木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.20 2003.5.12.
Newsletter of the Forest Management and Research Network




シンポジウム「緑のリハビリ・癒しの林学」で、布石は打たれた!
シンポジウム報告

          成松眞樹・丹羽花恵(岩手県林業技術センター)

(シンポジウム会場を埋める100余名の参加者)

森林施業研究会(代表:渡辺定元)主催の第8回森林施業シンポジウムが、第114回日本林学会大会(岩手大学)期間中の3月30日に開催された。シンポジウムでは、今回のテ−マ「緑のリハビリ・癒しの林学」に沿って、以下の5件の話題が提供された。
(1) 魚を育てる森林づくり−水辺林の再生と修復−
      北海道林業試験場     長坂 有
(2) 世界遺産周辺地域の自然林の再生と技術的な問題
      森林総研東北支所     正木 隆
(3) 人工林の皆伐跡地における自然林の再生
      徳島大学         鎌田 磨人
(4) 富士山再生
      NPO富士山自然の森づくり 渡邊 定元
(5)広葉樹の植栽導入における生態遺伝学的諸問題(問題提起)
      森林総研         金指 あや子

 長坂有氏により、伐採や河川改修により天然更新が起きにくくなった河畔において実施した「かき起こし」による河畔林再生(天然更新促進)試験の話題が提供された。
試験が行われた場所は、主にオオイタドリが優占する疎林地で、種子の侵入・稚樹の発生・生存・生長といった更新状況が追跡され、併設された植栽試験区(カツラ・オヒョウ・ミズナラ・イタヤカエデ・ハルニレ・オニグルミ・ヤチダモ)においても稚樹の生存・成長状況が追跡された。その結果、種子の侵入は、豊作年であったカツラ・ハルニレ・オノエヤナギ等に多く、稚樹の発生は、表層の含水比が高い場所で見られたが、乾燥した砂礫地では見られなかった。発生した稚樹は、回復し始めた草本の庇圧を受け、5年後にはほとんどが消失した。かき起こし時に砂礫の盛土をした場所では、草本の回復が遅れた為、カツラ等が庇圧を免れ、5年間で2m余りに成長し、植栽された樹木も良好な生長を示した。
 以上のことから、樹木の発芽に適した表層土壌水分があり、草本が侵入しにくく、光条件が確保できる環境があれば、天然更新成功の可能性は高まると述べられた。また、自然の洪水撹乱がもたらす微地形形成は、上記の条件を満たす環境形成に重要であると述べられた。

正木隆氏は、白神山地において、スギ不成績造林地を隣接するブナ林に再び復元するのに要する期間を格子モデルによりシュミュレーションし、どのようにして自然林再生に取り組むかについて述べた。まず、ブナ林とスギ人工林の構造・種組成等を解析し、「スギ人工林の中はどのような状態か?」を、続いて、ブナ種子の散布調査により「ブナの種子はどこまで届くか?」を示した。これらの結果と、若齢2次林・高齢2次林・老齢林の林分の動態をモデルに組み込み、スギ人工林(面積約5ha)と大面積の保護林からなる景観構造を想定して、人工林がブナ林に回復する過程をシミュレートした。シナリオとしては、「(1)スギ人工林を放置した場合(2)ブナの前生地樹を被圧するスギのみを伐採した場合(3)皆伐してブナ稚樹を植栽した場合」の3つを仮定した。その結果、人工林がブナ林に再生するのに要する期間は「(1)で800〜1000年、(2)で400〜500年、(3)で500年程度」であると述べた。(1)・(2)の結果から、再生に要する時間はブナ前生稚樹の密度や有無に依存しているのだろうと考察した。また、(3)については、ブナを一斉造林すると100〜200年ほどで一旦ブナ林が再生するように見えるが、その後植栽木がほぼみな同時に死亡率が高いステージに達したためにブナの優占度が急激に落ち込み、結局は(2)と同じ500年近い時間を要したのだろう、と推定した。
 正木氏は、シミュレーションを活用する利点として、一見よさそうなブナの植林が必ずしもブナ林の再生を劇的に早めるとは限らない、など予想外・あるいは未知の情報を得られることを挙げた。しかし同時に、完璧なシミュレーションモデルはありえないことも述べ、自然林を再生するには「結局、やりながら考えていくしかないのでは…?」と提案した。

 鎌田磨人氏は、徳島県の皆伐跡地で行われている広葉樹植栽事例の紹介を通じ、客観的な評価に基づいた自然林の再生について報告した。氏はまず、復元目標植生の明確化が重要であると述べ、一方で植栽作業実行前の調査が不十分であったり、地域外の種子や苗木を復元に用いている(これは後の金指氏の報告にも関連する)事例が有る現状を指摘した。
 これに対し今回の事例では、植栽に先立って植栽予定地(以下「現地」)で種子散布・埋土種子・萌芽発生状況・過去の土地利用形態について調査を行い、現地の「自然回復ポテンシャル」を推定した。同時に、現地の地形調査によりゾーニングを行い、前述のポテンシャル及び住民側の希望を併せ、植栽計画を立てた。植栽後も調査を継続し、骨格樹種を残してブナ林へと育てていく予定である。
 今回の植栽は公共事業(千年の森づくり推進事業)で行われているが、地域の住民と合同で推進している点が注目される。具体的には、住民による種子採取及び育苗(マルチキャビティコンテナ使用)で得た苗を現地に植栽している。これらの活動について、住民と行政担当者が参加したワークショップを随時開催し、意見交換を行って推進している。氏は、ワークショップ及びその後の活動の効率的な運営には、行政の補助金を用いてプロのコーディネーターを参加させることが重要であると提案し、報告を終えた。

