木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.50 2010.11.26
Newsletter of the Forest Management and Research Network


森林施業研究会 第13回現地検討会報告

和歌山県農林水産総合技術センター林業試験場 中森由美子

現地検討会の感想

寄稿

森林・林業再生プラン実践事業で実施する「将来の木」施業

広島県立総合技術研究所林業技術センター 佐野俊和

小特集:西日本の公社造林問題

・林業公社とその責任

弁護士 白倉典武

・経済面からみた公社造林問題

滋賀県立大学 高橋卓也

・造林公社問題が施業に投げかける問題

森林総合研究所関西支所 大住克博

編集後記

森林施業研究会 第13回現地検討会報告

和歌山県農林水産総合技術センター林業試験場 中森 由美子

集合写真
集合写真(大美輪の大杉林にて)

  森林施業研究会第13回現地検討会が、2010年10月4日から6日の日程で、山形県の最上・庄内地域において行われた。検討会には、大学や国、県の研究者、技術者、学生などの総計37名が参加した。今回のテーマは、『里山林の現状‐ナラ枯れ被害‐』と、『積雪地帯スギ林の長伐期経営』であった。以下に、検討会の概要を報告する。

10月4日(月)
<ナラ枯れ被害地とカシノナガキクイムシ防除試験地>
  一日目の午後、一行はJR新庄駅に集合し、新庄市内にある陣峰市民の森を訪れた。ここでは、今回の目的の一つであるカシノナガキクイムシ(以下カシナガ)穿入により枯死したコナラを観察した(写真1)。当日はあいにくの雨で、ナラ枯れの特徴である、カシナガが穿孔の際に出す木屑(フラス)が流れかけていたが、穿入痕が点々と高い位置まで確認できた。山形県では既に県下全域にナラ枯れ被害が広がってしまったため、これまでの被害拡大を防ぐための先端地駆除から、最近では、重要なナラ林を防除するという方針に変わってきているとのことであった。また、山形県での被害樹種は、ミズナラ、ナラガシワ、コナラ、クヌギ、クリの順に枯れやすいとのことであったが、西日本の地域では、シイやカシ類などの常緑系のブナ科樹種の被害が広がっており、各地における被害の現状が参加者からあげられた。穿孔被害を受けやすいと言われる大径化した山を、被害を受けにくい山へ若返りをはかる方法については、コナラなど大径化すると萌芽能力が落ちる樹種は多く、これらは伐採して萌芽更新を促しても生き残れないのではないかといった意見や、陣峰市民の森のように森林公園として管理され、定期的に下草刈りが行われて、コナラやコシアブラなどの実生が生育している場所では、これらを育てながら管理していく方法を考えた方が良いのではないかといった意見が出された。一方、ニホンジカによって下層植生が衰退した地域では、更新が難しいといった意見や、公園型森林整備はナラ枯れ被害を助長するといった意見も出され、ナラ枯れ被害跡地の更新も含めて、この問題の難しさが浮き彫りになった。

今年枯れたコナラ
写真1 今年枯れたコナラ


  次に神室少年自然の家に移動し、フェロモン剤を利用した「おとり木トラップ」による防除試験地を見学した(写真2)。概要は、0.1ha内のコナラ全てに、カシナガのアタックによる菌の蔓延を防ぐために、予め殺菌剤を樹幹注入し、うち4本(おとり木)にカイロモン(カシナガを誘引する匂い物質)を発生させるためドリル穿孔し、さらにフェロモン剤を設置することで、おとり木にカシナガをマスアタックさせようというものであった。結果として、0.1haで約3万頭のカシナガの捕獲に成功し、周辺の林分も含め枯死木の発生を抑えることをできたという。この方法が効果を発揮するのは、被害先端地(微害の間)とのことであるが、林分単位の防除手法の有効性を初めて示した試験地ということで、今後も林分防除に関した各地域の研究の蓄積が待たれるところである。

カシナガ防除試験地
写真2 カシナガ防除試験地、おとり木にはピンクテープが巻かれている

  その夜は、5件のセミナー発表が行われた。

10月5日(火)
<金山林業と金山スギ>
  2日目は、金山町森林組合の狩谷健一氏の案内で、金山町にあるスギ林を見学した。最初に見学した「大美輪の大杉」は、280年生の高齢級のスギ林(0.87ha)である。1haあたりの本数は123本、林分材積2268m3/ha、平均樹高49m、平均直径106cmの高蓄積な林であった。最も大きな木の樹高は推定59m、幹材積29.7m3とのことであった。この林分の施業履歴は不明であるが、巣植えをしたと言われているとの説明があった(写真3)。林内を見渡すと、確かにスギが密集して生えている所と、あいている所が見られ、密集している場所には、数株の伐根も見られた。このような高齢級の山になる条件は、北向き沢沿いのすり鉢状地形であることで、これは風雪に耐えること、腐植土が厚いこと(この林分の腐植を含む鉱質土層の厚さは1.5mもあるらしい)と関係しているとのことであった。Φ森林環境研究所の渡邊定元氏からは、長伐期林として管理するためには、土地条件の選択の重要性と、着葉量が多い個体を管理していく必要があるとの話があった。
  次に見学した140年生のスギ林も、南斜面ではあるが、すり鉢状の立地に位置しており地位の高さがうかがわれた。この林分は、定性間伐を繰り返しており、現在1haあたり150本ほどのスギが生育している。伐採は買い手との直接交渉で、条件が見合えば択伐を行っているとの説明があった。択伐跡への植栽は、樹冠に付着した雪が落ちた際に、下木を破損する恐れがあるため行っていないとのことであった。また、金山スギは80年以上の伐期を設け、基本的には大径木生産を行っているが、間伐を行う際に、根腐れ、トビクサレ、凍裂などによる材質の低下が多く見られるような林分では皆伐に切り変えるとのことであった。


280年生のスギ林
写真3 280年生のスギ林、巣植えしたとされる

<山ノ内スギ、天然スギ林>
  次に、戸沢村まで移動し、天然スギ林を見学した。山ノ内スギと呼ばれる裏スギで、昔利用されたのか、あがりこ樹形(台伐り萌芽)をしていた。スギとユキツバキのペアが何とも日本海型らしさを感じる林相であった。

<雪害抵抗性品種 出羽の雪1号2号>
  次に向かったのは、羽黒町の山形県森林研究研修センター林木育種園にある耐雪試験林である。ここは雪害抵抗性候補木の精英樹の選抜とその特性を明らかにするために設置された試験林で、その結果、耐雪性に優れた出羽の雪1号、2号が品種登録されたとのことであった。積雪深が2mもある試験地で、出羽の雪1号、2号と書かれた35年生スギの通直さが際立っていた。斜面上方の支持根が太く、下方の支持根とのバランスが良いとのことであった。

<羽黒山神社のスギ並木と田谷村スギ>
  この日最後の視察先である田谷村スギの林は、国の天然記念物でもある出羽三山神社内の巨大なスギ並木(写真4)を見ながら参道を下った途中にあった。出羽三山神社営林部の大川雄三氏から、田谷村スギ(写真5)や、20年毎に行われる式年造営のための材を生産する神社有林の現状を説明していただいた。田谷村スギは、1812年の奉納植栽林で樹齢198年の林分である。植栽後十数年間は、下刈りや除伐などの保育を行ったが、間伐は行われていないとのことで、下枝が高く、混み合った印象の林であった。過去に調査を行った山形大学の高橋教夫教授によると、1haあたりの本数は236本、林分材積は2089m3/ha、平均胸高直径79cm、平均樹高43mとのことであった。渡邊氏からは、枝下の枯れ上がりは、密度が高いからであり、樹冠長が短いと寿命が短くなってしまうため、密度を下げた方が良いのではないかとの指摘がなされた。

羽黒山神社のスギ並木
写真4 羽黒山神社のスギ並木

田谷村スギ(約200年生)
写真5 田谷村スギ(約200年生)

  その夜は、6件のセミナー発表が行われた。

  2日にわたって行われた計11件のセミナー発表の中から、ここでは2件を紹介したい。まず、佐野氏から、森林・林業再生プラン実践事業で実施する「将来の木施業」の概要や静岡県富士宮市で行われた現地研修に関する発表の後、将来木施業を実践しようとする際の目標径級や成長支障木の選木方法といった検討事項について報告された。会場からは目標直径を60~80cmにした場合の用途やトラクタの値段など様々な質問が出された。
  渡邊氏からは、将来木施業や列状間伐に関する発表が行われた。日本にも寺崎式間伐など育て上げる木を選ぶ方法があったこと、多くの研究者が優良木施業に取り組んできた経緯があることについて言及された。誤解の多い列状間伐については、収益性のある林業経営を行うための基盤整備であること、間伐遅れ林分の密度調整であることを理解し、その後は優良木施業を実施していく必要があると力説された。その際、1回目の間伐時(50~60年生)には、将来候補木を林分から20%程度選定し、以降10年おきに間伐を行い、100年生時に初めて将来木を200本/haに決める(このような施業を行うための間伐が、中層間伐である)。こういった長伐期施業を実現できれば、皆伐の収益よりも高いのではないかと考察された。

