木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.33 2006.6.16.
Newsletter of the Forest Management and Research Network


特集:強度間伐をどう考えるか?

 関西地域の造林研究者や林業行政担当者との会話に、最近強度間伐がよく上るようになった。いったい、どのような背景があり、どのような状況になっているのか。気になったので資料をあたり、また関係者の話を聞いてみたところ、予想以上に重要な問題なのではないかとの印象を持つにいたった。

 そこで、とりあえず本特集を組んでみた次第である。以下、各地域で強度間伐現場を見て/関わっていらっしゃる諸氏の声を、東から順番に紹介するとともに、現時点での私なりの集約と解釈を末尾で述べ、今後の広範な議論を喚起したい。

 もちろん、私の理解不足や思い込みも多々あろうかと思う。本特集では総じて強度間伐-針広混交林化に慎重な声が多かったが、評価されている方も、一方では多いのではなかろうか。推進すべしとされる方も含めて、皆様からのご意見、ご批判を頂ければ幸いである。

(森林施業研究会事務局 大住 克博)


写真1. 2伐5残の列状間伐が実施されているヒノキ若齢人工林

「強度間伐」は森林の健全化につながるのか?

和田覚(秋田県森林技術センター) 

 昨今、針葉樹人工林に対する「強度間伐」の話題をよく耳にします。下層植生を回復させ、混交林化を促すことで、公益的機能を高めることが主なねらいのようです。秋田県でも、概ね30%以上の本数間伐を行うことで、より有利な補助事業が行えるようになり、実質的に強度間伐が推進され始めた現状にあります。少量多間伐するよりも、一度に強度に間伐してしまうほうがトータルコストの面で有利で、この点も魅力のひとつになっています。しかし、強度間伐によってほんとうに森林は健全化するのか、「複層林施業」の例もあり、私は一抹の不安を感じています。この点に関し、意見を述べたいと思います。

 短期的な問題として気象害があります。1991年の台風19号は秋田県内のスギ人工林に多大な被害を与えました。被害実態を解析すると、間伐強度が高い林分ほど被害率が高い傾向にありました。さらに、この冬の豪雪でも、強度間伐を実施した林分で既に冠雪被害が出ているようです。強度間伐を実施しようとする林分は、間伐履歴が少なく、高い密度で維持され、形状比が高く、樹冠の発達に乏しい林分が多いと考えられます。こうした林を強度に間伐することは、むしろ間伐をしない林よりも気象害に対し弱い林をつくることになります。施業の実施にあたっては、補助対象齢級で画一的に判断するのではなく、林況や施業履歴などからの技術的な見極めが必要です。ただし、こうした見極めができる経験者や技術者が減少していることも事実です。森林機能を高めるための施業によって森林が破壊されていては本末転倒と言わざるを得ません。

 そもそも間伐は、林木間の競争を緩和させ、個々の林木の直径成長を促し、時には収穫を伴いながら、生産量を高めていくところに目的があります。この過程で気象害への耐性を高め、下層植生が繁茂していき、水土保全機能等にも貢献していくと考えられます。しかし、昨今は、水土保全機能など、従来、副次的であったはずの機能が主目的となり、間伐の目的が歪曲してきた感があります。このことの良し悪しは別としても、強度間伐がこうした目的に見合う施業なのか、目的とした林分に果たして誘導できるのかなど、まだまだ情報が不足している段階にあると思います。短期的な見方に固執し、長期的な森林の扱いを見失う危険性もあります。このように、強度間伐は、将来に向けて看過できない問題を含んでおり、除伐や複層林施業、混交林施業等とも併せ、目的に応じた施業体系の再構築を考えていく必要があると思われます。

列状間伐から強度間伐を考えてみました

                       滝澤 伸(前宮城県林業試験場)

  宮城県の民有林面積(285千ha)のうち、半分以上(54%)はスギを主要な樹種とする人工林で、齢級構成は8齢級にピークのある一山型の分布になっています(平成16年度)。ある調査では、4齢級から9齢級までの針葉樹人工林面積うち、45%が5年以内に間伐の必要のある森林と判定されたとのことです。推定では49千haで、近年の年平均間伐面積のおよそ10倍で、間伐遅れを解消するだけでも10年かかることになります。また、立地条件、経営環境などからも、すべての針葉樹人工林を間伐が適正に実行されている森林として維持することは困難であるということは容易に想像されるところです。したがいまして、これまでの良質材生産を目的とした技術とは異なる森林管理のための技術も必要であると考えます。その技術とは、限られた労力で人工林の大半を占める一斉林分を将来にわたって木材を収穫し続けることのできる林分へと誘導し維持する技術。あるいは、広葉樹の天然更新を促しつつできるだけ手をかけないで維持できる林分へと誘導する技術ではないかと思います。

 ここで、33年生スギ一斉林で4伐4残の列状間伐を行ってから7年を経過した草本層と低木層の植生調査について簡単にご紹介します。列幅8mの「伐採列」と、同じく8mの「(立木の)残存列」それぞれ植列方向に20mの範囲で植生調査を行ったところ、「残存列」、「伐採列」ともに「ミツバウツギ」や「モミジイチゴ」等の低木類が優占していましたが、「残存列」には「ミズキ」や「アカイタヤ」などの高木性の樹種が偏って見られました。一方、「伐採列」では、ススキやヨモギ、クズなど、バイオマスの比較的大きい草本類が優占し、高木性の樹種で低木層まで生長しているものはほとんど見られませんでした。

 概観しますと、上層にスギがある「残存列」では、草本類は比較的少なく、低木類の間から、若干の高木性の樹種が低木層からさらに上層を窺う林型となっており、上層木のない「伐採列」では、低木類と草本類に覆われ、いわゆる有用広葉樹による更新は困難な状態となっていました。当初は伐採列に何らかの広葉樹が生育し、広葉樹林へと次第に移行するのではないかとの予想もありましたが、伐採後7年を経過した時点では、そのような兆候は見られません。かえって、「残存列」の方が適度に明るくなった事で、広葉樹の生育が促されたように見えます。ここでは、4列の列状の伐採という極端な例でありますが、一般的にも、強度の間伐で林内の光環境が変化し、「何年経過しても予想した林型にならない」ということは十分に考えられることです。

 言うまでもないことですが、同じ伐採方法でも植生や地形の違いによって、結果が異なるであろうことが考えらますので、様々な箇所でのデータの蓄積とその情報の共有が必要だと思います。さらには、現場の状況に応じて判断できる技術者が広く存在しなければならないとも思います。さらに、民有林での大きな課題は、強度の間伐という施業を、林業経営の体型の中にどのように組み込んでいくかということとではないかと思われます。このためには、更新から収穫までの施業を一体的に考え提示できなければならないと思っています。


「強度間伐」雑感

−ほんとは,まだ,ちゃんと評価できないけど−

横井秀一(岐阜県森林研究所) 

