木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.45 2009.07.29
Newsletter of the Forest Management and Research Network


2009年森林施業研究会現地検討会(茨城合宿)のお知らせ

コリドー09現地検討会報告and運営委員として思うこと 〜森林林業技術者・研究者ネットワーク緑の回廊 運営委員 須崎 智応〜

台湾訪問報告 〜森林総合研究所・東北支所 櫃間岳〜

樹木学の集大成 国内で初めて形態図鑑を超えた一冊「日本樹木誌1」発刊!

2009年森林施業研究会現地検討会(茨城合宿)のお知らせ

  本年度の施業研究会現地検討会は、関東森林管理局森林技術センター(茨城県笠間市)の試験地などを会場に開催されます。当地では2002年についで2回目の現地検討会の開催となります。前回は、森林技術センターが取り組む国有林の新たな施業・技術開発の取り組みを見学、意見交換を行ってきましたが、それから7年が経過した現在、それぞれの取り組みの結果、施業林がどのように変貌し、また、どのような成果、失敗を生み出したかについて検証を加えようとするものです。今回の現地検討会では、さらに発展する「笠間プロジェクト(国有林における持続可能な森林管理の実現を目指す)」の新たな取り組みについても、視察、検討する機会が設けられています。さらに折角の機会ですので、最終日には、茨城県北地区の民有林経営の視察も予定しております。万難を排し、「茨城合宿」に参加されることを訴えます。

モザイク林
形がみえてきたモザイク林(茨城県筑波山)

テーマ:笠間プロジェクトの検証と新たな森林施業
日時:9月9日~11日
現地検討会受け入れ機関:関東森林管理局森林技術センター(笠間)
参加費:17,000円(宿泊費+諸経費)
参加予定人数:35名
宿泊施設:筑波ふれあいの里
     プラトー里美
なお、試験地間の移動については、車を使用しますので、車でお越しの方は、参加者の同乗をお願いすることになりますので、御協力お願いいたします。

現地検討会の日程
1日目(9日):筑波山駅(北条)集合(午後1時)
    *東京方面からの鉄道利用の方は、TX(つくば高速鉄道)つくば駅(終点)に12時集合
    筑波山複層林試験地の見学
    セミナー:笠間プロジェクトの取り組みと成果(6課題)
    宿泊:筑波ふれあいの里

2日目(10日):大沢試験地・高萩水辺林再生試験地・集水域管理試験地の見学
    広葉樹植栽地(里美牧場)視察
    セミナー:国有林の業務研究(6課題)
3日目(11日):佐川家山林の視察(里川)
    上君田モミ保護林見学:解散(正午)
    * 鉄道利用の方はJR高萩駅までお送りいたします。
参加申し込みは、担当者まで下記の申し込みを添えて電子メールでお申し込みください。申し込みの締め切りは8月20日まで(早めの申し込みを歓迎いたします)。
送り先:竹沢(森林技術センター):kazuaki_takezawa@rinya.maff.go.jp
    太田(森林総合研究所):takaota@ffpri.affrc.go.jp

申込書
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氏名:
所属:
連絡先:TEL:               E-mail:
参加日: 9日      10日      11日(参加日に○を付けてください)
行き帰りの交通手段: 車     鉄道     その他(    )
その他の要望あるいは意見:

 

