木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ−ズ・レター          No.3  1998.5.5
Newsletter of the Forest Management and Research Network

第3回研究集会に多数の参加者・時間オーバーの熱のこもる講演!
 宇都宮大学で開催された日本林学会大会の3日目(4月4日),恒例の森林施業研究会主催の「第3回森林の新たな方向を考える研究集会」が開かれました。今回のテーマは,「森林の多目的利用と施業・管理」ということで,森林の持つ木材生産以外の機能に注目した森林施業・技術についての話題提供と,それをめぐる討議が行われました。取り上げられた話題とその提供者は,次の通りでした。
(1)河川生態系を保全する水辺林の造成
    柳井 清治(北海道立林試)
(2)野生動物との共生を目指す森林施業
    石田 健 (東大秩父演習林)
(3)都市近郊林の利用と管理施業
    中川 重年(神奈川県森林研究所)
集会参加者およそ100名で,会場が満席になるほどの盛況ぶりでした。集会は,主催者側の不手際などで,十分な討議の時間が取れないなど問題もありましたが,今後の研究会活動への足掛かりをつくることが出来たように思われる。集会についての詳しい報告は,森林科学誌に掲載の予定ですので,ニューズレターでは,研究集会参加者の意見,感想などをいくつか紹介したいと思います。

講演会場の様子(22k)

林業者が魚を育てることの意義を知る?!
紙谷 智彦(新潟大学大学院自然科学研究科)
 第3回目の施業研究会は「森林の多目的利用と施業・管理」が全体テーマで3氏の講演があった。鈴木さんからこれらの講演についての感想を書くようにとの依頼をいただいた。私自身は、前日のテーマセッションに関連させて、ターゲットとする種とそのハビタットの保護・保全・回復という観点から聴いた。柳井氏はサクラマス、石田氏はツキノワグマ、そして、中川氏はヒト(特に、オバサン)である。3氏ともにターゲット種の生態や棲息状況にもとづいてハビタットの管理のあり方についてのすぐれた提案をされていたと思う。ただし、主催者も悔やんでおられたが、時間の制約でほとんど総合的な論議はなかった。今後は、主催者側の話をやめてでも、議論する時間を十分に確保すべきだろう。ここでは、スペースと私自身の時間的制約から、柳井氏の講演についてのみ若干の感想を述べてみたい。
 道立林試の柳井氏は渓畔域の森林を「サクラマス」の棲める環境に戻すための工夫をこらした研究を紹介された。渓畔を覆う森林の喪失が水温の上昇をもたらし、渓流魚減少の主要な原因になっていることはこれまでも河川生態系の研究者によって指摘されているが、サクラマスにおいても同様の現象があることを示された。とくに、稚魚のステージでは流れが緩く植生が水面を覆っている岸辺が重要なハビタットであることを示したデータは説得力があった。
 これらのデータにもとづいて、柳井氏は、渓畔林が失われ、流れが直線的に変えられた渓流にハビタットリハビリテーションを試みた。瀬と淵を人為的につくりだすためにカラマツの間伐材を利用していくつかの工法で水流を変化させ、また、渓流沿いの草地には天然更新により樹木を更新させ、さらには、専門家の指導の下にサクラマスの卵を渓床に直接埋め込むということまで試みた。
 陸生昆虫が渓流魚の重要な餌資源であることは、前日のテーマセッションで河口・中野により示されたが、サクラマスについても渓流内の生息環境を回復させるだけではなく、餌資源を支える流域の森林生態系全体を考慮したリハビリテーションが必要になるかもしれない。
 柳井氏は、林業では収穫が期待できるまでには最低でも数十年必要であるが、森林を流れる川をリハビリテーションすれば、スポーツフィッシングによる定期的な林業収益が期待できると意欲的であった。柳井氏の試みは、サクラマスの増殖によって山に経済効果をもたらすという明確な応用的目標が設定されており、生態系の保全と回復に経済戦略的な要素も加わり刺激的な内容であった。

