木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.51 2011.3.11(2011.04.05改定)
Newsletter of the Forest Management and Research Network


森林施業研究会 第16回シンポジウム中止のお知らせ

寄稿
中国・雲南省の亜熱帯常緑広葉樹林を訪ねて
富山県中央植物園 長谷川 幹夫
日本の森林施業に関する研究の視察報告
台湾林業試験所 陳 財輝
 

第16回森林施業研究会シンポジウム「林業の歴史に学ぶ ~未来のために過去を活かす~」中止のお知らせ

 3月28日(月)9:00~15:30に静岡大学で、森林学会大会にあわせて開催を予定しておりました標記のシンポジウムにつきまして、東日本の大震災および福島の原発事故による深刻な状況をかんがみ、中止することにいたします。
講演をお願いしておりました皆様、開催の準備にあたっていただいていた皆様には、これまでのご協力に深く感謝申し上げます。

 現在、これからの我々の社会のあり方やものごとの考え方に大きな影響を与えることになるであろう、大変深刻なできごとが起きています。異なる分野ながら技術に関わる者として、我々も事態を見つめ、技術のあり方について深く考えてみることが必要ではないかと感じます。

北関東や東北の皆様の中には、厳しい状況の中で、必死の努力をされていらっしゃる方も多いと思われます。皆様、くれぐれも安全と健康にお気をつけくださいますよう。    

          森林施業研究会代表 大住 克博

中国・雲南省の亜熱帯常緑広葉樹林を訪ねて

富山県中央植物園 長谷川 幹夫

 昨年(2010年)私は,トウツバキの調査のため中国雲南省を訪れる機会がありました。9月1日から14日まで,雲南省の首都・昆明にある中国科学院昆明植物研究所を基点に,その西側にある楚雄市・大理市周辺の二次林や原生林で調査を行いました。その時の現地調査の概要と旅の印象を紹介します。

トウツバキの調査
 中国西南部の雲南省と四川省に生育するトウツバキは重要な園芸植物であり,古くから野生集団の変異個体や近縁種との自然交雑から選抜育種され,現在では120以上の園芸品種が知られています。ちょうど我が国の桜や菊のように雲南省中部の少数民族の人々の暮らしや文化に深く根付いています。
 富山県中央植物園では中国科学院昆明植物研究所と友好提携を締結し,トウツバキ(雲南山茶花Camellia reticulate Lindl. Theaceae 写真1)の保全と園芸的活用を目的として,古樹のデータベース作成や自生地の植生・個体群構造の解明等をテーマに10年以上にわたり共同研究を行ってきています(志内ほか2010)。おかげさまで本園での雲南省の植物コレクションと展示は、我が国随一の規模だと自負しています。


写真1 富山県中央植物園で咲くトウツバキ-楚雄茶-(2月28日)


 トウツバキに関する園芸学的な研究は進んでいますが,生態学や保全に関する情報は乏しいといわざるを得ません。自生地の植生に関しては山下ほか(2009),兼本ほか(2010)などの報告があります。個体群の維持にはトウツバキ稚幼樹の生育特性と林床の光環境が重要な要因となると考えられますが、個体群や生態についての情報としては、中田ほか(2008)による構造と空間分布に関する報告があるのみです。私たちは、自生地林内での生存条件が、個体群の保全にとって重要な因子のひとつと考え,今回の調査に至りました。

  調査結果の概要を,3月に印刷予定の富山県中央植物園研究報告16号(長谷川ほか2011)の要旨を引用して以下に紹介します。詳しくは本文をご覧ください。

  「中国雲南省楚雄市の常緑広葉樹二次林内に生育するトウツバキ稚幼樹の生育状態と光環境を調査した。樹幹長・当年枝長(ΔH)を測定し,全天写真を樹冠上で撮影し相対散乱光(DIF)を算出した。稚幼樹の本数密度は318本/haと低いが,定着した個体の樹幹長は93.5±56.2cm(平均値±標準偏差)に達し,ΔHは8.1±5.1㎝であった。DIF10%未満でも最大15㎝の当年伸長を有する個体があった。林内のDIFは9.2±3.6%であり,林床のほとんどの場所でトウツバキが定着できるDIF5%以上を呈していた。トウツバキは耐陰性が高く,林床の光条件も比較的よいため,この林内で定着できると考えられた。」

