木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター  No.40 2008.02.08.
Newsletter of the Forest Management and Research Network


今年の施業研シンポは計画学会と合同開催

 第119回森林学会大会が、東京都府中市にある東京農工大学府中キャンパスで開催されます。施業研究会では、毎年、森林学会大会に合わせてシンポジウムを開催していますが、今年は、森林計画学会との合同で下記のようにおこなうことになりました。
 計画と施業現場の間には、ご承知のとおり大きなギャップがあります。今回はそのギャップをどうやって埋めていくかということが議論のテーマです。なかなか難しいテーマで、シンポジウムがうまく行くかどうかは、皆様のご参加次第だと思いますので、積極的な議論、発言をお願いいたします。

森林施業研究会・森林計画学会合同シンポジウム2008年 ―計画と施業を結ぶ―

3月29日9:00 〜16:00
東京農工大学府中キャンパス第一講義棟25号(H会場)

 木材価格の低迷が続く中、森林計画と施業現場との乖離は更に拡大している感が否めません。このような状況を打開しつつ、また本来あるべき姿としての森林計画と施業を結ぶ強い絆を今日的尺度で模索するために森林施業研究会・森林計画学会が合同でシンポジウムを開催することとなりました。パネラーと報告概要は下記のとおりです。森林に関わる多くの皆様のご来場を歓迎いたします。

・松村直人氏(三重大学):海外の動向も視野に入れた計画制度と施業の関わりについて
・藤掛雅洋氏(岐阜県郡上市):林業の現場における森林計画(林学と林業の間にあるもの)について
・近藤洋史氏(森林総研九州支所):森林組合の現場におけるGISの活用の実態について
・香山由人氏(山仕事創造舎):民有林管理・経営の立場から見た森林計画制度について
・田米開隆男氏(関東森林管理局):国有林における森林計画制度の機能性と課題について
・白石則彦氏(東京大学):森林計画制度の今後の動向について

連絡先:
大住克博 森林総合研究所関西支所
〒612-0855 京都市伏見区桃山永井久太郎68
Tel.075-366-9914,Fax.075-611-1207,E-mail:osumi@ffpri.affrc.go.jp

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 なお、恒例の懇親会(兼総会)も、今年は計画研究会と合同で行います。いつもと少し違う方々ともお話できると思いますので、ふるってご参加ください。

日時:3月28日(金)午後7時から
場所:しんじゅく李膳房
会費(予定):一般6000円、学生4000円
参加申し込み:
3月24日昼までに大住までお申し込みください。
 e-mail:osumi@ffpri.affrc.go.jp
 電話:075-366-9914 Fax:075-611-1207
 森林総合研究所関西支所 大住克博

それ以降(25日)であれば下記までご連絡ください。
 takizawa@fr.a.u-tokyo.ac.jp
 (東京大学 森林経理学研究室 滝沢真知子)
 参加申し込み締め切り:3月25日(火)午後5時

 

トルコ・カラデニズ旅行記

中田 理恵(静岡県西部農林事務所)

トルコの森林?

「トルコの森林を見に行くツアーを行いますよ。」とのお話があった時、「トルコの森林?乾燥した大地では?」程度の認識しかなかった私が、トルコに出かけたのは2007年9月のことです。参加諸氏の後を“金魚のふん”のようについていくことしかできませんでしたが、トルコのイスタンブール及び黒海沿岸東部の森林を視察する機会を得ましたので報告します。
今回のトルコ訪問は、滞在日程が9月7日から12日、イスタンブール及びグルジア国境近くのトラブゾンに滞在し、カラデニズ(黒海)沿岸の森林を視察しました。なお、本旅行記は、地名、樹種、組織名称等は、多分に推測によりますことを御承知ください。


