木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.59  2014年7月1日
Newsletter of the Forest Management and Research Network


目次

森林施業研究会 第18回シンポジウムの報告

第18回森林施業研究会シンポジウム
「「大きな林業」と「小さな林業」―施業スケールと多様さを考える―」の報告

関東森林管理局 吾妻森林管理署 田中ゆり子

平成26年3月30日、第125日本森林学会大会、会場:大宮ソニックシティ

司会
 大住 克博 氏(森林総合研究所)
 大洞 智宏 氏(岐阜県森林研究所)

話題提供

  1. 「ビジネスモデルで見る大きな林業と小さな林業」 
    藤野 正也 氏(岐阜県立森林文化アカデミー)
  2. 「林業と生態的な森林管理でのスケールメリットを考える」 
    長池 卓男 氏(山梨県森林総合研究所)
  3. 「林業の規模は施業と木材生産のあり方にどう関わるか」 
    横井 秀一 氏(岐阜県立森林文化アカデミー)

 戦後林業が転換期を迎える中で、林業の新たな規範が示されつつある。経営や生産の規模拡大が志向される一方で、求められる機能に応じた細やかな対応も必要とされている。今回のシンポジウムでは、このような状況の下での、施業とスケールの関わりについて議論がなされた。
会場は100席以上あったが、終始立ち見が出る盛況で、時間ぎりぎりまでさまざまな視点から多様な意見が出された。

 まず司会の大住氏より導入があった。一般的に産業において競争力を高めるとき、規模拡大と効率化が必要になる。「効率化」とは2つに分けられ、一つは経営の効率化で金銭的な問題、もう一つは生産の効率化でモノづくりの問題である。本シンポジウムでは、次の3つの視点に分けて話題提供をいただき、施業とスケールの関わりについて議論する。1:経営の効率化(藤野氏)、2:生産の効率化+生産の安定性(長池氏)、3:規模拡大は施業とどのように関係するのか(横井氏)

 続いて話題提供があった。初めに藤野氏より、小さな林業と大きな林業の歴史と今後の展望について、経済的な視点からお話しいただいた。近年大きな林業が盛んになってきたのは、木材の利用方法が時代とともに変化してきたことが背景にあり、作業の機械化をめぐってはまだ改善の余地があるとのことであった。

 次に長池氏より、林業と生態的な森林管理におけるスケールメリットについての話題提供をいただいた。その中で、生態的な管理の考え方や方法について、準フォレスターテキストや国内外における複数の報告例を引用しながらお話しいただいた。また、スケールメリットをめぐっては規模の拡大が何のために、誰のためによいのか、再検討する必要性を指摘された。その上でさらに、森林認証制度の活用や、森林を生活場とするシカへの対応など、今後の課題についても触れられた。

 最後に横井氏より、現場の施業の観点からの規模の大小について話題提供をいただいた。その中で大量生産には二つの方向、すなわち皆伐と間伐があるとのことで、それぞれのメリットと現状での問題点についてお話しいただいた。またさらに現在の林業のあり方に影響しているもの、すなわち顧客、山林の所有者、山林の規模、労働力といった要素について整理され、大きな林業と小さな林業、それぞれの役割と展開方向についてお話しいただいた。

 なお、各話題提供の詳細については、それぞれの章をご参照いただきたい。

 講演に続いて、個別の質疑応答から総合討論にかけて、本シンポジウムのタイトルである「施業のスケールと多様さ」を軸に活発な議論がなされた。内容が多岐にわたったため、以下の5点に整理して報告する。

1 集約化と経営戦略

集約化や経営戦略をめぐっては、話題提供者である藤野氏へ複数の質問があった。「生産関数」という単語から始まったビジネスとしての林業の話題について、会場の関心が高かったことがうかがえた。

 まず、「機械の稼働率を上げる」という点について、会場からの質問を受けて藤野氏が補足説明をされた。「税金を投入して機械の普及率を上げても、様々な事情によりうまく稼働していない場合がある。機械への投資は本来、その機械をフル稼働することによって還元する。例えば、もっとも腕のいい作業員にある機械を専属で使用させたいとしても、現場の仕事の流れによっては他の作業員も従事させて極力休んでいる機械が発生しないようにするなど、色々な工夫が必要である。」とのことであった。

 山の育成や管理と経営戦略とのバランスをめぐっては、会場から「再造林や間伐など、現在の収穫には直結しないけれども、生態的機能や将来生産される材に影響してくる作業がたくさんある。経営戦略の中ではそれらをどう位置付けていくのか」という質問が出た。
これに対して藤野氏は、大きな林業と小さな林業における視点の違いに触れて以下のように回答された。
・ 小さな林業(基本的には特林家さん)の場合 : 将来生産される材への投資、という意味合いになっている。
・ 大きな林業の場合 : 小さな林業と比較するとより難しい。昔も今も、作業自体により現金が入ることが動機になっている。これは切り捨て間伐と比較してよりリスクの高い搬出間伐がなかなか進んでいない現状にもつながっている。将来のことを考えた施業になるかどうかは事業体の経営方針による部分が大きい。ただし、間伐というのは一度きりではなく、今回間伐をすると5年後、10年後に次回の間伐をするものであるため、今回の仕事の出来栄えが次回の間伐時の営業につながっている面もある。

