木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.24 2004.5.7.
Newsletter of the Forest Management and Research Network


長伐期施業の可能性を探る!
2004年第9回森林施業研究会シンポジウムの概要

                    長池卓男(山梨県森林総合研究所)
 今年の森林施業研究会シンポジウムは「長伐期施業の可能性を探る」をテーマに、話題提供と活発な質疑が行われた。話題提供に先立ち、コーディネータの鈴木和次郎氏(森林総研)が趣旨説明を行い、「材価低迷等に伴い、長伐期への消極的(必然的)移行が進行している。それは、大径材・良質材生産の可能性と、生態系としての成熟さと安定性をもたらすことが期待される一方で、自然災害リスク等も考慮する必要がある」と述べた。話題提供は以下の4題である。
1.高齢級人工林の生長と成長予測:竹内郁雄氏(鹿児島大)
2.秋田地方におけるスギ人工林の長伐期施業:澤田智志氏(秋田県森林技術センター)
3.人工林の高齢大径化に伴う野生動物の生息場所形成:大場孝裕氏(静岡県林業技術センター)
4.長期育成循環施業の試み:石神智生氏(関東森林管理局森林技術センター)


「長期育成循環施業について話題提供をする石神氏」

1.高齢級人工林の成長と成長予測:竹内郁雄氏(鹿児島大)
 高密度植栽・多間伐による大径材生産で著名な奈良県吉野地方の100年生以上のスギ人工林での研究成果が主に解説された。これまで実測値のなかった伸長成長量は年平均5cm程度伸長しており、直径成長量も大径木ほど成長していることが明らかにされた。また、現在使用している密度管理図では、実際より材積が大分低くなることから、昨年度で終了した国補課題「長期育成循環施業に対応する森林管理技術の開発」の成果を基に再検討する必要があることを指摘した。さらに、今後の技術的・政策的課題として、林齢に伴う成長の変化を組み込んだ収穫表・密度管理図の調整や、最多密度曲線の適合性、現在のひずんだ林齢分布と今後の木材資源の供給体制、林業技術の継承、将来的に大径木が大量に供給された際に林業経営を維持できる価格体制等の検討を指摘した。

2.秋田地方におけるスギ人工林の長伐期施業:澤田智志氏(秋田県森林技術センター)
 吉野林業とは異なる天然資源依存的な秋田地方における長伐期施業について報告された。まず、長伐期化への問題点として、通常伐期から長伐期への転換に際しての技術的不合理性・育林投資効果等を指摘した。また、国有林では、「ポスト天スギ生産」へ向け150年伐期が目指されているが、目標伐期の実在林分がないため収穫表をどう調整するかという収穫予測の困難性も指摘し、50年以上、特に100年以上の成長傾向は未解明であると述べた。また、地位との関係で、地位の良好な林分は初期の材積成長が大きいが収量比数が高いと頭打ちになる傾向があること、地位が悪く収量比数が高い林分では50年すぎで定期材積成長量が減少することを明らかにした。最後に、樹齢255年の天然スギ(樹高48.5m、胸高直径136.6cm)の樹幹解析の結果、連年材積成長量が維持されていることを示し、長伐期高蓄積な林分を目指すのが林業本来の進む道ではないかとまとめた。

3.人工林の高齢大径化に伴う野生動物の生息場所形成:大場孝裕氏(静岡県林業技術センター)
 人工林における生物多様性を考慮する上で、キツツキなどの樹洞営巣種からみた長伐期施業の有効性について発表された。キツツキ類による生立木へのせん孔は、樹洞を創出し、キツツキ以外にも二次樹洞営巣種であるムササビ、カラ類、アオダイショウ、スズメバチ等が生息可能になることを指摘した。また、キツツキのせん孔は、せん孔性害虫を捕食するなどの利点もあるものの、木材生産面では採材率の低下や腐朽の進行も免れないことが報告された。スギ人工林におけるせん孔木の最小値は胸高直径36.9cmであり、穴の位置は平均9−11mの高さであった。枝下高が高い木ほど高い位置でせん孔されており、その方位としては北向きが多いことが報告された。また、野生生物に重要なハビタットである枯立木の管理として、残存する、巻き枯らしによって創出する、さまざまな腐朽状態が存在するように継続的に作り出す、虫害等のリスクを明確化する等が今後の課題として指摘された。

4.長期育成循環施業の試み:石神智生氏(関東森林管理局森林技術センター)
 主に1900年植栽のヒノキ人工林が生育する、筑波山複層林試験地における長期育成循環施業への誘導に関する国有林での取り組みが報告された。ここでは長期育成循環施業へ向け、モザイク的に20年ごとに8回に分けて(計140年間)分散伐採し、木材生産を目的とした人工林施業が行われている。低コストの作業道作設についても報告され、切土法面をできるだけ低くしバックホー等を用いた幅員3.5mの作業道で、経費は1098円/mであったことが発表された。また、2002年、2003年の更新保育をのぞいては直営で作業されたが、技術センターの半減や作業所廃止により今後は直営で作業できないことも報告された。野ウサギ被害対策としての漁網の再利用や、枝条埋設による暗渠の作設等随所の工夫が報告された。循環的な収穫段階である2142年の収穫は主伐1200万円、間伐648万円が予定されており、40年後の収入に希望を持って施業しているとまとめた。