  なおこの調査では,本記事からは割愛しますが,他に2010年の異常乾燥(6ヶ月降水無し)時での苗の管理や,トウツバキの着果に関する調査を行いました。研究では中華人民共和国雲南省人民政府のご協力や,岡山大学基軸の日本学術振興会アジア研究教育拠点事業「東アジアにおける有用植物遺伝資源研究拠点の構築」の支援を受けました。関係各位に感謝いたします。

楚雄周辺の二次林

  雲南省中部・楚雄市近郊の紫渓山は標高約2,500mでなだらかに広がる高原状を呈し,山頂部に紫頂寺という古刹があり,周辺は広く二次林に覆われています(写真2)。尾根にはウンナンマツPinus yunnanensis 斜面にはシイ属のCastanopsis orthacartha(中国名:毛果栲,以下シイという,写真3),マテバシイ属のLithocarpus dealbatus,谷筋にはハンノキ属のAlnus nepalensisなどが優占します(兼本ほか2010)。トウツバキは,シイやマテバシイ属の優占する常緑広葉樹二次林の林内や林縁に自生します。


写真2 楚雄市紫渓山の二次林の遠景


写真3 シイの着果枝(宝台山)

  調査した林分は,標高2,460mの山腹斜面上部の南西向き緩斜面(傾斜度約20°)に位置する常緑広葉樹林です(写真4)。上層木の平均直径は14㎝で幹密度は4,172本/ha,胸高断面積合計は60.88m2/haと高蓄積でした。上層木はシイが幹密度,蓄積ともに90%を占めており,最大個体(シイ)のDBHは25.3㎝,樹高は15.5mですが,上層木のDBHは5.1~15㎝のやや細い径級に集中していました。この林分は,伐採等の大規模撹乱の後一斉に更新した壮齢の二次林だと思われます。


写真4 紫渓山シイ二次林の林内

  区内には,DBH5㎝以上のトウツバキは,DBH5.5㎝・樹高6.5m及び5.9㎝・8.1mの2本が生育するのみでした。これらは林冠には達していませんが,生育状態は良好でした。ただし着果は認められませんでした。林床植生は木本稚幼樹が疎に生育する程度であり,特に草本はほとんど認められません。これは乾燥の影響かと思われます(年降水量は約1,000㎜/年)。

大理の原生林

  雲南省北西部の大理市宝台山は,大理市中心部からさらに悪路を2時間以上走らなければならない山奥です。そのぶん豊かな自然が残されており,宝台山国家森林公園として保護区に指定されています。尾根はシイやマツ類の二次林ですが,美しい渓流沿いには胸高直径1.3m,高さ30mを超えるシイの優占する原生林が生育します(写真5,6)。そのなかには直径47㎝,高さ20数mという世界最大級のトウツバキも生育します(写真7)。ここも林床植生は貧弱ですが,薬草としてツチトリモチが生育するらしく,林務署のゲストハウスには大きなものが干してありました。森に囲まれたゲストハウスの外でのんびりと食事をしていると,すごく快適で,まるで時間が止まっているように感じました(写真8)。


写真5 大理市宝台山原生林


写真6 宝台山のシイ大木


写真7 宝台山のトウツバキ巨木


写真8 宝台山ゲストハウスにて

秋の高原

  昆明・楚雄・大理はいずれも亜熱帯の台湾とほぼ同じ緯度に位置しますが,標高2000m付近にあるため,夏でも20℃くらいと快適です。猛暑の富山からいった身にとってはなおさらでした。私は初めての訪問ですが,同行した3度目のKさんによると冬季でもそれほど気温は変わらないようです。まさに常春の国です(年平均気温約14℃)。9月は雨季のため数度雨に降られましたが,乾季である冬から春にはひと月以上にわたって雲を見ることがないほど晴天が続くそうです。標高が高いので急坂を登ったり,走ったりすると心なしか体がきつかったような気がします。

  9月といえば秋。森にはどんぐりが実り(写真9),キノコが生え(写真10),草地に出るとカラマツソウ(写真11)やツリフネソウの仲間(写真12)が咲いて,確かに森は秋の気配(あくまで日本の感覚です)なのですが,イチゲ(写真13)・キジムシロ・クサフジのような日本では春の花が咲いていたり,クスノキの赤い新芽が出ていたりして,秋というより春の活気が感じられるのです。常春の国のしかも雨期。植物にとっては最も良い季節なのかもしれません。


写真9 Quercusの着果枝(昆明植物園)


写真10 採集された様々なキノコ(楚雄市近郊)


写真11 カラマツソウの仲間?(楚雄市近郊)


