木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.46 2009.11.9
Newsletter of the Forest Management and Research Network


森林施業研究会 第12回現地検討会報告
―関東森林管理局森林技術センターが取り組む国有林の新たな施業と技術開発―

                    田村 淳(神奈川県自然環境保全センター)  

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佐藤家90年生ヒノキ人工林における参加者の集合写真
(写真をクリックすると大きい写真が出ます)

 森林施業研究会の第12回現地検討会は、2009年9月9日~11日の日程で茨城県内の国有林と私有林において行われた。この検討会には国有林の若手技術者を中心に総計52名が参加した。今回のテーマは、7年前の第5回現地検討会で見学した筑波山複層林試験地を再来して、その後の変化を確認することと、持続可能な森林管理を理念に掲げている集水域試験地や、大規模山林を経営している佐藤家の森林を視察することにあった。以下に訪問先ごとに概要を記録する。なお、写真はすべて菅沼好一氏(栃木県林業センター)から提供していただいたものである。

 

■9月9日(水)
●現地検討会
【筑波山複層林試験地】

 この試験地は7年前の現地検討会において見学したところである。試験地を管理している森林技術センターの池田 伸氏から、複層林試験地が1977年に設置された経緯や、試験地は1900年と1901年に植栽されたヒノキが上木になっていることなどが報告された。
 最初に案内されたのは上木400本/haの点状植栽試験区である。2000年と2008年に択伐率19%で上木を伐採したところ、2008年時の下木の被害率は17~19%であった。この数値からすると被害率は低く感じられるが、これは、直営で伐採から集材まで実施し、下木のことを考えて伐倒方向を検討するなど手間隙かけたからという説明であった。下木は植栽後20年を経過しても成長が悪く、形質に問題があるということであった。

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写真1 点状植栽試験区の上木と下木

 次に長期循環育成林(モザイク林)試験区を見学した。この試験区は、面積9.65haの一斉人工林を小面積分散の伐採を繰り返して、発達段階の異なる小パッチから構成される天然林に類似する林分構造に誘導しようというものであり、森林技術センターの所長であった石神智生氏が提唱されたものである。その特徴は、25m×50mを1区画として64区画つくり、160年伐期の8段階の異齢林で回転させていくことにある。この25m×50mの区画は天然林の自然撹乱のギャップをモデルとしたものであり、当初は25m×25mとしたが、伐採の効率を考えてこの大きさに落ち着いたということであった。幼齢段階と27~28年生の若齢段階の区画を見学したところ、若齢段階の区画でも通常のヒノキ林と同様の成長状態を示していると思われ、モザイク林施業の有効性が実証されつつある印象をもった。なお、この試験区の詳細については、森林施業研究会編(2007)の『主張する森林施業論』に石神氏と森林総研の鈴木氏が連名で報告しているので、そちらをご参照いただきたい。


写真2 モザイク林施業区の林齢27~28年生の区画

 第三に見学したのはモザイク林の幼齢段階の区画における下刈り試験区である。試験の目的は、冬期下刈りは植栽木の成長に負の影響がある、すなわち冬期下刈りしても植物成長期の雑草木の繁茂を抑えられないために植栽木の成長が落ちるということを実証することである。冬期下刈りと夏期下刈りが比較され、結果として再造林地では冬期下刈りは有効であると判断された。
 以上のように複層林に関する様々な調査を実施しており、かつ施業履歴とデータがそろった試験地は他にないと思われる。この試験地の結果を基にして林野庁主導で行われている複層林施業を総括する日が近い将来に来ることが予想された。初めての参加者にとっては規模の大きい複層林試験地を見学でき、7年ぶりに見学する参加者にとっては時間軸で森林の変化を観察することの重要性を実感でき、どちらにとっても有意義であったはずである。

 

●夜のセミナー
 6件の発表があった。

(1)複層林の受光伐における下層木の被害について(森林技術センター 池田 伸
 昼に見学した点状植栽試験区における2000年時と2008年時の状木伐採による下木の被害とその後の成長についての報告であった。その結果、下木の成長には受光伐は不可欠なこと、下木が成長した段階での上木の伐採は下木に大きな被害が出る可能性があること、集約的な施業が求められコストがかかることが明らかにされた。

