木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.48 2010.5.26
Newsletter of the Forest Management and Research Network


第15回森林施業研究会シンポジウム

「機能発揮を目指した森林整備 —その現状と技術的検証—」の報告

森林総合研究所 東北支所 櫃間 岳

 当シンポジウムは「森林の多面的機能発揮を目的とした森林整備は、具体的にどこまで実践されているのか? また、整備の効果の検証はどこまでなされているか?」という問題意識のもとに開催された。5名の話題提供者が、整備事業の事例報告、評価、問題提起などを行い、主として実践的な立場から森林の整備や機能評価のあるべき姿を見いだす試みがなされた。

シンポジウム会場の様子
(会場には約100人の聴衆が集まった)

 1番目の発表者である桜井尚武氏(日本大学生物資源学部)は、林野庁が主導する森林・林業基本政策の概要と、林業技術者育成を目指した大学教育の取り組みを説明した。新しい基本政策は、森林に求める機能として、従来の公益的機能ではなく木材生産機能を掲げ、路網など産業基盤の強化を目指している。これに対し会場からは、木材生産機能への方針転換に際して、多面的な公益的機能をいかに確保するかという質問、また、木材生産機能発揮に際しても何らかのゾーニングが必要だという指摘があった。桜井氏の回答は、前者には天然林と人工林で役割を区分すること、後者には流域での合意形成を重視すること、というものであった。

2番目の発表者である戸田堅一郎氏(長野県林業総合センター)は、県の治山事業発注者の立場から、治山事業における森林整備の位置づけとその現状、長野県の新しい取り組みを報告した。戸田氏によると、治山事業としての森林整備は、河川上流域における予防的治山事業であり、主に樹木の密度管理による面的な整備事業である。一方で、砂防ダム等は比較的下流域の対処的治山事業で、線的な整備事業と位置づけられる。長野県では、治山目的の森林整備の事業設計を、従来の林班レベルより広域の流域レベルで、植生や地形に則して行った。この方法の利点は、整備方針をより明確化し、管理形態や植生が複雑な森林でも効率的な事業発注ができることである。一方で、事業のコスト増加を懸念する質問があったが、新方式の採用で削減できたコストもあり、増加はそれほど多くないとの回答があった。また戸田氏は、新方式は事業の発注と実施を改善したが、事業の効果の評価法については課題が残るとした。

3番目の発表者である岡崎時春氏(国際環境NGO FoEJapan理事)は、地球温暖化対策としての森林整備のあり方を評価し、地球規模のCO2排出抑制と日本林業の現場が抱える問題の間には、大きな乖離があると指摘した。例として、森林整備がCO2吸収量に及ぼす効果の算定には科学的推定よりも政治がより強く影響すること、地球規模のCO2排出抑制には国内の森林整備より国際的な森林減少・劣化の抑制が効果的であること、森林整備により認められるCO2排出抑制クレジットが森林所有者に還元されにくいこと、などが挙げられる。従って、地球温暖化対策の名目で進める森林整備によって日本の林業経営を支援するのは、対策としての論理や実効性に疑問がある。日本の林業経営支援のためには、路網整備など別の政策が有効であろうし、森林整備をCO2吸収と結びつけるなら新たな指標の設定が必要だ、と岡崎氏は主張した。

4番目の発表者である小宮芳男氏(神奈川県自然環境保全センター)は、神奈川県が進めてきた森林保全の取り組みと県有林の現状を紹介した。神奈川県には森林の機能を多面的に発揮させる管理計画が整っているが、森林整備の実践のための具体策には難点もあるとのことだった。ことに、技術職員の人員配置、人材育成を含む組織体制づくり等に対する懸念が挙げられ、現場の抱えるこれらの問題を汲み上げる仕組みが不十分であると報告された。

5番目の発表者である池田伸氏(関東森林管理局森林技術センター)は、列状間伐を例に、森林整備の理念を現場で実践することの難しさを報告した。森林整備が計画通りに行われず目的が達成されない直接の原因は、受注業者の作業技術の未熟さや発注者の監督不備にある。しかし、そもそも森林管理の理念(すなわち目的や長期展望)が不明瞭、またはその理念が現場で十分に理解されていないことが整備事業の実践を困難にしている、と池田氏は指摘した。会場の参加者からは、列状間伐は比較的若齢の過密林分で有効な施業であり、やむを得ず低コストで行う基盤的整備と捉えるべきで、適用できる林分は限定されるとの指摘があった。