あちらの世界(現場)とこちらの世界(研究)をつなぐ努力
塚原 雅美(新潟県森林研究所)
 施業研究会の研究集会に参加したのは、今回で2回目です。
 現職の前は、行政現場にいました。研究する人たちの世界をこっちの世界としたら、行政現場の世界は、とおい海の向こうのあっちの世界です。あっちの世界は、さまざまな矛盾でいっぱいです。日本人の良識を疑うことも日常茶飯事ですが、しかし、ちょっと、これは、適当ではないから、まて、ということがなかなかできません。それを批判することは簡単です。しかし、私の場合、自分の職責でしたので、そう気楽にしているわけにもいきません。職責をまっとうするために、つぎつぎとあらわれる矛盾、無理難題を少しでも排除し、技術者として、可能な限り有益なお金の使い方をするよう努力するのが本当です。しかし、そうありたいと願っても、それを可能にする技術も知識も、自分にはありませんでした。そこで、ぜひ、そういうものを身につけたいと願い、こっちの世界に期待していたわけです。その後、機会があって、こっちにきてみたら、施業研究会というのが、いかにもという形でそこにあったので、前回はじめて参加させていただきました。そこで、同じようなことを考えている人が、こっちにもすでにたくさんいて、現場でいろいろ取り組んでいるということを知りました。また、理路整然と整理される発表をきき、自分のイメージがいかに茫漠としたものであったかにも、気づくことができました。
 今回の発表タイトルをみたときは、前回がストレートに林業的な施業を打ち出していたことに比べると、多少、?、という気持ちもありました。しかし、参加させていたいだいて、もはや、林業は樹だけ見てればいい、という時代ではないんだなあ、と、また考えなおすことができました。このように、施業研究会は、最初期待していた、こうしたら、こうなりますよ的な施業マニュアル会でこそありませんでしたが、期待どおりであれ、意外な点であれ、新しい気分になれるという点で有益でした。しかし、そのせいで、既存のビジョンが揺るがされるのも事実で、こっちの世界での職責をどうやってまっとうしていったら良いのか、近頃、さっぱり見えなくなってきてしまいました。ようやく、はじまり、ということなんだろうと思うようにはしていますが、なんとも、心もとない限りです。しかし、考えを再構築するためには、いま現場にいる技術者の方々も、ぜひ、このような目に遭うのが適当だろうと思いますので、大勢参加してもらいたいものです。

