木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.13 2001.7.26
Newsletter of the Forest Management and Research Network

日本の森林・林業危機を打破する
2001年現地検討会(富山合宿)に参加を!

森林施業研究会・第4回現地検討会及び研修会(通称:富山合宿)のお知らせ

今年も森林管理・林業経営技術に関する有益かつ強烈な現地検討会が富山県で開催されます。立山連峰を仰ぎ、ブナ・スギ天然林に囲まれた静かな山村に集い、渡邊教の原理を学び、批判し、21世紀の林業・森林管理の夢を育む合宿に、多くの林業技術者、林業者、研究者が参加されることを訴えます。

 

●日時:平成13年8月29日(水)〜31日(金)

●テーマ:「雪国の多様な森林管理を考える」

●場所

・講演と宿泊:国立・立山少年自然の家(富山県中新川郡立山町芦峅寺(あしくらじ))

・現地:富山県上新川郡大山町有峰,氷見市

●主催:森林施業研究会(代表:渡邊定元)

●参加費:宿泊費1泊3食\1755×2泊+酒代(全部合わせて5,000円位だと思います?)

●スケジュール

■8月29日(水)

午後4時30分:国立立山少年自然の家〔公共交通機関の方は富山地方鉄道岩峅寺(いわくらじ)駅に午後4時10分までに来ていただければ車で送迎できます〕集合

午後5時より(国立・立山少年自然の家)

プレゼミ:「富山の森林と地帯区分」石田仁(富山県林試)

特別講義:「雪国の森づくり」小谷二郎(石川県林試)

夕食後午後7時よりセミナー:「多雪地帯の森林・林業」等に関する話題提供(3題程度)

 

■8月30日(木)

午前8時30分より午後5時まで

「豪雪地における拡大造林の結果」の現地検討(大山町有峰)

「針広混交林施業」等の現地検討(大山町有峰)

夕食後午後7時より特別講義(国立・立山少年自然の家)

「(仮)富山の木で家を造る会の活動と成果」草島すなお氏(富山県普及職員)

午後8時よりセミナー

森林管理・林業技術に関する研究発表と討議(2題程度)

 

■8月31日(金)

午前8時30分より午前12時まで

富山の木で家を造る会の活動現場と氷見のスギ林業

午前12時 現地解散(JR高岡駅)

 

都合によりスケジュールを変更する可能性があります。あらかじめご了承下さい。また、硬軟取り混ぜた話題提供も受け付けます。飛び入りも大歓迎です。

 

●参加申込みは,住所,氏名,連絡先明記の上,下記の担当者宛にFAXかe-mailでお願いいたします。

締め切りは8月10日とさせて頂きます。

「富山合宿」事務局

長谷川幹夫  はせがわみきお

富山県林業試験場

〒930−1362 中新川郡立山町吉峰

Tel. 076-483-1511, Fax. 076-483-1512

E-mail: hasegawa@fes.pref.toyama.jp

 

富士山自然の森づくり

            渡邊定元(立正大学・地球環境科学部)

1.はじめに

 NPO「富士山自然の森づくり(以下「NPO-FM」という)」は,富士山南面のブナ帯の最も重要な自然である西臼塚を襲った台風の風害跡地に自然林を復元しようとして発足した。なぜ富士山に焦点を当てたかは,ふるさとという単純な理由からである。それと長年培ってきた天然林管理技術を踏まえた森づくりをしたかったからだ。富士宮自然観察会の仁藤浪氏からNPO-FMを作ろうと相談を持ちかけられたとき,最後は二人になっても行動を共にすることを確認して会づくりに手を染めた。自然の森づくりは,多くのボランテアや行政が手がけている。しかしながら,・自然林の造成には殆どのグループが技術的に未熟であること,・行政のリードがなければ,いいかえれば助成金がなければ,行動を起こさない団体が多いこと,・売名だけのボランテア,・行政の代行としてのボランテア,・組織を束ねそのうえに立とうとする者,・旅行代理店モドキのボランテアなどが割拠している様をみて,本物のボランテアが一つぐらいあってもよいではないかという気持ちは,事務局長になった仁藤氏も同意見であった。

