木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.26 2004.12.21.
Newsletter of the Forest Management and Research Network


森林施業研究会 第7回現地検討会報告

―森林施業とシカの保護管理との統合へ向けた神奈川県の取り組み、そして森林認証―

                              田村 淳(神奈川県自然環境保全センター)

森林施業研究会の第7回現地検討会(通称:丹沢合宿)が2004年11月10〜12日に神奈川県丹沢山地の県有林( 愛甲郡清川村 )を舞台に開催された。日中の現地検討会では、森林施業とニホンジカ保護管理の融合を目指した神奈川県自然環境保全センターの取り組みを中心に見学した。夜のセミナーでは本検討会の初の試みとして、例年の研究事例発表会にかわって「森林認証制度」をテーマとしたセミナーが行われた。この報告はその概要を取りまとめたものである。

出席者は約40名で、北は北海道から西は関西までの国または県で研究、行政に携わる人のほか、大学の研究者、中国からの研修生、フリーライター、学生など様々な職業の人たちが参加した。

11月10日(水)

14時すぎに参加者が会場の「丹沢ホーム」に集合し、早速現地検討会が始まった。

現地検討会

1.札掛周辺の人工林

札掛周辺は丹沢山地で最も早い時期にシカによる人工林被害が発生した地域である。被害に対して神奈川県は1970年代から幼齢造林地に防鹿柵を設置して被害防除を図ってきた。それにより林業被害を防ぐことができ、現在は樹皮剥ぎされない程度の径級に成長している林分が多い。そうした林分では防鹿柵が撤去されており、その状態を見学した。

2003年から開始された神奈川県シカ保護管理事業では、高標高域でシカにより植生が劣化した自然林でシカの捕獲を実施し、その一方で中標高域の人工林地帯で、シカの緊急越冬地を目的とした餌植物増加用の間伐材による木柵(写真1)が設置されており、その現場も視察した。参加者からは、見学した札掛周辺の人工林でもシカによる林床植生の劣化が進んでいる状況でシカの生息環境を整備することに対して疑問の声が多く出た。それに対して県の担当者は、これまでの丹沢におけるシカ問題の歴史、背景、さらにシカを捕獲することの合意形成の難しさについて説明し理解を求めた。


写真1 間伐材でつくられたシカ越冬地用の柵
(上半分は鋼製。夏場は柵を閉じて草を生やせ、冬に開放する予定。)


セミナー

 神奈川県自然環境保全センターの事業について、各担当者が報告した。

1.丹沢の自然環境:田村 淳(神奈川県自然環境保全センター研究部)

各事業紹介の前座として、田村が丹沢の自然の概要を雑駁に紹介した。丹沢の特徴としてプレートの境界に位置するため地震が多くそれを起源とする崩壊地が多いこと、氷河時代の侵食の影響で急傾斜地が多いこと、大都市に近いにも関わらず豊かな自然が残ること、近年その自然に異変が起きていることを述べた。

2.自然環境保全センターの設立経緯と丹沢大山総合調査の概要:羽太博樹(同企画管理部企画情報課)

続けて羽太氏は、神奈川県自然環境保全センターの設立経緯と2004年4月から開始された丹沢大山総合調査の概要について紹介した。それによると神奈川県自然環境保全センターは、10年前に行われた丹沢大山自然環境総合調査により丹沢の問題点が整理され、その保全・再生の実行機関として、5つの県機関を2000年4月に統合して設立されたことが報告された。自然環境保全センター設立から4年経過して一定の成果が出つつも、複雑な問題構造のため未だに保全再生の目途がたっていない分野もあることから、新丹沢大山総合調査が開始されたことを述べた。

3.神奈川県ニホンジカ保護管理事業:永田幸志(同自然保護公園部野生生物課)

野生生物課の永田氏は、神奈川県のニホンジカ保護管理計画策定の経緯、事業の目標、その手法を紹介した。本来平野部に多くいたであろうシカが高標高の自然林に現在多く生息するようになり、植生の劣化が進んだこと、その一方でシカ個体群の低質化(遺伝的な劣化、歯の磨滅度が速いことなど)も見られるようになり、シカ保護管理事業に着手したという説明であった。保護管理の目標は自然林地帯では植生の回復、人工林地帯では生息環境の整備、農業地帯では農林業被害防除を目指している。その手法として、特別捕獲(鳥獣保護区における個体数管理)、管理狩猟、柵の設置、森林整備による生息地改善があげられ、それぞれの目標、地域特性に応じた手法を選んで事業実施している。実施に当たってはモニタリングが基本であることを指摘し、今後に向けて個体数調整の担い手の確保、予算の継続的確保、生息環境整備技術の蓄積などが課題であると結論づけた。

この報告に対し、シカ密度をもっと下げる必要があるのではないか?何もしないで個体数の崩壊を待った方がよいのではないか?シカ密度を下げると妊娠率が上がって逆効果なのではないか?丹沢だけの問題と捉えないで近隣県と協力していくべき!など多くの質問・提案があり、参加者のシカ保護管理事業に対する関心・意識の高さを認識させられた。

4.神奈川の県有林:杉谷祥志(同県有林部森林整備課)