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コリドー09現地検討会報告and運営委員として思うこと

森林林業技術者・研究者ネットワーク緑の回廊 運営委員
須崎 智応

 施業研究会のHPトップのリンクに渓畔林研究会と共に、私たちのHPにもリンクが張られていますので、施業研究会の皆様も何度か迷い込まれた方がいるかと思います。今回、「施業研究会のニュースレターに、コリドーからも原稿を寄せていただきたい」と依頼があり、さてどのように書いたら良いものか? 思案したのですが、本題に入る前に『森林林業技術者・研究者ネットワーク緑の回廊』(通称:コリドー)と言う集まりについて理解してもらうために、その馴れ初めについて語っておこうと思います。
この実に怪しげな団体名で、いったい何を目的に活動しているのか? いつも訝しがられるのでありますが・・・。純然たる学問の徒の集まりでもなく・・・なんとなく林野行政に抗う活動家を養成する、林業原理主義集団の集まりのように見えなくも無い? 元々コリドーの活動は1999年頃、当時東京営林局笠間森林技術センターに在籍していた田中恵さんが『現場と研究者の間にある、問題や意識の乖離をどう埋めていくか』と言う問題提起から始まり、現場技術者がより研究者に近づいていくことで、お互いに山と対峙できる環境を構築しよう。と言うことで、活動がスタートしたと記憶しています。技術者と研究者の橋渡しが出来るような、集まり・・・と言うわけで『緑の回廊』なのです。よく誤解されるのですが、林野庁の言う「緑の回廊」を研究する組織ではありません。
 初代の頃は、会報として印刷物を配布する形式でしたが、この手の物を配布するのはなかなか苦労されたと思います。田中さんの転勤などと相まって、一時活動は休止の状態になっていたものを、2003年に代表の平野と私が引き継ぎました。二代目コリドーは、会報をHPによる電子化に切り替え、施業研のように年一回の現地検討会を行い、会員(自称で可)の技術交流と、本来目的である研究者との技術・知見の交流を目的に活動しています。

 さて、前ふりが長くなってしまいましたが、今回は年に一回開催している現地検討会のレポートとなります。
 今回は『忘れ去られた試験地たち~明日を担う技術はどこから?~』と言う題目で、1日目は森林総合研究所多摩森林科学園において、2日目は東京都八王子市内の大平国有林において、現地検討会を行いました。

*一日目(6月5日・金曜日)
 近年の現地検討会は県職の方や学生も混ざっていたのですが、今回の検討会は国有林の現場技術者向け、と言うことで参加者を募集しました。当日はあいにくの雨の中、総勢41名の参加者が集まりました。
 幽霊が出る?!と言う噂の白山荘で昼食をとり、参加者でしばしの雑談の後、本日の趣旨説明を終えいよいよ入山。

現地の案内は、多摩森林科学園の伊東宏樹チーム長(生態管理情報担当)にしていただきました。多摩森林科学園は元帝室林野局の試験場で主に、様々な樹木の植栽試験が行われていたそうです。

 雨の中,観察会スタート

「雨は憂鬱ですよねぇ~、ブルーな気持ちになりますねぇ~。」と愚痴をこぼしていると、W氏に「だから国有林の職員は根性が無い!!もっとやる気を見せろ!」と怒られてしまいました。そ、そうですよね~、主催者がブルーな気持ちだとみんなブルーな気持ちになってしまいますよねぇ~。でも雨は苦手なのです・・・。コリドーの集会、代表・運営委員が雨男だからと噂されるほど、実は雨天率が非常に高いのです(笑)

やはり移動はだらだら。みんな山にいろいろな興味があるので仕方ありません。
All:「おお~、この木何だろう?」

この木なんだろう

M:「珍しいですね、この標高で・・・」
H:「ケヤキ・・・ですかね?」
I:「ブナです」
H:「ひぇ~~っ、ブナ?!」
などとやり取りし・・・

鳥の卵が落ちていた

鳥の卵も落ちていました。新鮮なようでしたが中身は綺麗になくなっていました。

いつもこのように、そこらにあるものに興味を引かれたり、蛇を生け捕りにしたりと・・・^^;)
正直、進行役としてはハラハラですがこれも参加者の多様性、大切にしなくてはなりません。
やっと、尾根部のモミ自然林までやってきました。