 そこで,野鳥の会,婦人会,森林組合など地元の組織には全部に声をかけた。そこで奇妙な現象に出会った。全く無償の労働を森づくりに提供しようという趣旨に,県・市から助成金を得ている団体はすべて入会しなかった。これに対しライオンズクラブは積極的にNPO-FMを支援してくれた。この支援がなければ,現在の姿に成長できなかったであろう。もう一つの現象として,会に賛同した者になかで月一回の行動に負担を感じ自然と遠のく方々がいた。これに対し会を本気で支えて行こうとする多くの同志が生まれてきた。こうした「自然のなかで働くのが好きで,そして自然に学びたい」という同じ志をもった方々が会の中核となって,22世紀を見据えた確かな森づくりが力強い意思と行動によって行われている。会は通信費1000円を納めた人が会員で,月1回の割で会報が送られる。入会脱会の決まりもない。ただ云えることは,月一度の行動日には,会員よりも一過性の参加者が多いことである。こうしたなかには,各地ボランテアのリーダーがおり,また,子供をつれたママさん,学生さんがいる。地域別には九州・四国・東北の人々がいる。

 NPO-FMは,技術に裏打ちされた地道に行動するボランテアとして育てていきたい。

 

2.富士山自然の森づくりの組織と活動

(1)事務局:〒418-0035 静岡県富士宮市星山85-186

(2)組織 :会員80名,代表:渡邊定元,副代表1,事務局長:仁藤浪,幹事(総務部1,業務部5,研究部5),監事2

(3)組織の特徴:NPO富士山自然の森づくりは,静岡県の提唱している「富士山100年プロジェクト3776推進事業」,ならびに,東京営林局の「台風17号被害復旧に関する技術検討会」の報告に基づく「ボランテア方式による国民参加の森づくり」の基本方針を踏まえるかたちで,富士山麓の地元住民が「富士山の自然環境保全と自然林の再生活動」を目的として自主的に組織し,全国にボランテアの参加を呼びかけている会である。百年の超長期の構想のもとに10カ年のプランをたて,5カ年のプロジェクト計画を立案し,目的達成のための月一回の行動計画のもと,平成9年9月28日より毎月1回のボランテア活動を実施している。平成13年7月22日に第49回定期活動を迎えている。

(4)森林ボランティア参加のしかた:ボランテアへは会員,非会員を問わず誰でも何時でも無料で参加できる。現地集合,現地解散のため交通費,食事代は参加者負担である。会の行動のための寄付金を受け入れている。会費は,連絡通信費の範囲とし,個人1,000円,家族2,000円,団体5,000円,賛助会員50,000円以上(寄付金)としている。

(5)会発足当時の富士山等で実施した森林ボランテア活動はつぎのとおりである。

第1回平9年 9月28日 西臼塚  倒木跡・現地観察会       95名

第2回平9年10月19日 西臼塚  種子・稚樹の採取と幼樹保護   84名

第3回平9年11月16日 西臼塚  稚樹の採取と幼樹保護    36名

第4回 平 9年12月13日 西臼塚  倒木跡の観察と苗場見学 55名

第 5回 平10年 1月30 日 富士宮市役所 第1回森づくり教室 90名

第 6回 平10年 2月20日 富士宮市役所 第2回森づくり教室   64名

第 7回 平10年 3月22日 160林班 ヤマボウシの仮植 60名

第 8回 平10年4月26日 160林班  仮植のブナ・ヤマボウシの移植  64名

第 9回 平10年 5月24日 160林班  幼樹の採取と移植 チューブ設置 65名

第10回 平10年 6月21日 160林班  広葉樹の植栽と竹立て     41名

第11回 平10年 7月26日 160林班 広葉樹植栽後の下刈り 45名

第12回 平10年 8月22日 西臼塚 シラベからブナ林 森林浴    51名

第13回 平10年 9月20日 160林班 植生プロット1・2の調査   20名

第14回 平10年10月25日 西臼塚・粟倉 ドングリ拾いと苗場植え 77名

第15回 平10年11月22日 西臼塚・粟倉 種子稚樹の採取と苗場植え 59名

第16回 平10年12月18日 富士宮市役所 第3回森づくり教室 64名

 定期活動の他,年10回程度の他の緑化活動のボランテアを行っている。その事例を示すと

 平10年 5月23日   第2回富士山3776大作戦協力(静岡県)