10月6日(水)
<加藤家山林>
  3日目は、鶴岡市三瀬にある加藤家の山林を見学した。現在、山林を管理する加藤周一氏は3代目の兼業林家で、材価が低迷する中、山に付加価値をつけるために様々な工夫を凝らしながら経営を行っている。加藤氏の林業経営方針は、長伐期優良大径材生産の持続経営を目指した単木択伐林施業である。加藤氏のスギの一部は、住宅施主を山に案内して立木を見てもらい、製材品を直売する「産直販売システム」により売買されている。この方法により木材への付加価値をつけるとともに、施主との信頼関係を築いており、年間1棟のペースで建てているとのことであった。
  最初に視察した85年生のスギ林は(写真6)、間伐と枝打ちを繰り返し行い、丁寧な管理をしてきた林分で、1haあたりの本数は200~300本くらいであろうか。参加者からは、枝が太くて枝張りがしっかりしている、樹冠長率が高く(写真7)長伐期林としては理想的であるといった意見の一方で、所々にエアポケットのような空間があいているので、雪害が心配などの意見が出された。渡邊氏からは、間伐を続けているため健全であること、60~80年で皆伐なら密仕立てで良いが、長伐期にするなら個々の個体の善し悪し(着葉量を管理すること)が大事であり、エアポケットは樹冠長率を保つために必要であり、伐倒する時にその空間に倒せるといったメリットがあるなどの説明がなされた。また、岐阜県立森林文化アカデミーの横井秀一氏からは、最近の長伐期林の現状を踏まえ、樹冠が小さくなった段階で、一斉皆伐から長伐期の択伐施業へ方針転換をしようとしても、対応できない場合があるため、目標を変えるなら、対応できる間(50年生くらいまで)にすべきではないかとの意見が出された。

加藤家山林
写真6 加藤家山林(85年生スギ林)


樹冠の様子
写真7 樹冠長率が高い

  次に、45年生のスギ林を視察した(写真8)。ここは20haの団地で、1haあたり3,000本ほどの植栽を行い、間伐を3回行ったところで、現在500~600本ほどのスギが生育している。加藤氏の間伐の特徴は、比較的まとまりのある帯状に伐倒していることであった。これは伐倒、スイングヤーダによる集材、グラップルによる木寄せ、フォワーダによる搬出の際の効率性と、保残木の損傷を最小限にするための配慮からであった。
  加藤氏の長伐期林は、若齢期から壮齢期にかけての低密度管理に特徴があるものと思われた。一方、立地条件の悪い所は乾燥するため、全ての山を同じような密度に減らすことはできないと話された。この45年生スギ林も、先ほど見た85年生スギ林と同じ130~150年の伐期を考えているが、南向きの山は倍以上の密度に仕立てており、大径木で勝負する山(伐期130~150年)と、数で勝負する山(伐期60~70年)を造っているとのことであった。これは、同じ山ばかり造るなという祖父の教えに拠るとのことで、おじいさんの山への見識の高さがうかがえた。さらに、加藤氏の山林を見ていく中で参加者の関心を得たのは、林床に生える山菜類の豊かさであった。加藤氏は山林を余すとこなく利用しており、下層にはミョウガ、ウワバミソウ、タラノキなどが生育しており、山への付加価値の一つが、この山菜類の恵みを活かすことなのだと実感した。

45年生のスギ林
写真8 45年生のスギ林、長伐期目標

  今回の現地検討会では、雪積地帯における様々な高齢級スギ人工林を見学することができた。長伐期林分を目指す場合には、個体の着葉量をいかに確保し、健全に管理していくのかという視点と、長伐期林が可能な立地を見極める重要性を感じた。このことは、金山スギ林や田谷村スギ林の高い樹高からも示唆されるように、成長を続ける立地環境でないと、同じ期間での高蓄積林分の実現は難しいものと思われた。実際に、加藤氏の長伐期経営林では、立地に応じた目標林型を設定され、そのための施業が実践されていた。さらにそこは、優良大径材生産の場のみならず、山菜類を育む林でもあった。様々な事態も生じうる長伐期林を経営するためには、伐期を多様化する、特用林産物により定期的な収入を確保するなどの工夫が必要なのだと感じた。
最後に、現地検討会の運営に尽力いただいた山形県森林研修センターの上野満氏をはじめとする関係者の皆様と、現地を案内いただいた皆様に厚くお礼を申し上げる。

  なお、本稿は『森林技術』2011年1月号への投稿を修正したものである。

 

森林施業研究会に参加をして

日本大学 生物資源科学部 森林資源科学科 2年 笹原千佳

  私は将来、森林分野の専門家になりその技術や知識を国際協力に役立てたいと考えています。今回、大学の教授からこの施業研究会の情報を頂き、その際に森林の専門家の方々が多く参加され、内容も非常に濃いものだと伺いました。そのため、私はこの研究会合宿は自分の将来に役立つと考え参加させていただきました。
  施業研究会合宿では、大きく分けて三つのことを学ぶことが出来ました。
  まず、林業の現場を見学する重要さです。今まで大学の実習等で森林に入ることはありましたが、森林に入る目的が調査であったため林業の現場を見学するということはほとんどありませんでした。ナラ枯れ防御林、長伐期林、クローン育種の出羽の雪等の今後の林業の在り方にも非常に大きく関わる現場を学生の間に見学することが出来たことは、今後においても林業分野の視野を広げるきっかけとなりました。
  次に、参加された皆様の意識の高さです。特に夜のセミナーでは新しい知識や情報のみでなく、森林に関連した仕事をされている方々の森に対する意識の高さにとても強い刺激を受けました。
最後に、当たり前ではありますが森林では様々な分野が関わり合っているということを改めて考えさせられました。大学の研究室単位で考えてしまうと造林、経営、林産等の分野は切り離されているイメージありましたが、専門を絞るにしてもどの知識も必要であることを参加された皆様と話す中で感じ取ることが出来ました。
  以上のようなことを私に学ぶ機会を設けて頂いた施業研究会合宿に参加をしてから森林資源科学科に在籍をしていることをより誇りに感じることが出来たような気がします。
  今後も勉学に勤しみつつ様々な機会に挑戦し将来の目標に向けて精進していきたいと考えております。ありがとうございました。

「引き継がれていく森林づくり」

関東森林管理局森林技術センター 所長 林田 栄

  今回で、二回目の参加となる森林施業研究会の現地検討会では、樹齢280年のスギの人工林に、長期間自然の影響を直接受けてきても、そこに立つその姿に畏敬の念さえ感じてしまいました。
この樹齢280年のスギの人工林は、苗木を植え、下刈、除伐、間伐と代々の所有者の一貫した考えのもとに、引き継がれた森林づくりが、子孫の優良な資産となる森林を造成したのでしょう。
  今年の九月、三十年程前に北海道の国有林で伐採区域を設定するとともに皆伐し、植付・下刈まで関わったヤチダモの造林地をみてきたところであり、この造林地が樹齢280年のスギの人工林のような大径木のヤチダモの森林となった姿を想像してしまいました。
森林づくりに携わる者として、前述しているスギの人工林のような森林づくりに関わることが出来ればと思ってしまいます(二百何十年後の造林地をみることは出来ませんが)。
  今後も、より多くの森林に出会い、森林に学びながら、代々と引き継いで喜ばれる資産となる森林を残していくための森林づくりに携わっていきたいと考えています。
  最後に忙しい業務の中、現地検討会を企画・運営、また、現地検討会の場を提供して下さった皆様に深く感謝申しあげます。

山形合宿での現地検討会の感想とセミナーでの報告について

岩手県林業技術センター 高橋 美恵子

  今回の現地検討会が山形県で開催されるというお知らせを山形県の上野さんから伺い、森林施業研究会の合宿は現場に近い様々な立場の方々から有意義なお話が聞ける貴重な機会と思い、初めて参加しました。
ナラ枯れの現地では、今年は山形県でミズナラだけでなく今まで枯死が少なかったコナラにも被害が増加してきているとのことから、今後、岩手県で被害が発生した場合を想定すると、現在生育しているしいたけ・木炭原木林への被害を最小限に食い止めるため、広葉樹の資源分布を考慮した戦略的対策の必要性について考えさせられました。
金山スギや羽黒山では、今まで岩手県では数少ない事例しか見たことがなかった100年生以上のスギの林分密度や樹冠形状などを実際に見て、長伐期大径木施業は森林所有者が目標林型のイメージを持ったうえで経営目標を立てること、間伐は伐採率ではなく目的木を意識した密度管理とすることの大切さを感じました。
  夜のセミナーでは、私の方から「岩手県の広葉樹林の樹種構成による類型化について」岩手県民有林の広葉樹林の資源と利用の現状を説明し、1980~1985年に実施した広葉樹賦存状況調査結果による樹種構成からみた広葉樹林の類型化の方法とそれぞれの林況写真を事例として見ていただきました。今後、広葉樹二次林を資源として活用していく場合に、当時の類型化をこれからのバイオマス利用を含めた活用目標へ見直すこと、広葉樹二次林を大径木へ育成するための的確な除伐の推進、小径木の活用促進などについて広くアドバイスをいただき、大変参考になりました。
  現地検討会とセミナーの時間は限られており、その合間の時間でも意見交換できなかった方もいて少しもったいなかったと思いましたが、またの機会に参加させていただきたいと思います。事務局の方には大変お世話になりました。ありがとうございました。