尾根部のモミ林に到着

この林分に関する質問は、気候や植生に関する事や、どのような試験研究が実施されているのか? などの質問がありました。
案内していただいた伊東さんの話ですと、このモミ林を調査した研究者は居るが、そのプロットを使って永続的にデータを収集できている訳ではなく、森林総研として継続的な研究に取り組んだり、データを管理する体制には残念ながらなっていない。と言う事でした。
 そもそも、森林総研は現場技術の開発を行っているわけではありませんし、研究者の転勤があれば新しく赴任した研究者の専門の違いで、研究の対象や興味の対象が変わってしまい、うまく研究成果が引き継がれないのだと思います。
 国有林においては技術開発を行っているにしても、どこかに『本来用務でない』と言う思いや、一念発起し試験研究を始めたが、流行が去り意義が失われ放置された試験地も多々見られます。また、局の試験地として指定されていても、その後の調査がなされなかったり、後に試験地の所在や維持する意味がよく分からなくなり、抹消されたりするケースもあります。
 私たち技術者側からの感覚ですと、森林総研では体系的で長期的な研究に取り組んでいるので、現場では技術・研究開発や森林のモニタリングなど不要、従前からある手法をとっていれば森林の管理は問題ないと言う風潮があるように思われます。しかしながら、今求められている持続可能な森林管理を実現していくには、地域ごとのきめ細かな森林管理が必要であり、そのための知見の蓄積もやはりきめ細かくあるべきだと思います。技術開発や研究開発を人任せにせず、自らの手で行っていく体制を確立させたい。と思うのですが・・・1署1研究者のような体制が出来れば、より現場も研究も科学的で実践的な体制に変化していくのではないかと。

 その後、区域内に存在する伐採跡や、紅檜林、ストローブマツ林などを見学しました。

おや、あの尾根の向こうは明るいですね? 伐採跡地でしょうか? 歩道を伝って覗いて見ると、住宅地が広がっていました。『明るい所=伐跡』と言う感覚が刷り込まれた私たちは、どうもそのギャップに戸惑いを覚えてしまいます。

伐採跡地ではなく住宅地でした

 このように広大な住宅地が隣接する中で、国有林の深山に居るような感覚になれる森林が、都市の近郊に残されている意味を考えてしまいます。国の土地でなければ、この山は住宅地に変化していたことでしょう。

 雨天のため、若干早めに現場を切り上げ「森の科学館」を見学。

森の科学館にて

展示物を見ながら・・・「これ自宅に欲しい・・・」などと物色。

 宿に移動して講義へ。
 鈴木和次郎氏より『国有林における技術開発の歴史』を15分。
 正木隆氏より『森林林業の技術開発 ~長伐期施業と天然更新から見えるもの~』45分の講義。「長伐期施業と言うけれど、まだ何も分かってない、希望的観測論で事を進めるのは駄目ですよ」と言うお話と、15年の試験研究の後『更新完了』となった試験、でもその後訪れてみると、結果は思わしくなく、とても更新完了といえる状態ではなくなっていた。「実は15年と言う試験は森林の研究期間としては短く、もっと長期にわたりデータを取らなければ危ないかも」と言うお話の二本立て。
講義を聴いて、我々にもまだ研究しなければならない課題が沢山あるんだな、と実感しました。国有林の中には、幕藩体制前に造林された人工林や、帝室林野局・山林局時代に造林された貴重な山や、様々な天然林が存在しています。このような多様なフィールドを持つ国有林ですから、そこから得られる知見の数々は、これから私たちが解決しなくてはならない、諸問題の糸口になるかも知れません。そういったフィールドを、現地検討会に参加した技術者諸氏には、上手に活用し技術開発に繋げて貰えれば、より森林が適切に管理できるものと思います。

セミナーの様子

 夕食はバイキング、コリドーの集会なのにこんな旨そうな物を食って良いのか? と好評でした。夕食を終えてから、すぐにセミナー。複層林やアカマツ林跡地の取り扱い、ツル被害に関する報告や、森林技術センター大沢試験地での報告などの発表があり、意見交換を行いました。
 その後、懇親会に突入し元気な人たちは午前3時過ぎまで、話込んでいたようですが・・・。