 渡邊定元氏は、富士山で行っている自然林再生事業に関して報告した。
 実際の活動はNPO団体が中心になって行っている。長期的な活動には具体的な目標が必要だが、本事例も超長伐期、長伐期、短伐期に分けて、はっきりした森作りの目標を定めることで活動意欲の継続を目指している。植栽や管理等の作業は、月一回のボランティア活動で行っている。参加者の作業に対する理解を深める事を目的に、作業前に「森作り教室」を開講し、樹木社会学、森林生態学等に基づくテーマで参加者にレクチャーを行っている。標高別に設定された現地の現存植生はいずれも異なるが、このうち1230m地点では、極相高木樹種下に侵入する高木性樹種はキハダのみである。そこで、極相を構成する高木性樹種の植栽が必要となる。植栽に際してはパッチ状植栽法を採用している。これは長さ40mのヒモで作った円内(ブナ高木のキャノピーの外周長に相当)の中心にブナを植え、ブナの周囲にミズナラ、ヤマボウシ、オオモミジ、ヒメシャラ及び希望する樹種を植える方法で、2次林では侵入が困難な樹種の導入を目指している。また、獣による食害防止と伸長成長促進を目的に、植栽した苗はヘキサチューブでカバーしている。氏は「ブナは林系が安定しないと更新が始まらない」とし、報告を結んだ。

 金指あや子氏は広葉樹の植栽導入による遺伝的撹乱に関する現状報告と提言を行った。
 氏は、最近巷間に流行する生物種多様性の維持に関する発言の中で、遺伝子レベルの多様性と維持まで考慮した議論は少ないと指摘。既存の遺伝子集団への他遺伝子混雑は、地域集団の崩壊、多様性の崩壊を招く危険性が有るとした。具体的に、「茨城県における広葉樹苗木供給の7割強が、生産者不明、行き先不明」との一例を挙げ、現状を2つの問題点に集約した;(1)由来不明の台木・種子(2)配布区域の制限が無い→水源涵養林への植栽→水系を通じた撹乱の波及懸念/
 続けて、天然生地域集団の持つ遺伝的な重要性を、その集団が辿った多様性の歴史を反映している為と述べ、異地域からの導入が遺伝的多様性を直接歪めると警告した上で、暫定的な2つの解決方法を提案した;(1)林業種苗法による配布区域の設定において、広葉樹も対象にする(2)林木育種事業の育種基本区を見直す/
 氏は、森林管理署による採種・育苗・配布と、流域単位への配布を理想としつつも、需給見通しの困難さ故に、実現は難しいとの考えを述べた。更に、この様な状況下で無理して(由来の怪しい)広葉樹を植える必要が有るか?と問題を提起し、最終的に求められる、「遺伝的根拠に基づいた客観的な配布安全区域」がまだ設定されていないので、関係者で指針を作って行く事が困難だけれど重要だと述べて結んだ。
キーワード:○適地適木 ○現地調達 ○多夫多妻 ×産地偽装


(熱心な討議が繰り広げられえた)

報告の後の総合討論で行われた質疑・応答の概要は以下の通りである。(Q:質問 A:回答 C:コメント)
[植えるか戻るか?]
Q. 伊藤(宮崎大学);植えるか戻る(す)か?を如何に判断するか?現状(実生の有無や量)と目標到達レベルで異なると思うが・・・。また、戻る場合は何年くらいで戻ると判断するのか?
A.渡邊;安定的に推移する状態になるのは100年以降
A.長坂;早急な河川生態系の保全が求められており、とにかく早く! →植栽
C.大住(森林総研関西);何を目標にするのかで異なる。例えば生態学的な回復なら、ブナが回復しても、コナラやイチイ等の回復には更に時間が必要である。
A.早田(徳島県徳島農林事務所);住民の意向を尊重、とにかく早く! →植栽
C.正木(森林総研);(例えば)パッチ状植栽法はキメ細かいので、大面積での実施は困難
→対象地の空間的スケールにより手法を選択する必要が有る。

[広葉樹植栽と遺伝子撹乱]
C.;日本産広葉樹で分子マーカーを用いた系統解析を行うことを提案→そのデータが指針の根拠になる?
C.金指;指針を作っている間に無法な植栽が増えるので、とりあえず現行法の改正での対応が望ましい。
C.鈴木(森林総研);国有林なら制度的に対応が可能、市民を含めて関心を持つことが大切である。
C.渡邊;富士山での事業では、他地域からの苗木移入を拒否。使う種子や苗は現地で自分達で確保している。
C.;都道府県レベルで里山再生事業を行っているが、広葉樹の画一的植栽が見受けられる。植栽の参考になるようなモデルが欲しい。
C.大住;立地(林分の成立プロセス)が異なる場合には、モデル適用の有効性が疑問である。逆に、元の形と異なっていても、結果的には自然が自律的に再生していく場合も有る。

