導入,林床植生の維持,倒木・枯立木の確保など生物多様性の保全に向けた取り組みが紹介された。石狩川モデル森林でも、集中調査地と称して同様の展示林を設定・整備しており、現場からの発想で森林の多様性を創出する試みとして興味深く聞かせていただきました。

 一方で、展示林の面積が20数haと小さいこと、担当者の転勤や組織の見直しなどの実施体制の継続に疑問があること、せっかくの展示林も林道にゲートがあり、市民の入林に制約があることなど、現行の国有林の森林管理体制での困難性(改善の必要性がある)についても紹介がありました。

 

 私は森林の持つ木材生産を含めた多様な機能、生物多様性を確保するには、管理者が地形や植生、生物にも配慮しながら個性的な森づくりを進めて行くことが、多様性を維持して森の魅力を増すことにつながると考えています。最後になりましたが、発表者の了解を得ぬまま、感想を記しました。発表者の意向にそぐわず失礼があると思いますが感想という事でご容赦ください。 なお、石狩川モデル森林ではホームページを作成して取り組み内容の紹介とアンケートを行っております。是非、ご意見等お願いします。

 

石狩川モデル森林ホームページ

http://www.hfri.bibai.hokkaido.jp/modelf/index.htm

 

森林の評価基準も自然植生を基にした手法を考えておく必要が・・・

                   小谷二郎(石川県林業試験場)


 広葉樹林分と針葉樹林分との植生モザイク(茨城県阿武隈山系)

  林地モノカルチャーの典型、スギの一斉人工林(高知県四万十川流)

この研究会には,何度となく参加して毎回大変有益な情報を仕入れる源になっております。今回もいま話題となっている森林機能配置に関連した内容で,大変興味深く拝聴しました。以下感想を述べさせていただきます。

伊藤さんの「GISは森林管理にどこまで使えるのか?」(ご自身ではタイトルが違うとおっしゃっていましたが)という報告は,森林をマクロな視点から評価しようというまさにこれからの森林管理になくてはならないGISの活用方法に関するお話でした。伊藤さんの発表の中で非常に興味深かったのは,ゾーニングの尺度軸に攪乱の頻度(規模)を入れるべきである。しかも,従来は尾根を主体とした分け方であったが,攪乱を軸に入れると谷を中心とした分け方が必要であるとの内容でした。森林の維持は攪乱によってもたらされているという森林生態メカニズムを取り入れるべきだという点では私も同感です。しかも,実際モデル的にゾーニングされているのを拝見して非常に感銘を受けました。ご自身「生理屋でありながらこの程度は出来ます。」とおっしゃっていたのが,GISなどコンピュータの扱いに多少不安を覚える私にはとても力強いコメントであったと思います。

次に,長池さんの「植物の多様性から見た森林の機能評価と配置」という報告は,逆にミクロな視点を基にして,ランドスケープレベルで今話題になっている生物多様性を生かした森林のゾーニングに発展させようという内容でした。この問題は,まず「種多様性」そのものの議論が必要と思われますが,多様性自体を云々というよりも中身を理解することが重要であるという点が興味深い内容であったと思います。つまり,種のハビタット選好性がどのように異なるのかという点を様々な森林またはその周辺で調べられ,種の出現傾向から解析されていました。こうした調査が進めば,それぞれの森林で種の出現傾向(豊富さ)の意味が明らかとなり,絶滅危惧種などの取り扱い方への問題にも発展可能であろうと思います。こうした調査は,日本ではまだほとんどされていないといっても過言ではないでしょう。そのあたりに着目されたのはまさに先見的なお仕事と思われます。今後は,多様性と生産力や諸機能とがどのような関係にあるのかを明らかにするようなプロジェクト的な研究が必要だと感じました。それらの関係が解明されると,多様性の持つ意味も少しずつ明らかとなりさらに群集生態学もポピュラーになると思いました。

最後に,池田さんの「機能区分と配置を考慮した森林管理の取り組み」の報告は,茨城県の高萩での事例でした。水辺林の整備,動物に配慮した整備,木材生産重視の整備,景観を配慮した整備など,120年の長伐期を目指しての壮大な実験林のようです。ご説明では,エリア内を機能区分し整備するにあたって,地元や有識者とのコンセンサスを図りながら整備計画を立てられ,効果もモニタリングされているとのことでした。全国で,こうした森林の機能発揮を目指した整備の取り組みが行われつつあると思いますが,重要なことは整備の目的を明確にすることと,その効果をモニタリングすることだ思います。そうした意味で,今回ご紹介のあった事例は,今後の森林整備のあり方の先導的事例になることを期待したいと思います。