森林整備課の杉谷氏は、神奈川県営林について、特に昨年度に策定された第10次経営計画の内容と実際の事業について紹介した。第10次経営計画は、持続可能な県営林の管理・経営の推進を理念とし、(1)森林の適切な管理・経営と森林生態系の保全・再生、(2)木材資源の循環利用と良質な県産木材の安定的供給、(3)事業検証システムの構築、(4)県民との協働、産学公連携、(5)県営林の適切な管理、の5項目を方針とする説明があった。県営林を大きく2つのゾーン(豊かな自然保全ゾーン、資源循環利用ゾーン)に区分し、さらにゾーン毎に現況に応じて目標林型、施業内容が決められており、今後の動向が楽しみである。

この報告に対しては、林道から500mまでを木材の搬出距離とすると採算があわないのではないか?林道の路網密度は?など森林施業研究会ならではの質問がでた。

11月11日(木)

現地検討会

 県営林の森林整備、シカの保護管理事業、自然公園事業、それらに対するモニタリング調査など自然環境保全センターの事業のほとんどを一箇所で見学できる堂平〜丹沢山のコースを一日かけて歩いた。

1.堂平のスギ・ヒノキ高齢級人工林 

 丹沢山地のようにシカが生息するところでは、森林整備をどう行っていくのかが鍵であり、丹沢山地ではシカの保護管理と森林の整備を統合させるような森林生態系の管理を目指していると田村が報告した(写真2)。2000年に県有林で択伐施業するのに際し、シカが多く生息する当該地において植生保護柵を設置し、森林整備による光環境の変化とそれに伴う柵内外での下層植生の変化を捉えることを目的として自然環境保全センター県有林部と研究部が共同して調査に取り組んだ。間伐前に下草はほとんど見られなかったが、間伐後に見られるようになったこと、ただし、間伐後1年目は柵内外の現存量はほとんど変わらなかったが、その後差がみられるようになり、特に柵外はマツカゼソウやフタリシズカなど不嗜好植物の比率が高まるようになった。単位面積あたりの植物の種類数は柵内外であまり差は見られないなどといった現在までの結果を報告した。この報告に対して、人工林でも本来あったであろう草本類の保全を目指すべきこと、樹木については更新補助作業を検討すべきことが指摘された。

写真2 スギ・ヒノキ人工林内で行われた現地検討会の様子(右は植生保護柵)

2.ブナ林衰退の機構解明試験地

現在、自然環境保全センターで取り組んでいるブナ林衰退の機構解明研究について、ブナの樹冠にアプローチするためのツリータワーを対岸に見ながら斎藤氏が説明した。ブナハバチの影響を受けているブナと受けていないブナを樹型から判別し、工事の利便性も考慮してツリータワーを設置したとの報告があった。健全木と思われていた樹木でもクロロフィル蛍光の値が低いこと、樹型をみると枝の先が上を向くような形態をしていて、伸長成長が非常に小さいこと、葉の色を見ると焼けたような跡があることから、オゾンの被害を受けていることなどがわかってきたと説明を受けた。各個体のオゾンに対する感受性の違いがブナ衰退の原因となっている可能性があると判断された。個体間の感受性の違いについて、クロロフィル蛍光の値を指標としながら、広域的に調査を進めているところであると報告された。

3.丹沢山地におけるシカ保護管理

昨年度から開始したシカ捕獲の実績と捕獲作業の難しさについて永田氏が説明した(写真3)。当該地周辺のシカ密度は30頭/km2と高密度で植生が劣化していること、そこで植生回復を目標として昨年度にシカ20頭の捕獲を試みたが17頭の捕獲に留まったこと、シカが多く生息していても実際捕獲するのはたいへん難しいことなど、現場を知る担当者の実情が報告された。今後の課題として、猟友会の高齢化で管理捕獲を今後どれだけ継続していけるかという点、登山者への周知方法などがあげられた。また、シカ密度と植生回復の関係はむずかしいため、追跡調査しながら拮抗するバランスを探っていきたいと述べられた。

この報告に対して、植生保護柵の目的は何か、植生回復なのか、樹木更新なのかという質問があった。それに対して、樹木の更新は時間がかかるため、短期的な目標は林床植生の回復と遺伝子の保存にある旨説明がった。また、ギャップが形成されたところに柵を設置する方が樹木の更新にとって有効だろうという指摘が参加者からあった。

写真3 熱心にシカ保護管理の説明を聞く参加者

4.自然林における植生回復

1997年に自然公園事業で設置された植生保護柵(写真4)について、田村が報告した。前回の丹沢大山総合調査の結果シカの影響で林床植生がかなり衰退していることがわかり、緊急措置として1997年から県の自然公園事業で植生保護柵をつくっていること、当該地では約30m四方の保護柵を30基ほど設置したこと、それぞれの間隔は10mから200mほどであることを述べた。小さな柵を多く設置したのは、万が一柵が壊れてシカの影響をうけても最小限におさえる意味もある。尾根上は風が強く倒木が良く発生するため、年に2回ほど見回りを行い、破損した部分を修繕している。植生回復には柵をつくるだけでなく維持管理が必要であると訴えた。

柵内外ではスズタケの繁茂状況が異なっている。柵を作った当時は柵の内外とも同じ状態で約10?程度のスズタケが残っていた。それが今は約40〜50cmでスズタケは確実に成長している。スズタケの中には50?くらいに成長したブナ、イヌシデ、カエデ類など樹木の稚樹が多くみられる。ただこれらが今後更新していくかどうかは別問題で、スズタケが回復していく中で負けてしまうことも考えられる。一般的にスズタケが繁茂している中には何も見られないことが多いが、一度シカがスズタケを食べて林床がきれいになった後に柵で囲うと多くの稚樹がでてくることがわかった。スズタケがまだ残って自然度が高いといわれる西丹沢よりも種多様性は高い。元々はスズタケが密生した森林だったが、後継稚樹群を定着させるために更新補助作業することも選択肢の一つだろう。

