木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.17 2002.9.2.
Newsletter of the Forest Management and Research Network


笠間合宿の案内−国有林を舞台とする初の現地検討会(笠間合宿)に参加を!

森林施業研究会恒例の現地検討会がこの11月、茨城県の笠間市を中心に開かれます。今回は、関東森林管理局東京分局森林技術センターが中心になって取り組む国有林の「新たな人工林管理・施業」を現地見学し、その理論(考え方)と実践(技術)を検討しようと計画されたものです。呼び物(目玉)は、モザイク林造成と集水域の生態系管理、そして高齢級人工林(200年生!)です。施業研究会の現地検討会としては、初めて国有林が受け入れ先(共催)となり、国有林の施業を検討の対象とするもので、有意義な論議や情報交換が期待されます。是非とも、現地検討会(笠間合宿)に参加されることを呼びかけます。笠間合宿の日程・内容は以下の通りです。

11月6日(水)

宿泊:つくば市「筑波ふれあいの里」(TEL:0298-66-1519)
午後4時30分までに集合・夕食
プレセミナー(午後7時〜9時)
講演(1)霞ヶ浦の再生と森林 飯島 博(アサザ基金)
  (2)マルチキャビテイ・コンテナを使った苗木の育成法 遠藤利明(森林総研)
森林技術センターの事業の紹介 石神智生(森林技術センター所長)
前夜祭(懇親会)

11月7日(木)

宿泊:御前山村・国民宿舎「御前山」(TEL:0295-55-2151)
現地検討(午前9時〜午後5時)
(1) 筑波山複層林試験地(各種複層林・モザイク林造成地)
(2) 佐白山高齢級ヒノキ人工林(モニタリング・プロット)
(3) 大沢試験地(集水域管理・広葉樹導入試験)
セミナー(午後7時〜午後10時)合宿参加者からの話題提供(6〜8名程度)
懇親会 午後10時〜・・・・・?

11月8日(金)

現地検討(午前9時〜12時)
(1) 御前山高齢級スギ人工林(モニタリング・プロット)
(2) ケヤキ展示林(水辺林の修復・再生事業)
12時解散

参加費:(宿泊・食事・酒代こみ):2泊3日で、およそ一般16,000円 学生13,000円
交通手段:合宿中の移動は、車となります。近県の方は、出来るだけ車で来て下さい。足(車)の無い方は、同乗して移動していただきます。宿までの交通手段は、後日お知らせいたします(東京駅からは高速バス)。

参加申し込み:参加希望の方は、以下の担当まで氏名、所属、連絡先、参加日などをご連絡ください。

鈴木 和次郎(森林総合研究所)TEL:0298-73-3211 内355 FAX:0298-74-3720
E-mail: wajiro@ffpri.affrc.go.jp

須崎 智応(森林技術センター)TEL:0296-72-1146 FAX:0296-72-1146
E-mail: fo16sinr@apricot.ocn.ne.jp

申し込みの締め切りは宿泊の予約の都合により9月30日!
セミナーでの話題提供:参加者各位の取り組む森林管理・施業に関わる試験・研究に関する話題提供をお願いいたします。一人の持ち時間、話題提供+討議で30分以内。

秩父の大滝村で、心のオアシス=第11回渓畔林研究会が開かれる!

                     洲崎 燈子(豊田市矢作川研究所)

   参加者の面々(上の画像をダウンロード:252k)

 第11回渓畔林研究会が2002年5月27〜28日にかけて、埼玉県大滝村中津川にある彩の国ふれあいの森森林科学館で開かれ、約60名の研究者らが参加した。「彩の国ふれあいの森」は中津川県有林(その歴史は昭和5年、本多静六博士らから埼玉県に寄付された林から始まる)約3000haを活用しており、『原生の森』・『学習の森』・『生産の森』などの7つのゾーンに区分されている。
 例年通り初日の午後に研究会が行われ、2日目に現地エクスカーションが実施された。研究発表のプログラムは以下の通りであった。

