木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.53 2012.2.8
Newsletter of the Forest Management and Research Network


目次

森林施業研究会 第16回シンポジウムのお知らせ

2011年 森林施業研究会現地検討会(奈良県・吉野)の報告

現地検討会の感想

寄稿

編集後記

 

第16回森林施業シンポジウム「林業の歴史に学ぶ ~未来のために過去を活かす~」を宇都宮大学で開催します

 現在の森林を理解し、これからの森林管理を考える上で、近い過去の歴史を知ることは必須です。本シンポジウムでは、林業史の回顧や総括から、歴史を取り込んだ研究方法まで、さまざまな話題を通して、林業(森林管理)の歴史を踏まえることの意義を、理解していただければと考えています。

第16回森林施業研究会シンポジウム

テーマ:林業の歴史に学ぶ ~未来のために過去を活かす~
日 時:3月29日(木曜日) 9時00分~15時30分
会 場:宇都宮大学(栃木県宇都宮市)教室は未定 決まり次第案内いたします。
参加費:森林学会大会(会費必要)の一環として開催されますが、このシンポジウムだけの参加の場合は無料です。また、申し込み不要でどなたでもご参加いただけます。

演題(予定・順不同) *今後、若干の変更の可能性がございます。

* 森林施業研究会会員以外の方でもご参加いただけます。

前夜祭も行います!

日時:2012年3月28日 午後6時30分~

会場:居酒屋『海』 (http://www.izakaya-kai.jp/) 宇都宮駅の西側で、歩いて5分ほど

会費: 5000円 を予定

* 参加を希望される方は3月16日までtakaota@ffpri.affrc.go.jp (森林総合研究所 太田 敬之)まで、ご連絡ください(なるべくお早めにお願いします)。

 

2011年 森林施業研究会現地検討会(奈良県・吉野)の報告

1 吉野林業地域の概要

 奈良県は3/4が森林で占められ、このうち国有林は3%、人工林率62%である。

 この奈良県の県央以南の3町8村の広大な地域が吉野郡であり、吉野林業地域は東寄りの吉野川上流域に位置する川上村、東吉野村、黒滝村の3村の村域を指す。年間降水量は約2,000㎜でありスギの生産に適した気候に恵まれている。

 古くから、大阪城や伏見城など畿内の城郭建築や社寺建築に木材を供給してきた。1720年からは、良質なスギ材を使った樽丸製造が始まり、吉野川の水運を利用した筏流送の改良によって造林地域が拡大した歴史がある。

吉野の山

2 今回の森林施業研究会のねらい

 全国の多くの林業地が木材価格の低迷や搬出コストの高騰、住宅建築様式の洋風化による需要の減少に直面し採算の確保に苦悩している。日本国内で林業が産業として成立するためには森林施業及び木材産業はどうあるべきか、そしてどう進むべきか、答えを見つけるのは容易ではない。もし、超優良林業地域として有名な吉野地域で林業が成り立たない情勢となった場合に、まして他の林業地が存続することはできないだろう。

 そこで、長い歴史と伝統技術に支えられ、吉野杉のブランドを有する吉野林業地域の現状を直視するとともに、吉野林業に携わる人々がこの難局にどう立ち向かっているのかを知り、これからの森林施業の方向性を考えるため、2011年の森林施業研究会の開催地として、この地が選ばれた。

吉野スギ

3 吉野林業地域の特徴 (説明:奈良県森林技術センター)

 吉野林業は高密度に植栽し、こまめに間伐を行い1cmに8年輪という目の詰まった高級材及び樽丸の生産を特徴としている。

 経営形態では、借地林業と山守制度によって林業が営まれてきた歴史がある。山守には皆伐収入の5%の山守権があり、伐採時期の判断をはじめ山の取扱いについては、山主と山守の両方の意向で決められる。かつては1つの集落に1人の山守がおり代々世襲された。最盛期には吉野地域に28人の山守がいた。
このような吉野林業地域でも、近年は間伐が遅れている人工林が増えつつある。10年以上放置した林分は40%の強度間伐でも伐り足りない。また、再造林はコストがかかるので、所有し続ける場合はできる限り皆伐しない方針をとっている。

 植栽方法は、昔はスギ・ヒノキ混植法を採っていたが、施業に技術と労力を要することから現在は同一樹種植栽になっている。

 昭和50年代にヒノキの単価がスギを大幅に上回り、スギの皆伐跡にヒノキを植えた場所もあるが、トックリ病のため材価はゼロであり、伐り捨て間伐だけやって後は放置されている。伐捨て間伐のコストは10~15万円/haである。

 山は30~50万円/haで売買されているが、(造林地であれば)500万円/haくらい投資しているのが実情である。

<9月19日>

4 中野林業(黒滝村:下村氏の山林)説明:大西さん

原則的に枝打ちは、スギには行わずヒノキのみを対象に施業している。ただし、銘木のスギ磨き用には人の背丈まで枝打ちする。

 20年生時に周りの木よりも太い木は40年生になってもやはり太い。太い木は枝打ちした時、外側に跡が残るが、細い木は直径の小さいところに跡ができるので、間伐して太り出すと打跡は直径の内側になるので角材も採りやすい(生長が遅くても年数をかければ高値で売れる木になる)。

 一回の(原木)市での取扱量は2,000石(約600m3)で、直径によって用途と買い手が変わるが、直材であることはもちろん、元玉の末口が40cm以上なければ良い値がつかない。樽丸には尺1寸(直径33cm程度)で十分である。

 かつては、夏の土用にスギを伐採し秋に架線で搬出していた。80年生なら昔は4~5玉とれ、価格は70,000円/m3だったが今は15,000円/m3。2トン吊りのヘリで搬出している。直径にもよるが約12mで2トンになる。
説明中スギ林

<9月20日>

5 中野林業(川上村)

・スギ大径材の伐採現場

 220年生、樹高50mの林分を2~3年かけて伐採する。平均の市出し材積は1本当たり9m3、余尺1mを元口に付けているので実際には10m3くらいになる。

 6~6.5玉の平均価格は10~18万円/m3なので、1本当たりにすると100万円くらいだが、これまでの最高は、直径88cmのものが180万円/m3の値が付いたこともある。

 次に、丸太価格の低迷が続く中、価値を高めようと伐採方法を工夫されている篤林家の梶本氏の試みを聞かせていただいた。
伐採

・梶本式伐採法

 スギ心材部は黒ずんだ色をしているものが多い。7月に伐倒すると、葉が早く茶色になって枯れてしまい、水分を蒸散しなくなるので色が抜けず黒いまま固まってしまう。しかし、芯が腐っている材は黒みが抜けて赤っぽく色がよいことに気が付いた。そこで、伐倒に先立って、チェーンソーで芯に刺激を与えると良いのではないかと考えて、梶本修造氏が編み出した伐採方法が「梶本式伐採法」である。

・伐倒前の導管を遮断によって心材部の色が鮮やかに!

