木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.7 1999.10.31
Newsletter of the Forest Management and Research Network

秋のみちのくで第2回現地検討会を開催!

 林間放牧と長伐期施業をテーマに岩手・秋田で開催された森林施業研究会の第2回現地検討会は,9月2日,豪雨の中,岩手安比高原で始まった。アクセスの悪さが心配されたものの,参加予定者者全員が無事夕食までに会場となった安代林業センターに到着し,その数23名。参加者も多様で,東北地域を中心に,遠くは愛媛県からも参加。職域も林野庁の本庁から現場の森林官,民間から県職員,森林総研と多彩であった。夕食後は,直ちにセミナーに突入し,トップバッターとして,地元岩手県林業センターの成松眞樹氏からマツタケ・ナハナイグチ生産のための林地管理の話題提供がされた。キノコ生産のための様々な取り組みが報告された。引き続き,成松氏とは岩手大学時代の師弟関係にあった杉田久志氏(現森林総研東北)が,今年9月に開かれた第1回日韓森林生態セミナーの際に訪れた韓国智異山の植生を韓半島の森林植生を概観しながら報告し,その後,日本の森林植生との類似性が論議された。

 翌3日,安比高原は小雨が降り続く生憎の天候であったが,森林総研東北支所の正木隆氏の案内で,林間放牧とその後の薪炭林施業で更新成立した見事な90年生のブナ二次林を見学,広く東北地方において,林内放牧がブナの天然更新に貢献して来たことが紹介された(写真1)。その後,参加者は車に分乗し,秋田県二ツ井町の林業経営者、中田雅敏さんの所有する山林を見学,中田氏から現在取り組む長伐期林施業についての説明を受けた。また,収穫間伐後の樹下植栽による複層林造成について否定的な見解がなされ,討議がされた。

写真1 林間放牧により成立した安比高原のブナ二次林について説明を受ける参加者

 引き続き,参加者一同は,能代の秋田県銘木センターを見学,秋田スギの原木および製品を市場の職員の案内で見てまわり,見学者は一様に天然スギの美しさと価格の高さに驚いているようでした。その後,参加者は,二ツ井町きみまち阪の宿舎に入り,夕食を取って後,本研究会代表である渡辺定元氏の「持続的森林経営の理論と実践」と題する研修会(講演)に臨みました。この研修会には,地元の東北森林管理局,能代森林管理署からも参加者がみえました。

 渡辺氏の講演の後,再び,二日目のセミナーに入り,三つの話題提供がされました。まず,子連れ参加の東京大学の泉桂子さんが水源林施業の歴史的考察に関する研究を紹介,さらに林学業界で使用されている用語の曖昧さを指摘し,適切な用語の定義の必要性と使用を訴えました。次に、秋田県林業技術センターの金子智紀氏が,マツクイムシにより被害の出た能代市の海岸林に植栽した広葉樹の成長経過を解析し,樹種によっては,海岸林の修復に活用出来ることを十分に報告した。最後の話題提供は神奈川県森林研究所の田村 淳氏で,丹沢山系で深刻化しているシカの個体数増加に伴う森林被害を継続的に調査し,ササ植生の衰退が著しいことを報告した。セミナーは討議が白熱し,11時過ぎまで続きました。

 現地検討会3日目,参加者一同は,この地方では唯一残された秋田の天然スギ林である「水沢・仁鮒スギ群落保護林」を能代森林管理署の署長山下氏の案内で見学,樹高50mを越える天然スギに驚きの声があがった(写真2)。引き続き,柳沢のスギ天然更新試験地(残念ながらリンゴ台風で壊滅的な被害を受けた)を見学した。

