木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.43 2009.02.13
Newsletter of the Forest Management and Research Network


森林施業研究会シンポジウム:今、有名林業地の施業・林業技術を論ず!
現地検討会(岐阜合宿)を開催!
<参加者の意見・感想>
<編集後記>

森林施業研究会シンポジウム:今、有名林業地の施業・林業技術を論ず!

 
写真1:択伐林施業によって造成された複層林(岐阜県今須林業地)

  長期低迷する日本林業にあって、伝統的な林業技術を引き継ぎ、地域の特性を余すことなく活かしながらブランドを維持し、一見順調とみられてきた関西や中部の有名林業地でも、状況は大きく変わりつつある。グローバル化は、この日本林業のモデルとされてきた地域さえも巻き込み、経営は深刻な危機に直面し、その伝統技術も通用しなくなるとともに、失われようとしている。これらの有名林業地の伝統的な育林技術や施業体系の変容を検証する中で、日本林業の将来と新たな技術的展望を論議する。

研究集会名:森林施業研究会シンポジウム 
 場 所:京都大学農学部
 日 時: 3月28日 9時00分~12時00分
 テーマ:技術的視点から見た伝統林業の現状と将来
 話題提供 :高橋絵里奈(島根大学)     吉野林業の現況と未来 
       大洞智宏(岐阜県森林研究所)  今須林業の現状と未来 
       小谷二郎(石川県林業試験場)  能登アテ林業の現状と課題 
       岩田義史(京都府京都林務事務所) 北山林業について 
       中原丈夫(中原林業)     専業林家の新たな取り組み(生き残り戦略)

前夜祭(全国交流会)に参加を!

今年も、シンポジウムの前夜に森林施業研究会の総会を兼ねた全国交流会を開催します。シンポジウムのテーマを先取り的に論議し、シンポジウムにおける論議をさらに深めるとともに、諸々の情報交換を図りたいと思います。また、今回は、研究会の運営体制の見直しも事務局より提案されます。多数の参加を呼びかけます。参加希望者は、速やかに事務局までE-mailなどでお申し込みください。

日時:3月27日18:30〜
場所:居酒屋 百万遍 しゃらく TEL:075-781-1335
百万遍角北入る最初の道路西へすぐ
参加費:4000円(飲み放題・税込み)
30名で予約
申し込み先:事務局大住:osumi@ffpri.affrc.go.jp(@は半角に変換してください)
受付締め切り:3月20日までに大住まで連絡されたい

 

現地検討会(岐阜合宿)を開催!

 
写真2:木曾ヒノキ備林の成長量試験地における参加者の集合写真

2008年森林施業研究会現地検討会(岐阜合宿)報告

高橋 絵里奈(島根大学)

 2008年度の森林施業研究会現地検討会は、11月5日からの2泊3日の日程で、岐阜県(西濃~中濃~東濃)で開催された。この現地検討会では、メインテーマ『針葉樹人工林施業の持続』サブテーマ(1)針葉樹林の収穫と更新(2)目標林型に向けた間伐であった。スギ・ヒノキ択伐林(人工林)の現状、スギ長伐期施業(人工林)の実践、ヒノキ長伐期施業・択伐林施業(人工林+人工・天然更新)への移行過程、ヒノキ・サワラ天然生林の現状を視察した。これらを通して、現存する針葉樹人工林をこの先どのように伐って、どう更新させるのか、また、そのときに向けて今どのように間伐をして、どんな道をつけるかなど「施業の持続を意識した森林の取り扱い方」について、議論を深めたいとの意図で開催された。吉野林業地で長伐期施業の研究を行ってきた私にとって、このたびの現地検討会は、他地域での長伐期施業の現状と課題をこの目で確かめる貴重な経験となるであろうと期待をふくらませつつ、現地検討会に参加した。
 1日目は、午後12:40に関ヶ原に約30名が集合し、十数台の車に分乗して、まず今須の択伐林の見学に向かった。西濃実験林では、管理を担当されている井戸氏と調査に関わってこられた大洞氏による現状の説明があった。こまめな枝打ちと1本伐採したら必ず2~3本の苗木を植えることを守り、択伐林業を行ってきたという歴史などについても説明があった。現場は、確かに様々な樹齢のスギやヒノキで構成された択伐林ではあったが、林床が非常に暗く、下層植生もまばらになっていた。決して健康的な林ではないなというのが、第一印象であった。参加者からもかなり下層が暗く、幼齢木が十分に育っていないことなどが指摘された。50年以上にわたって、今須林業を支えてこられた山本氏は、「この現状は決して今須の典型ではない、これは今須の択伐林ではない!」と嘆かれていた。「以前は様々な需要があり、木材業者が訪れて、立木を注文伐採していたが、今は全く伐採がとまってしまい、どんどん林が暗くなってしまった。林床はもっと緑でなければならない」と言われていた。空間が少しでも空けば苗木を植える。苗木を植えれば、雪起こしをして・・・と、なんとか育てようとの努力のあとが見て取れたが、雪起こしをしても、今後の成長が見込めない個体が多く見受けられ、今後如何に森林を健全に管理していくかが、大きな課題であると感じた。下層に植栽されたヒノキの中にはとっくり病になっているものが多く見受けられた。スギと混植すればとっくり病は発病しないとこれまでに聞いていたが、大径のスギのすぐそばでもとっくり病のヒノキが見受けられたのには大変驚いた。森林の更新ということを考えると病気に対する配慮についても重要になると感じた。単純一斉人工林では、同齢の個体ばかりでばらつきも小さく、林分全体としてのバランスを取る方法も比較的単純だが、択伐林では異齢の個体が多く存在し、個体毎に配慮が必要になる。その分、こまめな管理が必要であるにもかかわらず、伐採が止まってしまっていた。昨今、伐るとなると突然の強度間伐や列状間伐ということが多く見受けられるようになったが、今須のように異齢の個体へのこまめな配慮によって成り立ってきた林業地では、やはりこまめな管理を継続できるような基盤整備をしないとその特徴が失われてしまうのではないかと感じた。上木の樹冠を見上げると、非常に均整のとれた枝張りであった。これまでの人のこまめな配慮が見えるだけに、現状にはとても寂しいものを感じた。

