木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.56  2013年1月21日
Newsletter of the Forest Management and Research Network


目次

 

2012年度森林施業研究会現地検討会(福島只見合宿)報告

太田 敬之(森林総合研究所)   
中田 理恵(静岡県立農林大学校)

集合写真
集合写真(宿泊した森林の分校 ふざわの前で)

 森林施業研究会第15回現地検討会が、2012年9月22日から24日の日程で、福島県只見町において行われた。大学や国、県の研究者、技術者などの総計22名が参加した。また、地元の「只見の自然に学ぶ会」のメンバーの方々がオブザーバーとして、参加された。以下に、検討会の概要を報告する。

9月22日(土)

 参加者は会津田島駅に集合し、只見町朝日地区センターに移動し、「ナラ枯れの原因と対策」という講演を聴講した。講師は山形県森林研究研修センターの齋藤正一氏。この講演は只見ブナセンター口座として開催されたもので、施業研究会だけでなく、一般の聴講者も多く見られた。

 齋藤氏はナラ枯れの研究者として、森林施業研究会の山形合宿でも現地で説明をしていただいた方である。ナラ枯れを防除するため、病原菌を媒介するカシノナガキクイムシを捕獲する方法として「おとり木トラップ」を考案し、効果を上げている。その手法は多くのカシノナガキクイムシを捕獲するのに効果的であるが、被害の出始めの時期に対処しないと病害を防除することは困難であるということであった。

 ナラ枯れにはミズナラがかかりやすく、同じブナ科の樹種でもクヌギなどでは病害が出にくいとされている。しかし、好適な樹種やサイズの木が無くなると、より細い木や病害にかかりにくいとされてきた樹種にも被害が及ぶことがあるため、用心が必要である。

講演者の写真
講演中の斉藤氏

 セミナーの後に只見ブナセンターの説明を受けた後、ブナと川のミュージアムへ移動し見学を行った。

ブナと川のミュージアム
見学をした「ブナと川のミュージアム」

 只見ブナと川のミュージアムは2007年に只見町が「自然首都・只見」宣言をしたことをうけて、2009年に開館した博物館である。「ブナと川」と命名されたように、森林、河川を中心とした只見町の自然、及び森林や河川を利用してきた只見町の人々の生活についての展示が行われている。1階には動物の剥製、昆虫の標本や生きている魚を放した森林の展示施設がある。2階には江戸時代やダムができる直前の只見町の生活の状況を多くの写真、模型、古民具などを使って説明してある。

 年に数回、館内は模様替えを行い、只見町や東京などでセミナーや発表会を行うなど、対外的な活動も活発に行っているとの事である。

 その後、宿泊先である只見町布沢の「森林の分校 ふざわ」へ移動した。夕食後、セミナーが開催され、6名の方の発表が行われた。

セミナーの様子
検討会初日のセミナーの様子

9月23日(日)

 2日目は、只見町ブナセンターの鈴木和次郎氏の案内で、只見町内の特徴的な森林を見学した。最初に見学したのは叶津川「木の根沢ブナ天然林」であった。只見町は、年平均降水量4,000㎜を超え、その多くは冬季の降雪によるもので、最大積雪量は3mに達する豪雪地帯である。そのため、中間斜面は雪崩により表土が削り取られ岩盤が露出している。ブナ林は中間斜面に形成されることが多いらしいのだが、ここでは雪食地形のため、土砂がたまった斜面下部、河川周辺や谷底氾濫原にブナ林が形成されている。

 只見町は「ブナの町」を前面に出しており、この林分はそれにふさわしい、かなりブナの本数比の高いものであった。うっそうとしたブナの原生林という感じではなく、林床にもかなり光の入る明るい印象の林分であったが、それはこの林が人間が手を入れながら維持してきたものであることが一因なのかもしれない。林内には古くからの道があった。

 ブナは林冠の8割を占め、樹高は35mに達していた。林内には、太い立ち枯れ木や倒木があり、350年くらいの成熟したブナ林だった。トチノキ、サワグルミ、ハウチワカエデなどが混交し、低木にはユキツバキがみられた。ブナの樹齢は様々で、上木を伐採するとブナが更新するとのこと。昨年はブナ種子の充実度が70%で、実生が林床に数多く発生していた。