 総合討論は正木隆氏(農林水産技術会議)の進行で活発な質疑が行われた。長伐期林での密度管理図の今後の調整については、まず最多密度曲線があっているのかどうかの確認、さらに地域ごとの調整が重要であることが回答された。また、地位指数曲線の適合性の問題に関して、拡散性の小さい曲線で当てはめること、林齢ごとで曲線を代えるという提案もなされ、また森林の状態によって地位が変わってきている可能性も指摘された。吉野における将来木を選択する基準に関する質問では、樹冠の形が重要であり、残存木の数倍の候補木を選び、その中から間伐段階で減らしていくと回答された。また、大径木の場合、台風等被害をうけて倒伏しても、価値下がらない品質になっていれば問題がないと言う指摘もなされた。さらに、現在問題になっている放置人工林を長伐期化することについては、列状間伐が一つの解決策になる可能性もあるが、間伐適期からの経過年数にもよるとの回答があった。

 最後に、渡邊定元氏は、長伐期施業を考える上で重要な原則とも言える収量一定の法則がどこまであてはまるか、着葉量に注目した個体管理をどのように行うのか、拡大造林期に植栽された人工林がもたらす林齢のピークをどう管理するのか、さらに林分のみならず流域単位で考えることの重要性、攪乱の再来期間の違いがもたらすモザイク施業の有効性等について指摘し、幕を閉じた。


「200年を越えるヒノキ・サワラ人工林」

<シンポジウムへの意見・感想>
大径木生産と林業再生の切り札としての長伐期施業の可能性に期待する

                    谷口真吾(兵庫県森林林業技術センター)
「日本林学会」の改称という歴史的な決定がなされた115回大会において、第9回森林施業研究会シンポジウム「長伐期施業の可能性を探る」が開催されました。
 私はここ数年間、70年以上のスギ高齢林における収入間伐をどのように行うのが合理的でかつ理想的であるかについて深く悩んできました。高齢級の人工林に関する成長などの林学的情報が不足する現状で、何か解決のきっかけがつかめるのではないかとそれこそ「藁にも縋る(すがる)思い」でシンポジウムに参加しました。今回の意義深いシンポジウムで考えたことを思いのままに記します。
兵庫県では現在、8齢級前後の壮齢林の蓄積が最大です。日本列島をすっぽり覆う、先の見通せない闇のような長い木材不況の中、兵庫県でも例外に漏れず、伐期延長により高齢級の人工林が増加しています。しかし、このような状況下でも、私は兵庫の林業を担う林業技術者のひとりとして、高齢級の人工林はこれからの施業や管理を工夫することで付加価値の高い大径木を生産することができると根拠は少ないが楽観的に考えています。つまり、他地域の高齢級の施業事例を参考に再度検討し直し、兵庫県では確立されていない高齢級での管理技術を兵庫県の森林・林業の実情に即したものに改良していくことの必要性を強く感じています。
このような中、シンポジウムは高齢級人工林の施業研究や実際の施業を全国的にも先導的に行われている4氏の示唆に富む4テーマの話題提供と渡邊代表の総括により、私なりに長伐期施業の可能性を地についた現実のものとして捉えることができたことはなによりの収穫でした。
竹内氏、澤田氏の話題提供の中でも考察されましたが、高齢級の森林施業にとって最も重きを置くべきことは、結局、密度管理であることが再認識されたこと、さらには渡邊代表の総括でも話題になった樹幹形の数値的な表現は合理的で直感的に理解され、大いに参考になりました。
壮齢林から高齢林に至るまでに何回かの収入間伐があります。長伐期林施業を考える上でいちばん大切な本数管理(密度管理)をどうするか、その結果として、高齢級における収入間伐のやり方が決まるというフローになります。スギ高齢林においては、収入間伐木の選木にあたり、現時点で言えることは、樹冠量(樹冠長、樹冠幅)の少ない個体と地際部の根張りの小さい個体を間伐対象木とするのが無難であるということです。
この選木の結果、収入間伐後の残存木はどの個体も樹冠が大きく枝葉の量も多いので、将来も持続的な成長が期待されます。このような林分は、150年あるいは200年伐期の長伐期林としてスギの優良大径材を育成することが経営目標になります。
私は、高齢木の成長量が低減しない最適な樹冠量を推定し、その樹冠量に至るまでの林分の本数密度の推移を検討する必要性を感じています。高齢級の林分においては、収入間伐後に適宜、林分の閉鎖状況に応じた幾多の収入間伐作業が欠かせません。つまり、多間伐施業です。途中、数回の収入間伐により、間伐の収益を得ながら伐期を延ばすことが高齢林の施業には欠かせない大前提となります。このような考えで施業を継続すればその結果として、大径木生産を目指した長伐期多間伐施業を進めることになります。
もちろん、択伐的な収入間伐後には樹木の配置に留意しながら、間伐前に立木の生育していた空間の伐採跡地に更新樹を植栽する複層林や広葉樹との混交林に誘導する施業はとても有効であると考えています。
これらの考えは、私がシンポジウムに参加して得ることのできた長伐期施業の可能性です。今からこの可能性のひとつひとつを高齢林の具体的データで考察、立証していくことが、貴重な知見を得ることができたシンポジウム終了後の私の密かな決意です。