写真2 水沢・仁鮒スギ群落保護林内で参加者全員の記念撮影

 昼食後,寺崎式間伐方で有名な寺崎渡氏が,秋田スギ人工林で間伐試験を実施した添畑沢試験地を見学,試験地の調査に携わって来た森林総研関西支所の大住克博氏が林分の概要と施業履歴などを紹介した。林齢95年生,平均樹高およそ40m,蓄積1800立方/haの素晴らしいスギ人工林を見ながら,長伐期施業の可能性についての論議が続いた(写真3)。エクスカーション最後は,能代市岩川地区にあるスギの伏状更新を活用した施業林分を見学,秋田県林業技術センターの澤田智氏から,この地域でかつて広く行なわれて来た伏状更新施業についての説明が行なわれた。

写真3 添畑沢スギ間伐試験地で樹高成長に驚く参加者

 これを最後に,超過密スケジュールの現地検討会のすべての日程が終了しました。今回の現地検討会の仔細については,後程,「森林科学」誌上で報告の予定です。以下,参加者から寄せられた現地検討会に対する感想,意見を紹介いたします。最後に,現地検討会の事務局として準備,期間中の様々な手配を頂いた秋田県林業技術センターの澤田さん,森林総合研究所東北支所の金指達郎さん,正木隆さん,さらに現場見学の機会を提供して頂きました中田さん,現地検討会を通じて、適切な指摘、助言をいただいた岩手大学名誉教授の安藤 貴先生、東北森林管理局能代管理署長山下氏を始め職員の方々に紙上を持って御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

「現場の技術者や作業員に至るまでが理念を共有するための戦略」が必要!
 野木 宏祐(三陸北部森林管理署安家森林事務所)

 今回、はじめて研究会の合宿に参加させていただきました。

仕事の都合で、中座してしまい、スギ天然林を見れなかったのは残念でしたが、安代のブナ二次林や野芝の草地を見学できたのは、私の担当する国有林での課題と直接つながる部分もあったので興味深いところでした。

 私の森林事務所の管内についても、放牧共用林野は数多く設定されているのですが、南部短角牛の飼育の不振と、柵で囲った牧草地での集中的な放牧が主流となり、林間や自然草地での放牧は行われなくなっています。

 天然更新の促進や自然草地の維持のための林間放牧は私も好ましいとは思うのですが、「林間放牧への補助」については、それによる短角牛がある程度、市場に支持され、放牧方法について飼育者の合意を得るという前提がクリアできなければ、「補助」の議論も成り立たないのではないか? というのが、安家地区での短角牛飼育を身近に見るものとしての実感です。

 さて当研究会は「森林施業研究会」であるからには、議論の中心が「技術論」になるのは必然ですが、それを国有林や民有林の現場で実行することを目標とするならば、「現場の技術者や作業員に至るまでが理念を共有するための戦略」のようなことも考えていく必要があるのではないでしょうか? 今回、国有林の現場からの参加は私のみのようでしたが、その立場から言うと、理念があったとしても制度や予算的枠組みの中でそれを現場に反映させるのは、困難であるし、まして我々の現場は、試験林と異なり、様々な人々の利害が直結しているということを研究職(県試の場合はやや状況が異なるとは思いますが)の皆さんにご理解いただき、「技術論」にとどまらず、それを実行する「人」についても思考を広げていただければと思います。

 さらに今回のような現地検討会を実施する際に、地元の森林管理署・事務所等にお誘いをかけていただければ、「覗いてみようかな?」思う職員もいるかもしれません。私も現場に研究職の方を招き助言を得るような機会を設けてみたいと思っています。というわけで、今後ともよろしくお願いいたします。

 

子供連れで森林施業研究会に参加しての感想
 泉 桂子(東京大学大学院)

 昨年は参加することが出来なかった現地検討会に初めて参加することが出来た。東北のおいしい空気の中で林内放牧施業、秋田杉の様々な施業などをこの目で見ることが出来た。誠に実り多い旅であった。会の運営に当たられた東北・事務局の方々にお礼申し上げます。 中でも興味深かったのは、仁鮒・水沢の天然生スギ林で、この森林は藩政時代の植栽によるものではないか、との仮説が議論されたことである。私も先日吉野・川上村で230年生のスギ人工林を見学してきたが、今回のスギ林と相通ずるものがあった。人間の歴史は森林からの収奪の歴史でもあったが、来世紀は技術や知恵によってそうでない森林との関係を創っていけるかもしれない、とインスピレーションを与えられた。