2 森林所有者の多様さ

どのようなスケールの施業であっても、所有者の存在を無視することはできない。所有者をどのように考え、所有者とどのように向き合っていくのか、意見交換がなされた。

 会場からは「一口に森林所有者といっても、ただ持っているだけの所有者から、その森林を経営している所有者までいろいろな方がいて、さまざまなモチベーションがある。そのあたりを少し整理するとより議論が進むのではないか」との意見が出た。この点についての異論は出ず、どの立場にあっても、さまざまな所有者の存在を理解する必要があることは共通認識であることがうかがえた。その他に以下のコメントがあった。
・ 所有者の意識への働きかけを考えたり、補助金を始めとする制度そのものを再検討する議論も必要なのではないか。(大住 氏)
・ 実際に集約化をしようとするときに考えなければならないのは、集約化というのは目的ではないという点である。場合によっては集約化の話を進めるなかで、所有者さんが自分で山の管理をすることに決めたとしたら、それはそれでよいのではないかと思う。現在の最大の問題の一つは、所有者さん自身が山に関心がないことで、まずは関心を呼び覚ますことで次の段階の話が可能になる。(藤野 氏)

3 資源としての森林、資産としての森林

森林は資源(リソース)として位置づけられる一方、資産つまり財産としても捉えられる。このことを踏まえ、会場では二つの捉え方をめぐる議論がなされた。

 会場からは林業経営者サイドとして「森林は資源でもあるけれど林業経営者としてはやはり資産であり、両者のバランスをとることに悩んでいる」との意見が出された。
これを受けて大住氏より、そもそも「資産」の捉え方について、環境を生み出すという意味での森林は「社会共通的な資産」として捉えることもできるのだろうか、という投げかけがあった。
これに対して長池氏が回答され、近年定着しつつある森林環境税の趣旨は、森林をみんなで支えるという考え方にあり、すでに共通の資産として認識されているのではないかとのことであった。

4 補助制度の在り方

現在の日本の森林に関わる補助制度はほとんどの場合、間伐や再造林などをはじめとし、何かやったことに対して補助が出る仕組みになっている。しかし、さまざまなスケールの森林管理を考えると、林業のみではない「生態的な森林管理」の必要性が生じてくる。このことを踏まえ、現在の補助制度について議論がなされた。

 はじめに、現在の日本の補助制度は広い範囲に補助金が出すぎなのではないかとの意見が出された。国にしても都道府県にしても、どういう森林管理をしてほしいか、ビジョンを立てたうえで、それに沿った森林管理に対してきちんと補助金が出る仕組み作りが必要なのではないか、ということであった。
これを受けて「日本においてそもそも、環境としての価値が高いから何もせずにそのままにする、ということについて対価を払うことがあり得るのだろうか」という投げかけがあり(大洞 氏)、対する回答として「何ともいえないがほかの国でやっている例があるのは確かだ」というコメントがあった(長池 氏)。

 また、そのほかに会場からは以下の意見が出された。

・ 今後、生態的な森林管理を進めていくことになったとき、合意と説明のために相当な人手がかかりそうだが、そういった手間についても考えていく必要がありそうだ。
・ 補助金について議論するに当たっては、納税者の立場も考える必要がある。「生態系サービスに対する支払」に皆が納得するには、どのような管理をすると効果があるのかなど、当研究会でも共通認識を形成する必要がある。
・ 現場サイドとしては、生態的にどうあるべきか、というようなことも考えたいが、実際に施業をするに当たっては補助金の基準に沿った作業をしなければならないなど、制度に縛られている部分が少なからずある。

5 森林施業プランナー、フォレスター育成についての意見交換

林野庁では平成19年から森林施業プランナー育成研修を、平成25年からフォレスターの資格認定を実施している。これらの資格制度は始まって間もないことに加え、小規模森林所有者の森林を取りまとめる(森林施業プランナー)、地域の森づくりの全体像を描く(フォレスター)といった点で今回の議論の内容に深く関わってくるため、会場の関心も高くいろいろな意見が出された。特に今後の課題については各サイドで同じように認識されている部分もあるようであった。

・ 準フォレスターの受講サイド :
生態的な視点は生産性との兼ね合いが課題だ。
・ 講師サイド :
生態的な研究をどのように現場に落としていくのか、プロセスを考えることが課題だ。
・ 研究者サイド :
テキストの内容について、研究者の間でもまだ合意できていない部分があるように思う。こういったテキストを作るのは良い機会なので、内容についてさらに議論を深め、共通認識を形成していくことが必要だ。
・ 現場サイド :
実際に施業を行う際、資産としての管理と資源としての管理、またさまざまな制度の中での管理、それぞれのバランスをとるのが難しい。フォレスターやプランナーの気運が高まるなかでそのあたりのバランスがとれるだろうか。
・ プランナーテキスト作成者サイド :
今回テキストを作成するに至った発端は、現在「林学」という分野そのものがないため、参考になるもの、特に現場の方に話をするときに使えるものがなかったことだ。内容に関しては、(学問として)専門的な話は現場の方に伝わりにくいという問題がある。今回のテキストは林学の知識をそれほど持っていない方向けに作成した。テキストの内容については、ぜひ色々なご意見をいただきたい。何らかの形で反映させたいと思っている。

○最後に大住氏による全体のとりまとめがあった。
かなり話が発展したが、現代化のなかで規模拡大という方向で森林管理や林業を変えざるを得ない方向にあるのは確かだと思う。その中ではスケールの拡大だけでなく、いろいろなスケールのものを共同させていくシステムが必要なのではないだろうか。また小さなスケールは小さなスケールで孤立することなく、技術や情報を共有するネットワークが必要である。
スケールの問題は単純ではなく、色々なあり方を考えていく必要がある。
ぜひ今回の議論から考えを応用していっていただきたい、とのことであった。

