木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.30 2005.11.25.
Newsletter of the Forest Management and Research Network


森林施業研究会 第8回現地検討会報告

―「脱ダム宣言と木曾ヒノキ」の今に迫る―

  小山泰弘(長野県林業総合センター)・山田隆信(山口県林業指導センター)

写真1:今年も全国から30数名の参加を持って、現地検討会(松本合宿)が開かれた。

 森林施業研究会の第8回現地検討会(通称:長野合宿)が2005年9月28〜30日に長野県の中南部を横断しながら開催された。

 長野県では平成13年2月に出された「脱ダム宣言」を受け、ダムに代わるものとして流域の森林整備が進められており、松本市にある森林整備の現場を中心に見学した。 その後、長野まで来て「木曾ヒノキ」を見ないわけにはいかないとの声を聞き、木曾ヒノキの本場である上松町の赤沢自然休養林を見学した。 出席者は約35名で、北は北海道から西は中国地方までの国または県で研究に携わる人が中心でしたが、行政担当者や林業士、学生など様々な職業の人たちが参加した。今回のセミナーの中で、本検討会の初の試みとして、例年の研究事例発表会とは別に、長野県で進めている「針広混交林施業」を理解するため、渡邊定元顧問による「カラマツ林を主体とする針広混交林施業の基本的考え方」をテーマとした講演が行われ、合宿参加者のほか長野県林務部から30名ほどの職員を集めた。今回の報告は、その概要について最西端から参加して頂いた山口県の山田と、事務局である小山が共同で取りまとめたものである。

9月28日(月)

 14時30分に参加者が松本市東部の美ヶ原山麓にある「ふじさわ山荘」に集合し、早速現地検討会が始まった。

現地検討会(1)

 初日の現地検討会では、治山事業により間伐と床固め工が整備されている三城地区を視察した。ここでは、カラマツの列状間伐を行い、伐採木を現地製材してモノレールで運搬し木製床固め工を設置した場所である。

1.松本市三城の治山事業地の視察

写真2:カラマツの列状間伐を行い、伐採木を現地製材してモノレールで運搬し
木製床固め工を行っている治山事業。現場担当者からの説明を受ける。

 当該治山事業地では、カラマツの列状間伐が行われていた。カラマツ林は間伐未実施でも8齢級頃には自然淘汰で1,000本/haになる。そこで、薄川上流では定性間伐で30%の間伐を実施し、700本/haとした。将来的には300本/haとしたい。カラマツ林は落葉であり、葉もヒノキやスギほど厚くないので、下層植生が繁茂しやすい。しかし、列状間伐の伐採列では、植栽木、下層植生ともにシカの食害を受けるため、シカ対策が必要である。

 治山事業地における間伐木は、玉切りして林内放置が一般的であるが、ここでは材の有効利用を考え、木製床固め工に活用していた。床固め工の段取りは、搬出→簡易製材機で現地製材→モノレールで運搬→木製床固工である。運搬用モノレールは事業終了後も、森林整備のため設置したままにする。木製床固工は渓流の浸食による森林荒廃を安定させるため5基設置、事業経費は1,800万円である。木製床固工の耐久年数は10年と想定しているが、3年で接合部が腐朽するものもあるため、モニタリングは必要である。腐朽した場合、下流に新たに設置したい。木製床固工を10年安定させることができれば、森林化による渓流の安定化がはかれる。人家裏や土石流が発生するようなところはコンクリート工で実施している。

 なお、今回に限らず、長野県では列状間伐が普及しており、松本地方事務所では間伐の約1/3が列状間伐として実施されている。列状間伐が普及した理由として、北信地方で雪害が起こらなかった事、カラマツは間伐時に立木に接触すると腐朽しやすく商品価値が下がる事、確実に収入になる事等からである。

初日のセミナー

写真3:松本市東部の薄川流域で進める「森林と水プロジェクト」の概要の報告、そして論議。

 長野県が松本市東部の薄川流域で検討を進めている「森林と水プロジェクト」の概要と、当該地域でもニホンジカの生息密度が増加していることから、その現状を紹介した。 また、セミナーでは堅い話ばかりでは面白くないとの配慮で、北アメリカにおける広葉樹林施業の事例紹介も行った。

1.森林と水プロジェクトの概要:井出 政次(長野県松本地方事務所林務課普及ユニット)

 井出氏は昨年まで、長野県庁で脱ダム宣言の本丸である「森と水プロジェクト」を担当し、本年度から実際の現場である薄川を今年度から担当となった。

 長野県では、松本市入山辺の大仏ダムの計画中止に伴い、薄川流域の総合的な治水対策を進めている。そのため、多目的ダムに変わる方策による総合的な治水対策の一環として、ダム上流の森林整備の役割を明確にし、森林整備の果たす役割を専門的立場から先行して検討することを目的に「森と水プロジェクト」を立ち上げた。第一次報告書はインターネットで公開している。田中知事就任(H12/10)→大仏ダム中止表明(H12/11)→森林と水プロジェクト発足(H12/12)→脱ダム宣言(H13/3)という順番である。薄川の他8流域で実施している。

 「森と水プロジェクト」の検討事項は?薄川流域の洪水防止機能の評価、?洪水防止機能を発揮するための方策である。ダムの流域面積は4,297ha(森林面積4,102ha)で、カラマツ林が多く、森林が荒廃すると災害が起きるという過去からの記録があり、流域住民の意識は高い。森林整備の優先度判定をするためGIS等を活用し、?森林管理ランク、?森林特性ランク 、?国土保全ランクを基準として用いた。また、本数密度の調査方法として航空写真で判定した。

 目標とする森林は「壊れにくい森林をつくり、豊かな土壌を守る」としている。森林の現状を4パターンに分け、経過林型、目標林型を5パターンに分けた。地位等のよいカラマツ林で一般施業を実施し、手入れ不足のカラマツ林は強度間伐で針広混交林を作る。10カ年計画を立て、1,732haを10年周期で整備する予定である。広葉樹の自然発生や、生育空間と光環境を確保するため、間伐の方法を?点状間伐、?列状間伐(2残1伐残った列も点状間伐)、?帯状間伐(10m伐採し20m残す)の3パターンで実施している。検証のため、針広混交林施業地に試験林を設置し、将来的に指針を作成する予定である。

2.松本周辺のニホンジカ:小山泰弘(長野県林業総合センター 育林部)

 全国的に話題となっているニホンジカが松本周辺でも増加傾向にある実態について解説を行った。

 松本周辺は、ここ10年の間にニホンジカの個体数が増加し、森林被害が確認されるようになってきた。森林と水プロジェクトに起因して、間伐施業を行ったが、後継稚樹の発生が上手くいかないことがあるなど、ニホンジカの問題が避けて通れない状況にあった。

 そこで、ライトセンサスによるモニタリングを行ったところ、ここ3年間で個体数が増加傾向にあることや、雌や子どもが多くみられることなど、個体数がさらに増加する可能性が高いことが判断できた。

 また、林業用モノレールを用いたライトセンサスを行ったところ、林業用モノレールのエンジン音が大きいため、シカは近くに寄らなかったが、センサスは出来た。

3.北アメリカウイスコンシン州の広葉樹林施業:鈴木和次郎(森林総研)

 堅い話ばかりが続いたと言うことで、この夏にアメリカを訪れた鈴木氏によりウイスコンシン州の実態が紹介された。

 カエデやナラと言った有用広葉樹を活かすための施業がアメリカでも積極的に行われている様子をスライドを多用してみることが出来た。

1111日(木)

現地検討会(2)

 2日目の現地検討では、森林と水プロジェクトによって行われている雨量及び流量試験の実態と、木材生産を主体とする施業の状況について見学した。

 また下層植生の発達が乏しいドイツトウヒ林の状況も見学した。

1.量水堰 流量測定の実態と施業について:北原曜(信大農学部)