長伐期林から「森林・林業再生プラン」を考える

山形県村山総合支庁森林整備課 三浦 直美

  いろいろとお世話になった施業研究会の現地検討会が、現役最後の年に地元で開催とのことで、勉強、交流、御礼、なつかしさ等の複雑な気持ちを持ちながら、期待をもって参加させていただきました。ただ、現在は行政職なので、事務局は山形県森林研究研修センターに担っていただき、気楽な立場で参加させていただきました。行政とは異なる研究の雰囲気に久しぶりに触れ感激し、また、ハードスケジュールにはやはり疲弊させられました。
  今、「森林・林業再生プラン」の実施に向け、行政機関では実施方向性、具体的な仕組みや内容について盛んに討議されているところです。しかし、「森林計画・森林整備計画」や「森林経営計画」の具体的策定方法、「森林組合業務」のあり方、「林内路網」の区分と整備方法、「フォレスター制度」の内容、「林業機械」の導入支援策等課題は山積みなのですが、どの機関もその具体像がつかめず、大変苦労している実態があります。
  そうした中で実施された長伐期施業林や長伐期大径材を目標とする壮齢人工林の現地と夜のセミナーにおいては、280年生高蓄積人工林における「巣植え状況の立木配置」の持つ意味、間伐作業に伴う林内空間の必要性、消極的長伐期林との立木比較、路網整備の必要性と施工方法など種々の報告・検討がなされ、中には「森林・林業再生プラン」に直接かかわる事業の報告もあり、プランへの理解が深まり貴重な情報も得ることができました。その中でも森林施業に関するものとしては、「ドイツ・オーストリアと状況は異なっており、単純に真似てはいけない。」、「消極的長伐期林は簡単に優良な長伐期林に誘導できない。」、「林内路網が絶対的に必要でそのためにも林地の集約化が必要である。」、「大半の森林組合は現在、自治体等の委託事業を主体に事業を展開しており、林地集約化や路網建設を含む林業の機械化に積極的とは言えない。」、「森林組合の他にも素材生産や林業路網建設に携わる事業体必要である。」等の意見やコメントが印象的であり、今後の行政施策に役立つものと思われました。
  まだまだ「森林・林業再生プラン」はわからない点が多いのですが、森林・林業の大変革時期にあたっており、視野を広く持ち本質を見失わず進む必要があると思われます。忘れかけていた研究的な視点が大刺激になり、今回の参加は有意義なものとなりました。研究、行政に限らず広い視野を持ち続けたいと感じさせられました。

寄稿
森林・林業再生プラン実践事業で実施する将来の木施業

広島県立総合技術研究所林業技術センター 佐野俊和

 山形現地検討会のイブニングセミナーで表題のことについて発表したが,そこに至った経緯と,その後行われた独墺フォレスター来日研修への対応の結果について報告する。

将来の木施業とのかかわりの経緯

  10月28日,広島での第2回フォレスター来日研修が終了した。この研修は森林・林業再生プラン実践事業として平成21年度の補正予算で立ち上がった事業で,先進国かつ人工林を基盤とする林業国という観点から,欧州(特にドイツ,オーストリア)の作業システムをモデルとし,現地からフォレスターを招いて森づくりの基本的考え方から作業システムまでを体系的に学ぶ取組である。全国5地域(北海道,静岡,広島,高知,宮崎)で実施されている。3月にドイツ,オーストリアからフォレスターを招いて研修が実施され,その際に「将来の木施業」が提案された(このほか路網,作業システムについても提案を受けており,トータルで効率化・低コスト化を目指すものであるが,本稿では省略する)。今回の研修はこの提案を受けて各地域がどのように検討して地域にあった方針を立てたかをフォレスターと議論するという位置づけで行われたものである。
  本事業の事業主体は広島県西部森林組合事業推進協議会という5つの森林組合が集まった協議会である。これに県の普及組織が支援に回り,私の所属する林業技術センターはアドバイザーとしてそのまた後方の支援という裏方を演じることになっていた。それで,将来の木施業を当地に合った形にアレンジするにはどうしたらよいか,そのヒントが得られるのではとの期待から,今年度の森林施業研究会山形現地検討会に参加を申し込んだ。テーマが長伐期施業ということで将来の木施業と通じるものがあると思った。また,学会発表のような短い時間でのほとんど一方的な発表とは違って,濃密な議論が期待できるのではとの思いもあった。
山形現地検討会参加申し込みの後で,その1週間前に実践事業の国内の専門家を招いての将来の木施業に関する研修会が行われることになり,こちらにも参加した。実はこれ以前まではアドバイザーという立場から,陰で密かに調査をしてモニタリングをしていこうと考えていたのだが,国内研修会への参加を誘われた頃からいつの間にか10月のフォレスター研修時の「将来の木施業」説明役へと表舞台に引っ張り出されていた。

将来の木施業の概要と国内研修会での助言

 フォレスターから提言を受けた将来の木施業について,要点を以下に列挙する。

  1. 将来の木の選択基準:バイタリティ,クオリティ,分布の順に選択。この優先順位が重要。
  2. 将来の木の本数は針葉樹林で200本/ha前後,広葉樹林で100本/ha前後。
  3. 将来の木は個体安定性向上のため,樹冠長率50~70%を目指す。最低でも40%。
  4. 将来の木の目標径級は60~80cmを目指す。
  5. 将来の木と競合しない中間木は,集団安定性維持のため伐採しない。

  この中に出てくる我々には馴染みのない言葉として,バイタリティと安定性がある。バイタリティはその木が目標径級に達するまで成長し続けるのに重要なポイントで,クオリティを優先して選んでも目標径級に達しなければ意味がないので,最優先の基準とされている。具体的には直径が大きな木を数本候補として選び,樹冠を見上げて樹冠の量(樹冠長率,樹冠枝張り)を見て1本に絞り込む。ただし,樹幹に大きな傷があったり,病虫害の被害を受けている場合は選ばない。安定性は長期にわたる風害,雪害等の気象害への耐性のことで,個体安定性は将来の木に選ばれた木が直径と樹冠の枝張りの成長が促進されることにより単独でも気象害に対する耐性が確保されるようにすること,集団安定性は将来の木以外の中間木と言われる周囲の木の集団は,樹冠が互いに接するように密な状態に保つことにより集団で風に対する抵抗性を発揮しようとするものである。なお,II.の本数はスギ,ヒノキの場合200本/ha前後となるが,3月のフォレスター提言では将来の木の本数は若齢林ほどたくさん選べ,間伐遅れで林齢が高くなればなるほど将来の木として選べる本数が少なくなるので,日本の間伐遅れ林が多い現状に即して選木本数を100本/haに減じて提案された。
  静岡県富士宮市において行われた国内研修会には,藤森隆郎先生,渡邊定元先生,森林総研の田中浩領域長,岐阜県立森林文化アカデミーの横井秀一氏と錚々たるメンバーがそろった。この中でフォレスター提言の将来の木施業について,I.将来の木は100本/haを決め打ちしないで,候補木として200~300本/ha選ぶ。II.日本においては湿雪による冠雪害のリスクがあるため,樹冠に付着した雪が林床に落ちるように林冠には多少の隙間が必要。このため,中間木は樹冠長率が30~35%以上になるように間伐によって管理する。III.将来の木施業は,選木した将来の木の樹冠長率が50%以上(最低でも40%)を超える見込みのある場所で実施することが望ましい等の助言がなされた。

第2回フォレスター研修へ向けての調査地設定

  10月のフォレスター来日研修に向けて,広島では2ヶ所の調査地を設定した。1つは広島県山県郡北広島町東八幡甲繋のヒノキ林で,事業対象地約7haの一角に40m×80mの調査プロットを設定した。林齢45年,平均樹高16.0m,平均枝下高9.1m,平均胸高直径22.9cm,立木本数密度1,328本/ha,幹材積:452.2m3/ha,平均形状比68,平均樹冠長率43%。もう一つは広島市安佐北区安佐町小河内松郷のスギ林で,事業対象地の一角に20m×40mの調査プロットを2ヶ所設定した。林齢45年,平均樹高22.8m,平均枝下高16.6m,平均胸高直径27.1cm,立木本数密度1,238本/ha,幹材積810.5m3/ha,形状比87,平均樹冠長率27%。両方の調査地について,通常の毎木調査以外に立木位置図作成,選木の図上シミュレーション,現地における選木研修会(図1)を行った上で,我々の方針を決めてフォレスターへの説明を行った。

