木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.15 2002.3.4
Newsletter of the Forest Management and Research Network

森林施業研究会シンポ「脱ダム宣言と森林整備」に殴りこみ、

森林整備のあり方と技術を大いに論議しよう!

 

長野県知事の就任した田中康夫氏は、無謀にも国土交通省に反旗を翻し、長野県内に計画中のダム建設計画の凍結と見直しを表明、つかさず「脱ダム宣言」を発して、ダムに代わるものとして流域の森林整備を打ち出した。こうした施策は、県内外に大きな波紋をなげかけ、従来型の土建屋的な発想やお上の政策、地元の利権から田中知事の風体やライフスタイルも加わって、反発、共感、とまどい、憂い、自嘲、冷笑などなど、ややセンセーショナルな国民的な論議を巻き起こした。しかし、冷静な視点に立てば、流域の森林整備を図ることによって、森林の持つ水土保全機能を高め、土砂災害・水害を防止しようとする考えは、極めて正論であり、合理的なものと見られる。ダムに頼り、その結果、多くの自然(河川)環境を無視できぬほど損ねてきた「ダムが主役」の防災対策を、緑のダム(森林)に置き換えようとの思想は、十分検討に値するものと思われる。しかも、日頃、軽んじられる「わが業界」が久々に注目され、期待されそうなのである。しかし、一方で、困惑やためらいも生まれている。本当に、森林整備で、土砂災害・水害を阻止できるのか!?水土保全機能を高める森林整備とは何か、どのような森林を造成するのか?そして、そのための技術はあるのか、ないのか?

今回のシンポジウムでは、出来れば避けて通りたいが、避けて通れないこの困難な課題に研究会は、あえて取り組もうと思います。真剣な論議と野次、怒号の飛び交うシンポを期待して、多くの関係者に参加を要請します。

 

第7回森林施業研究会シンポジウム

テーマ:脱ダム宣言と森林整備

話題提供:

(1)「脱ダム」宣言の背景と構想(仮) 大熊 孝(新潟大学)
(2)長野県「森と水プロジェクト」の概要(仮) 小山泰弘(長野県林業総合センター)
(3)流域の森林整備における技術的課題(仮)柳井清治(北海道工業大学)
(4)荒廃林地再生の課題(仮) 相浦英春(富山県林業試験場)
日時:4月4日 午前9時より12時まで
場所:新潟大学教養校舎255講義室

全国交流会(世話人会)に参加し、シンポジウムを盛り上げよう!

施業研究会恒例のシンポジウム前夜祭、全国交流会が今年も開催されます。翌日に控えたシンポジウムを盛り上げるため、是非とも参加ください。また、話題提供者を激励しましょう!詳しくは、参加希望者に後日連絡します。

参加申し込み先:長池卓男(山梨県森林総合研究所)

TEL: 0556-22-8006 or 8001

Fax:0556-22-8002

E-mail: nagaike@pop21.odn.ne.jp

大型スーパーか商店街か? −森林の多様な機能の整備方向−

         事務局 大住克博

「森林・林業基本計画」での森林整備方針

森林法の改正を受けた新方策である「森林・林業基本計画」が発足します。この中では、国内の森林はすべて、水土保全林・森林と人との共生林・資源の循環利用林に3区分されて管理されることになります。2001年度中には地帯区分も終わり、各市町村ごとにこの3区分に沿って森林整備計画を策定する段取りですので、皆さんの中にもその対応に追われていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。

3区分が目指すものの曖昧さ

この新方針についての関係資料を読みなおしてみて、私は二つの疑問を持ちました。一つは、各区分における森林管理の目的が、文書の中でブレていて、具体像が読み取れないことです。森林・林業基本計画の文言を素直に読めば、水土保全林や森林と人との共生林の目的が木材生産にないことは明白です。しかし資料を読みつづけていくと、やがて、水土保全林からも資源の循環利用林を上回る木材生産が予定されていることが分かります。では、この木材生産は何のために行なわれるのでしょう? 