トルコの地図

イスタンブールへ

トルコ西北部のイスタンブールは、ヨーロッパとアジアの懸け橋と呼ばれ、黒海とマルマラ海を繋ぐボスボラス海峡に位置し、世界遺産として知られています。
9月7日にイスタンブールに到着した後、私達が先ず行ったことは、インターネットカフェを探しだすことでした。団長が午前10時過ぎにメールを確認したところ、環境森林省イスタンブール森林管理局に9時半に来るようにとの連絡が来ていることが判明しました。慌ててタクシーに飛び乗ったものの、イスタンブール森林管理局の位置が分からず、金角湾に架かる橋を行ったり来たりし、12時過ぎにようやくたどり着きました。
環境森林省イスタンブール森林管理局は、敷地内にレストランや官舎もあり、緑地公園の管理施設のような雰囲気でした。まず、園芸植物や外来植物が充実している植物園を案内していただき、ベオグラードの森へ向かいました。

写真1 イスタンブール イェニ・ジャーミィ
写真2 植物園

ベオグラードの森

ベオグラードの森は、かつてはスルタンの森として伐採が禁じられ保護されていた森林です。ベオグラードの森からの水は、ヴァレンス水道橋を通ってイスタンブール旧市街の地下宮殿へ注がれていたらしいので、水源の森の御用林でしょうか。現在は国有林となっており、択伐を実施し、材は国内向けの家具材や薪として出荷していました。土場に積まれた材はシデ類が多く、120年生もありました。林内には鹿が生息し、一部は有料(1YTL/人  約100円)のピクニックガーデンとして一般に開放されていました。トルコではピクニックの人気が高いようで、家族連れが遊びに来ていました。華やかなイスタンブールの市街地近くに、このような森林があることに驚きを感じました。

写真3 ベオグラードの森・土場
写真4 鹿


写真5 ベオグラードの森・林内

この日は、宿近くの魚料理レストランで食事をしました。ウエイターが盆に鮮魚を載せて持ってくるので、魚を選び、料理法を指定します。琵琶法師のような吟遊詩人が奏でる大音響の民族音楽を聴きながら、スズキのグリルやイワシフライを楽しみました。


写真6 ボスボラス海峡の魚?

トラブゾンへ

9月8日は、空路でトラブゾンに向かいます。トラブゾンは、黒海沿岸東部の港町で、13世紀にはトレビゾンド帝国の首都があったトルコ東北部における経済活動の中心地です。黒海沿いには4、5階建のビルが林立し、背後には山地が迫っていました。
飛行機が遅れ、到着したのは19時過ぎでしたが、トラブゾンの大気はもったりとして蒸し暑く、湿度が高いことを感じました。空港には、カラデニーズ工科大学のムスタファ先生が迎えに来てくださいました。夕食をとった大学関連の宿泊施設では、結婚式が行われており、一列に並んだ黒服の男性が一斉に細かいステップを刻んで踊る、ホロンという伝統的な踊りを披露していました。

目標は混交林

 9月9日は、どんよりとした空から雨が降り注ぐ寒い日でした。初めて見る黒海は、厚く垂れ込めた雲と湖水が一体となり、波は白く泡立ち、まるで冬の日本海のようです。黒海岸の斜面には、へーゼルナッツとオリーブの果樹園が続いていました。ムスタファ先生と森林管理署の方が車で案内してくださり、トラブゾンから西にあるキュムベット高原周辺の森林に向かいます。
標高1,000m付近では、トウヒとブナを混植した造林地がありました。上層のトウヒは主に山取り、下層のブナは国営苗畑で育成したものでした。2000本/ha〜3200本/ha植え、10年ほど下刈を継続するようです。ブナは、単幹で尖った卵形の樹形をしており、落葉時期は9〜11月、種子の豊凶周期は3〜4年で11月頃落下するとのことでした。

写真7 霧の中の造林地
写真8 林道端の約150年生のブナ


標高1,300m付近には、製材所、伐採された材が積み上げられた土場、国営のブナ苗畑がありました。放牧も行われており、牛や羊もいるようです。


写真9 牛の食害を防ぐため有刺鉄線で囲まれたブナの苗畑)