*二日目(6月6日・土曜日)
 朝食を済ませ、大平国有林へ移動。高尾森林事務所部内の国有林は、東京に近いため数多くの試験研究や、様々な樹木の植栽が実験的に行われてきました。今回、訪れた大平国有林は特別経営時代(明治後期)に植栽された人工林が広がっており、大部分の林地が複層林として管理されています。
 平成2年に東京営林局計画課技術開発室が作成した、職員研修用資料によると・・・『高尾山国有林は、東京の都心から西へ約50kmに位置し、モミやブナなどの天然林とスギ、ヒノキの人工林、緑の中の薬王院、奥高尾の桜並木などすばらしい景観に恵まれていることもあり、訪れる人々が年間300万人にも達し、四季を通じて森林浴、ハイキング、自然観察、バードウォッチングなどの場として利用されております。このことからも昭和46年(1971年)、高尾山自然休養林の中の風地整備地区の施業を検討した結果「レクリエーション機能を高度に発揮できる”常に緑に覆われた健全な人工林美の育成”とその維持を図りながら木材生産をあわせて行う」施業が望ましいとされ、この施業方法を解明するための試験、すなわち伐採によって林地を裸地化しないいわゆる複層林に誘導する試験地を設定することにした。』と説明されていますが・・・。

複層林の写真

 *低迷する議論
「さてこの複層林、いかがして管理したらよいものか?」の議論。
 いまさら、複層林の議論についてここで記述しても仕方ないので割愛しますが・・・実は、国有林の職員は議論に慣れていないのです。まずもって「この山、あなたならどう管理しますか?」と聞いても、なかなか返事が無いのが実態です。
 職員がそのような、説明を求められる場面に遭遇しないことも原因の一つ、かも知れません。 なかなか本来の目的の現地検討にならず、参加者が受身の態勢のままで、コリドー説法会・・・になってしまう時があります。それでも、ここに居るメンバーは『何か変わりたい、何か得たい』と思い集まってきているので、慣れてくると話をしてくれるのですが・・・。
 このような場所で自分の考えを述べたり、議論したりする事は一種の訓練ともいえます。かなり前向きに発言してもらわないと、慣れていかないものだと思います。また自分の技術を確立するためにも、もっと自己主張できる技術や知識を各自に身に付けられる職場環境の構築や、己の意識の変化が必要になってきているのでしょうけれど・・・。技術者と研究者の橋渡しが目的なコリドーですが、まず技術者のレベルの底上げから始めなくてはなりませんので、難しい課題です。

 *非皆伐施業の複層林から、強度間伐による広葉樹導入へのシフト
戦後の人工林管理の大雑把な管理体制の流れを大まかに整理すると、このようになるのではないでしょうか? (私の主観を含む)
1950年代:戦後復興造林(戦中に伐採・放置された荒廃地への植林)
1960年代:林力増強計画・天然林伐採跡地への拡大造林(奥山国有林の人工林化)
・大面積一斉皆伐・造林の反省から非皆伐施業の複層林がクローズアップされる
1970年代:大規模な森林開発に対する批判が高まる
・人工林の複層林化が大規模に提案、各所で複層林のモデル林が設置
1980年代:バブル・林業崩壊
・複層林による人工林経営を目指す(資料を見る限りまじめにやっていた)
1990年代:持続可能な森林管理・経営への模索
・複層林による人工林経営に破綻の兆し(現実拒否? 興味がなくなった?)
2000年代:森林・林業基本法に基づく諸政策の展開
・1000万haの人工林の(不良債権化による)取り扱い:広葉樹林化による免責
このように整理できるかと思います。
なぜ、このような年表を持ち出してきたかと申しますと、ここ高尾においても脱複層林-->針広混交林化を目指す、そういった山があるからです。