感想

藤野氏の講演の最後に、会場に集まった、現在の林業を取り巻く人々に向けて、「本当に大きな林業」にするための努力が足りないのではないか、との鋭いメッセージがあり印象的であった。森林・林業に携わる一員として、今いる場所・状況で自分に何ができるのか、何をすべきなのか、今一度考える必要性を痛感した。

 また今回のシンポジウムを通して、施業スケールについて考えることは、現実に現場で直面しているさまざまな課題につながっているのだと感じた。多様な森林管理の方法、マネジメントさらには法制度を熟知し、理論や知識を現場と結びつける人材の必要性を改めて感じた。

ビジネスモデルで見る大きな林業と小さな林業

岐阜県立森林文化アカデミー 藤野 正也

 近年の我が国林業は国産材の流通規模が大型化しており、10万m3規模の原木消費を行う製材所が設立されることも珍しくなくなってきている。これには国内森林資源が充実するとともに、素材生産の規模が拡大してきていることが関係している。そこで、経済学や経営学の観点から林業における「規模」を分析し、我が国林業の進んでいる方向性を明らかにする。

 ミクロ経済学では「規模」についての研究は盛んに行われており、中でも生産関数による分析が典型的である。生産関数とは根源的生産要素である土地(D)、労働(L)、資本(K)により生産量(Q)が決定されるという関数である。一般にQ=F(L,K)という形で表され、最も多く用いられる関数型はコブ・ダグラス型生産関数と呼ばれ、Q=ALαKβで表される。Aは技術進歩を表し、αとβは係数である。コブ・ダグラス型生産関数の両辺の自然対数をとるとlnQ = lnA + αlnL + βlnKとなり、線形の式となる。このため、Q、L、Kの数値があれば、重回帰分析によりA、α、βの値を求めることができる。

 求められたαとβについて、α+β=1であれば規模に関して収穫一定(生産要素投入量をn倍にすると生産量もn倍になる)、α+β>1であれば規模に関して収穫逓増(生産要素投入量をn倍にすると生産量がn倍以上になる)、α+β<1であれば規模に関して収穫逓減(生産要素投入量をn倍にすると生産量がn倍未満になる)という関係性がある。規模に関して収穫逓増の場合を「規模の経済がある」という表現をすることがあるが、規模の経済を発揮する産業は製紙、自動車、鉄鋼など、いわゆる装置産業である。他方、規模に関して収穫逓減の産業は、労働集約的であったり、少量多品種であったりすることが多い。林業分野では藤野正也(「我が国素材生産技術における車両系生産システムの優位性」『林業経済研究』54(2),2007年)により、素材生産の規模に関して車両系は収穫一定、架線系・林内作業車は収穫逓減であることが明らかにされたが、林業の経営規模に関しての研究は行われていない。

 大きな林業が出てきた背景に資源の充実を挙げたが、需要の変化も背景としてあげられる。かつては四面無節のヒノキ柱角を頂点とした役物市場が存在した。その時代の原木市場では丸太一本ずつに値段がつけられ、製材品の化粧性や希少性が求められていた。しかし、現在ではプレカット、集成材、合板などの規格を実現できる丸太が求められており、丸太の工業製品化が進んでいる。

このような需要の変化に対応できれば、それなりに利潤を獲得することは可能であるが、それはとりもなおさず並材の大量生産を行うことである。50年前と比べると人件費は高騰しており、労働集約的な木材生産は経済的ではない。自ずとプロセッサなどの林業機械を導入することで労働生産性を向上させるとともに、稼働率を高め、生産量を増加させることが必要となる。1990年代までであっても大面積皆伐の場合は集材機の稼働率も高かったと推察されるが、2000年代に入ると、今までとは違う形で両者を両立させる素材生産事業体が登場するようになった。これが車両系と呼ばれる作業システムである。

 車両系作業システムでは架線系作業システムよりも多くの機械を使うことがよく見られる。稼働率を上げたり機械購入費を抑制したりするなど様々な対策が行われ、生産コストを下げるとともに素材生産量を増加させている。

 一方、「小さい林業」については並材の大量生産を目指すことは得策ではない。むしろ、一本ごとの値段を高める努力が必要である。丸太の質を高めたり付加価値を付けたりして、きめ細やかな要求に応えることが適している。そこには徹底したマーケティングが必要であり、自伐することで費用を削る努力が求められる。ナンバーワンではなくオンリーワンを目指せば道は開けると考えられるため、画一性や制限の多い補助金を頼るべきではないと考えられる。

 ただし、現実には小さな林業で並材が生産され、材積量を揃えたのが大きな林業の実態である。生産面では規模の経済は発揮されず、各事業体から総量としての材積量は多いものの、事業体同士は組織化されていない。本来は事業体同士で連合を組むなどして数を頼りに需要者と交渉に臨むのが望ましいが、素材生産事業体同士がライバル関係にあるため、共同戦線を張りにくく、マーケットでの価格決定権を獲得するには至っていない。山側資本出資による商社的機能を持った会社が登場したり、超大型の素材生産事業体が登場したりして、需要者と交渉できる状況ができたとき、初めて我が国に大きな林業が登場したといえるであろう。