甲繋ヒノキ林での事前の選木結果
図1 甲繋ヒノキ林での事前の選木結果

 

将来の木はヘクタールあたり200本選ぶ

  国内検討会の助言を受けて,3月のフォレスター提案の100本/haに,長期的な気象害リスクを勘案して候補木も含めた形で200本/haを提案した。また,独自の検討として秋田県森技セの澤田氏が発表されている樹高と樹冠直径の関係(澤田智志(2006)秋田県森技研報13:65-88)を使わせていただいて,将来の木同士が競合しないために最低限確保しなければならない樹間距離を指標として提示した。これはI.秋田県のスギ林を調べた報告によると,樹高が20mを超えると樹冠幅/樹高の割合が1~2割の範囲となる。II.密度が高いほど1割に近く,密度が低いほど2割に近い。III.樹高成長曲線で100年生のスギの樹高は広島県では最大で35mと予測されるので,樹冠幅の最大値は7mとなり,本数密度に直すと204本/haとなる。IV.ヒノキについてはデータが無いが,スギと同様であるとすると,樹高は広島県では最大で30mと予測されるので,樹冠幅の最大値は6mとなり,本数密度に直すと278本/haとなる。V.以上から,200本/haは間隔を適切にとれば,100年生時に将来の木同士が樹冠を接することは避けられると考えられ,無理の無い本数設定といえるというものである。この考えに基づき,調査地の立木位置図を用いて現在45年生の林分が55年後の100年生になった時に将来の木同士がどれだけ競合するかをシミュレーションしてみた(図2)。その結果,甲繋のヒノキ林では100年生時の予測平均樹高19.6mの2割である4mが樹冠直径(=最低限確保しなければならない樹間距離)で,樹冠が競合すると予測されるのは1組で,そのうち1本を伐採すれば樹冠競合(将来の木の2%)は解消される。松郷のスギ林では100年生時の予測平均樹高26.6mの2割である5.3mが樹冠直径で,伐採を要する将来の木の割合が少し高くて15%となったが,いずれも80%以上の将来の木同士は樹冠が競合しないと予測された。


図2 将来の木の樹冠直径の将来予測と競合

  これに対するフォレスターの意見は以下の通り。I.3月に将来の木100本/haを提案したが,この本数は絶対ではなく目安である。したがって,根拠があれば200本/haでもよいが,それは目安であって本数にこだわりすぎてはいけない。II.選木はとにかくバイタリティを最優先に行い,その結果将来木同士が最低限確保しなければならないとする樹間距離以内となっても,バイタリティがそれより優先すると選木者が判断すれば選木してもよい。この結果,選木が集中したり分散したりするが,それは現場での判断を優先するべき。III.甲繋のヒノキ林は根元曲がりが多かったが,平均胸高直径22.9cmの現在の山を目標径級60cmに持ってゆくことを考えると,根元曲がりの上で伐採するとすればそれより上のこれから増える材積の方がそれより下の根元曲がり部で増える材積よりも明らかに大きい。したがって,その木がバイタリティにあふれているのであれば積極的に選ぶべき。(我々の事前の選木ではこうした根元曲がりの木に対してはクオリティ優先で選木していなかったが,フォレスターの助言に従えば根元曲がりであってもバイタリティのある木を選ぶべきということになる。)IV.選木者によって選木結果が異なってもよいが,バイタリティ,クオリティ,分布の順に選択することと,この施業によって安定性を高めるという原理を理解していることが重要である。また,一定の守るべきレベルはあるので,研修を行って意思の統一を図るのは有効である。
  私は3月の第1回フォレスター来日研修に出席していないので,最初にペーパーとなった「将来の木100本/ha」を読んだときの衝撃が大きく,数字が一人歩きしてしまい,その後最終目標に到達した時点における林分には将来の木だけではなく周囲の中間木もいくらかは残るので林分成立本数は100本/haのように少なくなることはないと知った後も,数値的な基準にこだわり続けていた。また,この方法を広めてゆくにはバイタリティといった抽象的な言葉では伝えにくいので,客観的な数値基準が必要との思いも強かった。そのため,今回の研修で将来の木の本数は絶対ではなく目安だと言われたのには拍子抜けしてしまった。それでも,樹冠直径の将来予測を元に200本/haを主張した点については評価をいただいたようで,フォレスターの当初提案どおりの100本/haを鵜呑みにしなくてよかったと思った。100本/haはなぜかということを私自身が説明できないと思ったからである。

成長支障木の選び方・・・将来の木の資産価値及び間伐収入の向上にために

  将来の木を選ぶ際に,その成長を阻害する木を伐採木として選木する。これについてフォレスターはわかりやすくするために立木を擬人化して説明していた。I.最も良いと判断した木が将来の木(市長の木)に選ばれるが,その木の成長に影響している木のうちで最も成長の良い木(副市長の木:市長の座を狙っている2番手の木)を成長支障木として伐採対象にする。このことにより,間伐される木の直径がその林分の平均直径よりも大きくなるため,本数伐採率が同じであれば定性の下層間伐や列状間伐の場合よりも収入の増大が期待できる。II.将来の木(市長の木)の近くにあり樹冠が接していても,被圧木や成長不良木(市議会議員にも成れない木)であれば将来の木の成長には影響を与えないので,余計なコストをかけて伐採しない。この木は次回コスト見合いで伐採したほうが有利と判断されるまで成長していれば伐採してもよいし,副市長級になるまで待ってもよい。
  ここまでで将来の木施業の目的が出揃ったので整理してみる。目的はI.将来の木の成長促進により森林の将来の資産価値を高めること,II.間伐に副市長の木を選ぶことにより林分の平均値よりも大きな材の伐採による収入増加も期待できること,III.この施業により将来の木は個体として風害・雪害に対する長期の安定性を向上させ,周りの中間木は伐りすぎないことにより集団としての風害・雪害に対する長期の安定性を維持するものであること。II.については今回の研修によって認識できたものである。
  伐採木は成長支障木のほかに搬出支障木もあり,事前の図上シミュレーションでは搬出支障木が多くなって総間伐率が40%を越える伐り過ぎと考えられるケースも想定された。そのため,成長支障木を当初予定していた将来の木1本に対して2本から1本に減じた。これに対しては,やはり現場を見て柔軟に対応すべきで,集団安定性を壊さないためにも林冠に大きな穴を開けるべきではないけれども,局所的に密な場所があれば成長支障木を2本選ぶ場合もあるということを実地にて実例を元に助言を受けた。なお,国内研修会で冠雪害リスク回避のために中間木集団にも間伐をすべきと助言されたが,これについては将来の木施業で成長支障木と搬出支障木を伐れば適度に中間木集団の林冠にも穴が開くと考えられるので,あえて事前の段階で考える必要は無い。もし伐採後も中間木集団の林冠が混んだままで冠雪害のリスクが高いと判断されるようなら,その時点で方針を微調整すればよいのではないかとのことであった。

現状から将来の木施業への移行可能性の検討

 将来の木は個体安定性を高めるために樹冠長率を最低40%,できれば50%以上を目指すとされている。今から将来の木施業を実施することにより枝下高が変わらない(枝の枯れ上がりがない)と仮定した場合,樹冠長率は今後の樹高の伸びしろにかかってくる。

樹高成長曲線から推定した将来の樹冠長率
図3 樹高成長曲線から推定した将来の樹冠長率

  図3は甲繋の45年生ヒノキ林が55年後の100年生時に枝下高が何mになるかを推定したものである。現在の平均樹冠長率43%が20年後には50%を超えると推定され,将来の木施業に移行可能であると考えられる。もう1ヶ所の松郷の45年生スギ林は,現在の平均樹冠長率が27%で55年後の100年生時においても37%にしかならないと推定された。将来の木のみの平均では32%あるため,100年生時に最低ラインの40%を超す可能性はあるものの,それでも将来の木施業への移行は難しいのではないかと考えられた。
  これに対してフォレスターは現地を見て,いずれの林分も将来の木施業への移行は可能と判断した。松郷のスギ林については確かに間伐遅れ林で枝がかなり枯れ上がっているが,直径の個体差が大きくて最大値と最小値とでは3倍の開きがあった。ここでは将来の木が7本に1本の割合で選木されたが,いずれも直径が大きく(林分平均27.1cmに対して将来の木平均35.5cm)樹冠長率は低いものの樹勢は良かった。私は松郷のスギ林はあるいは将来木施業への移行は無理なのではないかと考えていたので,その場合はどのような施業をしたらよいのかと質問しようと思っていた。それで質問を変えて,移行不能な林分というのはあるのか,その場合はどうすればよいのかと聞いた。フォレスターの答えは,個体差の少ない林分が該当し,その場合は定性の除伐・間伐,場合によっては列状間伐を行って個体差が出た時点で将来の木施業に移行すればよいので,基本的にほとんどの森林で(理想的とはいえないが)将来の木施業は可能であるとのことであった。松郷のスギ林のような樹冠長率が低い林分について本当に気象害は大丈夫なのかについては今後モニタリングを続けて検証する必要があると考えるが,少なくとも過密林分で残す木の選木をせずに強度間伐する場合よりは気象害のリスクは低くできると思われた。また,施業研究会山形現地検討会で見た羽黒山の老杉林で樹冠長が短くても大きくなっているものもあり,頭から低樹冠長木はダメと決めつけるのはどうかと思われた。