針広混交林を目指す

 最近、何かと話題になる針広混交林ですが、適用する箇所がなりふり構わず・・・の傾向があることも否めません。拡大造林後期に植栽された、人工林経営に向かない立地にある人工林の経営から撤退し、生産力のある立地にその資本を集中させるのは、経営的にも合理的判断であると思えます。しかし、その線引きをどこまで行うか? ゾーニングのあり方自体の議論が技術者間でも不十分に感じますし、当然技術者の中の議論が十分ではないですから、地域住民の理解も十分でないと言わざるを得ないでしょう。景観レベルではそのような問題がありますが、林分レベルにおいては広葉樹導入の伐採行為が『広葉樹を導入する育林行為なのか? 上木伐採の採算性を優先する収穫行為なのか?』事業を行っている技術者たちも混乱・混同し、よく分からなくなってしまっている。といった実態にあるのでしょう。
 現場での議論の中で「広葉樹林化は良いことではないのか?」「いったい何が問題なのか良く分からない」といった反応もそれを裏付けているのではないのかと思います。
 大平国有林は明治後期に植栽され100年近くになる山です。造林された当初は、この山で林業経営を行っていこうと、原野に植栽をしたのです。約40年前には、皆伐せずにスギ・ヒノキの人工林を維持しつつ、木材生産と両立させようと言う方針が、現在は、広葉樹の導入を期待して、伐採を繰り返し自然林に戻して行こう、に変わってきています。100年と言う期間は人間にとっては、非常に長い期間に思えるかもしれませんが、スギやヒノキの寿命に比較すれば、それはたいした期間ではありません。渡邊定元先生も樹木社会学の冒頭で『ヒトは寿命の長い生物について、その全体像をつかむことは不得手のようである。』と述べていますが・・・。そろそろヒトの都合に合わせた森林管理から、樹木の都合に合わせた森林管理へと、21世紀の森林管理はシフトいていく必要があるのかもしれません。そのためには、より地道な知見の蓄積と技術開発が、森林管理者には求められるでしょう。

 なにぶん、コリドーの現地検討会は1泊2日(実質1日)と言う日程で行われていますので、参加者の重い口が開き議論がなんとなく出来るようになってきてから、終了・・・と言うことで、いつも口惜しい限りなのです。
 是非、これを読まれた国有林の技術者の皆様には、自分のフィールドを生かした研究をやってもらい、施業研に所属する研究者の皆様にはそういった技術者に、研究の指南をしていただきたいと思います。
 「ローマは一日にして成らず」と申しますように、林業の技術の取得も「一日にして成らず」だと思います。日々、山と対峙し余裕があれば調査をし、自分のデータを蓄積し解析して、形にして世の中に残していく。これは研究者のみならず、技術者にも出来ることだと思います。逆に言うと・・・技術者にしか出来ないことや、国有林のフィールドだからこそ出来る、国有林職員だからこそ出来る技術開発があると信じています。そこから得られる知見やデータは技術者、研究者のみならず、森林の恩恵を受ける全ての人たちに有益であると思います。

 さて、最後になりますが・・・恒続林思想を説いた、A.メーラー氏は『最も美しい森林は、また最も収穫多き森林である』と説き、国有林技術者(山林局)の菊池捷次郎氏は『林業は、美林を切って美林を育て、また、その美林を伐って美林を育てて行くべきである。天然林にはボロヤマも多いが、それでも、ボロヤマを切って美林を育て、その次からは、美林を伐って美林を育てていくようにしなくてはならない。それが林業本来の姿なのであって、美林を切ってボロヤマを作り、ボロヤマを伐ってボロヤマを作るなら、「止めろ」と、私ははっきり言う。さて、伐るのもヒト、育てるのもヒトである。そうすれば、美林を伐って美林を育て、ボロヤマを伐って美林を育てるためには、美林を作るヒトを育てることが何よりも必要である・・・』と述べています。
 美は数値で測れないものであり、科学的な指標にはなりえないもの・・・であると思いますが、こういう見方もアリなのかな? とも思えますし、このような感覚は森林を管理する上で私たちが身に付けなくてはならない、倫理感や哲学のようにも感じられます。
 菊池先生のおっしゃるとおり、何をするのもヒトの行いですから、『美林を作るヒトを育てる』この一翼をコリドーと施業検討会が担えれば、100年後の日本の森林はより素晴らしく、世界に誇れるものになると思います。是非、今後も私たちの活動にご賛同いただければ幸いです。