「持続可能な森林経営」の中で考える森林施業の在り方
泉 桂子(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻)
 去る4月4日第109回日本林学会大会の際に行われた「森林施業の新たな方向を探る研究会」に参加させていただきました。森林の多目的管理のあり方について研究している一学生の立場から、以下全体的な印象・感想について述べさせていただきます。
 研究会の感想については次の2点です。まず、森林施業の問題について実に様々な分野の方が関心を持たれ、この研究会に参加しておられるという印象を強く受けました。研究会では、3人の方々が様々な専門分野から、森林の多様な管理のあり方について報告されました。また、報告後の討論にも実に多くの分野からのコメントが出されました。同じ林学を研究しているものどうしでも、このように林学の中の各専門分野が細分化している現在では、異なる分野のものどうしがひとつのテーブルにつき、共通の話題についてディスカッションできる機会は大変貴重なものであると思われます。事実、私も報告者の石田さんと同じ大学に所属していますが、石田さんの具体的研究内容については、私の勉強不足もあり、研究会に参加するまでは深く知りませんでした。その意味で、新たな森林施業のあり方について各分野間の横断的な議論の場を形成していこうとするこの研究会の試みも、また「新たな」ものといえるのではないでしょうか。林学を学ぶ一学生としては、このような場が提供されること自体が、大変貴重なことに思われます。
 第2に、近年森林経営の分野では、国内外で「持続可能な森林経営」についての議論が盛んに行われていますが、その実現に向けては具体的な森林施業のあり方が、そのキーとなるであろうということです。4月4日、私は午後から森林計画学会の「持続可能な森林経営」に関するシンポジウムに参加しました。そこでは、「持続可能な森林経営」に関する基準・指標、モデルフォレストネットワーク、森林認証制度等について盛んな議論が行われていました。これらはいわば「持続可能な森林経営」の国際レベル、国レベルの取組です。その意味で、当研究会の森林施業レベルとは、話題の次元が異なりますが、両者を聞き比べてみると、同じ問題をより立体的に捉えることができ、良い勉強になりました。
 今日の「持続可能な森林経営」の概念は単に木材生産の保続だけでなく、森林生態系の保全、あるいは地域文化の継承といった幅広い「持続」の概念を包含したものとなっています。今回の3人の報告(付け加えれば昼休みの渡辺先生の報告も)は、まさにそれぞれが「持続可能な森林経営」のひとつのケーススタディを示しているともいえるものでした。そこで私が強く感じたのは、「持続可能な森林経営」にうたわれているような森林の多様な機能を持続的に利用していくことを念頭に置いて、個々のケーススタディを検討してみると、森林を機能毎に区切って管理する管理手法を活用しつつも、その一方で同一の林分で異なる機能どうしを調整しつつ発揮させていくという管理手法も完全に排除することはできないという点でした。例えば、石田さんの例でいえば、ゾーニングによってクマの生息域と木材生産を行う地域との区分を提案されていましたが、問題は単なる線引きでは解決しないことが指摘されていましたし、渡辺先生の報告では経済的価値の高い木材生産と水土保全の両立がメインテーマとなっていました。このような同一林地で異なる機能どうしを調整しつつ発揮させていく管理手法においては、まさに森林施業がその両立の鍵となりましょう。その意味で、この研究会の「現場主義」の姿勢は大変示唆に富むものでした。
 最後に今後の研究会の活動について2つほど意見を述べさせていただきます。まず研究集会の進め方についてです。一人当たりの報告(個々の報告への質疑を含む)が、このたびの集会では、約1時間でした。そのため、総合討論や総括の時間がほとんどありませんでした。どの報告も大変興味深かったのですが、折角様々な分野の方が集っておられるのですから、総合討論の時間を設け、活発な意見交換をはかってはどうかと思います。そのためには、報告はある程度論点を絞り込んだものでなければならないと思います。または、各報告者の報告の後に、関連した研究者から5分位の簡単なコメントを設けると、報告の要点・今後の課題等がはっきりし、議論も進めやすくなるように思われますがいかがでしょうか。
 もう一つは、集会の席で提案のあった現地検討会をぜひ実現すべきであるということです。当研究会の趣旨に添うものであることはもちろんのこと、参加者どうしの交流を深め、情報交換を行う格好の機会であると思われるからです。
 以上、感じたままを述べさせていただきました。最後になりましたが、研究会の運営を担当し貴重な学術交流の場を提供して下さっている事務局及び地区世話人の皆様に心よりお礼を申し上げます。