 導管が開いている樹液流動期に伐倒予定木の根元にチェーンソーのバーを入れ導管遮断を行う。作業適期は5月の連休頃のヤマザクラの咲く時期である。

 導管遮断のためのチェーンソーのバーは、根張りの様子を見て水揚げの主力になっている部分に伐倒する高さよりも低い位置に数箇所入れる。高さに20~30cmの段差を付けて強度を保つよう気を配る。中心部をはずすと良い色が出ない。
伐採について

・導管遮断による乾燥期間の短縮効果

 導管遮断によって水揚げが減るので、赤身(心材)の部分から含水率が下がっていく。この作業をして2箇月置けば、含水率は白太80%、赤身30%にまで下げられる。乾燥しにくい心材部の含水率をあらかじめ下げることによって、色合いが良くなり単価が上がる。7月に伐倒し通常乾燥すれば、次は白太(辺材)が乾燥していく。伐倒から2週間後に元口の円盤を落とす。伐倒後に樹脂が出てきて(切り口が)パック状態になって乾燥を妨げるので、この部分を取り除く意味がある。こうすれば、従来の葉枯らし乾燥の1/3~1/4の期間で山出しできる。

 導管遮断しても長期間放置すると白太に水分を含んでしまうので、半年以内に出荷する分だけ処理するのが良い。

・伐倒時のリスク

 この方法は幹の中心部の柔軟性が下がっていて、伐倒時に(ツルの粘りが効かないので)割れが入りやすいというリスクがある。作業には経験を要するとともに、他人がチェーンソーのバーを入れた木を別の人が伐倒するのは危険である。

 伐り方のノウハウを知っても、他の地域は伐採コストが掛かるのでほとんどまねしないが、京都北山がこの伐り方をして材を出したところ、これまでにない値が付いたらしい。
伐倒時のリスク

6 清光林業所有林の作業道開設現場

 吉野林業地域はヘリコプター集材が主流である。以前のように丸太価格が高かった頃はこれでも採算がとれたが、現在のような丸太の単価ではヘリコプターの経費は大きな負担となっている。そこで、作業道を開設しトラクターやタワーヤーダを用いた地曳集材への転換が進められている。

 今回は、清光林業所有林における作業道開設現場を見学させていただいた。

・林分の様子

 谷から中腹にかけて250年生をはじめ、様々な林齢のスギ人工林が存在している。雨模様のため、尾根までは登れなかったが、上部に古い時代の崩壊跡と思われる急斜面がある。スギ人工林はこの崖錐部に広がっており、土壌及び水分条件からも正にスギの造林適地である。林分

・作業道の説明

 2トン車はW=1.7m、W=2.5mの作業道なら、積み替えなしでそのまま搬出できる。200m/haの作業道密度はかなり多い。作業道開設には仕上り幅員の6~7掛けサイズの重機を使うべきだと考えており、0.07m3クラスのバックホウ(重量3t以下)を使っている。切土高は1.4m以下とし、斜面勾配が37度以上の箇所では、丸太を使って土羽尻に大橋式の木枠を設けて路肩を補強している。

 先行伐採はせずに支障木を伐りながらルートを決めていく。造材作業は2番玉まではチェーンソーで枝払いし、3番玉以上はハーベスターを使う。
雨の中

【感想】作業道は幹線と支線の区別がないことから、いずれは循環式の路網になっていくものと思われる。車両の走行性、路面排水、維持管理コストなどを総合的に見て線形の妥当性を評価する必要があるが、2トン車の走行を前提に作設されており、工事面積を最小限にとどめて支障木として伐る木をできるだけ少なくしたいという意図が伝わってくる。大径木生産とヘリコプター集材の歴史が長く、伐らずに残しておけば将来、大きく育つであろう木を1本でも多く生かし続けたいという吉野林業の文化を感じる現場であった。

7 吉野木材協同組合連合会市場見学

 9月20に吉野木材協同組合連合会の原木市場を見学させていただき、吉野木材連合会の小久保さんから最近の吉野林業の状況及び原木価格の動向について、説明をお聞きした。

 吉野は実生苗を使うため個体差が大きい。以前の間伐は劣勢木を伐っていたが、これでは収益が上がらないので、現在は良いものも混ぜて伐っているため、択伐に近い間伐になってきている。

 競りでは、買い手は元口と末口の目合いを見て入札する。目割れがあると単価が落ちる。かつては、直径56cm、長さ4mの1等木の?単価が15万円、全幹にすると1本が当たり30~50万円の値が付いたが、近頃は、1~3番玉までの平均単価が3万円前後で取引されているとのこと。
市場

<9月21日>
 台風接近のため、予定していた大台ヶ原でのシカの食害による森林への影響についての現地見学を変更し、原木市、吉野林材振興センター及び樽丸工房を見学した。

8 原木市の見学

 台風の接近に伴う雨の中、前日に見学した吉野木材協同組合連合会の原木市場で開かれたセリの様子を見学した。

  吉野の山々から伐り出された大径材がずらりと並んでいる光景は圧巻である。瞬時に買い手と値段が決まっていくテンポの良さは軽快であるが、丸太が育ってきた数十年からものによっては100年を越す年月を思えば、複雑な気持ちになる。5万円以下であっさりと買い取られる丸太が多い中、希に何人もが手を挙げセリ値が上がっていって10万円を越す値が付いた時には、どよめきと拍手が起きる。気持ちが和むひと時である。
原木市

9 吉野材振興センター及び製材市場の見学


 原木市場でセリを見学したあと、吉野材振興センター及び製材市場を見学した。製材品となったスギやヒノキの良材がぎっしりと並べられ、吉野林業の質の高さと製材産業の実力を実感した。見事な長尺材は、通し柱ではなく薄くスライスして集成材の化粧貼りに使われる。
製材市場での説明 製材済み