 世の中,“強度間伐”が流行の兆しを見せている。強度間伐を進めようとする理由は,大きく2つに分けられる。1つは,林業経営的にみて,強度間伐が有利,あるいは強度間伐でなければやっていけないという理由である。具体的には,「今の間伐で,少しでも収入を多くしたい(悪くてもトントンにしたい)。そのために,材を多めに伐り出す」とか,「間伐を何度もやってられないので,次に間伐が必要になるまでの期間を長くしたい。だから,林冠を大きく疎開させる」というのが,これに該当する。もう1つは,針葉樹人工林を,公益的機能が高く,保育の手間もかからない(としている。本当にそうかどうかはわからない)針広混交林に変えていきたい,という理由である。片方が,“林業で頑張るための強度間伐”であるのに対し,もう片方が,“林業と決別するための強度間伐”(言い過ぎ?)であるのは,興味深い。

 始めに断っておくと,ここで,強度間伐の是非を論じるつもりはない。というより,できない。強度間伐を客観的に評価するためのデータが,十分にないからである(裏を返せば,強度間伐をよしとする説明にも,十分な裏付けがないということ)。ただ,強度間伐について見たり聞いたりする中で,「ちょっと待ってよ」と思うときがある。本稿では,この“ひっかかり”について,現時点での私見を述べる。

●ひっかかり1:風害や冠雪害は大丈夫?

 強度間伐を行おうとする林分には,これまで,間伐がちゃんとされていない林も多いであろう。このような林では,ふつう,林木の形状比が高くなっている。こうした林分を急激に疎開すると,気象害が心配である。

 とはいうものの,間伐強度と気象害の関係は,実は,よくわかっていない(というのが筆者の認識)。「わからないから慎重に」と,気の小さい筆者は考えてしまう。

 ちなみに岐阜県では,補助金による間伐については,次に間伐が必要になるまでの期間を長くする(同じ山ばかりに何度も補助金を出せないので)ため,本数率で30%以上の間伐をするように定めている。ただし,冠雪害の危険性が高い林分(優勢木の形状比とその場所の冠雪害危険度から判定)では,危険性に応じて,25%の下層間伐(5年後の再間伐を前提)あるいは30%の下層間伐をするようにしている。

●ひっかかり2:今だけ良ければいいと考えてない?

 林業は,経済活動である。だから,収益を考えることは大切だ。問題は,それをどの時点で考えるかである。今の間伐で,売れそうな木を大量に伐り出せば,確かに,今の収入は増える。しかし,このために,森林の価値が低下し,将来の収入が減るかもしれない。

 過去の除伐や間伐で,不良木が除去されているなら,この問題はない(あまりにも伐りすぎなければ)。だが,不良木の多い林で,太い優良木を選択的に伐れば,後の林は悲惨な状態になる。

●ひっかかり3:本当に広葉樹が生えてくるの?

 「強度間伐→広葉樹の発生(を期待)→針広混交林の造成(を目標)」という図式で説明される強度間伐の場合,確実に広葉樹(この場合,高木性の樹種でないとダメ)が発生するか,疑ってしまう。そもそも,このような更新を目的とした伐採は,間伐とは言わない(これについては,後述)。

 今ある林木が除去され,別の種の樹木がそこに更新するには,その素がなければならない。前生稚樹,根株,埋土種子,散布種子など,どんな形態にしろ,とにかく素が必要である。これまで,何十年もスギやヒノキの林できたところに(周囲が皆これらの林ならなおさら),高木性広葉樹の素があるのだろうか。広葉樹林を伐採した後でさえ,思ったような広葉樹林が成立しないことがあるのだ。小心者の筆者としては,「木を伐って空けておけば広葉樹が更新する」とは,安易に口にできない。

●ひっかかり4:「間伐」とはどんなことか,わかってる?

 間伐は,森林の保育作業である。壮齢林や高齢林の間伐では,もちろん,収穫が重要な要素になる。しかし,間伐である限り,最大の目的は残された木の育成にある。林木が伐られてできた空間は,残された林木が使うのだ。更新を目的に林木を伐るのなら,それは択伐になる。列状間伐にしても,同じことだ。別の樹種を更新させるために,幅広く列状に伐採するのは,列状間伐ではなく,帯状択伐である。

 また,目的がよくわからないが(このことも問題),70%の強度間伐を行った事例とかを聞いたことがある。これを間伐と言うのか,考えてほしい。

 別に,用語の定義を振りかざすつもりはない。すべての作業が,どれかの用語にすっぽりと収まるとも思っていない。しかし,多くの人が“あること”に対して共通の認識をもてるようにするのが,用語の本質的な意義だろう。既に定義されている用語なら,できるだけ定義に則って使うのが,技術者(行政もしかり。NPOなども)たるものの作法だと思う。

●もう一言いわせてもらえば

 以上,強度間伐について,気にかかっていることを述べた。もう一歩踏み込んで話をすれば,場当たり的な視点ではなく,長期的な展望の中で,今の間伐をどうするのか考えることが大切だと思う。

 「将来,この山は,こんなふうにしたい。そのためには,これから,こんな管理(利用を含む)が必要だ。だから,今,こんな間伐をする」ということを,山林所有者はもとより,地域(行政や森林組合?)でも考えてほしい。ときには,「今はとにかく,こんな間伐でしのいでおく。先のことなど,わからない(から考えない)。次のことは,そのときが来たら,考える」ということがあってもいいだろう。ただし,全部がこうなってしまっては,さすがに困る。

 林業は,森林施業だけでは成り立たない。伐り出された木材が,流れて,使われて,はじめて産業といえる。需給がセットで機能しなければ,健全な林業もあり得ない。伐り出す側が場当たり的では,受け入れる側の見通しがたたない。将来の山づくりと木材利用をセットにしたビジョンを,国,都道府県,市町村,森林組合,山林所有者,それぞれの立場で(対象が広くなるほど,アバウトでよい。対象が狭いほど,具体的に),持つことが大切だと思う。

 何にしても,人工林の間伐問題を直視し(?),何とかしようという流れが起きていることは,いいことだ。願わくば,その方策は,議論と検証を経て得られた結論であってほしい。一方で,とにかく走り出してしまったものについては,やりっ放しにしないことが大切だ。その後を追跡調査し(観察でもいい),次に繋がる情報を皆に伝えてほしい。

強度間伐と植生遷移について   

今井 正憲(京都府林業試験場) 

 強度間伐は、本来の森林施業の中から派生した手法というよりも、森林の多面的機能の確保を目的とした緊急処置と言えるのではないでしょうか。京都府においても、行政主導で放置状態の人工林に対して実施される間伐は、伐期(主伐林齢)や収穫予想に基づく密度管理といった、育林体系との整合はほとんど考慮されていないのが実情です。現場では、次回の間伐が何年後になるのか、先の見通しが立たないため『この際、通常よりも多めに伐っておこう』という判断になり、結果として強度間伐になっています。