 平10年10月 2日 粟倉苗場草刈り協力(富士宮市)

 平10年10月10日 “ミスとミセスの森づくり"委託事業(地域緑化推進)

 平成12年度より国土緑化推進機構は,富士山に設定した自然林造成と管理をNPO「富士山自然の森づくり」に委託され,実行している。会の行動計画は一層充実したものとなっている。つぎにNPO富士山自然の森づくりの植栽方法について記述しよう。

 

3.パッチ法による森づくり

(1)パッチ手法の考えかた

 富士山自然の森づくりの植栽パターンは,・極相に類似した森づくり,・ボランテア参加者に解りやすく,楽しい森づくり法,・富士山の遺伝子資源の保全のための森づくりのために,代表の渡邊が考案した「パッチ」造成の手法を採用している。一般に私たちが自然林に接してみると,森林は一様に連続しているのではなく,たくさんに小林分が集合したかたちで成立している。この一つの小林分をまとまった群とみとめて,これをパッチ(patch)と呼んでいる。ただし,一つの小林分といっても,これは自然を認識するための便宜的なものであることから,人それぞれの把えかたによって様々のものとなる。このような実態を踏まえ,富士山自然の森づくりでは,パッチを具体的な単位とするため,極相構成種ブナの樹冠の拡がりを一つのパッチの大きさの基準とした。すなわちブナの樹冠の拡がりは,樹齢300年に達する巨木では直径20mに及ぶ個体もある。この場合の1パッチの円周の長さは,20m×3.14=62.8m,面積314・である。しかしながら,この面積では,植栽するにあたっての1パッチとして扱うには大きすぎることから,森林の遷移の途中相,とくに100-150年生のブナの直径が12-15mであることより,これを自然林復元に当たってのパッチの基準とすることとし,円周38-47m,面積452-707・の拡がりを一つの「ブナパッチ」として扱うこととした。パッチは,ケヤキパッチ,ミズナラパッチ,カツラパッチ,シナノキパッチなど,立地環境条件によって造成するパッチを適宜選択する。今回,富士山森づくりが実行する,富士山自然林復元のため植栽する基本樹種はブナとヒメシャラとした。これは,・富士山・天城山以西の東海地方の極相ブナ林には,必ずヒメシャラが生育していること,・ブナ,ヒメシャラ類は伐採されたのち再生が困難で,・特に富士山においては極相に近い広葉樹林のみヒメシャラが生育しており,安定した広葉樹林か二次林かの判断が可能であることによる。こうした事実のよって,富士山自然林復元には,ブナとヒメシャラが必ず生育しているの混交林を造成することが理由づけられる。

(2)ブナパッチの植栽パターンのモデル

 ブナパッチの植栽パターンのモデルは,図のとおりである。植栽手法のモデルを以下記述する。

 ・条件:ボランテア参加人員 64人,8人一組8組に適宜グループ分けする。グループ分けは,参加人員により6-8人が1組となるようにする。参加者が多ければ多いだけグループ数を増やす。

・植栽樹種:ブナ,ヒメシャラ,オオモミジ,フジザクラ,ヤマボウシ,ミズナラなど

・ブナパッチ用ロープ,長さ38-47mのロープ8本用意する。

 ・地拵したところ植栽箇所へ,一組1本のロープでほぼ円形に近い不整形の輪をつくる。これが想定された樹齢100-150年生,平均直径12-15mのブナ1本の樹冠の拡がりである。8組が隣接してつくるブナ1本の樹冠の拡がりの輪,すなわち,小さなパッチの集合は,100-150年のちのブナ林の林相を描いたものである。