(2)大沢試験地における間伐後の植生の変化(森林技術センター 竹澤 和亮)
 翌日視察予定の大沢試験地のスギ・ヒノキ人工林における間伐後の林床植生の回復と群集組成、高木種の更新状況が報告された。渓畔域ではオオバアサガラやクサギ、カラスザンショウなど、尾根ではシラカシなどが密度高く出現した。結論として、5~7年程度の間伐で天然更新による広葉樹の導入は可能であると報告された。

(3)アシナガバチの営巣密度調査の結果報告(森林技術センター 仲田 昭一)
 この調査の目的は、6月中旬に巣を除去することで被害が減ることを検証することである。ヒノキの2002年植栽地で2006年と2007年にすべての巣を除去したところ、両年ともに被害はゼロであった。そのため、6月中旬までの巣の撤去が被害防止策になるということであった。アシナガバチの誘引剤がないということで、その開発が課題であると指摘された。

(4)茨城県の高齢級人工林の林分構造と成長状況(森林総研 太田 敬之)
 長伐期林施業の指針となる林分が少ないという背景のもと、過去の施業履歴が林分構造に及ぼす影響や成長状況などを明らかにすることを目的として、林齢100年生以上を対象に林分構造と成長状況が調査された。その結果、ヒノキ林では林齢200年生を超える林分でも年5mm程度成長しており、100年生前後の林分と比較しても遜色ないことが確かめられた。

(5)持続可能な森林管理を目指す集水域管理の取り組み(森林総研 鈴木 和次郎)
 翌日視察予定の高萩の集水域管理試験地についての発表であった。持続可能な森林管理のためには林分管理から生態系管理へと発想転換する必要があるという考えにより、DEM法(Digital Elevation Model=数値標高モデル)により斜面を5区分して、上から保護樹林、針広混交林、針葉樹林、渓畔林に施業区分された。施業区分と現況植生は異なり、グランドデザインに近づけるには課題が多いようである。

(6)人工林におけるツル植物による植栽木被害の実態(茨城森林管理署 飯塚 三千代)
 林齢の異なるスギ林とヒノキ林の各4林分でツル被害の実態を調べた報告であった。若齢林でツル植物の種数は多く、被害は「樹冠覆い」や「巻きつき」が主体であった。被害を起こすツルとしてはフジやミツバアケビ、ツルウメモドキがあげられた。被害防止のためには林齢10~20年生までにツル切りすることが推奨された。一方、被害の多いところでは再造林を避け、天然生林化させることも一つの方法であると述べられた。

 

■9月10日(木)
●現地検討会
【大沢試験地】

 大沢試験地は、人工林が主体の集水域において木材生産機能をなるべく低下させないで、林分の多様化を図るための広葉樹導入の試験地として、21haを対象として1996年に設定された。

 林分の多様化の手段として、5つの施業区分に基づいて管理されていた。すなわち、渓畔保残区と針葉樹育成区、針広二段林区、広葉樹育成区、現広葉樹区である。渓畔保残区では、沢沿いの人工林において間伐をくりかえしながら下層に高木性広葉樹を導入し、いずれ広葉樹林に転換させる区域である。なお、一部では遺伝子保存のためにハルニレなどの植栽が行われていたが、これは特例ということであった。針葉樹育成区では、将来木と準候補木を決めて、それらを育成するために間伐を実施する方針で管理されていた。将来木の選木基準は、幹に傷がなく、真っ直ぐで着葉量の多いものである。針広二段林区では、人工林を間伐しながら下層植生に潅木や草本を侵入させて林分構造の多様化を図ることを方針として管理されていた。昨年の間伐の際に除伐を行わなかったということで、下層植生は豊かであった。広葉樹育成区は、もともとヒノキなどを植栽したが植栽木の成長の悪さと管理不足により針広混交林になったところで、特段管理もせずに将来的には広葉樹林に移行させるところである。

 この試験地も7年前に見学したところであり、林分の発達、とくに水辺林の植栽木が林冠を形成する程度に成長していたこと、人工林内の下層の高木性広葉樹が高くなっていて、確実に林分の多様化が図られていることを実感できた。なお、前日の筑波山複層林試験地とこの大沢試験地については、森林施業研究会ニューズ・レターNo.18に第5回現地検討会の詳細な記録があるため、そちらもご参照いただきたい。