なんとなく長伐期? 〜地元材流通に見る長伐期化の功罪〜
                    近藤 豊(東京都林業試験場)
 NHK大河ドラマ「新撰組」のおかげで、東京西部に「多摩」という地域があることが知られてきた。この多摩で、林業が始まったのは江戸時代から。「火事と喧嘩は江戸の華」と言われるが、大火事が発生した際、多摩川を使って木材を供給していた。短い周期で火事が発生すること、庶民の住宅が対象とされていたこと、足場丸太の需要が大きかったこと等から、30〜40年という短い伐期で経営が行われてきた。
 昭和40年代以降、足場丸太需要の減少から、若干の伐期延長がみられ、現在、11齢級以上のスギ、ヒノキ林の面積が全体の15%に達している。
 当林業試験場が、昨年夏、森林組合の生組合員500名を対象に経営意向調査を実施したところ、次のことがわかった。
(1) 消極的な伐期延長
約8割が、「木材価格の値上がりを待って」「大径材になってから」を理由に伐採を延長している。
(2) 伐採しても「植えない」
伐採後、「植林する」のは3割。残り7割は、「資金難」「自分限りで林業をやめる」を理由として、「植林しない」と回答。
 ところが、昨年夏から半年にわたり、地元木材市場で取引される木材の価格動向を調べたところ、次のようなこともわかってきた。
(3) スギはヒノキの半分の値
 取引のあったスギ4m材の平均末口径は26cm、1?当たりの価格は15,000円。同じくヒノキは、平均末口径22cm、価格は30,000円。よく言われる「スギはヒノキの半分の値」を裏付ける結果となった。なお、東京と全体でスギの蓄積が600万?、ヒノキが150万?と4対1の割合でスギが多くなっている。
(4) 人気の18〜20cm
 落札されない材の9割が、22cmより末口径が大きいものであった。
 阪神淡路大震災以降、住宅とくに集合住宅において、4寸角の柱材が好まれるようになっている。この柱材が取れる末口径18~20cmの丸太が高まっている。
もうひとつは、歩留まりの問題。径が大きくなると、用途が限られ、端材となる部分も大きくなることから、敬遠される。

 このあたり、鹿児島大学の竹内氏や秋田県森林技術センターの澤田氏から、「伐期を伸ばすことは、リスクを増大させる。大径材になったところで、本当に高い値がつくのだろうか?全国的に長伐期化する傾向がある中で値崩れを起こさないだろうか?」という疑問が投げかけられた。「そう、そう!」思わず、うなずいてしまった。
 成長量の変化、密度管理の方法、密度管理図の修正等、技術面の課題のほか、歪みの多い林齢構成、地拵えや植付け等の技術継承といった政策的課題も多い。
 昨年、江戸開府400年を迎えた東京。今後、どんな森林・林業が必要なのか、我々は何を森林所有者に示していくべきなのか、改めて考え直してみたい。東京大学からの帰路、そんなことを考えた。