 また、研究会では発表の機会を与えていただき、多くの方々から貴重なご助言をいただいた。日頃の不勉強が露呈される結果となり、これからはエンジンをかけ直して論文に取り組まなければと感じた。特に水源林経営に関して、計画畑のみならず施業面からの論文レビューやアプローチの必要性を痛感した。

 最後に、子ども連れで図々しく参加させていただいたにもかかわらず、皆様には愚息・佑樹に大変親切にしていただいた。この場を借りてお礼申し上げます。

 

昔の人の技術力のすごさを再認識
 田村 淳(神奈川県森林研究所)

 森林施業研究会にはじめて参加しました.岩手,秋田の森林は食指が動くものの神奈川から遠いため、正直なところ参加するかどうか迷いました。しかし,その地域の代表的な森林を案内してもらい,しかも解説付きとあっては参加しないともったいないと思い参加しました.

いざ会場に着いてみると、森林総研,地方林試,行政,民間、学生の方々が参加しており,森林施業の関心の高さを感じました.夜は2晩とも研究発表が夜遅くまで続けられ,皆さんのやる気と熱意が伝わってきました.私も2日目の最後に話題提供させていただき、今後の仕事に役立つ有意義なコメントをいただきました。このことだけでも参加した甲斐がありました。

肝心の現地検討会でも渡辺先生のこれまでの研究に基づいたお話しを聞けて,なるほどと思ったりもしました.私自身が現地検討会で感じたことは次の2点です.
1. 昔の人の技術力のすごさ
2. データをとることの重要さ
 まず,1に関しては,安比高原における林内放牧によるブナ林と水沢天然スギ林です.この2箇所は今よりも科学的知識が未発達だった時代に,人為による天然更新の成功例として非常に興味を持ちました.昔の人は今の人よりも森林を見る目,そして将来目標をしっかりと持っていたとしか思えません.デジタル時代に生きつつも森林をしっかりと観察することから森林施業は始まることを実感しました.

 2に関しては1にも結びつきますが,成功した例,あるいは失敗した例についても,しっかりとデータをとってなぜそうなったかについて考察することが,次の世代への財産になることは間違いありません.長い時間がかかるモニタリングのような研究は,今の効率至上主義の時代にそぐわないかもしれませんが,後になってデータの重要性が実感できると思います.これは研究者の方なら合意していただけるでしょう.

 このほかに有意義だったことは,各地で森林施業を研究,あるいはそれを取り巻く仕事をしている人達と意見交換をして、見聞を広めることができた点です。このように参加すると役に立つことばかりですから、研究者だけでなく地元の行政の方にも多く参加してほしいと感じました。

 

第1回日韓森林生態セミナー報告
 金指あや子(森林総合研究所)

1.日韓セミナー

施業研究会事務局次長で今さらご紹介するまでもない、かの大住さんが日本側幹事としてご尽力下さった「第1回日韓森林生態セミナー」に、参加してきました。これは、韓国の智異山国立公園の主峰、天王峰の登山をしながら森林植生を見学し、日韓の森林生態研究者間の交流を図るという素晴らしい企画のセミナーです。

日本側参加者は、森林総研北海道の斎藤部長をはじめとして、森林総研、育種センター、富山県林業試験場などから計12名、韓国側からは、山林庁林業研究院、慶尚南道および全羅北道の山林環境研究院、忠南大学、大田大学などから計11名の参加があり、非公式ながら山林庁林業研究院の多大な支援をいただき、実現したものです。(写真1)