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写真3 大沢試験地の針葉樹育成区
階層構造の複雑化を目指して下層植生は除伐されていない。

【高萩試験地】
 大沢試験地見学後、常磐道に乗って茨城県北部の高萩まで移動した。

  高萩で最初に視察したのは森林総研で調査している1910年に植栽されたスギ高齢林である。研究の目的は、高齢級人工林の種組成と構造的変化を把握することである。試験設計は、間伐区と無間伐区を設置して前者を2002年に間伐して、その後の変化を追跡するということであった。2007年時点での間伐区の平均胸高直径は44cm、無間伐区の平均胸高直径は38cmであり、明らかに間伐区で直径は太かった。一方で広葉樹の種数と密度は無間伐区で多かった。カエデ類やオオバアサガラなどの広葉樹が進入しており、群集構造が多様化しつつあることを感じさせた。ところで、この試験地ではスギの個体数の3割に凍裂が起きており、それは冬季の日最低気温が-7℃まで下がることが要因との話であった。

 次に見学したのは水辺林回復の取り組み試験地である。試験地横を流れる大北川は全国で自然度が12番目に高いということであった。しかし、国有林内の流路ぞいはスギ人工林を主体に構成されているため、流路から20m幅を対象にして間伐しながら広葉樹を導入する水辺林再生試験地が設置された。この水辺林再生試験地の特徴は、周囲に残存する二次林的な水辺林を目標としていること、そのため植栽せずに天然更新による広葉樹の導入を図っていることである。4年前に間伐と下層のスズタケの刈り払いが行われ、その跡地には現在、オオバアサガラやヤマハンノキ、カエデ類などの稚樹が生育していた。試験設定者からは、カツラやトチノキ、サワグルミなどの典型的な水辺林構成樹種は大北川流域内でも単木的にしかなく、これらから構成される水辺林(の群集組成)よりも、水辺林としての機能回復を優先させており、そのため極端な話キイチゴ類のブッシュでも良いと考えているという話を伺った。各地で行われている自然林の再生では群集組成の回復を目指しているところが多いと思われるが、遷移は必ずしも一定の方向に向かうわけではないので、この試験地のように機能回復を目的としていることが印象的であった。

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写真4 水辺林回復の取り組み試験地
4年前に間伐とスズタケの除伐が行われ、現在、オオバアサガラやヤマハンノキ、
カエデ類の稚樹やモミジイチゴなどの潅木が生育していた。

 高萩で第三に見学したのは集水域試験地である。案内された場所は小沢沿いの広葉樹林であるが、調査簿上はスギ・ヒノキの35年生人工林ということであった。試験設定者からは、現在グランドデザインをつくっている段階であることや、数haの林分をいじったところで森林機能の意味はないこと、したがって林分管理から集水域管理(生態系管理)の視点が重要である旨説明を受けた。また、集水域管理の方針として、渓流域は野生生物のハビタットでもあり、生物多様性の保全と国土の保全のためには重要であること、そのために渓流域を人工林から広葉樹林に移行させること、現在の広葉樹林はそのまま維持すること、広葉樹二次林は放置して成熟した林に移行させることが望ましいことを伺った。さらに、本当はグランドデザインをしっかりさせた上で経営管理していくことが理想であるということであった。試験設定者から発せられた次の言葉、すなわち「持続可能な森林管理を枕言葉ではなく、皆が考えなければならない」という言葉が、まさに今回の現地検討会のクライマックスであったと後になって感じられた。

これらの他に列状間伐地などを見学して、次の場所に移動した。

 

【協働の森林づくりin里美の広葉樹植栽地】
 二日目の宿泊地に向かう途中にこの広葉樹植栽地はあった。地元の佐藤氏によると、この植栽地は村有林で、もともと放牧地であったがゴルフ場計画が頓挫してバラ山(潅木の山)になっていたところのようである。そこに、草刈や火入れをして、様々な広葉樹を植栽したということであった。植栽された広葉樹の樹種はブナやトネリコ属sp.、サクラ属sp.などであった。しかし、いずれも日本に自生する野生種とは少し異なる形態をしており、同定するのは困難であった。園芸業者から購入したようだ。近年、広葉樹植栽が各地で行われているものの、目標植生や地域性種苗を含め、課題が多いことを実感した。