ブナの天然林
木の根沢ブナ天然林

蒲生川の「ブナあがりこ林」見学

 次に訪れたのは、蒲生川の「ブナあがりこ林」である。あがりこ型ブナは、地上2~3mの位置で多数の幹が発生し、その部分が肥大化した樹形で、通常のブナの樹形とは異なるごつごつした形態を示している。晩冬から早春に雪上伐採により主幹を伐採し、そこからの萌芽枝を伐採・利用した結果成立したものである。萌芽幹を総て伐採すると株が枯死しやすいため、萌芽幹を1本残して伐採する作業が行なわれていた。雪上伐採は、橇などを使った雪上での伐採が効率的であるだけでなく、萌芽にとっても有利な条件を持っている。秋・冬は幹・根に貯蔵物質がもっとも多くなる季節であり、伐採後の萌芽への投資が可能であるし、冬の伐採は伐採後の菌の感染などが起こりにくく、傷害組織も春まで発達しないらしい。コナラ等についても同様であるとのこと。

 昔人家があった場所近くの鍛冶焼き跡が複数見られた二次林に、あがりこ型ブナが点在していた。鍛冶焼きは、晩秋から初冬にかけて伐根から萌芽再生した主に広葉樹の幹や枝を伐採し、これを土に掘った穴の中に入れて蒸し焼きにする製炭法である。主に自家用の炭を得るために行なわれ、10年~15年生ほどの枝を利用していたらしい。

 ブナ、ホオノキ、ヤマモミジ、ミズナラなどの二次林内に入っていくと、次々に叢生型のブナ、あがりこ型のブナ、複合型ブナ(下は叢生型上はあがりこ型)が現れた。叢生型のブナは、地際からブナを伐採し、そこからの萌芽枝を伐採利用する萌芽更新株と思われる。只見町のあがりこ型のブナは、伐採位置が固定されず上昇し、3段の台取りをもつものもあった。

ブナのあがりこ
蒲生川近辺のあがりこブナ

黒沢の「コナラあがりこ林」見学

 雨は降りやまず、黒沢の「コナラあがりこ林」も雨具を着ての見学となる。稲穂輝く田んぼから黒沢集落の共有林の尾根をぐんぐん登ると、ホオノキ、アオダモ、コシアブラなどの広葉樹の中に、あがりこ型の樹木が現れた。コナラである。コナラは台伐り位置が高いと萌芽力が落ちるため、初めはミズナラと思ったそうである。コナラも3mくらいの高さで雪上伐採し、台切り萌芽させていたようだ。ブナと同様に萌芽幹の一部保存が行なわれており、4段切りのコナラもある。あがりこ型ミズナラもあった。

 ここでも、鍛冶焼きの窯跡がみられた。案内してくださった「只見の自然に学ぶ会」の方の話では、幼い頃に山から幾筋も煙が出ていた記憶があるそうだ。
このコナラに、2、3年前からナラ枯れが発生している。太い木が多く、カシノナガキクイムシにアタックされ、3本のコナラが枯死した。東北大学で予防用殺菌剤を1度樹幹注入したものの、継続するには300万円ほど予算化が必要とのことだった。

コナラのあがりこ
コナラのあがりこ

 蒲生川、黒沢のどちらのあがりこ林も、里山と言えるような人の生活圏に近い場所に大径のブナやコナラがあったことが印象深かった。東北にも広葉樹の萌芽再生林は無くはないし、ブナやコナラの大径木も僅かながら残っているが、只見のように利用されながら大径に育った木を見たのは初めてだと思う。

ユビソヤナギ林

 2日目の最後の見学地は「ユビソヤナギ林」であった。この林分は新潟大学の試験地にもなっているそうである。ユビソヤナギは主に河畔に分布するヤナギの1種で、絶滅危惧種であった。只見町には国内で最大のユビソヤナギ林が分布していることがわかり、ブナとともに只見町を代表する樹種の一つといえる。只見町は2011年の豪雨で洪水が起こり、川に架かっている橋がいくつも流されたり、電車が不通になったりして、その傷跡はまだ町内のあちこちに見られる。しかし、そんなことがあってもユビソヤナギ林はそれほど大きな被害を受けずに残存していた。只見のユビソヤナギは個体識別がされて管理されており、報告書の発行や研究発表も行われている。