10 樽丸工房の見学

 吉野地方は古くから、灘や西宮など酒所で使われる酒樽の材料となる樽丸生産が盛んであった。一定の長さに玉切りした吉野スギを縦に割った材から、年輪に沿って赤身と白太にまたがるように丸みを付けた板材を採る。この板材が樽丸であり、酒造会社の樽職人がさらに削り込んで酒樽に仕上げていく分業体制になっている。吉野の伝統産業であるが、酒樽の需要が減り、今では樽丸工房も2箇所のみとなった。

 見学させていただいた工房では、この道20年という職人さんが特殊な道具を使って板を削っていた。職人さんの話しでは、この仕事に入った頃と今とでは、材料となる原木は以前の方がずっと良質だったとのこと。用途に合った材が伐採適期に生産されなくなっている現状が伝統の技にも影響を与えているようだ。

割るさらに割る板

まとめ

 今回は、吉野林業地域における素材生産及び木材産業の現状に触れることができた。他の林業地からすると羨ましく見えるであろう吉野林業であるが、木材価格の低迷は著しく、長い年月を経て生産された大径材が適正価格で流通していない現状にはやるせなさを感じる。そんな中で、山を守り続けようとしている関係者の工夫には、造林木に対する知識や伐採技術の蓄積のすごさが感じられた。

 これからも、吉野スギをはじめとするブランド力を生かし、質の良さをPRするとともに、素材生産に加えて付加価値の高い加工品に力を入れ、時代の住宅事情に適合した製品を提案し、全国の林業地を牽引していって欲しい。

 全日程を通じての手配と案内にお世話になった奈良県森林技術センターならびに貴重なお話を聞かせて下さった見学先の方々に心から御礼申し上げます。

森林施業研究会 研究発表会の概要

 二日間にわたって研究発表(セミナー)が行われた。様々な話題が提供され、夜遅いにもかかわらず暑い議論が展開された。その発表内容を掻い摘んで紹介したい。なお、文中、敬称は略させていただいた。

【一日目(9月19日) 19時30分 ~ 23時30分】

南 宗憲(奈良県林業技術センター):奈良県の林業の概要と吉野林業について

 奈良県の林業および吉野林業についての説明があった。奈良県の素材生産量は減少傾向にあり、昭和50年には2000haあった造林面積も平成21年には144haに減少している。吉野林業については、この地域の森林管理の特色である「借地林業」と「山守制度」や「葉枯らし」などについて説明があった。詳細は、奈良県公式ホームページ(吉野林業:http://www.pref.nara.jp/dd_aspx_menuid-7429.htm)を参照されたい。

鈴木 祥仁(愛知県森林・林業技術センター):スギの材質‐構造材利用と今後の施業に向けて‐

 スギの材質と今後の人工林施業のあり方について、JIS規格との関係や大径材利用についての話があった。

横井 秀一(岐阜県立森林文化アカデミー):100年生クラスのスギ人工林を調査しました‐目標林型としての評価と単木の胸高直径と樹冠構造の関係‐

 100年生クラスの高齢スギ人工林の調査結果を基に、高齢化した人工林の取り扱いについて、目標の明確化および目標に近づけるための管理手法に関する報告があった。そのためには、間伐を通した樹冠の制御が重要で、樹冠長(枝下高)や樹冠幅が間伐のタイミングの指標になりそうと示された。質疑では、間伐の回数や枝下高の測り方、着葉量に関する議論がなされた。

  参考文献:横井秀一・大洞智宏・早川幸治(2011)岐阜県七宗町の高齢ヒノキにおける林分構造および個体の胸高直径と林冠構造の関係.岐阜県森林研究所研究報告 40:15-19.

中田 理恵(静岡県立農林大学校):県民参加の森づくり10年目の状況 広葉樹造林地の生育

 森林ボランティアによる広葉樹造林林地の10年目の生育状況について紹介があった。自然林への再生を目標に掲げ、ブナ、ミズナラおよびコナラなど23種が網目方式およびパッチ方式で植栽されている。10年目の状況は、大部分が広葉樹林として成林しており、6割の個体が後から新入してきた個体であった。今後は下刈り以外のイベントの開催やボランティアへの参加者の固定化や高齢化などが課題であるとのことであった。質疑では、植栽方法(パッチ方式)や苗木生産について意見が出された。

谷口 真吾(琉球大学農学部):亜熱帯特有の生態系に配慮した沖縄島北部域(山原)での森林施業を考える

  ヤンバルクイナやノグチゲラなど様々な貴重種が分布する沖縄本島北部(ヤンバル)での森林施業に関する話題が提供された。これまでは、大面積で皆伐されることが多く、赤土の流出などが問題となっている。そこで、今後は環境負荷を減らすため、スイングヤーダと作業道を組み合わせた小面積皆伐による施業について報告があり、小面積に適した低コスト集材システムの確立や伐採面積および伐区配置の検討が必要であると示された。質疑では、材のマーケットや木材以外の教育的利用などの検討について意見が出された。

笹原 千佳(日本大学生物資源科学部):放置竹林における密度別間伐における材積変化と指標作成

 今回、唯一の学生の発表であった。管理放置された竹林の管理手法の提案を目的としており、その途中経過に関する報告であった。放置竹林内にプロットを設定し、異なる密度(無処理・1/3伐採・2/3伐採)で伐竹を行っている。翌年発生したタケノコの密度は、伐採密度の違いによって変わりはなかった。今後は、密度だけでなく材積や成長量についても検討し、最終的に管理指標を造りたいとのことであった。質疑では、間伐竹の選定基準や発生したタケノコがどのプロット由来のものなのかなど試験設定に関することや卒論での研究目標の設定などのアドバイスがあった。

【二日目(9月20日) 19時20分 ~ 22時10分】

伊東 宏樹(森林総研):大台ケ原における生物間相互作用と樹木実生の生残

 台風の影響で見学することが出来なかったが、トウヒの樹皮剥ぎや裸地化など大きなシカ被害を受けている大台ケ原におけるシカ、ネズミ、ササ、樹木実生の生残の関係に関する報告があった。シカおよびネズミを排除すると5年でミヤコザサが回復すること、シカを排除しササを刈り取ると実生が更新すること、また、ウラジロモミの実生の更新にはシカの影響が大きく、ブナの更新にはササの影響が大きいことなど樹種よって実生更新に対する反応が違うことが報告された。