 
写真3:西濃試験地で、山本氏が今須林業の実情を説明

 次に向かったのが、吉田氏の山林である。吉田氏の山林を遠くから眺めると、スギやヒノキの階層構造がとてもよく分かる山林となっており、これぞ択伐林か!という感じがした。ちょうど田畑に面しており、日当たりもよさそうで、道もすぐそばまで通っており、山林の持ち主が頻繁に関わって管理されてきた林であることは十分感じ取れた。とはいっても、こちらでもやや過密な印象を受けた。下層木が健全に育つ条件とは?ということを感じずにはいられなかった。
 次に広葉樹原木市場を見学した。株式会社小林三之助商店の広葉樹市場には、これまで見たこともないような大径の広葉樹材が所狭しと並んでいた。第一印象は、こんなに大径の広葉樹を伐って、日本の広葉樹林は大丈夫なのだろうかという危惧であった。社員のうち目利きの出来る2名が全国を走り回って集荷されているとのことで、個人的には、どのようにして広葉樹の良否が決まるのか、どのようなポイントを見ておられるのかという判別基準をとても知りたいと思った。きっと立木としての良さとは異なる、材としての良さというものがあるのであろうと感じた。ご案内いただいた石井氏によると、やはり日本の広葉樹資源の減少は深刻であるようで、海外から大径木を仕入れるしかない場合もあるとのことであった。刀の柄としてのホオノキの需要があることや、同じケヤキでもどこで生育したものかによって、年輪の分布や材質が異なり、値段もそれによって変わってくることなどを教わった。もともとは枕木を生産されていたとのことで、クリ材や売上高の50%を占めるケヤキに対する愛着には並々ならぬものを感じた。まだまだ時間が許せば様々な質問をしたいところであったが、夕暮れとなり、第1日目の見学は終了した。