13:30 開会挨拶  星野 栄太郎(埼玉県農林総合研究センター所長)
13:40 数値標高モデルを用いた谷底の抽出・分類手法の開発
     松浦俊也(筑波大学環境科学)
13:55 山地渓流における河川構造とリター堆積量、堆積場所の関係
     小林草平・加賀谷隆(東大・森林動物)
14:10 渓畔林の喪失がサクラマス生息環境に及ぼす影響
     阿部俊夫(森林総合研究所)
14:25 河川空間におけるレクリエーション利用の分布と環境要因との対応
     奥敬一(森林総研関西)・掘渕久美子・宮川和宏・鎌田磨人(徳島大)
14:55 那賀川中・下流域の砂礫堆における樹木群落の分布拡大過程
     鎌田磨人・荒木健太郎(徳島大学・工学部・建設)
15:10 河畔林の低木層を優占するゴマギの種子散布
     郡麻里・鷲谷いづみ (東大・院・農学生命・保全生態)
15:25 東京大学秩父演習林におけるシオジに関する研究の紹介
     澤田晴雄・大村和也・五十嵐勇治(東京大学秩父演習林)
15:55 希少樹種ハナノキは、どのように生き長らえてきたのか?
     鈴木和次郎・金指あや子・菊池賢(森林総合研究所)
16:10 トチノキ個体群の生態遺伝学的解析について
     金子有子(滋賀県琵琶湖研究所)
16:25 渓畔域におけるカツラの更新機構
     久保満佐子(屋久島観光センター)
16:40 マイクロサテライトマーカーを用いた渓畔林構成樹種カツラの遺伝構造の解析
     井鷺裕司・工藤充(広島大学総合科学部)・崎尾均(埼玉県農総研森林)・大住克博(森林総研関西)

 研究会2日目は、ふれあいの森(原生の森)大山沢でのエクスカーションであった。大山沢の奥の部分は、ほとんど人為的な影響を受けていない天然林で、シオジ・サワグルミ・カツラ等を林冠木とする渓畔林が広く分布している(写真1、2)。
写真1
写真2
ここでは、埼玉県農林総合研究センター森林支所の研究グループが渓畔林の動態に関する研究を大学との共同で行っており、多くの研究成果を生み出している。シオジ林といえば昔からこの秩父のものが有名で、他所では殆ど見られない純林に近いまとまった林を見られた。カツラの萌芽株を構成する大木にも目をみはらされた。登り進むうちに林床植生の少ない緩斜面に出たが、ここはシカの食害で草本や低木が少なく、有毒なバイケイソウ、ハシリドコロ、トリカブトなどだけが食べ残されているという状態だった(写真3)。
写真3
この日のコースの最標高地点まで登った参加者は、珍しいヒロハカツラの大木を見ることができた(写真4)。
写真4
帰りは、過去に一部天然林の伐採が行われていたとき、下流へ木材を搬出するのに使った鉄砲堰のモデルを見つつ(写真5)、会場に戻り散会となった。
写真5

 

(研究レポート)
丹沢山地のニホンジカの保護管理に関連した植生管理の取り組み
            田村 淳(神奈川県自然環境保全センター研究部)

はじめに
 神奈川県では、1970年代からニホンジカ(以下シカ)対策として丹沢山地で防鹿柵による人工林の被害管理をしてきた。近年では、ブナ帯の林床植生保全のために植生保護柵を県の事業により設置して生息環境管理をしている。このように神奈川県は他県と異なり、まず柵をつくることでシカ問題に対処してきた。
 しかし、1990年代後半に生物多様性の低下、林床植生の退行、及びシカ個体群の貧栄養化などの問題が指摘されるようになった。そのため、県では2003年から第9次特定鳥獣保護管理計画によるシカの保護管理を開始する。保護管理に付随した植生の管理目標は、ブナ帯の自然植生を回復させることと人工林地帯のシカの生息環境を改善させることにある。その目標に向けて、これまでの被害管理、生息環境管理だけでなく個体群管理を組み合わせて科学的、適応的に保護管理を実施していく予定である。
 私の所属する研究部ではそのための実証試験をしている。調査を開始して2年ほどしか経過していないが、ブナ帯に設置された植生保護柵内の植物相調査と人工林の間伐施業に伴う下層植生の変化について概要を紹介する。

