木霊 (TARUSU)
  森林施業研究会ニュ−ズ・レター     No.6 1999.8.20
  Newsletter of the Forest Management and Research Network

「持続的な森林経営(経営)の基礎」研修会を兼ねる森林施業研究会
第2回現地検討会(東北合宿)を紅葉の安比高原で開催!
森林・林業関係者の多数の参加を!

 林業・森林管理の現場見学・セミナー・研修会を通じて,森林・林業に関る試験・技術交流と情報交換を目指して始まった現地検討会(通称合宿)がこの10月初旬,秋の深まり行くみちのく岩手・秋田を会場に開催されます。今回は「林内放牧とブナ等広葉樹の天然更新」および「スギの長伐期施業」をテーマに岩手(安比高原)と秋田(米代川流域)で現地検討が計画されています。また,合宿2日目には,本研究会代表の渡辺定元氏が持論の「持続的森林経営(管理)論」の特別講義が行なわれる予定です。すなわち,「東北合宿」の目的とするところは,展望の無い林業と姿の見えない森林管理の行方について,関係者が集い,論議する中で,森林管理・林業の在り方に新たな視点を導入し,新たな地平を切り開く第一歩とすることです。何やらいかがわしいカルト集団の研修会のような趣ですが,心配無用!是非とも参加を!

森林施業研究会・第2回現地検討会および研修会(通称:東北合宿)

日時:10月2日(土)−4日(月)
場所:安比高原(岩手)、二ツ井(秋田)
主催:森林施業研究会(代表:渡邊定元)
参加費:宿泊費+酒代のみ(18、000円以内でなんとか?)

スケジュール

10月2日(土)

午後6時、安比高原現地集合(安代林業センター)
午後7時よりプレセミナー
森林管理・林業技術などに関する軽い話題提供(3題程度)

10月3日(日)

午前8時30分より12時まで
「林内放牧と広葉樹の天然更新について」の現地検討(安比高原)

午後3時より5時まで
能代(秋田)の民有林経営について見学

夕食後午後7時より特別講義(きみまち阪ヘルスセンター)
「持続的森林経営とは何か_その理論と実践_」渡邊定元

午後8時よりセミナー
森林管理・林業技術に関する研究発表と討議(3題程度)

10月4日(月)

午後8時30分より午後3時まで
秋田スギ天然林の見学とスギ人工林の長伐期施業について現地検討
・水沢天スギ群落保護林・柳沢スギ天然更新試験地
・添畑沢間伐試験地

午後3時 現地解散

参加申込み・お問い合わせは下記の担当者まで。参加申込みは,住所,氏名,連絡先明記の上,FAXかe-mailで。

締め切りは9月20日とさせて頂きます。

*合宿実行委員会*

澤田 智志(秋田県林業技術センター)
e-mail:satosawa@d1.dion.ne.jp    TEL:0188-82-4511    FAX:0188-82-4443

正木 隆(森林総研東北支所)
e-mail:masaki@ffpri-thk.affrc.go.jp    TEL:019-648-3942    FAX:019-641-6747

金指 達郎(森林総研東北支所)
e-mail:kana@ffpri-thk.affrc.go.jp    TEL:019-648-3942    FAX:019-641-6747

 

<研究レポート>
間伐効率化技術対事業に取り組んで
山崎 俊彦

【はじめに】

 高知県の森林は県土の84%を占め、スギ・ヒノキの人工林率は63%となっています。しかしながら、これらの民有人工林の内、64%に当たる183千haの森林は3_7齢級(16_35年生)の要間伐林であり、今後も適正な管理が必要となっています。

 一方、林業生産活動は木材価格の低迷、生産コストの上昇、林業労働力の減少等により停滞をし、経営意欲の減退は将来の持続可能な林業経営に向けて危惧されることとなっています。

 本県においても、間伐を推進するため各種制度、施策を講じ、過去5年平均で年間13千haの間伐を実施してきました。この中で利用間伐材として搬出された材は全体の28%程度に留まり、全国平均の43%を大きく下回っています。間伐材が搬出されないのは前述の理由に起因しますが、特にここ数年は木材価格が横ばいか若干の下落に対して素材生産コストは賃金の高騰等により上昇する一方であり、条件が良い山林を除いては搬出をしても採算がとれない状態となっています。

 山元に立木代金を少しでも多く還元し、間伐を行う意欲を高めていくためには低迷する木材価格に太刀打ちできる高能率な搬出システムの構築が必要となります。また、生産性の向上や林業労働力の若齢化を図っていくためには林内路網の充実と高性能林業機械化が不可欠です。しかし、高性能機械を導入したからといって、簡単に生産性が向上し低コスト化につながるとはいえず、設備投資額、稼働日数、生産量の確保、現場条件に応じた作業方法、作業員の技能等、それぞれの因子を確保・最適化を図っていかなければ生産コストの低減につながりません。そこで、収入間伐を行うために全国で様々な方法が取り入れられていますが、一般的に労働生産性が高いと言われる列状間伐により調査した例を紹介します。