 
写真4:国内外から集積された広葉樹原木に圧倒された参加者

 第1日目のセミナーでは、中村幹広氏の岐阜県における健全で豊かな森林づくりプロジェクト(通称「森プロ」)の紹介、中原丈夫氏による中原林業の紹介、島田博匡氏による低コスト育林に向けた取り組み~低密度植栽と下刈り簡略化、高橋による森林資源構成の推移から見た吉野林業地における高品質大径材生産の持続可能性、鈴木和次郎氏による国有林における列状間伐の実態と問題、大住克博氏による現在の列状間伐ブームは不健全ではないか?と盛りだくさんの報告がなされた。
 中村氏からは、「森プロ」の取り組みについての報告がなされた。活発な研修会の開催や施業プランナーの養成が着実に行われてきている現状が紹介されたが、結局森林をどのような状態に導きたいのかという将来像が見えてこないという疑問が提示された。森林管理は、目標があって初めて現在すべきことが見えてくるものであるが、将来像が描けないとなると、現在すべきこともなかなか決まって来ないのではないかと思うし、効果も十分には検証できないのではないかと思う。解決への良策は見つからなかったが、どの森林管理の現場も直面している問題が提起されたと思う。
 中原氏からは、270年間継続されてきた中原林業の歴史と今取り組んでいることについて報告があった。必要最小限の機械を揃え、道を造り、90年を伐期とする経営が行われてきたことなどが示され、枝打ちへのこだわりや林業にかける意気込みと熱意が伝わる報告であった。翌日の現地見学がとても楽しみであった。
 島田氏からは低密度植栽と下刈りの簡略化についての報告があった。1,000本/haという低密度植栽については、現場の方から自分たちはやらないだろうと言われたとのことであった。下刈りについては、今後更新を考えた際に必要不可欠な作業となるだけに、十分な検証が必要であると感じた。
 高橋からは、吉野林業地の中心地を構成する3村の齢級別森林資源の30年間の推移をもとに、今後の高品質大径材生産の持続可能性を考えれば、林道などの基盤の整備および次世代のスギ・ヒノキ林の育成が急務であることを報告した。「要間伐」や「除間伐」といった言葉の定義の重要性と、吉野でいう高品位とは年輪幅を2mmにそろえることであることと考えて良いのかという疑問、基盤整備の不備についての現状をもっと強調してもらいたかったこと、などについてのご意見をいただいた。吉野林業地で大被害を招いた1998年の台風の影響によって、日本全国の木材価格が下落したことなどもご指摘いただいた。
 鈴木氏と大住氏からは列状間伐の実態と問題に関する報告があった。最近「間伐施業」という用語まで飛び出し、間伐自体が目的となってしまっていることに対する危惧が示され、列状間伐は誰でも出来るということになっているが、間伐とはそういった事柄ではないのではないかという意見が示された。渡邊定元先生から、残存した列の内部は、間伐をせずにそのまま放置するよりかえって成長が落ちることが指摘され、列状間伐の問題点が指摘された反面、3残1伐にしてFuture Treeを選んで行けば、列状間伐も良いとの考えが示された。
いずれの報告をもとにしても、今後森林をどのような状態に導きたいのかという将来像が見えていなければ、効果的な森林管理は出来ないし、健全な森林の育成も望めず、森林の持続も望めないのではないかと強く感じた。セミナーは22:00を過ぎる頃まで続けられ、その後も盛んな意見交換がおこなわれた。
第2日目は、中原山林の見学から始まった。中原氏の山林は約300haあり、80年から90年を伐期として森林の管理が行われてきている。中原山林では皆伐再造林が年々行われてきており、苗木についても安定的に決まった業者から供給しているとのことであった。若木の人工林内では、裾枝払いがおこなわれており、雪によって枝が引っ張られることによる曲がりや林内での作業の容易さを目指してやや早期に高めに枝を払うことが示された。若齢林では立て木を決めずに3本に1本伐るなどの基準で機械的に間伐をおこなうとのことであった。作業の容易さとしては、それでよいのかも知れないが、立て木を決めることは、森林の将来像を描く上でも重要なことではないかと感じた。樹下植栽をした山林も見学した。現状は樹下植栽の難しさを如実に示すものであった。伝承林についても見学した。伝承林は、出来るだけ長期に残していくようにと代々受け継がれてきた人工林であり、90年生前後のヒノキを主とする林であった。しかし、近年間伐がおこなわれたとのことであり、とても寒々とした印象を受けた。参加者からも手厳しい意見が飛んでいたが、残存木は枝張りも成長も芳しくないものが多く、明らかに伐りすぎという感じを受けた。残存木の選び方に問題があったのではないかという意見もあった。今後さらに立木本数を半分にするとの方針であったが、それはやめた方がよいとの意見が多数であった。全体的に間伐をおこなうのではなく、部分的な皆伐をしながら更新していくしかないのではないかとの意見が多かった。禁伐とまではゆかずとも、伐採を制限されていた以前の林を見てみたかった。中原林業ではファミリー会社による作業道開設や伐採のチームが組まれていた。少数精鋭のチームであり、積雪時もスノーモービルに乗って山林作業に向かうということで、森林管理に対する意気込みを強く感じた。多数でなくとも精鋭部隊での作業が低コスト林業の鍵ではないかと感じた。試行錯誤しながらの林業経営の様子を包み隠さず見せてくださった中原氏に敬意を表したい。