 長野県では、脱ダム宣言関係の立証のため、量水堰による水量変化調査を実施しており、既設堰堤に量水堰を約800万円で増設した。その計測、分析を信州大学が行っている。担当の北原教授から、量水堰で森林の水土保全機能の定量評価と機能の維持増進を考慮した森林施業の説明があった。

 流量データを収集後、上流域で施業を実施し、流量変化を調査する。ただし、これは流水のみの評価となる。洪水防止機能、水源涵養機能の評価は難しいとのことであった。

2.ドイツトウヒ間伐林分

 30年生のドイツトウヒ林を材積で30%、本数で6割伐採したが、伐採後3年経過しても下層植生の発達が無く、ブナ及びトチを植栽した。

 ドイツトウヒ林の下層植生が発達しないことは他地域でも同様のようであった。 また、ドイツトウヒは現在日本に大量輸入され利用されているが、材質及び腐朽の点で心配だとの声が聞かれた。渡邊顧問から「ドイツトウヒで家を造った人が10年以内に後悔して、スギやヒノキで家を建て直そうと思う時代になれば、国産材が見直される。変な材料を使ったことに対する大きな反省をしないと、本当に国産材が戦える時代は来ないのでは?」という雰囲気でのコメントが印象に残っている。

3.通常施業林分

 林道沿いの一般施業林では、収入間伐であるにもかかわらず、補助金と併せて差し引き「ゼロ」になってしまうため森林所有者への収入がないとの事であった。施業研究会顧問渡邊氏から、選木に問題があり長伐期施業を目的とした中層間伐を実施すれば収益は十分あがるとの指摘があった。

 選木技術については、今後の課題であるが、現況の補助制度で選木にコメントできないことが補助を出す職員サイドとして歯がゆい思いであることが認識されていた。

 そのほか、森林施業によりA層は影響を受けやいが、B,C層は受けない。針広混交林化といっても、種がなければ生えないため、補植等による人為補助が必要との意見が出された。

9月27日午後

長野県の森林を考えるセミナー:渡邊定元

写真4:渡邊定元氏の特別講義。

「カラマツ人工林の混交林化に関する理論と更新技術〜一斉人工林の持続的森林管理技術 をどのように展開するのか〜」

 今回の合宿で新しく取り組んだセミナーである。合宿参加者以外の県職員へも広く公開し、複数の地方事務所からは林務課長が出席するなど県林務部の技術職員が30名程度参加した。

セミナーは、7つのテーマに基づいて渡邊顧問から2時間にわたる熱弁がふるわれた。その概要は次の通り

1.東アジアのカラマツ林とカラマツの種特性

日本に2タイプある。主に信州カラマツであり、蔵王のカラマツは遺伝的に違う。また、東シベリアダフリアカラマツは同一種で湿原性、山地性で形態が違うため、伐採や育林に注意が必要である。

2.森林劣化の現状と要因

 森林劣化の原因として、施業面からは?高い伐採率、?安易になりやすい選木の2点が、生態面からは?更新不確実性への技術的対応の欠落、?個々の種の更新に関係する生活史の未解明の2点がある。これからの大きなテーマとして、種特性の解明と、再生を促進するための施業の検討が必要である。

3.森林の再生メカニズム

 例えば、エゾマツの生活史と更新のメカニズムは倒木更新と菌類の関係で、放線菌により更新床が酸性化し、菌根菌が生活できる培地が生成される。また、極相林におけるエゾマツやトドマツの被圧木は60年生以下でないとギャップができたときに極相に達しないが、アオモリトドマツは120年生でも樹冠構成個体に達することが可能である。一方で、アカエゾマツは陽樹としての発芽特性(アカエゾマツの樹冠下ではアカエゾマツの種子は発芽しない)を持ち、陰樹としての稚樹特性(120年以上被圧されても優先木になりうる)も持つ。

 また、種子散布型特徴として以下にまとめられた。

ア 重力・ネズミ型散布

・地中への埋込は表土が露出していないとダメである。

・発芽率は2%程度である。

・蹄耕という行為がないと更新しない。

イ カケス型散布

・カケス類による貯食後、摂食からのがれたブナが芽生える。

・松枯れによる劇的な変化、ササがない状態でカケスのドングリ貯蔵場所に発生する。

ウ ホシガラス型散布

・氷期から後氷期にかけてのブナの分布速度は60〜130m/年で、これはホシガラスによる散布速度と考えられる。

・ホシガラスの散布距離、20km、50kmの事例がある。

・カケス、ホシガラス、ネズミ類の埋込には大型動物による蹄耕が必要であるが、人類は大型動物を食べ尽くしたため、更新機構の一つの鍵が欠如している。

4.森林の再生技術

 森林は火入れ、地掻きで更新する。ただし、チシマザサ群落では、ブルトーザによる地掻きが必要である。地掻きでうねを作ることにより、風散布樹種の発芽率が高まる。風散布種は地掻きで生えるが、動物散布は植栽による補助が必要である。

 パッチ植栽法による自然度の高い森づくりが必要である。これは富士山麓で実施した事例であるが、パッチの大きさはブナの樹冠の大きさとし、植栽木は17本程度、中心にブナ3本、その外縁にヒメシャラを3本植栽し、ミズナラ、ヤマボウシ、オオモミジ、カエデ類、フジザクラ等その他は自由に植栽した。

5.持続的森林管理

 持続的森林管理は次の3点に集約される

  1.現在のニーズを満たし、次世代に対する倫理的責任を果たす

  2.森林の生産能力と再生能力、生物多様性を社会的に受容する

  3.多様な経済/観光機能を確保

・森林の環境倫理の確立を行い、森林の収奪(土地利用・エネルギー等)と森林への依存(災害防止、保健休養)に対し、相互矛盾を克服しなければならない。

・持続的経営の要素として、5要素(高蓄積、高成長量、高収益、多目的利用、生物多様性の維持)を備えた経済林づくりの方途の模索が必要であるが、生物多様性は他の4要素と矛盾してしまう。5要件間の矛盾の解決策として人工林は長伐期複層林施業、天然林は択伐人工補正の天然林施業がある。また、経済林のなかでの土地利用区分として、渓畔・貴重種・湿地など弱い自然を区画して保全する。

 理想的な持続的経営林の技術要件として、1).樹木の伐採率14-17%、2)回帰年を8-10年、3)伐採木の適切な選木、4)皆伐よりも高い生産性の間伐・択伐

6.防災水源涵養路網と列状間伐・中層間伐

 防災水源涵養路網の構造は、路体と山体の水環境の分離がされており、緩い横断勾配で、浸透升や空ため池が設置してある。路網から高能率な集材ができ、放置人工林土壌の浸食防止、放置林の健全林への誘導、収益を確保しつつ超収益林の実現が可能である。

 中層間伐と同齢択伐林の造成方法は

  1.歪度を+から0に近づける間伐 同齢択伐林型に近づける間伐

  2.個体の頻度分布はL型分布

  3.大径木の伐採・集材の生産性は小径木よりも高い

  4.太い丸太の価格は細いものよりより高い

  5.平均個体よりも高い個体を伐採し、集材距離が短いと間伐の生産性は皆伐よりも高い

・造成方法

 3-4齢級 ねじれ保育間伐

 4-9齢級 路網整備と列状間伐

 6-7齢級 中層間伐による同齢択伐林径

 8-12齢級 長伐期に残す木の選木

      劣勢木も残すと着葉量が増えて、徐々によい木になる場合がある。

.複層林施業体系

 点状複層林が本来の複層林であるが、技術的に実行困難、高コストで、エセ複層林施業(帯状、小面積皆伐、モザイク状等)による現状打破が見られる等、未完成な複層林造成技術を推進している。そのため、複層林から複相林への転換が必要である。