標高1,500m付近の針広混交林は自然林とのことでした。主にトウヒとブナで構成されており、林床にはブナやトウヒの実生やシャクナゲがびっしり自生していました。シャクナゲは、成林を阻害する厄介者であるとの説明を受けました。標高が高いため、樹木の成長はあまりよくないようです。
雨は一日中止まず、霧の中での移動で、周辺の景色を見ることはできませんでした。美しい草原の景色が楽しめるというキュムベット村も、霧の中でした。標高が高く雨天の寒い日でしたので、村での暖かいスープと煮込み料理の昼食は、何よりの御馳走でした。

カラデニーズ工科大学での講演会

9月10日は、カラデニーズ工科大学林学科において、団長とS氏による日本の森林・林業についての講演会が開催されました。カラデニーズ工科大学は、緑地が多く、黒海が良く見える斜面にあります。この日は晴天に恵まれ、真っ青な黒海を見ることができました。  
講演会会場の入口には、講演者名と講演内容、日本地図をあしらったポスターが貼られ、100人ほどが座れる階段状講堂いっぱいに大学の教員や助手の方々が詰め掛けました。活発な質疑応答が行われ、日本に対しての関心の高さが感じられました。

トウヒとブナの混交林

講演会終了後は、トラブゾンから54q南のスュメラ僧院へ行きました。車は、ヘーゼルナッツ畑で覆われた山の斜面を、岩と岩の間をすり抜ける様に進みます。
ヘーゼルナッツはトルコの主要作物で、果実利用だけでなく、材を籠などに加工していました。収穫を容易にするためか、仕立ては低く、萌芽更新のようでした。
スュメラ僧院は、高さ270mもある断崖絶壁に貼りつくように建設されていました。よくこんな場所に建てたものだと、感心せずにはいられませんでした。岩場の道を登り、急な階段を上がるとフレスコ画で飾られた僧院にたどり着きます。霧の漂う標高1,200mのスュメラ僧院の周辺には、見事なトウヒとブナの混交林がありました。昨日見た造林地の目標とするのは、このような森林と思われます。スュメラ僧院近くの岩場には、マツムシソウの小さな花も咲いており、今度来る機会があれば崖の下から始まる参道を、ゆっくり歩いて上ってみたいと思いました。

写真10 ヘーゼルナッツの籠
写真11 スュメラ僧院


写真12 スュメラ僧院から対岸を見る

アイデル保護区

9月11日は、黒海を東へ進み、紅茶の生産で有名なリゼを通り、カチカル山脈の入り口のアイデルへ向かいました。
アイデルは、標高1,265mに位置するスイスのような雰囲気の山岳リゾートです。アイデル保護区には、クマ、シカ、オオカミ、キツネ等が生息しており、樹木の伐採は原則禁止されていました。住民相互で監視することによって、無断伐採を防止しているようです。集落近くの150年生ほどのブナとトウヒの混交林のブナの根元には、トウヒの実生が多数発生していました。

写真13 アイデルの集落
写真14 アイデル保護区入口


写真15 将来はトウヒ林?

フルトゥナ・ワティシのジール城に登ると、カチカル山脈に連なる森林が良く見えました。高木層は、トウヒ、ブナ、シデ、クリ、イタヤカエデ、オヒョウ、低木層はツゲ、シャクナゲなどが見られました。ツゲは、スプーンなどに加工され販売されています。ここでも森林育成の阻害要因はシャクナゲやキイチゴであるとのことでした。

写真16 ジール城
写真17 ジール城からの眺め

蜜源はクリ

山間地のアイゼルでは、蜂蜜生産が重要な収入源となっているそうです。蜜源はクリで、クマから蜂の巣箱を守るため、ブナの大木の上部に棚を作り巣箱を置いたり、木製の柱の上に巣箱を入れる小屋(人が住めそうな大きさ)を建てた高床式巣箱小屋?があったりしました。山地にはヤイラ(夏の放牧地)が見られ、蜂蜜生産や放牧での山地利用が行われているようでした。トルコでも農山村では人口の流出が続き、果樹栽培と遊牧を組み合わせ、季節により居住先を移動するような伝統的生活は少なくなりつつあるそうです。