水土保全のための森林を整備するという原則に立てば、その施業も、あるいは過渡的、副次的には一部で行なわれるであろう木材生産も、第一には「水土保全に資する」ものであるはずです。この目的の下に公的資金を注入して管理を行なうということであれば、目的にそった資金の運用は、負担者への当然の義務です。資源の循環利用林に匹敵する規模の木材生産を水土保全林に期待するということが、果たしてその原則に沿ったものなのかどうか、説明が必要です。

また施業方法についても、水土保全林の水土保全機能は、複層林化、混交林化により整備されることになっていますが、複層林化や混交林化が、本当に水土保全機能を高めることになるのか、どの程度検証した上で設計されているのでしょうか。

水土保全林の面積は国内の森林面積の過半を占めます。人工林が主体の資源循環利用林と異なり水土保全林に区分される面積のかなりは広葉樹天然林、あるいはその二次林を含むでしょう。森林・林業基本計画に従えば、これらの天然性広葉樹林も、いずれは針葉樹を植栽して、混交林化、複層林化を行なうべきだということになります。旧薪炭林などの広葉樹二次林へ針葉樹を植えこむという混交林施業は、水源林造成特別事業などで現に進行しつつありますが、広葉樹二次林を広葉樹二次林として存置せずに、それを伐ってスギやヒノキを植え込むという選択が、はたしてより機能を発揮させるための整備であると評価できるのか、私には疑問です。

曖昧なことがなぜ危ないか

3区分で言う水土保全・森林と人との共生・資源の循環利用を、今後の森林管理の大きな柱とすること自体には賛同します。「森林・林業基本計画」では、スローガンとしてはこの3つを明確に区分しながら、実際には、木材生産林の中で折り合いをつけながら他の機能を確保するという、森林資源整備計画以来の目標の曖昧さを含んだ路線を踏襲しているようにみえます。狭い国土の中で、すでに造林してしまった広大な人工林を抱えながらこれらを実現するためには、ある程度木材生産林の温存を考えながら多機能的に森林整備を進めざるを得ないことは理解できます。しかし、木材生産と水土保全では、重心の置きかた次第で、期待する樹種、林型や更新方法も全く異なってしまうことも考えられるのです。

計画のスローガンと森林の実態に乖離があり、水土保全という将来達成すべき目標と、林業の保護という当面のしのぎの間に時間的距離があるのであれば、それを明確にして、目標に到達するためのプロセスを追って計画を組んだ上で、説明すべきでしょう。我々の直面する現実とは、木材生産を目的として作ってしまった広大な人工林を、森林管理の担い手の生活も考慮しながら、徐々に公益的機能発揮のための森林にシフトさせていかなければならないというところにあると思います。しかるに森林・林業基本計画は、その現実からの誠実な出発を避け、いざとなればどのような施業の結末も容認できるような複層林や混交林施業を動員していると考えるのは、穿ちすぎでしょうか? 

 目的や手法が曖昧なまま施業を導入すると、施業の結果の評価も曖昧になり、最後は無責任、無関心の増大を招きかねません。私は木材生産至上主義と針葉樹人工林偏重を擁護するものでは有りませんが、今回の方針が実行されれば、それは、「営々と作り上げてきた」といわれる人工林も、里山などの天然林も、ミキサーにかけてすべて無かったことにしてしまおうとするものであり、日本の森林の戦後体制の幕引きを行なう役を担うものになるだろうと予感します。

同一林分での多機能発揮の現実性

 今一つの問題点は、最初の問題にも関係しますが、提案されているような同一林分を多機能的に整備するという方針が、現実的で賢明かどうかということです。まず先に述べたように、複層林や混交林が多機能発揮のための最適な道筋なのか(期待はともかく)不明です。次に、整備目標の具体的なイメージが不明確です。加えて管理の実行が難しいということがあります。