●夜のセミナー
 二日目の夜も初日と同様に6課題の発表があった。その後に翌日見学する佐藤家山林の事前説明が佐藤氏からなされた。

(1)人工林における間伐の手引き(関東森林管理局 藤江 達之)
 国有林の事業担当者向けに間伐方法の判断の一助となる手引きについての紹介であった。これはマニュアルではなく手引きであり、現場ごとに選択していってほしいと発表者からの要望があった。

(2)列状間伐のプロットをつくりました(森林総研 正木 隆)
 人工林施業の試験地、とくに「間伐手遅れ林」の試験地がないということで、35年生のヒノキ林で品等区分(将来木と準候補木、調整木)したうえで4プロット設置したという紹介であった。分析項目は2点あり、保残幅によって成長がどう影響を受けるかという点と、調整木が将来木に化けるかという点である。ただし、間伐の効果分析はこれからということで、今後の結果が楽しみである。

(3)芦ノ湖西岸に造成された複層林の現況と今後の取り扱い(東京神奈川森林管理署 須崎 智応)
 上木が106~107年生、下木が22年生の複層林の現状を調べた報告であった。下木の連年成長量は0.03~0.08cm/年ということで、成長の悪さの要因は光環境の悪化であると考察された。今後の取扱として、再度複層林、強度間伐による広葉樹の進入を期待、放置し更なる高齢級人工林の3案が提案された。

(4)天然更新技術を活用した自然林再生の可能性(茨城森林管理署 平尾 翔太)
 国有林の貸付地でスキー場や牧場だったところが返還され、そこが天然更新により自然林に推移する可能性を論じた報告であった。休憩林+自然草地、休憩林+人工草地など5調査区が設置され、放置された自然草地で広葉樹はよく更新しており、放置された人工草地では更新木はみられなかった。

(5)松枯れ被害地の取扱いについて(山梨事務所 平野 辰典)
 甲府市郊外のアカマツ林(国有林)において、これまでは伐倒駆除を主体として樹幹注入により材線虫病対策に取り組んできたが、森林機能を重視した森林管理を目指すのであれば、広葉樹に転換してもよいのではという考えのもと調査した結果報告であった。その結果、アカマツと広葉樹の更新木の状況に応じて、現状のアカマツ林を数タイプに区分して、それぞれの目指すべき林分に向かって森林管理を実施することが妥当と判断された。

(6)富士山国有林におけるシカによる樹皮剥皮被害の実態(静岡森林管理署 千葉 賢史)
 静岡県側の富士山麓でシカの密度とヒノキ人工林の被害状況を調べた報告であった。シカの密度はライトセンサスで調べられ、15~20頭/km2と推定された。ヒノキ林の剥皮被害は本数の74%にものぼった。静岡県伊豆地方では同程度の密度で県が保護管理を実施していることから、富士山周辺でも保護管理を実施してもよい段階にあると述べられた。

(7)佐藤家山林の概要紹介(佐藤 健一氏)
 最終日に見学予定の佐藤氏の山林について本人から概要が説明された。大学を卒業後すぐにご実家の林業を継ぐことになったこと、最初に取り組んだのは相続税であったこと、当時は45~60年生の人工林が多かったので15年かけて間伐収入で相続税を完済したこと、経営方針は間伐を種にした長伐期施業であることが報告された。大規模山林を所有する林家ならではの実感のこもったお話であった。

 

■9月11日(金)
【佐藤家山林

 最終日は地元林家の佐藤家の山林を見学した。まず、林道沿いの78年生のスギ林を見学した。この林分は、林道からは密度が高く見えたものの林内に入ってみると、それほど高いというわけではなかった。しかもタマアジサイなど下層植生は豊かであり、スギの適地であることを感じさせられた。