【調査内容】

 香美郡香北町有川にスギ27年生の人工林3,745m2に列状間伐区、定性間伐区を設定し、伐倒から搬出までの功程調査を行いました。列状間伐の方法は、1列を2.5m幅と設定し3列の7.5m幅を残し1列伐採する方法としました。

 今回調査した列状間伐区は、幅25m水平距離約74m、最大集材距離は斜距離で約90m、平均集材距離は約50mです。列状間伐での集材は、旋回ブーム式タワーヤーダによりランニングスカイライン式で全木集材し、造材はプロセッサで行いました。この調査で使用したタワーヤーダは0.45m3クラスのグラップルにイワフジ工業のインターロック機能付油圧2胴ウインチ「TW252」を搭載したものです。プロセッサは、シーケーエスチューキの 「CM-40Z」を使用しました。

 また、定性間伐区の集材は、自走式搬器「ラジキャリー(搬送能力1,000kg)」により全木集材し、造材は列状間伐と同様にプロセッサで行いました。区画は幅25m、長さ約77mでスパン長100m、最大集材距離は斜距離で約87m、平均集材距離は約50mです。

列状間伐による集材作業は、機械のオペレータ2人と林内での荷掛手1人で荷外しはプロセッサのオペレータが行いました。定性間伐においては機械のオペレータ、荷掛け、荷外し各1人で二つの間伐方法とも3人セットで、上げ荷集材により行いました。

 この調査地での間伐は、列状間伐区で本数間伐率31%、材積間伐率で32%、定性間伐区は、本数間伐率31%、材績間伐率28%です。本来10m幅の内2.5mを伐採するということは、間伐率で25%にならなければなりませんが、間伐率が前者より高くなったのは25m幅で3列の間伐を行ったためです。(表-1参照)。

 表−1.

【調査結果】

 伐倒から造材までの労働生産性では列状間伐が1人1日当たり4.04m3、定性間伐では2.08m3となり、列状間伐は定性間伐の約2倍となっています。(表-2参照)。m3当りの生産コストは列状間伐で12,441円、定性間伐では17,671円となり大幅なコスト減となっています。(表-3参照)。

表−2

表−3.

 伐倒功程では生産性の向上は無いように感じられますが、これは1本当りの立木材積が少ないためで1本当たりの伐採時間は定性間伐が2分40秒、列状間伐が2分27秒であり効率は上がっています。

 特に、旋回ブーム式タワーヤーダによる列状間伐においては、架設撤収が容易であるためこれにかかる生産性が飛躍的に高くなっています。集材功程においても1人1日当たり6.14m3で定性間伐より0.68m3高い結果となっています。

【考察及び今後の課題】

 列状間伐は、作業道を基本にして130m程度以下の比較的短距離の集材に適している方法です。自走式搬器と比較した場合、架設撤収に要する時間が極めて少ないことが労働生産性を向上させた大きな要因となっております。今回の列状間伐における架設は平均120mで、一部トラブルがあったにもかかわらず3列の平均で19分程度でした。最短の時間は14分30秒であり通常120_130mの上げ荷集材の架設であれば15分程度と考えられます。

 旋回ブーム式タワーヤーダを使用した集材作業においてはインターロック機能があるといっても実際はワイヤーの緊張をオペレータが手動で行っている部分が多いためオペレータの熟練により生産性のさらなる向上が可能と考えられます。

 一方、一般架線集材や自走式搬器を使用した間伐材搬出方法の現行生産性は約2.0m3/人日です。現行システムのまま生産性を改善しても搬器スピード等から約3.0 m3/人日が限界生産性と考えます。仮に変動費5,000円/ m3、固定費24,000円/人日の条件であれば生産性2.0 m3/人日で生産コスト17,000円/ m3、生産性3.0 m3/人日で生産コスト13,000円/ m3となり、現状の間伐材市況を勘案すると大変厳しい結果となっています。また、林内作業車を使った間伐材搬出においても高密度作業道による高生産性事例がありますがすべての森林に適応できるとは考えにくく、基本的には前者と同じことがいえます。

 列状間伐と旋回ブーム式タワーヤーダを組み合わせたシステムの間伐方法には、機械設備はもちろんのこと、作業道等の基盤整備が必要不可欠ですが、特に基盤整備が充実しているところについては機械化を図ることにより新たな低コスト間伐方法として十分期待できます。