 複層林は、回帰年ごとに同一林分で作業、高度技術と高コスト施業が必要であるが、複相林は、モザイク林分を必要に応じ施業する。似た林分をまとめて作業級を設定、複数の作業級の集合体である。

上記の講演に基づいて以下のような質疑があった。

Q:強度間伐による針広混交林化の方法は

A:どのような種を定着させるのかを決めなければならない。まず、風散布種で埋土種子を作る種の確認、次に動物散布種、重力散布種でなにを導入するか、そのための環境整備もしくは人為的補助として植栽を行う。また、更新期待樹種ごとに種特性を把握する必要がある。動物の個体群は変動があるが、採食圧が高いときは更新は困難であるため人為的コントロールが必要である。

 針広混交複層林では、樹冠の閉鎖に伴い下層植生が衰退するため、パッチ状の複相林をモザイク状に地形に合わせて造成すべきである。

 このほか、会場からもいくつか意見が出された。

セミナーの後会場を木曽へ移し、第2部が行われた。

木曽ヒノキの現状視察

学習会

写真5:囲炉裏端で木曽ヒノキ林の成立過程と現状報告を受ける。

 1)木曾ヒノキの現状(中部森林管理局)

 木曽ヒノキは江戸時代前期の強度伐採後に天然更新し、択抜的伐採が繰り返された。材価は、天然木曽ヒノキが350千円/m3であるが、人工木曽ヒノキが35千円/m3と価格差が大きい。人工木曽ヒノキを120年生を伐期として売り出したいが、天然ものと同程度の価格となるかが不安を感じている。

 2)木曾ヒノキの更新(星野大介 森林総研東北支所)

 木曾ヒノキの更新について赤沢で研究をしてきた。

 木曾ヒノキ林を調査する中で、ヒノキの下層に生育したアスナロは今後成長できるのか、ヒノキの天然更新にはどういうメカニズムがあるのかを考えた。

 ここ10年の調査でヒノキの下層に生育したアスナロが、雨氷害により大量に被害を受けたことが確認されており、こうした被害によって更新が困難になっていると考えた。

 また、ヒノキの天然更新を進めるために広葉樹の存在が重要ではないかとの仮説を建てていた。

 確かに雨氷被害は長野県において10年に1回程度発生する被害であることが確認されており、長野県においては標高1000〜1500mに多く雨氷被害が観察されることなどなるほどと思える事も多かったが、300年のヒノキ林の更新を10年で語るのは如何なものかという会場からの声にも納得できるものがあった。

?視察:中澤(中部森林管理局計画課)

 赤沢ヒノキ林施業実験林での天然更新の状況について説明があった。昭和58〜60年に択抜後、落葉層除去、下層植生除去等を行った。平成13年度に10,000本/haを超える稚樹を確認している。成長にはバラツキがある。今後の保育について、上木の枝下に達するまで、上木の管理はしなくて良いとのアドバイスがあった。

 ヒノキの天然更新の条件として、前生樹の存在と、地表の攪乱が必要である。江戸時代の強度伐採はこの二つを兼ね備えていた。

写真6:赤沢のヒノキ天然林と懐かしい林鉄の軌道。



<松本合宿への感想・意見>

情報量の多さにびっくり

山田隆信(山口県林業指導センター)

 今回、初めて参加しましたが、その情報量の多さにびっくりしました。また、学生時代を過ごした信州でこのような信州の森林を考える研究会に参加でき、一石二鳥にも三鳥にもなりました。

 まず、森と水プロジェクト関係の現地視察でカラマツ林を見させてもらいましたが、カラマツはほったらかしでも成立本数は減るし、下層植生は生えるし、さらに列状間伐は普及しているなど、感心することが多かったです。山口県ではスギはともかくヒノキの間伐手遅れ林分は真っ暗になり、下層も生えません。そのため、長野県と同様に、強度間伐による針広混交林化への取組が求められており、現地研修やセミナーを通して渡邊先生が「種毎の特性の理解」、「複層林から、複相林へ」、「更新の補助作業の必要性」について仰っていたことが、非常に参考になりました。確かに、本県の試験林でも通常の点状の間伐よりも、格子状、列状の大きくギャップを作る間伐の方が下層の更新状況は良いという結果が出ていますが、目的とする高木性樹種がまだ少ない状態です。種毎の特性を理解し、更新が思うようにいかない場合は、植栽等の補助作業が必要であると思いました。

 また、残念だったのが、森林整備による水土保全機能の機能評価については、様々な取組がされていますが、評価が困難であるところです。薄井川流域では、量水堰による流量計測が行われていました。森林整備による水土保全機能の向上に対する評価は、常に求められており、今後の研究の発展に期待しています。

 最後に、施業研究会の皆さま、また受け入れに御尽力されました長野県の皆さま、大変お世話になりました。また、お会いできることを楽しみにしています。

森林に足を運び学んでいきたい−渡邊先生の講演の感想− 

開藤伸明(長野県上小地方事務所 林業改良指導員)

 お話は興味深いものでした。

 間伐や択伐による下層の光環境の変化と樹種の選木により、一斉人工林が下層から成長して来た優先木に支配されてしまう恐れがあることが印象的でした。そうなると果たして6〜7令級の中間層間伐は疑問です。

 また、地位を考慮しないでカラマツ林分を強度間伐で大径木を造りだすという単純な考え方も人工林の持続に弊害をもたらすと思慮されます。

 将来を見すえた多様な森林づくりのために、今回の講演を参考とし、日々自分なりに考えて沢山の林型の森林に足を運び学んでいきたいと思います。ありがとうございました。

ようやく今、スタートラインに立った気がする

 巽 俊哉 (長野県林業士)

数年前から普及している『鋸谷式間伐法』の鋸谷氏は「列状間伐は意味がない」と述べていた。一方、渡邊定元先生は列状間伐を提唱されていた。それぞれに目的が違うので良し悪しを一概に言えるものではない。しかし、共通していることは現場をつぶさに観察し、科学的根拠を持った上での施業法であるということ。果たして今の長野県に研究と現場での施業の一致が見られるであろうか。中にはあるかもしれないが、現在の森林の公共事業の中には現場を見ずに計画され、その仕様書に合わせるだけの施業があるのも事実である。「緑のダム」を作るのに最適な施業法は何なのか。ようやく今、スタートラインに立った気がする。

過去に多大な投資をして成立した林分を環境に調和させながら、どう経済的に持続させていくかが重要

鈴木祥仁(愛知県森林・林業技術センター)

 田中知事の脱ダム宣言と公共事業見直しを受けて、長野県が森林整備を重点施策としていることは聞いていましたが、具体的な取り組みについては知る機会がありませんでした。今回、長野県で森林施業研究会の合宿が開催され、実際に現場を見ることができるということなので、初めて参加させていただきました。

 初日、二日目の現場となった松本市の薄川上流域のカラマツ林は、愛知県の森林と大きく異なるものであり、興味深く見ることができました。治山事業による本数調整伐と木製治山ダム工の現場では、間伐したカラマツを簡易製材機で製材しダムの材料に使用していました。土場に並べてある丸太の小口を見ると、中心部の年輪幅は広いものの心材率が高く、建築用材として利用できないのはもったいないと感じました。ダムはボルトで組まれたカラマツ角材に割石が詰められており、想像していたより立派なものでしたが、再施工が困難な現場であることから木材よりも耐久性のある材料を使用したほうが長期的には低コストになるのではないかと思いました。

 県の方の説明によると、流域のカラマツ人工林をカラマツ経済林施業を行う部分と針広混交林に誘導する部分とに区分して整備しているとのことでしたが、どちらかというと針広混交林化に重点を置いているようでした。カラマツ林は明るく下層植生も豊かであり水土保全機能を十分果たしているように見受けられ、性急に混交林化を目指すより、まずはカラマツ林としての施業を行い高齢級林分に備えてからでも遅くはないように考えられました。難しい問題ですが、過去に多大な投資をして成立した林分を環境に調和させながら、どう経済的に持続させていくか努力していくことが重要だと思います。