 次に見学したのはヒノキ-スギ二段林と90年生ヒノキ林である。ヒノキ-スギ二段林について、佐藤氏は失敗例と言っておられた。その意味は、上木本数が多い段階で下木のスギを植栽したため、下木の成長が悪いということであった。その隣接地には択伐林型のヒノキ林や90年生のヒノキ長伐期林もあり、多くの施業を現地で考えながら行っていると感じられた。その90年生ヒノキ林では、渡邊先生から儲かる山づくりの話があった。渡邊先生は100年生で300本/haの森林づくりを推奨され、そのためには作業道の重要性と1本1本の品質管理が必要であることを話された。実際に木材市場のセリを経験した渡邊先生ならではの話であった。

 その後、18年生スギ林や別の90年生ヒノキ林を見学した。18年生スギ林では、挿し木苗を使ったこと、1回目の間伐をしたところで、その材は杭木として1本270円で売れたことが説明された。90年生ヒノキ林で佐藤氏はボランティアの協力による山づくりを語り、東京からもボランティアが来て下刈りなどをしてくれることなどを話された。

佐藤氏の話の中で「林業には夢とロマンと不満がある」といったことが印象的であった。

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写真5 佐藤家の90年生ヒノキ林
間伐後には樹冠と樹冠の隙間にかざした指が2本入ることが望ましいということで、それを実践する佐藤氏と渡邊先生。

【全般を通じて】
 今回の現地検討会を通じて感じたことは3つある。第一に、筑波山にしても大沢にしても7年ぶりに訪れた試験地では着実に樹木が成長していたことである。とくに大沢における植栽されたハルニレやスギ林下の高木性樹木の成長ぶりには、樹木の生活史からすると7年という短い時間でも、人間の目に十分な変化を教えてくれるという点で興味深かった。第二に感じたことは試験地の継続性である。今回視察した試験地はいずれも試験設定から複数回調査が行われており、なおかつ施業履歴もしっかりとられていた。派手さは無くても地道なデータを継続してとり、時間が経過すれば宝石になる。そんなことを思わずにはいられなかった。第三は、国有林の技術者の科学的データに基づく技術の研鑽である。夜のセミナーでは二晩ともに国有林の技術者が管轄する森林での課題について事例発表をしていた。その内容と調査の正確さに森林技術者のあるべき姿を見ることができた気がした。これら3点は地方自治体で研究に携わる自分にとって非常に刺激的であった。

 最後に、現地検討会の開催にあたり、関東森林管理局森林技術センターの諸氏と連絡調整をしてくださった森林総研の太田敬之氏、そして所有する山林を案内してくださった佐藤氏にお礼申し上げる。

 

継続 施業技術力の向上

菅沼 好一(栃木県林業センター)   

 このたびは、事務局をはじめ多くの方のお世話になり有意義かつ楽しい時間を過ごすことができ、ありがとうございました。

 【現地検討会の感想とは少し逸脱してしまいました。】

 筑波山・大沢は最初に見学してからほぼ10年になります。当時栃木県では21世紀創造の森という施設を造成中で、森林整備担当であった私は、大沢試験地を参考に鈴木さんに現地指導をして頂いた思い出があります。

 大沢試験地は、従来の林班管理の考え方とは全く異なり、どのように経営していくのだろうと疑問に思っていましたが、今回見て順調な状況であることに驚いております。今回、どのような履歴管理をされているのかお聞きできませんでしたが、関係者の並々ならぬご努力・工夫があるものと推測します。やはり森林施業はある程度の期間を経てでなければ評価できませんし、それが可能な体制が必要と思います。

 10年前、筑波山の魚骨型区の近くには作業員詰所がありました。羨むような技術を持った作業員の方から話しを聞いたことがとても遠いことに感じました。モデル展示林として二段林を作っていた栃木県にとって目標でした。

 私は、2007~2008年に栃木県内の間伐収支プログラム作成を担当しました。その中で判明したのは、現場条件よりも事業体間の労働生産性(技術力)でした。今の補助金制度は、個々の技術向上を阻害しているのではないか、と感じています。同様な条件であっても、数倍の開きがあります。

 栃木県の場合、補助金は2.5m3/人ほどの労働生産性向上と同等です。概ね5m3/人以上で黒字化しています。林分状況(成立本数や平均胸高直径など)は様々でも2.5~3.5m3/人の労働生産性の現場のデータが多く集まりました。

 技術力格差に目を瞑って、列状間伐などで安易に収益を上げることは競争力ではなく、林業の再生には結びつかないと思います。零細企業(森林所有者)が価格競争だけをしても、全く勝てません。零細企業は技術競争をすべきです。