 
写真5:高密路網と高性能林業機械を組み合わせた間伐システムを説明する中原林業の中原氏

 午後からは、加子母森林組合長の内木氏のご案内で森林組合が管理されている山林を見学した。加子母森林組合では、長期育成循環施業に取り組んでおられた。加子母における循環施業の考え方は『美林萬世之不滅(びりんばんせいこれをたやさず)』の山作りとのことであった。山林1筆(約0.3ha)毎に林齢の異なった木が配置された森林作り『各筆複層林』が目指されていた。約5,600haの民有林のみを対象に森林を管理されており、99年生の人工林が最も古いとのことであった。年約460万円の交付金で道の維持管理をおこなっているとのことであった。これまでに36名のIターンUターンの若者を受け入れたが、12名のみが残ったとのことで、人を育てるのが森林組合の仕事と思っているとのことであった。「自然の中にいたい」という安易な考えのみでは、なかなか続かないというご指摘に共感した。複層林誘導試験地を見学した。84年生のヒノキと13年生のスギ・ヒノキの二段林などを見学したが、どこを見ても疑問に思ったのは、この状態で下層木が健全に生育していくだろうかということであった。例えば84年生のヒノキ林であれば、弱度の間伐を繰り返すことによって、当面の収入はまかなえるのではないか、次世代を育成するのはそれからでも遅くはないのではないか、下層木の育成の為に上層木を伐るという発想自体が間違っているといった意見が噴出し、侃々諤々の議論が沸き起こった。補助金をうまく使いながら森林を育成する苦肉の策であるとのことであったが、一斉単純林の管理すらままならない現状にあって、さらにこまめな管理が求められる複層林の育成は、困難を極めることは間違いないと思う。先日全国森林計画の次期計画に関する記事を見たのだが、育成複層林をさらに増やす計画が立てられていた。困難が伴う複層林をさらに増やそうとしている国の方針にも大いなる疑問を感じる。

 
写真6:加子母森林組合の複層林施業を説明する組合長の内木氏

 二日目のセミナーでは、笠原義人氏による第21回日本の森全国集会および第29回東北自然保護の集いアピールについて、鶴田和男氏による東濃森林管理署および木曽ヒノキ備林について、今井正憲氏による林業の立場から見た農業の姿-京野菜のマーケティング研究を通して感じたこと-、豊田信行氏による愛媛県における過去の土地利用と現植生との比較-県中~東部の人工林広葉樹林化の適地判定-、横井秀一氏による広葉樹二次林皆伐後23年間で起こった優占樹種の交代、竹澤和亮氏による渓畔林の修復再生に向けてに関する報告があった。
 笠原氏からは、第29回東北自然保護の集い・宮城大会での国有林の独立行政法人化への反対や天然林の保全を求めること、林野庁の職員を増やし健全な林業をすることを求めるアピールや、第21回日本の森と自然を守る全国集会の参加者一同による1.国有林野事業の独立行政法人化・分割管理化凍結を求めること、2.林野庁への国民の疑問・不安にこたえる明瞭な説明を求めることが記載されたアピールが紹介された。どちらも小規模な団体の集合であるとのことであったが、とても重要なアピールをされていると感じた。
 鶴田氏からは、東濃森林管理署において管理している2.2万haの国有林の現況やヒノキ人工林が多い(「東濃ヒノキ」の主要な産地)という特徴等が示され、取り組まれている国有林野事業が紹介された。また、翌日見学予定の木曽ヒノキ備林の概要についても説明された。
 今井氏からは、ブランド野菜である京野菜のマーケティングの現状分析の結果から、例えば東京に売り込もうとしても、量が揃わないといった難点などが示された。ブランドより実は量の確保が今後重要なのではないかという点については、農業も林業も同じではないかという考えが提示された。
豊田氏からは、愛媛県においてGISを利用して判別した過去の土地利用を広葉樹林化の適地判定に用いる方法について検討した結果が示された。この結果については、グランドデザインがあって初めて生きてくるのではないかという意見が提示された。
横井氏からは、100m3プロット4つの調査結果をもとに、ヌルデの林がもとあったミズキに置き換わった事例について報告があった。ヌルデからミズキに置き換わった主な原因としては、ヌルデ自体が衰退したことが挙げられた。竹沢氏からは渓畔林の再生についての報告があり、会場からは、水辺林の保全・修復・再生に生かせるのではないかといった意見やなぜ間伐をおこなったのかという疑問(事業として間伐をおこなうことになっていた)、埋土種子由来のものが多いのか(風散布種子や落下した種子からの発芽が多かったのではないか)といった疑問が投げかけられた。
 2日目のセミナーも盛況で、夕食後さらに活発な意見交換が行われた。
 3日目は、木曽ヒノキ備林の視察をおこなった。木曽ヒノキ備林は、20年に1度おこなわれる伊勢神宮の式年遷宮に必要な材を確保するために取り扱われてきた森林で、貴重な建造物への用材の供給や学術研究を目的として維持管理されてきている森林であった。車で作業道を上がっていったのだが、とにかく遠いところだという印象を受けた。昭和54年からほぼ5年おきに毎木調査がおこなわれてきている固定試験地へと案内していただいた。車を降りて急斜面を下って沢をわたり、急斜面を登ったところに試験地は設定されていた。林に入った第一印象は、暗い・・・ということだった。林内では様々な問題提起と議論が展開された。天然更新をしようとするとヒノキではなく、サワラが生えてくるとのことであった。ヒノキは主に倒木更新だったのであろうとのことであった。木曽といえば赤沢の休養林が有名であるが、むしろ赤沢は特殊で、見学したヒノキ備林が本来の姿ではないかということであった。伐採時の撹乱のことを考えると、今のように機械が入ってあっという間に伐採が行われるのではなく、かなり長期間人が入って毎日通って伐採・搬出作業などをおこなっていたはずであり、今とは人による撹乱の度合いが異なったであろうということが指摘された。さらに、受光伐の是非についても議論となった。今後いかに更新していくかといった点についても議論された。