釣り人はどのような川を望んでいるか?!
荒木 眞岳(京都大学農学研究科地域環境科学専攻)
 第1回の人工林施業,第2回の天然林施業に続いて,今回は「森林の他目的利用と施業・管理」というテーマのもと,魚を含めた河畔域の保全,野生生物との共存,市民参加の森つくりという3つの話題が提供された。なかでも柳井氏による「河川生態系を保全する水辺林の造成」は,サクラマス(ヤマメ)という魚の視点から,河川,河畔林を含む河畔域をどのように管理・保全していくかという内容でとても興味深かった。
 ところで,昨今の釣りブームで釣り人口が増えたといわれる。なかでもフライフィッシング・ルアーフィッシングなどいわゆるスポーツフィッシングが盛んになってきた。彼らは魚を釣って食べるのが目的ではなく,釣るまでのプロセスを楽しむというのが特徴的だ。そこで,彼らがどのような川を望んでいるかを,一フライフィッシャーマン(釣り人)の立場から書いてみようと思う。まず,魚がたくさんいること(これはたくさん釣れるということとは同義ではない)。それも放流したての魚ではなく,できればヒレのピンとしたきれいな天然魚を望んでいる。次に,瀬・渕構造が発達し蛇行しているような,できるだけ自然に近い川であること。いくら魚がたくさんいても,コンクリートの水路では興ざめである。さらに,周囲は落葉広葉樹の森林であり,陸性昆虫が豊富で,人工的な建物が目に入らないようであれば言うことはない。
 多分に主観的になってしまったが,彼らはこのような川を望んでいると思う。柳井さんの発表では,北海道において,河川と森林の相互作用という観点からこのような川つくりを実際に試みられていた。例えば,河畔に森林を造成することは,単に見た目の問題だけではなく,日射を遮蔽し水温の上昇をおさえる。これは冷水を好むサケ科魚類にとって重要な意味を持つ。同時に,河畔林の樹冠は水生昆虫の餌となる落葉や陸生昆虫を川に提供するといった機能も持っている。また,丸太を使って段差を作り,瀬・渕構造や蛇行性の発達を促していた。このことは,地形や水流に不均一さをもたらし,サクラマスの住み場所を提供する。このように,魚・河川・森林とそれぞれの関係を考慮に入れた河畔域の管理の試みという発表であった。
 最後に柳井さんもおっしゃっておられたように,今後は,水辺緩衝域(Riparian Management Area)というものを設定し,河川と森林を包括的にとらえた河畔域の管理・保全政策の確立というものが必要になってくると思われる。

施業を視野に入れた研究の重要性を認識するひとつの契機になりました
峯苫 栄子(九州大学大学院・造林学教室)
 前回の九州大学での研究会に参加したときのときのみなさんの熱気と、また私自身が住宅地に囲まれたマツ林の中でデータを取っていることもあって、「森林の多目的利用と施業・管理」というテーマに惹かれて、今回も参加しました。まだまだ勉強不足の若輩者で、あまり大した意見は述べられませんが、今回の研究会の意見・感想を以下に書いてみたいと思います。
 柳井氏の発表のなかで、サクラマス保護のために、放流をしたり、また単調になってしまった流路にカラマツの間伐材でつくった構造物を配置することによって、変化に富んだ流路を創り出し、サクラマスが生息できるようにする、というお話は非常に興味深く聞きました。構造物をつくるのに、木材、しかも間伐材を使う、というのは(少し生意気な言い方ですが)非常におもしろい考えだと思いました。ただ、議論の中でも出ていたように、木造構造物が新たな災害を引き起こしかねない、という点は、今後の大きな課題になってくるように感じました。その点がクリアできれば、北海道だけでなく、ほかの場所でも応用できる方法なのではないかと思いました。
 石田氏の発表では、人とクマとが共生していくために、両者の生活の場の間にバッファーゾーンを設け、そこで出会ってしまったクマにはお仕置きをする、という施業が提案されていました。発表の中で、クマとの共生を目指す施業をすることの重要性をなかなか認識してもらえない、というお話があったと思いますが、研究と現場のギャップのようなものを感じ、非常に考えさせられました。
 中川氏の発表では、都市近郊林において、樹木の更新を促進するために、落ち葉かきを住民参加によって行っているというお話がありました。ただ単に林内作業だけでは面白味がない、ということで、作業のオプションというような感じで、野外でバームクーヘンやピザをつくるといったリクリエーション的な活動をしているそうです。これが非常に効果的で、特に女性の参加者が多くなっているということでした。住民参加の活動を行っていくことによって、身近な森林に対する住民の意識がどう変わっていくのか、非常に興味が沸きました。
 前回、今回と研究集会に参加したことは、私にとって、施業を視野に入れた研究の重要性を認識するひとつの契機になりました。そういう意味でも、今後、より多くの方、特に私のような学生の研究集会への参加が増えることを願います。