 一方、強度間伐を施業内容の面から考えると、人工的に林冠にギャップを発生させるものであり、風雪害をはじめとする気象災害への抵抗力の低下が懸念されます。これについて、別の見方をすれば、強度間伐と気象災害による階層構造の攪乱が、間伐の遅れによって停滞状態にあった植生遷移の進行を再開させるきっかけになる、と考えられるのではないでしょうか。

 従って、強度間伐を選択する林分は、将来の経済的価値をそれほど期待せず、侵入樹種との混交を容認する人工林であり、かつ、植生遷移の進行を妨げるシダ類やササ類が林床を覆う心配がないことが条件になるでしょう。また、混交林への誘導を目的に強度間伐を実施する場合は、周辺の広葉樹林などからの飛来種子による実生が重要になります。広大な人工林においては、種子供給源からの距離が近い林班から着手するのがよいと思われます。

強度間伐による針広混交林化の是非と功罪を問う

谷口 真吾(兵庫県立農林水産技術総合センター森林林業技術センター)

 兵庫県内でも点状あるいは列状の強度間伐(機械的間伐)を行い、針広混交林に誘導すると称した施業をちらほら見かけるようになった。これまでの間伐のように、経験と勘あるいは科学的根拠に頼る選木を必要とせず、機械化により作業効率を高めて間伐コストを大幅に下げた間伐。高性能林業機械による機械化は労働安全の向上につながり、間伐の推進と間伐の実施面積の拡大に貢献する。強度間伐は確実に一定割合の良質材が含まれ、間伐材搬出による収益増に直接つながる。間伐による収益を高めようとすればさらに、良質材のみを選択的に抜き伐るので、必然的にさらなる強度間伐になっていく。間伐後、天然更新等によってスギ天然林のような針広混交林になる。という図式であろうか。強度の間伐によってこれまでに諸処の理由で間伐ができなかった間伐手遅れ林分を一気に生まれ変わらせていこうとする起死回生の間伐法として、浸透しつつある強度間伐。しかし、私には諸手を挙げて歓迎する気になれない。かなりの違和感がある。ここでは、今一度、強度間伐施業林を検証し、原点に立ち返り間伐を実施する意義を議論して、健全な人工林を造るための主要な保育作業のひとつである間伐の目的を再認識する必要性を痛感している。

 点状の強度間伐林を調査したデータがある。平成14年に間伐して、平成16年秋の台風被害で残存木が全滅した。それは44年生のスギ人工林、過去の間伐回数は除伐1回、下層間伐2回、兵庫県の民有林ではかなり標準的な林分である。間伐前の胸高断面積合計は64?/haである。強度間伐後の胸高断面積合計は33?/ha、この林分から最初の蓄積の48%分、31?/haの胸高断面積合計分の立木が間伐された。(超)強度間伐である。そして間伐対象になった木は、大径の良質材を選択的に間伐している。作業は高性能林業機械を有する県内でも有数の林業会社が間伐したが、間伐費用を差し引いても所有者の元にはいくらかの収益の還元があったようだ。しかし、残った立木は間伐木に比べ、直径が小さく、被圧状態にあったようで、クローネの発達も弱く、樹冠量も少ないものが多く残っていた。

 所有者は、間伐直後には残したスギ林の林床には広葉樹が天然更新し下層植生が豊富になり、天然林のような針広混交林になる。そして林内に繁茂した広葉樹が、スギが育つための養分をたくさん供給してくれる。と自信たっぷりに話してくれた。そこで、残された胸高断面積合計33?/haの立木のクローネが拡張し樹冠量が回復し、幹が肥大するのかを調査させてもらうことにした。この森林のある地域の人工林率は高く、種子供給源である広葉樹林は少ない。しかしながら、確かに間伐後には間伐材の搬出のために林床の攪乱があり、カラスザンショウやアカメガシワの稚樹がたくさん発生した。台風被害を受けた年にはクサギやタケニグサが繁茂し、林床の植生は増えた。このまま順調に高木性の広葉樹が更新し、針広混交林への誘導が成功するか否かは多様な要因が絡んでくる。私はこれまで何カ所かの林分で、このタイプの針広混交林への誘導法も検証してきた。カラスザンショウ、アカメガシワ、クサギ、タケニグサの繁茂は、ともかくも針広混交林になる初期の遷移過程である。しかし2年後、風倒被害を受けて全滅した。この所有者の他の所有林は比較的手入れされているが、さぞかし無念であったと思う。

 風倒被害を受けて、森林復旧のために風倒木の搬出作業をする所有者に会って話した言葉が印象的であった。それは、強度間伐でいくらかの収益があり、最初はよかったと思ったが、なにか「違和感」を感じ続けていたというのである。「違和感」を感じる強度間伐、その是非あるいは功罪を施業林の再評価や間伐の意義の再認識とともに判断し、一定の方向性を早急に出していかなければならないと感じている。

高知県における強度間伐

渡辺直史(高知県) 

 高知県では、二つの目的で強度間伐が行われています。第一は、強度の間伐を行うことにより、林内の光環境を改善して植生の発達を促して最終的には針広混交林へと誘導し、水土保全機能、生物多様性を高めていこうというものです。この実施には森林環境税が財源として当てられ、本数率で40%以上の間伐を行っていますが、林床植生を発達させるための上木の管理等、技術的な検討は行われていません。人工植栽を行わずに、単木の抜き伐りの間伐のみで、針広混交林化が可能かという疑問もあります。本数率で、40〜70%の間伐を行った林分を調査しても、林床は低木類が大半を占め、高木類はごくわずかしかみられないという実体があります。

 第二は、収入間伐のコストダウンのために間伐強度を上げるというものです。現在の材価では皆伐しても再造林費用が出ないため、林業の持続のためには、収入間伐を繰り返しながら長伐期化をしなければならない、という背景があります。本数間伐率で50%を超す林分が多く見られ、収入を目的としているため優勢木も相当数伐採されるため、材積率も高くなります。しかし、強度の間伐を行ったヒノキ林分では、ヤニ流出木が多くみられる場合があり、まれに枯死木の発生もみられます。また風害の心配もありますが、これら残存木への影響についても検討はなされていません。

 いずれにしても、現在行われている強度間伐は、目先の問題への対処のみを考えて実施されていると思われます。また「間伐」=「水土保全機能・多様性の高まり」というイメージのみが先行していると思われ、それぞれの目的にあった森林施業技術、長期的な森林育成という視点が抜けていると思います。

間伐施業を巡る現状とその問題

近藤洋史(森林総合研究所九州支所) 

 平成16年度森林・林業白書には、間伐を、健全で活力ある森林を育てていく上で不可欠な育林作業の一つであると述べられている。そして、間伐を適切に実施することは、形質の優れた利用価値の高い木材が生産されることばかりでなく、森林内に適度の光が入り低木や下層の発生が促され、表土の流出が防止されること、被圧された樹木が除かれ風雪害、病虫害の発生が抑えられること、多様な下層植生が生育し、生息する動植物の多様性の向上が図られることなど、森林の公益的機能を高める上でも重要な作業であるとも述べられている。

