木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.63 (2016年5月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

森林施業研究会・天竜合宿について

近江環境政策研究会 中川宏治

1. 日時 平成 27 年 9 月 21 日(月)~9 月 23 日(水)

2. 場所 静岡県浜松市天竜区(旧天竜市・旧春野町・旧龍山村)

3. 日程
 9 月 21 日(月)
  ① 天竜市場(静岡県森林組合連合会・天竜営業所) 13:15~14:20
  ② 森下林業 浜松市天竜区春野町田河内 15:30~16:50
  ③ セミナー
   1) 日本の間伐研究事始め・・・寺崎式間伐の 60 年の歩み
   2) 華南の伝統的育成林業考
 9 月 22 日(火)
  ① 鈴木林業 (浜松市天竜区東藤平) 10:00~11:30
  ② (有)天竜フォレスター(浜松市天竜区両島 925-1)
  ③ セミナー
   1) 鹿児島大学による林業親方のための教育プログラム
   2) 週末に出かけた孤立ブナ林で考えたこと
 9 月 23 日(水)
  ① 瀬尻学術参考林 8:30~9:30
  ② (株)フジイチ(浜松市天竜区船明 880) 10:30~12;00

4. 静岡県森林組合連合会天竜営業所を訪問
  ご説明:静岡県森林組合連合会天竜営業所所長 高橋氏
a)天竜営業所と天竜地域の概要
 ・林業雑誌の一つ『林業新知識』に掲載されている市場価格は天竜市場のデータを引用。
 ・天竜営業所の事務所は 1987 年度(昭和 62 年度)に 336m3 の木材を使用して建造。1階は重ねふかし 梁ラーメン方式とい  う特殊構法、受講した 2 階研修室は、和小屋風トラスアーチ梁方式で、全体的 にダイナミックな建築物。
 ・全国各地をみても林業の歴史のある地域はスギの産地である、といえる。1957 年頃(昭和 32 年頃)、 全国的にスギ・ヒノキの値段がほとんど変わらないため市場では両樹種を一緒に椪積していたと いわれている。ここ天竜もそのような古くからの林業地の一つ。
b)天竜営業所の現状
 ・取引される原木
 A 材の役物・・全体の 2 割程度であり、そのサイズは、スギで 36cm 上、ヒノキで 30cm 上が中心。 最近の傾向として、品質の悪い材が売れにくくなってきている。
 B 材・・全体の 2 割から 3 割程度。出荷される材の 7 割くらいは 40~50 年生。
 ・近年、天竜営業所の周辺でも製材工場が減少し、入札会場が満席になるのは記念市の時くらいであ るため買い方の確保が課題。天竜営業所の土場の限界が 6 万 m3 であり、拡幅する予定もないため、 今後の見通しはこの範囲で考える必要がある。
c)天竜営業所がカバーする地域
 ・旧天竜地域(旧天竜市)は材質が非常に良い。また、桁川水系(春野町)は、枝虫材が比較的多いも のの、良材は良い。ミネラル成分が多く、土壌条件が良いことが要因。
 ・FSC のサプライチェーンができている
 ・東京オリンピックの会場設計の話が来ている
 ・野田合板が年間 1 万 m3 の生産量で稼働したことなどが素材生産に追い風
 ・天竜の専門の埋木屋が買う細い材(事務所の入り口付近に集積されていた)の価格は一束で 1000 円。主に組合や自伐林家が出荷している。
d)森林組合と市場
 ・天竜営業所の流域には組合が 6 つだが出荷者の組合はだいたい 8 組合であり、流域以外からも出 荷されている。造材・採材については、どこの組合も十分なレベルとは言い難い一方ではあるが、 自伐林家は、「シビアに採材し、付加価値をつけるのがうまい」と評価されている。
 ・2015 年 7 月から森林組合が出荷する際の手数料は 3.5%に引き下げ。特に直送の場合、組合の負担 は 3.5%の手数料のみであり、野田合板への出荷量は増えた。ただし、市場の材のストックが減少 するという新たな課題が発生。
 ・静岡県森林組合連合会は 2012 年「原木選別評価士」認定制度を創設。原木(丸太)の品質を的確 に評価できる人材の育成を目指している。天竜市場では、評価士に認定された職員のみが仕分けを 行うことができる。特に直送では、値段が固定されるので、目利きが重要。この認定制度を活用し、 買い手の信頼を得るよう努めている。
 ・皮が剥けた丸太は節が分かりにくいため敬遠されることがあるが、紐で樹皮を括り付けておく土 場での細やかな工夫がある。また、この市場では根張りはつけておいた方が評価が高い傾向。