・これらの輪の中心に3(-5)本のブナを,輪の周辺部に3本のヒメシャラを,また,3本以上のオオモミジ,フジザクラその他高木・亞高木を,合計9本以上の苗木を1人3本程度植栽する。なお,ヤマボウシは富士山での密度が低いため数パッチに1本の割合で植栽する。一つの輪には,最低9本植栽するが,中心部はブナその他高木,周辺部は,森林の第2層以下を構成する樹種を,原則として植栽者の自由に箇所を選ばせて植栽する。こうして,一つのパッチは他にない独自の樹種の組み合わせとなる。1ヘクタールの植栽本数は1,000本程度にとどめ,その他は天然更新,萌芽更新,山取り苗を補植して,植栽5カ年間でパッチ内密度と種多様性を高めるようパッチ構造の内容充実を図ることとする。

・8個の輪内で植栽し終わると,8組は次のエリアに移動して・・の作業を繰り返す。計算上は,1ヘクタール当たり14-22パッチが造成される。

(4)植栽樹種

  自生種のブナ,ヒメシャラ,ミズナラ,フジザクラ,オオモミジ,イタヤカエデ類,オオイタヤメイゲツなど養苗や山取苗を植栽している。

(5)生育状況

  一部に枯死がみられるほかは順調に生育している。ただし,少数個体はニホンジカの害がみられた。

(6)保育計画

  1パッチ内1本のブナに動物被害対策としてヘキサチューブを使用した。ヘキサチューブ内で枯死したののも見受けられたが,大部分の個体は冬芽を形成している。ヘキサチューブの生育状況の結果は,ブナの冬芽は前年で成長が決められることから,3シーズンの状況を観察したあとで,はじめて成果の判断が下されよう。下刈り等の保育は植栽地の成育状況をしらべた結果に基づいて適切に判断する。

  なお,当該地域の潜在植生としてウラジロモミがある。富士山潜在植生の自然林を再生することが大切であることから,将来的には天然更新を期待し針広混交林の形成を想定しているが,当面は広葉樹を中心とした潜在種の更新を図っていく。広葉樹の植栽はブナやヒメシャラなど天然更新の期待できない樹種を中心とする。そしてバランスのとれた樹種構成を配慮し,樹木の生育特性に合わせ10年後,50年後の良好な森林を想定して保育を行う。よって,広葉樹を植栽した後は,災害による被害のほか,樹種間の競争,成長の偏り,立ち枯れや部位的な被害などが観察された時,調査のうえ枯れ木の除去,択伐,補植など適切な保育行為を選択する。

 

4.年頭の所感から

 昨年,西暦2000年の一カ年は,富士山森づくりの活動が会員一人ひとりの技術に裏打ちされた確固たる自信と内外からの評価を受けた年であったと思う。それは,月一回の定期的に行っている森づくり活動のほかに,年間を通じて県や市町村などから会に要請される「ボランテア活動」が活発であったことである。しっかりした自然の森の造成には,切実な問題として,いわば「ボランテア」を指導する「ボランテア」が必要となってきたことを物語っている。たしかに,都会人のなかには,森にふれてみたい方々が沢山おる。そういう人々を富士山の自然にじかにふれさせることも私たちの役割である。幸い,ボランテアのボランテアを快く引き受けてくれる会員が沢山生まれてきていることは,会の将来を明るくさせてくれる。発足の当初から,富士山自然の森づくりは四十年の研究成果を基礎に自然林を管理する技術を実践してきた。富士山にある樹木の遺伝子を攪乱させないために,道路際とか暗い林に芽生える稚樹を採取して苗畑で育てて森にかえしたり,種子を拾って育てて森にかえすことは,当たり前のことですが,持続的森林管理のうえからこの原則を守るのは大切なことである。富士山自然の森づくりのオリジナル,パッチ法による自然林づくりは,自然の遷移では40-50年のちに二次林に芽生えるブナなど原生林の構成種の苗木を,みんなで楽しく植栽する手法である。昨年8月の国際植生学会のエクスカーションでは,世界の学者先生たちが私たちの造成している植栽地を訪れ,多くの議論を行い大変な評価を受けた。私たちが日頃行っていることは,何でもないことであるが,行動の集積は地球環境の森づくりにつながっていることを自覚しょう。