 一方、林業経営の採算性の低下などを背景に森林所有者の施業意欲が減退していることにより間伐の実施が不十分であると考えられている。そのため、森林の水源かん養機能をはじめとする公益的機能に着目して、都道府県民の理解を得ながら、使途を森林整備対策とする独自課税を導入する動きが広がりつつある。平成15(2003)年高知県にはじまり平成17年度までに全国8県で、森林環境税といった森林に関する独自課税が導入されている。平成18年度には7県、平成19年度には2県の導入が予定されている。九州地方においても3県で森林に関する独自課税が、すでに導入されたり、導入が予定されたりしている。

 この独自課税の使途については、各県とも間伐の推進や針広混交林化など、森林整備のハード事業に充てられている。また、いずれの県も、他の財源と区別するために、税収を積み立てて基金を設置し、これを取り崩して事業を行う方式をとっている。私有林で事業を実施する際には、皆伐や林地転用を一定期間制限する協定を締結することも各県に共通している(林政ニュース、第284号)。この間伐の推進であるが、多くの県で、本数間伐率40%以上という強度間伐を実施することとしている。

 人工林率が全国平均を上回る九州地方(沖縄県を除く)において、現場の技術者らは強度間伐や針広混交林化の実施について以下のようなことを懸念しているようである。

1)九州地方のスギの樹冠幅は、他地域のそれに比べ狭いのではないか。そのため、強度間伐を行った場合、林冠の再閉鎖までに時間がかかるのではないか。

2)ヒノキは環境の変化に弱いのではないか。

3)スギ林で早成品種(オビなど)と晩生品種(メアサなど)とが混交している場合、強度間伐を行うと、成長の遅い晩生品種ばかり間伐されて早成品種ばかり残ってしまうことがある。早成品種は材質などの問題から、市場価格が安い。このような間伐を行った場合、主伐時に収益が上がらなくなる危険性がある。

4)強度間伐の一方策として列状間伐が考えられている。九州地方では台風被害の危険性が大きい。そのため、列状間伐実施には、斜面方位や伐採列方位を考慮する必要がある。

5)列状間伐には、大型機械を使用する必要がある。施業地(現場)によっては、小型機械を使用して定性間伐を実施した場合より、大型機械を使用する列状間伐を実施した方が高いコストになる場合もある。間伐の実施が計画されている施業地において、どの間伐方法が最適なのかを客観的に判断できる手法(システム)がない。

6)標高の高い箇所で強度間伐を行って針広混交林化を図ったところ、草本(ススキ)が多く新入してきた事例がある。高標高地(具体的な標高地は不明)では木本の更新はむずかしいのではないか。

7)十数年前、針葉樹の複層林化を実施して、かなりの箇所で失敗している。また、広葉樹造林も、これまで、多くの箇所で行われたが、ほとんど失敗している。このような過去の経緯があるにもかかわらず、強度間伐のみで針葉樹・広葉樹の混交林が成林するのであろうか。

8)針広混交林が成林した場合、上木の針葉樹を伐採する場合、作業の安全などから広葉樹を伐採する必要がある。広葉樹を伐採にするにもコストがかかる。上木の針葉樹の収穫を考えた場合、針広混交林化を行った林分では、針葉樹単層人工林よりコスト高になるのではないか。

9)針広混交林化でどのくらい公益的機能が高まるのか。現在の針葉樹人工林を、適切に整備して、その整備の結果として、同時に公益的機能も高める方がよいのではないか。

 上述したような懸念事項は、すべて、データの客観的な解析結果や具体的な事例に裏付けされたものではない。現場の技術者が、これまでの経験に基づき懸念している事柄の一部である。

 人工林が、その伐採に適していると考えられていた林齢を超えているような現状は、森林管理や森林の研究などに携わっている方々にとって、これまで、経験したことのない状況だと思う。このような森林を管理するための方策としての強度間伐とはどのようなものなのか、強度間伐の林分に対する影響、強度間伐後の下層植生の遷移状況、強度間伐や針広混交林化の評価手法などを、早急に調査し、解析する必要があると思われる。

西日本で拡大しつつある強度間伐とその技術的課題 

大住 克博(森林総研・関西支所)

広がる水源税・森林税

 最近、強度間伐が話題になり検討され利用になった最大の背景は、水源林や環境林造成が推進され始めたことだろう。西日本では、現在、水源税・森林税の導入が急速に進みつつある(図1)。この源は、森林林業基本計画が2001年に始まり、水土保全林や共生林という必ずしも木材生産が主ではない森林管理がオーソライズされたことである。並行して環境行政でも自然再生法が整備され、あるいは、和歌山県のように緑の公共事業という形で森林整備を環境の面から進めていく動きも始まった。このような流れの中で、かつて木材生産のために造成した広大な針葉樹人工林を、広葉樹を混交させていくことで水源林や、あるいは公益的機能発揮のための環境林として整備していこうという考えが広まりつつある。


図1 近畿・中国地方における水源税・森林税の導入状況

 このような森林整備について、自主的な財源を確保する必要から自治体から提案されたのが、水源税・森林税である。その嚆矢は高知県で2003年に始まったが、その後急速に他の府県にも広まり、近畿・中国地方について見れば、鳥取、岡山県が2004年から、島根、山口県が2005年から導入し、兵庫、滋賀、奈良県では2006年から導入する。さらに、和歌山、三重県、京都府でも現在検討中であり、ここ一、二年以内に始まるだろう。徴収は県民均等割超過課税方式で行われ、法人は5%、一般住民は一人500円程度という自治体が多い。

 水源税・森林税による森林整備事業の仕様のとしては、強度間伐あるいは高率間伐により森林に穴をあけ、広葉樹を導入して針広混交林を造成し、公益的機能の高い森林を作るというものが一般的である。

少し例をあげてみよう。山口県では2005年から森林づくり県民税が導入されている。主旨は、県民生活を守るために、森林の荒廃を防ぎ、水源の涵養、県土の保全などの多面的機能の高い森林を回復することにある。そのために間伐で下層植生を回復し、水源林として美しい針広混交林をつくるというものである。事業は間伐率40%以上の強度な間伐の実施が中心となっている(図2)。


図2 山口県森作り県民税による強度間伐-針広混交林造成(山口県ホームページ 2006 より)

2004年に始まった鳥取県の森林環境保全税もほとんど同じで、緊急整備事業として高率間伐を行い、下層植生を増やし、針広混交林へ誘導するとしている(図3)。


図3 鳥取県森林環境保全税による強度間伐‐針広混交林造成(鳥取県ホームページ 2006 より)

滋賀県では、2006年から琵琶湖の水源整備(琵琶湖は関西、大阪を含めた水源である)のため森林に県民税を投入する。これによれば、やはり人工林を強度に間伐して下層や広葉樹の生育を促進し、20年程度かけて管理に手間のかからない針広混交林へ誘導していくという(図4)。