栃木県の民有林では列状間伐が殆ど行われておりません。良好な定性間伐がうまく機能すれば優良資産が蓄積され、将来強みになると期待しています。しかし一部で、列状間伐よりも悪い上層間伐が行われています。それは労働生産性の低い事業体ほど顕著です。森林所有者と林業事業体両者とも素人の組み合わせは列状間伐より不幸になりそうです。

 国有林と民有林いずれでも活動する事業体が増えていますが、国有林と地方自治体の連携で事業体向けに技術向上を図っている事例をご存じの方はいますか。

 低コストは技術力が基礎だと思います。これまで低コストへの投資(機械や施業方法)が多かったと思いますが、技術力を上方へシフトさせることに軸足を移してほしい。

 

2009施業研究会現地検討会・笠間について

小野山 直樹(兵庫県農政環境部林務課)   

「施業研究会現地検討会」に初めて出席をさせていただきました。盛りだくさんの内容でしたが、現地での説明や夜のセミナーでは多くを学ばせていただきました。お世話いただきました方々に感謝申し上げます。林床のタマアジサイの花も印象的な現地検討会でした。

 さて、この度の検討会への参加の動機は、兵庫県で進めております資源循環型林業構築の一環として大型製材工場「県産木材供給センター」等への原木供給のあり方、県民みどり税を活用した針広混交林整備に関しまして、「複層林施業」「長期育成循環施業」そして「集水規模での森林管理」等の取り組みを参考にさせていただくためです。正しく理解できたか不安な面もありますが、所感を述べたいと思います。今後もご指導よろしくお願います。

1 複層林施業(点状保残区)について
 ヒノキ、サワラの複層林施業地を初めて見ました。100年生程度の上層木と下層木の配置により森林の水土保全機能は高いと感じられましたが、循環型林業の一施業方法とすると、説明にもありましたように、上層木の伐採搬出による下層木の損傷度が大きいこと、コスト面から収益性に疑問があること、下層木の管理方法が難しいことなど解決すべき課題が多いところですが、上層木を大径木の特殊用材林として考えれば点状保残の意義があると思いました。

2 パッチモザイク異齢林造成による長期育成循環施業について
 実用型の多段階複層林として、収益性と森林の保全を両立でき、法正林と考えれば循環型林業の理想型と考えられます。
パッチの大きさの考え方について自然攪乱における更新可能面積を参考に考えられたとのことで、兵庫県が進める人工林に広葉樹をモザイク状に導入(郷土広葉樹苗木を植栽)する針広混交林事業実施の上で、パッチの大きさ、配置の考え方の参考になると思います。
 しかし、民有林の場合、一つの広大なエリアで実施することは難しいですが、今後、原木生産等における集約的な施業を実施する団地において、この長期育成循環施業の考え方を取り入れ、作業道の効果的な配置による小面積の皆伐と更新による多段林造成を実行していける場所もあると考えます。確実な更新を確保した施業方法が今後、特に求められると思います。シカ対策にも、小面積で対応した方がよいと思っています。

3 future tree(将来木)を中心とする間伐方法について
 原木生産を主眼した間伐は、効率、収益が優先され列状間伐が行われるケースが増えていますが、間伐の目的や最終の森林の姿を考えて施業が実施されないと、列状間伐は資源の収奪になってしまうと考えられ、このことからfuture tree(将来木)を中心とする間伐方法を導入する必要があると思います。しかし、どこの林分でもこの方法ができるかといえばそうでもなく、間伐が遅れた樹冠長が小さい林分では導入が難しいと思います。若齢段階からの誘導や現在の林分状態からfuture tree(将来木)を見極め、適地適施業の指導できる人材養成や施策誘導が必要だと思います。