 

台湾訪問報告

森林総合研究所・東北支所 櫃間岳

 2009年5月10日〜16日の7日間の日程で、台湾のヒノキ林を訪れる機会を得た。訪問の目的は、台湾のヒノキ2種(台湾檜Camaecyparis obtusa var. formosanaと 紅檜C. formosensis)の視察と、天然更新や造林についての日台の研究者間での意見交換であった。視察箇所は台湾を南北に縦断する山地帯の中央部で、阿里山・玉山の天然林及び人工林である。その他、林業試験所の蓮華池研究センター、台湾大学実験林(和社自然教育園、渓頭自然教育園)を訪問した。また、15日には台北の林業試験所で検討会(セミナー)を行った。視察の全行程を通じて台湾行政院農業委員会林業試験所の陳財輝氏、汪大雄氏に大変お世話になった。ここに記してお礼申し上げる。

 阿里山やその周辺では多くの巨木を見ることができた。胸高直径6m以上、樹高40m以上のものが多数あり、樹種はそのほとんどが紅檜だった(写真1)。木の周囲に木道や看板が設置され観光資源化されたものが多かったが、観光ルート以外にも巨木は多数点在していた。

写真1
写真1)台湾大学実験林の鹿林神木(紅檜)

 木がこのような巨大なサイズになり得たのは、気象条件によるところが大きいだろう。低緯度に位置するため気温や日射量などの年較差が少ないことに加え、年降水量が多く、かつ高標高地の大気湿度が常に高いという湿潤な環境が樹木の個体サイズの増大を可能にしたのだと思われる(写真2)。今回の訪問団の団長を務めた渡邊定元氏も、視察後のセミナーで、琉球・台湾地域の特殊性は亜熱帯湿潤気候における温帯系針葉樹林の存在であるという点を指摘していた。

写真2
写真2)阿里山の千年檜(紅檜)

 また、巨木が残っている理由としては、人為の影響の少なさが挙げられるだろう。今回の訪問を企画した鈴木和次郎氏は、セミナーにおいて「森林に対する人為の影響は、日本では歴史的に長く強いが、台湾では相対的に短く弱い。従って、台湾にはヒノキ本来の生態を調べるのに適した林が比較的残されており、それが台湾におけるヒノキ研究の意義だ」と指摘した。人為の影響の少なさの要因は、急峻な地形、山岳民族との政治的な問題、それらによる産業基盤の未発達、国民に根強い自然保護運動、などとのことであった。

 台湾におけるヒノキ研究の課題は、上記のヒノキ資源の保護と回復である。セミナーでも、これを主テーマとして議論が行われた。現在のヒノキ天然林は伐採が禁止されているが、実生の定着が少ないとのことだった。天然更新には何らかの撹乱が必要で、伐採が実生発生を促すという研究結果もあるそうだが、実生の定着と成長のための確実な方策が必要である。台湾では集中豪雨による地滑りなどの土壌撹乱がしばしばあるそうで(写真3)、現在ある若い林の多くも、そうした不定期の大規模な撹乱を契機に成立しているとの説明だった。ただし、天然林において大規模な保護区を設定さえすれば、あとは自然撹乱による更新が期待できるとは限らないだろう。さらに、天然更新、植栽を問わず、密度管理の指針をもっと整えるべきだと思う。天然更新による択伐施業に関しては、日本の天然のスギ・ヒノキも台湾同様の課題を抱えていると思われ、今後の両国の情報交換や技術協力の重要性をセミナーにおいて確認し合った。