最後に渡邊代表の総括と報告者のコメントでシンポジウムを締めくくった。
渡邊;これまでは、物質循環、機能に関する研究がメインだったが、今後は本日の主題である「生態的管理研究」即ち生態系の構造研究を通した具体的な手法を提案していきたい。
長坂;更新できるサイトと生残できるサイトは異なる場合があるので、ただ植えても駄目(ギャップが出来るだけでは更新できるとは限らない)。
正木;種の耐性特性、更新特性を取り込んだモデルの構築により、実践的な生態系管理モデル作りを目指す。
鎌田;潜在植生構成種の決定と再生には、立地環境マトリクスや組成表の作成による現状とポテンシャルの把握に基づいた、客観的な植栽が必要である。今回の事例は、地域作りと自然林再生の組み合わせを評価したい。
金指;地元産再生苗木導入による遺伝的撹乱の抑制は、地域集団を守る為であることを明確にする必要が有る。


<シンポジウムへの意見・感想>
森林に関する知見を共有することが重要!

     早田 健治(徳島県徳島農林事務所) 

 「千年の森」整備でお世話になっている徳島大学の鎌田先生から、この会の存在を知り、ホームページの趣意書をみて、ますます興味をそそられ、今回、晴れてその実態に接することができ、大変感謝しております。特に今回は、岩手のおいしいどぶろくと海の幸、山の幸も味わうことが出来、関係者もみなさまには大変お世話になりありがとうございました。
 森林には、わからないことがいっぱいですが、愛情を持って観察すれば、必ず何かを教えてくれることと思います。そして、その結果をそれに関わる皆さんが共有していくことが重要だと思います。森林施業研究会のますますのご発展をお祈りいたします。
 さて、研究会の内容ですが、北海道の長坂さんからは、人工的に副水路をつけた渓畔裸地の植生回復の経過について報告があり、稚樹の発生時と、成長時の環境ステージに大きな違いがあることが示唆され、たいへん興味深い内容でした。森林総研の正木さんからは、一定の条件を基にしたブナ林再生のシュミレーションが示され、楽しく聞かせていただきました。長いスパンを考えると何をやってもいっしょともいえますが、現実の林分では、最終林型を想定するよりむしろ、いかに早く環境を改善し、生態系による自律的回復を支援できるかが、技術者の任務だと思います。徳島大の鎌田先生については、手前味噌になるので省略しますので、是非一度現地をご覧いただけたらと思います。渡邊先生からは、NPOによる富士山の植生回復に関する活動が報告されました。森林の再生には多くの労力と資金が必要であり、多くの市民の理解が不可欠だと考えています。その、実践事例として、我々も参考にしたく、是非一度現地を見学させていただきたいと思っています。紙上をお借りして申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。 最後に森林総研の金指さんからは、産地が不明の広葉樹苗木の流通による遺伝子攪乱に対する危惧が報告されました。正に重要な課題で、確実に方向を示していく必要があると思います。治山事業としての広葉樹林造成は今後とも拡大していくと思われ、各地域で、採取源が確実な苗木供給体制を確立する以外に解決の方法はないと思います。徳島県では、コンテナによる広葉樹苗木生産技術がようやく定着しつつあります。各地での地元林家等による広葉樹苗木生産体制の整備が自ずから問題を解決していくのではないかと思います。
 浅学の身を省みず感想を述べさせていただきましたが、今後は、会員として森林施業の改善について活動させていただけたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。


癒される時はいつ?
     阿部 みどり(新潟大学大学院)

農学部の林学を学びながらも、生態学の世界に浸っていた大学院生です。施業研究会には何度か足を運びましたが、今年は多様な顔ぶれが見られたように感じます。特に「遺伝的撹乱」については、今まで林学にふれた事がない方にとっても興味深いテーマであったと思います。多分野の方が問題意識を持ち、施業研究の新たな視点になる事、心強く感じました。

今回のテーマは「緑のリハビリ・癒しの林学」でしたが、更新初期から長い寿命での個々の樹木の生活史をうまく利用、もしくは、モデリングしている研究が多いと思いました。また、「癒しの林学」とのことですが、新しい林学用語を得た一面もありました。たとえば、「立地条件」とそこに進入する樹木の生活史戦略等を、「立地ポテンシャル」と「回復ポテンシャル」という言葉で置き換えることで、「森林再生」をよりスケールアップしてイメージすることができました。スケールアップして考えていると、第6回森林業施業研究会の伊藤さんのGISの話での「撹乱ポテンシャル」を思い出しました。これらの要因を合わせればさらにマクロに考える事ができます。正木さんのモデリングの結果では、人工林がブナ林に再生するまでには800年かかるとの事でした。非常に長く、気が遠くなりそうですが、ブナの長い寿命を考えると必要な時間なのかもしれません。森林生態学は数百年以上の長いタイムスケールを取り扱っているため、長期間に及ぶのは当然の事であると思います。森林の再生技術は非常に大きなタイムスケールを取り扱うため、「やってみないとわからない」かもしれません。戦後の一斉造林の時と同じ考え方のように聞こえますが、一方向を向いていた当時の主眼と今とは大きく異なると思います。

