木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.62 (2016年5月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

第19回森林施業研究会シンポジウム「北海道から択伐林施業を考える」報告

新潟県森林研究所 伊藤幸介

司会
 上野 満 氏(山形県林業研究研修センター)
 大洞 智宏 氏(岐阜県森林研究所)

話題提供
「北海道における天然林択伐施業の可能性と今後の方向―持続的管理の観点から―」
  石橋 聰 氏(森林総合研究所北海道支所)
「林床にササが優占する天然生針広混交林における択伐施業」
  吉田 俊也 氏(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)
「択伐作業技術の展開」
  渡邊 定元 氏(森林環境研究所)
  ※横井秀一氏(岐阜県立森林文化アカデミー)による代理発表

 第126回日本森林学会大会の関連研究集会として、「北海道から択伐林施業を考える」と題した第19回森林施業研究会シンポジウムが、平成27年3月29日に北海道大学学術交流会館、第1会議室で開催された。

 まず始めに、事務局の太田氏(森林総研)から趣旨説明が行われた。
 択伐林施業に求められているものは、天然更新による更新コスト低減や、回帰年ごとの伐採による林分蓄積の維持、そして永続的な林業経営など様々あるが、(特に本州での)現実としては、天然更新の失敗による後継樹不足や、過伐による林分蓄積の減少などの問題がある。
 そこで今回のシンポジウムでは、森林学会大会が北海道で開催されることを機に、現実的、現代的な対応で天然林施業の成功事例がある北海道から択伐林施業を考えることをテーマに、北海道における択伐施業の現状と詳細について、石橋氏、吉田氏から話題提供が行われた。そしてその後、渡辺氏(横井会長代理発表)による「択伐作業理論の展開」へと続き、総合討論に移った。

 石橋氏からは、北海道における天然林択伐施業の可能性と今後の方向について、森林経営、管理の観点から話題提供が行われた。
 北海道においても現状、天然林択伐施業は国有林の一部と大学演習林などわずかでしか行われておらず、その原因として、過去の伐採による天然林資源の質、量の低下や、人工林資源の充実などが考えられている。持続可能な森林管理や低コスト化への要求などの課題が明らかになりつつある中で、石橋氏は、これまで行われてきた択伐施業林の長期観察結果を分析し、更新コストを考慮した択伐施業可能地域の特定が必要であると指摘した。そして、木材循環利用のための保続の達成や、生物多様性保全などへの配慮を目的とした、持続可能な天然林管理の実現に向けて、北海道における今後の天然林択伐施業において、「林分(施業実行)」、「計画(小流域、施業団地)」、「地域」の3つの森林管理レベルに応じた択伐施業林の管理方法を提案した。

 吉田氏からは、林床にササが優占する天然生針広混交林における択伐施業について、森林施業の観点から話題提供が行われた。
 ササが多い地域ではあるが、天然林率が高く、天然林資源の活用が地域の重要課題となっている北海道北部において、照査法試験地での長期研究結果を活用したシュミレーションモデルを用いて施業シナリオを検討し、資源活用のための択伐施業の可能性を示唆した。そして、択伐施業による北海道北部の天然生混交林の持続的利用には、伐採率や回帰年を低く設定するなどの施業体系の修正が不可欠であり、カンバ類を主とした先駆性の高い広葉樹樹種群を中心に生産目標を考えることが合理的であると結論づけた。また、広葉樹材の「高付加価値化」を目指す、北海道北部における地域の取り組みについても紹介した。

 最後に横井氏から、森林施業研究会顧問の渡邊氏が作成した「択伐作業技術の展開」のスライドが報告された。
 依然として定着しない択伐作業について、これまでの択伐の歴史を振り返り、作業が成功しなかった技術的な要因を分析し、択伐作業を成功させる条件を提示した。択伐作業が失敗した技術的要因として、高い間伐率や更新の不確実性などが挙げられることから、作業を成功させるためには、択伐率を25%以下にすることや、伐採前の地がき作業、稚樹の刈り出し作業を採用すること、そして、あらかじめ優良な将来木を選定し、保存木として全数管理を行う「優良木保全作業」などの実施が必要であると指摘した。

 なお、各話題提供の詳細については、それぞれの章をご参照いただきたい。

 総合討論では、天然林択伐施業の根本的な方針から、更新や成長の不確実性がある中での伐採作業スケールや用いるべき指標についてのことまで、幅広い議論が行われた。

 天然林択伐施業の方針について、特に北海道北部では更新が芳しくないことから樹種構成の維持は難しいと考えられるため、まずは保続の体制、考え方をしっかり持つことが重要である、と話題提供者から指摘があった。関連して、更新の不確実性があることから、施業のフィードバックやチェック体制が必要なのではという意見があり、それについて石橋氏は、そのような仕組みはあったが十分に機能していなかったので、これからに期待したいと述べた。そして、更新の不確実性について、伐根植栽という案を提示しつつも、更新が伴わない場所での択伐は行うべきではないという考えも述べた。

 また、施業スケールに関して、択伐だけでなく皆伐も取り入れる方法もあるのではという意見や、成長量維持のために択伐の際に伐採する立木の本数や階級を判断する指標、基準があるのかといった質問があった。これに対し吉田氏は、小径木は伐らない、針葉樹を残すなどの目安は考えられるが、択伐は不均質な状況を生み出すので、一律な基準を設定することは難しいと指摘した。吉田氏はさらに、リモートセンシング技術の進歩によって現場の状況をこれまでより精度良く把握できるようになってきているので、その技術を利用した簡易シミュレーションの実行や、空間的な配置として皆伐を取り入れることも考えられると回答した。また、石橋氏は、択伐林における究極の選木は太いもの、良いものから伐ることとし、技術者が現場で選木できる状態が択伐林の理想的なすがたであるとの考えを述べた。

 その他にも、更新阻害要因の一つであるササ対策について、除草剤を用いてコントロールできるのかという質問もあり、吉田氏は、これまでの試験によって経験的に抑制は可能と考えられるが、コスト面での課題もあることから、施業区域においてササ対策を講じる部分をピンポイントで設定し、他の大面積の伐採部分と組み合わせることにより、全体の伐採面積の中でササ対策がとれる場所をケアすることができると提案した。

 以上のような活発な議論は尽きる様子がなかったが、会場利用時間の都合から総合討論は終了し、最後に施業研究会前代表の大住氏から研究会の現地検討会の案内があり、シンポジウムは閉会した。

 択伐林施業は森林の持つ多面的な機能を最大限に、持続的に発揮させることができる望ましい施業方法として期待されているが、シンポジウムでも議論されたとおり、伐採や更新等に関する技術はとても複雑で、施業技術者は高度な知識も要する。合理性と実行可能性を備えた施業技術基準の確立のため、森林施業研究会においても、択伐林施業の科学的根拠に基づく議論が今後さらに深まっていくことを期待する。