林業経営・森林管理の現場での具体的な活動に期待する
林田 光祐(山形大学農学部)
 今回の集会の3つの話題は、ともにこれからの森林の多目的利用を考えていく上で外すことのできない課題です。しかもそれぞれ実際に現場で実践されている方ばかりで具体的な事例をもとに話が提供されました。かなり斬新な試みの紹介もあって、今後このような目的を掲げた森林の取扱いを計画する場合にはたいへん重要な先例となることはまちがいありません。残念ながら最後まで参加することができなかったので、どのような総合討論がなされたのかわかりませんが、この研究会に期待して感想と意見を述べさせていただきます。
 この研究会に参加された方々はおそらく自分の研究を最終的には現場の森林の取り扱いにどのように反映させていくかと考えているかあるいはそのような研究を進めていきたいという思いで集まってこられていると思います。林学会そのものがそのような目的をもっているのですから当然だと思いますが、若い院生・学生を含めてこの集会に参加者が多いことはこの問題に対する研究者の関心は思った以上に高く、逆にその受け皿になる集会やセッションが少ないのではないかと感じました。ですからこのような集会は是非今後も続けていただきたいと思います。ただ気になるのは現在の林学会大会への参加者は大学・森林総研が大半で、県の試験場からも比較的限られた人しか来ていないように思えることです。研究者サイドからのアプローチだけでは結局壁にぶつかってしまうような気がします。この問題を解くにはやはり実際に施業計画を行う側の参加とその後の実際に作業を行う側の技術も焦点にあてる必要があるのではないでしょうか。
 ではどのようにしたらよいのか?このような問題はもう少し地域に根ざした活動が必要じゃないかと思います。たとえば各地の支部大会で具体的な施業の課題を行政関係者も交えて議論し、それを本大会の集会で持ち寄って議論するのもひとつの方法ではないかと思います。支部によって状況は異なると思います。東北では東北森林科学会と名称を変え、大会の形式も以前とはかなり変わりましたが、参加者は県の試験場を中心に行政の担当者も参加しています。このような場で具体的な技術の議論をしたほうがこの会の目的を達成するには有効ではないかと思います。

研究集会後の雑感−いろいろ問題があるんですよね−
石川 実(愛媛県林業試験場)
 愛媛県の行政組織の中では、愛媛県林業試験場の役割というのが、林業振興につながる技術開発である。林業振興につながらない研究は予算をつけない。まあ簡単に言うとこうなるわけです。もっと具体的に表現するならば、スギ・ヒノキの人工林をどう取り扱っていくか。どうすれば収益性の高い施業ができるか。造林分野を担当している身からすると、まさにこれは森林施業研究にほかならないのかなあと感じています。
 ただ実際の現場では、間伐方法ひとつとっても、技術が確立したかのごとく進んでいるのです。間伐が進まない理由は、間伐した木が搬出して市場に出していると、採算が合わないからだと、誰もが疑うことなく信じている。にもかかわらず、植栽するときの「haあたり3000本植え」は、大原則のごとく行われている。これは造林補助が、「haあたり2700本以上」が条件であるからだ。育林作業の中で間伐できないなら、植栽本数を減らせばいいのに。と私は考えます。つまり、「haあたり3000本植え」が大原則ではないので、今一度考える時期ではないでしょうか。
 複層林施業については、公益的機能を重視した施業であるとされ造林補助事業及び治山事業はどんどん進められています。にもかかわらず、実際には上木の成長に伴う光環境の変化や下木の成長に関するデータも現段階では集積中だったりして、研究成果があげられる前に行政事業が先に進んでいるのです。ですから補助事業は進みますが、間伐後下木を植栽しただけの複層林状態をした林が次から次へと造られ、その後の管理手法もよく分からぬまま、とりあえずは下刈りをしているといったところが、現在の状況でしょうか。
 早い話が、どちらも造林補助事業主導でスギ・ヒノキの人工林施業が進められているのです。これでよいのだろうか。林業技術って何だろう。まだまだ、やっていくことはあるんですよね。