 渡辺先生の講義はカラマツや天然更新を中心に多岐にわたり、長年、現場で調査研究を続けられたことを感じさせる内容でした。参加者の皆さんも全ての内容を把握するのは困難な様子でしたが、動物や鳥による種子散布の話など、私にとって初めて聞くことも多く有意義な講義となりました。

 最終日は天気が悪かったのが残念でしたが、赤沢自然休養林にて木曽ヒノキと天然更新の状況について見学しました。天然更新は条件が良ければ非常に高密度で後継樹を得る可能性を感じましたが、成功させるためには土壌、気象条件に適合した樹種であることと、土壌表層の除去処理を行うことが必要であり、その後の密度管理や上木の伐採時期など、技術の確立に向けては解決すべき課題が多いと考えられました。

 終わりに、長野県の林務職員の方々には、準備・運営・現地案内など大変お世話になりました。有意義な現地合宿になったことを感謝いたします。


富士山再生プロジェクト(「森林景観評価手法の高度化に関する調査」の抜粋)

本報告は、当研究会の前代表渡邊定元氏らが静岡県富士宮市を中心に進めてきた富士山再生プロジェクトの事業調査報告書の抜粋である。平成16年度林野庁受託調査「森林景観評価手法の高度化に関する調査」の一環として行われたもので、森林施業を実践する上で参考になる点が多々あると考え、関係者の承認を得て、転載することにしました。本報告の掲載に便宜を図っていただいた林野庁の担当者および報告のとりまとめを行った富士通総研の梶山さんに御礼申し上げます。


IV.富士森林再生プロジェクト

1.プロジェクトの主旨〜森林組合サポート体制の構築

以上のとおり、わが国の森林景観を改善するための有力な手法となりうるのは、日吉方式であり、これを他地域にいかに普及させていくかが課題となる。

もっとも、単に森林プランの手法を伝えるだけで、森林組合が地域森林整備の中核的担い手となりうるわけではない。所有者取りまとめのためには、働きかけの方法、作業路設計、機械の効率的な利用、コスト計算等、求められる能力は多岐にわたる。日吉町森林組合の森林プランには、こうした森林組合の経営を支える様々なノウハウや経験が凝縮されているのであり、他地域にこれを普及させようとすれば、森林組合を包括的にサポートするプログラムの開発が必要となる。

したがって、日吉方式普及のためには、パイロットプロジェクトによって、いかにして森林組合をサポートしたら効果が上がるのか、その手法をまずは確立することが必要となる。こうした観点から、富士宮市の富士森林組合を実際にサポートして所有者取りまとめの実証実験を試みることにしたのが、富士森林再生プロジェクトである。

2.プロジェクトの経過

1)人材の発掘と理念の共有化(2004年5月〜7月)

本プロジェクトが本格的に稼動したのは、全体会合を開催した2004年5月からである。いままでの経過は大きく、理念の共有化、所有者取りまとめの支援、技術支援の3段階に分かれる。

プロジェクト開始に先立って行ったのは、プロジェクトに協力・貢献しうる人材・組織の発掘である。上記のように、森林組合に求められる能力は多岐にわたるため、行政・森林組合という従来の枠組みだけにとどまらず、研究者や民間の協力を仰ぐことが不可欠となるからである。幸い、日本には各地域に、森林組合サポートに不可欠の技術・知識・ノウハウ・経験をもった人材は存在しており、その発掘はそれほど難しいことではない。本プロジェクトにおいては、次項の表のとおりのメンバーが集まった。

そしてメンバーが固まった段階で、事務局を中心として会合を何回か開き、今後の進め方についておおよその方向性について検討をした。そのうえで、5月に全メンバーが参加しての全体会合を開催し、プロジェクトの主旨・目的、具体的に何をやるかについて十分な議論を行い、理念の共有化を図った。

理念の共有化は、プロジェクト関係者のベクトルを一致させ、各関係者の具体的な役割を明確にし、モチベーションを高めるために不可欠である。これにより、はじめて関係者の能力を十分に引き出し、総合力を発揮することができる。

こうした経緯を経て6月7日より、電子メールにて、事務局が「富士プロウィークリー」を毎週発信し、情報の共有化をはかるようになった。

富士森林再生プロジェクト

理念

1.森林経営システムのモデルづくりを実験し、既存の制度・予算の枠組みで、どこまで森林整備・森林資源の安定供給が可能かを検証。問題がある場合は、どこをどう変えればよいかについても明らかにする。

2.地域森林組合が中心となって、森林情報・所有者情報を総合的に整理・分析したうえで、所有者にコンサルティングを実施し、区域所有をとりまとめ、効率的・合理的に森林整備を推進する体制を構築する。

3.森林組合を軸に、公正な競争を担保することによって川上から川下まで真に連携できる体制を構築し、この事業で産出される材を可能なかぎり域内利用する。

4.森林組合がこうした事業の中核的担い手となるよう、研究者、先進事例先導者など、民間・行政が当該森林組合をサポートし、コンサルティング能力、施業技術能力、調整能力などの向上を図る。

5.プロセスならびに成果をひろく公開し、問題点をふくめて、関心をよせるすべての人々の積極的検討に供する。

関係者

森林組合関係 富士森林組合 プロジェクト実施主体
  静岡県森林組合連合会 実行サポート、県内普及の担い手
  全国森林組合連合会 全国普及の担い手、事務局
  京都府日吉町森林組合 プロジェクトサポート
     
研究者 渡邊定元 元東京大学教授(富士宮市在住)
  静岡県林業技術センター、静岡大学、 東京大学、独立行政法人研究機関
 
行政 富士宮市、芝川町 実行サポート、広報
  静岡県、県富士農林事務所 後援、実行サポート、県事務局
  林野庁 協力
     
民間 農林中央金庫 事務局
  NPO法人穂の国森づくりの会 広報
  第一プランニングセンター 広報
  富士通総研 プロジェクト取りまとめ


2)所有者取りまとめの支援(2004年8月〜10月)

2.1)日吉における研修と森林プランの作成

8月に日吉町森林組合にて、富士森林組合職員3名、富士農林事務所職員1名、県森連職員2名、全森連職員1名、農林中金職員1名で、5日間にわたる研修を実施した。研修内容は、森林プラン作成方法・実践、現場視察、森林組合職員との議論等である。これによって、日吉町森林組合の経営に関する理解も深まり、森林組合の地域森林整備に果たすべき役割がより認識されるようになって、モチベーションも高まった(資料1参照)。

こうした経緯を経て、9月に富士森林組合が施業対象地10ha(所有者7名、林齢30〜55年、スギ:ヒノキ=6:4)を決定し、実際の測量に基づく森林プランを作成した。10haのうち5haは財産区だった。

2.2)座談会における議題

これを受け、全体会合にて森林プランを討議し、3存1伐の列状間伐方式で行うことや、路網の設計などを協議し、富士宮市在住の渡邊定元元東大教授の施業体系・理論を適用することとした。

そして、9月下旬に施業予定地の所有者を対象に、座談会を開催した。座談会には、市職員、農林事務所職員、県森連職員も出席し、このプロジェクトが森林組合単独のものではなく、市も県も積極的に推進するプロジェクトであることをアピールした。

座談会において議論となったのは、作業路の道幅と間伐方法である。作業路については、施業の効率上、道幅を4mとしたいとする施業者側と可能な限り狭くしてもらいたいとする小規模所有者との間で意見が別れた。また、施業方法として列状間伐を提示したことに対し、所有者がそれに不安を感じ説得に時間がかかった。結局、作業路の道幅は3m、間伐方法は列状とすることで了解してもらったが、こうした施業方にかかわる所有者側の懸念は、プロジェクトが進展し、評価が定着してくれば、おのずと解消するものと思われる。