杉田 久志(森林総研):ブナ天然更新施業試験地のその後の検証‐不確実性の払拭を目指した新しい天然更新法の方向性‐

  過去に設定されたブナの天然更新施業試験地を再調査した結果が報告された。試験地の多くは、現在30-40年生になっており、更新が成功した林地もあればそうでない林地もある。更新の成否は前生樹の密度とササの刈り払いなどによって変わるが、林の状況によってその効果が変わるため、不確実性が払拭されておらず技術的に未完成である。そこで、更新を成功させるためには、前生樹の有無や豊作のタイミングなどを上手く見極める必要があると示された。質疑では、日本海側と太平洋側のブナの更新様式の違いや種子散布者の影響などの評価が必要などの意見が出された。

太田 敬之(森林総研):貴重な史料の探し方

  老齢林や高齢林の調査では、過去の履歴を知ることが林分の成立過程を把握する上で重要である。それに関連して、特に戦前の資料を対象にして、資料のありかや入手先など文献を探す方法について発表があった。文献を探す方法(場所)として、「森林管理局および森林管理署」、「県立図書館・市立図書館」、「WEBサイト:日本の古本屋」、「大日本山林会 林業文献センター」および「国立公文書館」が紹介された。上記のうち、森林管理局および管理署を除いてWEBサイトによる検索が可能である。

櫃間 岳(森林総研東北):岩手県内陸北部で2010年末に発生した冠雪害について

 地震の情報がクロースアップされているが、2010年12月の降雪(30-50年に一度の規模の大雪)で、森林も深刻な被害を受けている。冠雪害が発生した気象条件と密度管理からみてどのような森林が被害を受けやすいかを解析した結果が報告され、微地形および植栽樹種によって被害の程度が異なることや施業形態によって異なることが示された。今後は、冠雪害の発生しにくい密度管理や微地形に対応した植栽などが必要で、特に間伐遅れの林分が問題であるとのことであった。

大久保 達弘(宇都宮大学):放射能汚染下の栃木の里山林の現状(予報)

 宇都宮大学における里山の利活用に関するプロジェクトの一部として、腐葉土の利用を考えている矢先の震災で、放射能汚染腐葉土の生産利用の自粛要請があった。また、放射能汚染による里山の農地林地の一体活用破綻や栃木県への放射性物質の拡散と沈着、森林モニタリングにとける除染と課題等について話題が提供された。

田中 浩(森林総研):韓国の森林視察記

 韓国の中間温帯林(Gwangneung Experimental Forest)を訪ねた際の報告があった。

 

現地検討会の感想

吉野林業現地検討会に参加して

日本大学生物資源科学部 森林資源科学科 森林管理研究室 山崎 真理

 今年の四月に奈良県十津川村へ旅行してから、吉野林業をみてみたいと思っていたところ、今回の現地検討会を知り参加しました。

  実際に吉野へ行ってみると、幾重にも重なった山々が、五百年前から続く途方もない労力で造られたスギ・ヒノキの人工林であることに気づき、感慨深い思いになりました。

 検討会二日目の台風接近の際には、雨は強かった強風ではなかったのが印象的でした。吉野が林業地として古くから成立している理由の一つに、風が強くならないことがあるだろうと思いました。

 検討会の楽しかったところは、話を聞いていると「この人は、山仕事が好きなのだなぁ」と思える職人さんたちに会えたこと。知識のある方の話を聞き、その場で自分でも感じることができること。「この人たちにつながっていく、仕事をしていきたい」と素直に思えたこと。見るもの、聞くものが自分の自己満足で終わらずに、次を意識できる場にいられて本当に幸せでした。

 政府や国家間の軋轢から林業の方針が揺れ動くのは、いつの時代も変わらないのかもしれません。しかし、人が林業で営み暮らしている限り、「人」というところからは絶対に外れないと思います。

森林施業研究会・奈良吉野合宿に参加して

岐阜県立森林文化アカデミー 森と木のクリエーター科 野村 健一郎

 台風が接近しているという天候が芳しくない中,日本全国から多くの方が集まりました。私はこの会に参加するのは今回が初めてで,また奈良県に足を踏み入れたのは実に中学校の修学旅行以来です。吉野を訪れるのは人生初の出来事でした。

 見学する先々で議論が尽きないために,幹事泣かせのスケジュール運びになったのではないでしょうか。圧巻だったのが夕食後のセミナーで,発表者も多かったため,初日は23時半にまで及びました。二晩かけて研究者の方々の多様な発表を聞くことができ,とても有意義な時間でした。

 ほぼ全ての産業で生産性の向上とコスト削減が重視される現在,それは林業においても例外ではありません。高性能林業機械の導入,高密路網の作設,施業の集約化などがスタンダードとなりつつあるのは周知の通りです。

吉野でも今回見学した清光林業の岡橋さんのように,道づくりを取り入れていることが分かりました。伝統ある吉野でそれを始めるのは,恐らく並大抵のことでは無かったように思います。しかし大橋慶三郎氏に習い,これまでに開設した道は延べ7万8000m以上に達したといわれます。出来るだけ山を傷めない道づくりを提唱する氏の方針は,道幅は2.5m以内に,伐開木は最小本数に,丸太による土留めを施し,雨水は拡散させる。吉野にそれが浸透しつつあるのを現場で見ることが出来ました。幸か不幸か,台風の影響もあり雨水が勢いよく作業道を流れ,各所で水が散らばっているのを見て効果を確認出来たのは,思いもよらない成果でした。

 以前ある事業体では枝打ちは費用対効果が見込めないから行なっていない,という話を聞いたのを思い出しました。そこでは生産性を重視するあまりに,いい商品を作ろうという意志が希薄しているように思います。それではいくら生産性を向上させたところで,材が悪ければ安く買い叩かれます。あるいは合板用や集成材のラミナー用などの需要に最初から的を絞っておらず,まして付加価値をつけることなど到底出来ないと思います。いわゆる薄利多売で,吉野材とは相反するやり方なのでしょう。恐らく40~50年の短伐期の小径木で歩留まりが悪く,節も多い。せいぜい細い柱材や先述の集成材などの用途に限られてしまうのではないでしょうか。

 一方の吉野の材はというと,最終日にちょうど市場の競りを見学することが出来ました。中には100~110年生の材もありました。全盛期と比べれば値は下がっているとはいえど,全国の相場と比較して倍からそれ以上の値になっているかと思います。

 250年生のスギが何本も立っている森には本当に圧倒されました。樹そのものの太さや高さがすごいのは一目瞭然ですが,その樹が人の手によってそびえ立っていること,むしろそのことを忘れさせる程の佇まいに感慨深いものがありました。