 二十一世紀に向けての私たちの活動は,発足時に確認した合い言葉に集約されます。

 ・百年先の富士山自然の森を想定した森づくりのプランをたてる。

 ・当面十カ年のプロジェクト計画にしたがって私たちの行動計画を規定する。

 ・この方針によって今後5カ年の実行計画,すなわち西臼塚や緑の募金の森づくりを実行する。

 このように,日々の行動は超長期・長期・短期的に位置づけられている。NPO-FMの行動計画は,計画に基づいた確かな行動と,自然から学んだ智慧をしっかりと会員一人ひとりが自分のものにしていくことである。

 

5.2001年度に向けて−総会のあいさつ−から

 今年は21世紀の最初の活動年である。会員一人ひとりの森づくりの活動が,技術に裏打ちされて自信に満ちた行動がみられる。昨年あたりから,行政当局,他のボランティア団体からNPO-FMに対し様々な事案が持ち込まれてきており,NPO-FMへの期待の大きさがわかる。NPO-FMは,国土緑化推進機構の森づくりは無論のこと,多くの森づくりのお手伝いの仕事があり,これらのおおくの要請に対して柔軟に対応して行くこととしている。そして何よりもうれしいのは,若い学生さんが勉強を兼ねて森づくりに参加してくれることである。日大生物資源学部の学生は,NPO-FMの森づくり活動を卒業論文にまとめている。一度でも,数回でも我々の活動に参加してくれる若い人々を大切にしたいと思う。昨年,立正大学地球環境科学部の学生に「森と私」のテーマでレポートを書かせたが,子供のころに森でカブトムシやクワガタをとった者や学生になって森の体験をした者は,感性が非常に豊かであることが判りました。森づくりには人づくりの相乗効果がある。NPO-FMは高い技術を持ったベテラン会員と若い会員がいつでも交流できる会であらんことを願っている。

 やがて刈り取られる道路際の稚樹や枯死をまぬがれない暗い森林に芽生えた稚樹は,採取され苗畑で育てられ,丈夫に育ちつつあり,森にかえることを待ちわびている。これらの苗木は,パッチ法によって植栽した自然林造成地に補植する予定である。枯れてしまったブナ若木の跡に植え込む。多くの植栽地は,自然に芽生えたり萌芽したフジザクラ,カエデ類,キハダ,マユミなどと,植栽したブナ,ミズナラ,ヒメシャラなどとの混交林ができつつある。これに山引き苗を補植して,より多様性に富んだ自然の森づくりを目指そう。研究部の活動も会員の皆さんに紹介できるようになった。センサーカメラでシカ食害調査や風害跡の更新樹や野草の調査結果もまとまりつつある。また,会の運営面では,NPO法に基づく法人化の検討,活動成果や研究結果を世間に問うPR活動,会員が憩う拠点づくりなどの組織強化の課題が会員から提起されている。


      苗畑で山取り作業を行う会員たち


      富士山自然の森づくり(NPO-FM)の仲間たち

<私のジグザグ・エッセイー>
スギと向き合って

          澤田智志(秋田県森林技術センター)

 先日バスで知り合いと一緒になったとき、スギのない北海道から2年ぶりに秋田に戻ったらスギ花粉症になって大変だと言っていた。なぜ今頃と思いながらよく聞いてみると、今の症状はスギではなく他の草本によるものであるが、病院で検査したところスギについてもアレルギー反応が確認されたという説明をしていた。その知人にとっては大変なことなのはよく分かるが、スギもずいぶん悪者になったものである。澤田さんはどうですかと聞かれ、私なんか毎日のようにスギ林に行っているが何ともないと答えたら、ある日突然やってくるんですよと言われてしまった。私だって最近鼻の調子が悪くて病院で花粉症の検査をしたら、全く反応がなかったため医者ががっかりしたぐらいの経験はある。さらにその知人に花粉のならないスギの研究はしていないのですかと言われたのには参ってしまった。おかまのスギでも作れと言うのかと言い返したくなってしまう。たとえスギでもし花粉のつかないものが成功したとしても、ヨモギやブタクサなど約40種の植物も花粉の出来ないものを作るはめになるのか? 問題はもっと違ったところにあるのではないかと思ってしまう。