写真18 山間地の集落

トルコの森林管理署

この日は、緑の制服の良く似合うパザル森林管理署の方が案内してくださいました。パザル森林管理署では、7人で森林管理、施業、病虫害の調査等の仕事を行っているとのことです。森林を管理している台帳と図面を見せていただくと、私達が日頃使っている森林簿、森林計画図とそっくりでした。トルコはドイツの林学を導入したとのことで、納得しました。

写真19 胡桃を食べてひとやすみ
写真20 トラップ

市街地中心のメイダンパーク

最終日は、トラブゾンの街を散策しました。トラブゾンの市街地中心には、大きな木々の樹冠にすっぽり覆われているメイダンパークがあります。木々の下には、たくさんのテーブルと300脚ほどの椅子が並び、飲み物を楽しむチャイハネになっていました。ウエイターがテーブルの間を回り、席を作ったり、飲み物の注文をとったりと世話をしてくれます。日光はまだかなりきつく、日向にいると蒸し暑くて汗が噴出してきますが、樹木の下は涼しく、木陰の椅子に座って冷たい飲み物を口にすると、ほっとしました。人々はお茶を飲んだり、おしゃべりをしたり、新聞を読んだり、道行く人を眺めたりと思い思いにすごしているようでした。近代化が進むトルコですが、まだまだ樹木と共にある生活が息づいているようでした。日本の日常生活は、土地の気候や自然を利用した生活様式からどんどん離れていくようで、少々さびしく感じながら帰路に着きました。

旅のおわりに

ユーラシア大陸上空を飛行機で飛んでいると、トルコ、イラン、雲南と大陸は続き、その東の端に日本があることに今更ながら気づかされました。なかなかの強行軍でしたので、毎日必死に生活しておりましたが、参加諸氏やトルコの方々のもてなしの心に大層助けられ、楽しい旅でした。団長様、参加された皆様、カラデニーズ工科大学ムスタファ先生をはじめお世話くださった方々、視察先の皆様には厚く御礼申し上げます。

 

 

最近の国有林現場から

中岡茂(関東森林管理局・群馬森林管理署長)