今までの施業研究会の実績、これからの実績をもとに、多視点からなる基盤を築いてくださることに期待します。基盤を整備した上であれば、「やってみてもいいのでは?」と思います。森林管理の技術とはかけ離れるかもしれませんが、癒しの再生林もあれば、木材生産の場も必要です。今後の森林施業技術は、非常に多くの視点、たとえば、遺伝子から景観という空間レベルやタイムスケール、このような生態学的な視点に加えて、地方独特の気候や林業経営、経済での問題点・・・多くの視点が必要になると思います。今の林業経済について考えていると、正直なところ気持ちが癒されません。そのためには施業以外の問題が多く介在するのですが・・・。

今回の研究会は時間の制約があり最後まで参加することができなかったのですが、次回も是非参加させていただきます。


どんな林学研究をやれば「癒される」のだろう?
     星崎 和彦(秋田県立大学)

 今回はシンポジウムの前夜に行われた懇親会にも出席した。シンポの前に、聞き及んでいた以上の懇親会の盛り上がりに驚かされ、同時に県レベルでは様々な事業が展開されつつあり、事業の現場から研究サイドに大きな期待があることが窺えた。現場レベルに活動拠点をもつ大勢の方々は活発で、いい意味でショックを受けた。大学に所属する研究者としては現場にどういったモノを還元させられるのか再考しないといけないと思わされた。
さて今回のテーマ「緑のリハビリ・癒しの林学」とは、なんとも気にかかるコピーであった。森林再生がテーマなので緑のリハビリというコピーはで理解できるが、では癒しの林学とは?どんな林学研究をやれば「癒される」のだろう?そもそも癒されるのは私たちなのだろうか、自然なのだろうか?この点には多くの方が関心をよせていたのではないだろうか。
 個々の講演は、基礎データに立脚した応用的研究(長坂氏、正木氏)、市民との共働の重要性(鎌田氏、渡邊氏)、ベストな森林再生事業の実現の難しさ(鎌田氏、金指氏)といった具合にまとめることが出来ると思う。個別の講演に対する感想(と会場で出来なかった質問のかわり)として、ここでは正木氏のスギ不成績造林地の実態と東北地方の広葉樹林の林分調査データをもとに構成した空間動態モデル、植栽事業における遺伝子汚染問題に触れてみたいと思う。
 東北地方の不成績造林地がブナ優占林に回復するまでに必要な年数をシミュレーションで計算すると、現在の状態を放置するとブナ林回復までに800年、ブナを植栽しても500年程度は必要であるという。モデルの不確実性について議論もあろうが、各地で森林動態の基礎データが得られつつある現在、正木氏のような思い切った解析に取り組む必要がありそうだ。しかしながら、私自身を含めてこれまでは自然林の森林動態の基礎データを中心に調査してきた感があるが、人為撹乱跡地の動態に関する基礎データはまだまだ不足気味なのではないだろうか?
 金指氏からは植栽事業における苗木の生産表示の不透明な実態と制度上の問題点が指摘された。茨城県の場合広葉樹苗木に関しては2割しか苗木の産地が不明であるという事実に大変驚かされた。その点、鎌田氏のグループではGIS的な手法による植栽樹種のゾーニングと種子の産地が流域単位で細かく限定されてる点が印象に残った。
 遺伝子汚染の対策を自然再生の現場で反映させるにはどうすればよいのか。講演を聴いて、私は研究と現場との乖離のようなものも感じた。移入種が生態系に与えるインパクトが現実の問題として指摘され、各種の事業において考慮が望まれる中、どの範囲の苗木ならよいのか、すなわち遺伝的撹乱の実害が出るスケールとはどのくらいなのであろうか?自然再生事業ならともかく、家庭単位の庭木管理まで問題視されてしまうのか?シンポジウム参加者の皆さんにも様々な感想があったことと思う。
 おそらく、自然再生の主体である行政やNPO、種子採取や苗木の育成に携わる業者のほとんどは、どうしたらよいか解らないまま、また遺伝子撹乱の実態を知らないままに「再生事業を行う」ことに意義を見出ざるを得ないと思われる。専門家サイドの組織的対応の必要性を感じた。技術的困難はあろうが、分子生態学の学会発表が流行している中、アウトプットの比較的はっきりした命題であれば、行政や種子採取や苗木育成に携わる業者の方々が参考に出来るガイドラインの策定を農水省等のプロジェクトとして試みてはいかがなものだろうか。
講演を思い出しながらシンポジウムの成果を自分なりに総括すると、研究から事業に至る各プロセスにおける段階どうしが互いにフィードバックしあったときの効果については非常に示唆的であったと思う。その意味で、シンポの参加者はそれぞれの興味や業務において役立つものを得られたのではなかろうか。おそらく、企画者の意図はここにあったのであろう。
 その反面、時間の制約のために、どうすれば研究から事業までスムーズな交流が図られるかという点に関して議論が満足にできなかった気がする。鎌田氏は事業に当たって特に重要なこととして市民、行政、苗木関連業者、研究者の間の合意形成を指摘し、その上で回復目標を明確にすることを強調された。おそらく現場の人たちにはそれらがもっとも難しく、かつ関心のあるところであろうが、この議論が不十分に終わったのは今回のシンポで唯一残念な点であった。午前中に5人の演者というタイトなスケジュールは今後の検討課題にしていただきたい。
しかしながら私の頭の中で、会場で議論しきれなかった"まとめ"が熟成されてきつつある(思い込みに満ちた状態だが)。個人的には、自分の頭で全体の方向にあわせて講演内容を総括できたシンポというのは久しぶりである。この満足感は取りも直さず、各講演の内容の充実ぶりと企画者のテーマ選定のセンスのよさの"合わせ技"の所為であろう。緑のリハビリによって癒されるのは、森林そのものだけでなく、むしろ森林を何とかしたいという気概のある、現場から研究者までひとつらなりになった大勢の方々であったようだ。今後もこのようなデータ主義的かつ現場主義的な、"お腹いっぱい"になるシンポジウムの継続を望みます。