写真4 自然林に設置された樹皮食い防護ネット(左)と植生保護柵(右)
(柵は設置して7年経過。内側ではスズタケが40〜50cmに成長している。)

5.丹沢山山頂付近の植生

丹沢山山頂付近の植生保護柵を横に見て、田村が次のことを報告した。標高が約1400m以上の山頂付近は、後氷期以降浸食作用を受けていない為、火山灰が厚く堆積し、なだらかな斜面を形成している。このような地形は丹沢山地でも最高峰の蛭ケ岳山頂付近などに限られる。このような地形の場所はブナ林下にササ類は繁茂せず、オオモミジガサなどの広茎草本群落となる場合が多い。しかしシカの嗜好性の高い植物が多いため現在はほとんど見ることができない。前回の丹沢大山総合調査でもシカの影響を強く受け種組成が一番変化した場所とされている。現在、柵外はマルバダケブキやシロヨメナなどシカの不嗜好植物が繁茂している。1997年に柵を設置して以降、県の絶滅危惧種が再生してきたが個体数はまだ少ない。絶滅したとされる種でも地上部が消失しただけで、柵で囲えば戻ってくるということが丹沢ではわかってきている。

6.丹沢山山頂の気象観測装置

 日本百名山である丹沢山の山頂に自然環境保全センターが2002年に設置した気象観測装置がある。これはブナ林衰退調査の一環で、山岳地の気象特性の解明、とくに温度上昇の検証などのために設置した旨説明があった。

丹沢山山頂は国有林、県有林との境界にあることから、国有林の田川森林官から事業紹介があり、国有林でも植生保護柵を3箇所設置している旨説明があった。山頂から富士山が見えたこともあり、参加者一同が感激していた(写真5)。

写真5 丹沢山山頂での集合写真(左後ろに富士山があるはず!)

写真をクリックすると大きな写真(361k)が見られます

セミナー ―森林認証について―

4氏からの話題提供の前に森林施業研究会代表の鈴木氏(森林総研)から、「森林認証制度は欧米の天然林管理から始まったが、日本では認証取得が目的化して進んでいる気がする。認証取得は施業を大きく変えるのか、それについて議論したい」という趣旨説明があった。

1.森林認証制度について:鈴木康之(社団法人日本森林技術協会)

日本森林技術協会の鈴木氏からは、世界的な森林認証制度として2系統あり、第一は環境NGOが牽引してきたFSC、第二は国情に合わせた林産業界や林務行政組織による認証(ISO、PEFCなど)があること、日本型の認証制度としてSGEC(『緑の循環』認証会議)ができたことについて説明を受けた。この報告に対して、なぜ日本独自のSGECが必要なのか、FSCやISOではいけないのか?という答えに難しくも本質をつく質問がでた。

2.山梨県県有林FSC森林管理認証について:長池卓男(山梨県森林総合研究所)

山梨県の長池氏からは、FSC認証を取得した経緯について、『県有林第6次経営計画(2001〜2011)』で「生態系としての森林の適切な管理の推進」、「再生産可能で環境への負荷の少ない木材の永続的な生産」が目標に掲げられたため、森林生態系モニタリング事業とともにFSC認証を取得することにしたと説明を受けた。認証審査において17の条件が負荷されたが、これらはかなり厳しい条件になっているとのことである。認証取得の効果として、県有林産材の付加価値が高まったことのほかに、職員がRDB希少種を気にするようになるなど意識の向上が見られたと報告された。この報告に対して、県有林は社会的影響が大きいために条件が厳しくなったと思われるが、コストを考えると大変だといった意見や、FSCにより県が差別化をはかることは民業圧迫ではないか?といった質問があった。

3.長野県林務部の認証制度:小山泰弘(長野県林業総合センター)

長野県の小山氏は、山(森林)→木材(製品)→住宅(工務店)の流れのなかで木材と住宅には長野県独自の認証制度があること、それらと山をつなげるためにFSC認証を取得することにした経緯を話された。長野県の一部の県有林を対象にFSCを取得し国際基準として認められたが、認証の経費がかかること(207haの認証取得および5年間の維持経費で809万円)、長野県の目論見とした産地認証にはならないことから、既存の木材および住宅の認証制度と相容れないという欠点もあると述べられた。

4.森林認証制度の審査概要:渡邊定元(森林環境研究所)

渡邊氏は、FSC認証審査の委員になった経緯と審査にあたった速水林業の審査概要について話された(写真6)。委員になった経緯は、以前からsustainable forest managementをやっており、それでEUFROから白羽の矢があたったと述べられた。FSC側には森林認証基準が日本にあっていない点を指摘し、日本の法律に従うこと、地域特性に配慮することを要望したとのことである。現在、認証機関も多々あるが、今後は認証機関の差別化がおきることを予想された。

写真6 渡邊定元氏の発表に聞き入る参加者

その後、全体討論に入り、認証機関のブレは問題ではないか?森林認証を取るべきなのか?といった質問から、消費者は森林認証制度のことをほとんど知らないのではないか?といった率直な意見もあった。今後の関係者の認識が高まることを期待してセミナーは終了した。