2.3)所有者負担の問題

こうした説明会を経て、結局、8.25ha、所有者5名の取りまとめに成功した。2ha弱、2名の所有者の同意が得られなかったが、これは見積ベースで10万円を越える負担が発生したためである。仮に、所有者負担がないか、もしくは少なかったら全員の取りまとめは可能だったろう。なお、所有者負担を可能な限り求めないことによって取りまとめを行うのが本プロジェクトの基本的な考えだが、今回は初めての試みであり、森林組合が安全係数を高くした結果このような見積りとなった。

他方で、見積ベースで5万円ほどの所有者負担となる0.3haほどの所有者の同意が得られた。これは、山林を相続したがどこにあるかわからず探していたところ、森林組合から話を持ってきてもらい、しかも、整備までしてもらえるのはまことにありがたいとする所有者だった(実際の施業の結果は、所有者負担は発生しないですんだ)。

3)2004年11月〜(技術支援)

3.1)生産性分析チームの立ち上げ

9月の全体会合では、生産性向上を図るため、工程調査の分析を行い、これを作業班にフィードバックし、改善に結びつけることとも決定された。このため、静岡県林業技術センター、静岡大学、東京大学の協力を仰ぎ、生産性分科会を立ち上げることとした。

11月から12月にかけて、渡邊理論に基づく作業路開設と3存1伐による間伐方式を採用して作業路開設による支障木伐採・搬出チームと、間伐による伐採・搬出作業班の2チームによって施業を行うと同時に、静岡大学近藤助教授指導の下に、工程調査を実施した。

また、施業途中段階の11月に生産性分析分科会を開催し、今回の施業方法や今後の方法論(道幅、機械等)などについて議論を行い、続く12月には、全体会合・生産性分析分科会を開催し、生産性分析チームによる現状報告にもとづく検討や、今後のスケジュール、広報のあり方などを討議した。

静岡新聞

3.2)プロジェクト広報

12月7日付け静岡新聞静岡版に、富士森林再生プロジェクトが比較的大きな取り扱いで報道された。

1月14日に富士宮市長を表敬訪問するとともに、森林組合理事に対する説明会を行った。市長表敬訪問は、静岡新聞で報道されたことが市長の関心を引いたことを契機としている。さらには、3月4日の市議会における施政方針演説の中で、市長は「富士森林再生プロジェクト」を取り上げた。

このようにプロジェクトを内外にPRすることは、森林所有者の本プロジェクトへの関心を高め、取りまとめをよりスムースにすること、プロジェクトを後戻りできなくし、関係者が不退転の決意でこれに臨むようになることなどの効果があると考えられる。

静岡新聞

3.施業結果

2月に生産性分析分科会を開催し、施業結果を分析するとともに、次回施業地に対する改善案を協議した。この分析会には、作業班責任者も同席した。

主な分析結果は、以下のとおりである。(詳細は、参考資料4「富士森林再生プロジェクト 生産性分析結果報告」および、参考資料5「富士森林再生プロジェクト システムダイナミクスによる生産性向上の改善」参照)。

1)施業分析結果

・施業面積8.25ha、3存1伐の列状間伐、作業路開設にかかわる支障木+劣勢木伐採で、間伐率30%。

・木材生産量740?、作業路開設1205m、売上げ840万円(補助金含まず)、経費742万円(作業関係直接費のみ.。機材の設置・撤収作業は含まず。以下同じ)。

・経費(742万円)内訳:木材伐採搬出費518.5万円、運送費147.6万円、作業道開設75.4万円。

・木材?当たり経費:木材?当たり:売上げ11,350円、伐採搬出経費7,000円、運送費2000円。

・木材生産性(伐採/搬出): 4.6?/人・日(6時間稼動で計算)。経費7000円/?。

・路網開設生産性:68m/人・日。経費626円/m。

2)生産性改善関係

・作業班2チームのコーディネートの改善と、間伐による造材方法の変更により、生産性向上の余地が大きい。

・より効率を上げる方法として、将来的にはプロセッサやハーベスタの導入も検討する要あり。

・上記提案を、システムダイナミックスモデルにもとづいてシミュレーションを行い、以下の結果を得た。

・現状の機械を前提として最低5?/人・日の生産性。

・工程に改良を加えると6〜7.5?/人・日の生産性。その場合の伐採搬出経費は、今回の7000円から、5400円〜4300円へと低下。

・さらに、プロセッサを導入すると、生産性は一段と向上する(丸太処理能力が今回の83本/日から150本/日に)。

3)生産性改善に向けての具体的なステップ

・作業班責任者は、次回施業には、今回の分析結果を反映させることで同意した。

・次回は今回の施業地に隣接する8haを対象とする予定だが、そのプラン作成に際しては今回の分析結果を取り入れた改善案を提示する予定。

・理論と実践を近づけるべく、生産性分析を行い、フィードバックする。

4.とりあえずの評価と今後の課題分析

1)所有者取りまとめをすれば宝の山

本プロジェクトにおける施業はまだ1回、8.25haの実績しかないが、それでも所有者の取りまとめさえできれば、富士山麓は宝の山となりうることが判明した。今回の施業地の平均林齢を50年としても、ヘクタール当たり木材販売収入が100万円なので、毎年2万円/ha価値が増大してきたことになる。仮に10年後にヘクタール当たり50 ?(今回の伐採量90?)の間伐を行うとすると、材価1万円/?としても、売上げは50万円となり、今度は、毎年5万円/ha価値が増えることになる。

もちろん、この価値を現実の利益とするためには、木材販売収入によって木材生産コストをカバーできなければならないが、今回の施業ではそれを達成できた。しかも、生産性分析によれば、現状の機械を前提としても生産性は4割近くにまで上昇するのであり、これに新たな機械を投入すれば生産性は一段と向上することから、木材生産コスト削減の余地はまだまだ大きい。すなわち、富士においては、所有者の取りまとめさえ行えば宝の山となることが今回のプロジェクトで判明した。

これが地域経済に与える影響はどうだろう。仮に既存の機械を前提としたシミュレーションにしたがって生産性が7?/人・日に増加したとすると、年間実質稼働日数200日で1400万?/年の木材生産量、1400万円/年の売上げになる。この生産性で富士山麓1万haを年10年で一巡のローテーションで毎年1000ha間伐するとなると、作業班だけでも35〜50人は必要となる計算である。これに、コンサルタントなどの専門サービスや運送、製材関係などを加えると、その経済的波及効果は大きい。

もちろん、これを実現するためには年間200日フル稼働できるだけの事業量を確保することが不可欠で、そうした意味からも所有者取りまとめの重要さがわかる。

生産性に関する課題は、第二施業地、第三施業地と実績を重ねていくことによって、これを証明していくことである。

2)林業関係者の連携強化と木材販売ルートの開拓

木材販売ルートの開拓も、重要な課題である。森林組合は、地元共販所に材があふれている現状では、木材販売が今後とも順調に進むかどうか不安があるとしており、森林プランを作成するうえでの不確定要因となっている。仮に、木材の販売先を安定的に確保し販売価格を取り決めることができれば、施業見積の確度はかなり高くなることから、より広範囲にわたり所有者に働きかけを行うことができよう。

この点に関しては、地元共販所や大規模所有者との連携強化が必要となる。共販所との連携では、既存顧客のよりきめ細かいサービスの提供による需要拡大と新規顧客開拓が課題となろう。また、富士地域に存在する、製紙会社などの比較的規模の大きな社有林との連携では、より合理的な施業と木材の安定供給体制の構築の実現が課題となる。