総合討論では、まず森林整備技術の一層の高度化・実用化・明文化の必要性が指摘された。この指摘は、事業発注者である県の技術者によるもので、森林整備事業の仕様書の詳述・具体化に限界があるとのことだった。この理由は、主に仕様書作成の手引書の内容が現状では不充分なためである。次に、整備事業が森林の機能発揮に与えた効果の検証について議論が行われた。森林の機能発揮は主に流域に及ぶことから、特に生態系の機能発揮およびその評価は河川域を重視すべきこと、木材生産や生態系の機能としては乏しい森林でも、森林があるだけで水源涵養や土砂流出抑止機能はある程度発揮されていると評価すべき、などの意見があった。事業実践においては、整備事業の受注制度が抱える課題にも言及があった。事業の受注業者の技術向上を目的とした講習会の開催や、現場作業内容の点数評価を次回以降の入札に反映させる制度、などの試みが報告された。

 最後に、まとめとして私見を述べる。森林の機能は複合的で、機能を単純に区分することは困難である。しかし、ことに森林を社会資本と捉え公的に管理するとき、その管理費用と機能便益の把握は重要であり、機能区分による森林管理手法の検討は不可欠であろう。当シンポジウムでは、機能発揮のための森林整備事業の技術的裏付けが乏しく、事業効果の検証も不充分なことが浮き彫りになった。森林生態・施業に関する科学的知見の充実はもちろん、技術の高度化も急務であろう。ただし、それらの早期実現は容易ではない。一方、こうした課題は、整備事業の事例研究やモニタリングを重ねることで達成されうる。むしろ実践における試行錯誤とフィードバックこそが、科学的知見に基づいた森林整備の技術基準と、整備事業の評価制度の設定の近道ではなかろうか。行政、技術者、教育関係者、研究者等の供働による取り組みを期待したい。当シンポジウムでは具体的な試み・行動に関する討論は少なかったが、まずは様々な立場の参加者が問題意識を共有したことが、課題解決の糸口となるだろう。

本稿は『森林技術』2010年5月号への投稿を修正したものである。

 

学生は本当に林業に興味がないのか

倉岡 聡(日本大学)

今回初めて施業研究会前夜祭・シンポジウムに参加させていただきました。最近森林における施業のあり方や施業法自体に興味を持つようになり、本大学の櫻井教授よりこの施業研究会のお知らせを聞いた時には「とにかく参加したい!急いでメールをしなければ!」と、期待に胸を膨らませて施業研究会に臨みました。今まで紙の上でしか見ることができない方々を前に、私のような学生としてはかなり緊張していたのですが、前夜祭ではお酒の力も借りて、また皆様がとても気さくなこともあり緊張もほぐれ、自分が研究している天然更新についてなど色々なお話を聞くことができ、かなり有益な時間を過ごすことができました。

さて、シンポジウムの中で後継者問題についての話題が挙がりました。これは学生としては非常に重要な問題の一つだと思います。一般的には林業やそれに関連する企業に就職する若者はいないと考えられがちのようです。しかし、私の周りでは比較的林業やそれに関連する企業に就職したいと考えている学生は少なくないように感じます。せっかく林科を卒業したのだからその経験は活かしたいとの考えが挙げられるようです。また、普段野外で調査などをしていた経験から、一般的な仕事には就きたくない・単純に山で仕事がしたい・作業着を着て仕事がしたいなどアウトドア派の人間が多いことも関係しているかもしれません。しかしながら、受け入れ先が極端に少ないことが多く、なかなか思い通りに就職先を探すことができないという現実があるようです。それでも中には希望通りに林業に就職した者もおり、現状を聞くと仕事内容には満足しているようです。

ただ、森林を学ぶ学生としては受け入れ先が無いこと・賃金が安いことが現在の大きな懸念事項であるようです。これが改善されれば、意欲の高い学生が比較的集まると考えられるので、今自分がどこの山にいるのか・植物の名前がわからない、などの問題は改善されるのではないでしょうか。そのためにも、現状から考えて林業やそれに関連する企業に対して国や地域からそれなりの補助が必要だと思います。また、受け入れ先側としても意欲のある学生を捕まえるために、学生に対してアピールが必要になってくるかもしれません。皆様はどうお考えでしょうか。