 日本経済や住宅様式は大きく変化し,日本人の価値観も大きく変わりました。造作材を中心に高品質の材として確固たる地位を築いた吉野材の需要は減少し,衰退しています。また,長年受け継いだ技術や伝統が失われかねない今の状況は残念でなりません。日本全体の林業を底上げし国産材の流通が増えることで,すでにブランドとなっている吉野のような銘木産地が再び見直されるのかもしれません。素人ながらそんなことを感じました。

森林施業研究会現地検討会(奈良合宿)の感想

島根県中山間地域研究センター 林 晋平

 初めて森林施業研究会の合宿に参加しました。というより、恥ずかしながらつい最近まで森林施業研究会の存在すら知りませんでした。うわさには聞いていましたが、夜のセミナー、その後遅くまで続く懇親会は私には強烈でした。でもいろいろな方とお話ができて良かったです。はじめての現地検討会は吉野林業でした。台風のため大台ケ原に行けなかったのは残念でしたが、吉野林業の200年を超える林分や木材市場での競り、また樽丸の製造まで、生産から流通の一部に触れることができ楽しい現地検討会でした。作業道の作り方や林業機械の規模や配置、また間伐における選木など長伐期林業を考える上では非常に参考になると思いました。ヘリコプター集材も見たかったですが、タイミングが合わなかったようで見られませんでした。今度、吉野へ行く機会があれば是非見たいと思います。今回は貴重な体験をさせていただき事務局の方には大変お世話になりました。またみなさん親切にしていただき本当にありがとうございました。

吉野林業を見学して

森林総合研究所 金指 あや子

 施業研究会現地検討会ではお世話になり、ありがとうございました。

 吉野林業とは、良いに付け悪いに付け(失礼!)通向け職人技が闊歩する独特の世界…というのが、今回の見学の感想です。特に印象に残った4つの事柄について、自身への備忘も兼ねて概要を記させていただきます。

(1)樽丸師*の技

 林業地として超有名な「吉野林業」であるが、構造材の生産だけでなく、かつては、樽板の生産も決して忘れてはならない大きな位置を占めていた。灘や伏見の醸造業の発達とともに「酒樽は吉野スギ」の評価が定着し、18世紀半ばには吉野の林業家たちは無節で木目の揃った樽材生産に集中したことから、「密植、多間伐、高伐期」という吉野林業の体系が作り上げられたという。

 伊丹市立博物館編「伊丹の酒造り道具」( 1991) によれば、樽板の製造は、ヤマイキ(伐採)、サキヤマ(小玉に製材)、ワリヤ(小玉を割って「クレ」を作る)、サキ(クレを割り、樽の側板となるよう削って整える)という分業で成り立っているという。現在、昔ながらの技法がそのまま残っているのはサキの作業のようだ。

 言い換えれば、サキだけは手作業で行わなければ、上質の酒樽の側板は作れないということらしい。特に、内側に赤身、外側に白身(これを「源平」という)になるように割られた側板は高価である。クレの状態を瞬時に見極めて、流れるようにクレを割る高度な技は目を見はるばかりだ。センと呼ばれる刃物で側板を削る時の「シャッ、シャッ」という小気味よい音も、熟練のなせる技であった。

 同じ清酒でも、赤身が多い樽と白身の多い樽で用途の違いがあるのだとか、、、私はとんと下戸なので日本酒について蘊蓄は語れないが、日本酒を深く愛する人がいる限り、樽丸造りの職人技は今後も必要とされるのであろう。

吉野林業全書挿画『吉野林業全書挿画』(1898)から第六十九図

樽丸師サキを担当する樽丸師。樽の命である側板を「セン」と呼ばれる道具を使って削り、整形する流れるような技の巧みさに一同舌を巻く。 上図の吉野林業全書にある作業の様子と服装以外は全く同じ!

*注; 樽板を丸く束ねたものを「樽丸」といい、樽丸の製造に関わる職人の総称を「樽丸師」という。

(2)梶本式を特許にしない訳、ならない?訳

 最近、赤身の色を薄くし、かつ乾燥効率を高める乾燥法が開発されたという。梶本氏によって考案された木材乾燥法で、梶本式乾燥法と呼ばれる。立木状態の間に、幹の要所に切れ目を入れて吸水を一部遮断し、心材の水分を蒸散に利用させることによって心材部の含水率を減らし、赤身の色を薄くするという手法である。従来の葉枯らしによる乾燥法では、元口部の樹皮を剥がすため辺材部が傷み、化粧材用のカツラ剥きを行うのに不利であるのに対し、梶本式では辺材が痛まないため、その点でも有利である。樹木の生理を活かした理にかなった画期的な方法であり、特許を取られたかと思いきや、特許どころか、その普及に尽力されているそうである。

 ちなみに、他の林業会社の山守り(これも吉野の特徴の一つ)の方に伺ったところ、そこでは、梶本式は行わないという。何故なら「難しすぎる」のだそうだ。

 梶本式乾燥法を効果的に行うためには、幹の髄の部分にきっちりと当たるようにチェーンソウで切れ目を入れ、さらに、谷側の主要な根張り2~3本にもチェーンソウを入れる必要がある。しかし、根張りは個体ごとに異なる。水分遮断に効果のある根張りを選び、かつ伐倒に影響を与えない切れ目を入れるのは決して簡単ではなく、一歩間違えれば伐倒方向を狂わせ、かえって大きな損害を蒙ってしまうという。新しく開発された手法とはいえ、経験と勘という職人技がここでも求められるようだ。

梶本式梶本式乾燥法を説明される梶本氏。法学部出身ということだが、木の性質を知り尽くして、この乾燥法を開発された。切れ目が幹の髄に当てることが重要で、髄に当たった時は、チェーンソウの手応えで判るのだそうだ。

(3)シマとは何ぞや?