ブナ帯での植生保護柵による植生保全
 植生保護柵設置の目的は主として2つある。第一は、衰退しつつある植物をシカの採食圧から守ること、第二は、植物の遺伝子資源を保全し、シカの密度が低下した際に植物を回復させるための種子の供給源にすることである。このように植生保護柵は個体数管理に先んじて、県の事業により1997年から丹沢大山国定公園の特別保護地区を中心に設置されている。大きさは40m×40mを標準としている。設置の実績は2000年時点で約12haとなっている。
 2000年から、植生保護柵の効果検証のために、研究部で植物相の調査を開始した。また、2001年からは、県内の植物愛好家と連携して調査している。その結果、柵は希少植物の保全・回復と樹木の更新に効果があることがわかった。
 希少植物に関しては、現段階で神奈川県レッドデータブックに掲載の絶滅種、絶滅危惧種など12種を確認している。そのうちの5種はレッドデータブックによりシカの採食が原因と考えられている種である。また、柵内外での植物相の比較から、希少植物でなくても柵内でのみ出現する種、あるいは柵内でのみ開花が見られる種があることがわかった。前者の例としては、オオバショウマ、オクモミジハグマ、クサアジサイなど、後者の例としては、ツクバネソウ、ウバユリ、テバコモミジガサなどがあった。これらの生活史にはシカの採食圧が関係していると思われ、現在研究を進めているところである。
 樹木では、ブナをはじめ高木性木本において、樹高が柵外よりも有意に大きくなっている種が多い。これは、柵内ではシカの採食圧から逃れられるだけでなく、スズタケが後退していたことも大きな要因と考えられる。すなわち、シカの採食圧によりスズタケが後退した後に、採食圧を排除するための植生保護柵を設置したことで、樹木の更新が促進したのだろう。ただし、保護柵内のブナなど木本稚樹の最大高は1m未満のため、スズタケの回復次第で後継樹になれるかどうかが決まると思われる。これについても追跡調査していきたい。

シカの生息地におけるスギ・ヒノキ巨木林での間伐に伴う下層植生の変化
 人工林で間伐するとシカの餌となる下層植生が増加することが予想できる。しかし、シカが生息する丹沢山地では間伐などの森林管理により一時的に下層植生は増加しても、それがシカを集中させるきっかけとなり、下層植生が退行したり植栽木に被害が発生する可能性がある。人工林地帯でシカの収容力を向上させるにはこのようなジレンマがある。それでも、ブナ帯で植生保全のためにシカの密度を低下させる補償として、かつてシカ被害の勃発した人工林地帯でシカの生息環境を改善する森林管理技術が必要とされている。
 そこで、当センター県有林部と連携し、まず第一段階として、シカの密度が高い人工林において間伐に伴う下層植生の変化(間伐前後の現存量と出現種数)を検討した。調査地は、スギ、ヒノキを主体とした林齢90年生の人工林で、伐採前の2000年8月に一辺10m四方の方形区を3区設置した。間伐は2000年秋から冬に材積間伐率30%で行なわれた。間伐後にシカの採食を防ぐために防鹿柵を各調査区に設置し、さらにシカの採食影響をみるために同面積の対照区を各調査区に隣接して設置した。
 間伐後の現存量は、3調査区の柵内外ともに増加したが、柵内は柵外よりも増加量は大きかった。なお、シカの不嗜好植物を除いた現存量も同様な結果であった。出現種数は、間伐前の3調査区で37〜39種とほぼ同数だったのに対し、間伐後は3調査区の柵内外ともに出現種数は増加し、とくに柵内で増加量は大きかった。間伐後に増加したのは、3調査区ともに新規出現種が多く消滅種が少なかったことによる。
 これらより間伐後1年目の結果では、シカの生息下でも光環境の改善によって下層植生の現存量と種数が増加することが示された。なお、今年からは、天然生広葉樹の稚樹の動態もあわせて調査している。