「林業」と「生態的な森林管理」でのスケールメリットを考える

山梨県森林研 長池 卓男

スケールメリットは、ごく簡単に言えば、コストを下げインフラ整備しやすいことで、「大きいことはいいことだ」を実現するということになろう。林業の世界では、団地化・集約化という言葉で示されよう。これは、何にとっていいことなのか、誰にとっていいことなのかを、木材生産を主体とする「林業」と生態系サービスを供給する「生態的な森林管理」について考えた。「林業」を推進する人材を育成するための准フォレスター研修のテキストでも、「生態的な森林管理」でも、本来は、「林分ごとの取扱と、地域や流域ごとの様々なタイプの林分をどのように配置していくかの両方の技術が含まれ、それらを同時に考えていくこと(藤森、2003)」が求められているはずである。
誰のため、何のための団地化・集約化なのかを考えた際、企業CSR・森林認証・炭素吸収源・住民参加型管理などの社会的システムとしての森林のあり方に関心が高まっている中、納税者の視点や低コスト化でもたらされる利益の配分など、を考える必要があろう。
また、ニホンジカがいないことを前提にして考えられた施業体系は、ニホンジカがこれだけ多い状況で運用できるのだろうか。端的に言えば、「林業がシカを増やした」と言われないための戦略を常に考えた「林業」が必要な時代にあるのではないだろうか。

 

林業の規模は施業と木材生産のあり方にどう関わるか

岐阜県立森林文化アカデミー  横井 秀一

 わが国では、1970年代にかけて木材需要が拡大する中、木材需要が並材市場と役物市場とに二分化していった。その時代は、拡大造林施策により人工林の面積は増えていたが、木材として利用できるまでの資源とはなっておらず、国産材だけでは需要の拡大に応えることができなかった。そのこともあり、並材市場は外材によって埋められるようになった。商社が介在して木材流通の大ロット化が進められたのである。
時代は流れ、人工林資源が成熟する一方で木材需要量が減少する中、(1)役物市場が縮小することによる国産材価格の低下、(2)必要な整備が行われない人工林の増加、(3)製材工場の大規模化が進んだ。これらに対応するため、現在、間伐の推進((2)への対応)と国産材の安定的な大量供給((3)への対応)が行政による施策誘導の柱になっている。その具体例が、山林の集約(団地化)による施業の集約化である。これは、所有者が異なり、所有山林の面積が小さくても、同種の人工林がまとまって分布するという特質を活かし、大面積で同種の作業を請け負い仕事で展開しようとするものである。実施主体は、森林組合を主とする林業事業体である。本報告では、こうした取り組みを「大きな林業」と呼ぶ。この形態の施業は、数十ha規模でのまとまった作業を、場所を変えながら展開する。これに対し、自ら(個人あるいは会社)の所有山林(数十haから数百haを想定)を軸に、小面積(数ha程度)ずつの作業を行う形態の林業を「小さな林業」と呼ぶ。加えて、これと同じような規模での受託山林の施業も「小さな林業」に含めることにする。ここで言う「大きな林業」と「小さな林業」の違いは、あくまで一度に連続して行う作業の規模と生産材のロットの大きさによるものと理解されたい。
本稿では、これらの形態の違いが現場の施業や木材生産のあり方とどのように関係するかを概観する。その上で、林業における施業の規模の多様さを考える。

大きな林業

大きな林業が目指すのは、スケールメリットを活かして収益性を高めることである。スケールメリットとは、作業の集約による木材生産コストの低減と、原木の安定的かつ大量な供給を武器にした大型製材工場などに対する価格交渉力の獲得である。原木の規格化(A材・B材などの区分)も、この過程で生まれた。
木材需要の大型化を岐阜県を例にみてみよう。2012年において、岐阜県の木材生産量は36万m3である。一方、県内には大小277件の製材工場があり、その年に24万m3(うち国産材は21万m3)の原木を消費している。2006年の木材生産量が28万m3であるので、生産量は2012年までの6年間に6万m3増加した。この間、2007年には新生産システム事業により年間3万m3が挽ける製材工場が、2011年には年間10万m3を消費する合板工場が稼働し始めた。県内の木材需要量が増加傾向にあり、それに応じるように木材生産量は増えている。しかし、その一方で、中小の製材工場の廃業も進んでいる。この先、2015年には年間10万m3の規模の消費が見込まれる製材工場と9万m3が見込まれる木質バイオマス発電所の稼働が計画されている。こうした需要に対応するためには、施業の集約化をいっそう進める必要がある。それとともに、今まで控えられていた主伐が進み、皆伐面積が増えることも予想されている。
皆伐による木材生産は、最も生産性が高い。しかし、その面積が大規模になると、森林の公益的機能が低下する恐れが大きくなる。また、大面積であるがゆえの再造林放棄が懸念される。
一方、間伐は木材生産でもあるが、その本質は森林の資産価値の向上と公益的機能の維持・増進である。これらを両立させるため、補助金による施策誘導で搬出間伐が進められている。この動きを事業体の種別にみてみよう。森林組合は、これまで保育間伐(伐り捨て間伐)を中心とする森林整備を得意としていたが、人工林の多くが利用可能な状態になり、搬出を伴わないと補助金を受けられなくなったために、団地化しての利用間伐を進めるようになってきた。素材生産業者は、これまで立木買いによる皆伐を得意としていたが、再造林を敬遠する森林所有者が多くなったため、利用間伐を行う機会が増え、団地化に取り組む事業体も多くなってきた。