目標径級の設定

  目標径級60~80cmという話を聞いて,そんなことが可能なのかと思ったのが第一印象であった。しかし,一方では最近の目的をはっきりさせないで止むを得ず長伐期化という動きに対して,この目標径級を決めるというやり方は目的をはっきり決めるところからはじめるという点で,長伐期施業としては本来のあり方かもしれないとも思った。目標径級を大きくとることについては路網・作業システムともあわせて伐採回数・搬出回数縮減といった低コスト化が図れるという意味があるが,一方でそのような大径材を何に使うのかという疑問もある。これについてフォレスターは,現在は日本には大径材の市場がないかもしれないが,大径材が生産される頃にはそれに対応した市場はできる。森林の変化よりも人間の経済活動である市場の変化のほうが早いのは明らかで,心配する必要はないというものであった。
  課題は果たしてスギ,ヒノキの目標径級を60~80cmとするのは現実的に見て可能なのかどうかということであった。参考となる資料として現在調整中の新収穫表によると,100年生の林分の平均値で,スギ林は最大で樹高が35m,直径が40~50cm,ヒノキ林は最大で樹高が30m,直径が30~35cmと予測された。もう一つ,1991年の台風19号で倒れた広島県内の社叢林の大木の直径と樹齢を測定した事例(渡辺新一郎著「巨樹と樹齢」(1999)新風舎)からは,100年生でスギは直径が40~80cm,ヒノキは直径が30~60cmと予測された(図4)。個体管理をする将来の木施業では,後者のデータから,100年生時の最大値であるスギで直径80cm,ヒノキで直径60cmを目標とするのが妥当と考えた。ちなみに何年で目標径級に達するかを試算してみると,甲繋のヒノキ林では,地位が「中」であるため,直径60cmに達するのは林齢150年頃と推定され,松郷のスギ林は地位が「上」であるため,直径80cmに達するのは林齢120年頃と推定された。ただし,松郷の現地でフォレスターは樹齢45年,直径40cmのスギを指して,この木は年平均9mmづつ直径成長してきているが,将来の木施業を行ってやれば少なくとも同様な成長速度が維持できるであろうから,我々の試算である120年よりも早い90年で目標径級の80cmに達するのではないかとの意見であった。

スギ・ヒノキ台風倒木から求めた樹齢と胸高直径との関係
図4 社叢林のスギ・ヒノキ台風倒木から求めた樹齢と胸高直径との関係

更新

  更新についてはコストの面から可能であれば天然更新をすべきというのがフォレスターの提案であった。スギ,ヒノキ林では天然更新に必要な鉱質土層が露出した場所は少なく,下層の競合植生も多いため困難であることを伝えたが,将来の木の収穫時期が近づいた時にもう一度検討して天然更新が無理なら植栽とすることと,皆伐は避けて例えば30%くらいを群状に伐採して更新するといった方法などを考えてはどうかという助言があった。
  今回のフォレスター来日研修前は3月に提案のあった数値的な基準に対する検討に重点を置いて準備をしてきたが,研修では数値は目安で,それよりも現場を見て議論しようということがしばしば強調された。将来の木施業というのは,天然林でも個体の優劣がつき,放って置いても将来の木に相当する優勢木が競争を勝ち抜いて林冠を占めるようになるのを,人間が手を加えてそのスピードを早くしてやる作業といえる。また,より高い収益を得るために路網,作業システムとあわせての総合的な低コスト化の仕組みも考えられている。これらが日本にどれだけあっているのか,改善すべき点があるとしたらどこかといったことは,まず独墺方式に忠実にやってみて,さまざまなデータをとることによって明らかにされてゆくであろう。将来木施業では,11月中旬に事業対象地での選木が始まる。この中でも選木にどれだけの時間と労力がかかるのかといったデータの収集もあわせて行ってゆく予定である。

 

小特集:西日本の公社造林問題

  初期の分収造林地の契約期間が満了し始めた中で、今後、公社造林地をどう扱っていくかは、大きな課題である。しかし、林政分野では「造林公社」問題として議論されるものの、それ以外の分野、例えば造林・施業分野で、「公社造林地」問題として扱われることはほとんどない。したがって、公社造林問題の中身は、林学・林業関係者の間でも、意外に理解されていないのではないだろうか。

   今回、近畿弁護士連合会が夏季研修会でこの問題を取り上げ、詳細な資料を作成していらっしゃるのを拝見する機会を得た。そこで、その要約の寄稿をお願いしたところ、快諾をいただいたので、ここに掲載するしだいである。造林公社の歴史や会計制度、公社の破綻の原因などについて、分かりやすく解説されているので、今まで馴染みの無かった方には、良い入門編となるだろう。

   あわせて、かねてより造林公社問題の解析に取り組んでこられた、滋賀県立大学の高橋卓也氏にもご寄稿をお願いした。高橋氏には、公社経営破綻について、具体的な問題点を挙げながら論評していただいた。また、破綻に至る過程で、技術(者)や科学(者)がきちんと関与してこなかったという氏の指摘は、我々としても深刻に受け止めるべきものである。

   この二編に、公社造林問題と施業や森林管理との関わりについての私見を加え、小特集とした。公社造林問題は、社会的な借入金で造林を行うことの意義と重さを問うている。しかしこれは、公社という限られた世界のお話ではない。社会のお金で造林・保育してきたという意味で、日本の林業地、造林地の多くは、同じ問題を本質的にはらんでいる。身近な問題としてお読みいただきたい。  

  なお、東日本の公社造林は、奥地林開発に伴う不成績造林地問題も絡み、さらに厳しい局面を抱えているという。これについては、今後の報告を待ちたい。

(大住克博)

 

林業公社とその責任

弁護士 白倉典武 外 近畿弁護士会連合会夏期研実行委員

第1 林業公社とは

1 林業公社は、第1号が昭和34年に設立され、昭和40年代を中心に45公社が設立され、現在は全国36都道府県に合計40公社が存在する。
林業公社による造林は、昭和34年度に対馬において行われて以来、順次拡大し、昭和48年には年間2万ヘクタールに達した。その後、造林適地の減少、林業公社の財務状況の悪化等から、その造林面積は年々減少し、平成10年度にはピーク時の2割弱の3700ヘクタールとなっている。しかし、民有林における造林面積全体が縮小する中、なお民有林における造林面積の1割を占めている。また、造林面積の累計は、42万ヘクタール余りとなっている

2 分収林契約とは
林業公社は、分収林特別措置法に基づき、土地所有者との間で分収林契約を結んだ上で造林を進めてきた。分収林契約とは、造林者(公社)が造林地所有者から土地を借りて造林を行い、伐採時に利益を一定の割合で造林地所有者と分け合う契約の下に森林を造成する契約をいう。分収林契約においては、主伐期になるまでの期間(50~80年)を契約期間として設定し、造林地に樹木の所有を目的とした地上権を設定することによって、地上権者が造林を行う。地代を払って造林する借地造林もあり得るが、資本投下の期間が長いのに収益は伐期にならなければ得られないという特殊事情から、分収林契約を用いるのが圧倒的に多い。

3 林業公社のビジネスモデル
(1)林業公社が設定する分収林契約は、造林者が借地代を支払わない代わりに木材販売時に、木材販売額(A)から伐採搬出コスト(B)を差し引いた利益を、契約で定めた割合で造林地所有者に支払うというものである。

【造林地所有者利益=(A-B)×契約で定めた割合(%)】

  他方、造林者の収益(C)は、AからBを引いた額に契約で定めた割合を乗じたものであるが、造林者には、造林保育経費(D)が発生しているため、これを差し引いた金額が純利益(E)である。

【C=(A-B)×契約で定めた割合(%)】

【E= C-D】

  従って、木材販売額(A)によって、収益の有無が決定される。本来、契約時に50年先もの木材価格を予想することは難しいはずである。しかし、林業公社が設立された昭和40年代前半ころは、木材需要が高く、木材価販売額は上昇し続けることが予想されたため、楽観的な予測が立てられた。また、造林を拡大する政策の中で、多数の雇用も見込まれたため、公社は、収益獲得だけでなく、林業の振興と雇用の確保も同時に達成できる優れた事業方式であると認識されていた。