熱気が満ちていた研究会
     山田 耕司(青森県農林総合研究センター林業試験場)

 研究会には、今年が初めての参加になります。林学会にも学生時代以来(十数年)の参加でした。研究会の部屋に遅れて入ったとき、「ほかの部屋とは何か違う。」プロジェクターをみる熱心な沢山の人で部屋がいっぱいで少しびっくりしました。
 発表の内容もある一定の方向性を持って、共通するテーマがそろっており、林学会の中で最も印象に残ったセッションでした。中でも、ブナ林が成立するには、100〜1000年のオーダーが必要であるというシミュレーションは、最近盛んなブナ造林について考えさせられました。また、「広葉樹の植栽導入における生態遺伝学的諸問題」では、遺伝学的に植栽木導入はどの範囲まで許されるのか早急な解明が必要なのだと改めて感じました。
 施業研究会恒例の世話人会には参加しなかったのですが、大変盛況だったとのことですが、来年は是非参加したいと思っています。


(恒例の前夜祭:全国交流会は大いに盛り上がる)

余裕を持って森づくりを!?
     島田 博匡(三重県科学技術振興センター)

 今回初めて森林施業研究会シンポジウムに参加させていただきました。河畔林づくりや伐採跡地への自然林再生といったこと、再生にあたって目指すべき森林の状態やそのための手法などといった話題は私のような県の行政に関係するものにとって非常に興味深い内容でした。
 近年の息つく暇も無いくらいのスピードで進む行政改革の波のなかに林業行政も飲み込まれ、予算獲得のためにどんどん先を急いで新しい取り組みを行わなければならず、なおかつ、すぐに結果も求められるという厳しい状態が続いています。森づくりに関係する事業でも十分な議論や影響評価などもできず、とにかく突っ走って仕事を進めているような印象を受けます。そのようななか鎌田氏、渡邊氏の報告にあったような森づくりに向けて目標とする森林の決定、その決定のための調査、森づくり手法の決定、種子採取から苗木養成、植栽、市民参加の検討会や勉強会などを行うといった非常に息の長い、細やかな取り組みは今後の森づくりにとって、貴重なモデルケースとなるものでした。このような取り組みがその場所だけで終わってしまわないように、取り組みの成果を他の現場にも応用できるよう簡素なマニュアルにしていただければ、とても利用価値の高いものになるのではないかと思いました。
 また、近年、行政の事業やボランティアによる広葉樹植栽が非常に増えていますが、金指氏の報告のように植栽される広葉樹苗木の地域間移動による遺伝子撹乱がとても心配です。地域産苗木が確保できないし、地域産苗木の育成をしている時間も無いが、事業化されて予算がついているので、とにかく植えてしまわないといけないという現状がありますが、その背景にあるものは行政側の理解不足のほかに研究側のアピール不足もあり、日頃の力不足を痛感しているしだいです。まだまだ樹木遺伝子の地域間での類似性などの情報は不足している状態のようですし、林業種苗に関係する方々の生活にも関係してくることなので、非常に難しい問題ではあると思いますが、現段階で我々ができることは多方面に働きかけつづけて、世論をさらに高めることではないでしょうか。
 森づくりには非常に長い年月かかるものですし、人工林ではなく自然林を再生しようという場合、今現在の取り組みが今後未来永劫にわたって影響してしまうわけですから、より慎重な取り組みが必要であると思います。その時代の流れに取り込まれ過ぎないように、また、事業の枠にとらわれ過ぎないように、忙しいなかにも、もう少し腰を据えて森づくりということを考える余裕が必要だなと感じました。


緑のリハビリ・癒しの林学…その前に
     津田 吉晃(東京大学大学院)