11月12日(金)

 夜中は豪雨だった。朝7時の天気予報によると大雨洪水雷注意報が出ているため、帰り道となる県道が通行止めになる恐れを考慮して現地検討会を中止にした。昨日一日天気がもったことを感謝した。

 代表の鈴木和次郎氏が今回の現地検討会を講評し、丹沢の県有林は大都市に近いこともあって県民の関心が高く、森林機能へのさまざまな要望にたいして取り組んでいることは先駆的な事例として評価できると総括して、この現地検討会は終了した。

丹沢合宿の企画者および記録者の感想

 この検討会では毎夜10時すぎに夜のセミナーが終了し、それから夜中1,2時まで懇親会で皆さんのパワフルさにあらためて驚きました。この懇親会は毎度のように情報交換する良い機会になっており、ホストの役を忘れて参加してしまいました。二日目は標高差約700mを登り降りするハイキングのような現地検討会だったこともあり、筋肉痛になられた方もあったと思います。皆さん大丈夫でしたか?それでも参加者一同無事に百名山である丹沢山山頂に立つことができ、さらに富士山まで見通すことができ、記念となる現地検討会になったと自負しています。

 いつもの現地検討会と違っていわゆる林業的あるいは学問的な話題に欠いたことと思います。丹沢の林業・林学を語るにはシカ問題を抜きにできないし、現場は様々な問題を抱えています。その問題を解決すべくデータを取って事業に反映させていくことが地方研究機関に携わる者の役目と考えています。そのため今回、シカと森林を取り巻く事業を中心に保全センターの研究部以外の仲間を募って合宿を企画させていただきました。各担当者には夜のセミナー、日中の現地検討会で報告してもらいましたが、研究者が話すよりも説得力があったことでしょう。神奈川県自然環境保全センターの強みはそばに現場の担当者がいることです。今後も事業の担当者と連携して丹沢の問題を解決していければと思っています。 

 最後になりますが、今回の合宿に参加された皆さんに感謝しています。ぜひ丹沢で見たことをそれぞれの地域で紹介していただけたら幸いです。

参加者の感想・意見

面白そうなことは、やってみることが大切!

                    田川 将昭(東京神奈川森林管理署・丹沢森林事務所)                                            

11月11〜12に参加しました。10日の内容は、以前に何度か、説明を受けていたので、今回は行きませんでした。

 丹沢では今、ニホンジカ等による、高標高地域の植生衰退や土壌流出、大気の複合汚染が原因ではないかと言われるブナ、モミ大木の立ち枯れの問題等が起きています。丹沢以外の各地でも同様の問題が発生しています。山での食べ物不足で里におりる動物達、畑を荒らしたり、時には人を襲う結果となってしまう例もあり、自然と人との関わりという、とても難しい問題であると思います。人も生き物、動物も生き物、食べる物がなくなれば、探しに出るのが当然、でも放っておいたら、それも問題で、一体どうすべきなのか、自然は常に少しずつ変化して行くものですが、それが、生態系の狂いによって、急激に変化してしまうことの怖さだと思います。自然界の中では、ときにはそんなこともある。と、言ってしまうと、それもそうだな、と思ってしまうのですが、最近の変化は異常気象や、温暖化等普通ではない、と感じることが多いです。

 

 検討会の主な内容である森林認証制度については、以前から、おおまかな内容は知っていましたが、しっかりとした説明を受けるのは、今回が初めてでした。三重の、速水林業等、環境面で配慮した林業など、見学はしてませんが、とても関心を持っています。

 説明を受けて感じたのは、制度の認証を受けることは、素晴らしいことですが、認証を一つの目安・目標にして、認証を受けられるような森林にして行くことが大切だと思いました。以前に、東京都の雲取山へ登山に行った帰り道で、山梨県大月の恩賜林、という森林を一部歩いたのですが、手入れされているのかどうか分かりませんが、何だかとても綺麗だ、という印象を受けたことがありました。

 前から特に思うのは、「面白そうな試み」試験や実験・研究、研究発表会等で発表されて「これは、いいな!」と思ったものは、予算面その他いろいろあるかも知れませんが、実際にやってみることです。

 前に、「緑の回廊」の会で、丹沢現地検討会に参加したとき、保全センターの方の案内で、河畔林の早期造成という、治山堰堤の流路内に、樹木を植栽した試験(単木植と、パッチ状にいくつか集合させて植える方法とで)を見学させてもらいました。

 これなどは、造成前に様々な意見があったようですが、何とか実行に踏み切ることが出来たという話を聞きました。

 私の管轄である、丹沢の国有林について、この場を借りて少し紹介します。周囲を県有林に囲まれ、ユーシン・蛭ヶ岳・丹沢山・塔ノ岳・鍋割山の中央部分が玄倉国有林(山北町)、その南側、塔ノ岳・烏尾山・戸川・三廻部・鍋割山に囲まれた長尾、源次郎、行者山の各国有林(秦野市)とで構成されています。国有林(玄倉)の大部分が、「森林生物遺伝資源保存林」に指定、またそれを結ぶように「緑の回廊」が指定されています。この地域は、関東大震災の影響をかなり受けており、随所に崩壊地が見られます。現在もなお大量に押し出される土砂を止めるために、治山事業が行われているところです。いくつか大きな沢がありますが、いずれの堰堤も満砂状態で、不思議な風景をつくりだしています。{郷土史の資料等をひもといて、勝手にいくつか抜粋させてもらうと、震災が起きる前の沢は、「白く輝く閃緑岩の河床の上を音も無く流れる透明な水を照らし、同じ岩塊が川を横切って並ぶ間に板を渡して足場としてたり、岩の上には、鰐の子供が甲羅干しでもして居るかとさえ思われる風情であった、、、」「右岸、左岸と綺麗な流れの徒渉である。樹下は陰湿で、コクサギの気生根さえ生じて居る程である、、、対岸に落ちる棚沢にはワサビが作ってあった」(足柄乃文化より)と言われています。