大きな林業による間伐の現場

間伐による木材生産の現場では、生産性を高め、また、売り上げを大きくすることを目指している。このこと自体は、経済活動として健全な姿である。しかし、間伐後の森林に目を向けると、後々のことを考えた伐り方をしていないと思わざるを得ない現場が散見される。残存木(育成木と考えるべきだが、慣例に従って残存木と言っておく)は、将来の主力商品になる林木であるが、何本もの残存木の幹に傷をつけてしまった現場も見られる。これらは、搬出間伐が補助金受給の要件となる中で、間伐本来の目的が忘れられ、間伐そのものが目的化したことに原因があると考える。大きな林業の問題というよりは、それ以前の林業に向かう姿勢の問題であろうが、大きな林業を進めるに当たって付随して起こりうる問題として認識する必要があろう。また、意識だけでなく、初めて搬出間伐に取り組む事業体では、伐倒・集材の技術が未熟なことも指摘しておきたい。


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 団地化・施業集約化で展開される大きな林業は、現実的には、間伐とそれによる木材生産を一番の目的としている。すなわち、保育段階を終えた人工林が、作業の対象である。そこでは、伐採・搬出に関わらないところまでは手が回らず、また、気も回らないであろう。とくに材の価値を高めるための投資的作業(枝打ちなど)は考えにくい(多くの人工林が枝打ちの適齢期を過ぎていることもあるが)。森林経営計画の作成を通じた経営の長期受委託が目指す姿であるが、現実的には、よくて少し先まで見越した施業の受委託、多くの場合が作業の受委託にとどまっていると感じる。

小さな林業

並材の大量生産が進められる一方で、その流れに乗らない小さな林業の存在も忘れてはならない。大規模化した現場から生産される木材は、主に大手住宅メーカーや一般の工務店向けの製品を製造する工場へと流れる。材の仕分けと流通を効率化するため、A材~D材の品等区分がなされるようになった。また、製品のほとんどは規格品であるため、それを製造するための原木の径級・材長も規格化されている。このような一般住宅向けの構造材(無垢材・集成材・合板)や羽柄材の大量生産を支えるのが、大きな林業である。大規模工場で作られる製品の多くは、見え隠れ部材として建築に使われる。一方で、数量的には少なくなってきたとはいえ、見え掛かり部材として使うための優良材の需要は依然として存在する。また、これから増えると予想されるリフォーム市場では、既存の建築物の改修箇所に合わせた多様なサイズの部材が必要とされる。これらの部材の需要に対応できるのは、主に中小の製材工場である。当然、そこに向けての原木供給が必要である。
このような優良材需要や多品目需要への対応は、小さな林業が得意とするところである。優良材を生産するには、それに応じた丁寧な材の取り扱いが求められる。需要に応じた多様な材長での造材には、手間がかかる。規模を拡大した作業現場では、こうした複雑さに対応することは難しく、これらの市場に向けた材は生産しにくい。

小さな林業が得意な分野

例えば、一口に優良材といっても、求められる要件は様々である。その要件を満足させる材が生産できる森林は限られる。無節が求められるのであれば、枝打ちがなされている必要がある。均一な年輪幅であれば、こまめな間伐が繰り返されているとよい。すなわち、過去の履歴(将来への投資をきちんとしてきたかどうか)によって、それらの材が生産できる現場が決まってしまう。収穫の場面では、丁寧な伐採と造材も必要になる。
また、少量・多品目の需要に対しては、顧客(工務店や製材所)のニーズの把握と、そのニーズへの迅速な対応が求められる。ニーズの把握では顧客との信頼関係が必要であり、ニーズへの対応では現場作業員との信頼関係が重要になる。
それらに加えて、注文材への対応も小さな林業の守備範囲である。例えば、神社・仏閣の建立、歴史的建造物の改築や修復、特殊な設計の建築などでは、大径かつ長尺の材が求められることが多い。この需要に応えるためには、成熟した森林を有し、その資源管理(在庫管理)ができていなければならない。すなわち、所有山林もしくは管理山林のどこにどんな材が獲れる林木が存在するのかが把握されていることが必要である。さらに、納期の厳守も欠かせない。そのためには、注文が発生したら即時に動ける体制ができていること、すなわち現場に機動性がなければならない。

小さな林業の事例

小さな林業の事例を3つ見てみよう。
岐阜県のNさんは300haの山林を所有する専業林家の9代目である。伐期齢80~90年でスギ・ヒノキの優良大径木生産を続けている。近年では効果的な路網配置を進め、プロセッサ・グラップル・クローラダンプ・集材機などを駆使して、高い生産性を上げている。それには、集材や運材に関する様々な工夫も効いている。各種の作業は、自社のチームで実施しており、そのために現場との意思疎通を含めた機動力は高い。所有山林の在庫管理も行き届いており、ジャスト・イン・タイムで注文材に対応することで収益を上げている。
長年、小面積での皆伐一斉林施業を基本としてきたが、近年では主伐を数回に分けて行いながら更新(植栽)を同時に進める漸伐作業も取り入れている。そのため、所有山林は法正林状態に近いモザイク的な林分配置となっている。また、若齢時からの枝打ちを励行し、間伐も計画的に実施されている。


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 山形県のKさんは70ha(うち人工林60ha)の山林を所有し、祖父の代から3代にわたりスギの長伐期優良大径材生産を続けている農家林家である。高密度路網を活かし、スイングヤーダを使った自家搬出を行っている。伐採の仕方は、単木択伐としている。森林所有者、製材業者、設計事務所、大工・工務店が協力して、地域材を使った家づくりを行う、産地直売システムを構築している。
平成22年度の実績は、雪害木中心に伐採を行い、85年生の林分で120m3(3・4・6・7・9m)と45~80年生の林分で128m3(3・4mとB材の2m)を販売したという。ここで注目したいのは、造材が様々な材長でなされていることである。