 
写真7:ヒノキ備林の試験地内で、木曽ヒノキ天然林の成立過程について論議する参加者

林内でヒノキの樹冠を見上げてみた。とても均整のとれた樹冠を持っている木が多く、こまめな枝打ちと抜き伐りが行われてきたであろうことが想像できた(木曽ヒノキ備林では枝打ちはおこなわれていなかったのではないかとのご指摘を受けたが、とても均整のとれた枝張りを持つ個体が見られた)。ただ、枝張りが小さいと感じる個体が多く、梢端も折れていたり、二股になっていたりする個体も多く見られた。私は密植・多間伐・長伐期を特徴とする吉野林業地の研究を行ってきたこともあり、私がみてきた吉野を基準として他の森林を見てしまう。そうすると、特に高齢林分についてはどの森林を見ても、過密に見えてしまうということに最近気がついた。吉野は密植ではあるが、間伐を繰り返すことによって密度をどんどん低下させる。つまり、密管理ではない。同僚からは、基準が薄すぎるのでは?といわれるが、総ての個体が健全に育っている森林を良い森林だと判断するとすれば、かなり疎に管理されていなくてはならなくなると思う。樹冠長が短くなり、枝張りが小さくなってしまった個体が健全に育っているとは思えないからだ。樹種による特性もあろうとは思うが、いかにして個体の健全な樹冠を確保するかが重要であり、そのうえで林分全体をいかにバランス良く管理するかということが重要なのではないかと思う。そう思ってヒノキ備林を見渡すと、やはり健全ではない個体が多く存在していると感じた。それらの個体をうまく伐採して利用していけば、下層にも光が入り、もっと明るい人工林になるのではないだろうかと思った。
 非常に盛りだくさんの内容での現地検討会であった。これまでに見慣れた吉野の長伐期とはかなり違った森林を多数見学させていただけて、本当に良い勉強をさせていただいたと思う。日程的にかなり無理をしての参加であったが、無理をしてでも参加させていただいて良かったと思う。まだまだ書き足りないことも多々あり、もっと詳しい報告を求められるのかも知れないが、すべては著者の記憶力の悪さと飲み込みの悪さ故のこととお許しください。本検討会を主催された皆様の熱意と準備の大変さを思うと、頭が下がる思いでした。関係各位の皆様に改めて、感謝の意を表します。

 
写真8:夜遅くまで繰り広げられたセミナー、多くの話題が取り上げられた

<参加者の意見・感想>

求めていたモノがあまり得られなかった!

伊東 康人(兵庫県森林林業技術センター)

 常々,森林施業に関して,研究者と現場との間にあるギャップ(例えば列状間伐では,研究者は「限定的な間伐方法」と位置づけているが,現場では「限定的ではなく簡易に収益を増加させる新しい間伐方法」と位置づけられている)を感じており,そのギャップを埋められるヒントが得られればと思い,今回初めて参加しました.
 参加を終え,「求めていたモノがあまり得られなかった」というのが率直な感想です.森林施業に関する新しい知識や課題を学べたのは大変有意義でしたが,それを行政の施策にどう反映させるかという議論がほとんどなかった気がします.会の趣旨とは異なるのかもしれませんが,実学である林学にとって研究成果を世の中に還元することは不可欠ではないでしょうか.現場との相違を「行政職員の怠慢」や「行政組織の問題」だけで片づけるのでは,あまりにも寂しい気がします.
また,昨今の林業情勢を踏まえ,様々な木材利用(例えば集成材利用)を意識した新しい森林施業論を検討することも必要では?と感じました.木材利用に関する研究会等と合同で「今日の森林施業」を議論するのも良いかもしれません.
 好き勝手書かせて頂きましたが,言うのは簡単で,実際に行なうのは困難だと思います.自省も含め,現場に還元できる研究をしていかなければいけないと再認識した3日間でした.今回のコーディネートをされた岐阜県森林研究所の横井さんを始め,お世話になった方々どうもありがとうございました.