4 集水域規模での森林管理について
 集水域規模での森林管理のメリットは、(1)中長期的に水土保全と利用が両立するグランドデザインを考える単位となること、(2)集中的な事業投入による森林管理により施業の効果が見えること、(3)一定規模での計画的な原木生産が可能になることから、やり方次第では森林所有者への利益還元ができ金銭的魅力となることではないかと考えています。また、生態系や生物多様性保全に永続性を与えるエリアになると思われますし、特に水生の植物、動物、昆虫等の保全には河畔林の造成と合わさると効果的と考えられます。
計画の基本は山の状況を掌握し、作業道の効果的な配置と適地適施業を行うことと思いますが、集水域規模での森林管理手法について今後多くの研究がされることに期待しています。
 兵庫県では小流域を単位として「流域林業経営モデルエリア」を県内に3箇所順次設置予定です。本年度設置のモデルエリア面積は、1,400haで平成22年度に稼働する県産木材供給センターへの原木供給基地として、また同時に水土保全機能を高度に発揮するよう適正な森林管理計画を指導していくことにしています。
 また、このモデルエリアでの管理主体について、共同販売組織として協議会の立ち上げが進行中です。SGEC取得の共有林を中心に森林への思いがある地域ならではのことです。また県の職員が主体的に関わってOJTとしてもその効果を期待しているところです。
 取り組みの内容は、11月下旬に開催される全国の林業普及シンポで発表予定です。

 

集水域管理の理論に興味をひかれた

平田 美紗子(静岡森林管理署)   

 今回初めて施業研究会の現地検討会に2日目の大沢試験地から参加させていただきました。施業研究会の噂は前々から聞いていましたので、今回、どのような林業技術・哲学を持った強者達が集まるのかと楽しみにしての参加です。

 今回私が一番見たかったのは、大沢の集水域管理試験地でした。昨年初めて「集水域管理」という単語を鈴木和次郎さんの講義で聴いた際、それって機能類型区分とどう違うの?という国有林職員ならたいていの人が思う疑問が沸きました。
 ご存じの通り「機能類型区分」は林野庁が林業白書含む各ポイントで国有林管理の大柱として掲げているもので、森林の持つ多面的機能を遺憾なく発揮すべく、森林を「水土保全林」「森林と人との共生林」「資源の循環利用林」に区分して管理・運営していく…というものです。
 が、資源の循環利用林が全体のたった2割しかなかったり、実際は水土保全林からも木材生産を行っていたり、現場あっての区分ではなく、区分あっての現場になっている感があります。さらに、現在の国有林経営に大きな悪影響を及ぼしている、拡大造林期に行われた、林業不的確地や生態学上守らなければならないはずの水辺・希少生物生息地への人工植栽を反省(?)して、とにかく何処でも針広混交林化という方向には、これで100年後どういう森になっているのだろうと思わずにはいられません。
 以上のことから、機能類型区分ひいてはゾーニングによる森林施業にいつも腑に落ちない点を感じていた私ですが、集水域管理の理論を知り、ゾーニングをするならこういった方法があったかと、ある意味当たり前の事に感激してしまいました。林業は流行に乗ってやるものではないというのは、施業研究会に関わっている人間なら誰しも感じていることです、では何を基準に大面積の国有林の運営方法を決めていくのかと考えた際、やはり現場に聞くのが一番ということになるのでしょう。
 惜しむべきは見学時間が少なく、試験地の全域を見られなかった事です。大沢試験地は他にも興味を惹かれる研究があったので、別な機会に是非また勉強しに来たいと思いました。
 最後になりますが、忙しい業務・研究の中このような機会を調整して下さいました関係各位の皆様に、有意義で実り多い体験を与えてくださったことを、深く感謝申し上げます。

 

森林生態系は奥深く、それ故におもしろい

吉村 妙子(特定非営利活動法人森づくりフォーラム)   

 森林NPOのスタッフとして、数年前に市民のスタディツアーを企画して筑波山の複層林試験地と大沢試験地を訪れたことがありました。常々、また行きたいと思っていましたので、今回の現地検討会に鈴木和次郎さんから声をかけていただいて、すぐに参加しようと決めました。

 全体を通して感じたのは、森林を観る、そして森林生態系の仕組みあるいは法則を観るのが本当に大事で、それらは奥が深く観るのは簡単ではないということ、それゆえに面白いということでした。
 実際にどういう森林を育成し整備するかというと、環境や経営目的によって多種多様な森になってくるのが、また面白かったです。でも、多種多様な森林を育成していても、森林を従えている法則や、森林が持つ生産力を超えることはできないのは、あらゆる森林に通じているんだとあらためて考えさせられました。生態学や保続の原則を、ごく基本だけでも、今更とは言わずに復習しようと思った次第です。
 普遍的な原則に従う一方で、実際に手を掛けるときには多様な現場に応じてきめ細かく多様な手を尽くす。その逆になってしまったら森林が壊れるのも当然ではないでしょうか。