写真12 ツリフネソウの仲間?(宝台山)


写真13 イチゲ(Anemone)の仲間?(楚雄市近郊)

  各地できのこ料理の専門店があり(写真14),ご相伴にあずかりました。マツタケも毎回出てきましたが,生のまま醤油ベースのたれに浸かっていたり,炒めたりしてあり,香りを楽しむような食べ方はあまり見かけませんでした。きのこに限らず,昆明や楚雄付近の料理は一様に塩味の炒めものかスープであり,やや単調です。香辛料はそれほどきつくありません(写真15)。


写真14 楚雄市のきのこ料理専門店


写真15 雲南の郷土料理

  我が国では虫が多く,調査に行けば蚊やアブに悩まされます。雨期ですから,虫も心配しましたが,ほとんど気にならない状態でした。照葉樹林では嫌なヒルやツバキの代表的な害虫・チャドクガも雲南には全くいません。昆明付近の照葉樹林では,吸血性の虫や毒虫のみならず蝶やハチもほとんど見かけませんでした。こんな状態で花の受粉がうまくいくのか心配なほどです。ここで虫が少ないのも,やはり乾燥のためだといわれています。トウツバキが鳥に受粉をゆだねるように進化したのは,たいへん合理的であると感じました。

  現地の方々の親切なご案内やご協力のおかげで楽しく充実した雲南調査旅行を終えることができました。

(参考文献)
長谷川幹夫・兼本正・王仲朗・管開雲. 2011.  中国雲南省中央部の常緑広葉樹二次林におけるトウツバキ稚幼樹の生育状態と光環境.  富山県中央植物園研究報告16:印刷中
兼本正・志内利明・王仲朗・李景秀・馮實釣・管開雲. 2010.  中国雲南省楚雄州黒牛山におけるトウツバキ自生地周辺の植生概観.  富山県中央植物園研究報告15:63-69
中田政司・王仲朗・魯元学・王霜・管開雲. 2008. 中国雲南省楚雄市の常緑広葉樹二次林におけるトウツバキ個体群の観察. 富山県中央植物園研究報告13:35-40
志内利明・兼本正・山下寿之・神戸敏成・中田政司・内村悦三・王仲朗・魯元学・馮宝釣・李景秀・王霜・管開雲. 中国雲南省のトウツバキの保全に関する共同研究. 日本植物園協会誌44:189-196
山下寿之・志内利明・王仲朗・王霜・魯元学・管開雲. 2009. 中国雲南省のトウツバキCamellia reticulate自生地における植生概観.  富山県中央植物園研究報告14:21-27

 

日本の森林施業に関する研究の視察報告

陳 財輝(台湾林業試験所・育林組)

 2010年10月17~24日の8日間、台湾林業試験所の所長および同行研究員6名が森林総合研究所の二酸化炭素削減対策の開発研究を視察した際に、日本の人工林施業および天然林更新施業の現地視察の機会を得た。台湾の研究者から見た日本の施業研究について簡単な感想を述べてみたい。

 今回の視察目的は、多岐にわたるものであり、また現地視察の時間的制約から、視察内容については森林総合研究所の鈴木和次郎氏に相談し、人工林施業法(単純林、混合林、列状、塊状及び複層林)、人工林集約経営(間伐及び枝打ち)および天然林経営(択伐及び林相整理)に絞った。現地視察箇所は国有林の大沢試験地及び筑波山複層林試験地(森林総研及び関東森林管理局東京分局森林技術センターの共同試験)、佐白山高齢ヒノキ人工林のモニタリング、富士山南斜面標高1200mのブナ林植生、富士宮市有林大根野および内野の列状間伐試験地、木曾地域の赤沢ヒノキ施業試験地などである。現地視察にあたっては渡邊定元先生を始め、森林総研の鈴木和次郎氏、金指あやこ氏、菊池 賢氏、大住克博氏、茨城森林管理署の池田 伸氏、富士宮市の上原己智也氏、中部森林管理局の渡邊 修氏、川瀬正輝氏、長井隆雄氏、今井正之氏及び池田木材の池田聡壽氏などに大変お世話になった。ここに記してお礼を申し上げる。

一、小集水域でのモデル林分造成(水辺林再生の取り組み)