図4 滋賀県琵琶湖森林づくり県民税による強度間伐‐針広混交林造成(滋賀県ホームページ 2006 より)

 このように、水源税・森林税により森林整備を行う中で、キーワードになっているのが「強度間伐」である。ここで林業技術という視点から重要なことは、提案されている強度間伐や針広混交林誘導技術は検証され確立されているのか、一方でそのリスクも十分に認識されているのかということである。

間伐の意味合いの変質

 水源林や環境林整備のため、針広混交林造成を目指して強度間伐を行うということの中には、間伐に対する考え方の二つの大きな変化が読み取れる。

 一つは、間伐の目的の変化である。従来間伐は、主伐時に商品としてどのような材を生産するか、そのためにどのように保育するのかという、あくまでも木材生産のための技術であった。これが最近は、公益的機能の発揮の手段にシフトしつつある。もう一つの変化は、主伐と間伐の境界が曖昧になってきたことである。コストがあわないから主伐を延伸して長伐期化する。あるいは、経費のかかる更新作業が伴う主伐は避けたい、という近年の状況がある。そして、主伐の時期や生産目標が霧散していき、とりあえず作業は間伐(に収められる率の伐採)に留めておこうとする考えが、強まることになる。

 ついでながら、針広混交林化のように、林冠木となることを期待して広葉樹を更新させるための伐採を「間伐」と呼ぶのは、明らかに誤用である。更新を図るのであれば「択伐」である。所詮言葉に過ぎないという意見もあろうが、更新が伴うかどうかをみても分かるように、「その伐採」を主伐(択伐)と呼ぶか間伐と呼ぶかで、森林管理者の義務が大きく変わることを記憶すべきだろう。他でもない林業政策にたずさわる者が誤用するのは、問題であると思う。

 さて、これらの間伐概念の曖昧化は、従来あった間伐が風化しつつあるのではなく、実は、間伐がまだ概念的にも技術的にも定着していないためだと考えるべきかもしれない。というのも、日本の多くの山地は、もともとは薪炭林や草地が主体であって、現在広がる針葉樹人工林の大半は戦後の拡大造林政策により成立したものである。それらは「人工林地帯」であっても「林業地帯」というわけではない。したがって、木材生産のための「林業技術」は、まだ十分には根付いていないと思われるのである。

強度間伐待望論

 最近の強度間伐に対する期待の高まりには、実は、水源税、森林税以外にも様々な背景がある。以下、それらを概観してみたい。

まず、林業を考える場合に、あらゆる局面で大きいのは、経済的な理由であろう。採算性向上目指して利用間伐を行う場合には、売り上げを上げようと思えば材価の高い大径材に比重を置いて選木することが手っ取り早く、必然的に上層間伐になり、そして概ね強度の間伐となる。一方、間伐コストを削減しようとすれば、吉野的な多間伐ではなく1〜少数回の間伐を選択することになり、それは必然的に強度間伐となる。更に選木や伐採工程を省力する方法として、列状間伐がある。列状間伐もいろいろあるが、一般的には強度間伐になる。また、大面積に存在する間伐遅れ林を短期間に低コストで処理しようとする場合も、必然的に強度間伐が選択される。このように、経済的な理由からの強度間伐指向は強い。

 公益的な面からも、強度間伐が志向される理由がある。まず、水源涵養機能の発揮である。前述の水源林整備のような針広混交林化のほか、林内に光を入れて林内植生を繁茂させ、土壌構造を発達させるためにも、強度間伐が有効とされている。生物多様性という視点からも同様に、林内植生の繁茂や広葉樹林化のため、強度間伐が推奨される。

 更に、資源計画上の理由も挙げられる。木材価格の低迷や奥地林の経営の難しさから、人工林のある程度の部分を木材生産林からはずしていこうという指向は強い。将来、自律的に維持される森林、介護のいらない森林に戻すことを目指し、目標林型を広葉樹林、針広混交林として、強度間伐により導こうとする考えが一般的である。西日本では、近年相次いだ台風被害が、この動きに拍車をかけている。被害地を木材生産林には戻さず、その周辺を含めて広葉樹化、針広混交林化していこうというのである。

 このように、経済的理由であれ、公益的理由であれ、資源計画上の理由であれ、強度間伐が、現在の人工林経営を巡る様々な問題を解決する突破口になるのではないかという期待は強い。では、具体的には、どのような間伐方式がとられているのだろう。以下、代表的なものを採り上げて検討してみたい。

具体的な強度間伐手法・・・鋸谷(おがや)式間伐

 現在、強度間伐方式としてもっとも脚光を浴びているのは、鋸谷式間伐であろう(大内 2002)。鋸谷式間伐のイメージは、興味深いことに人により様々である。強度間伐のことだと考える人もいるし、混交林誘導法のことだという人もいる。釣り竿を使用した選木方法のことと理解する人や、さらに巻き枯らしを思い出す人もいる。しかし鋸谷式間伐の本領は、雪害リスクを回避するためのスギ用材林の密度管理マニュアルであろう。形状比(樹高を直径で割ったもの)が小さく、雪害を受けにくいスギ林を仕立てるための低密度管理で手法として、福井県下における経験と実践提唱されたものである。

 鋸谷式間伐の基本を復習しておこう。まず、林分の胸高断面積合計は、50m3/haを越えないように管理する。但し、目的樹種は上層木の50%以上を占めるようにする。造林初期から低密度で管理していくため10年毎の多間伐を行い、また、低密度管理による過度の肥大成長を抑えるため、樹高の1/2まで枝打ちする。選木は形状比を基準に行う。現場で平均的な樹高を測り、胸高直径から形状比を簡易的に算出して、70以下の木を立て木とする。次に、その周辺の一定面積内の木について、樹高から割り出した基準により残存本数を決める。この時、立て木の周辺の面積を決めるために釣竿を使う。間伐は切り捨てを前提とし、巻き枯らしも行う。

このように、間伐作業についての具体的、実践的なマニュアルが整備されていることは、鋸谷式間伐の優れた点である。立て木はこうして選びなさい、その立て木の回りを釣竿で測り伐る木/残す木を決める、伐採は巻き枯らしでもよい、巻き枯らしはこうやって皮をはげばよい、などといった手順が事細かに書いてある。これは、密度管理図の対数軸のグラフ上で、収量比数(Ry)だとか最多密度曲線だとか言われて、取り付きにくさを感じてきた人々や、間伐理論を頭では理解しても経験がなく、具体的な選木作業をどう進めれば良いか自信が持てずに困っている人々には、親切であり説得力がある。前述のように林業技術が必ずしも地域に根付いていないことを考えれば、この鋸谷式間伐の姿勢には学ぶべきものがあるだろう。さらに、立て木を決め、局所密度を調査しながら間伐を行うことも、鋸谷式間伐の評価すべき点である。林分全体の平均密度に頼らず、場所ごとの状況を見ながら選木を行うことは、技術的により健全といえよう。