 現在の箒杉沢・棚沢付近の様子ですが、今より幅が狭く、深い渓谷だったようです。

 震災と豪雨によって、渓谷は地盤ごと粉々になり、流れてしまったようです。}話がだいぶ逸れてしまいました。

 元に戻って、今の国有林や、ほかの山について思うことですが、保護林を指定したり、それの調査をおこなったりすることは大切ですが、同時に、間伐不足で真っ暗、ツルが造林木より繁茂している人工林等に手を入れ、健全な森林にして行く、その後から、針広混交林化等考えて行くことが必要だと思います。しかし間伐等施業を行いたいのは、山々だが、林齢が規定より超えてるので無理ということで、そのまま放置されている箇所が丹沢にはいくつかあります。林内は昼間でも暗く、下草は無く、地面も相当掘れていて、根が浮き上がり、倒木も多い、林齢の割にひょろひょろで、絡んでいるツルの方が太い、というところがあります。

これを、ツルを処理して、枝払い、間伐をして間伐木は、林内の土留めにしたり、歩道に使用したりすれば、見かけも良くなり、林内も明るく、登山者も快適・安全に登山を楽しめ、下層植生も豊かになって、いろいろな面で、保安林だったら水源涵養等の面からも断然良くなるはずです。 近年の緑の回廊構想も、とても良いことだと思うのですが、モニタリング調査等と同時に、現在の規定では、○年生以上は間伐出来ないというところを、例)回廊内は豊かな森林にすることを前提に、例外的に施業出来る。とかそういう決まり事に改正しなければ駄目だと思います。

 前に、「豊かな森とは?」という話をどこかで聞いた気がするのですが、豊かな森とは、人がその森に入って、一日歩けば、どっさりと山の幸・森の恵み(木の実、果実、茸、山菜等)が採れる森のことを言う。こういう森なら、いろいろな多くの動植物が生息出来るし、豊かな森と言える、というものです。丹沢では、下層植生が殆ど無いような状態の場所が多いので、まるで夢の話として聞こえますが、他の場所ではこういう森は、あるように思います。「緑の回廊=豊かな森」として考えると、これを目指した森林づくり、をして行くことだと思います。保護林等、貴重な森林、奥山、原生的な森林は保護して、手遅れの人工林にはしっかり手を入れ、荒れた森林は、手を入れて(果樹を植えたり、ビオトープ的要素のある試み等して、)豊かな森化して行く。緑の回廊という大きな区域の中で、出来る限り自然環境に配慮した、施業や、工法、で行く。「人工林は止めて、全て自然林に!」ではなく、ちょっとしたこと、工夫や方法で、上手く出来るのではないかと思います。

 また、今回参加していて、”里山”という言葉を多々聞くことがありました。里山について研究する人、学習する人、関心のある人、これについての事業を進める人達がいました。人の生活に密着した山、分断ではなく循環している。農業とかで言えば地産地消、

 自然の中に無駄なものは何も無い、昔の人の知恵というのか、本当に考えれば考える程理にかなっていると思います。里山は半自然・二次的自然と呼ばれますが、人が手を加えることによって上手く維持されて来た自然、そこにすむ動植物も多かったといいます。現在は放置された里山、竹林、人工林が多いことで、すむ場を失い、居なくなった生き物も多いようです。そういう場が無くなると、子供が遊ぶ場が無くなったり、昔からの文化が廃れて来たり、いろいろな物事に繋がっているということですね。

 

 今の自然環境保全センターの敷地、自然保護センターへは、学生の頃よく利用させてもらっていたので、立ち寄ると、懐かしい気がします。

 今、仕事の関係で、連絡をとったり、情報交換等で保全センターの方々には大変お世話になっています。

 保全センターには、専門の研究者がいて本格的な、調査・研究をされています。

仕事で山を歩いていると、あちこちに県の植生保護柵が設置されていて、中と外の植生は、夏場に行くと、くっきりと違いがわかります。山の至るところに調査の機材・施設が置かれていて、いろいろなことを調査しているのだな、と驚きます。

 昨年度より、国有林でも、自然再生事業として、植生保護柵の設置が始まりました。県の柵は四角形なのに対し、国の柵は、決まった形ではなく、保護・再生したい区域をそのまま囲んでいる柵です。今年で4つ目の柵が設置されました。この先、どんな植物が生えて来るのかが楽しみです。県でも、この柵内を調査させて欲しいということでした。

 県・民・国有林等とありますが、同じ一つの丹沢なので、連携や、情報交換することは大切であると感じました。全国各都道府県ありますが、いろいろな研究機関があり、連絡を取り合っているのだな、と思いました。仕事でも、個人でも、自然環境等に関心が強いので、また、こういう機会があれば参加したいと思います。いろいろ勉強になりました。有難うございました。