 また、コストの低減を考えると小面積の民有林も合意形成をはかり集団化することも重要なことです。

【おわりに】

 今回の調査で、ひとえに低コスト化を図ると言っても現実の厳しさをあらためて痛感させられる結果となりました。列状による間伐方法は近年注目され始めた方法であり高能率、省力化を目指すためには高性能林業機械の導入が不可欠です。その結果、間伐方法の一つとして伐倒搬出路が列になったものです。

 このように、低迷する林業界を生き抜くためには、これまでの常識にとらわれない新たな発想の展開が求められる時期となっています。しかしながら、高性能林業機械が高価で導入台数が少ないことや、施業方法が従来の方法と異なるため、今後の施業を含め、森林所有者の理解が必要と考えます。

私のジグザグエッセイ(2)
最近考えていること、考えなければならないこと
長池卓男(山梨県森林総合研究所) 

 この4月から、お陰様で研究職としてお給料をいただけるようになりました。研究者として飯を食って行くからには、きちんと研究していくことが求められる世界に入ったわけです。研究しないで研究職俸給表の給料をもらうわけにはいきません。これが、4月に辞令をもらったときの些細な「決意」です。

 したがって、どのようにきちんと研究を進めていくのか、これが問題となります。たとえどんな困難があろうとも。

 大体、どのようなことに関する研究が現在必要とされているのでしょうか? 森林所有者・管理者が求めるものと、「非」森林所有者・管理者が求めているものは、大きく異なっているのは自明です。施業研究を語る上で、よく引き合いに出される医学での「基礎」と「臨床」。たまたま、NHKスペシャル「人体_遺伝子」をみた直後なのですが、「基礎」と「臨床」の連携というか、関係はうまくいっているものだなあと感じました。

 さて、それでは森林に関する研究では、「基礎」と「臨床」の関係はどうなっているのか、というところが、この施業研究会の視点でもあると思っています。人によって、対象とする分野に得手・不得手、関心・無関心が異なるのはもちろんです。したがって、「基礎」と「臨床」のどちらを志向するのもその人次第です。その結果、どちらを「専攻」するかということになる訳です。ただ、「基礎」にしろ、「臨床」にしろ、基本的な訓練なくしては「専攻」することはできません。研究を進めていく上での基本的な訓練、これは何も大学院に進むということは意味しません。

 森林に関する研究で「基礎」だけではなく、「臨床」もきちんとしないと駄目じゃないか、というのがこの施業研究会ができたいきさつだと思います。基本的に両方必要なのです。そう思います。ただ、若い人(僕もこちらに入れてください)は、研究を進めていく上でのそれなりの基本的な訓練を積むことが、その後の様々な研究を進めていく上で、非常に重要だと思います。僕と同年代の人たちは、基本的な訓練を積んだ上で、その後いろいろな分野に飛び出そう、という人たちが多いように思います。けっして、「今の若い奴らは…」と、言われるようなことはないと思っています。

 やはり、きちんとした研究をするための訓練を積んでおくことが重要であると思っています。この姉妹編は、「林業技術」9月号で。

<編集後記>

 近ごろ,「持続的な森林管理(経営)」のための基準指標作りとか,モデルフォレストの構築などが,盛んに取りざたされ,取り組まれている(?)が,どうもその目指すもの,中身が見えてこない。理屈や背景は,理解出来るが,日本の今日的な森林資源状況や林業の現状の中でいったいどのような森林作りを目指すのか,具体的にイメージすることが難しい。それは,この間,スギ・ヒノキ人工林一色となった各地の有名林業地帯を見て来て強く感じることである。

 そんな中で,岩手県沢内村の和賀川上流部にある一支流域を渓流釣りで訪ねる機会があった。イワナ釣りも含めて,さほど期待はしていなかったが,自然林と二次林・人工林の織り成す景観の多様性と自然の豊かさに本当に驚かされた(イワナも沢山いた)。そして,そこに持続的森林経営を意識した森林作りの具体的な姿を思い描くことが出来た。流域全体が国有林で,スギ人工林が林道沿いに奥地まで続く。しかし,河川周辺の水辺林は,比較的よく残され,尾根や急傾斜地には広葉樹が適切に配置され,さらに奥山にブナの天然林が控えている。ここで,思い知らされたのは,圧倒的な自然林が背景に無ければ,持続的森林経営など実現が困難であることにである。奥羽山系の東側に位置する当地は岩手県内でも屈指の豪雪地帯である。そのような厳しい自然環境の下で,林業はそもそも持続可能な森林経営でしか成り立たないのも事実である。イワナはほとんどつれなかったが,私にとっては大きな収獲であった。(狢)



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