3)森林組合経営に対するサポート

なお、日吉町森林組合のように地元森林整備の中核的担い手となるには、森林組合に対する取りまとめや技術面でのサポートのみならず、場合によっては経営内容そのものにまで踏み込んでサポートするのが望ましい。しかしながら、今回のプロジェクトはパイロットプロジェクトとして、われわれから富士森林組合に提案して始めたものであり、先方から依頼を受けたものではないため、森林組合の経営そのものに対しては必ずしも十分なサポートができるとは限らず、この点はプロジェクトの課題となっている。

4.富士を特殊化するな

富士森林再生プロジェクトは、富士のような場所だから可能となったということで、自分のところでは違うとする森林組合が多いだろう。事実、林業界では先進事例に対して、xxxだからできたという言い訳の繰り返しだった。

しかしながら、林業には間伐や路網開設などには補助金が出ているのであり、これを利用すれば、富士ほどに条件がよくなくても、不利な部分を相殺し、所有者負担を可能な限り少なくすることはできるはずである。実際、京都府日吉町の地形は林業を行うには相当に不利な地形だが、それでも森林組合は補助金をうまく利用して、悪条件を克服してきた。

基本的には、補助金を利用すれば実行可能なはずであり、ひとたび路網を構築し、境界をある程度確認しつつ間伐を行えば、次回以降は確実に生産性があがり、採算ラインにのるようになるはずである。

要は森林組合のやる気とそれをサポートする体制をどう構築するかの問題である。

V.プロジェクト実施要領

富士森林再生プロジェクトでのいままでの経験を踏まえ、今後、森林景観の改善を図るため、同種のプロジェクトを他地域で行う場合の実施要領を、以下のとおりまとめた。

1.原則

・ 森林組合が地域森林整備の中核的担い手となって実際に間伐を行うプロジェクト方式とする。

・ 基本理念は、「所有者の取りまとめを行い、将来的には林業の自立を目指すことによって、地域森林整備・地域経済に貢献する森林組合になること」。

・ 民間、行政、研究者等が対等な関係にもとづくパートナーシップを組んで、プロジェクトをサポートする。行政と森林組合という従来の枠組みを超えた対等な関係にもとづいてはじめて、各関係者がプロジェクトに具体的な貢献を果たしうる。これが、「対等な関係にもとづくパートナーシップ」の意味である。

・ 現地調査とそれに基づく路網設計を行い、可能な限り伐採・搬出コスト削減をはかったうえで森林プラン(見積もり)を所有者に提示し、林地を集約化して合理的・効率的な施業をはかる。

・ 所有者との信頼関係の構築を最優先させる。例えば、見積もりには責任を持ち、実際の施業が見積もりをオーバーした場合、所有者に追加負担を求めない等である。そうでない限り、地域の森林を持続可能に管理することは不可能である。

・ 理念の共有化を促進し、内外にPRしやすくするため、「富士森林再生プロジェクト」のように、プロジェクトに名称をつける。

2.サポート項目

・ まずサポートすべきは、所有者取りまとめ(ソフト)と機械の効率的な利用・路網構築(ハード)であり、ソフト・ハードはセットで行う必要がある。

・ 経営全般。

・ 間伐(造林)技術。

・ 需要開拓。

3.具体的な進め方

1)スタートアップ

・ 対象となるのは、所有者の取りまとめを行い、将来的には林業の自立を目指すことによって、地域森林・地域経済に貢献したいとの問題意識を有する森林組合。もしくは、そうした意識をもつ幹部がいる森林組合。

・ 事務局を設置し、プロジェクトに貢献しうる人材を発掘する。

・ 森林組合職員の理念の共有化をはかる。コアメンバーによる事前会合により、プロジェクトの進め方等について討議を行ったうえで、関係者による全体会合を開催し、関係者間での理念の共有化をはかる。理念の共有化は、ベクトルを一致させ、モチベーションを高めることにより、総合力を発揮するために不可欠である。

2)所有者取りまとめ

・ 森林組合職員(含む技能職)に対する研修(日吉町森林組合)および先進事例視察を行う。

・ 集約化する場所を選定(1団地5〜10ha程度)し、施業方法を決定する。施業地は当初は無理をしないで、所有者を知っている林地を核にして広げるとか、傾斜がゆるいなどのやりやすいところを選定する。

・ 列状間伐か定性間伐か、設計する路網や利用する機械について、十分な検討を加える。

・ 施業予定地の見積もり・施業プランを作成し、全体会合で議論のうえ、説明会を開催する。説明会には、森林組合だけでなく、プロジェクト関係者にも加わってもらい、プロジェクトの本気度をアピールする。

・ 説明会においては、関係者によって事前に施業方法を十分検討のうえ、確固たる意志をもって所有者に提示する。つまり、所有者の意見を個々に採用したのでは集約化はできない。最良と思われる施業方法を提案し、十分に所有者を説得することが、必要である。

・ 初期の段階では所有者の説得は必ずしも円滑には行かないかもしれないが、実績を示すことにより、改善は十分に可能である。

・ 説明会開催に先立ち、施業予定地で所有面積が大きいなど核となる所有者には事前に説明し、あらかじめ同意を取り付けておく。また、座談会の所有者側出席者は、10人前後が限度である。それ以上多いと、十分な意見交換もできにくくなり、取りまとめが困難となる(ただし、地域や状況によって異なりうる)。

・ 説明会の開催は当初は不可欠だが、プロジェクトの認知度が進み、信頼関係が醸成されてくれば、郵送などの手段で対応することも可能となる。後は、必要に応じて(大規模団地化等)開催すればよい。

・ プロジェクトの実施状況をにらみつつ、広報活動を行う。本プロジェクトは森林組合のみならず、行政や森林林業関係者が一体となって積極的にこれに進めていることを広く訴える。

3)生産性向上と需要開拓

・ 施業に際しては、専門家による工程調査・分析を行う。作業班には野帳の記録をしてもらい、施業終了後、生産性分析会を開催する。

・ 第1施業結果の分析を踏まえた改善策を取り入れ、次の施業プランを策定。以降、こうしたプロセスを何回か繰り返し、その地域にあったプランにしていく。

・ (需要開拓に関してはその協議が始まるところであり、結果は後日報告する)。


第2部 資料(PDFファイル:1492KB

資料3:富士森林再生プロジェクト 日吉町森林組合研修報告 58

資料4:富士森林再生プロジェクト 生産性分析結果と生産性改善に関する提案 66

資料5:富士森林再生プロジェクト システムダイナミックスによる生産性改善に関する分析 80


米国ウイスコンシン州の林業事情(1)

―Spring Green の河畔林経営―

                 鈴木和次郎(森林総研)

大平原の“大きな家”

成田から12時間、モンタナ州のミネアポリスで入国手続き後、小型ジェット機に乗り換え、1時間、15時間に及ぶ長時間の移動の果てに、ウイスコンシン州Wausau近郊の小さな空港(Central Wisconsin Airport)にたどり着く。ウイスコンシン大学Stevens Point校、自然資源学部のRogers教授夫妻が私たち二人(私と金指あや子さん)を出迎えてくれた。

今回のアメリカ行きは私たちが現在取り組む希少樹種ハナノキの保全のための研究プロジェクトの一環として、北米東部に広く分布するハナノキの仲間、アメリカハナノキRed maple(Acer rubrum)とSilver maple(Acer saccharinum)の林分を調査し、その生態を知ることで、希少樹種であるハナノキの保全に役立てようとするものであった。また、折角の機会なので、見ることの少ないこの地域の林業事情を視察しようと、今回の調査を受け入れてくれたRogers教授にお願いし、施業地の視察も予定に組んでもらった。これはその林業視察の報告である。

私たちは、早速、空港から40分ほどのStevens Point郊外のRogers教授の自宅に向かう。今回、Stevens Point滞在中は、教授の自宅にお世話になることになっていた。実はテレビドラマで有名な「大草原の小さな家」の物語は、このウイスコンシンからはじまっているとのことであるが、教授の自宅は純農村地帯のど真ん中で広い敷地の中に立つ平屋の大きな家であった。(写真1)