ユビソヤナギ
ユビソヤナギ林で説明を受ける

その夜は、6件のセミナー発表が行われた。
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 なお、2日目のセミナー後の懇親会には只見町の目黒町長が参加された。只見の自然に学ぶ会の方々も合流されて、盛会となったことを記載しておきたい。

 さて、2日にわたって行われたセミナーであったが、タイムリーな話題として「ユネスコ・エコパーク」登録ということが上げられよう。只見町はユネスコエコパークの登録を目指しており、施業研究会のセミナーでも取り上げられた。このユネスコエコパークとは、自然保護を旨とする世界自然遺産とは少し異なり、「自然と人間の共生」を標榜するものだとのことである。日本では1980年に屋久島など4箇所が指定されたが、その後追加の登録はなく、昨年24年ぶりに宮崎県の綾が登録されている。
セミナー初日には只見の自然に学ぶ会の新国代表から、只見町の自然環境と日常の暮らしなどについて発表があった。雪深い山里の只見町は豊かな自然があり、それに基づいた独特の歴史、文化をはぐくんできた。しかし、近年は人口の減少、とりわけ若年層の定着に困難を感じているとのことであった。

 東海大学観光学部の田中教授からは、只見町には豊かな自然を生かして都会からの人を引きつける魅力があり、エコパーク登録は地域興しの追い風になるのではないかという旨の発表があった。これはエコパークの「パーク」部分を強調した発表のように思えた。

  一方、二日目の鈴木氏(ただみブナと川のミュージアム館長)からは、「エコパークで重要なことは、自然と文化を守ることである。登録することにより自分の町の自然、文化の重要性に気づいてもらいたい」といった旨の発表があった。これは「エコ」部分を強調した主張と言えるかもしれない。

  今回のセミナーのもう一つの特徴としては、造林以外の専門の発表が多かったこともあげられる。公園管理、森林教育、観光といった専門の方の発表は、立木を研究対象としている者にとっては、人間の体温の感じられるものでもあった。次回以降も多くの分野の方の発表を楽しみにしたいものである。

9月24日(月)

 3日目は、只見町の隣町、金山町の「本名スギ天然林」を見学した。この林分は福島県で大規模に残された唯一の天然スギ林である。森林総研が今年度から調査を開始しており、そのプロットで調査の概要を説明した。

 この近辺は江戸時代、天然スギの一大産地であり、川を下って新潟まで材を出していたらしい。スギ大径木は推定で樹齢200年前後、ブナの大径木と混交し、スギが大小含めて群状に生育しているのが特徴である。古来よりブナはほとんど伐採されなかったため、このようにブナの大径木の混交する林分となった。また、多雪地であることもあってスギが伏条で更新するため、スギが固まって生えることが予想される。

本名スギ林
本名スギ林の林相(撮影は2012年11月)

 今回の現地検討会では、ブナ林、コナラ林、ヤナギ林、天然スギ林といろいろなタイプの天然林を観察することができた。人工林の見学がない現地検討会は久しぶりである。かといって、あがりこ林は炭焼きのための伐採によって生じたように、人間の生産活動と森林との関わりについて、いろいろと知見を得られたことも確かである。

 今回の検討会の特徴として、「只見の自然に学ぶ会」の方々と交流ができたことをあげたい。このような形で地元の方々と一緒に森林を見学したり、懇親会で飲食をともにしたりするのは現地検討会では初めてかもしれない。現地の情報を一番持っているのは、やはり現地に住んでいる人である。筆者は本名スギの調査を行っているが、多くの情報を地元の方からいただいた。これを機会にますます広範囲の人を巻き込むような活動が施業研でできたらと願っている。

  昨年に続いて天候には恵まれない検討会となったが、宿泊先での料理も含めて大変楽しい経験となった。現地の案内をしていただいた鈴木和次郎氏(只見ブナと川のミュージアム館長)にお礼申し上げる。

現地検討会の感想

曇りめがねに晴れ間が見えました

小山 泰弘 長野県林務部

 あがりこの写真

「鍛冶子焼きは秋の女性の仕事。薪取りは早春の男性の仕事。」只見の自然に学ぶ会の新国勇さんが、「コナラのあがりこ」を見に行ったときに教えてくれた言葉は、最も印象的な経験でした。今回、見せていただいた「コナラのあがりこ」は、只見町の中心部からほど近い集落の裏山の藪の中にありました。