 台風の襲来で、大台ヶ原に行けなかった代わりに、木材市場でのセリの見学を行った。結果、より吉野の特殊性を見ることができたような気がした。

 奈良県十津川村や和歌山県では9月初旬の豪雨による氾濫で出来たせきとめ湖の決壊が心配されるという程の大雨の中、セリも休みになるのではないかという心配を他所に、人々は市場に集まっていた。

 傘を差しつつも、番号札が付いた野球帽を被った買い付け人を大勢従えて、「さあ、これ、なんぼで行く?2万、2万、2万・・・1万8千、○○番」といった調子でセリは次々と進んでいく。スギの場合、やや高めの値段から始まってだんだん値が下がって決着がつくことが多かった。赤身の色の美しさ、年輪の揃い具合、「シマ」の有無など、値段の高低の根拠こそ、昔ながらの日本独特の木材に対するこだわりが、未だに大きく関わっている。

 しかし、実際に指し示してもらったにも関わらず、私にはイマイチ判別できなかった「シマ」というものを、買い付けの方々は、雨でずぶ濡れの木口から、どうやって見極めているのか、、、結局、謎であった。ここにも、熟練の目しか入れない現場があった。

吉野木材協同組合連合会原木市にて。(左)78番氏が40千円/m3、(中)59番氏が70千円/m3、(右)65番氏が53千円/m3で、それぞれ落札。値段の差は、・・・何となくは判る。

(4)嵐の日に

 折しも、沖縄近海で停滞していた台風15号が北東に向けて動きだした丁度その頃、施業研究会は決行された。明日はいよいよ本州に上陸かという9月20日に見学でお邪魔したのが、川上村のスギ・ヒノキ人工林である(下写真)。

スギ・ヒノキ林

 間伐遅れもあるとはいえ、吉野林業の特徴である密植の様子がよくわかる。竹林に見紛うばかりの木立ちが、雨を受けて静かに立ちつくしていた。台風が近くにあるというのに、風はほとんど吹いていない。

 台風の進路の西側になったことも幸いしたはずであるが、吉野地方はどうも風の影響はあまり受けないという特徴があるようである。「東北だったら、あっという間に倒れますね。」とは、同行のH氏(東北支所)の感想であった。そういえば、奈良市内で乗ったタクシーの運転手氏もこんな事を仰っていた。「同じ奈良県でも、十津川村のような南部と北部では気候が大きく違いましてね、北部はものすごく穏やかなのですよ。」・・・嵐の日だからこそ、吉野の穏やかな気候を体験できたのかもしれない。

 大都市大阪への地の利に加え、吉野の気候風土に育まれ、吉野林業は発達したのだろう。日本特有の通好みに対応する技術はきめ細やかで、熟練の技はさまざまな場面で活かされている。「節があった方が無垢材らしくて良い」などというイマドキの消費者はハナから相手にされない世界だ。文化的財産ともなりうる吉野の技術は、一般の林業地に普及されるものではないかもしれないが、吉野林業は、日本の衣食住のさまざまな文化とともに継承されるであろう。また、そうであってほしいと願う。

 見学に種々ご配慮下さいました奈良県森林技術センター南様を始め、中野林業、清光林業他の皆様に深くお礼申し上げます。

 

貴重な史料の探し方

森林総合研究所 太田敬之

1. はじめに

 林齢200年を越える老齢人工林や大径木の林立する天然生林の研究を行う上で、問題となるのが「それらの林分はどのように成立したのか」「林分の過去の履歴はどのようなものであったか」ということである。例えば、200年生の林分について前者の疑問に答えるには江戸時代のデータが、天然林において後者の疑問に答えるには昭和初期の特別経営時代の択伐施業などが参考になるであろう。

 そこで問題になるのが、これらのデータの探し方である。自分の調査している林分、もしくは近隣の林分について過去の資料はどこにあり、それはどのように探したらいいのだろうか。本文では、筆者の経験に基づいた「歴史的な史料の効率的な探し方」を述べさせていただく。

2. 探しに行く前に

 次節で多くの史料が探せるところを紹介するのだが、その前にそれらの多くで共通する注意点をまず紹介しておきたい。

・行く前に「サイト内検索」を使おう!

 資料のおいてある施設には、ホームページを開設しているところが多い。そして、多くのホームページ内には、「サイト内検索」のできるエンジンが置かれている。探したい資料に関連するキーワードを入れて検索すると、その施設が所蔵している資料がヒットする。ただ単にYahooやGoogleで同様のキーワードを入れて検索を行っても見つからない資料の名前が、この方法により探し当てられる。検索結果を印刷したものが、そのまま資料閲覧依頼の書類になるような施設さえあるのだ。施設に足を運ぶ前に、自宅や職場でまず、その施設のホームページから「サイト内検索」を行っておくことを強く勧める。各施設でのサイト内検索の方法などについては、後に詳述する。

・身分証明証とデジカメは必携

 施設によっては閲覧(特に館外不出の貴重な史料)に際し、身分証明証の提示を求めるところもある。免許証や学生証などは携帯していきたい。

 また、史料が損傷する可能性があるため、コピー機による複写を断られたり、職員が複写を行い後日郵送されたりすることがある。そのようなところでは、代わりにデジカメでの撮影が許可されることがあるため、訪問の際には携帯されることをお勧めする(もちろん、撮影の可否は事前に確認を)。デジカメでの撮影は「テキストモード」でフラッシュをたかないで行うと文字のコントラストが強く出て読みやすい写真になるようである(筆者の経験上)。出かける前にはメモリー、電池の残量は要確認である。

・場合によっては事前連絡を

 史料を探すところは、多くの来客を前提にしているところと、そうでないところがある。もし、後者の施設であれば、訪問の前に連絡を入れておくべきだろう。

3. 貴重な史料はここにある! 探すべきところ

3-1 基本中の基本ですが・・ 森林管理局、森林管理署

 国有林で調査を行っている場合、まず訪ねるべき候補はやはり森林管理局、森林管理署ということになろう。近年、大幅な統廃合により森林管理局、森林管理署はその数を大きく減らした。そして、残念ながらその際に失われた史料も少なくないとも聞いている。とはいえ、資料室、図書室のような部屋を設けて、まだ多くの貴重な史料が保存されている。調査林分の過去の履歴を調べたいのであれば、まずは探してみるべき場所であろう。

・探すべきは「施業案」「(調査)復命書」

 ところで森林管理局の資料室には多種多様な書類が保存されている。例えば、会計関係の書類など、私たちの研究には直接の関係はないが森林管理局にとって重要な書類も多いのだ。その中で探すべきものとして、私はまず「施業案」と「復命書」をあげたい。

 施業案は昔の事業区単位で作成され、5年間(場合によっては10年間)の施業指針を記したものだ。施業案はかなりのページ数になるが、単に経営計画を示しただけのものではなく、その地域の来歴、地質、気象、植生などいわば森林センサスの基本情報を網羅したものである。また、林小班ごとの利用形態も記載されており、調査林分がどのように利用されてきたのか、大いに参考になる第一級の資料といえよう。