もう少し言いたかったこと

伊藤 哲(宮崎大学)

今回の施業研究会シンポジウムの総合討論では、人材育成について司会者から発言を求められた。ここではあまり説明したくない状況で当てられて慌ててしまい、本当はもう少し言いたかったことを喋りそびれてしまった。自身の不徳を省みず、この場を借りて厚かましく補足したい。

1.大学での人材養成について
発言を求められた「大学における人材養成」については、数年前のシンポの時と同様の内容をお話しした。すなわち、大学におけるここ10~20年のジェネラリスト養成指向や森林・林業系の就職状況等から、林業技術者養成というシステムが大学では成り立ちにくくなっており、実際的な技術者教育は教員個人の意識や努力に依存するところが大きい、という何とも無難かつ無責任な内容である。
そんな話で納得される方がいらっしゃらないのは当然だと思う。もう少し突っ込みたい。
まず学科レベルの出口を見据えた専門教育体系について考える。たとえば公務員を例にとると、数年前、例の森林の3区分を実施することになった際、市町村で計画立案を担う森林・林業技術者の需要が増えることを期待したが、全く当てが外れた。また、失礼な言い方になるかもしれないが、団塊世代が退職を迎える昨今の「団塊退職バブル」も期待したほど採用数は増えていないように思う。こうした情勢が林業、とくに施業技術に対する彼らのモチベーションを上げられない理由となっているのも事実である。森林系の学科に入学してくる学生のほとんどは自然環境や生き物が好きで入学してくる。彼らに森林管理や林業の重要さを説くことはできても、また、頑張って夢のある話に無理やり持っていきながら授業や実習を実施することはできても、その出口があまりに狭き門では説得力に欠ける。結果として、大学は少し広めの専門や出口を視野に入れた「育成人材像」を考え、これに対応した教育体系や授業を構成せざるを得なくなる。これが森林施業に関する専門技術者教育を困難にしている理由の一つであるように思う。そこで教員は、せめて自分の研究室にきた学生に対してだけでも、林業・森林施業のことを少しでも深く考えてもらえるよう個人的に努力することになる。
もう一つの問題は、施業研究会の本質とも関係すると思う。この研究会の功績は大きく、ここ数年の森林学会の発表題目を見ても、施業に関連した若手の発表が非常に多くなった。しかし辛口の目で偉そうに、かつ自戒を込めて言わせてもらえれば、ひと頃の複層林ネタのように「流行り」でやっているものも多いようにも感じるし、一見、施業研究のように見えるだけのものも決して少なくないと思う。また、本質的には数年・数十年前の先行研究の焼き直しが多いと思うのは私だけではないだろう(数理解析手法は格段に進んでいるけど)。この傾向は学生・院生の話ではなく、それをやらせている私を含めた大学教員に対してもっと強く言えることである。そもそも、片手間でなしに施業研究を行っている大学教員は、特に造林系ではあまり多くないと思う。同様に、施業研究会シンポへの参加者は多いが、施業研究の実践者はまだ少ない。要するに、研究の現場にはいても、林業・森林管理の現場からは遠い場合が多いということである。これで本当に要求されている人材育成ができるのかというと、やはり少し疑問を持ってしまう。(もちろん授業は皆ちゃんとやっているのですよ。その上での話です。)
大学教員が「どっぷりと」施業研究をしないのはなぜか? 理由はいろいろ考えられる。思いつくままに列挙すると、

1) アカデミックでない(少なくともそう見えない?)。
2) 古臭い(少なくともそう見る向きはまだ多い)。
3) 個別性が高すぎてインパクトファクター付き雑誌に載りにくい(他は載るのか?)。
4) 下手に手を出すと予想もしない余計なしがらみが発生する(経験談)。
5) やもすれば「大学のやることか」と叱責を受ける(学内外、研究会内外から)。
6) 生物多様性でなければ今はお金が取れない(もちろん例外はある)。
7) 卒論・修論生が興味をもってくれない(稀に例外もいる)。
8) 実は施業のことや林業のことを何にもわかっていないのがバレる(一番怖い)。