 さて話は横道にそれてしまったが、私もスギと何らかの関わりのある研究を始めてからかれこれ15年以上過ぎてしまった。大学の頃は針葉樹林の土壌劣化が問題となっている時代で、当時の指導教官がスギの林床には高齢級になればイラクサ科を中心とするカルシウムリッチな植物が多数出現して林床は豊かになってくるのに誰も分かっちゃくれないと言いながら他界してしまった。私は当時、日光スギ並木をフィールドとして土壌調査を行い、土壌分析を盛んに行っていたが、指導教官の予測どおりに土壌表層部ほどpHが中性に近づく傾向が確認された。pHを上げる原因はスギの落葉起源のカルシウムを主体とする塩基の蓄積だったことが判明し、その後栃木県の民有林を対象としてスギとヒノキで林齢毎に土壌分析を行ったところ、両者の違いがきれいに現れた。

 そうこうしているうちに、ヨーロッパを中心とする酸性雨による森林被害が問題となり、日本でも酸性雨が研究され始めた。本来酸性雨の問題は降雨中に含まれる酸性降下物が問題となるはずだったが、日本では森林自体が土壌を酸性化する要因を作り出していると発表する研究者が現れ、マスコミがそれを大々的に報道してから話が変な方向に進んでいった。森林の酸性化を助長する樹種の代表としてスギの名前が上げられ、スギが再び悪者となった。私もウレタンラバー製の樹幹流採取装置の作り方を森林総研の友人から教えてもらい、研究するフィールドについてもスギとブナが混交している林分を見つけ、雨水の分析を主体に研究を行った。結果はスギの樹幹流の酸性が強くなるのは確かだったもののその量は少なく、むしろ樹木の樹冠を通って林地に到達する林内雨の方が地表へ到達する降雨のほとんどを占めていたが、そのpHは降雨よりも中性に近い値になっていた。幸いにも当時、森林総研の土壌研の酒井さんらも九州で同じような結果を出しており、その後スギの樹幹流の酸性は問題とはならなくなった。

 このように結果的には言葉のないスギの弁護を行ってきたような感じであるが、こんな私にもスギを弁護する必要がない仕事をする機会がめぐってきた、それは長伐期の研究である。スギの大径材の生産を目的とした長伐期の研究は別に新しいものではなく、特に秋田スギに関しては、先人たちの膨大な研究資料と成果がある。何を今更と思われるかも知れないが、実際に仕事をしてみるとこれがまた面白い。単木的に高樹齢の木の成長解析をするだけでも新たな発見と驚き(自分でそう思っているだけかもしれないが)があり、すっかり成長解析にはまってしまった。

 昔寺崎先生らのもとで研究を行っていた森林総研OBの協力が得られたことも大きいが、樹高測定がレーザーで簡単に出来るようになったことや、パソコンでのデータ処理が高度化し、大量のデータをビジュアル的に解析できるようになったことも理由として上げられる。最近スギの並材価格の下落は激しい中で、秋田では大径材の価格は依然として高く、研究内容について森林所有者の関心が高いのも、研究を面白くする要因となっているのかも知れない。しかしながら実際に秋田のスギ林を見てみると、以外と高齢級の林分が少ないのには驚かされる。戦後の大量伐採、台風による被害、経営上の問題、相続税、低価格など高齢級は高齢級なりに問題を抱えているようである。

 スギの長伐期の研究をしていると、江戸時代に植林を奨励し、伐採の制限を行ってきた先人の偉大さには驚かされる。日本は高度成長し、経済的にも豊かになり、私たちも楽な生活が出来るようになっている。一方、その代償として国産材の材価の低迷と共に山に手が加えられなくなり、再造林を放棄する事業体まで見られるようになってきた。こんな時先人の言葉が身にしみる「国やぶれて山河あり・・・」、今の時代は「国栄えて山河なし・・・」となってしまうのか、もはや先人の育てた秋田スギの美林は風前の灯火となりつつあるのは寂しい。せめて戦後大面積造林された壮齢級の林分を将来美林に育て上げるような努力を行っていきたいものである。