複層林や混交林は、個体管理の比重がより強い施業方法だと言えるでしょう。これは単純に考えれば、高い水準を持つ技術者による集約的な管理を必須とするということです。複層林を乏しい理解の下に導入した場合、如何に多くの問題が引き起こされるかということは、最近つとに指摘されていることです。また、混交林も同じような構造を孕んでいます。そのような難しい技術を駆使する施業体系を全国的に敷衍して多機能林整備するとすれば、技術者のレベルアップと大量養成が先決でしょう。さもなくば、根拠の薄いマニュアルの数字に頼って、一律に事業が遂行されるという、貧困な状況が出現しかねません。

 今後も森林管理に対する経済的な支持力は低く、限られた予算と人材で管理を行なっていかねばならないのが現実だとすれば、むしろ、単機能に近い小林分を、立地環境や経営の合理性に応じてモザイク状に配置することで、流域やランドスケープスケールで生態系の多様性を作り出し、多様な機能の発揮を図っていくことの方が、より賢明ではないでしょうか。これは、沢筋や尾根のみならず中腹などにも天然生林を十分に配置し、その間に木材生産のための様々な林齢の針葉樹人工林で埋めていくことで実現されるでしょう。つまり大型スーパーではなく専門店によるモール(商店街)を作るわけです。どのような立地にどのような林分を配置するか、ここには十分な検討をかける必要がありますが、個別の林分の整備目標のイメージや管理手法は明確であり、管理もより容易ではないでしょうか。

 

これは進むべき道筋か?

 森林・林業基本計画では、つまるところ、目的も効果も曖昧な施業が、図面上に明確にライン引きされた区域に、明確な事業量が割り当てられて、広域で一様に実施されようとしていると感じます。この「施業」を「事業」とか「作戦」に読み替えれば、昔からわが国で繰り返されてきたパターンだということが分かります。しかし、良い施業、森林とは、むしろこの対極に位置するのではないでしょうか。それは、明確な目的のもとに、効果がある程度検証されている技術体系群を、多様な現地の状況に応じて臨機応変に現場技術者が判断して当てはめ、また見なおしていくことで、自己形成的に成り立っていくものだと信じます。そしてそこで実現されるランドスケープは、線引きされた区画などではなく、フラクタルであり、モザイクであることでしょう。

 幸いこの森林・林業基本計画の3区分は、区域内の森林所有者を強制するものではないと表明されています。森林管理の実行にあたっては、線引きやマニュアルにとらわれず、自らの踏査と判断で選択を行なうという技術者の基本を、我々はしっかりと心すべきでしょう。

矢作川で第10回渓畔林研究会

 2001年10月19〜20日にかけて、愛知県の豊田市産業文化センターで第10回渓畔林研究会が開催された。この研究会は年に1度開催され、渓畔林・河畔林をはじめ河川の環境や生物に関するさまざまな研究発表が行われる。1991年に埼玉県本庄市にある早稲田大学セミナーハウスで第1回研究会を開催以降、全国各地の調査地を訪ねて毎年ワークショップ形式の研究会を開き続けているほか、学会開催時に水辺林に関するシンポジウムを企画・開催している。

 19日には以下の14の研究発表が行われた。発表のテーマはヤナギなど渓畔林・河畔林の優占種の定着や繁殖、更新、河辺の植物群落の分布、さらに河川環境と水生生物の関係など多岐に渡っていた。

 

水辺域における自然植生回復の取り組み−カタクリ群落の再生を目指して−

○鈴木和次郎(森林総研)・須崎智応(関東森林管理局森林技術センター)・友部敦子(茨城森林管理署)

吉野川下流域の砂州上における植物群落の分布と河床環境の変化

○鎌田磨人(徳島大)・伊藤道啓・久保田篤之・岡部健士

四国における渓谷林の林床植生と立地環境

○川西基博(横浜国立大学環境情報学府)・石川愼吾(高知大学理学部)・三宅尚(高知大学理学部)

砂州上のアキグミ群落の定着・発達に関わる地表変動パターン

郡 麻里(広島大・院・国際協力研究科)

群馬県湯檜曽川流域における3種のヤナギ科植物の実生定着過程

○坂奈穂子(立正大)・鈴木和次郎(森林総研)・渡邊定元(立正大)