長伐期施業の可能性」と地域性,これいかに?
                    國崎貴嗣(岩手大学農学部森林科学講座)
 いきなりお詫びから。私は森林施業研究会シンポジウムにほぼ毎年参加している が,今回は竹内さんの講演を聞いた後,訳あって別の集会に参加した。そのため,澤 田さん,大場さん,石神さんの講演や討論を全く把握しておらず,講演や討論と重複 した,もしくは矛盾した意見を述べるかもしれない。そのような私に投稿の機会を与 えて下さった鈴木和次郎さんに感謝するとともに,読者の皆様には若手教員の戯言だとご容赦頂ければ幸いである。なお,本文では長伐期を通常の伐期(50年とする)の 2倍以上の伐期と定義し,林齢100年生以上の人工林を高齢林と想定している。ま た,高齢林の林分材積(純)成長量の高水準として,十立方米/ha/年以上を想定し ている。
 唯一拝聴した竹内さんの講演によれば,高度な技術に基づく多間伐作業が施されて いる吉野のスギ高齢人工林では,200年生程度でも林分材積成長量が十数立方米/ha/年という高い水準を達成しているという。この事実に私はいたく感激した。というのも,吉野の育林は個体の肥大成長量の長期間維持(安定的維持)を主目的としているので,林分レベルの材積成長量はあまり高くないのだろうと想像していたからである(何故なら,同一立地環境,同一林齢,同一品種のスギ林では,林分材積成長量は林分葉量と正の関係にあるから)。ところが,間伐で林分葉量を減少させても,規則的な立木配置と弱度間伐により林冠を極端に疎開させない状態を継続しながら,同時に残存木の直径成長増加を促進させることで,吉野では高齢林においても林分材積成長量を高い水準に維持しているようである。そうだとすれば,個体レベルだけでなく林分レベルでも高成長量を達成する吉野式間伐はとてもすばらしい技術である。
 すばらしい技術であるのだが,地域が異なっても,この技術さえあれば同じ結果(個体レベルと林分レベルでの高成長量の同時達成)が得られるのだろうか。私の生まれ育った九州では,降水量が比較的多い反面,温暖で台風もよく接近する。そのためか,スギ人工林の林冠高(上層木樹高)はあまり高くない(学生時代,福岡,大分を中心に500林分以上のスギ林のデータを整理したことがあるが,林冠高30mを超える林分は珍しかった)。「100年生以上の高齢林で高い林分材積成長量を維持するためには,高い林冠高(100年生で30m以上?)の確保が必要なのでは?」という作業仮説を考えている私は,九州のスギ高齢林の多くで「個体レベルと林分レベルでの高成長量の同時達成」は難しいと予想している(九州のスギ高齢林の多くでは個体レベルでの高成長量のみを目指すべきという推論)。一方,私が現在生活している岩手(の太平洋側)では,降水量が多くないが,寒冷積雪地(春先の融雪水量と関係)である上に台風はあまりやってこない。そのためか,林冠高が30mを超えるスギ人工林はそれほど珍しくない(岩手大学演習林内にいくつも存在する)。こうした地域における高齢林の多くでは,吉野式間伐技術によって「個体レベルと林分レベルでの高成長量の同時達成」は可能かもしれない。とにかく,竹内さんの調査法を標準として,各地でスギ高齢林のデータ収集・解析をおこなえば,私の突拍子もない作業仮説の妥当性(浅はかさ?)はすぐに明らかになるだろう。
 次に,和次郎さんの趣旨説明でも出てきた気象害について。「高齢林は風雪害に強い」という見解を聞くことがある。これはしかるべき間伐を定期的に施して,樹幹の形状をある程度ずんぐりさせていれば(形状比を低くしていれば)正しい一般的規則性であろう。しかし,単に伐期を延長しただけの間伐遅れ林分であればあてはまらない。私が調査させてもらっている岩手のスギ高齢林(2004年で159年生)では,1979年(134年生時)から現在までに30〜40立方米/ha程度の冠雪害(幹折れ)が2回発生している(単純計算では12年に1回の頻度)。というのも,この林分は1979年以前の間伐不足で形状比の高い個体(形状比70以上の個体)が未だに多いからである(國崎,未発表)。また,寒冷地のスギ高齢林では凍裂被害を考慮する必要がある。安藤貴先生が岩手大学演習林で調査された事例(安藤,岩大演報23,1992年)によれば,林齢が高いほどスギ林における凍裂木の本数割合は有意に高くなる。先述の岩手スギ高齢林でも,凍裂木の割合は約10%にのぼる(國崎・若山,未発表)。元玉に被害の生じる凍裂は北海道や東北で顕著な現象だが,実は福岡や大分でもその発生が記録されているそうである(今川ら,森林総研研報371,1996)。スギ人工林の長伐期施業を推進される方々には,その地域における風害,冠雪害や凍裂等の気象害の発生リスクを検討しておいて頂きたい。
 以上のように俯瞰してみると(こうした俯瞰が正しいとすれば),少なくとも「スギ人工林における長伐期施業の可能性は技術論のみならず,立地環境の地域固有性をも考慮して検討すべし」という至極当たり前の結論になる。「なーんだ,それだけの結論のためにこんな長文を読まされたのか」とがっかりされた方には申し訳ない。しかし,現在注目されている密度管理等の技術論(施業)のみならず,[ 立地環境とスギ高齢林の成長との対応関係 ]の地域間差を現在の科学水準で類型化もしくは序列化する仕事(点を面にする仕事)も,長伐期施業の可能性を検討するためには必要不可欠だと私は信じている。各地域の人工林長伐期施業もしくは高齢林に関する情報は各都道府県の試験場を中心に着実に収集されているので,こうしたデータを森林施業研究会が主体となって集計・分析できれば,単に研究として面白いだけでなく,長伐期施業の可能性に対する現時点での答えも見えてくるのではなかろうか。

美しい高齢人工林に魅せられて
                    高橋絵里奈(京都大学大学院 森林科学専攻) 
私は吉野林業地の美しい高齢人工林に魅せられて、7年前からスギ・ヒノキ人工林の密度管理の研究をおこなってきた学生です。今回のシンポジウムは、まさに私が研究テーマにしてきた長伐期施業に関する内容で、研究の最前線で御活躍の先生方の講演と、長伐期施業に興味をお持ちの皆様の生の声を聞くことができる良い機会だと思い、楽しみに参加させていただきました。
シンポジウム会場は、ほぼ満席で、多くの方々が長伐期施業に関心を持っていらっしゃることをあらためて感じました。
長伐期施業の研究と一口にいっても、御講演につきましてはそれぞれに個性的で、密度管理のみならず野生生物との関わり、長伐期施業の森林の物質生産に関すること、ゾーニングをしての長期循環施業の研究などがあり、多岐にわたっての研究があることをあらためて認識し、研究トピックスとしての幅の広さを感じました。
討論の時間では主として竹内先生に質問が集中し、高齢林分についてはデータ自体が重要であり貴重であることを感じました。また渡邊先生のお話では、密度管理図の適用限界についてや、個体の成長と着葉量についての研究についてはまだブラックボックスであることが指摘され、今後の解決すべき課題が多くあることを感じました。
私としてはあらためて研究にやりがいを感じたとともに、長伐期に向けて現場が動き出している以上、研究者としても早急に成果を出すことが求められていることを強く感じました。とても良いシンポジウムであったと思います。