今後の課題

 以上の取り組みは、まだ始まったばかりで断片的なものである。しかし、今後も継続調査していくこと、そして、人工林の場合は各事業と連携して調査地を増やしデータを取っていくことで、断片的なものから総合的なものへと発展させていきたい。
 シカの保護管理を含む自然環境の管理には、「こうすれば成功する」といったことはないと思う。事業に関連した実証試験をしていくなかで軌道修正し、さらに次の事業へと展開するといった適応的な取り組みが、丹沢の自然生態系を保全・再生するために必要であろう。

 なお、自然環境保全センターの事業に関しては次のホームページをご覧いただきたい。この報告に対するご意見、ご質問は次のメールアドレスにご送信をお願いします。
ホームページ:http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/05/1644/main.html
メールアドレス:atsushit@agri.pref.kanagawa.jp

(技術レポート)
マルチキャビティコンテナを使った広葉樹の育苗について
  −既往の育林初期の作業体系は完成されたものか−
         豊田信行 (愛媛県林業技術センター)
1 目的
 持続的な森林管理を行うための1つの選択肢として、針広二段林や広葉樹林の造成があり、その誘導方法の1つとして、高木性広葉樹の人工植栽があります。このとき解決すべき問題点の1つとして「低コスト化」があげられます。ここで「低コスト化」とは、「低価格な育苗技術」に限定することなく、「育苗〜造林用苗木の植え付け〜下刈」という育林初期の作業体系全体の低コスト化を目標にする必要があります。既往の育林作業体系は、針葉樹の一斉造林を対象に、昭和30年代にほぼ完成されており、山村の豊富で安価な労働力を前提として組み立てられています。一方、今日の山村は、過疎であり人件費も上昇しています。したがって、木材生産を目標とした森林施業であれ、水土保全・生物多様性等を重視した環境林へ誘導する森林施業であれ、もう一度育林作業をシステム全体で見直し、低コスト化を図る必要があると思います。そこで当センターでは、高木性広葉樹の人工植栽の低コスト化を目的として、平成13年度から5ヶ年間北米や北欧で実用化されているマルチ(多)キャビット(孔)コンテナ(育成容器)を用いた、育苗試験を実施中です。なぜ、マルチ・キャビティ・コンテナで育苗するかというと、(1) 育成孔に突起があり、根の回転が発生せず、空中保持により空中根切りが行われ、根の変形が従来のポット苗に比べ少ない。(2) (1) の根の形状により機械化に適した、又林床マルチング植栽に適した苗が作れる。という2つの理由からです。

2 試験の成果
 平成13年度の概要は次のとおり。
 供試樹種はケヤキ、コナラ、ヤシャブシ、ハルニレ、キハダ、ヒノキです。広葉樹5樹種の播種は13年の3〜5月に行い、1成長期経過後に育苗を終了させた。ヒノキは播種後1年間苗畑で育苗された苗をコンテナに移植して1成長期育苗した。使用コンテナは、植孔の内容積が150mlのスウェーデンBCC社のV150SSと、250mlのタイJICAのREX250の2種を使用し、空中保持して育苗した。