(2)しかしながら、実際には、国民の生活形態の変化による木材需要の低下、安価な外国木材の輸入などから、木材価格は急落してしまった。
一方で、造林保育経費(D)については、農林漁業金融公庫などからの借入金に依存しており、さらに当時の金利が高かったことなどから、現在に至ってこれが大きな負担となっている。
  こうして、現在では伐期において大きな損失が発生することが予想されている。

(3)このような損失が予測されるにもかかわらず、それが顕在化し社会問題とされなかったのは、会計基準が曖昧であったことも原因と考えられる。
  現在、林業公社に関する統一した会計基準は存在しない。現在の林業公社の損益計算書では、費用と収益の差額のマイナス分については「森林勘定繰入金」として収益で計上され、期間損益をゼロとするとともに、森林勘定繰入金は貸借対照表の「固定資産」へ累計され、森林事業に投下した費用を資産として計上する。このような林業公社では、実質的に森林勘定繰入金が上述の造林保育費(D)に該当し、かつ森林の時価として計上しているのである。その結果、貸借対照表上は損失が計上されない。
しかしながら、これまでに投下した費用が、当然にその森林の時価になるはずもないため、このような運用が不適切であることは明らかである。

(4)さらに、分収林契約は一代限りであり、収益が上がることを前提として、その収益をもって土地所有者が再造林してくれることを安易に想定していたものと思われる。そのため、皆伐後の計画は明確にされていなかった。
しかしながら、現状においては、皆伐後には裸地のまま所有者に返還され、損失が生じた所有者は、再造林のために土地を提供することなく、裸地のまま放置される危険が生じている。

4 公社造林と管理の状況
  林業公社問題は、公社が負担する巨額債務の処理という問題だけでなく、公社が行った造林がこれまで森林環境にどのような影響を与えたか、今後どのような影響を与えうるのかという問題も、重要な問題である。

(1)造林地条件

  公社による造林は、拡大造林政策の中で、資金や経営力等の関係で、補助や融資の措置を講じても森林所有者自らによる造林が進みがたい地域において、分収林方式によって造林を進めるために行われたものであった。そのため、公社による分収林は、一般的には立地条件の劣る奥地に存在し、不成績造林地が多数発生していると言われる。そして、奥地にあるが故に、間伐等の保育にも手間がかかる上、伐採後の搬出費用も高くなるため、将来の収益性にも大きな不安を抱えることとなる。

(2)公社の森林管理の実態

  公社造林の施業は、森林組合に委託されているが、近畿の各林業公社によれば、公社造林について施業は十分に行われているという。
  しかし、多額の債務を抱える中で、公社造林地の生育状況に関する十分な調査が行われておらず、公社造林がどのような生育状況になっているか、実はよくわからない。事業費の削減のために、将来必要な施業を行うことが困難になり、山が荒廃するという事態が予想されるところである。

第2 林業公社の現状

1 近畿の林業公社の状況

近畿の林業公社の状況はどうであろうか。

   例えば、分収割合に関し、公社の割合を6割(所有者4割)としていたところが多いものの、公社の割合を多くするよう見直しを進めている公社がある。契約期間についても、当初35年乃至50年とされていたものについて、各公社は見直しを進めており、長伐期化している(もちろん、契約の見直しである以上、契約の相手方である土地所有者の合意を取り付けなければならない)。

  そして、将来の収支予測については、今後の経済状況等により、不透明なものにならざるを得ない。

  これに対し、経営改善に向けた取り組みに関しては、各公社ともコストを削減し、利息等を減らすための努力を講じている。

  また、経営検討委員会を設置しているかどうかに関し、いずれも公社の存続を前提に検討している段階のようである。

2 全国の林業公社の現状

   全国の公社に目を向けても、設立時に予測していた収入を得ることは困難である。ほとんどの公社で長期借入金の残高がある。その合計は、1兆0392億円で、1ヘクタール当たりの借入金残高は267万円になる。(H20.3.31現在)

これに対し、幾つもの助成措置が採られている。

結局のところ、現在の林業公社は、助成措置等で成り立っているといえる。

このような状況で、公社の廃止を決めた自治体がある。

青森:県営林に移行、債務は県が継承
岩手:公社解散(H19.5)、県有林公社林一元化
大分:公社解散(H19.8)
長野:公社林の県営林への移行 *その後、撤回された(大住:注)
神奈川:公社解散、分収契約・債務等を県が引き継ぐ
鹿児島:公社林と県営林の一元化

   しかも、国は、経営対策に基づく取組を行っても、将来にわたり継続的な経営の見通しが立たない林業公社は廃止すべきとの考え方を示している。既に、一部の公社については廃止されているが、将来、相当数の公社が廃止される可能性もある。

3 今後の課題

もちろん、林業公社が解散した自治体であっても、当該自治体が、公社の分収造林や債務等の実体関係を引き継ぐため、公社の継続・廃止いずれの場合であっても、分収造林の管理と債務処理、経費削減の問題は残る。そこで、以下の課題を十分に意識して、造林の管理に取り組みことが肝要である。

(1)今後の分収造林の管理については、森林資源の造成、森林の公益的機能の確保を図るという公社の設立目的はほぼ達成されているため、その管理目的、方法を明確にし、効率的で意義のある管理を実現する必要がある。
また、今後、分収林が伐期に到達するにつれ、立木調査などの業務量が増大するため、造林管理の財務状況を考慮しつつ、同業務にあたる職員の増加等組織体制の見直しが必要になってくる。

(2)造林の管理維持の経費や債務処理のため、一定限度で公費の投入が必要となるため、林業公社の経営状況や都道府県が引き継いだ公社造林の管理状況については、詳細かつ明確に情報公開し、住民に対する説明責任を十分に果たさなければならない。

第3 蹉跌の原因と責任

1 既にみたように、全国の林業公社は、程度の差はあれ財政的に極めて厳しい状況にあり、最も債務額が大きかった滋賀県の林業公社は破綻した。

  戦後日本の林業政策は、要約すると、用材需要の増大見通しと農山村の振興・雇用の確保の要請を背景とする拡大造林政策である。そして、政策遂行機関として林業公社の設立が促進され、公社は山林所有者との間で分収林契約を結び、植林・育林コストは補助金と農林漁業金融公庫等からの融資金を活用しつつ負担し、天然林(広葉樹や針葉樹)を伐採して成長の早いスギ・ヒノキなどの針葉樹を植林した。

  この国の政策のいずれが間違っていたのか。①拡大造林政策そのものが間違っていたのか。②外材輸入自由化政策が間違っていたのか。③林業公社方式をとったことが間違っていたのか。④植林・育林コストを融資金に依存したことが間違っていたのか。⑤分収林契約方式が間違っていたのか。⑥拡大造林をスギ・ヒノキに集中させたことが間違っていたのか。⑦公社造林が主伐期を40年、50年と定めて一斉に伐採する方式をとったことが間違っていたのか。⑧立地条件が悪い奥山に造林を拡大させたことが間違っていたのか、である。

2 ①拡大造林政策自体が直ちに間違っていたか否かは微妙である。当時の用材需要見通しが増大傾向にあることは確かなことであったし、また、山林振興・雇用の確保という要請も必要性が認められたからである。
しかし、その他の点においては、すべての点で間違っていたといってよい。②外材輸入自由化政策をとったことで、価格競争に負けた内材価格は下落し伐採コストも賄えなくなったし、また、枝打ち・間伐による収入が減少したことから育林コストを益々融資金に依存することになった。③林業公社は、自治体の外郭団体として経営能力や経営感覚に欠けるきらいがあり、また、独自に政策を立案し遂行する権限がないため無責任体制になってしまった。④林業は、50年以上のスパンで成り立つ事業であるから、植林・育林コストを融資金で賄うこと自体、制度設計に無理がある。⑤分収林契約は、売却収入が植林・育林コストと伐採・搬出コストの合計を上回って初めて成り立つシステムであるが、外材輸入自由化による価格下落や立地条件の悪い奥山地での造林などから、前提が崩れてしまっている。⑥拡大造林がスギやヒノキに偏ってしまったことは、保水力の点で疑問がある。⑦分収林契約のもとでは、一斉伐採後の再植林の保証がない。⑧立地条件の問題は⑤で述べたとおりである。⑥以外は主として林業公社の経済的破綻の原因となっている。

3 このように、林業公社破綻の責任は、第1次的に国にあるといえる。但し、貸付先の財務内容等についてほとんどノーチェックで貸し込んだ農林漁業金融公庫の責任、また、出資者であり資金貸付者でありかつ監督者としての自治体の責任も免れない。公社自身の責任も問われるべきものではあるが、公社自体は政策を変更する権限を持っていなかったという点は留意されてよい。

 

経済面からみた公社造林問題

高橋 卓也(滋賀県立大学)