雌雄異株性樹木オノエヤナギの資源獲得機構における雌雄差

◯上野直人・清和研二・陶山佳久(東北大・院・農)

イヌコリヤナギにおける雌雄間の繁殖投資量の違いと繁殖コスト補償機構

○戸澤宗孝・上野直人・清和研二(東北大学農学研究科)

ダムがケショウヤナギを中心とする河畔林の更新動態に与える影響

  −歴舟川および札内川の調査結果に基づく仮説提示−

○中村太士(北大)・進望(札幌市豊平川さけ科学館)

河畔ネコヤナギ群落の一次生産と流域物質循環への影響

○佐々木晶子・中坪孝之 (広島大・院・生物圏科学)

矢作川河川敷の小哺乳類 -アカネズミ個体群を中心に-

○米澤里美・上杉美紀・恩地 実(甲南高校)

河床における細粒土砂の堆積が河川生物相に及ぼす影響

○山田 浩之・中村 太士(北大)

多摩川におけるCladophora glomerataの分布と物理要因の影響

岡田 久子(東京都立大)

 研究発表後は、市内を南北に流れる一級河川、矢作川(やはぎがわ)のほとりに建つ老舗の料理旅館「安城館」で懇親会が開かれた。



 翌20日は応用生態工学研究会・土木学会河川水理委員会河川部会・豊田市矢作川研究所との共催で、矢作川の現状と研究の紹介が行われた。矢作川は上流から7つのダムを抱え、河川流量の減少、氾濫の機会の減少と規模の縮小、土砂の流下阻害による河床の低下や固化によって、アユをはじめとする魚類の減少やカワシオグサのような大型糸状緑藻の繁茂といった、河川生態系のアンバランスが引き起こされていると考えられる。一方で矢作川では流域市民による河川保護運動が進められてきたとともに、豊田市矢作川研究所を中心に研究者が行政・市民・民間企業と協力し、河川生態系の現状を把握して、環境を改善するための取り組みを始めている。 以上のような経緯が屋内で紹介された後、1991年に近自然工法により河川改修が行われた古鼡(ふっそ)水辺公園に移動し、現地で工法や大型糸状緑藻のモニタリング、砂利投入実験、大型糸状緑藻の剥離実験等の研究の紹介が行われた。矢作川のアユが供された現地での昼食後、水害防備林である河辺のマダケ林で竹稈の間伐を行い、自然公園として整備したお釣土場(おつりどば)水辺公園を見学し、散会となった。

<私のジグザグ・エッセイ>(1)
里山について思うこと

深町加津枝(森林総合研究所関西支所)

 里山の自然、文化を利用し、そして保全すること。その重要性、あるいは緊急性が、国や地方の施策における重要な基本理念、構想として謳われるようになりました。また、里山管理への市民の参加、里山を対象とした研究も盛んに行われるようになりました。

 一方,里山を訪れれば訪れるほど、里山のことを知れば知るほど、「里山はどんなところなのか、かつての里山と今の里山はどのように異なるのか」、「里山の自然や文化を大切にするとはどんなことなのか」、「里山における普遍性と特殊性は何か」・・・そんな多くの疑問が次々と浮かんできます。それらの答えをすぐに見つけることはできないかもしれませんが、答えは必ず「里山」という場と、そこに住んできた「人たち」の中にあるに違いありません。

 そんな思いをもって里山を歩き回り、そこで暮らしてきた人々の話を聞いています。その中では、ホッとするなんともいえない美しさのある里山の風景を目の当たりにしながら、その成り立ちや特徴を探っていきたいと思っています。また、生活や生業の中で、意識的、無意識的にどんな思いを地域の人たちがもってきて、そして、これからの未来を迎えようとしているのか、その真実に一歩でも近づければ、と思います。

 例えば、植物にも絶滅に瀕した種があるように、地域の文化や地域に暮らしてきた人そのものも、実は、5年後に10年後に必ず同じ状態でそこにあるとはいえない、というかけがえのない存在です。今、早急に求められていることは、これからの未来につなげるため、里山の自然や文化についてしっかり理解し、そして伝承していくことでしょう。