 一方、「復命書」は現在では出張の後に提出するA4用紙1枚程度のものだが、昭和初期の調査復命書(単に「復命書」と記載されるものもある)は事実上の「調査報告書」といえる。調査目的の出張の際に作成されたもので、ページ数も多く、場合によっては活字で印刷、製本されて、大学の図書館に並んでいるようなものもある。論文に引用されている復命書も多く、具体的な調査の概要や結果を知る点で非常に重要な資料といえよう。

中表紙目次
写真:施業案の中表紙と目次

・森林管理局、森林管理署に行く際に

森林管理局、森林管理署には資料室や図書室があると記したが、大学のようにそこで専属で勤務している職員がいないケースがほとんどである。つまり、資料を閲覧する際には、「勤務時間中の職員に時間を割いてもらう」ことになる。事前に連絡を入れ、訪問していい時間を打ち合わせるなど、失礼のないようにしたいものである。
また、昔と現在では市町村名、そして組織名も変わっている。目的とする林分は昔は何という営林署のどの事業区にあったのか、事前に調べておくと効率的に探すことができるだろう。

3-2 大学・研究機関の図書館を探す・・ Webcat

 全国の大学、研究機関の蔵書を探す検索エンジンであり、利用方法もきわめて容易である。自宅からも利用できる。URLは以下のとおり

http://webcat.nii.ac.jp/

ただ、筆者の感想としては意外と古い史料はひっかかってこないように思う。

3-3 「地元の力」は侮れない・・ 公立図書館

 ここでいう公立図書館とは、都道府県、市町村立の図書館のことである。皆さんは市立図書館を利用されたりすることがあるだろうか。大学や研究機関にいる人であれば、「中学生が夏休みの宿題をやるところ」程度の認識しかされていないかもしれない。ところで、写真は筆者が秋田県鷹巣町立図書館(現在は北秋田市鷹巣図書館)で閲覧させてもらった文政8年(1826年)の史料である。このように「町立」の図書館が他の施設にはないような江戸時代の貴重な書籍を保管していることもあるのである。公立図書館は「地元のこと」を知る上では欠かすことのできない場所なのだ。調査している森林の来歴を知りたい場合に、地元の図書館を調べてみると思わぬ発見があるかもしれない。

古書写真:1826年刊 秋田スギ(北秋田市鷹巣図書館蔵)

 多くの公立図書館はホームページを開設している。そこでサイト内検索を行い、どのような史料があるか、確認しておきたい。また、たいていの図書館では「郷土史」のコーナーを設けて、その地域の歴史を知る史料をまとめており、そこでも参考になるものを探せるかもしれない。

3-4 コピーはイヤだ、現物がほしい・・ Webサイト 日本の古本屋

 図書館などにある史料を探し当ててコピーをするときに「コピーじゃなくて、この本、そのものが欲しい」と多くの人は考えるだろう。そうした望みをかなえてくれるかもしれないのが「日本の古本屋」というWebサイトだ。メールマガジンによると、全国900の専門店参加、データ約600万点掲載の古書籍データベースということである。

URLは以下のとおり  http://www.kosho.or.jp/servlet/top

 このページの「古書検索」の欄にキーワードを入れると、登録されている古書店の蔵書から関連するタイトル、著者の本を探してきてくれる。購入したい書籍については、webページ上でそのまま注文ができ、自宅まで配送してくれる。

 Webサイトの性格上、実物を見てから注文することができないこと、逆に購入は早い者勝ちなので、誰かが購入してしまうと入手できないところは、図書館などとは異なる。

  私は図書館で借りたことのある、古典とでもいうべき書籍の購入に利用したりしている。同じ本でも価格が書店によって異なり、場合によっては他の書店の数分の一の値段で買えたりすることもある。また、大学のサークル誌や個人の自費出版の本など、めったに出回らない書籍が入荷されていたりすることもある。蔵書のリストは随時更新されるため、私は週に1回くらいは検索を行っている。

 古書の購入ができるサイトは他にも数多くあり、それぞれに特色があるはずである。ここに限らず、自分の目的にあったサイトを探してみてもらいたい。

3-5 林業に特化した資料館、内部書類も豊富・・
大日本山林会 林業文献センター

 創立者の名前から、「小林記念 林業文献センター」と記載されることもある。ホームページによると小林準一郎氏(元、王子製紙副社長)が私財を投じて設立した林業に特化した資料館ということである。管理は大日本山林会が行っており、同会と同じビル内にある。資料数は約3万点。開館時間は平日、10時から16時。

住所 〒107-0052 東京都港区赤坂1-9-13 三会堂ビル地下1階
最寄りの駅は銀座線の虎ノ門、溜池山王駅

詳しくは以下のURLへ
http://www.sanrinkai.or.jp/center.html

・多彩な資料提供者

林業文献センターには林業に関する多くの書籍が所蔵されている。しかし、この資料館の最大の特徴は「○○文庫、○○氏資料」という個人から寄贈された、大半は製本されていない膨大な量の多彩な資料である。多くの場合、林野庁、営林局に長期間勤務し、場合によっては営林局長などまで勤め上げた人が個人所有の資料をまとめて寄贈したものである。その中には内部資料、会議の議事録、未発表論文、裁判記録など、この資料館がなければ日の目を見ることのなかったはずの貴重な史料が多く見られる。そのうち、寄贈数が飛び抜けて多く、○○文庫の名前がついているのが以下の2名である。

増田壮一氏(増田文庫)・・全国の旧藩の資料、1800年前後に発行されたものが多い
早尾丑麿氏(早尾文庫)・・昭和12年から17年の木材統制法などの行政・法令資料

 他にも○○氏資料という形では
村山善一氏 きのこなど特用林産物に関する資料(昭和20、30年代が多い)
野村進行氏 昭和10、20年代の林業政策に関する資料
佐木義夫氏 戦前、戦後の林業統計、林業政策に関する資料
といったものがある。このように専門分野や年代の異なる多彩な資料がここには所蔵されている。

・出かける前に検索

 上記の林業文献センターのURLから「検索画面へ」をクリックすると、資料検索のページへ入れる。「収蔵文献検索システム」の「書名」の欄に任意のキーワード(現在は「著者」の欄に入力ができないので、著者についてもここの欄を使用する)を入れると、所蔵文献の中から関連するものが検索される。著者名や発行年でソートをかけたりする機能もついており、右上には一覧印刷のできるボタンもついている。分類番号、棚の位置などが表示されるので、それを目安に探すと便利である。なお、林業文献センターの中にも検索用のパソコンは設置されている。