林業基本法の改正に伴って都道府県レベルで森林機能のゾーニングの見直しがなされようとされています。これまでにも7つの機能に関してのゾーニング(森林機能配置図)がなされていますが,7つのうちいくつかが重複していました。しかし,今回は「水土保全林」,「森林と人との共生林」,「資源の循環利用林」の3つに完全に区分されるとのことです。民有林が多い日本では大変難しいことだと感じます。ただ,木材生産が見込める地域が明確化されることで,奥山での針葉樹の不成績造林地が減ることが期待されます。しかしながら,現状から考えると,木材生産が見込める地域も針葉樹人工林は徐々に高齢林へと移行せざるを得ない状況と考えられます。そうなると,多くの人工林は徐々に自然植生に近い形へと変化して行くと想像されます。したがって,森林の評価基準も自然植生を基にした手法を考えておくことが必要なのではないかと思います。そうした意味で,今回の研究会でのお3方の発表は生態的特性を重視したゾーニングの提案で,今後の日本における森林の維持管理に関する考え方に大きな意味を持つものと思いました。

 

行政が先行する針広混交林(針広二段林)は、「複層林」の二の舞にならないで

                        豊田信行(愛媛県林試)

森林施業研究会に今年度入会させていただきました。研究会シンポは、2回目の参加 です。

私は、愛媛県林試出戻り研究員です。(前回の研究員生活10年、その後林業行政8年、平成12年より再度愛媛県林試で森林生産技術及び森林生態を研究中です(何でも屋で す)

 2000年4月には、「複層林の是非を問う」で、愛媛県松山市の林学会で議論がありましたね。このときは、ほぼ行政マンの立場で、針針複層林の話を伺いました。約15年間複層林 を研究と行政指導してきた立場で、「複層林をこれ以上の推進するなんてやめればいいのに」、「やっと行政に文句の言えるデータがそろってきたな、研究も」、そんな外野的な見方でした。

  それから1年。国と県行政が求めるものは、キーワードとして「持続可能な森林経営」、「森林の区分」、「多様な森林の造成」であり、気がついてみれば、「強度間伐」と 「針広混交林」でした。

  約15年前の「複層林」もアカマツ−ヒノキなどの優れた研究成果もありましたが、そのほとんどは行政と研究が「走りながら考える。とりあえず山村の活性化のために新しい森林管理を導入し、補助金をつぎ込み、後継者を育成し、産業と地域を活性化させる」ではなかったでしょうか。この数年の「針広混交林(針広二段林)」にも「複層林」と同じ思いがしてなりません。もしかすると「環境保全林」も同じかもしれません。そんな思いで、池田さんの「機能区分と配置を考慮した森林管理の取り組み」を聞かせていただきました。これから、私もほとんどの行政マンと同様に走りながら、「すべての人工林は救えないのに」、「地域の活性化と定住と後継者の確保は必要だ(林地が廃棄物の捨て場とならない

ためには、定住者が必要だ)」、「次善の策は何か」、そして「人間の生活と森林に棲む動物や植物を調和させた森林管理とは」という問いを、県林業職員の立場で考えながら、研究する予定です。

  やっとスギやヒノキ一斉林の40年生までの森林の取扱いが分かりかけた段階です。本当は、「針広二段林」なんて畏れ多い、「渓畔林」はだれが造成するのだろう、「強度間伐」は気象害の元と感覚的に分かっていながら、です。

  日程調整がうまくいけば、13年秋富山でお会いしましょう。

 

政策サイドの要求は大きいが・・・

                         光田 靖 (九州大学農学部)

 今回で2回目の参加となります。特に自分の興味にあったテーマでしたので,日頃考えていたこと,またシンポジウムに参加して再認識したことを思いつくままに書かせていただきます。

 平成12年12月に出された林政改革大綱骨子によると,「地域の合意の下,重視すべき機能に応じて森林を{水土保全},{森林と人との共生}および{資源の循環利用}に区分する。」とされている。しかし,政策理念としての森林機能区分やゾーニングが先行し,方法論として実務レベルで対応できていないのが現状であるように思われる。シンポジウムでの討論の最後にあったように,今後は森林の機能区分や空間配置に関する評価手法,さらには何を持って適正な配置とするのかについて,早急に研究が進められていく必要があることを再認識した。