写真1:ウイスコンシンの農村風景(Stevens Point)

Lower Wisconsin Riverway Forestの水辺林

Stevens Pointにある自然資源学部(Collage of Natural Resources)の林学科(Forestry)から、もろもろの調査道具を借り出し、最初の調査地であるSpring Greenに向かう。Spring GreenはStevens Pointから南に150キロ、Wisconsin川の下流部の小さな田舎町で、ここにWisconsin StateのDepartment of Natural Resources所管の森林事務所がある。この事務所の管理するLower Wisconsin State Riverway を中心に、Red mapleとSilver mapleの調査を行うことになっていた。Lower Wisconsin State Riverwayとは、ウイスコンシン川下流部の氾濫原に広がる河畔林で、1989年にウイスコンシン州政府がその自然環境を保全しつつ、林業活動を持続的に展開するために、特別立法を行い、地域の郡関係者で構成される経営管理委員会のもとで、州政府の職員により実際の経営・管理が行われている。(写真2)


写真2: Spring Greenにあるウイスコンシン州自然資源局の管理事務所

この事務所のForesterのBradly Hulkely氏の待ち合わせをし、Wisconsin川のそばにある管理事務所を訪れた。この事務所はWisconsin川の両岸にある氾濫原に成立する河畔林28000ha のLower Wisconsin Riverway Forestを経営・管理する州政府の機関で、その目的とするところは、河畔林の野生生物の生息場所保全と木材生産(経済活動)の両立だという。しかし、この事務所のスタッフの構成は極めて専門的で、野生動物管理、病虫害対策、山火事管理などの専門家で構成され、さらに各地区に山番(Warden)を配置する職員数16名の組織である。Hutnik氏は、この事務所のForesterで、森林の経営計画の立案、実行を担当する他、森林調査簿の作成やモニタリングなども行っている。森林植生にも詳しく、多くの樹木・草本植物についても豊富な知識を持っている。事務所の職員にあいさつ回りをした後、早速、目的とするSilver Mapleの林を見に行く。本当のことを言えば、私たちはRed mapleの調査を中心に考え、ついでに同じハナノキ節に属するSilver mapleも調査してみようということだったので、正直困ったなと思った。しかし、Riverwayであれば、それはSilver mapleであり、Red mapleではない。彼らがSilver mapleの林を案内するのはもっとものことである。(写真3)(写真4)


写真3:Wisconsin川の下流部に広がるLower Wisconsin State Riverway



写真4:河畔林の内部、Silver mapleやGreen ashが優占する

さて、このWisconsin 川の氾濫原に成立する河畔林とはどういったものなのか、簡単に紹介してみよう。Wisconsin川は州を南北に縦断する大規模河川で、Spring Greenから50kmほど下ればミシュシュッピー川に合流する。川幅はおよそ200m-300m、その両側にある数100mの氾濫原にほぼ手付かずの河畔林が残されている。主要な構成樹種はSilver maple、American elm(Ulmus americana)、Eastern cottonwood(Populus deltoides)、Green ash(Fraxinus pennsylvanica)、Swamp oak(Quercus bicolor)で、日本の河畔林の一形態、ハルニレ・ミズナラ林と類似した生態学的位置にある。しかし、その群集構造は実妙な微地形構造の違いによって優占樹種をことにしている。流路に近く、より河川撹乱の影響を受ける低位の氾濫源では、Silver mapleが優占し、高位になるとSwamp oakの優占度が高くなるといった具合である。通常、河畔林で撹乱頻度の高い場所では、ヤナギ類が優占するのが一般的であるが、ここではSilver mapleやGreen ashがそれに代わっている。その背景として、河川の撹乱体制の歴史的な変化が指摘されている。かつてWisconsin 川の河畔林には、ドロノキ(Populus deltoides)やヤナギ(Black willow: Salix nigra)が優占していたが、上流部における多数のダム構築と流量調整が融雪洪水による新たな開放的な砂礫堆積地の形成に結びつかず、ヤナギ科植物が衰退、代わって融雪洪水時に種子を散布するSilver mapleが河畔林への河川水の季節的流入と撹乱、停滞という環境を有利に利用して更新、優占度を増していったと考えられている。(写真5)


写真5:株立ちが特徴のSilver maple

水辺林の経営・管理

これまで、State Riverwayは、水辺林の保護・保全を中心に管理されてきたが、現在は本格的な林業経営に乗り出しているように見受けられる。それは一つにLower Wisconsin State Riverwayが州有林と私有林で構成されるという特殊な地位があるように思われた(State Riverwayの1/3は民有地)。つまり経済林としての経営を強く求められた結果、本来、手付かずで残すべき河畔林において林業活動が計画されるに至った。もう一つの理由に、水辺林の保全と健全性の確保を図る上での技術的な問題がある。それは、Wisconsin 川上流で多数のダムが構築され、流量調整がされた結果、河川の撹乱体制に大きな変化が生じ、その結果、河畔林の更新・動態に大きな影響を及ぼし、河畔林が本来の姿を失い、存続が危ぶまれていることにある。このまま推移すれば、河畔域はさらに安定し、河畔林の遷移が進み、河川撹乱に強く依存するヤナギ科植物はもとよりSilver mapleをはじめとする河畔林構成種の更新が阻害され、将来は安定した立地に生育する樹種に置き換わっていくことが危惧されている。実際に、現在の河川撹乱体制の下では、新たな更新サイトは形成されず、一斉林型のまま推移して、将来、どのような森林になって行くのか、想定できないでいるというのが実情であるという。

そうした中で、State Riverway には人為的な撹乱(伐採)を導入することで、本来の河畔林の姿を取り戻し、維持しようという考え方が生まれ、現在、具体的な作業に着手しつつある。そのため採用した施業とはGroup selection cutting(群状択伐)である。具体的には施業対象地に施業区を設定し、抜き伐り行うというもので、120年の回帰年を設け、15年ごとに8回に分けて伐採箇所を変えながら、群状択伐を実施するというもの。この際、一回の伐採総面積は10haを上限とし、一伐区面積は0.2-0.4haとしている。その最終的な目標林型は、Oakの更新を促進することにより、林分の初期遷移の改善と多様な齢構成からなる森林を造成することである。(写真6)


写真6:State Riverwayにおける施業方針を説明するHutnik氏

伐採は、森林の機能、特に野生動物の生息環境を損なわないよう、伐採対象樹種、対象木、伐採率(樹種、密度材積)などは、状況により判断し決定しているようである。この際は、野生動物管理の専門スタッフとの協議が不可欠だという。実際に伐採予定箇所を案内してもらい、また対象林分で調査も行ったが、群状択伐というものの実態は単木択伐に近く、Oak類を残し、先駆性樹種、小径木・被圧木を中心とした選木が行われていた。現在は立木処分の入札段階で、どの程度の販売価格に落ち着くのかわからないが、大中径木の良質材は家具用材、その他はパルプ用材に利用され、価格的には十分利益が得られるとのことだった。このウイスコンシンは、かつては一大林業地帯でWisconsin 川沿いには多くの製材所が立ち並び、現在も大手のパルプ会社が存在するので販路はあるという。

心配されるのは、期待するような木材生産と野生生物の保全が両立するのかという点である。これについて、Hutnik氏はまったく問題が無いと言い切る。しかし、実際の施業は始まったばかりで、伐採後の河畔林の変化についての情報は無い。特に気になる点は、伐採により林冠が疎開した場所で、期待したような更新が起こりうるのだろうかいうことである。この河畔林の林床には、多様な草本植物が生育し、特にイラクサの優占度が高いが更新を阻害するほどではない。しかし、風倒などのよって形成された林冠ギャップ内であっても、林冠層を構成する樹種の更新木は見当たらない。こうした樹木の更新には、やはり大規模な河川撹乱が必要に思われ、群状択伐作業は残存木の肥大成長を促すだけにとどまるような気がした。木材生産が優先されれば、河畔林の質的低下につながる可能性もある。こうした危惧に対しHutnik氏は,確かにそのような心配は残るので、施業跡地での更新や植生遷移についての追跡調査は不可欠であると強調していた。