・利用の仕方

 現在、この資料館は職員の方が一人で管理している。そのため訪問の前には電話連絡することが推奨されている。また、昼休みにはいったん閉館されるので、注意が必要である。

 閲覧の際には受付をして、希望する資料を探し、館内でのみ閲覧可能となる。複写がしたいときは、持ち出す許可を得てからビルの7階の大日本山林会の事務所に行き、そこのコピー機を使わせてもらうことになる(有料)。

3-6 歴史的文書の総本山・・ 国立公文書館

 最後に紹介したいのは国立公文書館である。名前のとおり、「国をあげて公文書を保存しよう」として作られた施設であるため、その所蔵点数や管理体制は群を抜いている。ホームページによると、「各府省等から移管された公文書(約75万冊分)の他、内閣文庫(約48万冊分)の目録データを提供しております」とのことである。資料数が膨大なため、森林に関するものは主流ではないものの、その数はかなりのものになる。

住所 〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園3番2号
最寄りの駅は地下鉄東西線 竹橋駅
URL http://www.archives.go.jp/

・出かける前にまずは検索、その便利な利用方法

 上記の国立公文書館のURLから「デジタルアーカイブ」をクリックし、検索ページへ入る。「公文書を探す・見る」の空欄にキーワードを入れて「検索」ボタンをクリックすると関連する文献が探せる。検索でヒットした文献の中から「利用請求」の欄にチェックを入れて「利用請求書印刷」を押すとチェックした文献が印刷される。それは持参すると、そのまま閲覧申込書に使えるという便利なものだ。なお、国立公文書館の中にも検索用のパソコンが設置されている。

 また、国立公文書館では資料のデジタル化を順次進めており、資料を写真として保存している。検索画面の一番右に「画像など」という欄がある。ここにクリックできるアイコンがある場合は、その資料が基本的に全ページ、写真画像としてインターネット上で閲覧できることを示している。

・気をつけよう。その資料は東京にないかもしれない

 さて、私は初めて利用請求書を持って国立公文書館に行ってみた際、「その資料は、ここにはありません」と言われたことがある。というより、私の閲覧したかった大半の資料が東京にはなかったのだ。国立公文書館は資料が膨大になってきたため、平成10年に分館を作っており、そちらに移動した資料も多いのである。どのような基準で分館に移動した資料を選んだのかはわからないが、森林関係の資料(例えば営林局関係など)の大半が現在は分館にあるようだ。検索を行った際に「本館」「分館」という表示がされて、資料がどちらにあるかは明確にわかるので、閲覧に行く際には要確認である。

分館の住所などは以下のとおり

国立公文書館つくば分館
住所 つくば市上沢6-6
http://www.archives.go.jp/information/popup/tukubamap.html

・利用の仕方

 受付で氏名を記載して、利用カードを作成する。利用カードは本館、分館共通で利用できるため、どちらかで作成すればよい。有効期間は作成から1年間。

 閲覧を希望する資料リストを職員の方に見せる。閲覧できるのは一度に5冊まで。資料を自分でコピーをすることはできないので、コピーを職員の方に依頼するか、職員の方に断った上でデジカメで撮影するか、どちらかを選択することになる。コピーを依頼した場合は、後日郵送されることになるので、デジカメで撮影するほうが現実的な方法のように思う。

4 補足(他の方からの情報)

 森林施業研究会の現地検討会のセミナーの際、あるいはその後に「こんなサイトがある」と情報をいただいた。特に「日本の資料を海外のサイトで探す」という、私の考えてもいなかったことを実行されている事例として、紹介しておきたい。

・国立国会図書館の近代デジタルライブラリー

http://kindai.da.ndl.go.jp/

では、「林業」で検索しただけで1800件近い文献が、pdf画像で見られる。戦前の各県の林業関係文書なども多い。

このようなデジタルアーカイブは海外にもある。台湾政府林業試験所の公開している「日治時期台灣林業相關文獻資料庫」

http://literature.tfri.gov.tw/atlas/main.html

 では、総督府林業試験所図書館時代から所有する様々な報告書、学会誌、植物図譜類(日本語)が、ネット上で閲覧できる。

 上述した「日本の古本屋」に対して、「海外にもすごいのがある」と教えていただいたのが「ABE Books」というサイトである。このサイトは古本専用ではなく、新刊の本も扱っているところが「日本の古本屋」とは異なる。「rare book」というページから検索を行うと日本の江戸時代の古本などもhitする。当然、外国の古書を検索するにも利用できるサイトである。

URLは以下のとおり
http://www.abebooks.com/

5 最後に

 ここまで紹介してきたように、森林に関する史料については江戸時代のものでも閲覧可能なものがある。古い史料は先人が残してくれた貴重なデータであり、現在、それを人手をかけて保存している施設が数多くあることを本文の最後に強調しておきたい。こうした貴重な史料は利用しなければその重要性が認識されにくくなり、保存、維持をする動機も失われていく恐れがある。本文がこうした施設に足を運んでいただき、史料を閲覧する人を一人でも多くする一助となってくれることを願ってやまない。

 本文は2011年9月に奈良県で行われた森林施業研究会現地検討会のセミナーで発表した内容を一部改変したものです。「史料」とは昭和20年以前の「歴史のある」資料、データ、冊子などを想定したものですが、それ以降の森林に関する資料の探し方についても本文はご参考になるかと思います。なお、本文は私個人の利用した体験に基づいて記載したものです。誤っている点や「他にもここを探すべき」という情報などありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。

<編集後記>

 スギを研究対象としているものだけでなく、造林に関わる者にとって、吉野スギというのは特別なものである。今回は悪天候の中、現地のスタッフの努力によって見学先や宿泊先の変更をスムーズに行っていただき、滞りなく検討会が終了したことを感謝したい。

 吉野スギ林では「梶本式乾燥法」の実演を見せていただいた。この手法が見いだされたのはつい最近だったとのこと。日本で一番古いといわれる林業地帯の吉野でも、まだ技術的な発見があるのだと、改めて林業技術の奥深さを感じた出来事であった。

 また、吉野スギの競りの現場を見学させてもらい、このような有名林業地でも材価の低迷に苦しんでいるという林業の現状も垣間見た。自分たちは技術的な向上を目指しているが、それがどれくらい材価などの向上に貢献できるのか、自問自答するような現地検討会になったような気がする。

 

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