「せっかくの機会ですのでご意見がある方はどうぞ」

  滋賀県内での森林関係のイベントで,このような声がかかると,挙手する人から必ず出るのが,「造林公社はどうなっている?」「公社の借金はどうするつもりだ?」といった意見や疑問です。森林・林業に対する印象を悪くしている要素であるには違いありません。ですが,こうした見方に正面から立ち向かい誠実に答えていくことが,私たち森林・林業に何らかの形で携わるものに求められていることだと考えています。ここでは,私が関心をもつ経済的な側面からこの問題について述べたいと思います 。施業研究会のみなさまから,森林施業の観点からもご議論いただくことを望んでやみません。
(以下の情報は,造林公社問題検証委員会(2009)『造林公社問題検証委員会報告書』によっております。同報告書は,以下のサイトにアップされています。http://www.pref.shiga.jp/d/rimmu/zorin-kosha/kensho/houkoku.html

  滋賀県の造林公社(滋賀県には「滋賀県造林公社」と「琵琶湖造林公社」という2つの造林公社があります。これらを一緒にした呼び方です。)は,2008年度末で1,1071億円もの債務を抱えております。日本全国の他の公社も足しあわせると1兆円もの債務を持っております。むろん,それらの債務は人工造林を進めるうえで積み重なったものですから,対応する立木資産があります。ただ,その資産は債務をまかなうには不足するというのが大方の見方です。2007年に経営改善検討会議という場で出された推定では,253億円~403億円という伐採収益が推定されています。これを立木資産の価値と考えると債務の23~36%しかカバーできないということになります。

  延々と続く林業の不振を考えても,このように巨額の債務が出来上がったのはなぜだ,と問いただす方が多いのは当然でしょう。

  しかし,この債務は当然のものといえます。人工造林の内部利益率(利子を生む資産として造林事業をみるならば投資に対して何%の儲けをもたらすのか?)は1965年には6.3%であったのが,1995年には0%,2000年にはマイナス1.7%となりました。こうした時期に,農林金融公庫から年利3.5%の借入金を使って人工造林を進めていきました。しかも,滋賀県の公社の場合,分収造林として事業は進められました。すなわち,地元の住民または集落が提供する所有地で公社が造林を行い,主伐の際に伐出費用を差し引いた立木代収入の4割は土地所有者に渡し,残りの6割が公社の収入となる取り決めです。林業特有のリスクを考えると,収益には適正なリスクをまかなうためのプレミアム(上乗せ)が必要でしょう。そう考えると,1975年ころからすでに,利益率を超える金利で借金をして事業をするという,営利事業としては,非常識な形になっていたと考えられます。

  こういうと林業は営利事業ではない,という声も上がるかもしれませんが,お金を借りて儲けて返すという,営利事業の枠組みで進めてきたのですから,そういうわけには参りません。

  滋賀県ゆえの事情もあります。

  苗木も労働力も他県から移入しました。そのため高コスト体質になってしまったところがあります。琵琶湖総合開発という国家プロジェクトの一環となったことも,推進のための大義名分となり,冷静な見直しができなかった理由の一つでしょう。琵琶湖総合開発では,琵琶湖の水資源を下流で利用する見返りとして,滋賀県での公共事業が推し進められました。その一環として公社造林は実施されたのです。

  また,林業会計の問題もあります。立木資産(「森林勘定」と呼ぶ。)は造林・育林コストを積み上げた額で評価されます。売れるであろう価格とは無関係に,かかった費用で資産が評価されるということです。費用はすべて資産化され損失の可能性が表に出てこないのです。滋賀の造林公社の財務諸表は県議会に提出されてきましたが,その実態と乖離した姿しか県民の代表たる県議会に示してこなかった,ということです。

  実は,人工造林事業によってこれだけの債務超過ができあがってしまった,というのも公社という法人のかたちをとったため表面化したのだ,と見ることもできます。つまり,私有林として個人の林家さんたちがおこなってきた人工造林は,自己資本で,つまり自分のお金で,自分の労力でやってきた。それゆえに表面化してはいないが,経済計算をするならば,大赤字となっていることでしょう。そう考えるならば,公社問題は戦後人工造林に対する経済評価が制度的な枠組みによってくっきりと表に浮き出てしまった事例であるとみることもできます。

  滋賀の公社の歴史を後追いして残念に思うのが,「林学」が活用されてこなかったように思われる点です。本来,「水源林造成」として進められてきたこの事業の根拠は,明示的に示されているものとしては,管見の限りでは,1957年3月農林省林業試験場報告No.99「新しい型の山地浸透計による測定成績 第2報」のみです。

   それに対し,同じ水源林を管理するにも,北米の大都市の水源林は「科学」により立脚していると思えます。たとえば,カナダ・バンクーバーの水源林。この水源林は,この冬オリンピックの会場ともなった山地(市街地のすぐ北に位置する)にあります。管理方針を決定するために数億円の費用と数年の期間をかけて独自研究を行っています。アメリカ・ボストンの水源林はボストンの市街地から西方に約50~100km離れたところに位置します。この水源林の管理計画書は,数百ページに及ぶ膨大なもので,そのなかには数多くの科学文献に引用されています。もちろん,近年の環境意識の高まりによって,そうしないと市民が納得しなくなったということもあるでしょう。しかし,環境意識の高まりのはるか以前,「資源保全」が中心課題であった1940年代からすでに,計画の前提として「科学」があります。たとえば,カナダ・ビクトリアの水源林,アメリカ・シアトルの水源林の計画書も科学文献の引用がふんだんに見られます。さらにいえば,以上に述べたそれぞれの計画は,ブリティッシュ・コロンビア大学,ワシントン大学,マサチューセッツ大学アマースト校で後に管理を担当するフォレスターが修士論文としてまとめたものが,その原型となっております。

   森林施業研究会には,林業技術者としての誇りを持っておられる方が多くおられると推察します。そうした場でいささか挑戦的ですが,こうした問題を起こさないためには,「技術者」としての自己規定では狭すぎる,との感を覚えます。現実に,人工造林は経済プロジェクトなのです。その収支計算,資本構成(どれだけ自己資金で,どれだけ借金でまかなうか),煎じつめると経営者としての視点が必要とされるのは当然だと思えるのです。

  さて,今後,公社造林はどのように取り扱われるのでしょうか?滋賀県の公社の経営改善検討会議では,将来,公社造林地はつぎのように取り扱うものとされています。

  皆伐をして所有者に返還しても所有者が次代の人工林造林をすることは考えられません。また,水源涵養目的で造林されたのですから,皆伐は望ましくないと考えます。そこで,非皆伐を前提として,採算林と不採算林とに分けます。採算林は「1事業地を4回(10
年毎)に分けて列状に伐採し,天然下種更新により広葉樹林化を図」り,契約期間終了後土地所有者に返還することとしております。不採算林は,土地所有者に返地し,県の一般施策として「40%以上の強度間伐等を行い,針広混交林化を図」るものとされています。

  全体として広葉樹林化を進めるということですが,目標の妥当性,実現可能性ともに検証されるべきでしょう。この出来上がった人工林をどうしていくか,林学,森林科学に投げかけられた問いは大きいと言わざるをえません。

  先日,公社の方々とご一緒に分収育林地の収穫跡約5ha(スギ,ヒノキ)を見てきました。分収育林とは,「緑のオーナー」として一般の人々に育林の資金を提供してもらい,収穫時に土地所有者と収入を分けあう制度です。公社造林地のなかではごく一部です。当該林地では契約期間が終了間近となり,「材積分収」というやり方で収入の分配をしております。すなわち,材積の6割を収穫し,立木の4割を残しておく。その4割をもって,土地所有者への分配とする。こうした分配方法です。育林費用を負担された方に全額は返せなかったようです。しかし,「緑のオーナー」としても利殖目的でお金を出したわけではないので,皆伐跡地が残るのは避けたいとの思いがあるとのことです。

  強度の間伐をして,後に作業道が残った,との印象を受けました。なるべく均等に伐採木が分布するような選木を伐採業者に指示したとのことでした。土地所有者も喜んでいるとのこと。同行された森林利用学の先生の見立てでは,作業道もできたこともあって(路網密度約240m/ha),長伐期施業への理想的な出発点に持ってくることができたのではないか,とのことでした。すべての場所でこのようにはいかないにせよ,次代へとつなぐ資産(経済面でも,環境面でも)を残す可能性を見ることができました。

最後に私の主張を要約しますと,以下の通りです。
I. 森林・林業技術者は経営感覚を持つべきである。経済行為である以上,それを忘れるわけにはいかない。
II. 林学は人工造林の着地点を科学的に指し示すべきである。実務家は科学をもっと用いるべきである。

 
 分収育林地の収穫跡

 


造林公社問題が施業に投げかける問題

大住 克博(森林総合研究所関西支所)

大きく転換する公社の施業方針

  先の二編に加えて、施業の立場から若干コメントしておきたい。公社造林問題と施業は無縁では無い。というのは、公社造林の処理策の一つとして、しばしば施業の転換が打ち出されているからである。