植物に詳しい参加者ばかりの中で、私は際だって植生に疎く、代表して報告する任には耐えられません。しかし、今回の日韓セミナーについては、すでに先日の施業研究会現地検討会の夜のセミナーで、杉田久志さん(森林総研東北)が十分に報告されていますので、私は「遠足の作文」で許していただくこととし、興味のある方は、来年には日本で第2回の、再来年にはまた韓国で第3回の日韓セミナーが予定されていますので、ぜひ参加されることをお勧めします。

2.智異山(ちりさん)

朝鮮半島には、北朝鮮と中国吉林省との国境にある白頭山(2744m)に端を発し、半島を縦断するように連なる「白頭大幹」と呼ばれる大きな山脈があります。智異山は、白頭大幹の南端に位置し、尾根の長さで40kmに達する広大な地域の総称です。

韓国の山は、植民地(この言葉を聞くと、つらい・・・。)時代に徹底的に伐採されたということで、ほとんどが若い二次林です。智異山は戦後(韓国で「戦後」とは、朝鮮戦争の後を指す)、国立公園として保護されており、モンゴリナラQuercus mongolicaを中心とした温帯性落葉広葉樹林にアカマツや、また標高が高くなるとチョウセンシラベAbies koreana、チョウセンゴヨウ、エゾマツなどが混交する森林が広がっています。(写真2)

私たちは、標高500m程度の東南斜面から、智異山主峰の天王峰(1915m)に登り、頂上付近の山小屋で1泊。翌日に北西斜面を下るというコースを歩きました。ちなみに、韓国で一番高い山は済州島(漢拏(ハンラ)山、1950m)にありますが、天王峰は韓国本土では最高峰です。

登山の最中、「なんだか秩父あたりの山を歩いているような気分だ」と、一緒にセミナーに参加したダンナが申しておりましたが、木本類だけでなく、私は名前もろくに紹介できず申し訳ありませんが、見慣れた草本類も多く、日本と本当によく似た植生であることがわかりました(ブタクサだって日本と同じように林道脇にザクザク生えていました)。

このような中で、日本と一番違う点は、スギとブナがないことです。あと、関東ではほとんどお目にかからないオオヤマレンゲが割に普通に見られたことや、コルク採取のためにアベマキの樹皮が、人の背丈ほどの高さでぐるりと剥がされていたことなど、私にとっては珍しく、印象に残っています。

3.夜のセミナー

登山に先だって、山麓のキャンプ場でセミナーが開かれ、韓国の研究者による智異山や白頭大幹の植生に関する研究3課題と日本側から極東地域のモミ林やモミ属の球果の生産に関する研究2課題について講演がありました。発表題目と講演者は以下のとおりです。

・ 白頭大幹の植生(李炳天・林業研究院)

・ 極東地域におけるAbies林の生態的位置(杉田久志・森林総研東北)

・ 智異山のQuercus林の植生構造の変化(金 聖徳・忠南大学)

・ Abies属の球果生産変動と環境(関 剛・森林総研東北)

・智異山植物相の概要とイチイ林の植生構造(申 顯吉吉・林業研究院南部林業研究院)

このうち金先生による講演では、モンゴリナラとチョウセンシラベの混成林において、二つの種が互いに更新に深い関わり合いを持って共存している状況が説明されました。調査対象の森林には、現在150年生程度の個体もあるそうですが、この森林が遷移の途中段階なのか、極相状態にあるかが判断できない、韓国にはなにしろ比較できる原生状態の森林がないのが残念だ、という研究者としての悩みを吐露されました。また、杉田さんは、極東地域全体に視野を広げて、モミ属の生態的位置付けについて発表されましたが、日韓の協力の重要性を指摘され、今回のセミナーを意義づける講演でした。