写真3
写真3)渓頭自然教育園内の渓畔

セミナーにおける発表者とタイトルは以下の通りである。
渡邊定元:極東湿潤気候域における照葉樹林の位置づけ (Lucidophyllos forest in humid regions in the far east)
邱志明:天然檜木林之更新復育 (Conservation and restoration of natural cypress forest)
星野大介:木曽の天然ヒノキの更新・動態 (Structure and dynamics of an old-growth Chamaecyparis obutusa forest)
林鴻志:台湾中北部檜木天然林物種組成及生態分布之探討 (Species composition and ecological ditribution of natural Chamaecyparis forests in central and northern Taiwan)
横井秀一:日本の人工林施業 (The man-made forest operation in Japan –present status and issues–)
蔡呈奇:台湾地区檜木人工林下土壌的特性 (Soil charteristics under Cypress plantation forest in Taiwan: Case study in Cilanshan and Alishan area)

その他
 嘉義から阿里山までは森林鉄道で移動した。山間部では竹林や茶畑など、土地利用が盛んなことが印象的だった。近年、竹林は管理が放棄されがちで資源が有効に活用されておらず、茶畑への転換も多いとのことだった。
 台湾では高標高の山地帯は涼しい保養地として国際的に人気があるそうで、多くの観光客が林内を散策しているのが印象的だった(写真4)。宿泊客には高級車に乗る裕福層や若いカップルも多いように見え、保養地が高く評価されていることが伺えた。我々の宿泊した保養施設の運営は、台湾大学の実験林の独自経営によって行われていると聞き、大変に驚いた。実験林は森林研究だけでなく観光に力を入れていて、組織の収入の大部分は木材生産ではなく観光から得ているらしい。宿泊施設は部屋の間取りも贅沢で内装や調度も品がよく、とても快適だった。また、会議のための施設も整っていて、国際学会の会場誘致も盛んに行っているとのことだった。ただ、台湾の全般的傾向として山地帯の観光利用は過剰であり、渋滞・ゴミ・廃水等の問題は長期継続した課題だそうだ。今回の視察目的とは異なるが、台湾の観光資源の持続的利用という課題についても注目すべきであると思った。

写真4
写真4)渓頭自然教育園内の休憩ベンチの様子

写真説明
写真1)台湾大学実験林の鹿林神木(紅檜)。樹高43m、胸高直径6.4m。
写真2)阿里山の千年檜(紅檜)。樹高35m、胸高直径3.5m。午後になると霧が出る。
写真3)渓頭自然教育園内の渓畔
写真4)渓頭自然教育園内の休憩ベンチの様子

 

樹木学の集大成 国内で初めて形態図鑑を超えた一冊「日本樹木誌1」発刊!

 施業研究会の議論から生まれた「日本樹木誌」第一巻が、7月8日に刊行されました。この本は国内の主要樹木種(第一巻は30余種掲載)について、その生態、生活史などの種特性と造林・森林管理上の情報などを、学会支部会誌や林業研究機関の研究報告など、一般に目に触れにくい林学系の文献などから網羅した、樹種別の総説集です。
 種ごとの総説は詳細にわたる力作で、総ページ数は700ページを超えます。また、巻末に付属する分布図も、本書のために、地域ごとの専門家の協力を得て作成したもので、現時点ではもっとも正確な分布図を提供しています。
今後も3年に一冊を目標に、続巻を刊行していく予定ですが、完成した暁には日本の樹木学のメルクマールとなる本であると、編集委員一同自負しています。日本で初めて形態図鑑を超えた樹木の本です。森林管理や研究の基礎情報として、ぜひ、お手元に一冊お求めください。

書 名:日本樹木誌 1
編 者:日本樹木誌編集委員会
発行所:日本林業調査会
規格等:B5判上製 762頁 ISBN978-4-88965-192-8
定 価:5,500円(本体価格5,238円)

★ 書店あるいは日本林業調査会(下記)にご注文ください。また詳しい内容(目次)も下記でご覧いただけます。
http://www.j-fic.com/bd/isbn978-4-88965-192-8.html

 

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