これから森林、林学を学ぼうと考えている若い学生諸君に森林施業研究会への参加を望む
山中 典和(鳥取大学乾燥地研究センター)
 私は、現在主に海外の乾燥地域を対象とした森林や樹木の生態、緑化の研究をしておりますが、以前は大学の演習林に席をおき、現在も大学での林学、森林関係の教育に関わっているものです。過去3回の施業研究会に参加して、感じたことを述べさせていただきたいと思います。
 全体を通じて感じるのは、実際の現場で様々な問題に取り組んでいる人々からの熱いメッセージです。「まず、実際の現場を良く見なければならない。現場を良く見てものを考える。」これが古くから言われつづけてきて、かつ今日でも最も基本となる大原則だと思います。森林施業研究会でも参加者に共通する考えではないかと思います。現場の実情にあわせた、きめこまかな施業をどのように行っていくかが大きな課題だと考えます。その中で、機構的問題、技術的問題、人材育成の問題等の解決に向けて少しずつでも進んで行かなくてはならないのだと思います。
 森林施業の方向が様々に多様化してきつつある今、大学の研究・教育の場では林学の名前が消えつつあり、それぞれの研究は専門化の度合いを深め、ますます、息の永い研究はできなくなってきています。入学してくる学生も大きく変化しつつあります。特に大きな変化は森林について勉強したいと考えて入学してくる女子学生が急増していることです。半数以上が女子学生という学年も珍しくありません。昭和50年代に林学に入学した私より上の世代、男ばかりの暑苦しい学生時代を過ごした世代には考えられない変化です。入学してくる学生の内容が変化し、考え方や価値観も多様になってきています。それは大いに歓迎するところですが、やはり、皮膚感覚として森林、林業問題を認識できず、かなりマスコミに扇動された考え方に捕らわれている学生の多いことも事実です。そして、少し気掛かりなのは、学生が山や林業の現場に行く機会自体、全体に減ってきているような気がします。大学では様々な専門の講議が行われますが、林学で一番大事なのは、やはり「山に行く!現場をみて考える!」ことに尽きると思います。これは私自身の問題として、学生を積極的に山や林業の現場につれてゆく必要を感じています。
 今後、森林施業研究会では、実際の現場を見て、様々な問題を語り合う現地検討会を開いて行くと聞いています。これには行政の人間と現場の研究者、技術者だけが語りあう場ではなく、今森林・林学を学んでいる学生や、これから学ぼうとしている学生も大いに参加できる場にしていただきたいし、学生諸君にも積極的に参加していただきたい。大学の退屈?な講議や、身の周りの林学教官とだけの狭い関係の世界を飛び出して、現場の雰囲気や問題点を味わって欲しい。もし、夜を徹して、酒を飲み、語り合うことができたら、若い彼等にはこの上ない刺激になり、勉強になるものと思います。将来の林学、林業を背負う?若い学生の生きた教育の場としても森林施業研究会、現地検討会が機能して行ってほしいと思います。 その際に、貧乏な学生でも参加できるよう、学生に対して宿泊、食事等の面での配慮を少しでもしていただきたいと思います。