 里山の最も大事な特徴の1つは、それぞれの地域で、それぞれに異なった地域性がある、ということだと思います。里山をとりまく世の中の流れを概観しながら、じっくりと1つの地域を見続けていくことで、「里山はどんなところなのか、かつての里山と今の里山はどのように異なるのか」、「里山の自然や文化を大切にするとはどんなことなのか」といった問いの答えが見えてくると信じています。

 

<私のジグザグ・エッセイ>(2)
さよなら森林官

森林官 K.H(某森林管理署・某森林事務所) 

1.はじめに

 早いもので、森林官生活も3年が経とうとしています。当初は1年ちょいで異動して、東京へ残してきた彼女とゴ〜ルイ〜ンと、(向こうはどう思ってたか知りませんが)考えていたのに、「もっと森林事務所にいさせてください」なーんて言って、現在に至っています。そりゃそうですよ。事務官として就職して、林業に関してなーんにも知らないで、森林官になったらなったで、1年いたぐらいで分かるわきゃないわい。わが身を省みて、こんな森林官でいいのか?と考え、「勉強しなくっちゃ」と、珍しく思った次第です。

 就職して1年間霞ヶ関で机にかじりついた後、管理署に4か月いて、森林官になりました。その間みっちり施業を勉強したわけでもないのに、なんと1年半経たずに素人から森林官ができあがるのだからおもそろしい限りです。

2.森林官生活の紹介がてらアレコレ

 わたしが働いている森林事務所がある村は、この県で最小の人口・2700人と、かなりの田舎です。わたしの前任とその前の人はここで辞めたとゆーことから、都会人になりきっていたつもりの私としてはけっこうビビッていたのですが、やっぱ住めば都、かなりエンジョイしています。もともと東北の寒村出身の私にはなんてことなかったですわい。正直うちの田舎より都会ですね。

 なにしろ村の3分の1が国有林という村です。地域と密接な関係があるわけですが、林業に関係する方は高齢者が多く、おかげで60代位のおばちゃんには大モテでした。コンビニが無くたって、村中がコンビニとゆー感じです。あっちで飯を食い、こっちで飯を食い・・・、これって癒着でしょうか?

 しかし東北の片田舎で育ったとはいえ、ファミコン世代の私には、自然の中で自然と一体となって生活していくことの楽しさが新鮮でした。山の幸の楽しみ方など、多くのことを年配の方に教えてもらいました。しかし、森林で会う人たちに、総じて若い方が少ないのが気になります。年配の方と若い方でデジタル・ディバイドならぬフォレスト・ディバイドみたいなものが感じられます。この村にいてさえそう思うのです。開かれた国有林などと標榜しているのですけど、若い方に森林の楽しさを伝えていくことが大事だと考えるようになりました。これには森林教室だー!と、思ったのですが、学校の先生との巡り合わせが重要で、なかなか思うようにはいきませんでした。残り少ない森林官生活、もっと図々しく、学校に勝手に自分の机を構えるぐらいの気持ちで臨むつもりです。

 ここの森林事務所ではヒノキの良いものが育ち、ブランド品として最盛期(?)には相当の伐採量があったとゆーことです。いまは生き残りを小面積で皆伐、またようやく伐期を迎えたものを間伐しています。そのほかはまだ伐期を迎えていないヒノキを主体とする人工林がほとんどなので、その保育に努めています。良い材がとれるところなので、一所懸命予算を獲得して、保育に努めたつもりなのですが、現在思うと、いろいろなところで「無駄なコト」に気がついたり、「保育方法のやり方」への反省も多いです。独立採算性とはいえ、少なからず税金にお世話になっているのですから、効率的な取り組みをもっとしたいものです。