 その一方で、問題も指摘できる。選木に形状比を使う有効性である。豪雪・多雪地帯であれば、もともと疎植であったことや、雪の圧雪によって局所的なムラができていることなどにより、一林分内の形状比のばらつきが大きいだろう。しかし雪の少ない地域では、選木基準に使えるほど立木間の形状比の幅は広いだろうか。また、鋸谷式間伐は選木間伐なので伐出コストがかさみ、現状では利用間伐には向かない。しかし同様に経費の点で考えれば、低密度管理の引き換えに組み込まれている枝打ちの実行も現実的ではなく、肥大成長の管理は難しいのではないか。

 しかし、私が強く憂慮する点は、鋸谷式間伐自体よりも、それが適用されつつある状況にある(全国林業改良普及協会 2001)。つまり、鋸谷式間伐が本来の低密度管理手法としてではなく、強度間伐や混交林造成の手法として受け入れられている点である。まず注意すべきは、低密度管理と強度間伐とは別物だということである。低密度管理というのは、始めから1本1本の生育スペースを充分取るものであり、常に樹冠の閉鎖が進まないように林分を管理する。それに対して、混んでしまってから一度に伐るのが強度間伐である。結果は同じ低密度であっても、過程が異なるためできあがる林分の構造は当然異なる。しかし、実際には両者が混同して受け取られている場合が多いのではないだろうか。さらに、混交林造成であれば、まず信頼性のある更新技術が、具体的に示されなければならない。

 鋸谷式間伐が、強度間伐手法や針広混交林造成手法として転用される理由は何だろう。先に述べたように鋸谷式間伐の本旨は、多間伐による低密度管理であるが、間伐遅れ林分についての選択肢として、極端な手遅れ林分でない限りは強度間伐で低密度に移行する手順が示されている。その場合、強度間伐林は気象害に弱いので、間伐木が残存木の支えとなることを期待して、巻き枯らしが推奨される。また、強度間伐により大きく林冠があくので混交林化が図れるとしている。この、強度間伐‐針広混交林化というシナリオが、間伐遅れ林が多く存在する地域や、木材生産以外の環境林の管理手法を模索する人々にとっての光明となり、風靡(ふうび)した理由となっているのではないだろうか。

 しかし、鋸谷式間伐を用材林の強度間伐手法として適用することに、私は根本的な問題を感じる。繰り返しになるが、鋸谷氏もいうとおり低密度管理は複数〜多間伐で実現されるべきでものあって、1回の強度間伐でそれに代えることはできない。また、強度間伐は気象害の危険性がどうしても残る。まず、風害、雪害の影響を見極める必要がある。巻き枯らしについては、枯立木が数年間は他の木の支えになる利点があるとするが、これも十分に実証されているのだろうか。一方で、強風によって生立木は揺れるが枯れ木はしならないので、生立木に傷を付けるという指摘もある。

 混交林造成手法としてはどうだろう。これについては、広葉樹の天然更新の技術開発は昭和初期から多数試みられてきたが、カンバ類やナラ類の萌芽薪炭林以外に、事業レベルで普及した例がないことを挙げておこう。少なくとも、コナラとかケヤキとかカシ類などの高木種が更新して、初めて針広混交林成立の見通しがたつ。アカメガシワやカラスザンショウでは、次代の安定した森林は作れないのだ。広葉樹の天然更新には、結実の豊凶予測や、林床植生の処理、獣害の排除など、様々な困難があり、結果には大きな不確実性が残る。地域により更新が期待される樹種は様々であり、それらの多くは、生態さえ十分には解明されていない。試験ならともかく、事業レベルの施業体系に、強度間伐すれば広葉樹が天然更新するはずだという話を組み込むのは、拙速といわざるを得ない。

したがって私は、現時点では、強度間伐や混交林造成のシナリオに鋸谷式間伐を使うのは、技術的な逸脱だと思う。

具体的な強度間伐手法・・・鵜縄式間伐

 強度間伐の方法として、列状間伐もよく行われる。ここでは、兵庫県の鵜縄式間伐を取り上げてみよう。鵜縄式間伐では、9m残して3m幅で列状に伐採し、残した部分に定性間伐を行う。採算性の高い利用間伐を実現することと、将来への立て木を定性間伐で残していこう、また、間伐により森林全体の下層植生を繁茂させ、多面的機能の高い森林を作ろう、という二つの目的を折衷させた間伐方法である。結果として本数伐採率では4割程度になる。これを繰り返しながら植栽を含めて広葉樹の導入をはかり、将来的には針葉樹と広葉樹がパッチ状に配置される水平的複相林に仕立てていくとしている。


図5 鵜縄式間伐の模式図(兵庫県ホームページ 2006 より)

 列状間伐に、無間伐よりは良いといった緊急避難的な意味を認めれば、間伐遅れ林の処方箋としては、現実的であると言えよう。列状間伐をしながらも選木間伐を併用し、木材生産の視点を維持している点は評価できる。

 鵜縄式間伐では、立て木の選定に鋸谷式間伐のような絶対的な基準は無い。このような場合、選木間伐をどのように実施するかが、結果を大きく左右することになるだろう。一部では、請負い業者が収益を優先して良い木を選木してしまい、残った山がボロ山になっていくのを見て、所有者が間伐に出すことを敬遠するという状況さえあるという。鵜縄式間伐においても、列の部分は機械的に抜くとしても、残った部分の選木に、どれほど将来の主伐への投資という考え方をもてるかどうかが肝要だろう。

鵜縄式間伐の課題についてもう一点挙げれば、間伐を繰り返しながら将来は長伐期複層林に移行するとしているが、二回目以降の間伐方法については具体性が乏しいように感じる。あくまで列状間伐は緊急避難的なものと考え、二回目以降は、選木間伐を主体とすべきである。さらに、広葉樹の導入については、植栽に経費がかかることもあり、鋸谷式間伐同様に十分な検討を求めたい。

強度間伐をどう考えるか

 次に、強度間伐一般について私見を述べたい。言うまでもないが、強度間伐とは、中庸よりも強い間伐であり(中庸間伐は教科書的に言えば、材積間伐率20〜25%)、本数間伐率でいえば40%以上に達する。このような間伐強度は、下層間伐では難しいが、上層間伐や列状間伐では簡単にできてしまう(写真1)。例えば、2伐3残とすれば4割伐ることができるし、残した列に選木間伐を併用すれば、50%以上の間伐率も容易である。


写真1 強度間伐直後の95年生のスギ林(秋田県合川町)。この後、台風により壊滅した。

 なぜ、従来、強度間伐が推奨されて来なかったのだろう。第一に、気象害のリスクが高まるからである。私自身も上層間伐を行った90年生のスギ人工林が、その後、台風により壊滅するのを経験したことがある(写真2)。


写真2 一列おきに列状間伐したヒノキ林(岡山県)