 私は東大農・院のD1の学生です。毎年、学会最終日は林木育種関係の研究会に参加しているため、森林施業研究会には今回初めて参加させて頂きました。
 今回の感想を一言でいうと月並みな表現ですが“参加して良かった”ということです。
5名の演者の方の発表は、実践的な施業の話を聞く機会が少ない学生にとっては大変勉強になり、興味深かったです。
 特に金指さんの発表“広葉樹の植栽導入における生態遺伝学的諸問題”は直に私の研究と絡んでいるので、学生ではなかなか知り得ぬ“上の組織(=行政機関)”の話も聞くことができ、また発表後の質疑では色々な樹種での具体例の話なども聞くことができ大変参考になりました。
 以下、金指さんの発表に関しての感想・意見とさせて頂きます。
 感想・意見の前に、まず私の研究内容を簡単に紹介させて頂きます。博士課程では“ウダイカンバの遺伝的評価に基づく新しい森林管理の提案”というテーマの下、各地域の集団の遺伝的多様性(DNAマーカー・フェノロジ−調査)、地域内集団の遺伝的多様性、地域内集団の遺伝子流動(種子および花粉の飛散)の実態などを研究し、ウダイカンバを取り巻く生態系の森林管理法を提案できればと思っています(DNAマーカーを用いた各地域および地域内集団の遺伝的多様性については修論で研究)。ここでウダイカンバはご存知の通り、最近特に人気な優良広葉樹であるため、その天然林は常に伐採の対象となります。また現在の各地域のウダイカンバの生育地というものは、スギ・ヒノキなどの造林地により、本来あった姿(造林以前)から比べるとある程度狭められているようにも思えます。また最近では東北地方産の種子を北陸地方に植えるなどの産地を考慮していない植林の動きもみられるようで、ウダイカンバにも“遺伝子の撹乱”が危惧されます。そのために今回の研究会が私の研究と関係してくるわけです。因みに私の研究結果から、東北地方と北陸地方のウダイカンバの遺伝的多様性は異なることが示唆されているので、東北地方産の種子を北陸地方に移入させることは当に“遺伝子の撹乱”であると思われます。
 さて前置きが長くなりましたが、ここからが感想・意見です。私が特に関心をもっているのは、広葉樹の遺伝子の撹乱についてです。金指さんの発表を聞いて一番驚いたのは、行政機関に“遺伝子の撹乱”の重要性を理解してもらえないということです。これは彼らが生物多様性を理解していないことと思います。種苗会社の経済的な効率もあるのでしょうけど…。
 金指さんの発表にもありましたが、一般に生物多様性とは景観・生態系・種・遺伝子の4つのレベルから成る階層的な概念として認識されています(Noss,1990)。そのため、生物多様性の保全を考慮する際にもこれらの各レベルを軸にするべきと私は思います。例えば、絶滅危惧のトップランクに位置されている種では、“産地がどうの”という余裕は無く、種の保全に重点が置かれることもあるかと思います。しかし、我々が議題にしている広葉樹というものは概して絶滅危惧種ではありません。また、幸運なことに“広葉樹の植栽導入による遺伝子の撹乱”も活発化していないので、まだ補正・対処できる状態にあると思います。つまり我々には生物多様性の最少単位である“遺伝子の多様性”に着目した管理がまだできる、まだ間に合う、余裕があるのだと思います。そのため、“遺伝子の撹乱”が火種状態で大火になっていない今が我々研究者の正念場だと思います。
 ここで重要なのは、我々がどのように遺伝的多様性を評価すれば、“遺伝子の撹乱”が少ないより良い管理をできるのか、ということではないでしょうか?
 これまで遺伝的多様性は主にアイソザイムマーカーやDNAマーカーなどの分子マーカーにより評価されてきました。これらの情報は非常に有用ですが、それだけで十分ではないと思います。これらは中立な形質であり、遺伝要因にのみ基づいているからです。一方、葉の形態やフェノロジ−などは中立でない形質で遺伝要因だけでなく環境要因に影響されます。各地域の遺伝的多様性あるいは遺伝的特徴付けとして、今後はこのような中立な形質および中立でない形質の双方の評価が鍵となるのではないかと思います。特にこのような評価は比較的大きなスケール(○○地方・分布域全体など)での管理に有効だと思います。比較的小さいスケールでの管理なら、対象とする樹種の地域内集団の遺伝的多様性、繁殖構造(種子・花粉の飛散距離など)の把握も重要でしょう。このように分子マーカーによる遺伝的多様性一辺倒ではなく目的に沿って、多角的に遺伝的多様性などを評価できれば、遺伝子の撹乱に対処できるより有用な情報が得られると思います(と言いつつ、私は修論では分子マーカーを使った仕事しかしていない…)。
 この他にももっといい方法もあるかも知れません。そのようなことについて今後この研究会などでディスカッションできれば良いと思います。話が方法論になってしまいましたが、我々がどんなに頑張って研究して“遺伝子の撹乱”を抑えた森林管理を提案しても、それが現場に活きなくては意味がありません。ここは研究機関がデータをもって行政機関を押しまくるしかないのではないでしょうか?(学生なのでこの辺は何ともいえませんが)。
そしてそのような場面において、森林施業研究会のような大きな組織に研究者(機関)のバックアップをして頂けたら心強いと思います。

 以上、研究会の感想・意見というより、私の言いたいことを書いただけになった気がして非常に恐縮です。とにもかくにも広葉樹施業や遺伝子の撹乱という言葉を耳にする頻度が高くなり、また林学会、生態学会などでも遺伝的多様性に基づいた植物(木本も草本も)移入の提案に関する発表も見受けられる今日、今回の研究会で“自然林の再生”を軸に、5名の演者の方からの様々な事例をもとに多角的にディスカッションできたというのは非常にタイミングも良く意義があったのではないかと思います。今回は“広葉樹の植栽導入における生態遺伝学的諸問題”は問題提起でしたが、来年の研究会ではその実際の現場での具体例などが発表されると更に発展した議論ができるものと期待しています。
 今回の研究会のテーマ「緑のリハビリ・癒しの林学」
 いい言葉だな、と感じつつ、今回の研究会を終えて、我々若人の学生は森林に癒しを求める前にまだまだ色々と苦労しなければと再認識し、盛岡を後にしました。