 私が、「あがりこ」と聞いてイメージするのは、して長野県の小谷村にある、雪上で伐採された「ブナのあがりこ」です。この森では「あがりこ」の形状を有した樹木だけがずらりと並んでおり、「あがりこ」だけの森となっていました。ところが、只見で見せていただいた「あがりこ」は、森の中に浮かび上がるように点々と生育しており、今まで見てきた印象が完全に裏切られた思いでした。

  あまりにも点々としか成立していない「あがりこ」を眺めながら、「どうしてこんなに点々としかないのだろうか」という疑問が首をもたげてきたのですが、これを打ち消してくれたのが、最初に挙げた新国さんとの会話でした。新国さんは、「私はこの近くの集落に住んでいるので、子どもの頃まではこの山で手伝わされたものだ。秋になると女性が山に上ってきて、地上から出ている細い広葉樹を伐採して地面に掘った穴に入れて伏せ焼きのような形で炭を焼く「鍛冶子焼き」を行い、焼いた炭は冬場のコタツに使ったものだ。真冬を過ぎた3月頃になると、今度は男性が山に上がってきて、それなりに太った「あがりこ」を伐採し、雪の上を滑らせて山麓へ下ろし、薪にした。」というお話を私にしてくれました。

  このお話を聞いて、私は初めて「同じ山で「鍛冶子焼き」と、「薪の採取」という異なる利用が、季節を代えて複合的に行っていた」ことに気づかされたのです。改めて考えてみれば、雪国である只見では、生きるために冬の燃料確保は、必要不可欠なものに違いありません。トラックも林内作業車も存在しない時代であれば、生活に最も大切なものは、できるだけ利便性が良い場所で確保したいと思うのは当然のことだと思います。このように考えれば、集落の裏山という極めて利便性が良い場所で複合的な利用を考えたということは、現地に住み生きる人の優れた知恵だと思えるのです。

  国道からはるか外れた林道を詰めて行った場所に残されていた「ブナのあがりこ」も、やはりあがりこが林内に点々と残されているだけで、その間には萌芽更新起源のブナが一斉に生育し、鍛冶子焼きの穴が掘られた痕跡が点在するという同じ土地利用になっていました。ここでも過去には、立派な集落が存在していたことをお聞きし、ブナとコナラという優占種の違いはあるにせよ、小径木を萌芽させる「鍛冶子焼き」と、「あがりこ」による薪の生産は、集落の裏山の多面的な利用という点で一致しており、只見が誇る土地利用などだなあと感じました。

  同じ山でありながら、集落に近い場所であれば、一つの山を複合的に利用したという話は、よく考えてみれば当たり前のことなのかもしれません。私も週末に山菜を取ったり、木の実を拾ったり、きのこを探しに行く場所を考えてみれば、それぞれが別の場所ということばかりではなく、同じような場所に出かけることも多いかと思います。

  そして、只見の「あがりこ」を見ながら、「「あがりこ」が、どうしてこんなに点々としか生えていないのだろうか?「あがりこ」を利用するのであれば、もっと「あがりこ」が多いことが当たり前ではないか。」と奇異に感じていた自分の考え方が、山の土地利用を単一的にしか考えていないことに起因していることに気づかされました。考えてみれば、私たち公務員が取り扱う森林では、「水土保全林」、「森林と人の共生林」、「資源の循環利用林」という3区分に分けるという区分管理を当たり前のように受入れています。そればかりか、里山の森林管理という話であっても、人家に近いところでは耕作を行い、耕作地の奥にある里山では薪や柴を採取し、奥山では炭を焼いて軽くして下りてきた・・という人家からの距離に応じた明瞭な区分で管理をしていたという話が既定路線のように思われています。

  こうして私は、いつの間にか、きれいに色塗りされた土地利用区分図を思い描きながら地域を見つめ、初めて訪れた只見の地でも同じように「あがりこ」林業地という土地利用区分を考えていたのでしょう。こうした意味で、ステレオタイプの罠にはまっている自分に気づく非常に良い合宿になりました。