Spring Green, その他の林業

先に述べたように、Spring Greenを訪ねたのは、あくまでもアメリカハナノキの林分調査を目的にしたもので、河畔林は言わばおまけのようなものであった。そこで、Hutnik氏に無理を言って、周辺に適当なRed  maple林を探してもらった。州有林には、適当なハナノキ林が無いとのことで、二人の山林所有者から調査許可を得てもらい調査に入った。アメリカハナノキ(Red maple)はSilver mapleとは異なり、河川撹乱に影響されず、その分布立地も広い。近年は伐採など人為撹乱後に斜面下部から尾根にまで進出し、Northern red oak(Quercus rubra)に取って代わり、問題となっている。最初に調査を行った私有林は、面積およそ数10haの二次林で、谷底部ではハナノキやハルニレ(Ulmus americana)の林分が、尾根部にはRed oakを主体とする林分が形成されている。この森林は伐採後に成立した二次林で、シラカンバ(Paper birch: Betula papyrifera)が多数混交していたが、これを積極的に捨て伐りし、より材価の高いハナノキやナラの林に誘導する施業を実施していた。ウワミズザクラの近縁種であるBlackcherry(Prunus serotina)の大径木が育っているのが印象的であったが、総じて伐採跡にはハナノキがよく更新し、将来的にはハナノキ林となると見られた。同じ山林所有者が尾根部でナラの天然更新施業を行っていた。ここでは、ナラ以外の樹木を伐採し、天然下種により更新を図ろうというもので、地床に火入れも行っていた。一種のShelter wood cutting(傘伐作業)であるが、実生の更新は見られなかった。ナラの更新には数回の火入れが必要だとHutnik氏は強調する。この地域で、ナラ類が衰退し、代わってアメリカハナノキなどが優占する背景として、近年の火入れの減少が指摘されている。すなわち、耐火性の低いカエデ類などは、頻繁に火入れがされることによって、更新が阻害され、結果ナラ類が更新、維持されてきたというのである。(写真7)


写真7:ナラの天然更新施業(母樹保残法)、更新補助作業(火入れ)が行われている

もう一箇所は、所有者がトウモロコシ栽培の農家(なぜかオーストラリア人)である。裏山は伐採跡の若い二次林で、特に積極的な経営を行ってはいないが、二次林が十分に成長すると立木処分で皆伐を行うという。伐採周期が長い薪炭林施業といったところで、更新は萌芽と実生によりさほど技術的な難しさはないという。しかし、ここでも問題となっているのがナラの相対的な割合が減少し、ハナノキやシナノキ、ヤマナラシなどの広葉樹に置き換わりつつあるのだという。ナラは建築用材から家具材まで広い用途を持ち、この地域の林業にとって重要な意味を持つが、その資源が減少して行くことに対する強い危機感が見られた。一方、この地域で、針葉樹の人工林施業はほとんど見られない。造林地はあるが積極的に経営しているとの話は聞けなかった。さらに林業への危機感もない。材価が安いので山林の手入れが遅れ、問題となっているとの話も無かった。積極的な林業経営も無い代わりに、山林を所有することで、それなりの収入がえられるということなのかもしれない。Riverway Forestの選木された木でも感じたことだが、日本では良質材、大径材を選択的抜き伐りしない限り、経済的にペイしないし、収益確保のためにそうした略奪的な伐採に走る傾向があるのだが、Wisconsinでは事情が違うようだ。(写真8)(写真9)


写真8:丘陵地帯に成立する広葉樹二次林



写真9: ナラ林にアメリカハナノキが侵入し、優占度を増している

Spring Greenのその後

 私たちがウイスコンシンから戻った翌週、Spring Green付近を巨大なトルネード(竜巻)が襲い、死者まで出たとのTVのニュースが流れた。さらに巨大ハリケーン・キャサリンがニューオリンズを襲い、甚大な被害をもたらした。その後、Hutnik氏からメールが届き、幸いハリケーンにおる被害はなかったものの、トルネードによりRiverwayが少なからず被害をこうむったことのこと、その被害状況が添付ファイルの写真で送られてきた(写真10)。そこには竜巻により河畔林が連続的になぎ倒されている状況が写っていた。この地域の自然撹乱は、河川の氾濫だけではないことがよくわかった。Hutnik氏は、被害は大きいが、被害木の処理は行わず、そのまま放置し、人為撹乱(伐採)と自然撹乱(風倒)の河畔林に対する影響の違いを評価するために、竜巻後の植生変化と群状択伐後の変化を追跡調査するという。また、この間行われた立木販売の入札価格の結果についても、Hutnik氏から報告が届いた。それによれば、もっとも高かったものは用材用のGray ashで,128$/MBF(1000 board feetおよそ2.36m3)、次いでSilver mapleが90$/MBF、 Basswood 75$/MBF、 Black oak 61$/MBFであった。また、その他の広葉樹が107$/MBF、そしてパルプ用材は75$/cord、1 cord はおよそ3.6m3)という結果であった。これらは立木販売での価格である。こうした価格が高いと見るか、安いと見るか単純に比較は出来ないが、確かにウイスコンシン州では林業が行われている。

次号では、ウシスコンシン州北部、Northwoodsでの林業を紹介する。

写真10:大型竜巻で風倒被害を受けたLower Wisconsin State Riverway(Hutnik氏提供)

第11回森林施業研究会シンポジウムのお知らせ

白神、知床の伐採問題を契機に実現した林野庁の保護制度の見直しから16年、今や白神、白床両地域は「世界自然遺産」に登録され、今や林業と自然保護は調整されているかに見える。しかし、現実はどうなのか?改めて、「自然保護と林業」問題を、林業・森林管理に関わる者の立場から考えてみたい。

テーマ:「改めて、林業と自然保護問題を考える」

話題提供:3題(林業・森林管理、自然保護、そして研究者の立場から)

日時:2006年 4 月4 日(森林学会大会最終日)午前9時〜

場所:東京農業大学

詳しくは次号のニュースレターでお知らせいたします。

<編集後記>

巷では「帯状間伐」なる不可解な言葉が業界用語として急速に浸透しつつあるようだ。「列状間伐」をさらに推し進め、作業の効率化と機械化を図る作業法として推奨されている。本来、間伐とは植栽木の成長に合わせ、立木密度を調整し、将来の収穫(最終収穫)の対象となる個体の成長を促すことを目的に実行され、間伐木も林産物収入として利用しようとするものである。ところが、いつの間にか、間伐は「林床植生の回復・繁茂を図り、もって林地保全と生物多様性の維持する」ものと説明され、理解されるようになってしまった。あげくは、温暖化対策やスギ・ヒノキの花粉症対策のための間伐法まで登場するに至っている。間伐を実行するためであれば、補助金確保のため、どんな理屈でも使って行こうということだろうか。しかし、それも程度問題である。帯状間伐は、その説明を聞く限り、もっともらしいことを謳っているが、実のところ、とりあえず、間伐収入を確保しつつ、間伐を推進しようとするものでしかない。選木技術を必要とする伝統的な定性間伐の考えは全くなく、また、従来の密度管理(定量間伐)の概念からも大きく逸脱するもので、個体間競争の理論その延長線上にもない。将来の最終伐期まで持ってゆく候補木の本数を減らすだけで、本来の間伐目的である山作りから大きく逸脱しているように思われる。一方、森林整備の手法として、間伐しか思いつかないというのも、林業技術者としてどうかと思うのだが・・・・・(狢)。

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