一方で、意外にこの間の台風でも被害が無く大丈夫だったというような話も、しばしば耳にする。しかし、このような気象害と間伐との関係を実証することは、実は結構難しい。解析する試料数が少なかったり、サンプリングが不適切であったりすると、間違った結論を出しかねない。強度間伐を危険であるとしてきた過去の経験則を撤回させるのであれば、まず客観的データを積み上げて安全性を示す必要があるだろう。強度間伐が推奨されて来なかった理由には、もう一つ、林分生産力低下の問題もあった。戦後の森林管理では、生産力を最大化することに力点が置かれてきた。その点で、鬱閉が大きく破れ、一時的に林分の成長量が落ち、総収穫量も減少する強度間伐は敬遠されたのである。

 これらに加えて、強度間伐の孕む問題点として、選木の失敗が大きく響くという特性を指摘しておきたい。例えば、40%の本数間伐率を、上層木から割り当てるか下層木から割り当てるかで、全く違う林分になることは自明である。そしてその違いは、弱度の間伐に比べて強度の間伐でより決定的だろう(図6)。このことは、間伐の採算性を重視して売れる木ばかり選木すると、強度間伐後の山が資源的に劣化したものになってしまう怖さを示している。強度間伐では、選木技術の重要さとリスクの大きさを十分に認識するべきである。


図6 同じ本数間伐率で細い木から間伐した場合(緑色)と太い木から間伐した場合(橙色)の林分構造の違い。
当然ながら、間伐率が強度になるほど違いが大きくなる。

 強度間伐を利用した針広混交林の誘導についても、再度言及しておきたい。天然更新は、そこに安定的な森林の再生を短期間で目指すという条件をつけた場合、単に伐採を行いギャップを開ければ良いということとはならない。東北や信州の冷温帯であれば、カンバのような風散布で進入する高木樹種も多い。冷温帯域のアカマツ林やカラマツ林の林床は、常緑低木を欠く事もあってササがない限り明るい。このようなところでは、間伐により広葉樹の混交を促進することも可能だろう。また、四国や九州、紀伊半島などの暖地では、スギ・ヒノキの人工林の中にも耐陰性の強いシイ・カシが旺盛に進入するので、間伐でこれらを成長させられる場合もあるだろう。しかし、その中間の関東から関西の低山地帯のようなところでは、四国や九州ほど常緑樹の勢いが強くなく、また冷温帯のような風散布の高木種も欠く。以前であれば、このような地域でも、まずアカマツ林を成立させるという選択があった。明るいアカマツ林は、林床管理をすればコナラなどが進入し、それが現在広く見られる松枯れ再生林としてのコナラ林を生み出してき。しかし、マツノザイセンチュウが蔓延する現在では、このようなアカマツ林を経過する手法はとれない。強度間伐により広葉樹の導入を図るといっても、信頼性の高い具体的な技術はまだ欠けている。

強度間伐導入の前に充分な検討を

 森林管理者には、強度間伐の目的をと必要性を、まず考えていただきたい。広葉樹導入などの森林整備のためか、間伐の採算性のためなのか? 間伐である以上、将来の主伐の補助であるはずで、森林整備という視点が優先されるべきことは言うまでも無い。果たして、そのために強度間伐がよい選択なのかどうか、ということである。

 次に、どういう山を作るのかということを考えていただきたい。もちろん、明確な目標林形があってほしいものだが、少なくとも、どういう方向で管理したいのかということを意識した上で、間伐方式を選択してほしい。針広混交林化を目標として間伐を行うことについては、慎重さが必要だと思う。何度も述べたように、針広混交林を仕立てるのは容易ではない(写真3)。さらに、針広混交林にすれば何でも改善されるということも幻想である。もちろん手の入っていない針葉樹人工林に比べれば、広葉樹林はいろいろな面で機能が高い。しかし、水源涵養機能を取っても、針広混交林や広葉樹林は、手入れをされている針葉樹人工林と同じ程度に機能が高いというのが現実であり、針広混交林の方がめざましく高いとは言い切れないのである(蔵治 2003)。


写真3 針広混交林の完成イメージとして、このような天然林の写真がよく使用される(福井県和泉村)。
しかし、数百年の時間と多様な自然条件の結果として形成される天然林の混交状態を、
意図して再現することは、果たして容易なことだろうか?

 強度間伐という名目で実質的な主伐が行われ、その一方で次世代の更新がうまく図られないような状況が広がれば、戦後せっかく築き上げてきた人工林資源をいたずらに破壊し、将来に禍根を残すことも懸念される。林業経営が難しくなる中で、この30年間に、天然更新や複層林施業、長伐期化など、従来の短伐期皆伐針葉樹一斉林造成を代替しようとする、様々な試みがなされてきた。強度間伐-針広混交林化もその流れの一つだろう。しかし、皆伐一斉造林は、それなりの技術的安定性と高い生産効率を持ち、これに比肩する造林技術体系はないことも、よく認識すべきである。確かに皆伐一斉造林は、過剰に行われてきたきらいはある。今後は、この技術を流域の中でどこまで適用し、どのように配置するかを再検討していけば、一つの林分内で無理をして針広混交林化を図らなくても、公益的機能の発揮はかなり進むのではないだろうか。

 技術的裏づけが不十分なまま森林管理を行うことは、いつか社会の林業技術に対する信頼喪失につながるのではないかと危惧している。拙速になってはいけない。強度間伐も、導入する前に今一度立ち止まり、科学的な検証と研究、そして十分な議論を行うことを提唱したい。

参考文献

大内正伸.2002. 新鋸谷式間伐マニュアル, (社)全国林業改良普及協会

蔵治光一郎.2003. 森林の緑のダム機能(水源かん養機能)とその強化に向けて, (社)日本治山治水協会編

全国林業改良普及協会編.2001. 森をゆたかにする間伐, (社)全国林業改良普及協会

IUFRO 異齢林研究集会(Uneven-aged silviculture research group “Natural disturbance-based silviculture: Managing for complexity”)に参加して

山梨県森林総合研究所 長池卓男

 自然攪乱に基づいた育林。なんてストレートなタイトルなのだろうと思い、カナダ・ケベックで行われた集会に参加した。自然資源管理の一つである森林管理は、持続性や合自然性が問われており、新たな管理体系の構築が求められている。そのために、地域の自然攪乱体制の時間的(どのくらいの頻度で)、空間的(どのくらいの面積で)、質的(どのくらいの強度で)な変動を模倣した伐採方法が模索されている(たとえば、Demonstration of Ecosystem Management Options Study[DEMO]: A Large-Scale Experiment in Structural Retention Harvests in Pacific Northwestern Forests)。日本における森林の自然攪乱後の更新などに関する多くの研究もきっと将来の森林管理に応用されるのであろう。