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 岐阜県のK森林組合は、組合員数920人、組合員の森林面積4,714haの森林組合である。組合員の50%以上が1ha未満、80%以上が5ha未満の山林所有者と、組合員の所有山林は概して小さい。この地域は、かねてから道づくりに力を入れており、路網密度は52.5m/haと高い。この地域はヒノキの産地であり、組合の市場を持つなど林産事業にも力を入れており、さらに販路拡大の努力も続けている。この組合では、輪伐期30年の択伐林施業(多段林施業)を指向し、その林型に移行させるための森林整備に取り組んでいる。多くの森林組合が大きな林業を指向する中、地域の特質を活かし、さらにそれを高度化しようと小さな林業を実践している。


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「大きな林業」と「小さな林業」の役割と展開方向

大きな林業に期待されることは、手入れ不足であった人工林の間伐が進むこと、その間伐によって木材が安定的に市場に供給されることである。生産性が低くなりがちな間伐の収益性を高めるためには、木材単価を高くすることと生産コストを低くすることが必要となる。大きな林業では、大ロット・安定供給を武器とした価格交渉により、木材単価の高値・安定を目指している。低コスト生産のためには、路網を配置し大型機械を投入する方向でことが進んでいる。ここで注意しなければならないのは、搬出・造材・運搬はコストであるが、間伐木の選木・伐採は森林の価値を高めるための投資であるという感覚を持つことである。これがないと、間伐が単なる生産活動に終わってしまう。
大きな林業では、作業を実施する者と森林所有者が異なる中、森林所有者(委託者)に最大限の利益を還元しなければならない。そのためには、今の作業の生産性と売り上げだけを考えるのではなく、作業後に山林の資産価値が高くなるような作業をする必要がある。また、販売価格が高くなるような造材も必要である。それには、技術者の育成が欠かせない。また、今は間伐が主体であったとしても、今後の主伐や再造林についてもきちんと考える必要がある。
小さな林業に期待されることは、多様な市場への木材供給や地元密着型の木材生産による地域産業の活性化である。ここでの指向は、品質が担保された高価値材の生産や売り方の工夫・差別化である。高価値材を生産するためには、丁寧な育林作業による(将来の)商品に対する投資、伐り旬を踏まえた伐採、注文や需要に応じた造材、葉枯らしなどの取り組みがあろう。売り方に関しては、物語を付けて売ることや、注文に対して即納で対応するなどで有利な販売を目指すことが考えられる。

林業における規模の多様性

林業の規模の問題は、単なるスケールの話ではない。大きな林業と小さな林業とでは、対象とするマーケットが違い、生産目標や施業のあり方が異なる。すなわち、林業経営のあり方(経営体の存在意義、経営に対する考え方や目指す方向性)が異なるということである。このことに関しては、経営の門外漢が偉そうなことを言えた義理ではないので、専門家の議論を待ちたい。
現在、わが国の林業、とくに行政は、施業の大規模化を指向する傾向にある。しかし、この大規模化指向が小さな林業を排除するものであってはならない。また、本論では話を単純化するために大きな林業と小さな林業の比較をしたが、事は単純な二極化で考えられるものではない。様々な規模での林業の形態があること、すなわち規模が多様であることが、わが国の林業全体の健全性につながると考える。
多くの林業関係者が様々な取り組みがあることを知り、また、その内容と長所短所を知るという、林業界全体での情報共有ができるとよい。行政分野には、多様な林業形態の共存に対応した施策の展開を望む。また、研究分野には、多様な現場に対応した技術開発を望む。規模を含めた施業の多様性が高まれば、わが国の林業はさらに進化するであろう。

参加者からの感想

新潟大学院自然科学研究科  秋保開祉

森林施業研究会への参加は今回が初めてでした。私は現在、修士1年で(4月からは修士2年ですが)、森林生態に関わる学科に所属してはいるものの、自分の研究テーマに取り組んでいるだけでは「林業」との関わりを持つ機会がそれほどないのが現状です。今回、森林施業研究会のシンポジウムに参加したことで、林業におけるトレンドを学ぶことができ、林業の今後について真剣に取り組まれている研究者の方が全国にたくさんいることを改めて実感しました。また、長伐期施業への移行や、バイオマス発電などによる需要増加に伴う伐採後の管理方針の検討などにも取り組む必要があることも知りました。これからの林業は伐期を迎えた林分の取り扱いが重要なテーマだと思います。それに伴って、川上から川下までをどの様に、どれほどのスケールで繋いでいくのか、自分でも改めて考えてみようと思いました。

全国林業改良普及協会 安藤麻菜

少々時は経ちますが、造林学を学んでいた大学時代から念願だった森林施業研究会シンポジウムへの参加。今回のテーマは、「大きな林業」と「小さな林業」とのことで、これからの森林・林業を考える上で何か知見を広められるのではと思い参加しました。とかく会場に向かう際には、大きな林業といえば大面積所有者の方が営む林業や大規模集約施業、小さな林業といえば、地域通貨を利用した林業や副業型自伐林家かなと漠然的なイメージを思い浮かべていましたが、講演内容からは、テーマに関する経営、生産・生態系の安定、規模拡大といった角度の内容を3名の講師が各分野・研究に基づいてお話してくださり、新たに知ること、整理されたことなどもあり大変勉強になりました。