林業って芸術的感性が必須ではないかと思う

大原 偉樹(森林総研関西支所)

 施業研が催す現地検討会への参加は,まだ2回しかありません。2回とも大変勉強になりました。雪が降る前の最後のあがきさえ諦めれば,こうした機会から学ぶものも多く,少しは利口になったかもしれません。まぁ,爺さんから言うのも変ですが,若い人には現場を知るまたとない経験の場と思います。
 さて,今回の岐阜はなんと言ってお買い得感があって,なんか得したなぁと思わせる検討会でした。今須択伐林に始まり,ヒノキ備林で締める盛り沢山のフルコースで,ツアーコンダクターでもなかなかここまではいかないと思わせる出来でした。横井さんはじめ,森林研究所,岐阜県林政部,森林組合,中部森林管理局の方々のご努力には低頭するばかりです。とくに中原さんが既に林業経営を飛び越え,御自身も含めてキャラクタライズされていたのには圧倒されました。もちろんそればかりでなく,検討会で出会った方々が林業を未来あるものとして捉え,真摯に取り組んでいる姿には感慨深いものがありました。
 ところで,たわごとを言わせてもらえば,林業って芸術的感性が必須ではないかと思うことがあります。将来の価値も不明で,一代で済まない遠い未来図を描けるセンスはほとんど世に出ない画家のセンスのようです。木材の価値のあり様も似て,純粋に独立した利益を生むのは,日常的な消費財でも高級素材や名産品のようなでもなく,むしろ美術品や骨董品的に扱われた木材であり,マス的な商品より個々の作品といったものでしょうか。今回はそうした感性を磨く良い機会でした。

東濃森林管理署の木曽ヒノキ備林に強い印象

竹澤 和亮(関東森林管理局森林技術センター)

 この現地検討会には昨年からお世話になり、今回は森林技術センターから2名で参加させていただきました。
 私は国有林での経験は浅く、岐阜に来たのも今回が初めてでした。今回は夜のセミナーでの話題提供をさせて頂き貴重な経験になりました。3日間の現地検討会を通して、率直な感想を述べさていただきます。
 現在の列状間伐における実態や問題点は夜のセミナーの中でも話題提供にもありましたが、国有林での実態を目の当たりにして、今後もどのような施業を行っていくのかという疑問と危機感を感じます。私たちの仕事の対象は山であって、その山の将来に責任がもてる森林管理をしていかなければならないと痛感しました。
 現地では同じ国有林ということもあって、東濃森林管理署の木曽ヒノキ備林が強く印象に残りました。あれほどの天然林が国有林に残っていたことに驚きでした。将来にわたって天然林のモデルとなるヒノキ林を管理していく必要性を同じ国有林職員として感じました。
 また、参加者の方と多くの意見交換をすることができ、その中で山の将来像を明確に描いて取り組むことが重要だと感じました。そのためにも多くの現場で経験を積み、山を見る眼を養っていきたいと思いました。
 最後に今回のような現地検討会を様々な試験地や事業地で実施し、多くの人に見てもらい、現地での活発な議論をすることで、少しでも山が良くなればと思います。

今一度、歴史的な人為の影響を考え直してみることが必要

崎尾 均(新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究センター佐渡ステーション)

森林施業研究会の現地検討会には、ここ数年参加している。これまでは埼玉県の職員の立場で参加していたが、今回は大学の教員として参加した。実は、前回の新潟の現地検討会の際に現在の職の公募を知り、採用されたという曰く付きの研究会でもある。「林業・林学」の言葉が消えて久しいが、大学に入ってみてそれを実感した。林学科や演習林という名も既になくなり、伐採収穫もほとんど行われていない。このような中で、大学の教員が森林施業を議論する場としてこの研究会の役割は大きいと思うが、大学関係者はわずか3名しか参加していないことから「林学」の将来に一抹の不安を感じた。
今回の検討会のメインテーマは針葉樹人工林施業の持続であった。今須林業の択伐林、加子母森林組合の複層林などの森林を見たが、十数年前に林野庁の補助金で行っていた複層林の研究を思い浮かべた。モデルとなる試験地において単木的な間伐を行った林床下に苗木を植栽したが、数年で林冠はうっぺいしてしまい、新たな間伐が必要となった。その間に植栽した苗木はある程度成長したものの、もやし状にひょろ長く成長し、雪害にやられる個体もでてきた。植栽した下層木を生かすために将来収穫すべき上層木を切り捨て間伐するという本末転倒の状況が出現した。今回の択伐林や複層林の下層木を見て、その時の試験地の状況が鮮明に蘇ってきた。その当時、全国で複層林施業が繰り広げられたわけだがその事業地は現在どのような姿になっているのだろうか。複層林施業に関する多くの書籍が出版されたがほんとうにそのモデルのように施業が進んでいるのか、10年以上たった現在こそ、複層林施業地を改めて調査し直し、「ほんとうに複層林施業が可能かどうか?」総括する時期のように思われる。一般に研究開発では成果がでてからそれを実用化したり普及するのが常であるが、日本の森林施業の研究は実際の事業と同時並行で行われている。複層林施業の後は、針広混交林施業、強度間伐と変遷しているが、そのスタイルは現在でも変わっていないようだ。
現地検討会の最終日は、東濃森林管理署裏木曽国有林の木曽ヒノキ備林を見学した。それは、一見して天然のヒノキの一斉林のように見えたが、実は江戸時代からの人為の結果であることが説明された。木曽五木に関しては禁伐であったがその他の広葉樹は地域住民が伐採を許可されていたというのだ。私は、この歴史的な森林の取り扱いについて全く知識を持ち合わせていなかったので、この説明がなければ誤った解釈を行うところであった。これまで、多くの森林を見てきたが今一度、歴史的な人為の影響を考え直してみることが必要であると感じた。
以上が今回の現地検討会に参加しての感想であるが、今年、久しぶりに茨城で行われる検討会には私が指導している元気な学生共々参加して大いに議論したいと考えている。大学の教育の中では得ることのできないものがこの研究会にはあるはずである。

