木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.47 2010.3.4
Newsletter of the Forest Management and Research Network


第15回森林施業研究会シンポジウム開催のお知らせ
兵庫型長期育成循環施業モデル試案の紹介(兵庫県農政環境部 小野山 直樹)
山形のナラ枯れ (山形県森林研究研修センター 上野 満)
訃報 時光博史氏
編集後記

第15回森林施業研究会シンポジウム開催のお知らせ

研究会名:第15回森林施業研究会シンポジウム
日時:2010年4月5日午前9:00~12:00
会場:H 会場 (第2エリア 2B棟 4階 2B411 )
テーマ:「機能発揮を目指した森林整備 ―その現状と技術的検証―」
内容:現代では、森林には木材生産以外にも様々な機能の発揮が期待されており、全国でそれらの機能の発揮を目的とした森林整備事業が実施されつつある。しかし、いったい森林はどのようにそれぞれの機能を充足できるのか、また機能を発揮させるための森林整備はどうあるべきなのか、さらにはそれらの森林整備を支える施業技術は担保されているのかといったことについては、十分な議論と検討がなされているとは言いがたい。
今回のシンポジウムでは、それらの機能発揮を目指した森林整備の現状を確認すると共に、より実効性のある森林整備手法はどうあるべきかについて議論を行いたい。

話題提供:

1.機能発揮と森林整備の役割 桜井 尚武(日本大学生物資源科学部)
2.治山事業における森林整備 -長野県の事例紹介- 戸田 堅一郎(長野県林業総合センター)
3.地球温暖化対策に関する森林・林業の役割 岡崎 時春(FoE Japan・フェアウッドパートナーズ)
4.神奈川県の森林保全とそれを目指した森林整備の歩み 小宮 芳男(神奈川県自然環境保全センター)
5.列状間伐は特効薬となるか 池田 伸(関東森林管理局森林技術センター)

*参加自由。詳しくは下記,大住・横井までお問い合わせください。
氏名:大住 克博 所属:森林総合研究所関西支所、Tel:075-366-9923、Fax:075-611-1207、E-mail:osumi@ffpri.affrc.go.jp
氏名:横井 秀一 所属:岐阜県森林研究所、Tel.:0575-33-2585、Fax:0575-33-2584、E-mail:yokoi@forest.rd.pref.gifu.jp

前夜祭

日時:2010年4月4日午後6:30~
会場:居酒屋 けやき
つくば市吾妻1 つくばセンタービル 1F
(つくばエクスプレスつくば駅A3出口徒歩3分)
電話 029-852-3900
会費:社会人 5000円, 学生 3000円 を予定
*参加を希望される方は3月25日までに
takaota@ffpri.affrc.go.jp(森林総合研究所 太田 敬之)まで、ご連絡ください。

長期育成循環施業モデル試案の紹介

「長期育成循環施業」が登場して、既に久しい。従来の皆伐一斉造林の「旧弊」から林業を解き放ち、飛躍させるためのコンセプトとして大きく期待されたものの、施業体系としての練り上げも、これを支える技術の開発も不十分であったために、まじめに取り組もうとすればするほど、どう手をつけたらよいのか分からなくなるというのが現実である。一方では、思考を停止させて、とにかく強い抜き伐りをすれば良いという易きに流れる例も多い。
そんな折に、兵庫県の小野山さんから、長期育成循環施業モデルの試案が届いたので紹介する。小野山さんは、昨年(2009年)9月に茨城県で行われた施業研究会現地検討会(茨城合宿)に参加され、関東局の森林技術センターにより試行されつつある一連の施業を実見し、大いに刺激を受けたという。そして、兵庫県下の1000ha程度の民有林を団地化し、長期育成循環施業を現地適応化するという前提で、思考実験された成果がこの試案である。
 もちろん、まだ「机上論」ではある。しかし、これを洗練させた上で、いずれは実現してくことを目論んでいるので、ぜひ皆様のコメントや批判を頂きたいとのことである。この試案をたたき台に、議論が起きることを期待したい。 (大住 克博)