高齢級人工林は、だれに共感するのか?
                    時光博史(広島県林業技術センター)
さすが吉野には樹高50mを超えるスギが林立しているのだなあ,と竹内郁雄教授のお話を楽しく聞かせていただきました。このような高さは伝統のある林業地や熱帯林などの保護林でしか見られないのだと思っていたのですが,昨年50mのスギを中国山地の山陽側でも計測できました。樹高測定器は購入したばかりの新品で,同じ山で葉枯らし中の130年生のスギをメジャーで計測すると40mを超えていましたから,大きな誤りはないでしょう。感激でした。喜んで知人数人に話すと,楽しそうだねえ,と私の表情に関心をもたれてしまいました。感激のおすそ分けをしたかったのに,少し残念です。ある程度共通の情報を持つ者同士でなければ,共感が湧きにくいのでしょう。
そのスギ林に標準地をとると1,300m3/haという数値が出ました。教科書的には密度が高すぎる,と判定されるものです。山の管理をされている方は「間伐にもいろんな考え方があるからね」と密度の高い管理になっていることは意識されています。風害の心配はあるけれど小さくても深い谷にあることや,他に若いスギ・ヒノキ林が多くあることも考慮のうえのことのようです。若いヒノキ林の間伐は進められています。行政の仕事を担当していたときには,間伐が遅れている,とか,この場所は植えるべきではなかったのでは,などと口に出さないまでも考えます。表情を読み取られてしまうところでした。
研究員になった今は違います。間伐を進めるというテーマが今はある。過去に木材が貴重だったときには,伐期を短くしすぎないように,間伐の回数が多く強度が大となり過ぎないように示された収穫表があった。このように感じます。今は密度の低い林が少なく,過去には密度の高い林が少なかったのではないだろうか。伐採された林の後が全国同じように植えられなければ,そこにある植生の形が広がるのではないだろうか。施業,言い換えると森林と人とが関わる頻度は過去には大,近時は小,その幅は広いようです。
このような日本の中で山の中を歩き,森林の変化を観察する私は,誰に共感することになるのでしょうか。林業で生活する人,森林地域に住む人,森林の中の生物や静寂。自然の小さな変化や大きな出来事。街や外国に住む多くの人々が望む利益や感情。
山で仕事をしたい人はある程度いるが,収入や職場が足りない。多くの人が山を持ってはいるが,施業やそのための調査に投入される資金は多くはない。日本に資金は余って外国にいろんな形で流れている。今後気候が変わるという予想があるので,日本の都市の上流にある森林は植物の移動速度からすると劣化する運命にある。政府に余裕はないようだから,余裕のある「資金を使って仕事をすると,このように良いことがある」ことを資金を持つ人にも感激のおすそわけをすることのできる絵や物語を生産することは目標にならないものでしょうか。間伐の遅れや所有森林の放置を責めることのない工夫をして共感を得たいと思います。

長伐期施業と生物多様性: 林業収入と多面的機能のはざまで
                    星崎和彦(秋田県立大学) 
 今年のシンポジウムでは、現在各地で進められようとしている長伐期施業について研究者サイドから現場サイドまでの様々な見解を聞くことができた。シンポの焦点は明瞭かつ端的で、(1)どの程度の林齢でどの程度の材積が見込めるか、(2)高蓄積の人工林を実現するための施業・管理方法があるのか、(3)高齢人工林に生物多様性という付加価値があるのか、の3点であったと思う。
 初めの二点については、具体的な話題をもとにかなり突っ込んだ議論ができたと思う。一方第三の点に関しては深みのある議論ができなかったと感じた。シンポジウムでは大場氏から高齢・大径化したスギがキツツキ類の営巣木に利用されている実態が報告されたが、この小文では、高齢人工林と生物多様性に関してシンポジウム後に考えたことを問題提起としたい。長伐期施業や高齢(針葉樹)林の管理にかかわる様々な立場の方と一緒に課題の所在を共有できれば幸いである。