  今回の合宿は、ここ数年の合宿に比べると参加者数が少なめで、こぢんまりとした合宿になったという意見も聞かれました。しかし、常連の研究者がわいわいと近況報告を行うだけでなく、カシナガの調査を行っている山形県の齋藤部長さんの講演を始め、観光学や教育学の研究者が顔を出していただいたことや、地元を見つけている住民の皆さんが多数参画したことは、今回の合宿での大きな成果だったと思います。森林施業研究会といえば、「森林施業を語る施業屋の集まり」と見られる向きも多かったと思いますが、森林を管理することは、画一的な中央集権的な発想ではなく、地域の現状や特性に応じた応用がいくらでもあるため、毎年全国を回って勉強会を続けているのではないかと思います。

  今回、只見という非常に豊かな環境の中で、森を静かに見つめ、いつもとは異なる異分野の人たち、特に地元に根付いて山に関わりながら生活をしている方々に出会えたことは、森林施業のこれからを考える上でとてもよい刺激となりました。

  只見町の方を現場まで引き出していただいた前会長の鈴木和次郎さんに感謝させていただくとともに、素敵なお話を戴いた只見の自然に学ぶ会の皆さんにも感謝申し上げます。


只見合宿に参加して

斉藤浩平(公益財団法人神奈川県公園協会 県立座間谷戸山公園)

 私は県立公園の管理運営に携わっております。森林施業研究会については、会員である小宮園長から度々噂を伺っておりましたが、今回その合宿があるということでお誘いをいただき、初めて参加させていただきました。

 福島県只見町には初めて訪れましたが、昨年7月の豪雨により流された橋桁が今も無残に川原に横たわっていたり、がけ崩れでむき出しになった地層が一部見られるなど、一見のどかな田舎の景色の中にもまだ被害の深刻さを見て取れました。ですが、宿泊地「森林の分校ふざわ」で地域住民の方々が作られる郷土料理はどこか懐かしく美味で、次から次へふるまわれる地域色にも心温まるものがありました。

 さて、本題の見学会ですが、全体的にあいにくの空模様でしたが、ブナ天然林やあがりこ林などなかなか見ることのできない場所を大変興味深く見学させていただきました。中でも日頃から身近な樹種であるコナラの“あがりこ”が印象的でした。普段の仕事場では、里山としては育ちすぎた50~60年生のコナラやクヌギが多い二次林を明るい林に戻していこうと森林保全ボランティアの方々とともに懸命に活動しております。高齢木は一般に萌芽率が低くなると認識していますが、今回の「コナラあがりこ林」のように雪上伐採により繰り返し利用され独特の樹形となった巨木コナラを見ると、この認識も変わりましたし、豪雪地域ならではの自然利用方法と自然の力に感心しました。

 夜のセミナー(実はこちらが施業研究会の醍醐味?)の中では、公園の紹介と森林管理の課題を発表させていただきました。その中で、園内の「シラカシ観察林」という樹林地エリアが“関東地域内陸部の極相林であるシラカシ林を目標植生としている”ということに対して「シラカシが極相林である根拠は?」というご指摘をいただきました。これについて、現状の公園管理設定は、設計当時にあった一つの概念を引用していて、今後は見直していく必要があることが分かりました。また、シラカシ林の管理方法について皆様からのご意見等ありましたらぜひお聞かせいただければと思います。

 最後に、今回の合宿を通して、公園と国有林で大きくは“森林管理”という共通分野に携わるなかでも、これだけ専門性の高い領域があり、研究者の皆さんや国有林関係者の方々により森林が守られているのだということを知りましたし、大変勉強させていただきました。ありがとうございました。

 


ユネスコエコパーク登録に向けて思うこと

只見町 渡部 和子

 ユネスコエコパークと聞き慣れぬ言葉を理解する中で、只見町の生活その物なんですよと言われたことです。昔の人は、薪や水、食料は裏山で調達できるし、必要な生活用具も自然素材(ツルや樹皮)で何でも作れてしまう技がありました。今は過疎高齢化が進み、若者が自然にかかわる事への興味も薄く、老人は変化を望まず、人口の減少と活気もない、仕事もないのが現実です。あるのは他にない恵まれた自然があることでしょう。ユネスコエコパーク登録に向けて、視野の広い意見に耳を傾け、行動する勇気を持って過疎の田舎町から発信できるものを考える機会になりました。そして、自然資源の持続可能な利用の促進とあれば、使うものと守るものを調査研究のもとに区分けされ大切な自然に守られながら、祖父母から伝えられてきた自然と寄り添った生き方を町作りに生かす事が出来るかもしれないと期待するものがあります。