 また,同骨子では「区分に応じて,針葉樹と広葉樹の特性も活かしつつ適切な森林施業を推進するとともに施策の方向を明確化する。この場合,郷土樹種の育成,環境保全の面で優れた広葉樹の導入を進める等,多様な森林整備を進める。」とある。ゾーニングによる空間的森林配置の多様性を確保するだけでなく,個別の林分についてもより多様な林分へ誘導していくことが方針とされたわけである。そのためにはゾーニングの段階で,どのような立地条件にある林分を,どのような林分に,どのようにして誘導してゆくかというコンセプトを明確にしておく必要があり,森林機能区分やゾーニングといったランドスケープレベルでの計画と,多様な森林へと誘導するための林分レベルでの計画が相互的に関係しながら進められていく必要があると考えられる。シンポジウムの議論のなかでもこのような話題に及んだように思うが,これからの「林学」を考える上で,様々なレベルに応じた計画手法の確立だけでなく,計画レベル間での整合性を確保しながらの多レベル計画手法が重要な研究課題となるであろう。

 今回のシンポジウムで話題となった「森林の機能区分と適正配置」に関しては,行政側からの要求が非常に強い。研究サイドとしては,できるだけ早期にこの問題にたいする解決手法を提示するべきであろう。しかし,この問題は地域性が非常に高く,基本的な解法・方針は示されるべきであろうが,やはり各地域それぞれに特有の手法が適用されるべきではないだろうか。そこで,本シンポジウムでも示されたような新たな森林管理に向けた取り組みを,それぞれの地域で推進していくことが重要であると考えられる。

 最後に,貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

森林施業研究会には期待が持てるかも?

                    梶原 敦子(山梨県森林総合研究所)

 教室に足を踏み入れた瞬間、日本の森林施業について真剣に取り組もうとされている方がこんなにたくさんいらっしゃるのだということに、驚きと感動を覚えました。

 また、私自身は勉強不足のため、みなさんの発表に追いついていくのが精一杯でしたが、周りの方々は発表を十分に理解された上で白熱した議論を展開されている様子。これにもまた、日本の森林施業の未来の明るさを感じました。

 今回のテーマである森林の機能区分と適正配置については素人的な発想ですが、小面積でしかも合意形成をはかるのが困難だと思われる民有林をどう管理していくかという視点や、適正配置を考える際に現在整備されている路網を考慮するという視点にやや欠けているのではないかという印象を持ちました。

 今回、限られた時間の中で「森林施業研究会」について私が理解したことは、近年、言葉だけが一人歩きしてしまっている「持続可能な森林管理」を様々なレベル(林分から景観)で地に足のついた言葉にして行こうと尽力されている研究会であるということです。これからも活動の広がりに期待しています。

 

例年にも増して盛大な全国交流会

恒例のシンポジウム前夜祭(全国交流会)が地元幹事横井・大洞・渡邉氏(岐阜県森林総合研究所)の手配の元、岐阜市内で開催されました。当初、予定参加の25名をはるかに越える40数名が参加、会場はすし詰め状態で、異様な熱気に包まれておりました。「森林施業」にそれほど熱い期待が注がれているのか、魅力があるのか、はたまた、単に酒を飲む場に利用されているのか、あの喧騒の中で尋ねることも出来ませんでした。来年はもっと広い会場を考えなければね。箕口さん!

 

私のジグザグ・エッセイー(その3)
森林ボランティアとは何か

            伊関 仁志(東京農業大学 地域環境科学部 森林総合科学科)

今年は国連が提唱するボランティア国際年。「ボランティアに対する理解を深めること」「ボランティア活動の環境整備」「ボランティアの情報交換に資するネットワークの構築」「ボランティア活動の促進」という4つの目標を掲げている。その中でも特に森林ボランティアに関してここでは述べていきたい。

ボランティア国際年に合わせて平成12年版の国民生活白書は「ボランティアが深める好縁」というテーマでボランティア活動を中心に編集されている。社会生活を発生段階順に分けて検討すると、次のような流れが見えてくるという。血のつながった者が共に生活を営む血縁社会、農耕を共にすることによって地縁で結ばれる地縁社会、雇用者として企業に雇われ、職場の縁によって生活のつながりを持つ職縁社会、バブル崩壊を経て雇用慣行が変わり、会社への帰属意識が弱くなり、同好の士が好みの縁で集まり多様な人間関係を築こうとする好縁社会。そしてこの好縁社会を築くのがボランティアであるとしている。