「人工林内の枯立木・倒木の果たす役割は大きい」

 議論されなかった重要な点の一つとして、倒木の取り扱いの問題を指摘したい。現在多くの高齢人工林では、風倒木が発生するとそれらは搬出・販売されている場合が多いと思う。一つの例をあげると、秋田県二ツ井町にある仁鮒水沢スギ植物群落保護林は樹高50mに達するスギの純林で、蓄積は多いところで2100m3/haもある。このスギ林は1991年の台風19号によってかなりの被害を受けた。ある機会に恵まれてこの地域を初めて訪れたのは学部生だった1992年の秋で、まだ多くの風倒木が林内の各所で見られた。現在では痛めつけられた林は(専門家の目で見ないとわからない程度に)回復し、再び「美しい」杉林に戻っている。現在林内にはその時の遺物と見られる伐根が散見され、林内に倒木はほとんど見られない。おそらくほぼすべての風倒木が処理・搬出されたと想像される。これは、シンポの議論の中で渡邊定元氏が指摘したように、大径であれば材に少々被害があっても、根株も含めて高い価値が期待できるためである。
 私は、「風倒木処理」は生物多様性の観点からは極めて慎重に取り扱うべき施業だと感じている。それは、菌類、甲虫からハチやアリに至る雑多な昆虫、鳥類、哺乳類、ナメクジをはじめとする無脊椎動物まで、すぐに想像できるだけでも実に様々な生物群が風倒木を利用して暮らしているからである。
 枯立木や倒木が森林からなくなったらどうなるのだろうか? 成熟した森林でに倒木が多いのは本来の姿である。菌類は種類によって倒木の腐朽段階ごとに異なる種類の菌が活躍しているし、キツツキ類にしても、クマゲラのように倒木中のアリを主要な餌にしている種も知られている。昆虫の場合、カミキリムシのように倒木に完全に依存して生活する種も多く、しかも腐朽段階に対する嗜好性が種ごとに異なっている。従って、生物多様性を十分に兼ね備えた林にはある程度の量の倒木が不可欠なのだという認識が必要である。
 では高齢人工林に倒木が多数あるとどんなマイナス面があるのだろうか? まず考えられることは、間伐や主伐の際の作業のやりにくさで、施業の各場面で不都合が生じるだろう。(その分余計な出費がかかるが、生産物自体には問題は発生しない。)次に林業害虫について概観すると、スギの場合、主要な穿孔性害虫としてスギカミキリ、スギノアカネトラカミキリ、キバチ類があげられよう。長伐期施業では最も注意を要するのは被害程度が樹齢とともに蓄積していくスギノアカネトラカミキリであるが、幼虫の食性の制約で産卵は生立木にしか行われない。このように生活史をもとづけば、いずれの害虫も、風倒木に産卵して個体数を増加させて生立木に被害を及ぼすものではない(従って風倒木が林内にいくらあっても関係ない)。ヒノキについても同様である。このように見ると、材価に関しては林業害虫によって多少価値が下がるとしても、致命的な被害ではない。
 ただし、カラマツの高齢林については予測できない面がある。北海道や東北地方のほぼ全域にはカラマツは自然分布せず、本州中部であっても天然カラマツが林分を形成することはまずない。従って、カラマツ林の林齢と材質や害虫との関係について我々は何ら知識や経験を持っていない。杞憂に終わればいいのだが、高齢化したカラマツ林が大打撃を被らないとは言い切れないのである。
 このように考えると、現在の風倒木処理方法では、高齢人工林に付加され得る生物多様性は一部の生物群に限定されたものになり、多くの生物群の多様性を損なっている可能性がある。おそらく、全木処理では林の生物多様性はかなり損われているだろう。
 しかし長伐期施業の場合、主伐までの期間に一定の収入を確保する必要性は高く、間伐や風倒木処理がその手段として有効であるのも事実である(風倒木処理は林分によっては高収入をもたらす)。思うに、一定量の風倒木を残しておいても主伐時の収入には大きな影響は無いのではなかろうか(林の本来の種多様性をある程度保つこともできる)。私は、ここに施業者の森林の管理目的に照らし合わせた「判断」が求められると考えている。「生物多様性に配慮した持続的な森林管理」を目指すなら、少なくとも人工林の場合、材価が少々下がることや倒木処理による収入が期待できても一部は放棄することをある程度覚悟する必要があるかもしれない。
 事例が少しずれるが、アメリカ東部のナラ林では、マイマイガによるナラ枯損、ドングリの豊凶とシカ・ネズミ、マイマイガの生活史と個体群動態、そして人間のライム病のリスクの間の複雑な関係が具体的なデータで詳細に明らかにされている。要約すると:
 『米国では日本から移入されたマイマイガはナラの葉を強く食害し、しばしば枯損につながる。ネズミとシカはドングリの豊作によって個体数を増やしたりそこに集まってきたりする。またネズミはマイマイガの卵塊や蛹もよく食べる。ナラにとって、ドングリの豊作によってネズミが増えれば、ガの数が減ることで枯損の危険が減る。またネズミによる種子散布やシカが下層植生を除去する効果で更新にも都合がよい。人間にとっても、シカによって下層植生が少なくなったりハンティングの対象個体数が増えることは森林のレクリエーションを満喫する上で好都合である。しかし、シカとネズミは人間のライム病の病原微生物を持つダニの宿主にもなっていて、ドングリの豊作でシカとネズミの両方が増えると、逆にライム病患者が増えかねないというジレンマがある。』
 この研究は、生態系における幅広い生物間相互作用の実態を明らかにした好例であると同時に、森林管理についても重要な示唆を与えている。すなわち、ある目的に特化した施業によって別の側面に負の影響が生じかねないこと、各方面で万能な管理手法を見いだすのが困難であることが指摘されている。
 しかしだからといって、用材採取を主目的とする人工林で生物多様性に配慮する必要がないとは思いたくない。どのような管理形態を取ることがその場にとって重要なのか、それぞれの管理者が場所に応じて適切に判断していくしかないのかもしれない。
 最後に、本稿のアイディアにコメントを下さった小林一三氏に感謝いたします。
(参考文献)
小林富士雄・竹谷昭彦(1994)「森林昆虫」 養賢堂.
Ostfeld et al. (1996) BioScience 46: 323-330. "Of mice and mast."
Ostfeld (2002) In: McShea and Healy eds., Oak Forest Ecosystems.
"Ecological webs involving acons and mice."
Jones et al. (1998) Science 279: 1023-1026. "Chain reactions linking acorns to gypsy moth outbreaks and lyme disease risk."