特に藤野氏からは、私が漠然的にイメージしていた「大きな林業」「小さな林業」を木材生産の具体的な数値で定義づけしていたことで改めて勉強になりました。また、最も興味を惹かれたのは、「小さな林業」のビジネス戦略について。オンリーワンを目指すとあっても、なかなか個人で考えたり実行することは難しいですが、個人個人が集まったコミュニティにマーケティング人を置くという体制は、個人でやるよりも心強く、多種多様な小さな市場に対応できれば、時代や社会に応じた、むしろ大きな変化に振り回されない林業を営むことができるのではと楽観的かもしれませんが、大変想像が掻き立てられました。
横井氏からは、林業のあり方を分かつ要因や大きな林業・小さな林業の役割のお話があり、それぞれの林業の特徴も整理されていて理解しやすく興味深いものでした。中でも、「大きな林業は生産に向くが保育には不向き」という言葉通りの現場写真が衝撃的で、生産・効率重視にすれば施業の技術が先走り、「目指す森づくり」を置き去りすれば、将来に繋がらない森になってしまうと改めて危機感を持ちました。かといって、大・小の規模のそれぞれのメリット・デメリット、生かす特徴というものしっかりと視点にいれて今後の林業を考えていきたいと思います。上記2名の講師の講演内容からは、「大きな林業」「小さな林業」というカテゴリーで林業をあまり考えたこともなかったもので、その点大変勉強になりました。
最後に、長池氏の講演からは、特に川下側の視点についてのお話しが心に残りました。「企業の森づくりでは、川上側がその応援してくれる人に対して説明できないといけない」「川下側は林業だけではなくそれ以外でも期待している」とのご発言があり、以前の職場での企業の森づくりサポートの体験をふと思い出しました。
私の経験でも、確かに、企業の方との会話の中からは、木材生産としての山ではなく、風致景観・生物多様性に期待していたなと。しかし、なかなか私的・公的の2面性を持ち合わせている森林に対し、特に山に関心がない森、関心があってもどうしたら良いのかと悩んでいる森林所有者の方へ川下側の思いに応えるといっても難しい問題です。少々話はそれますが、カエデの樹液採取から地元の製菓業者と商品づくりを連動させ、森林保全と地域経済の両立した新たな林業モデルを取材させていただいたことがあります。立っている木から樹液で毎年収益が山側に得られると、現在の林業の先が見えなかった森林所有者の方々は希望と実感を得たとのお話しがあり、さらに、人工林と天然林を合わせて複合的にしていけば林業再生の希望も見えてくるのではとおっしゃっていました。
要は川下側の期待、公益的な森林の機能の発揮という観点から考えると、従来通りの木材生産という林業の枠組をとっぱらい、地域の資源を多角的に見つめ、川下を見るなりすれば、山に関心がない森林所有者、ひいては川下側の期待も見据えた開けた林業ができるのではないだろうかと思った次第です。

取り留めもない内容で、的を得ていない感想でなく恐縮です。まだまだ知識・経験・思考が浅い私ですが、今回のシンポジウムに参加したことで色んな刺激・視点をいただきました。スタッフの皆様、講師の方々貴重な講演をありがとうございました。また参加させていただきたいです。

ともえ地盤情報室 仲矢順子

もともと建設業界におりましたが、3年ほど前から民有林の管理に関わり始めたいわゆる新規参入業者です。施業研究会のシンポも3年ほど前から拝聴するようになりました。いつもは他の集会とのかけ持ちで途中退出のことが多かったのですが、今年のシンポジウムは最初から最後まで聴くことができました。いろいろと考えさせられる話題が多く大変参考になりました。以下、聴きながら考えていたことです。
シンポジウムを通して「大きな林業」と「小さな林業」が互いに接点のない、相容れないもののように議論されていたように感じたのですが、私自身はそれ以外の関係も考えられないかと思っています。同じ地域の中で森林組合等事業に全面委託を希望する森林所有者と自伐を希望する森林所有者が混在している場合、事業体と自伐林家が共同で経営計画を樹立し、基本的にはそれぞれ独立した施業を行いながらも要所で協働するということが、現行制度ではできないでしょうか?
例えば、路網整備については基本的に経験の豊富な事業体が一括して行い、自伐林家もその路網を利用して施業を行う(自伐林家の所有地内の枝線は自分で開設しても良いし、事業体に委託するという手もある)。また販売についても、事業体と自伐林家の搬出材を取りまとめた共同土場を設け、場合によっては相互に出材調整を行うことで、地域として組織的に市場での交渉力をつけていくことが可能なのではないかと思っています(これは本来、木材市場がやるべきことのような気もしますが)。講師の藤野さんもおっしゃっていましたが、よほどのブランド材など有していない限り、市場で山元が主導権を得るにはある程度規模を武器とした交渉が必要であり、そのために地域での組織化は必要だと思うのです。また、素材生産だけでなく、造林・育林においても、地域で組織化した方がやりやすいこともあると思います。
また協働の中には、事業体による自伐林家のサポート事業のようなものも考えられます。自伐だからといって何もかも自分でやらないといけないわけではなく、かといって一部の作業しかできないからといって自伐をあきらめて事業体に全面委託しないといけないというわけでもないと思うのです。例えば、伐倒作業が不安であれば、当面の間は伐倒を事業体の熟練作業者に委託して、搬出だけ(場合によっては販売まで)自分で行うということも考えられます。伐倒を人に頼んでいたら自伐じゃない、と言われそうですし、コストに人件費を見なくてすむという自伐林家の「優位性」も薄まってしまいますが、最初のうちは一部委託しながら、徐々に直営できる部分を増やして自伐林家として「自立」していくというやり方もあると思います。事業体はそんな自伐林家のサポートを収益事業にできないでしょうか。作業講習会など教育活動を行っても良いと思います。
もちろん共同経営では事業体と自伐林家の間で経営や作業についての調整が必要ですし、特に事業体の効率化がある程度犠牲になるようには思います。何より、必然的に共同経営の主体になると考えられる事業体には相当なマネジメント能力が必要とされるでしょう。しかし、地域で生活する自伐林家たちが自分の山を自分で管理・活用するという行動は、地域活性化のためにも非常に大事なものと思うのです。またそういう自伐林家と事業体とがうまく組織化され協働することによって、地域林業が持続的に市場での主導権を得ることで、事業体にも単なる施業の効率化だけでは得られないメリットが生じないでしょうか。
まだ経験が浅く不勉強なこともあって(かつ考えもまとまっておらず)、とんちんかんなことを書いてしまっているような不安もあるのですが、林業を産業として成り立たせ、事業体も自伐林家も林業で安定的に稼いでいけるようにするにはどうすれば良いのか(もちろん、事業体に山を委せてくれる森林所有者にも利益を還元することを含めて)、考えております。今後もいろいろと勉強させていただければありがたく思います。