 日本の山地では多数の中小河川、渓流が多く存在するが、治山砂防事業のダムおよび護岸の建設に従って、自然の水辺林が減少してしまった。水辺林の生態的役割と再生技術を立てる為に、日本の森林総研及び関東森林管理局森林技術センターは大沢試験地で共同研究を行っていた。大沢試験地は50年生のスギ、ヒノキ人工林21 haで、大沢集水域316 haの一部である。その中、渓畔林保残区、針葉樹育成区、針広二段林区、広葉樹育成区、現広葉樹区など5の管理区分に実施することにした。管理区分ごとに異なる施業を行なってモザイク林相を生み出し、人工林の弊害を回避できる多様性を持った林分を造ることを目的としている。

  従来の森林は木材生産が主要目的となっていたが、今では公益機能を発揮させるために、水源涵養機能が重視されていた。その中に感心しているのは、伝統の木材生産に加え、谷底での渓畔林保残区の再生、野生生物の生息場所の提供である。木材生産の場所には山地の微地形の区分により、異なる施業を実施していた。

(1) 針葉樹育成区:土地生産性の高い立地を選んで、作業道を整備し、集約的な施業で良質材生産を目指す。

(2) 針広二段林区:山地斜面上部では植栽木の成長が谷側より劣るので、粗放管理しながら、伐期を引き延ばし、間伐を通じて針広二段林に誘導する。

(3) 広葉樹育成区、広葉樹区:尾根部及び急傾斜地、裸岩地などの植林困難地では人工造林作業を回避し、当地潜在広葉樹林に誘導し維持させている。

 そのほかに、渓畔林保残区のギャップでは人工的に広葉樹を補完植栽し、間伐により徐々に広葉樹を導入し、最終的には広葉樹からなる渓畔林へと誘導し、野生生物の生息回廊を提供することを目指す。

 大沢試験地の針葉樹人工林のモデル施業試験は、森林の木材生産及び多面的機能を発揮できる林分を作ることが計画的に出来ることを示唆している。この人工林の生態学的理解のもとで、森林集水区流域での針広混合林の再生技術には一般の人に説得力が高いと思われ、今後とも森林施業研究会の皆様の協力によって、台湾でも類似のモデル試験地を造ることが出来るようにと願っている。


写真1)大沢試験林の針葉樹育成区

二、筑波山の複層林試験地

  針葉樹育成区のモデル林分造成試験については、森林技術センターが筑波山の中腹において、点状、列状、帯状、群状保残型など複層林試験地を設定している。上層木のヒノキは100年生を超えて、下層木のヒノキは1981年以後の植栽木であった。いろいろな改善策を考え出したが、現地では下層木が光不足や、それを改善する上層木の伐採、搬出に伴う下層木の損傷などの問題があり、ヒノキ複層林を造ることが非常に難しいと思った。

 そうした中で、160年主伐の長期モザイク林育成循環施業の取り組みに驚かされた。10 ha足らない試験地では、現在の上層木の区画数は17箇で、2002年(ヒノキ100年生)から施業を始め、2062年までの60年間に20年ごとに4回の分散伐採とその後の跡地更新を計画している。将来的には幼齢、若齢、高齢の林分から構成されるモザイク状の8段林を造成、永遠的に継続するシステムの開発を目指していた。

 高齢及び高価値の人工美材の持続的収穫を図るために、高密度の林道網あるいは作業道網を作ることが必要である。このモザイク状複層林試験は人工単純林および皆伐の弊害を回避し、160年期間の主伐を期して、高齢級林分を常時持つもので、こうしたヒノキ人工林を後世代に渡って観察できることに大変感心した。


写真2)各様式の複層林モデルを解説(筑波山複層林試験地)


写真3)長期育成循環林施業(モザイク林造成)


写真4)モザイク状のヒノキ多段林を造成した
(20年ごとの分散伐採で、主伐期は160年である)

三、高齢級人工林のモニタリング調査

  日本のヒノキ及びスギ人工林は古くから造成されてきた。茨城県笠間市の佐白山の高齢ヒノキ人工林は180年生で、林冠の中、下層には広葉樹の介在が目立っている。複雑な林冠階級構造になっていたため、まるでヒノキ天然林の様相であった。

 この100年超えたヒノキ人工林の維持及びモニタリング調査は、長伐期施業のモデル林分を提供し、森林の公益機能を期待できる森林であるとともに、高齢級ヒノキ人工林の発達過程の解明にも寄与している。

 それに対し、台湾ヒノキの造林の歴史が浅い。台湾北東部の急峻な地形には、人為的影響の少ないヒノキ原生林がかなり残している。そのヒノキ天然林は、生態学機能を調べるのに適した森林と認められ、台湾及び日本でのヒノキ林、天然林と人工林に関する比較研究は、大変有意義だと思われた。