写真.天竜営業所の玄関口(埋木屋に売る小径木が積まれている)

写真.天竜営業所の土場

写真.和小屋風トラスアーチ梁方式の研修室

5. 天竜林業地で自伐林業を行っている森下林業の取り組みを学ぶ
  ご案内:森下廣隆氏※以下、配布資料からも参照
a)概要
・現場は、120 年生で 40m ほどの樹高の林分
・基本的に親子 2 人を含む合計 5 人で作業を行っており、生業として、わさび、しいたけ、しきみの 栽培や稲作などを行うことで、林業を何とか継続してやってこられた。
b)特徴
・1984 年から 2007 年までの保育間伐、搬出間伐を中心に、毎年 1ha から 2ha ほどの皆伐および植林 にも取り組んできた。
・皆伐と間伐を組み合わせた計画的な施業計画 毎年、1ha 皆伐、造林を繰り返し、85 年後には全齢 級で 5ha と均等にする。昨年、地籍調査が完了したことも有利な点。長期的な視点で目標を設定し て施業を進めていくことの重要性を再認識させられました。
・もともと、苗木で 2,000 本/ha の低密度で植栽していた。当時は、現在のような挿し木ではなかっ た。また、おそらく、下刈りをあまりせずに競争させていたと考えられている。
c)経営
・原木単価をある程度維持してきたことも有利。1990 年代から始まった全国的な木材価格の下落傾 向のためしばらく単価が下がったが、2001 年頃から単価を微増させている。自伐林業の場合、単価 が最低で 4,000 円/m3 ほどあれば、何とかやっていける
・木材を輸送する運賃は、県森連で 2,000 円、名古屋の東海市場で 4,000 円程度。100ha ほどの面積 があって、ある程度の高齢木がいくつかあれば、自伐でやっていける
・森林技術者が現場を熟知している。現在の林分の状況を細かく把握しており 50cm 上、12m などと 具体的な要望があれば、すぐに現場を決めることができる。過去 30 年分くらいの施業履歴は紙面 の台帳で管理していたが最近ではエクセルでの電子化を始めた。