林業スケールにも多様性を

森林総合研究所 四国支所 酒井 敦

今回の施業研究会のテーマは日本の林業の将来像を考える上できわめて重要だと思います。民主党政権の時は「森林・林業再生プラン」を推進し、「大きな林業」を指向しない事業体は取り残されるような感がありました。その一方で、土佐の森救援隊のように小規模な自伐林家でも少しずつ収益をあげる仕組みを求める動きがあります。森林組合や素材生産業者のような組織が団地化を進めて「大きい林業」を目指していく中で、小規模林家でも望めば生産を続けていけるような、両者が生き残れる仕組み作りが望ましいと思います。しかし、藤野氏が指摘するように売り手側(川上側)が安く買い叩かれるなど、木材価格や木材流通の決定プロセスの不透明さが「小さい林業」に不利に働いているのかもしれません。四国の山に行くと(全国共通と思いますが)たいてい、森林所有者の高齢化、後継者がいない、山を手放したいという声を聞きます。林道整備や高性能機械の普及もさることながら、山林の土地所有や売買、相続に関する法律を抜本的に変える必要があるのではないかと思います。ところで、オーストリアは地形が急峻で、土地所有者も零細、日本とバックグラウンドは似ているにも関わらず、高い生産性を維持していると聞いています。寡聞にしてその違いがどこにあるのかわからないでいます。今度誰か教えて下さい。
山に人がいなくなる中で、長池氏が赤谷プロジェクトで紹介したような、地位や地利による経済林のゾーニングはこれからますます必要になってくると思います。戦後の木材特需、豊富な労働人口が山にあるという特殊条件の下で林業には向いていない場所まで拡大造林が進みました。減っていく人口に相応した無理のない木材生産のため、そして山の生態系機能を取り戻すため、科学的な知見と実践が求められています。また、皆伐・再造林する場合、横井氏が指摘されたように、伐採面積、すなわち施業スケールをどう設定するかも重要なテーマです。しかも、日本の多くの場所でシカが立ちはだかっています。広い皆伐地をつくるとそれだけシカのコントロールは難しく、狭いと収益性は上がりません。事業体の大きさや体力に応じた適切な施業スケールがあるはずです。尾根や渓畔の保残帯をどれくらいの広さにしてどう配置するかも、皆伐するときに突きつけられる問題です。今までのようなモヒカンのような保残帯で本当に生態系機能が果たせるのか、科学的な知見が必要です。
最後に、代表を務める大住さんが森林総研を退職されるのを、私は迂闊にも学会が終わるまで気付きませんでした。鳥取大に移られたので、今後もますますご活躍されることと思います。(研究会が終わり2ヶ月後に原稿を書いているので記憶の曖昧さはご勘弁ください!)

森林施業研究会よりお知らせ

 2014年4月1日に森林施業研究会の会長、事務局長が交代いたしました。

会長    横井 秀一(岐阜県森林文化アカデミー)
事務局長 小山 泰弘(長野県林務部)

これからも森林施業研究会をよろしくお願いいたします

<編集後記>

 日本森林学会の100周年の記念すべき大会で行われたシンポジウムの様子をお伝えさせていただいた。では、昔はどんな研究がなされていたのか、調べようとしたら、今年の3月から日本森林学会のHPから、日本森林学会誌(昔は林学會雑誌)の過去の掲載論文が第一号(1919年)からダウンロードできるようになっていた。「林学會雑誌発刊に就て」と題して第一号の巻頭辞を飾ったのは本多静六であった。林業は日本の産業を支えるという強い思いが伝わってくるような文章であった。現在の林業はその当時とは勢いが比ぶべくもないが、それでも何とかしようという人もいるのだと今回のシンポジウムで感じていただければ幸いである。

 現在、テレビをつければワールドカップの話題で持ちきりであり、他のニュースは影が薄い。そんな中、6月10日に福島県只見町がユネスコ・エコパークに登録決定という知らせが入った。インターネットのニュースの見出しでは「南アルプス市が・・」というものだったので、只見町まで気づいた方は少ないかもしれない。

 只見町は森林施業研究会の現地検討会で2012年にお邪魔した場所であり、当研究会の元会長が在住し、検討会ではエコパークに関する講演をしていた。施業研とも関わりの深い地域であり、登録に関して祝意を表すとともに会員各位にお知らせする次第である。

 

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