一日バスで移動して、夕方6時頃から8時過ぎまで(9時近かったっけ?)夕食もおあずけでのセミナーでしたので、私の頭はほとんど朦朧としていましたが、特に智異山の植生についての話は、現地踏査の前に予備知識を仕入れることができましたし、日韓両国の研究者の交流の第一歩として、きついスケジュールながら有意義なセミナーとなりました。

4.モンゴリナラとミズナラ、または韓国人と日本人

私はミズナラの遺伝変異を調べるために、九州から北海道まで、いくつかの地域のミズナラ林に試料採取で訪れたたことがあります。これの地域の中で、岐阜県の土岐市と北海道サロベツの2つの地域で、いわゆるミズナラとは少し様子の違う「ミズナラ?」に出会いました。それぞれの土地の研究者は、これらを「モンゴリナラ」だと説明されていましたが、土岐とサロベツの「ミズナラ?」同士も、また互いに形態的には異なるものでした(但し、アロザイム変異では、他の「ミズナラ集団」も2つの「ミズナラ?集団」も全て同様の変異を持ち、区別はできませんでした)。また、平凡社の「日本の野生植物」で大場先生は、「モンゴリナラは日本にない」と記述され、ミズナラを Quercus crispulaと単独の種と扱っておられます。

このように、ミズナラの学名は、図鑑によって扱いが異なる場合もありますが、命名規約上は、Quercus mongolica var. crispulaが、現在の正式な名称となり、ミズナラは分類学上、モンゴリナラQuercus mongolicaの変種とされています。ちなみに、東大標本館で、旧満州などで採取されたモンゴリナラの標本をみせてもらったことがありますが、それらの多くはサロベツにある「ミズナラ?」に似た形態のものが多いようにみえましたが、中には限りなくミズナラに似たものもあり、私には訳がわからないというのが、正直なところです。

智異山にはモンゴリナラがうようよあるというので、本物のモンゴリナラを見る絶好のチャンスとばかり、ほくほく出かけていった、これが、今回のセミナーに参加した私の一番の目的です。長くなってしまいましたが、これは前置きです。

モンゴリナラはたくさんありました。登山コースの始まり、標高500m程度の山麓には、やや葉の大きな、確かにこれを日本で見たら「カシワとミズナラの雑種よ」と言ってしまいそうなモンゴリナラが登場しました。標高が高くなるにつれ次第に葉は小さくなりますが、全体には、葉の鋸歯がミズナラより丸みを帯び、殻斗の総苞片の背が盛り上がったタイプです。あと、樹皮がどちらかというとコナラに似ている点も、ミズナラとは少し違うと言え無くはない。このようなモンゴリナラが1700mくらいの標高まで分布していました。しかし、特に葉がミズナラ程度の大きさになってくると、どうにもミズナラとの識別が怪しくなってきます。

案内してくれた忠南大学の金先生は、モンゴリナラの植生に詳しく、日本でも横浜国立大学で7年間ほど研究されたので、日本のミズナラもよくご存じの方でした。先生は、モンゴリナラとミズナラの識別点をいくつか教えてくれた後に、「日本に生育しているのをミズナラと呼び、韓国にあるのをモンゴリナラと呼べば間違いがない」とにっこり笑っておっしゃいました。キャッ!

なお、これに似た話は、モミ属でもありました。ウラジロモミAbies homolepisとチョウセンシラベAbies koreanaの違いは、私が紹介できる話題ではありませんが、ナラ以上に??のようでした。

もう一つ、似たような話。今回のセミナーには、私は成田から釜山へ大韓航空便で参りました。旅客の多くは韓国人で、中に日本人が混じっているという状況でした。韓国人のスチュワーデスさんは、飛行機への搭乗などの際に、相手に応じて、「こんにちは」とか「アンニョンハシムニカ」とか挨拶します。一見しただけでは、韓国人と日本人の見分けは、難しいと思います(ただし、ダンナは、女性の見分けは付くと言っていた!)。典型的な弥生人系の私ですが、必ず日本人とバレて、「こんにちは」と言われてしまいます。これは町を歩いていても同じでした。観光客ねらいの土産物屋さんは、貧しい身なりのダンナに対しても日本語で「社長さんと」か呼びかけるので、どうも、プロの目にはごまかせない日本人と韓国人の識別点があるようです。そういえば、以前にアメリカの警察で、韓国人と日本人の見分け方のマニュアルがあるとか、ないとかいう話を聞いたこともあります。