写真.森下氏による林内講義の様子

写真.森下林業が管理する森林

6.鈴木林業所有の山林見学
  ご案内:鈴木将之氏
a)鈴木氏と自宅
・「林業家」という肩書を持っている。その理由について、鈴木氏は、「「林業家」という肩書は人か名 乗れと言われた。天竜を引っ張っていかないといけないという意識があり、名乗っている。
・年間 200 日くらいは山に入って仕事をしている。
・持山の森林経営だけでなく、研修会等で安全指導を行い、最近では浜松駅前で間伐体験の指導など幅 広く行っている。農林大学校の講師もしている。
・映画「ウッドジョブ」に3シーン出演した
・ご自宅は所有林の木材を用いた築 180 年の住宅で天竜の山並みを一望できる高台に一つ建っている
・山林所有面積は約 60ha(ヒノキ 8 割、スギ 2 割)であり、そのうち 40ha は自宅近く。裏山はストック の場所で、いわゆる「台所山」の位置付け。
b)所有林のある地域の特徴
・当地はアタゴ川筋にあり、積雪はほとんどないが、風が幾分強い地域。やせ地でヒノキに適している ことが売りの一つ。地質的にも林業に適しており、岩が多いことも良材生産に向いていると考え ている。その結果、赤身で目詰まりの良い良材が多く生産される。
・天竜では大工のニーズは多くないようであるが、むしろ岐阜や関西からの注文は比較的多い。
・愛知県の東海市場から良質材の注文が多く、2 年前には、名古屋の東海市場に出荷した丸太(3m, 18cm) は 18 万円の値を付けたこともある。買い手を探し求めるというよりも、基本的には、外から誰かが 話を持ってくるパターンが多い。大工、工務店、市場から人が材を求めてやってくるのです。
・神武天皇の鳥居を 20 年に一回作り変えた際、皮付き丸太を献上したという輝かしい実績を残した。
平成 30 年には再び話があるかもしれないという期待があり、このような高い評価がモチベーション のさらなる向上につながっている。
・天竜地域の他の森林と同様にここでも FSC 認証を取得。FSC の認証を受けて変わった点について、
「人が来ることが多いからいつもなるべき林内をきれいにしておくこと」、「無駄に伐採しないこと」 などが挙げられる。このような収益に直結しにくいと思われる複数の効果を前向きにとらえること
ができるかどうかが重要であると感じました。 c)森林経営
・森下林業と同じく、木材以外の生産にも取り組んでおり、アセビ、サカキ、センリョウ、ナツハゼな どを樹下植栽して販売。
・森林施業では、基本的には 3000 本/ha で植栽されている。自家製の挿し木を使用。
・ヒノキの磨き丸太の生産に力を入れてきた。磨き丸太の挿し木は他の地域からもらってきて、その後 自分の山で増やした。植栽は、10,000 本/ha の高密度で行っている。俵(たわら)絞りは、20 年生 で売りたいと考えている。
・搬出は主に間伐により行っており、皆伐は最近ではしていない。過去には皆伐を行っていた時代もあ り、皆伐の際は地域の慣例で太い樹が所々で残していた。なお、所有林の中には、皆伐跡地を買い取 って現在 6 年生の施業地がある。搬出は 9 月から 3 月くらいまでに行い、梅雨時は避けている。
・枝打ちには精力的に取り組んできたよ。30 年生で 15m 程度の枝打ちを行ってきた林分が 6 割程度も ある。近年は、3 回から 4 回の枝打ちを行う。枝打ちを中心に保育作業を丁寧に行ってきたこともあ り、無節材が多く、市場からの注文材も多い一方、個人や工務店からの直接の注文は少ない
d)鈴木氏の林業に対する意識と新たな取り組み
・森林や技術を代々受け継いでいこうとする高い意識。父親から後を継いだ時には作業道も整備され ており、そのことも後を継ぐ決断を後押しした。父の代から手書きの施業履歴が残っている。既に 9 歳の次男も伐倒作業を体験している。世代間のバトンタッチがしっかりできている。(なお、「原始時 代に生まれた方が良かったような人」という鈴木氏のお父様は、現在でも魚や茶も採るそうで、今回 の研修では昼食で鮎のから揚げ、自家製のお茶をいただきました)
・幼いころから山には馴染みがあり木の一本一本に対する思い入れが強い。それ故に選木を重視する。
・施業はゴールを決めて行うことを心掛けており、また今年は補助金を使わずに施業を行う姿勢。
・山に対する愛着は、前もって山で材木として売り出す立木をもれなく用意しておくという発想につ ながります。いつか話がやってくると考え、山をストックの場と捉えるのです。
・茶畑の跡地に 4 本のメタセコイヤを植林しており、1000 年後にツリークライミングが楽しめるよう にしたい。鈴木氏の山への思いやりは、遠い未来も見据えたものでした。
e)これからの天竜
・「TENKOMORI~天竜これからの森を考える会~」は、浜松・天竜の木とともに生きる森林所有者、林業、 製材業、工務店、大工といった木材流通に携わる若者が集まって 2007 年(平成 19 年)に結成された 任意団体。現在、28 人のメンバーがおり、うち 10 人ほどが常時活動。鈴木氏は、この活動にも加わ っており、40 歳を超えた今でも積極的に活動に参加している。
・「天竜」のネームバリューは現在でも「強い」。ただし伐採後、東濃材に「化ける」という話が聞こえ てくることも事実。TENKOMORI の議論の中で、さらに違うブランド名を加える提案が出てきている。