この国民生活白書を編集するにあたり、それに先立って「ボランティアと国民生活」をテーマに国民生活選好度調査という調査が行われた。その調査結果の一部を抜粋してみよう。「国民の5割が阪神淡路大震災をきっかけにボランティア活動への関心が高まっており、参加意欲を持つ人は3人に2人にまで高まっている。」「ボランティアへの参加意欲を持つ人の希望する活動分野は『自然・環境保護に関する活動』が4割と最も高く、『社会福祉に関する活動』を上回っている。」「ボランティア全体について言うと、『気軽にできることが大切である』と考える人が8割、『自分を犠牲にしないことが大切である』や『多くの人と知り合えることが大切である』と考える人がともに6割いる。」

さて、森林ボランティアであるが国民生活白書の考察から、「森林」を好みの対象として集まり、多様な人間関係を築こうとしている人々と見ることができる。今までの私の経験からだが、森林ボランティアを行っている人々は自分たちの活動をかなりの少数派であると見る人が多いように思う。しかし調査により明らかになったのは、「自然・環境保護に関する活動」がボランティア活動をしたいと考える人達の間で1番人気であるという事実である。このことから、森林ボランティアは今後発展していく可能性を大いに秘めていると言える。しかしその心構えを見ると、懸命に頑張ることを重視するのではなく、人との交流を求めている姿が見て取れる。このことから、労働力として森林ボランティアを見るのではなく、森林を中心として新しい社会を築こうとしている人々の集団と見た方が適切と思われる。この認識の上に立つと、平成12年度林業白書において述べられている「森林ボランティアの活動は、森林整備の推>進に寄与するだけでなく、森林・林業に対する一般市民の理解を深める上でも大きな役割を果たすものとして期待されている。」という考え方は国民生活白書の認識からはズレていると思う。「森林整備の推進に寄与」するほどの作業をしたいとは思っていないし、「森林・林業に対する一般市民の理解」よりも、いっしょに活動する人達をもっとよく知りたいと思っている。国の森林・林業政策が日本の森林・林業をよくするためのものであり、林業白書がそれに則って書かれたものであるとすれば、そもそも森林ボランティアというものを取り上げていること自体がおかしくなってくる。林業白書では、森林ボランティアがいかにも森林・林業をよくする担い手(作業面に限ったものではない)であるかのように取り上げているが、国民生活白書では当の森林ボランティア達は仲間と楽しく遊びたいだけ。ただその手段が森林であっただけの話であるとなる。では、どちらの認識が正しいのか。答えはみなさんに託したいと思う。

もう一度整理しよう。

国民生活白書的認識

同好の士が好みの縁で集まり、多様な人間関係を築こうとする好縁社会。この好縁社会を築くのがボランティアである。森林ボランティアは「森林」を好みの対象として集まり、多様な人間関係を築こうとしている。そのため、懸命に作業を頑張ることを重視するのではなく、人との交流を求めている。労働力として森林ボランティアを見るのではなく、森林を中心として新しい社会を築こうとしている人々の集団と見るべきだ。

林業白書的認識

森林ボランティアの活動は、林業の経営の悪化や労働力不足を補い森林整備の推進に寄与する。そして、その作業や活動のPRを通して、森林・林業に対する一般市民の理解を深めるという大きな役割を果たすものとして期待されている。

 

<お知らせ>

第4回施業研究会現地検討会(富山合宿)は、富山県林業試験場の協力を得て、8月29日〜31日の日程で、富山県立山町で開催予定です。詳しくはニューズレターの次号(7月末発行予定)でお知らせいたします。

 

<編集後記>

教育改革国民会議を舞台に、作家曽野綾子氏(日本財団理事長)は、荒廃する教育現場と頻発する少年犯罪を、戦後の教育制度に起因する自己中心主義にあり、教育課程において「奉仕活動」の義務化し、子供達に国家・社会に奉仕する日本国民としてのアイデンティーを植え付けるべきだと声高に叫んでいる。悪乗りする国会議員たちは「消防署でも自衛隊でも」と、さながら徴兵制度を復活させるかの勢いで困ってしまう。そんな折、林野庁も「森林白書(2000年版)」の「今年の標語(キーワード)」に「森林ボランテア」を掲げ、市民参加による森林整備を呼びかけている。本来、これまで取り組まれてきた市民レベルの自主的活動を支援するということだろうが、これ悪くする(?)と奉仕活動の場に「林業現場」が利用され、子供達を押付けられるかもしれない。おいおい、止めてくれ!足手まといどころか、怪我などされたらたまらない。道に迷ったりしたらどうするんだ!子供を持て余した親は学校に期待し、手におえなくなった学校は国家に教育を委ね、国家は強制力を持った社会組織に押付ける。行政が「ボランテア」などを言い出すと、いつもこうしたことを連想してしまうのは、過去にそれだけの実績があるからですよ!(狢)

 

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