3.モンモン森林官生活

 田舎生活には割と早く楽しみを見いだしましたが、しかし仕事に関しては参りました。環境問題に興味があって、この職場を選んだわけなんですが、肝心の林業がわかってないんですから。図面と森林調査簿という武器があっても、「だからなんだっぺ」。1人だけの森林事務所で「お気楽」と言えばそうですが、なんか悔しい気分でモンモンとして1年が過ぎていきました。なんのためにここにいるのか?自分は役に立っているのか?このまま過ごしていいのか?などなど・・・。

 そんな時、山で首吊りを見つけたりブルーに拍車をかけるようなコトもありましたが、森林事務所にいると、「けったいな人」達が時々訪れてくれました。そしてこんなボクにでもあきれずに一所懸命林業を教えてくれました。腐りかけてたボクも、まぁピータンくらいにはなれたでしょうか。ほんとうに助かりました。世の中じゃダメって言われてる林業だけど、ホントに森林・林業が好きな人たちがいるんだな〜って、なんか勇気をもらいました。おかげで自信がだんだん出てきて、山の作業を見る目も変わってきました。

4.ルンルン森林官生活

 モンモンしてたとき、職場での研究発表が一つの転機になりました。まずは山で見つけたマツタケをテーマにやらせてもらったのですが、そこからなんちゅーかこう、理解が「ブワッ」と拡がっていくのを感じました。やっと林業にとっかかりみたいなものができて、一筋の光が見えたようでした。そして仕事もおもしろくなりました。翌年は間伐による林床植生の変化をテーマに取り組み、また理解が深まりました。この機会を与えてくれた、この森林事務所での様々な巡り合わせに感謝しています。

 私の職場では研究発表といえば押し付け合いの末にババを引いた人がやるものという感じです。忙しい人は出来ないかもしれませんが、もっと若い人が取り組むことが大事だと思います。経験豊かな人たちがたくさんいるのですけど、職場でも高齢化が進み、どんどん退職していって技術が若い人に伝わらなくなるのはもったいないです。

 わけがわからず現場に出ましたが、どうにか森林官らしくなったんじゃないかと、生意気にも自負しています。若い人でも現場をひとつまかせられるなんて、よく考えてみりゃゼータクな話です。現在、国有林の職場では森林官になるのは20代がほとんどです。森林・林業を知らないままでなるにはもったいない仕事です。早すぎる人事や適当な研修、そして学ぶことを無駄だとするような雰囲気を無くして、森林官が活躍することを望みます。

 ・・・そんな森林官生活ももうすぐ終わりを告げそうです。そうは言っても「あとは若い森林官に」なーんてサラサラ思ってません。おもしろいコトに近いのは森林官でしょうが、これからもおもしろそうなコトにどんどん首を突っ込んで、楽しんで仕事していく所存であります。

 私も森林・林業が好きな「けったいな人」となって、できるなら胸を張って技術者として臨んでいきたいものです。そしてゆくゆくは若い森林官なんかにちょっかいを出したいですね。こりゃ、おもしろそうです。

 

編集後記

遺伝子組み換え作物・食品の賛否を論議する研究者デベートなる催しを覗いてみた。パネラーの多数、司会者、コメンテーターはすべて遺伝子組み換え作物・食品の有用性、安全性を主張し、さながら遺伝子組み換えに反対する者は科学者ではないといった雰囲気であった。極めて高度な専門知識が求められる分野で、一般市民が知り得る情報が限られる中、遺伝子組み換え技術、組み換え体(作物・食品)の安全性を論議するとすれば、まさしく、遺伝子組み換え技術に携わっている研究者から危惧、危険性の指摘がなされない限り、デベートになど成立しないはずである。「食糧危機に備えるため」と主張するが、現在、世界各地で起こっている飢餓の原因は、極めて政治的であり、経済的である。パネラーの一人が最後に、遺伝子組み換え技術が、現在の地球環境問題に貢献すると主張、その一例として、公害に強く、二酸化炭素を吸収・固定能の高い街路樹の開発を挙げたのには笑ってしまった。それは、化石燃料の消費を削減することで解決する問題ではないだろうか?!(狢)


  森林施業研究会ホームページに戻る