長伐期施業には挑戦していく価値がある!
                    中村 聡((有)藤原造林 山梨県)
私は、民間の林業事業体に勤めています。会社では平成14年度より民有林を取りまとめ、森林施業計画を立て、森林整備を進めています。計画を立てる際、優良大径材生産・森林の多面的機能を高度に発揮することを目標に、伐期齢を延長し、長伐期に移行しました。現在は主に収穫間伐を行っています。
そのような折、第9回森林施業研究会シンポジウム「長伐期施業の可能性を探る」に参加させていただきました。各先生方の講演は興味を惹かれる内容でした。特に林分が高齢級に達した際の成長に関しては、林業に関わる者として大変重要な問題であると感じました。
長伐期施業は、森林の有する機能を最大限に発揮するための施業であると思います。したがって、長伐期施業が消極的選択として捕らえられていることが多いとのことではありますが、実際には高度な技術体系を必要とした森林施業だと思います。植栽・枝打ち・選木・密度管理等、その地域の理にかなった方法でなければ、長伐期に耐えうる森林に誘導していくことはできないのではないかと感じています。
民間事業体は、森林施業を行う上で収入が必要ですが、多様な齢級構成の森林を取りまとめ、材の質的向上に勤めながら長伐期施業を行うことで、利益を上げられる可能性があると思います。なぜなら、市況や需要に対応した多様な径級の材が供給でき、さらに材の質的向上を目指していくことにより販売価格が高くなることも予想されます。さらには、木材の安定供給につながってくることも考えられます。
また森林は公益性が高いため、民間の事業体であれ、取り扱う立場のものはその健全性に十分配慮する必要があると思います(材の質的向上を目指していくことは、結果的には健全性の高い森を作ることになるのでしょうが)。そういった点においても長伐期施業は、森林全体の健全性を維持していける可能性があり、民間事業体でも挑戦していく価値があるものだと考えています。
まずは各地の長伐期施業地を実際にこの目で見て、どのような高齢級の森を作りたいのか、または作れるのか、自分の中でイメージを膨らませてみたいと、個人的には考えています。

「なんとなく長伐期施業」の森林は…
                    中田理恵(静岡県中部農林事務所)
森林施業研究会シンポジウムは、タイムリーな話題で情報量も多く、聴講するだけで勉強になります。長伐期化は静岡県でも進行しており、どのような話が聴けるか楽しみにしていました。
さて、現在の林業の問題の一つに、「なんとなく長伐期施業」になってしまう森林が増加していることがあります。長伐期施業は昔から行われていますし、300年生以上のスギもありますから、高齢級人工林への誘導は悪いことではないでしょう。しかし丹精こめて育てられた吉野杉がすくすくと生長するのはわかりますが、今まで放置していた森林を「なんとなく長伐期施業」にして大丈夫なのか疑問でした。これに対して列状間伐や強度の間伐の後、個体管理を行うお話はとても参考になりました。今求められている施業は、(かなり勝手な注文と思いますが)如何に手を抜いて(手間をかけず、金をかけず、簡単に)、森林の多面的機能(治山治水 水源涵養 生物多様性など?)を維持して、良質材を生産することでしょうか。「なんとなく長伐期施業」になりつつある森林をどのような森林に導くべきか、良質材生産、炭素固定、野生動物が生息しやすい森林にするにはどうしたらいいかの話をもっと詳しく聞きたかったです。
ところでやはり放置林は、間伐をしないとまずいのでしょうか。確かに過密林分では、気象害や病虫害に対する抵抗力は低下するでしょうが、部分的にうまく枯死すれば残った樹木の生長は阻害されず、健全化が進むかもしれません。適度に気象害に合い,適度に枯死すれば、うまくいけば良質材は望めなくとも森林として維持できる可能性があるのではないでしょうか。天然林にそのヒントが隠されているように思いました。
異なった角度から長伐期施業を考える今回のシンポジウムは、AGという立場からも有意義なものでした。長伐期施業の実践の場に国有林が加わっているのは頼もしい限りです。また、長伐期施業に限らず森林関係の研究は、ひとつの分野だけでなく様々な分野の研究者が協力して行う必要性を感じました。各県の研究機関も関わっていた大プロでとったデータを利用しての、現在の林分密度管理図の補正も期待されます。
余談ですが、50年後の自分の姿は、世の中の動きも含め想像出来ませんが、50年後の森林は想像できることに不思議さを感じました。こういった森林の安定性のようなものが、吉野などの産地を支えているようにも思いました。