などだろう。結果として、施業研究をやらないか、論文にはなるが実際の施業にはおおよそ使えない研究を遂行し発表することになる。これでいいはずはない。現状を改善するとすれば、まず上記の問題を一つ一つひっくり返していくことが必要だが、なかなか容易でなく、解決の糸口はまだ見つかっていない。ともに頑張ろう森林総研。
施業研究会には「施業研究を再び流行らせた」という大きな功績がある。これを大学が受け止めるためには、施業技術という面で大学に要求される人材育成の内容やレベル(実はものすごく様々である)を今一度整理し、それを個人の努力ではなく教育システムに反映させる必要があるだろう。しかしこれには時間もかかるので、同時に大学教員が自身の施業関連研究の方向性を少し考えなおすことで、人材育成に対応すべき部分もあるだろうと個人的には思っている。シンポや前夜祭に出るたび、気が重い。

2.民有林について
これまでの施業研究会の話題は概して国有林に関するものが多いように思う。国有林の位置付けや重みを考えればもっともな話であるし、実際に国有林で実行できない内容を民有林でできるはずがないだろうとも思う。しかし、やはり少し物足りない部分もある。今回も、国有林と公有林を対象とした議論が多かった。
私自身が以前の施業研究会シンポジウムでゾーニングの話題提供を行ったとき、観念的で実行可能性が低いと批判を受けた。その大きな理由は、民有林の経営規模を無視して話をしたからであり、全くごもっともな批判であった。それ以降も、観念的なモデルを実際の民有林の経営現場にどのように近づけるのかに苦慮している。現在行っている「人工林化された渓畔林の再生優先度の決定手法」など、その最たるものである。土地所有の問題は無視するしかない。
今回の話題のいくつかにも同様のことが言えると思う。確かに国有林も大事だが、森林・林業再生プランは当然民有林も考えているわけだから、この点を考慮しないわけにはいかないだろう。人工林をひと括りにしない考えは大賛成だが、どのくらいの経営規模を対象に、どのくらいの空間スケールでゾーンを分けて取扱いの方法を決めていくのかが、私にはよくわからなかった。また、その規模や空間スケールを現実の民有林にあてはめようとしたとき、どの程度の実行可能性があるのかも非常に疑問に感じた。
なお、この点についてシンポ終了後に桜井先生に個人的にお尋ねしたところ、やはり小規模民有林の団地化は話の大前提であり、所有者との合意を形成する仕組みが重要との見解をお聞かせいただいた。この問題は、林分管理から集水域管理へと視点を広げる段階で自明といえば自明の話だが、総合討論の中にほとんど話題として出てこなかったのは少し残念であった。ひとつのモデルとして経営規模の大きい国有林や県有林の在り方を議論するのは妥当であるし、賢い方法だと思う。しかし、ほぼ同時に民有林への適用を考える議論も必要だと、暖温帯のすみっこのスギ林業地で感じている次第である。
そういえばこの研究会、「広葉樹林施業≒ブナ林施業」という色も濃すぎる気がする。

次世代につながっていく森林管理になることを願って

久保 満佐子(国土交通省国土技術政策総合研究所)

森林施業研究会では,森林に関わる第一線でご活躍の皆様からお話を聞くことができるので,学会に行くときは参加したい研究会です。今回も,精鋭・奇抜なご意見,ご発表を聞いて,直面している課題を改めて認識すると共に,エネルギーをもらった気がします。スタッフの皆様,発表者の皆様,どうもありがとうございました。
今回の研究会では,森林管理の方向性について,広葉樹林を保全して人工林を利用していくこと,人工林の中でも渓畔域を保全することが,一つの方向性としてあることを改めて認識しました。管理の方向性が決まると,次には具体的にどのような管理が適切かということが課題になるのでしょうか。渓畔域に関しては,これまで森林の動態に関する研究が行われてきましたが,そこを生息地とする生物に関する研究や,森林施業の影響に関する研究はまだこれからだと感じています。日本での研究は少ない上に,日本の急峻な山岳地形にみあったものが必要になってくるだろうし,地域にみあったものになってほしいと思います。これまで渓畔林の研究に携わってきたのですが,これからの研究を行うに当たり,改めて何が足りないのか,必要なのかを考えて,研究の方向性を決めていきたいと思いました。また,森林がどうなっていくのかは,仕事上だけではなく,長年山に入ってきた一個人としてとても気がかりなことです。奥岳の深い森が次世代にも続いていきますように,先の時代につくられた森林資源が活用されますようにと祈りつつ,仕事に対する責任と同様に,一消費者として何を選んでいくのかを考えて生活できればと思いました。