長期育成循環施業の考察

~資源循環型林業構築のために~

兵庫県農政環境部林務課 小野山,安達   

1 はじめに

 森林の公益的機能の増進のため、持続可能な林業経営の実現は欠かすことのできないものであり、その基盤は施業集約化と低コスト林業の実践による適切で計画的な森林管理である。また、林業経営に適さないような人工林等においても公的管理等により水土保全を重視した施業をする必要がある。広葉樹林等天然生林においては、奥山林、里山林の特質に応じて保護管理がされなければならない。
これらの森林は、集水域を一つの単位として見ると、域内に林分としてパッチワーク状に混在し、生態的に優れた森林となり、公益的機能が発揮されていると考えられる。しかし、人工林率が高い集水域においては、林業経営を行う木材生産区を中心に、渓畔沿いの湿地や広葉樹林、尾根部等の広葉樹林が適地に配置され施業される必要ある。(モデルエリアのイメージ図参照)
そこで、流域スケールでの林業経営システムを考える上で、流域林業経営モデルエリア(約1,000ha)(以下「モデルエリア」)を設定し、木材生産区において、原木の需要拡大に対応した持続可能な林業経営を目指したシミュレーションを考え、今後、内容を検討し、改良を加えながら実際に適応することも考えている。
このモデルエリア内の木材生産区数カ所(1箇所50ha程度)の施業集約化を図り低コスト林業経営を推進する団地(以下「団地」)を配置し、個々の団地の施業計画を立てることにしている。
今回検討したのは、下図に示すように、団地において、「長期育成循環施業」の考え方を取り入れ、目標林型を設定し、1箇所の団地における今後50年間のモデル的施業を考察した。その他森林区分においては、今後検討をしていくことにしている。
 想定した目標林型を実現させるためには、現場において、林況、地形、所有界そして所有者や事業体との意見など多くの課題はあるが、最終的にどのような森林の姿を目指すのか、その理念、理想を経営的、生態的、水土保全的観点から共有していくことが今後の森林・林業に求められていると考える。

続きはPDFファイル(976KB)でご覧ください。

ナラ枯れの現場から ~山形県における防除システム~

山形県森林研究研修センター 上野 満・斉藤 正一    

 本文の内容は,斉藤正一が執筆した「ナラ枯れ被害の総合的防除技術高度化調査事業報告書(林野庁編:2009.3)」の「3.2.1.山形県における防除システム」から抜粋して上野満が編集した。

1.はじめに

8~10月にかけて広葉樹が急激に,集団的に枯損する現象が起こる。「ナラ枯れ」である。
ナラ枯れは,「ブナ科樹木萎凋病」ともいわれ,ブナ科の中でもブナ属を除く全ての属(コナラ属・クリ属・シイ属・マテバシイ属)で被害が確認されている。特にミズナラ,コナラの被害は甚大である。
枯れのメカニズムは,Raffaelea quercivora(ラファエレア・クエルキボーラ;以下ナラ菌)と言われる糸状菌が樹体内で繁殖することで起きる通道障害による。そして,このナラ菌の媒介者がPlatypus quercivorus(カシノナガキクイムシ;以下カシナガ)である。
ナラ枯れの被害地は,ミズナラ,コナラが多い日本海側を中心に23府県におよび,終息の目処は立っていない。最近になりナラ枯れが発生した地域では,一体どうしたらいいのか手をこまねいているのが実情ではないだろうか。
山形県のナラ枯れ被害は,全国でも比較的早く確認された。現在,その対策は,県行政,試験研究機関,国有林,市町村,地元住民との連携が確立されている。

本報告では,山形県のナラ枯れ被害に対する取り組みを紹介する。

続きはPDFファイル(1055KB)でご覧ください。

 

訃報 時光 博史氏

 年末に届いた喪中通知により、広島県立総合技術研究所林業技術センターの時光 博史さんが、昨年(平成21年)2月16日にお亡くなりになっていたことを知りました。時光さんは林分の成長モデルをご専門とされ、列状間伐や長伐期林への誘導法についての研究を通して、林業技術に多くの貢献をなされました。施業研究会にもしばしばご参加、ご寄稿いただきましたが、温厚な笑顔や語り口が今でも思い出されます。心よりご冥福をお祈り申し上げます。(大住 克博)

< 編集後記 >

 秋田の山奥で仕事をするときに、いつも手伝っていただいた営林署OBの方がいた。私が若輩者でよそ者だったためか、心を開いてもらうにはずいぶん時間がかかった。いつもの試験地に向かう道すがら、彼が「この辺のスギは全部、昔オレが植えたものだ」と言ったのは一緒に仕事をし始めて十年を過ぎていた。彼は山に行くたびに、子供の成長を見るような気持ちでその林を眺めていたに違いない。

 現在、国有林では伐採などの現場作業が、どんどん外部委託されている。間伐のマニュアルの中には「伐採木の選木技術を必要としない」誰にでもできるものと表記されているものもあり、林業とは無関係の業種からの新規参入も多いらしい。長年、現場作業にたずさわってきた職員からは伐採跡地を見て「自分ならあんな伐り方はしないのに」とはがゆく思っている声も聞かれる。今後、国有林の関係者に「山づくり」の自覚、喜びは残されるのだろうか。数十年にわたる森林の管理を一元的に行ってきたシステムの再評価を望みたい。

 

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