 ところで、この集会は「異齢林研究グループ」によって企画・開催された。Uneven-aged silvicultureは、藤森(2003)によると、日本では常時複層林施業(択伐施業)が当てはまるが、この集会ではこの話題にとどまらず、タイトルのようにもう少し広い意味での話題も多く発表された。なお、この集会の基調招待講演も行ったNyland(1996)によれば、uneven-aged methodとは、若い齢級の木に生育スペースを分け与えるよう、林木群集内で成熟に達した少数の木を収穫する方法とある。

 会議参加者は約120名。人口約45000人のRouyn-Noranda(モントリオールからプロペラ機で約1時間半。Yves Bergeronが在職するUniversit? du Qu?bec en Abitibi-T?miscamingueのある町)のホテルを会場にして行われた。こぢんまりした町と言うこともあり、参加者の空港までの送迎など、きめの細かい運営には頭が下がった。ただ、ちょっと凝りすぎのせい(例えば、お昼の弁当入れにまで集会のロゴ入り)もあってか参加費が高めだったけど。

 Klaus Puettmannは、異齢林管理のゴールには生物多様性の維持と森林の生産性があるが、その前提としては、攪乱体制の理解に基づいた管理戦略があること、対象となるlandscapeにおける現在の森林構造の多様性は自然攪乱を反映していることが必要であるとした。「生産」をゴールとするときには持続可能な最大の木材生産がゴールであるのに対し、「生物多様性」の場合には生物的な多様性と生産性の維持がゴールであり、目標とする構造は前者が逆J字型のサイズ構造であるのに対し、後者はハビタットとしての好適性であるとした。さらに前者では下層植生は更新阻害要因なので最小化されるべきものであるのに対し、後者は多様性や構造の要素であるので更新スポット以外は保全されるべきもの。枯立木は、存在してはならないので新たに形成される必要などないのに対して、重要なハビタットなので保全または形成されるべきもの。攪乱についても前者は最小化されるべきであるのに対し、後者は“自然”の特徴とまとめた。

David Coatesは、140年前に中央ヨーロッパから発達した育林の原則が、新たな知見を応用することと社会の要求にあわせるためにもがいているとして話し始めた。これまでの育林に関する研究は“農業モデル”的なアプローチ(例えば、実験的な処理数が限られている、サンプルプロット内は均一)が主であり、成長を最大化するというような明確な管理目的を明らかにするためにはそれが有効であった。しかし、複雑性を管理するには、それでは困難であることに森林管理者は気付き始めており、これまで行われてきた、限定された樹種や均一な林分で平均値での結果や、過去から未来を予測しているという点で、現在の育林は“轍でスタックしていないか?(私たちは変化する必要はないか?)”と問いかけた。育林と複雑性に関して、ファインスケールでの空間的相互作用が樹木のデモグラフィーを規定していること、樹木の空間分布が生態系の特性の変動幅を規定していること、林分内に様々な構造があることが望ましいという認識が増加していることから、育林は重要なプロセスを管理する方向に進化する必要性を指摘し、傾度やトレードオフを考えることが重要であるとした。これらをふまえた野外データの新しい解析方法としてはモデル選択が有効であると述べた。複雑性を管理するためのロードマップとして、生態系に変動があることの認識―重要なプロセスや機能に適切な空間スケールの決定−、複数のスケールや次元で望まれる将来の状況の定義−生物的遺産、自然攪乱、生物多様性/ハビタット、成長・収穫−、リスクや不確実性の認識−復元性の促進−、新しい解析手法を用いて実際の研究をモデルへ、という考えを示した。

Coatesの後に講演したChristian Messierは、複雑性に基づいた“ありうる”育林システムとして、マイクロスケールで管理するTilman-R*diversity-of-niche更新システム、相互の関係性や依存性を管理するLovelock everything-is connected-Gaia-ecosystemアプローチ、重要な生態プロセスを管理するWilson-biodiversity-ant-firstシステム、不確実性を管理するHubbell-regenerate-whatever-trees-neutralシステム、構造を管理するBergeron-natural-disturbance’s inspired 3-cohort-everywhereシステム、復元性を管理するHolling panarchy-of-multiscale-reverse-loopシステム、そして複雑性を管理するCoates follow-the-road-to-silvicultural-slumシステムがある(結局、複雑性を考えるにはいろいろ考えなくては、ということ)とユーモアと迫力たっぷりにまとめた。

会議中に行われたエクスカーションは、3グループに分かれ、私は”Lake Duparquet research and teaching forest”に参加した。ここはさしずめ大学演習林と言ったところだが、カナダの木材・林業会社がスポンサーとなって建物が最近新設されたそうだ(写真1,2。ちなみに、研究費もそのような会社からのファンドがかなりあるそうである)。Bergeronの研究室もここにある(写真3)。午前中は、湖の中に点々と位置する島をボートでめぐり、Bergeronを中心とする地域の自然攪乱体制研究が紹介された(岸からの距離や島の大きさ・地形に応じて、山火事の入り方が異なっている)。タイトルが斬新なことで記憶に残っていた”A 802 year tree ring chronology from the Quebec boreal forest” (Archambault and Bergeron, 1992)の実物も見ることが出来た。Trembling aspen(Populus tremuloidex)の伐採方法を変えた更新試験地(写真4)など、盛りだくさんの見所が7時集合23時解散の1日でもたらされた。さすがは林業国の施業研究という感じであった。

 なお、このグループによる次回の集会は、水永氏(静岡大学)を中心とするメンバーによって、2008年秋に静岡での開催が決定した。天然林施業のみならず、人工林も含めて森林の複雑性や異質性を広く議論する場になる予定である。みなさんの積極的なご参加をお待ちしています。


写真1



写真2



写真3



写真4

<編集後記>

二人の学生が私たちの取り組む水辺林再生事業の現場を訪ねてきた。一人はイワナの研究を進める大学院生で、手入れの行き届かない人工林地帯を流れる河川とイワナの生息環境を落下昆虫との関係で調査したいと言う。もう一人の学部学生は、劣化ないし人工林化した水辺林の実態を調査し、水辺林管理の指針を提案したいという。共に、水辺環境に大変思い入れがあるようだ。「今時の学生は・・・」とすぐに決め付けがちだが、話を聞いてみると、どうも彼らのせいとばかりは言えない側面があるのに気付かされる。彼らには、林業や森林管理の現場を見聞きする機会が全くないのだ。お手軽な林業体験や環境教育があたかも「森林や林業」の大切さを理解させる有効な手段であるといったきれいごとが、さらに実態を遠ざけている。まるで、頻発する少年犯罪に「命の大切さ」や「道徳心・愛国心」を説くがごとくである。山には、自殺者が集まり、死体が遺棄され、山仕事をする者は、日々、戦々恐々としている。そして、旧態然とした「職場」では、陰湿なイジメが未だに横行する。山を愛し、誇りを持って林業・森林管理に取り組む人々がいて初めて、若い世代は林業に関心を持ち、理解するに違いないというのが、彼らと付き合った3日間の感想である(狢)。

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