 
写真9:セミナー会場で、管内概要を説明する東濃森林管理署長の鶴田氏

百聞は一見に如かず

藤島 みずき(静岡大学)

今回の研究会で一番印象に残ったのは、中原さんのような専業林家の方がいたんだ、ということです。材価が安いから、急傾斜地で搬出費が掛かるから、人件費が高いから、後継者がいないから、日本では林業だけで食べてはいけない。これが私の知っている事でした。しかも、単なる情報として知っているだけだと思い知りました。
私は、在来工法で家を建てるのを見たことがあるくらいで、林業に触れることなく育ちました。大学では昔の林学科に入り、林業(植林から伐採、集材・作業道の付け方など)についての一通りの知識は得られました。またインターンシップ制度で、架線集材、造材、原木の競りや製材所は見たことがあったのでだいぶ知っているつもりでした。しかし、自分でやったのは大学の実習だけ、しかも時間が限られているので実習というよりは体験です。自分の頭と体を働かせてやったことはないのに、林業の事を知ったような気になっていたのが恥ずかしいです。
林業でご飯を食べられるようにするには、さまざま問題があり解決が難しいことは分かりきっています。しかし、この問題の構造を把握し、危機を感じている人はとても少ないのではないではないでしょうか。せめて、林学を学ぶ学生は知らなくてはいけないと思いました。
それでも、中原さんのような元気のいい林家がいると知って、うれしく思いました。どこかで、“これからの農業はイケイケでバリバリじゃないと・・・”と聞きましたが、林業も(どんな職業も?) 同じだと思いました。だめだ、だめだとばかり言っていないで、前向きな気持ちで行動していくことが何かを変える力を持てると、当たり前かもしれませんが、実感しました。
もう一つ印象的だったのは木曽の御料林です。人間の貪欲さや、山に与える影響力の強さに改めて驚かされました。これは伐採についてもですが、植林についてもいえます。どんな急な斜面にも杉や桧が植えてあることにいつも驚かされ、本当に人手が入っていない山はもうどこにもない、というのも頷けます。こうして人間が山に与える影響の強さを感じると、人間がどういう行動を取るかがとても重要に感じられます。かといって、樹木の生長速度は人間が頑張っても大して変えられません。50年先の森林は「未来の森林」なんでしょうか。中原さんの所では80年、ヨーロッパなど100年以上の伐期もよく聞きます。まだ知らないことが多く生意気な事はいえないのですが、もっと目標を高くしても良いのでは?と感じました。
最後に、このような現場を見る機会を整えてくださった実行委員会の方々に感謝いたします。研究室の仲間にも見てきたこと、感じたことを伝えて林業のために何が出来るのか考えていこうと思います。

林業(森林に係る様々な事象)は科学ではなく歴史学である

小宮 芳男(神奈川県自然環境保全センター)