写真5)佐白山高齢ヒノキ人工林および下層植生

四、富士山麓の水源環境林造成

  富士山スカイラインに沿って、富士山五合目までの植生変化は日本森林帯の一部の垂直分布を見ることが出来る。標高1,600mまでは、主にシイ(0~500 m)、クリ(500~900 m)、ブナ(900~1,600 m)などの常緑、夏緑の広葉樹林が分布し、標高がそれ以上になるととモミの常緑針葉樹林(1,600~1,800 m)へと移り変わる。

 冷温帯のブナ林相植生は気候帯の大レベルの温度および地域の小レベルの地質、地形、土壌に支配されている。富士山スカイライン標高1,200m付近のブナ林はスコリアの上に純林を形成している。ブナ稚樹が土壌の露出した林道側に見られたが、林内の古い林道には出ていなかった。また、ササの茂る林床ではブナも更新できない。渡邊定元先生からは、30~40年間にわたる豊富な理論基礎及び綿密な実践手法通じた富士山自然の森づくりのことにお教えを頂いて、本当に有難かった。

 富士宮市大根野市有林は標高890~980 mに位置し、面積48.12 ha、樹種はヒノキ、スギ、モミ、ケヤキで、林齢は13、43、45、50、52、62、78年生などであった。この林分は水源涵養の水土保全林に属しているが、長伐期施業のために経済性を兼ねた森林経営を目的とし、列状間伐を導入した。

 列状間伐の列は機械的に決めるため、伐採の選木は容易になる。列状間伐の実施は風害のない、やや平坦な場所に限定し、スギとヒノキとの混合林及び優良材生産には不向きである。防災水源涵養林の路網を前提とし、列状間伐による持続的森林施業が出来る。林道路体構造は片勾配、緩やかな縦断勾配、浸透桝設置、L型側溝、排水管設置など、いろいろな工夫によって、森林内の降雨に土木工事の少ない自然的な対応法を取っている。

 長伐期複層林経営の実現には、富士宮市内野の中層間伐の理論と実践から、優良大径木林を誘導している。2回目の中層間伐以降、将来木の候補木を選び、その後100年生でヘクタールあたり200本、150年生でヘクタールあたり100本の将来木を育成していることは興味深い。

 台湾の森林施業法は、よく日本の実施例を真似していると言われる。最近、台湾ではスギ人工林の間伐に際し、高性能林業機械の導入が考えられている。しかし、台湾の地形は日本より急峻で、国有林のスギ人工林の材質が悪く、また、林道建設に伴う森林破壊がおびただしいことなどから、日本の大阪市にある林業会社は台湾での列状間伐モデル試験地を造ることに、戸惑っているようである。


写真6)林道側の排水の勾配設計


写真7)ヒノキ人工林の枝打ち及び列状間伐


写真8)ヒノキ人工林における将来木の決め方を解説する渡邊先生

五、木曽地域のヒノキ天然下種更新試験

 木曽のヒノキ材の素晴らしさは、池田木材の現品を視察することで実感できた。木曽ヒノキは厳しい環境条件下に成長し、三百年を超える時間で緩やかに育っていた。

 赤沢自然休養林は、風致探勝ゾーン、森林スポーツゾーン、自然観察教育ゾーン、風景ゾーンなどからなっている。風致探勝ゾーンは川沿いに位置し、観光用森林鉄道が復活運転されている。赤沢遊歩道両側のヒノキ林は人工林が多く、天然林は奥山に残されている。そして、ヒノキの根上がり、合体木、根株及び岩石の上で稚樹が下種更新する現象は、台湾北東部棲蘭山および中南部阿里山のヒノキ林にそっくりである。

 赤沢ヒノキ林は下層にヒノキ更新木が少なく、将来アスナロ優占の林に推移することを防ぐため、ヒノキ林に択伐更新施業試験地を設定、1984年から保残母樹を残して択伐処理を行っている。また、2008年秋には24年後のヒノキ稚樹の更新状態を調べている。ヒノキの下層成木及び稚樹は、ともに個体サイズが年齢的に連続変化している。また、群状択伐および下層木(アスナロ)の処理は、天然下種更新の妨げになると思われる。現階段では良好な更新状況とは言えない。今後とも台日間のヒノキ林天然更新に関する情報交換及び技術協力できるように期待している。


写真9)赤沢ヒノキ天然林の後継樹養成

 

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