 具体的に参考になる点が多々あったという意味でも、大変有意義な視察でした。森林ボランティアによる森林整備を行う事業があるのですが、その現場にも渓畔林を再生させたい場所がありますし、一時の流行りで複層林を仕立て始めてしまった場所もあります。また現場と研究が協力し合うという関係は、市民参加においても築いていきたいものです。

 前回はボランティアや一般市民の一行だったのですが、今回行ってみると研究職や技術職の方々が大半と分かり、かなり緊張気味にツアーに入っていきました。でも、初対面でも所属が特殊でも有意義な会話ができたうえに、思いがけず久しぶりの再会を果たせた方も何人かいて、そういった点でも参加して本当によかったです。
 現地検討会を企画、運営された皆様には、あらためて感謝申し上げます。

 

施業の目的を整理したい

  滝澤 伸(宮城県大河原地方振興事務所)   

 今回の筑波山の複層林試験地には、漠然と「様々な試験に取り組んでいる複層林の聖地のようなところ(多少オーバーですが)」という印象を持っていました。
 しかしながら、現地での説明は、いきなり、「複層林施業は破綻している」といった強烈なものでした。複層林については、依然として、造成が行われていたり、また、下木の成長などについて、施業の相談を受けたりするので、なんらかの解決策、救いを求めて参りましたが、あっというまに否定されてしまいました。
 まさに、複層林という例により、施業が目的化してしまった典型を見せていただいたと感じました。方法・手段を目的化してしまい、結果が短期間に可視的になることで、理解を得やすく、その方向に流れてしまうという事柄は、日々、直面することですが、また逆に、本来、目的とすべき将来的な理想形を共有するということは、説明や説得をするだけの知識と経験を持たない者としては、たいへん難しいと感じています。
 その意味で、渓畔林の取り扱いなどは、その目的を、地域で共有するとういう点などについて、民有林に適用していく道筋を、考えさせられました。
 この点について、1,400haの小流域で、持続的な木材生産を目指すための調査を実施しているとの紹介のあった兵庫県の取り組みは、大いに参考になるところでした。
 率直に述べると、列状間伐や合板用材の生産など、生産性やコスト、規格化を追求した作業と、100年以上のサイクルの中での持続を目指す森林施業の形態や、また生態系管理などについて、それ自体を十分に理解していないこともあり、地域の中でどうのように選択すればよいのか、さらに迷いは深まりつつ、その選択をする上での要素を整理しなければならないと感じました。
 これからも、機会があれば、会の皆様とご一緒させていただくことで、さらに迷いを深めながらも、ヒントを頂いて、少しでも整理できることがあればと、思っております。
 最後になりますが、今回の研修でお世話になりました、事務局の皆様はじめ、ご教示くださいました各位にお礼申し上げます。

< 編集後記 >

 施業研究会の現地検討会に参加してくださった皆様、お疲れさまでした。皆さん方のご協力で不慣れな幹事ながらなんとか終了することができました。感謝いたします。
 今回は森林総研と森林技術センターが共同開催であり、私は初めての幹事役だったのですがいろいろと仕事がありました。毎年、各県の苦労はいかばかりかと改めて考えさせられました。来年以降も全国各地で現地検討会は開催されますが、担当になった方々、よろしくお願いいたします。事務局としてもできる限りのご協力をいたします。
 さて、政権が替わり2ヶ月。1990年に比べて2020年までにCO2排出量25%削減という国際公約が発表されました。以前の計画では2008年から2012年までの間にCO2を6%削減(1990年比)する目標をたて、その3.8%分を森林吸収によってまかなうことになっていました。今回の発表ではどのような試算で25%が可能と判断したのか、そのうち森林の寄与分はどのくらいなのか、まだ判明していません。現在、国会では新総理の献金問題で大騒ぎになっていますが、こちらのほうの対応もしっかりお願いしたいものです。

 

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