森林施業研究会に初参加の学生が思ったこと
                              
中西のりこ(東大新領域)

密度の濃い内容と、なにより初めての参加で雰囲気に圧倒されたこともあり、どう感想をまとめたらいいのか少し混乱したのですが、まずは素直に「ひとこと」言わせてください。「神奈川県民でよかった」

日頃、神奈川県自然環境保全センターにはよく出入りさせてもらっています。今回の丹沢合宿への参加も、田村さんの紹介があってのことでした。それなのに、職員の方がこれほどまでに県民の理解を心に留めながら仕事をされていたなんて思いもしませんでした。普段はそんな素振りを微塵も見せてくれませんので。しかしこれは県民にとって相当うれしいことです。こういった方々なら丹沢も安心して任せられる。信頼関係が生まれます。ただ県民の一人として、県職員の方に任せっきりというのもどうかと思います。特に自然を相手にする場合は責任逃れでもあります。だから合宿参加の後、これからも県の方と共同(協働だったら最高!)で丹沢を良い森にしていけたらいいなと秘めた思いを熱くしたのでした。

そして、前向きな感想は丹沢合宿に参加した印象にも通じます。合宿中に繰り広げられた職場立場を通した議論から、みなさんが林業の最前線で熱意と誇りをもって研究・活躍されている場面がばっちり伝わってきました。同様にこの方達なら日本の森をよくしてくれるに違いないと頼もしく思い、同時に私も出来ることをやっていこうと決意を新たにしました。ただ、これからは専門職の方だけが森林の将来を考え行動する時代でもないですよね。森林施業が、林業生産のためだけでなく森林生態系の健全化をはかり機能を十分に発揮できるようにする為に求められる技術とするならば、これからはより多くの立場の人の協力協働が必要になってくると思います。これをどうするのか。こういった次の森林施業についての話が、現場の人とともに熱い議論の中にあってもよかったのかなぁ、と思いました。森林施業研究会に初参加の私が、唯一燃焼不足を感じるところがあったとすれば、ここのところです。

シカが入ってきたときのことを考えるとゾッとする

                              上野 満(山形県森林研究研修センター)

今回初めて森林施業研究会に参加しました。学生時代には、いろいろな研究会やシンポジウムに参加していたのですが、就職してこれまで行政に携わってきており、今年4月から研究員になったということでの参加でした。久しぶりに熱気のこもった研究会に参加して大変面白く、また私自身「研究員として頑張らねば」と改めて気を引締め直したところです。

 あとは、やっぱり研究をやっている人って面白い人が多いですね。

現地では、主に丹沢地域におけるシカ被害林を案内していただいた。栃木県に身をおいていた時期が長かったことから、奥日光周辺の亜高山帯(ウラジロモミ等)の被害については、多くの現地を見てきており、また、調査する機会がありました。しかし、今回のようなスギ人工林やブナ林における被害の状況を見る機会はあまりなく、まずは、その林床植生の乏しさに、なんとも言われえぬ恐ろしさというか、不思議なものを見たという感じがしました。普段目にしている山形県の森林には、もちろんシカはいないのですが、シカのいる森林と、いない森林でこれほどまでに森林構造に違いが出ることに、改めて侮れぬシカについて考えさせられました。温暖化の影響か、シカも生息域を北に広げているといわれていますが、山形県に入ってきたときのことを考えるとゾッとするものがあります。

 丹沢地域のシカ被害の対策としては、生息域の誘導を主軸としているようであり、私としては大変興味深く見させていただきましたが、現場での苦労が、現地での説明から読み取れました。やはり、シカの頭数管理(捕獲)を主軸とした対策を行わなければ、この問題は解決しないのではないかという気がしました。

また、2日目には、「森林認証」をテーマにしたセミナーが行われました。

 林業改良指導員をしていたころ、森林認証の取得についての相談を受けたことがあるが、私自身、森林認証についての知識が乏しかったことから、明確な説明ができなかった記憶があります。今回セミナーを開催していただき、山梨県、長野県の実態や渡邊先生の話を伺えたことは大変勉強になりました。

最近では、山形県でも森林に対する一般県民の意識が変わってきていますが、森林が豊富で身近であるが故の、森林管理に対する意識の低さや、認証制度の理解度の低さがあることは否めないところであります。しかし、国際的な流れの中で、森林認証が今後重視されるのは間違いないところであり、県においても森林認証・認証材に対してのPRが重要であると考えられました。

私にとっては、学生時代にブナの衰退調査の手伝いをして以来の丹沢であり、大変楽しく勉強になった3日間でした。今回、丹沢合宿を設定していただいた、神奈川県自然環境保全センターの方々、施業研究会の幹事の方々に感謝申し上げます。

「森林認証」は森林管理に対する信頼性では?!