 昨年の10月1日(2007年10月1日)に3年ぶりに国有林に戻った。それも現場第一線に近い森林管理署であるから、若い頃営林署長をしていたときから数えると20年ぶりの現場復帰ということになろうか。本稿で最近の国有林の現場の様子をお伝えしろということだが、着任してまだ3ヶ月、それも(独)森林総合研究所在籍中から取り組んでいた四万十式作業路網の普及のために、署内・局内のみならず県や森林組合等の要望に応えてかなりの回数の講演や現地指導に飛び回っていたので、自分の現場をじっくり見るのはこれからという状況であり、満足なことは書けない恐れがあるがお許し願いたい。
○管内概要と組織
 群馬森林管理署の管内は、群馬県のほぼ南半分で、赤城山の南面と榛名山の南面から南で、十数個の団地に分かれた約4万haの国有林がある。人工林と天然林はほぼ半々で、3分の2が保安林に指定されている。一般職員27名、基幹作業職員16名である。現場第一線の森林事務所は10あるが、2つは併任で、よって森林官は8名である。いたって平均的な規模ではないかと思われる。
 かつて私が署長をした営林署(当時)は、国有林面積1万haで100名を超す職員がいたのであるから、いかにスリムな体制になったかが知れようというものだ。
 年齢構成は若手主体で、50代は4名、40代6名、30代12名、20代5名であり、課長は全員30代、係長も9名中6人が30代であるが、滞りなく業務を行っている。以前は数多くいたベテラン職員がいなくなった中での業務はきついものがあるが、分からないことは課内、署内で相談して何とか乗り切っている状況である。特に、森林管理署の業務は、総務、経理、収穫、販売、造林、林道、治山、土地管理と、幅広くそれぞれが極めて専門性、独立性の高いものであることから、技術及び業務全般を総覧することは極めて難しい。
 現場第一線の森林官は、ベテランの首席森林官から若手まで年齢的には各層にまたがっている。当然若手は修行中の身であるとしても、責任感もあり、頑張っている。問題は、基幹作業職員が次々に定年退職していき、それぞれの管轄区域に精通した者がいなくなることである。いくら精密な図面があるとはいえ、道案内は必要であり、様々な地元との関係、労務の調達などに精通者の存在は大きいのである。かといって、地元雇用での対応は現下の制度では不可能に近いので、森林組合や事業体等の組織に管理の補助業務を委託する等の新たな対策が必要であろう。
○伸びる間伐事業
 地球温暖化対策で森林整備の予算が伸びているため、間伐をはじめとする事業量が急激に増えている。特に、切り捨て間伐だけではなく、有価な丸太については販売することにしているので、一時期なくなっていた請負生産事業が復活している。これは、立木販売の間伐に比べて事務量が増えるが、丸太生産の原点を知ることが出来るので、若手職員にとっては有益である。
 各民間事業体は、労務の確保にほとんど手一杯の状況で、県内北部や他県の事業体から応援を受けている。また、若手の従業員を新規採用した社もあり、当面5年、10年のスパンで今程度の事業量の確保が望まれる。急激な事業量の増加・減少は、事業体の育成に最もマイナスである。
○事務量の増加
 一般競争入札の拡大は、公共工事における談合等の不正行為を排除するためにやむを得ないが、事務量の増加と発注の迅速性を損なっている。特に、本署においては、平成19年9月の台風9号により林道等が被害を受け、実行中の素材生産事業や森林整備事業が一時中断を余儀なくされたが、このような事業の継続のための緊急を要する応急復旧工事についても、一般競争入札の手続きを踏むと相当の時間を要する。国有林野事業のような企業的経営を必要とするものにおいては、迅速性を備えかつ適正な発注方式を新たに開発すべきであろう。
○分収育林
 分収育林事業については、満期時の販売代金が出資時の1口50万円に満たないものが続出し、問題となり、一時販売が見合わせとなっていたが、昨年暮れから販売が再開された。
 当署においては、16ha62口の大型物件をはじめとする2件が公売に付されることとなり、取り付け作業道と作業スペースの新設を行い、署長自ら物件の現地案内をし、公売前日まで現地案内を行うなどの努力を重ねてきた結果、15名という多数の応札者を数えたものの、結局1口当たり30万円と24万円に終り、署員一同意気消沈してしまった。やはり分収育林募集当時に比べて、半減した丸太の市況の前には無力さを痛感する。 

追悼:安藤 貴先生

石川 実(愛媛県西条地方局森林林業課)