「持続的な森林管理 」をテーマに地域での研究発表会・現地検討会を
開催!−集会で確認された活動方針−

 地域世話人会および研究集会において,森林施業研究会の1998年度の活動方針が次のように確認されました。主な活動は(1)林学会大会に併せた研究集会の継続,と(2)現地検討会への取り組みです。
森林施業研究会活動方針
(1)研究集会の継続:次回、林学会大会時に第4回目の研究集会を開催する。テーマは、会員の意見をくみ上げた上で新世話役間で検討する。
(2)現地検討会の開催: 「持続的な森林管理」を当面の主題として、地域の話題を中心にした研究発表と現地検討会を、年に1回程度の予定で各地で行う。地域ごとの開催は、地域世話人・事務局が中心となって進め、県、営林局にも積極的に参加を呼びかける。第一回目は、静岡県(中部地区)の渡邊代表の管理する防災水源かん養路網実験林で行いたい。
(3) 技術情報の提供・交換:インターネットを活用した施業技術に関する情報交換を推進し、研究者どうし、研究者と行政、林業経営者が直接、情報交換できるシステムを確立する。その中で、地域世話人には、インターフェイスの役割を担っていただきたい。現在、ニューズレターの掲示を主目的に開設しているホームページをさらに充実し、情報提供も考える。
(4) 研究会の体制確立:研究会は将来に渡っても、会員の自主的活動を拠り所に進めることとし、研究会の活動は、絶えず森林に関心を持つ研究者、行政、市民に開かれ、自由な活動を保障する。
(5) 会員は登録制とし、本人の了解の下に名簿を作成し、事務局・地域世話人が保管する。会員名簿は非公開とし、情報の提供・交換を目的に、会員を紹介する際などに、この名簿を使用する。
(6) 会の運営費は、会員の寄付に依ることにする。
(7) 研究集会の報告は「森林科学」へ記録として掲載しているが、将来、成果が蓄積されれば、啓蒙普及のために何等かの形で出版の可能性を探りたい。

研究集会以上に盛り上りをみせた(?)世話人会
森林施業研究会の運営体制(世話人会)が発足しました
 研究集会の前夜(4月3日),集会に先立って,例年通り話題提供者を囲んだ懇親会が開かれました。今年から地域世話人会を兼ねて開かれた懇親会には,話題提供者,事務局,地域世話人のほか多数,実に20数名の人達が参加していただき,大変な(異様な)盛り上りをみせました。知り合いも,知り合いでない人も,お互い楽しく交流し,有意義な時間が過ごせたのではないでしょうか?!肝心の世話人会を無事発足し,不満は飲み足りなかったとの声!無視しましょう。

懇親会にて(40k)

<編集後記>
 当初に3回を予定していた研究集会も無事終えることが出来,事務局としては正直ホッとしているところです。第1回目は,ほとんど「線香花火」にもならないかななどと 悲観的な想いで臨んだものですが,今は研究会としての体制も整い,「小さな火花も荒 野を焼き尽くす(星火遼原)」勢いになるかもしれないなどと考えています。それだけ に,森林の育成・管理に直接的に結び付く「林学」再生への期待が大きいということで しょうか。1995年,北海道大学で開催された林学会大会の一般講演の造林(施業) 部門の会場は,屋根裏部屋のような狭い教室の上, 聞く人が10名にも満たないありさ まで,何とも今日の林学を象徴するよう状況でした。学会後,数人の仲間とアイヌ民族 の聖地の一つである日高町二屏谷を訪ね,ダムに沈み,変わり行く集落を目の前にして ,このまま「林学」を「森林科学」の名の下に,葬り去ってはいけない,何とかしよう と,「二屏谷の誓い」を立てたのが,実は何を隠そう研究会の始まりです。今回の研究 集会の感想の中でも,鳥取大学の山中さんが,「林学」への熱い想いを持って,林学を 志す学生に「研究会」への参加を呼び掛けています。現在,研究会は,研究者,学生に 止まらず,森林・林業行政に関る方々も含め,その登録者数は100名を超えています 。今年は,晴れて地域世話人会も発足し,運営も家族経営から零細企業程度に成長しま した。はじめての現地検討会・勉強会も計画されています。渡辺定元代表の乗る神輿( みこし)をひっくり返さないように,でもあんまり重いので疲れないように進んで行き ましょう(狢)。
 

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