施業のすばらしさ−森林施業研究会を応援する!
                    石橋聰(森林総合研究所北海道支所)
 1996年4月筑波大学において産声を上げた「森林施業研究会」は今年で9回目を迎えました。第1回は”「森林施業研究」の新たな方向を探る研究集会”と銘打たれており、わくわくしながら参加した記憶があります。以来9回、自分の主?学会のシンポジウムを毎年午前中欠席し、欠かさず参加してきました。第1回もそうでしたが毎回会場は満員の盛況で、施業に関心を持っている研究者がこんなにもたくさんいる、ということが自分のことのようにうれしく思っています。
  自分のことで恐縮ですが、私は施業研究がやりたくて林野庁から森林総合研究所に移りました。移った当初、「森林総合研究所は基礎的先導的な研究をする場であり、施業を研究するところではない」と親切に忠告!してくれた研究者もいました。まあ、そういった声も聞きながらも、国有林での勤務経験を生かし、北海道の人工林、天然林の試験地などの現場(やま)を歩きながら、主に林分成長から施業方法や施業計画にアプローチしてきました。9年前はそういった何となく居心地の悪かった時期だったせいもあり、この研究会の創設は大いなる力になりました。
  私はいわゆる経営分野にいるわけですが、最近開催されている造林・生態分野の皆さんが主催する施業関係のテーマ別セッショやこの研究会に参加することは、自分の仕事を進める上で大いに勉強になっています。実際、毎回聴衆の顔ぶれをみると主?学会をさぼってこちらに来ている経営分野の研究者が多く見られます。ただ、この研究会が造林・生態分野の人たちが主体になっていることもあり、良く言えばアカデミックですが、何かの調味料が足りない気もしています。同じ施業といっても造林・生態分野と経営分野ではアプローチの仕方がやや異なる感じがしますし、過去に経営分野でかなり研究が行われた内容が論じられていることもあったりして、お互いに情報が行き渡っていないこともあるようです。施業の発展という共通の目的はあると思いますから、今回の「長伐期」のようなテーマであれば発表者に経営分野の研究者を加えると味付けが少し変わる気もします。いっそのこと経営分野の主?学会とジョイントして「施業」について議論を戦わせるのも良いかもしれません。せっかく林学会という場で森林に関わるいろいろな分野の研究者が集まっているのですから、このような研究会では分野が見えなくなるのが理想だと思います。
 今回のテーマについてはふれず、これまでの感想を述べさせていただきました。来年から学会名が「林学会」から「森林学会」に変わりますが、この研究会が「森林学会」でもさらに輝きを増すよう期待しています。

<全国交流会・総会報告>
施業研究会の代表が交代!渡邊代表は顧問に

施業研究会の前日には、恒例通り交流会が行われた。会場は幹事の好みで明治時代に立てられた木造3階建の串揚屋(重要文化財に指定されている)で、そこの2階と3階を借り切って行われた。私が施業研究会にふさわしいだろうと思って選んだ会場だったが、参加者の評判は悪くなかったようで、幹事としてはホッとしたというのが実感である。
交流会に先立ち、まず全員が3階に集まって総会が行われた。長らく施業研究会の代表を務めて来られた渡辺定元先生が、このたび立正大学を退職されたことを受けて、鈴木和次郎氏が新しく代表に就任した。渡辺先生は今後は顧問として施業研究会を支えてくださることとなり、新体制で施業研究会が発足することとなった。その後は、わいわい騒げる3階、比較的静かに語り合える2階、と会場が自然に使い分けられ、夜10時まで林学の研究者や森林管理者同士が交流した。参加者はのべ35名。飛び入りの学生さんもいて、談論風発、大いに盛り上がった。交流会後も2次会、3次会と足を伸ばした人もいたようで、古き町並みを残す根津の夜に交流の花が咲いた。
今回の反省点として、交流会の開始時間が、夜8時と遅かった。理由は、幹事を仰せつかった私自身が、夜7時半までかかるテーマ別セッションのコーディネーターを務めていたからであった。また、当日配布して回るつもりだった交流会のビラも持参するのを念れ、いろいろと手落ちばかりだった。そのためか、参加人数は見込みの50人に達しなかったし、参加された皆様も、最初は会場の場所がわからなくて、往生した方もおられたのではないだろうか?いろいろの幹事の不手際をお詫びしたい。また、この会場は「文化財」であるゆえか、料理・酒代以外に「場所代」らしきものが随分とかかってしまった。実は、参加者から集めた会費だけでは赤字だったのだが、渡辺定元先生がご寄付をくださり、無事交流会を遂行することができた。先生のご寛容に、深く感謝の意を申し上げる次第である。

<編集後記>
北関東の奥地の国有林に天保元年(1840年)に植林されたスギの人工林があると聞かされ見に行った。林分の面積は1.4haほどと狭いものの、年輪解析から推定林齢は200年、推定蓄積(幹材積)は1700m3/haほどと見積もられ、樹高が優に40mを越える個体もある。この林分は、かつて「学術参考保護林」として保護されてきたが、現在は「展示林」扱いとなっている。そして今、この林分に間伐を実行しようという話が持ち上がっている。林分内に存在する不良形質木・劣勢木・衰退木(梢端枯死)を材積で8%ほど伐採しようとするもので、展示林の健全な維持管理に必要と考えてのことか?しかし、この地域の際立った高齢人工林の学術的な価値、歴史的遺産、間伐効果、伐採・搬出経費と材価から推し量る経済性など、間伐を実施する前に慎重に検討すべきことがらが多いように思われる。最悪の事態は、伐採率を引き上げて、間伐実施上の障害を取り除こうとする行為である。一度、破壊してしまえば、その状態を取り戻すことは不可能である。こうした事態が、最近、230年生の水源林(サワラ人工林)においても行われた痛ましい記憶が蘇る(狢)。

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