 安藤 貴氏が、大学教授となられ初めて受け持たれた学生が、何を隠そう私です。学部4年生と大学院修士課程の合わせて3年間お世話になりました。その頃の思い出話でも書いてみたいと思います。
 大学3年生だった私は、4年になるにあたり研究室の配属先を決めなければなりませんでした。当時、母校の岩手大学農学部林学科には、建物の四階に「林政学」「森林経営学」、三階に「造林学」「林業機械学」、二階に「木材科学」「木材工学」、そして別棟に「砂防工学」の7つの研究室がありました。行き先を決めかねていた私に、農学部付属演習林の助手としておられた杉田久志氏から、「林分密度管理図」「複層林施業」の、あの「安藤 貴」が、「森林経営学」研究室の教授として、やってくるとの情報を入手。実は、不勉強で、密度管理図? 複層林施業?? 聞いたことはあるけど詳しく理解はしていませんでした。とにかく杉田氏から「是非森林経営学に行け」との、指令に近い助言があったもので、なんだかよく分からないながら、森林総合研究所四国支所を退職後、岩手大学農学部林学科森林経営学研究室教授として赴任してきた安藤 貴氏の研究室の学生となりました。もうすぐ昭和から平成へと時代が変わろうとする、そして私の人生も変わったかもしれない昭和63年4月のことでした。
 先生の膨大な研究業績は横に置いて、やわらかい話でもしましょう。安藤先生を一口で云うなら、酒とタバコ・・・でしょうか。聞いたところによると、目黒にあった林業試験場時代に、東京の大気汚染の影響からか喘息を患い、片肺になり、空気のきれいな高知へ異動したところ、元気になって、酒もタバコも呑む呑む吸う吸うしていたら、今度は胃袋を切る羽目になり、小さな胃袋となった。と云いながら、60歳を超えても、酒もタバコもお好きでした。特に、赴任当時は、単身赴任でしたので、思う存分に気兼ねなく呑む呑む吸う吸うだった気がします。奥様が、盛岡に来られてからは、しばらく職員住宅に住まわれていましたが、「帰宅すると、家では吸わせてくれない。」と、大学の研究室では、自宅で吸えないストレスの発散とばかり吸われておりました。いつだったか、演習林に泊り込んで実習の時、呑みながらの夕食時、ビールや日本酒を呑みながら、つまみのおかずに加えてご飯粒を食べていると、「飯は呑んだ後に食べるもの。お前は、酒呑みの風上にもおけない。」と、怒られたことがあります。「そんなこと云ったって・・・、お腹が空いてるんだから・・・。」空腹時は、酔いやすい。安藤先生は、呑んでいると、ろれつが回らなくなり、へべれけになることがよくありました。今も思い出すのは、卒論や修論で指導していただいたことなんかより、美味しそうに目を細め、酒を飲み、タバコを吸っていた先生の姿です。
安藤先生は、呑んだ時の「へべれけ感」というか「べろんべろん感」が、とても心地よかったのかもしれないなあ。そんな気がしています。安藤先生は、昨年年末に、単身で逝かれました。あちらでは、ひょっとすると、また思う存分気兼ねなく、呑む呑む吸う吸うして、目を細めながら、ろれつが回っていないのじゃないのかなぁなんて想像しています。それもまたいいですよね安藤先生。


写真:安比のブナ林の中を歩く安藤貴先生

 

<編集後記>

複層林の上木伐採(受光伐)に立ち会った。伐木手は労働安全衛生ときれいな伐採に気を使い、生産請負業者は、作業効率を気にし、山林所有者は上木、下木の損傷被害を気にする。この三者の微妙な駆け引き、妥協の上で、作業が進められてゆくのだが、一歩間違えると気まずい雰囲気になりかねない。そんなことはお構いなしに、誰にでも簡単に出来るマニュアル化した施業体系がもてはやされるが、実はそんなに簡単ではない。結局、負荷は人間社会ではなく、生態系にかかって行くことになる。後は野となれ山となれ、予定された事業が実行されれば、結果は問わないというのが昨今の風潮であるが、これでは森林・林業に良く働くはずはなく、技術の衰退とモラルの低下を引き起こす。それにしても、複層林とは厄介なシロモノである。適正な受光伐を行わなければ、下木は育たず、一方、上木を伐れば、今度は下木に甚大な被害を及ぼす。結局、多くの場合、下木の安楽死を黙認し、放置しているのが実態なのだろう。次は人工林を抜き伐りして放置する混交林化、広葉樹化がトレンドだそうだが、林業技術が泣くよな!何もしなくていいんだぜ。それなら、なぜ天然林を伐採し、強力に人工林化を推し進めたのだ!と言いたいね(やはり単なる資源収奪だったのか!?)時代を先取りする思想、哲学が林学には欠落していたのだと、つくづく思う。おっと、時代遅れの「林学」は過去のもので、今や「森林科学」だった!森林科学の勝利宣言は、きっとすばらしい「美しい日本の森林」を生み出すに違いない!期待しよう。(狢)

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