ユネスコエコパークに期待します

只見町 佐藤 順子

 雪と共生する町ではありますが、六ヶ月雪の中で長靴を履きとおす生活を何とか変えて行きたいと長年考えてきました。「雪掘り大会」「雪の宅急便」などいろいろ考えたこともありましたが、私達個人が幾ら考えても活気ある町にすることは無理があると思うのです。村起こし」など一時は盛り上がっても、継続はありませんでしたしその後は前より暗くなってしまったようです。

  親は子に雪の無い都会に住むよう勧めます。それだけわが子に雪の苦労はさせたくないのです。ですから、人口は減る一方です。長年「ぜんまい折り」「きのこ取り」をして生活の足しにしてきた人達も年をとり、需要が減った昨今、山に行く回数も減ったようです。

  そんな現実を見聞きする時、ユネスコエコパークの説明を聞きました。これぞ、只見の町起こしになるのではないかと期待しました。

  活気ある町、楽しく生活出来る町、勿論人口の減少に歯止めがかかり、増えていく希望も持てる町になっていくのではないでしょうか。

  私の住む入叶津地区には子供はいません。熊・カモシカ・テンと獣の住むところを借りて人間が住んでいるようなところです。只見町でも入叶津が一番先に消滅するのではないかと言われています。

  私のところは自営業なのですが、運良く後継者が帰ってきてくれました。その後継者が楽しく暮らしていける只見町になっていくためにはユネスコエコパークに期待します。年をとった人でも「山案内」ならお手の物です。新しい発想も生まれてくるでしょう。難しいことはよく分かりませんが、只見の人たちもよく目を見開いて考えを新たにしてほしいと思います。

  只見のブナ林が陽の目を見、只見町の住民にも明るい光が射すような、そんな夢を見させてくれるユネスコエコパークに期待します。

第17回森林施業研究会シンポジウムを岩手大学で開催します

第17回森林施業研究会シンポジウム

テーマ:林業の持続と森林の更新 ~伐採回帰の中での更新技術の役割~

日 時:3月28日(木曜日) 9時00分~12時00分

会 場:岩手大学(岩手県盛岡市)教室は未定 決まり次第案内いたします。

参加費:森林学会大会(会費必要)の一環として開催されますが、このシンポジウムだけの参加の場合は無料です。また、申し込み不要でどなたでもご参加いただけます。

内容:木材生産が大きく様変わりをしながら加速しつつある中、森林の更新はいよいよ避けて通れない課題となりつつある。森林の更新は、資源の再生産を担うだけでなく、森林資源の質を変える機会でもある。そこで今回は、資源の保続に加えて経営や利用などの視点も加えた議論を行いたい。

話題提供:(敬称略)

連絡先:

大住克博
〒612-0855 京都市伏見区桃山永井久太郎68 森林総合研究所関西支所

Tel. 075-611-1357
Fax. 075-611-1207
E-mail. osumi@ffpri.affrc.go.jp

<編集後記>

 施業研の合宿からずいぶん時間がたち、とうとう年をまたいでしまった。毎度の事ながらホームページの更新が大変遅くなったことをお詫びさせていただく。

 今年は例年にない寒さと雪の量である。地球温暖化なんて嘘ではないかと思うくらいだが、実は温暖化が原因でこういう気象条件になっているそうだ。自然は何とも複雑なものである。

 近年、寒そうな光景として一番忘れられないのは何といっても一昨年の東日本大震災直後の東北地方の避難所である。3月だというのに夜はひどく冷え込み、自宅の暖かい居間からテレビで見ているのが申し訳なく思ったくらいだ。

 今年の森林施業研究会のシンポジウムは岩手大学で行われる。そのときにはもう震災から2年を過ぎていることになるが、東北にも、林業にも明るい展望が開けるような議論が行えるようなシンポジウムになることを期待している。

 

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