 培地は、ピートモス又はココナツハスク(成熟ココナツ果実の中果皮の粉砕物から粗繊維を除いたもの)を基本培地とし、容積割合は約50〜70%とし、水分調整用にパーライト又はバーミキュライトを用いた。この培地は軽量な苗木を作るために、通常の培地に多く含まれる畑土や山土・鹿沼土等をほとんど使用していない。その結果、ケヤキは苗高が250mlコンテナでは42±20cm、150mlコンテナでは28±19cmの苗が得られ、ハルニレも同様に良好に育成できた。しかし、コナラやヤシャブシでは、成長が不良となった。成長が旺盛な樹種に合わせた潅水を実施したため過湿となった可能性が高い。また、苗木出荷時の保存性を検討するため、コンテナから取り出した苗を、CTM苗木保存箱に入れ室温4度の保冷庫で3〜18日+室温2日間で保管後苗畑に植栽したが、活着率は98%以上であった。造林用苗木となる規格を仮に、ケヤキで苗長30cm、コナラで20cm、ヒノキで30cmとした場合、250mlコンテナの得苗率は、ケヤキで71%、コナラで50%、ヒノキで50%であった。 現在一部の苗は、マルチ処理の上林地に植栽試験中です。又14年度は樹種を増やして試験中です。



3 参考文献とURL
 なお、マルチキャビティコンテナの育苗については、次の文献とURLを参考に試験を開始しています。
遠藤利明他(1998)マルチキャビティコンテナによる国産樹種苗の育成試験.日林論109:451-452
中平康子(2001)主要造林樹種の育苗技術の確立−イスノキ・シャリンバイの育苗試験.沖縄県林試業報12.13-14
森林総研・造林機械研究室・遠藤利明「造林、緑化におけるコンテナ苗の利用」
 http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/zoki/planting/Endo_rep.html

(海外レポート)
垣間見たフランスの森林と管理
     長池卓男(山梨県森林総合研究所)

 6月半ばにフランス・ナンシーで開催された、第4回国際森林植生管理会議に参加・発表する機会を得た。この会議のエクスカーションで、フランス中部から南部の森林を見学したので簡単にご紹介したい。短期間の滞在であるため、私の理解不足や誤解もあるかもしれませんのでご承知おき下さい。
 Coppice with standard(点状に保残した個体で大径材を得、開いている空間では薪炭林施業を行う)が長く行われた森林の皆伐地に、ナラ(Qurcus petrae)を植栽した林分を見学した(写真1)。

   写真1:ナラ植栽地の筋刈り

20年前は、10000本/ha植栽であったが、苗木コストの低減をはかるために現在は2500本/ha植栽となっている。下刈りは、筋刈りを行っており、15年間で6-8回行われるそうである。筋刈りを行う理由としては、全刈りはコストがかかること、筋刈りの方が誤伐が少ないとのことであった。枝打ちは行わず、非常に高価値なベニア原木を将来的に数本収穫できれば良いという管理方針であった(150年回帰)。なお、保育間伐(pre-commercial thinning)で伐採された材は薪にするそうだ。フランスでは大都市を除いて、冬の暖房は薪を暖炉で燃やすというのが一般的なようで(写真2)、coppice with standardが今も機能している林分も多く見た。

   写真2:薪は重要な暖房源

 Troncaisというナラを中心とした森林公園(といってもきちんと森林経営は行われている)では、フランスで最古のナラ人工林(300年生)を見学した(写真3)。

   写真3:300年生のナラ人工林

ここは地力が悪いために、成長速度が遅く、そのために高価値の木材を得られることで有名だそうだ。ただ年平均生長量は最近増えているそうだ(これは地球温暖化の影響かもしれないと参加者から指摘があった)。また、この公園内の林道の至る所で、車に積んできた椅子、机を持ち出して、読書したり、お茶を飲んでいる光景が見られた。ちょうどバカンスに入る時期であったこともあろうが、とても優雅な感じがした。

 南部のCausse du Larzacでは、人工林になる前は、牧草地であったと考えられているPinus nigra人工林へのブナ(Fagus sylvatica)の侵入に関する試験地を見学した(写真4)。