西日本の例を、インターネットから少し拾ってみよう。

A県公社:新植事業の中止、育林体系の見直し(枝打ち、切捨間伐の縮減、下刈りの省力化)による造林事業コストの削減。
B県公社:公益的機能の発揮に重点を置いた非皆伐施業(択伐-天然更新)による経営へ。
C県公社:高率択伐による天然更新の促進。
D県公社:択伐を繰り返し広葉樹林に転換する環境林の実施。
E県公社:択伐(抜き切り)による「環境保全を重視した森林の整備」に変更し、健全で手のかからない針広混交林に誘導。
F公社 :林齢50年頃から間伐効果により、天然下種更新による広葉樹の育成(侵入)を促し、木材生産と公益的機能の維持の調和のとれた針広混交林として長期間維持。
G県公社:水源かん養機能等を維持・回復させるため、天然下種更新等による広葉樹林化を図り、再造林を必要としない森林づくりを。
H県公社:「皆伐」から長伐期施業に転換し、強度間伐等により広葉樹の侵入を促し、針・広混交林化に誘導する「非皆伐」施業を推進する。
I県公社:35年生以降に2回の列状間伐などを実施し、間伐して開いた空間に他の樹木の侵入を図る長伐期非皆伐施業を実施し、皆伐による裸地化を未然に防ぎ、同時に森林の持つ公益的機能の増進を図る。

  いずれも、従来の皆伐スギ・ヒノキの一斉造林を基本としてきた造林から、大きく転換した施業体系が採用されている。これらの新しい体系を支えるためには、大変な技術革新が必要だったことであろうが・・・。

以下、とりあえず、気がついた点を二つ指摘しておきたい。

広葉樹の導入について

  多くの造林公社は、今後の造林方針として、択伐や間伐を利用した広葉樹の導入、あるいは広葉樹林化を打ち出している。しかし、人工林を混交林や広葉樹林に誘導するという施業は、これまでほとんど行われたことがなく、また、抜き伐りさえすれば広葉樹が生えてくるだろうという楽観的なものではなく、様々な条件・要因を検討しなければならないことが、ここ数年の実証的な研究から指摘されている(田中 2010)。つまり、広葉樹林化は針葉樹人工林造成よりも技術的確実性の低いものであり、ゆえに、限定された条件を持った限られた場所で、十分な技術をもってして可能となる。だからこそ、適地の予測、更新結果の判定、更新が不良な場合の救済作業など、高度できめ細かな技術が必要であると考えられているのだ(田内 2010)。これらの見解は、森林林業基本計画に沿って、全国レベルで広葉樹林化・混交林化が進められるにあたり、そのガイドラインを考えるべく行われてきた多くの研究から、提出されたものである。ところが、上に挙げた各県の公社の方針は、それらよりもかなりラフな形で、「先進的に」/「過激に」設定されているようだ。

   ごく基本的な問いをしてみよう。スギやヒノキの人工林に代わる広葉樹とは、どんな樹種だろう? 西日本であればコナラだろうか? しかし、どこにでもあるように見えるコナラ林も、実は長年の人の管理の結果として成立していると考えるべきであることが、分かってきている。ただ、人工林を抜き切りしただけで生えるものではないのだ。コナラが期待できないとすれば、他にどんな高木性で安定した広葉樹(林)が考えられるのか。そういう情報を踏まえた上で、広葉樹への転換は検討されたのだろうか?

  さらに、この広葉樹林化・混交林化には、上記の各県の例のように環境、公益的機能という名分が掲げられている。広葉樹林化が公益的機能の増大に結びつくかどうかは、前の記事で高橋氏が指摘しているように、簡単に結論付けられるものではない。少なくとも、どんな樹種のどんな林型なのか、流域スケールではどのような森林配置を目指すのかも例示せずに、公益的機能の増大を謳う議論は、粗雑に過ぎるのではないか。

  高橋氏は、生態学的、造林学的知識や技術が、公社造林における広葉樹林化、混交林化にどれだけ反映されているのか・・・ということを、それを担保する技術者の姿勢を含めて問うている。技術的、学術的な裏づけの無いまま、抜き伐りをすれば何か広葉樹が生えるであろう、広葉樹が生えれば環境上も良いと片付けるのであれば、それはもはや技術倫理的の問題である。そこで出てくるのが、次の点である。

転換した目的を履行するには?

   そもそも、公社造林は何を目指していたのだろう?

1. 用材生産林業未発展地域の林業の立ち上げのきっかけを作る

まずはこれだろう。これだけであれば簡単であった。しかし、しばしば

2. 水源や環境の整備

を目的に含めた。そして、最近の造林公社経営破綻に伴う見直しでは、これまで繰り返し述べたように、公益的機能林の整備という方向が、クローズアップされつつある。
  「林業公社の経営対策等に関する検討会報告書」(林業公社の経営対策等に関する検討会 2009)より引いてみよう。

  「・・・公社造林に関しては、一団の森林としてのまとまりがあるので、水源の涵養、地球温暖化防止、生物多様性の保全等に配慮した多様な森林作りの実践の場として、また、地域における木材安定供給の核として生かしていく手法等について積極的に検討、実施する。

 2.が加わったことにより、公社造林の領収書は大きく変ったはずである。その意味を少し考えてみたい。

   まず1.では持続的な林業立ち上げることが目的であった。この場合は、伐期に達したのであれば、伐採して得た収入により借入金を返済することだけでなく、地域が林業の経済的意味を実感し、再び造林を行い持続的な林業を立ち上げる意欲を持つ程度の利益還元を、確実に行うことが重要だろう。このことは京都大学の川村誠氏が、かねてより指摘していることである。でなければ地域は林業に深い失望をいだくことになり、林業公社の歴史的役割は、結局林業の目を摘むことであったということになってしまう。

   これだけでも重い責任である。しかし、2.を組み入れたことで、また新たな責任が加わってしまった。水源や環境など、公益林の整備が目的であれば、そもそも契約期間が過ぎれば伐採するということを、公益的機能の発揮という名分の中でどう位置づけるのかが、整理されていなければならなかったはずだ。つまり、「機能がようやく整備された」森林を伐採してしまう理屈である。

水源や環境をうたった公社造林には、

が必要だったのである。それらは、果たして整備されていた(いる)のだろうか?

  さらには、公益的機能のための森林整備の成果を、個別の土地所有者へどのように還元するかという問題もある。社会的な借入金は、公益的機能として社会に還元されるということで整理できるにしても、個別の所有者への還元は、金銭的なものとして考えていかざるを得ないだろう。

コンプライアンスあるいは社会的責任

  このように、広葉樹林に転換して公益的機能に資するという解決案は、それを正面から捉えるのであれば、さらに難度の高い問題を抱え込むということであることに気づく。一時的には、公益的機能への期待だけでしのげるかも知れないが。

  さて、公社造林問題の核心は、社会も含む出資者に対するフルセット・コンプライアンス(法律だけではなく社会的モラルも含めた尊守)の問題であり、そこでは、公社造林の社会的責任が問われる。間違えば、林業技術(者)への社会の信用、信頼が揺るぎかねない。これは、長期という特性の元に、あるいは公益的機能という名のもとに、そのあたりをあまり誠実につめてこなかった、現在の森林管理の問題の構図にも通じる。

  解決は容易では無い。まずは問題の難しさも含めて、できることとできないことをきちんと社会に説明するという誠実さをもって、話を積み上げていくべきだろう。公社造林は今、技術的裏づけの不確かなまま、一般の森林よりさらに大胆で過激な、かつ信頼性の低い施業方針を掲げて問題に対処しようとしているように見える。しかし繰り返しになるが、失敗は、林業技術(者)に対する社会の大きな不信を生みかねない。

(引用文献)

田中 浩(2010) その人工林は広葉樹林化できるのか? ~概説~.森林技術 817:16-18. 
田内 裕之(2010) 「広葉樹林化プロジェクト」の紹介 ~背景・課題・方向性・中間成果等の概要~.森林技術 815:19-24.
林業公社の経営対策等に関する検討会(2009) 林業公社の経営対策等に関する検討会報告書,総務省自治財政局,36pp.


<編集後記>

  東北で長いこと仕事をしていたが、今回の現地検討会は初めて行くところばかり。3日間の日程でこれだけ盛りだくさんのメニューを用意してくれたことに本当に感謝である。
  などと検討会を思い起こしながら編集をしているうちに、もう来年の森林学会の準備に入ることになった。最近は本当に1年たつのが早い。今年度の森林に関する話題といえば、クマの出現の激増、ナラ枯れ、来年のスギ花粉激増の予想など、今ひとつ明るい話題に欠けるようだ。そんな中、「日本の丸太の海外からの注文が増加している」というニュースは一筋の光明に見えた。来年は森林だけでなく、林業にも注目が向けられるような年になってもらいたいものである。

 

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