                              浜田久美子(伊那市在住フリーライター)

 初めての森林施業研究会でした。私は森と木をテーマにしたライターで、鈴木和次郎さんに取材させていただいたご縁から今回お知らせが届きました。内容に森林認証があったので、書き下ろし中の本で触れる部分があり、勉強になると考え参加を決めました。門外漢の自分にはわからないディープな専門話ばかりだったらどうしよう…と不安をもちつつ。

 中身のつまった日程は別の意味で言えばディープでしたが、みなさんの熱心さにあおられ、夕食でビールを飲んだ後にもペンを握り勉強する珍しい自分がいました。知的刺激の相乗効果が随所にあり気持ちよかったです。

 さて、私にとっての目玉である認証については、これまで資料を読んだり多少話を伺う中でも今ひとつSGECについての理解が深まらないために、今回期待していた部分でしたが、残念ながらそこはまた宿題になった感触です。もちろん、それこそがいろんなものを表しているわけでもありますが。

 個人的な考えでは、認証に求められているのは木材自体のブランドではなく、森林の管理に対する信頼性だと思うのですが、質問にも「メリット」の話が出て、認証の位置づけの難しさをここでも感じたりしました。



Comprehensions on Contents of Meeting of the Forest Management and Research at Tanzawa mountain

                              He Fei ( Sichuan Academy of Forestry , China )

Tanzawa mountain is situated at the northwest of Kanagawa prefecture with 1567 m altitude, its biodiversity is extremely rich, its natural landscapes are very beautiful, it is among 100 well-known mountains in Japan, as well as it is important water source place for Kanagawa prefecture. However, forest retrogression is very serious, the amount of Sika deer is out of control, soil loss is also very serious.

During November 10th and November11th of 2004, I attended the meeting on forest management and research in Tanzawa mountain of Kanagawa prefecture, I know vertical distribution and management and research and existing questions on Japanese forests well, I thank Dr. Nagaike very much for providing me with a good study chance. My comprehensions on contents of the meeting are indicated below:

(1) Vegetation protection fences setup

Because the number of Sika deer called Cervus nippon increases they influence forest floor vegetations seriously, for example, rare plants reduce; the short bamboo called Pseudosasa japonica (注:正しくはSasamorpha borealis)reduces; successive tree species reduce; these plants which Sika deer dislike increase; short or annual grasses increase. As a result, biodiversity and water resource mechanism are faced to be decreased. Therefore, setting up vegetation protection fences will take advantage of ecological system maintenance.

(2)Tree skin defensible nets setup

Because Sika deer likes gnawing the tree skin of these young tree species such as Abies homolepis and Torreya nucifera, if these tree skins are eaten these tree will die, setting up defensible nets around these young tree species in order to prevent deer from destroying them.

In Sichuan province of China , there exist mouse calamity and insect harm, especially squirrels destroy tree skin. It is very difficult for us to solve these harms until now.

(3)Protection and management on Sika deer

Protection and management on Sika deer include 3 ways: protecting species biodiversity; alleviating the harm to agriculture and forestry; maintaining regional species community of Sika deer.

I consider that the best method controlling the number of Sika deer is to restore some important food chains such as herbivore, mini-type flesh-eater, large-scale flesh-eater.

(4)Investigation and Research on Fagus forest retrogression

It is first time for me to see this phenomenon that Fagus forests are very primitive, and they are same age forests, and forest retrogression is very serious. In Sichuan province of China , there are 7 species Fagus distribution, they nearly mix with other broadleaf trees, and their natural regeneration is very difficult, both of them distribute narrowly. In addition, in sup-alpine regions of Sichuan province, there exist large area of same age forests of Picea or Abies which are primitive forests, their natural regeneration is also very difficult, and forest retrogression is very serious.

(5) Forest certification system

Forest certification is widely seen as the most important initiative of the last decade to promote better forest management. Forest certification has led to greater recognition of the importance of environmentally and socially sound wood products and has engaged producers, consumers and retailers in a positive effort to help clean up the timber industry. It has also strengthened a global debate on the future of forestry.

Forest certification is a system of forest inspection plus a means of tracking timber and paper through a "chain of custody "? following the raw material through to the finished product. This is all to ensure that the products have come from forests, which are well managed ? meaning they take into account environmental, social and economic principles and criteria.

The key to improving the way forests are managed through forest certification is the credibility and quality of a certification system. In the last decade an inflation in the number of certification systems of dubious quality is making it difficult for companies and consumers to judge the effectiveness of these tools. Currently 2 certification systems, namely, FSC and PEFC are used widely because they are credible systems to ensure environmentally responsible, socially beneficial and economically viable management of forests.

The Forest Stewardship Council (FSC) is an independent, not for profit, international, non-governmental organization dedicated to promoting responsible management of the world's forests. It was founded in 1993 in response to public concern about deforestation and demand for a trustworthy wood-label scheme. FSC’ s mission is to promote environmentally appropriate, socially beneficial and economically viable management of the world’s forests.

PEFC was launched on the 30th June 1999 in Paris by representatives of eleven officially constituted national PEFC governing bodies with the support of associations representing some 15 million woodland owners in Europe and of many international forest industry and trade organizations, The PEFC Council is also an independent, non-profit, non-governmental organization, founded in 1999, which promotes sustainably managed forests through independent third party certification. The PEFC provides an assurance mechanism to purchasers of wood and paper products that they are promoting the sustainable management of forests.

Chinese forest certification system is at the state of beginning, Sichuan province of China sets about to comprehend forest certification system from last year, as a large province in forestry, it is very important to carry out forest certification system for the sustainable management of forests. So I must hard study the knowledge of forest certification system.