歯切れの良い答えを期待したが・・・・・・・・・
     佐野 淳之 (鳥取大学農学部・演習林)

不肖「森林施業研究会」のことを鳥取大学乾燥地研究センターの山中典和さんに伺ったのは、昨年、森林総合研究所関西支所の大住克博さんのお世話で行われた「第2回コナラ属セミナー」の折りだった。何でも、あの渡辺定元先生を中心とした第一線で活躍されている森林研究者の集まりで、毎年合宿しての研修もあるらしい。

「今年の資金獲得は湾岸関連が狙い目!」というとんでもない表題が目に付いた盛岡での森林施業研究会の1枚のパンフレット。「キャタピラーの踏圧により土壌理学性が劣化した立地における造林技術の開発、着弾孔を利用したトンボ池ビオトープ空間の創出・・・」などとある。最初は何か別の裏紙に印刷されたのかとも思ったが、「当会とは関係ありません(森林施業研究会)」とあるところを見るとわざとらしい。表には「緑のリハビリ・癒しの林学」をテーマにしたプログラムのほか、百けん先生との問答が書いてある。「先生、癒しの林學と云ふのは、・・・負ひ目のある林學界が癒されるとか?」う゛〜ん、これは出席するしかない!と思わせたこのパンフレットの作者は知らないが、久々の諧謔が心臓を打った。

渡辺定元先生が東大北海道演習林長時代に私は北大の大学院生で、こちらが森林や樹木に関して何を吹っ掛けても先生は独特の言い回しで巧く説明され、その応酬が心地よかった。今回何十年かぶりに先生のご高説を賜り、早速質問してみると、最終的に「それは見解の相違ですね」という答えしか返ってこなかった。富士山でブナを植えていることを伺い、いきなり極相種を植栽しないで遷移初期種から植栽するのはどうなのですか?という問いだった。以前のような歯切れのいい答えを期待していただけに残念であった。

最後の遺伝子撹乱に対する問題提起には期待していた。鳥取大学演習林でも、過去に植栽された樹木が遅かれ早かれ遺伝子撹乱という問題を引き起こすことは明らかだからである。これ1つだけでもシンポジウムのテーマになるほどの大問題であるだけに、短時間でどのようなお話しをされるのか半ば心配していた。発表された森林総研の金指さんは、具体的な事例と法的な問題に焦点を当て、問題点を分かりやすくまとめられていた。しかし、これで終わりというのは、食前酒まで飲まされて閉店ですと告げられたレストランの客の気分である。遺伝子撹乱の問題はもとより、自然林の再生と修復に関連した他のテーマも今後ますます重要になってくることから、機会があればいろいろな形で論議していく必要があるだろう。少し景色でも見ながら考えて、これからの展開に期待していよう。


<特別寄稿>
葛根田川源流部の経験と岩手山森づくり協定

     白藤 力(葛根田ブナ原生林を守る会)


(葛根田川・玉川源流生態系保護地域の核心部)

 私は子どもの頃から山歩きが好きで、高校時代になってからも教室を抜け出し、山田線のとある駅から山の中を一日中歩いたりしていました。1970年代後半から、秘境の森を求めて、しばしば北上山地や盛岡市西方にある奥羽山脈の深山を探険しました。当時は急激に伐採が進み、すでに秘境の森などは幻のようになっていました。自然も社会も急激な変貌の時代で、私はその変化の方向に様々な疑問を抱いていましたが、自然そのものよりも、自然の中にある人間や社会に関心がありました。読む本はもっぱら社会科学関係でした。
 やがて葛根田川源流部にも行くようになりました。葛根田川は、中学2年の3月に、友人3人ほどと探険に行ったことがある思い出の山だったからです。長靴にわら縄を巻きつけ、バス終点から10キロほどを、残雪をかきわけて進みました。今思えば無謀な行動でした。それが今どうなっているだろう。さらにその奥にはどんな世界が広がっているだろうと思い立ったのです。自宅の盛岡から50ccのバイクに乗って、38キロほど走ると、葛根田渓流の道が尽きる所があります。そこから尾根を越え谷を渡り50回以上行きました。まるで暗黒星雲のような恐ろしい山でした。
 ところが1984年から林道建設がはじまり、1985年からは大規模な伐採が始まりました。作業員に聞くと秋田県境の近くまで進み、さらに対岸までも進むということでした。はじめは容易に信じられませんでした。行政に聞くと1986年からあらたな10年計画が始まるという。私が歩きあるいは歩こうとしていた森は、無残な姿に変わりつつありました。人知れず去っていった美しい森や湿地帯もたくさんあります。これでは葛根田川源流部の森は壊滅し、盛岡の東西の山脈から、深山秘境がまったくなくなると思ったのです。
 実際当時の山好きの人々はあちこちの山の惨状に強い不満を抱いていました。一方次のような傾向もありました。人々は営林署の作る林道や伐採地を追いかけるようになりました。山菜ブームの起こりです。ある山人は、そのうちネマガリタケのタケノコ取りもブームになるなどと話しておりました。そしてその通りになりました。
 林道や伐採地を追いかけ夢中になりすぎていたためでしょうか、原生的な森林に関心を寄せる人もなく、葛根田川源流部の森林を知る人もまったくといっていいほどありませんでした。
 私自身もかつてはブナ林という言葉を知りませんでした。岩手大学や盛岡市内の書店にも、自然保護や森林保護の本はなく、図書館で厚い林学の本も見ましたが、木材生産のことが多く、参考になる本はあまりありませんでした。それで東京の本屋まで出かけて、足が棒になるまで立ち読みし、その中から吉良竜夫氏と安田喜憲氏と佐々木高明氏の本を一冊づつ買いました。国有林のこともかなり分析しました。そして山歩きの好きな友人4人ほどで原生林研究会を発足させ、八百屋や釣り人や登山者や科学者に葛根田川源流部のことを呼びかけましたが、いっこうに進まず、ついに現地レポートを書いてマスコミを通じてアピールしたところ大きな世論が広がりました。その後守る会の結成を呼びかけ、私は事務局長と会長代行を兼任し、多面的な市民活動を展開し、その結果、1987年10月、林野庁は伐採計画の凍結を宣言し、その後葛根田川源流部は、森林生態系保護地域に指定されました。伐採面積は100ヘクタール、葛根田林道も3キロほどで済んだのです。