秋田に残る数少ないスギ天然林(仁鮒スギ群落保護林)

 

<技術情報>

粘土団子種子を用いた直播き造林

      水谷完治(森林総合研究所・水土保全研究領域・山地災害研究室)

 林業は最も過酷な労働の一つである。また、林業従事者の減少と高齢化が進み、さらには木材価格の低迷が続く中、人工林施業の省力化は避けて通れない。そこで、省力化の方法として粘土団子種子を用いた直播き造林を提案する。

 粘土団子種子は福岡正信氏が考案し、砂漠緑化、稲作、畑作などに使われている。この方法を直播き造林に応用しようというものである。粘土団子種子とは木節粘土と種子を混ぜ、練ったものを直径1cmから1.5cm程度の大きさに丸めたもので、いわゆるコーティング種子とは異なる。

 主伐する前に粘土団子種子を人力もしくはヘリコプターで播く。秋に種子が成熟・飛散することをから、秋蒔きが良いと考える。散布された粘土団子種子は粘土成分の影響か腐敗しにくい。伐採後は枝条散布地ごしらえをし、地表全面を枝条で覆う。降雨があると粘土が溶け、発芽条件が整えば発芽し、枝条の間をぬって生長する。種子としてヒノキ・スギなど数種を混ぜれば、立地環境に適した種が発芽・生長する。鳥獣害や気象害などにより発芽・生長が悪い場合は、労力はそれほどいらないので、翌年また蒔けば良い。枝条散布地ごしらえは、他の地ごしらえよりも地表面が露出しないため、雨滴による浸食が少なく地力も維持される。また、種子からの発根は植樹造林に比べより自然に根が生長するため、崩壊防止機能は高くなると考えられる。粘土団子種子の散布密度を高くすれば雑草の侵入が少なくなり、全面散布した枝条も雑草の生長を抑制するので、下刈りの回数を減らすことができる。また、苗木作りや植樹の作業がなく、粘土団子を播くだけなので、かなりの省力になる。さらに、自然の更新に近い方法なので病虫害の発生も少なくなるであろう。

 今のところは理論だけなので、成功するかどうかはわからないが、試みる価値はあると考えている。なお、粘土団子種子による実播工緑化を目的とした基礎試験については現在苗畑で行っている。

<編集後記>

 「森林は大気中の二酸化炭素を吸収し、温暖化の防止の役割を担う」などと業界人が言ったり、書いたりしているのを目にすると、間違いではないにしても何か市民(シロウト)を騙しているようで落ち着かない。確かに、樹木は(その集団としての森林)は、その成長・発達過程で、二酸化炭素を吸収・固定する。しかし、基本的に、森林の破壊あるいは木材資源の利用過程で大気中に放出された二酸化炭素を回収しているに過ぎない。問題は、今日の温暖化が化石燃料の大量消費と二酸化炭素の排出により生じているものであり、その対策とは「化石燃料」の消費・排出規制以外の何ものでもないということである。森林資源は、化石燃料に代わる循環可能な資源・エネルギーとして語られるべきものであり、時節に悪乗りして、森林が温暖化の救世主であるがごときに、誇大宣伝をするべきではない。たとえ、苦しい家計状況にあろうとも。

 京都議定書を具体化するCOP 6で、米・日・加のいわゆるアンブレラ・グループは、森林の吸収量の上積みを求め、EU諸国と鋭く対立して、会議は暗礁に乗り上げた。その後、アメリカ新政権は経済的理由で京都議定書からの離脱を表明、温暖化防止条約の枠組みそのものが崩壊の危機に瀕している。どこまでも目先の経済的利益、国益にしがみつく人類の愚かさはやがて種の絶滅で終焉し、その後、成長拡大する森林は石森章太郎氏の「リュウの道」の世界のように豊かな自然環境を回復させるに違いない(狢)。

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