   写真4:マツ人工林内へのブナの侵入

天然に更新したツゲの一種の近くでは、ブナの更新が旺盛であり、それは、ヒツジによる採食からの逃れられることが示されていた。この試験地は、長さ4km、50m間隔で10×10mの調査区が設置されていた。ちなみに、ここは年平均気温15度、年降水量1000mm(夏季には50mmほどしか降らない)と、乾燥地にブナが生えているといった感じで、日本のブナとは違うたくましさを感じた(写真5)。

   写真5:こんな所にブナが

 地中海沿岸のLub_ronでは山火事頻発地における森林管理について見学した(写真6、7)。

   写真6:地中海性気候の山火事頻発地(自生しているQuercus ilex)


   写真7:雨水を貯めて防火水槽へ

ここの年降水量は1000mmだが、この雨はたった数日間で降るそうだ。低木が多く繁茂するところは、山火事発生の危険度が高いため、なるべく伐採するようにしているが、そのようなところは鳥類を含めた野生動植物の重要なハビタットであるため、その調整が難しいとのことをきいた。また、第二次世界大戦中は、ドイツ軍がレジスタンスを追い払うために火を付けたそうだ。僕は地中海性気候と聞けば、山火事を連想してしまい、フランスでもさぞかし多くの研究者がいることと思っていたが、フランスではほんの数名しかいないそうで、それには、アメリカ・カナダの研究者も驚いていた。
 さて、フランスと言えばワインだが、エクスカーションの途中で著名なワイン産地のブルゴーニュ地方も通過した。そこの小さな地ワインさんの話によると、ワインに不可欠なコルクに関して、そのほとんどはポルトガルから輸入しているが、近年のワイン生産量の増加にも関わらずコルクの生産量は増えないので、コルクの質の低下が著しく、良いコルクを手に入れるのに苦労しているそうだ(写真8)。

   写真8:おいしいワインになーれ!

 海外の研究者に、「日本の家は何でできているのか?」とよく聞かれ、それには「木だ」と答えてきた。しかし、構造材は確かに木材が多いが、それ以外での木の用途はどうなのだろうかと考えてしまった。今回のフランスで見た感じでは、石造りの家ではあっても、暖房用の薪、内装、窓枠等(コルクも)、フランスの方が密接に木を利用して生活しているように思われた。もちろん、そのことが、森林管理に反映されていることは間違いないであろう。
 今回の会議やエクスカーションの他の見学地についてご関心のある方は、近日中に発行されるIUFRO-Jニュースもご覧下さい。

編集後記
「森は海の恋人!」をキャッチフレーズに、全国で沿岸漁民の植樹活動が盛んに取り組まれている。昨年度で、その数は、29道府県131カ所に及んでいる。我が業界としては、漁業者が森林の重要性を認識し、率先して森林整備に取り組む姿に共感すると同時に、極めて複雑な思いに駆られる。そもそも、漁業者をして、植樹活動に駆り立てるものは、河川流域の環境の悪化が、沿岸の漁場環境へ悪影響を及ぼし、漁獲の減少につながっているとの危機感である。言い換えれば、漁業者の林業者への不信感の現れである。林業者が適切な森林管理をしていれば、素人の漁民が山に入り、木など植える必要など無かったと。実際、漁業者の植樹活動の多くが、目的にそった形で、適切かつ効果的に行われているとは言い難い。このことを漁業者の植樹活動に指導的な立場にある人に話す機会があった。彼は、「植樹活動が、即、漁場環境の改善につながるかどうかは別として、漁業者の環境問題を考えるキッカケとなっている。そのことが漁民にとって重要なのだ」と言う。これは、本来、森林整備を漁民を含め下流の住民に対し、責任を持って行うのは、林業者ではないかとの問いかけではなかったろうか・・・・。森林の公益的機能の能書きを語り、税金(補助金)をせしめることばかり考えてはいけない(狢)。


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