5.カムサハニダ

日本の森林と韓国の森林は、限りなく似ていてどこか違う、日本人と韓国人のような関係かもしれません。

智異山の登山の途中に、改築中のお寺があり、寄進を募っていました。寄進者の名前を瓦につけてくれるというのですが、値段が結構高かったので、遠慮してしまいましたが、あとで聞いたところによると、このお寺が繁栄すると、日本が滅びるという言い伝えがあるそうです。このように、いたるところで日本と韓国の関係の悪さが強調されますが、実は長い歴史の中では、決して悪い関係ばかりではありません。少なくとも、江戸時代は友好関係が続いたようですし、百済、新羅の時代には頻繁に人々の行き来があった、関わり合いの深い韓国と日本です。

日本の森林を研究するなら、こんなに近い韓国の森林にも視野を広げることが、自身の研究を深めることとなり、それはまた両国の交流を深め、共存共栄につながることを、このセミナーで改めて感じました。

日韓セミナーでは、韓国の研究者の方々には、本当に親身にお世話いただきました。また、休暇を取って登山のガイドをしてくれたプログラマーのお兄さん、英語と日本語はほとんどできないのに、それでもコミュニケーションに努めてくれためちゃくちゃ明るいバスの運転手さんなど、お世話になった皆様がたに、心からお礼申し上げます。

 

写真1:智異山を背にして登山前の記念写真(52k)

写真2:智異山頂上から北斜面を望む(34k)

写真3:標高1500m付近のモンゴリナラ林。黒く頭が出ているのはチョウセンシラベ(45k)

写真4:モンゴリナラ(31k)

 

次回の森林施業研究会は

集会名:第5回森林施業研究会
テーマ :「徹底検討:複層林は是か非か?−その可能性と問題を探る−」
話題提供者:藤森隆郎(日本林業技術協会)「複層林施業とは −その意義と問題点−」
      竹内郁雄(森林総研・生産技術部)「複層林施業は可能か?」
      藤江 達之「林野行政における複層林施業の位置づけ」(予定)

林学会大会3日目(4月2日)日本大学生物資源科学部(藤沢市)


<編集後記>

日韓森林生態セミナーに欠席しておきながら,それから1ケ月後に私は韓国済州島漢拏(ハンラ)山を韓国側セミナー参加者の幾人かと登っていた。東アジア・太平洋地域長期生態研究(LTER)ネットワーク会議後のエクスカーションの一環であった。漢拏山には豊かな森林植生が残されおり、韓国のLTERサイトの候補地に挙げられている。登り始める前に,主催者から前に呼び出され「こいつは植生の専門家で,ここは日本の植生と大して変わらないのだから,こいつに聞きなさい」と案内役まで仰せ付かり,大雨の中、登り始めた。モンゴリナラやシデ類を主要構成種とする二次林は,たしかに日本のそれと極めて類似しており,何等違和感はない。亜高山帯のチョウセンシラベ林は,まるで八幡平周辺を歩いている雰囲気であった。

その夜、森林研究所やソウル大学の研究員に誘われて街に出た。クロダイの生き作りとアマダイの塩焼き,そして「純露」を舐めながら,会議裏方の苦労話(愚痴)を聞いていると,これまた森林植生と同様,東アジア的類似性を強く感じさせられた。漢拏山における日韓共同でのLTERの実施と,来年,日本における日韓森林生態セミナーの実現を約束して別れたが,「これからカラオケに行くぞ」と、どこかで聞いたような・・・・(狢)。

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