森林施業研究会シンポジウムを聴講して

矢作 和重(住友林業株式会社顧問)

1. 個々の講師の方の話の感想

・桜井先生の話
「森林整備について考えるとき、天然林と人工林を峻別して議論が必要である」等の基本的なことについて、確かに世の中にはこの辺をごっちゃにした議論が多い。
学会での議論は、当然この辺の前提については、確認のうえで成されているのだろうが、一般の議論をリードしていく専門家の立場に立ったときは特に注意して前提を明確にする必要があると感じた。特に、人工林についても生産林とそれ以外に分けて考えるという点については、まったく同感である。現在の森林区分の実態について、疑問を感じている。 全体に、きちんとまとまって整理された話であった。

・長野県の戸田氏の話
具体的な話が聞けた。人工林が一様でなく、方形プロット調査が現実的でなくラインプロットによる調査を行っていること、発注者と施業者全員が集って方針を理解してから作業を行う等、基礎的なことながら改めて実感した。当社の場合、特に北海道のカラマツ人工林で一様でない傾向が強い。長野の場合もカラマツ林の話が中心と理解したが、カラマツ林に強い傾向なのだろうか。

・FOEジャパンの岡崎氏の話
Co2の問題が政治的に利用されている実態については、日ごろから疑問に感じている。個人的には、日本で常識になっている間伐によりCo2削減量を確保するという話は疑問に感じており、Co2削減の為には途上国における森林減少・劣化に対する対策がより重要であるという話は特に印象に残った。

・神奈川県の小宮氏の話
県の林業政策の実態に対する怒り、苛立ちが痛いほど伝わってきたが、自分の思いを実現するには、もうちょっと違う手法もあるのではと感じた。若手に現場を知った者がいなくなっているという話は、職員の絶対数が足りないという話か、若い人の現場に行く頻度が少ないという話なのか不明であったが、確かに若い人は、GIS等のデスクワークは得意だが、現場を踏むことは余り好きでない傾向がある。この辺の基本の教育が大切であり、当社でも苦心している点である

・関東森林管理局の池田氏の話
国有林の現場での生々しい話が聞け、あえて実態を報告された勇気には敬服した。定性間伐がきっちりできればそれに越したことはないと思う。一方で、限られた人員、予算で膨大な国有林を管理するためには、間伐の仕方や、作業後のチェックが比較的簡単な列状間伐が採用されているのだろうと思う。しかし、その列状間伐ですら報告のような実態もあることには、正直びっくりした。改善のための対策は、オープンな議論で真剣に検討して欲しい。

2. 総括
国内の森林に注目が集まって、多額の公的予算が森林施業に投入されている近年、その施業を学問的に研究する森林施業研究会のような活動はもっと注目されて良いと感じています。そのためには、問題点の指摘だけでなく、その解決のための技術とコストの両面からの、具体的な提言を数多く出していって欲しいと思います。
当社では、定性間伐と、小面積皆伐および伐採跡地への植林を中心に森林施業を行っていますが、林業部門が不採算部門となって久しい現実の下、今回講師の方々が指摘されたような、間伐技術の衰退や技術の継承といった点について同様の悩みを抱えています。今後の、研究会からの学の分野からの建設的提言を期待するとともに、産の分野を担う我々も大いに協力していきたいと思います。

以上

「不純な動機から」

小林 裕之(富山県森林研究所)

今年度から渓畔林調査を担当することになりました。何から始めてよいやらと,いろいろ情報収集をしているうちに,渓畔林研究会なるものが存在するということを知りました。さらに情報収集を進めると,渓畔林研究会のメンバーが森林施業研究会のメンバーとかなり重複しているということがわかりました。そこで私は4/4(日)夜の森林施業研究会の懇親会に参加し,渓畔林調査に関する情報収集をすることを決意したのでありました。
懇親会ではまず新潟大学の崎尾先生と名刺交換をさせていただき,いろいろ話を伺いました。また,今年の渓畔林研究会が秋に熊本県で行われる予定であるという貴重な情報も得ることができました。途中から私の正面に座られた年輩の方が,エンジン全開で持論を展開され,随分過激な発言をする人だなあと思っていたら,翌日の話題提供者の小宮さんでした。