(反対運動で中止となった林道計画)

 当時の私には、もちろん林学だけではありませんが、林学も国の経済優先政策に無批判な傾向が強いように見えました。新しい方向を切り開こうとしている科学者もいることが次第に分かってきましたが、世論を全体として動かすことにポイントがありましたので、科学者との交流や行政との関わりは後回しになった、その余裕がなかったといった方がよいかも知れませんが。それは今でも続いています。もっとも営林署とだけは頻繁に取材し意見交換を重ねました。
森林をめぐる主要なテーマとして、第一に、原生的自然林保存の緊急性、第二に、木材生産林の将来展望、第三に、里山や落葉広葉樹林の保全がありますが、私たちはこれまで第一の問題に市民活動として取り組んできました。
 ところが昨年12月、私たち守る会は、盛岡森林管理署と「岩手山における森づくりと自然保護活動に関する協定」(略称・岩手山森づくり協定)を締結し、第二第三の問題にも取り組むことになりました。協定文作成にあたって一番注意を払ったことは、協定の目的を「森づくりと自然保護活動」としたことです。守る会の締結目的は、岩手山の多様な森と自然を未来に伝えること、市民参加の森づくりと自然保護活動に取り組むこと、森を支える社会システムの形成、それらの広報活動の4点です。そのため第二第三の問題にどのような問題があるかの検討に迫られていました。(詳細は、葛根田ブナ原生林を守る会のホームページまたは葛根田原生林からの通信または岳人2003.4月号を参照)。
 そうした折り、鈴木和次郎さんに紹介されて、「緑のリハビリ・癒しの林学シンポ」に参加し、驚きました。生態系をモデルとした林学が提唱され、いくつかの実践的取組みも紹介され、多くの研究者が参加されていたからです。守る会からも4人ほど参加しました。私には新しい時代を担う大変新鮮な提唱に思えました。一番驚いたのは、人工林にも天然林の動態を導入しようという提案が、真剣に分析され検討されていることでした。なぜ驚いたのかを一口で言うのはむずかしい。少なくともこれから市民活動が参入する場合の大きなテーマや目標になるのではないか。そこにはこれまでの林学における森林観の大転換があるように感じました。
葛根田ブナ原生林を守る会のホームページは、
http://morioka.cool.ne.jp/kakkonda/


<編集後記>
全く後味の悪い戦争だった。鉄砲に竹槍(正しくは精密誘導ミサイルに機関銃)。最初から勝負がわかっている戦争をTVでスケジュール通りに見せられては堪ったものではない。しかも、そこには実際に殺戮が存在し、非戦闘要員が巻き添えをくらう。片や侵略戦争に対する祖国防衛(イスラムの大義)、片や反テロ・民主主義(現代の十字軍)。イラクの独裁者たちとアメリカ帝国主義者たち、その狭間で「反戦」を叫びながらも、戦争を見守らねばならなかった多くの世界市民。アメリカ軍がイラクを占領し、アメリカ型の民主主義を根付かせよう(押し付けよう)としている。これをモデルに全世界に不変的な価値として、このアメリカ型民主主義を、力をもってしても定着させよう(世界を支配しよう)というネオコンどもの危険な主張が力を増しつつある。アメリカを軸とするグロバルスタンダードは、政治や軍事だけに止まらない。地球温暖化条約(人類共通の課題)を無視する一方、WTOでは貿易の完全自由化を求め、各国の社会経済文化を破壊する。彼らの言う国際基準とは、あくまでもアメリカの都合を優先するスタンダードでしかない。日本の森林・林業を守るにも、「反グローバリズム」以外に道はない(狢)。

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