森林技術の募集広告を見て、今須の択伐林と木曽ヒノキ備林は是非一度見てみたいと、積年の希望が叶うと思い申し込みました。しかし、今須の山の悲しさは何とも言うべき言葉もありませんでした。本や話で聞いていた素晴らしさは何処へ行ったのでしょうか。山は人手でできていることを痛感しました。
木曽ヒノキの備林は、想像していたよりも径級が小さく、その分年輪の細やかさを感じました。江戸の大火の時には末口径が1mを超す長尺材が木曽からでて、使用されたと聞いていましたので、300年は若いとしか言うほかないのかも知れません。岩石交じりの比較的条件の良くない立地条件で、天然ヒノキ林は生育していて大変参考になりました。
現在、私どもでは県営林5ヶ年計画を作成しています。その中で、今ある人工林をどのように管理していくか、様々に検討を進めている中での今回の検討会は大変有意義なものとなりました。
加子母村森林組合が整備された、良く手入れされた森林、中原林業の持続的な森林経営、天然広葉樹材の市場、木曽ヒノキの備林、いずれも大変素晴らしく参考になりました。
特に、現地での白熱した議論は、今にも喧嘩が始まるのではないかと思われるほど殺気立っていて、学生時代に議論した思い出を彷彿とさせるものがありました。
複層林について、今須の事例、加子母村の事例、諸先輩のご意見を伺いながら、法正林的複層林が太陽光線を最大限に活用できるとの整理がなされたように理解され、今後の計画に活かしていこうと考えております。
同乗させていただいた竹内先生には、車の移動中も色々お話を伺うことができ、資料も早速に送っていただき感謝に耐えません。また、渡邊先生とは、先生の恩師と私の恩師のお話で学生時代が甦ったようで、大変楽しい時間が持てました。
この研修で、林業(森林に係る様々な事象)は科学ではなく歴史学であると感じました。今回の経験を活かし、今後の仕事に大いに参考にさせていただきます。
末筆になりましたが、今回の企画・実行していただきました、岐阜県森林研究所の横井様をはじめ、様々にご尽力いただきました関係各位の皆様に、有意義で実り多い体験を与えてくださったことを、深く感謝申し上げます。

「持続可能な森林経営」を謳いつつも

近藤 美由紀(東濃森林管理署)

 「目標・目的なき森林経営の危険性」「林業技術の確立の難しさ」。今回研究会には初めての参加となりましたが、刺激的な議論が飛び交う中、この2点を強く感じました。
現在、間伐遅れと言われる森林が多くある中、間伐が喫緊の課題として位置づけられているが、それでは間伐後、どんな森林を作りたいと考えているのか、どんな材を生産したいと考えているのか。長伐期、複層林といいつつ、どの段階でどのように手を入れることが適当なのか、その技術も実はまだ明確ではない・・・。
「持続可能な森林経営」を謳いつつも、目標林型の確かな議論なく、目の前の作業のみに目が向けられがちな現状には大きな矛盾があることを認識するとともに、現在の森林経営の考え方はイメージ先行になりがちであり、技術がなおざりにされてしまっているようにも感じました。自然を相手にする林業では、作業がマニュアル化できない部分も多々あり、それを補うのがこれまでの経験則や現場の技術者判断のはずです。今本当に求められているのは、ある技術を場所に応じて適用するかどうか判断することができる技術者の育成ではないか。また、検証不足のまま、流行りの作業方法の画一的な押し付け施策を行うことは危険ではないか。自分自身も林業に関する現場知識や経験は乏しいため、行政機関に属する者として改めて身を奮い立たせることができました。
岐阜県在住にもかかわらず、今回の検討会の見学地はどこも足を踏み入れたことのない場所であり、この会に参加して各地を見学し、議論を拝聴することができたことは、大変貴重な経験となりました。お世話になった方々に深く感謝いたします。

 
写真10:森林のすばらしさで参加者を魅了したヒノキ備林

<編集後記>

九州地方のスギの挿し木林業は、高齢化、老齢化に耐えうるのかと、宮崎の銀狐に聞いたら、飫肥の三ツ岩の遺伝子保護林を見てみろ!と言われ、子狐の案内で訪ねた。明治11年に直挿し造林、現在、130年生で、本数密度が234本/ha、平均樹高が31m、1480m3/haの高蓄積、その存在は感動的である。なぜか?その理由は高蓄積だけではなく、林分の組成と構造の多様性と複雑性にもある。この林分は単なるスギの単純林ではない。上層林冠を植栽木が占める一方、その下にシイ・カシ類などの常緑広葉樹が介在し、複層状態を形成し、その種多様性も高い。一見すると天然林とも見まごう。肥後林業は、言わずと知れた弁甲材(船材)生産を目的とした疎植の挿し木造林であったが、今は廃れ、現在は、ここ三石保護林にその姿を留めるだけだと言う。事実、保護林の周辺は、広大な挿し木造林地帯が広がり、徹底した短伐期のモノカルチャー林業が行われている。まさしく、スギ畑(Wood farm)地帯である。三ツ石の高齢級挿し木林を可能ならしめたものは、30年生以上、林冠の閉鎖に要したとされる飫肥林業の伝統的な疎植、低密度管理であると推察された。わが身を東国原に例え「限界集落」たる九州山地の林業の救済・復活(?)をもくろむ銀狐の心情を思い、三ツ岩保護林の中で、しばしその手下の小狐とともに、地域林業の有り様を考えた(狢)。

森林施業研究会ホームページに戻る