丹沢山地の森林管理・研究に関する合宿の感想

                              何 飛(中国四川省林業科学研究所)

 丹沢山地は神奈川県の北西に位置し、その生物多様性は非常に高く、視覚的景観も美しい。日本百名山の中にも含まれており、神奈川県の水資源にとっても重要である。しかしながら、森林の劣化が進行しており、ニホンジカの個体数管理や土壌流出が問題として顕在化している。

 2004年11月10−12日、私は、丹沢合宿に参加し、日本の森林の垂直分布と、管理・研究、そして課題について知る非常によい機会となった。この合宿の私の解釈を以下に記す。

(1)植生保護柵の設置

 ニホンジカの増加が林床植生に深刻な影響(例えば、希少植物やスズタケの減少、それに続く樹木の枯死)を引き起こし、ニホンジカの不嗜好性種を増加させていた。結果として、生物多様性や水資源を涵養するメカニズムを劣化させていた。したがって、植生保護柵の設置は生態的システムの維持に有効だろう。

(2)樹木剥皮防御ネットの設置

 ニホンジカはウラジロモミやカヤの若木をよく剥皮するので、剥皮されれば樹木は枯死するだろう。樹木剥皮防御ネットを若木に設置することによってその影響を避けることができるだろう。中国・四川省では、野ネズミや昆虫による被害が多く、特にリスによる剥皮が深刻だ。現在までこれらの被害の解決を図ることは困難となっている。

(3)ニホンジカの保護と管理

 ニホンジカの保護と管理には、種多様性の保護、農林業被害の軽減、ニホンジカの地域個体群の維持という、3つの視点が必要だろう。ニホンジカの個体数をコントロールする最も良い方法は、重要な食物連鎖網の復元だろうと思う。

(4)ブナ林劣化の調査研究

 原生的なブナ林の劣化が進行しているのを見るはじめての機会となった。四川省では、7種のブナが生育しており、それらはたいがい他の広葉樹との混交林を形成している。それらの天然更新は困難で分布域も狭い。さらに、四川省の亜高山帯では、トウヒ属・モミ属の原生林が大面積存在しているが、それらの天然更新も非常に困難で深刻な劣化が進行している。

(5)森林認証システム

 森林認証は、よりよい森林管理を促進するために最近10年間で最も重要な先進的取り組みとされている。森林認証は環境的・社会的に健全な木材生産の重要性を認識させ、木材産業を健全にするためのポジティブな努力であるということを生産者・消費者・販売者に喚起させる。それは、林業の将来を考える上で、国際的な議論にもなっている。

 森林認証は、森林管理の監視システムに加えて、原材料から製品までの追跡を含む”chain of custody(加工・流通過程の管理の認証 )”という木材や紙製品の追跡までが含まれる。これは、生産物が環境的・社会的・経済的な基準・指標に照らして適切に管理された森林からの産物であることを保証する。

 森林認証によって管理されている森林を改良する鍵は、認証システムの信頼性と質である。過去10年間、質が曖昧な認証システムの増加が、企業や消費者に認証というツールの効果的な判断を困難にしてきた。現在、FSCとPEFCの2つのシステムが広く浸透している。それは、環境的な責務、社会的利益、経済的に可能な森林管理を確保する上で信頼できるシステムだからである。FSCは、世界の森林で責任ある管理の促進を目的とする国際的なNGO・NPOである。森林伐採や信頼できる木材ラベルへの関心が高まり、1993年に創設された。FSCの使命は、環境的に適切で、社会的に利益があり、経済的に可能な管理を促進することである。

 PEFCは、ヨーロッパの15百万の森林所有者の代表や多くの国際森林産業・流通機関を代表する11の団体によって、1999年6月30日、パリで創設された。PEFCもNGO・NPOで、第三者の独立した認証による持続可能な森林管理を促進することが目的だ。PEFCは、持続可能な森林管理を促進している森林からの木材や紙製品を購入者へ保証するメカニズムだ。

 中国の森林認証システムは始まったばかりで、林業が重要な四川省では、持続可能な森林管理のための森林認証システムを実行する上で、昨年から森林認証システムの検討を行っている。私は、森林認証システムをもっと勉強しなければならない。

<編集後記>

今年は、ツキノワグマにとって受難の年であった。特に富山などでは市街地までクマが出没し、人間との不幸な遭遇事件が続発した。テレビニュースでは連日、このクマ情報が取り上げられ、クマの「異常行動」は世間を騒がせることになった。人身事故は88件、被害人103名、うち死亡1。その間のクマ的被害(射殺頭数)は全国で1754頭に及んだ。警察に御用となったクマを巡っては、住民から射殺しろとの要求まで出され、警察が頭を抱える始末(ちなみに、凶悪犯を射殺することは出来ても、野生動物を射殺する権利は警察官にはない?!)。このクマ出没の異常事態の原因をめぐり、様々な説が飛び出した。すなわち、今年の夏の高温や度重なる台風の到来などの異常気象が影響し、クマの餌となる木の実の成りが悪い、あるいは台風の強風による木の実の成熟前落下あるいは単なる落下による「餌不足説」、夏の異常高温がクマの生態を狂わせたと言う「生態撹乱説」、里山の手入れがされなくなり、本来の生息場所と市街地との境界がなくなりつつあるとの「ボーダレス説」、さらに狩猟圧の低下から人を恐れないクマが出てきたとの「新世代クマ説」などなど。いったいどれが正しいのやら判らないが、クマの存在にむやみに恐怖し、追い立てるのではなく、クマの住める豊かな自然環境が身近にあることを、もっと誇ってもよい気がするのだが。そういえば、ピレネー山脈の最後のメスのヒグマ「カネル」が誤って射殺され、大騒ぎになったなー(狢)。



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