さて,4/5(月)の研究会本番の感想を書きます。
桜井先生の講演からは,林野庁が「森林・林業再生プラン」なるものを作成したということを,恥ずかしながら,初めて知ってしまいました。長野県の戸田さんの講演からは,長野県が,「災害に強い森づくり指針」なるものを作成し,インターネット上に公開しているという情報を得ることができました。元神奈川県の小宮さんの講演からは,神奈川県が「広葉樹林整備指針」なるものを作成していることがわかり,それ以外にも,「渓畔林整備指針」をPDFファイルで公開していることも後日わかりました。
というわけで,今回の森林施業研究会および懇親会は,私にとって実に貴重な情報収集の機会になりました。ありがとうございました。

技術者の経験から得られる技術と知識を引き継ぐ

小林 慶子(山梨県森林総合研究所)

私は森林をフィールドに生態学を学んできましたが、林学を学ぶ機会のないまま今日まで過ごしてきたため、森作りの経験も知識もほとんどありません。このような、林学の知識に乏しく現場も経験したことのない自分にとって、森林施業研究会は、森作りの現場を疑似的に体感できる場として、これまで何度か参加し勉強させていただいて参りました。
これまでは、自分の仕事で森作りに関わる機会も無かったことから、森作りに関する見聞を広めることに主眼を置いて参加してきたのですが、昨年度より山梨県で治山緑化担当として仕事をさせていただく機会に恵まれ、自分でも森作りに関わる案を出すことが求められるようになったことから、今回の施業研究会は、森作りに携わる当事者として、どんな森を如何にして作るかを能動的に考えられる力を身につけるための勉強の場として、心新たな想いで参加しました。
今回のシンポジウムで特に考えさせられたのは、「森林整備のプランはあるが、どう実行するかが描けていない」「如何にして森林整備を実行する技術者を育てるか」という議論でした。自ら現場を見て判断できる技術者が減少していて細かな指針が必要とされていることに対する危惧や、指針があってもその指針が適切なものなのかをチェックする機能が働いていない(事後モニタリングによる事後評価が行われていない)などの問題点が挙げられました。これらの議論は、県の研究所の職員として一年間、県の技術職の職員の方々と仕事をさせていただく中で感じるようになった、研究職職員としての自分の役割:技術職員の方々が経験を通して積み上げ、得てきた知識や技術を明文化し、誰もが使える指針として示すこと、を再度意識させられる議論でした。
私は、この一年で、技術者が様々な現場で積んだ経験の結果得られた知識や技術は、研究者が野外を観察して収集したデータによって判明する仕組みや真実と同等以上の精度で現場を表しているのではないかということを感じるようになりました。また、その現場の状況と技術者の経験を加味して技術が選択されていく過程は、いかに細かな指針やフローチャートを作成したとしても、再現するのは難しいのだろうとも感じるようになりました。しかし、それでも、これら技術者の経験から得られた技術と知識を引き継ぐためには、技術者の方々が経験によって行っている技術の選択過程を明文化していく必要性を感じ、それを行うことが研究職職員である私の役割であると考えるようになりました。今回のシンポジウムでは更に、私自身が、技術者として現場を知り、育つことの必要性も感じました。
森作りに携わる当事者として、将来どのような森を作っていきたいのか、一貫した見通しやポリシーを持ったプランを持ち、また、そのプランを実行していける力や目を持った人材となることを目指し、今後も施業研究会で勉強させていただきたいと思っています。

<編集後記>

施業研究会のシンポジウムには100名近い方にお越しいただいた。講演や司会をお受けしてくださった方々、お集まりいただいた方々にこの場をお借りしてお礼申し上げたい。
さて、学会の発表を見ていると、研究にもその時々の流行り、すたりがあるようだ。ここ数年の造林分野では人工林への広葉樹導入に関する発表が増えたように思う。個人的には人工林の林床に広葉樹の稚樹が発生することを「更新」と表現するのは違和感があるのだが。一方、長伐期林、複層林については2003、2004年あたりが発表件数のピークでここ1,2年は減っている。
流行に遅れるのも問題かもしれないが、少し山に入れば、壊れたシードトラップ、使われなくなった実験器具、ナンバーテープの残骸がくっついたままの立木が放置されている。長年放置された試験地を復元して大きな成果をあげた事例もある。一度作った調査区は引き継ぎを行いながら長く使いたいものである。

 

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