写真.鈴木氏の自宅前で説明を受ける様子

写真.鈴木氏の自宅から見た山並み

写真.鈴木林業の所有林の様子

写真.鈴木林業の所有林の様子

写真.神武天皇陵黒木鳥居に使用された根株

7.天竜フォレスター見学
  ご案内:今井 保隆代表
a)概要
・今井氏は神奈川県出身の 6 年間働いた龍山森林組合から独立し、1990 年に天竜フォレスターを立ち 上げた。龍山森林組合は、青山宏著『ある山村の革命 : 龍山村森林組合の記録』でも知られている。
現在、13 名の正規職員に加え、営業職として 2 名、コンピューター担当 1 名を雇用。
・森林経営計画は、現在、属人で 3 つの計画を管理している。5 つの団地で施業を行っており、境界が 不明な場所は全体の 1 割程度と少ない点は素材生産に有利。素材生産は間伐のみで行っており、年 間 9,400m3 程度の生産量がある。1998 年(平成 10 年)から、それまでの架線系集材から車両系集材 に変えてきた。そのため、近年では、年間 17,000m 程度の森林作業道を作設している。
・所有している機械は、グラップル(0.2m3:2 台、0.25m3:4 台、0.45m3:2 台)、フォワーダ(3t:4 台、4t:4 台)、プロセッサ(0.45m3: 2 台)、タワーヤーダが 1 台といったところ。年間の機械稼働率は 120~ 130 日程度、フォワーダでは 80~100 日くらい。
・人材育成にも力を入れている。1 年目の社員は、指導員と組んで仕事をするなど特に OJT の研修が充 実している。緑の雇用で指導員への補助があり、活用していた。

b)株式会社フジイチとの協力関係
・フジイチは架線系をメインにしている。架線系のメリットは、作業員が多くて 3 人でできること。今 後、架線系の現場を増やしていきたいと考えている。
・設立当初から、株式会社 フジイチと協力関係を持っている。最近は、収穫したすべての丸太をフジ イチに出荷しており、両者の関係は強力。また、天竜フォレスターは車両系の集材に特化しており、 架線系を重視するフジイチとは対照的。連携しつつも、相互に補完的な役割を果たしている。
・1 社で 5 千 m3 程度では何もできないため 1 社で目標を立てるのではなく、フジイチと 2 社で 2 万 m3 の目標を立てている。流域レベルでの目標も設定しており、5 万 m3 を目指している。

写真.天竜フォレスターの事務所

c)視察現場
【人材】
70 年生の林分で 2 年目、7 年目の 2 人の作業員が作業を行っており、7 年目の作業員が機械を担 当。
なお、作業班については、各班 3 人態勢で、作業主任のみ貼り付けて、班の構成は変えていく予 定。その理由として、若手から、技術を学びたいという声が多いことが挙げられる。人材が重要であ るという考えは強く、3 年ほど前に元システムエンジニアの方を採用しシステム担当になってもらっ た。技術の向上や人材育成にはさまざまな工夫がありそうです。
【枝打ち】
に地際から1~1.5mぐらいまで行う「ヒモ打ち」(「ドロ枝打ち」と呼ぶ地域もあります)は行うが、 最初のヒモ打ちをやった後は、8m くらいまでは何もせずに放置しておく。しかし家近くの林分など はこまめな枝打ちで整理されている場合がある。
・若齢段階での集約的な枝打ちが導入されなかった理由として、昔かかり木を防ぐために枝打ちが必 要と話が広まった時、いくつか導入した機械が実際には重くて使い物にならなかった経緯がある。
【作業道】
・森林作業道を作設しやすい条件ではなく比較的赤土が多い現場だったが、水分を含むと滑りやす い赤土を「乾いてしまえば、締まる」と前向きにとらえている。尾根部付近では黒ボクが確認され る場合があり、線形を変更するか、丸太構造物を入れて対応。また、岩砕、礫が比較的多く出る現 場でしたが、視察した現場では縦断勾配が急な個所で時間をかけて砕石を埋設した。
・作業道の最重要の検討項目の一つは、路面水の排水。谷部の水処理で、基本的に洗い越しはつけな い。その代り、暗渠を設置し使用後はもとに復旧。また、50m に 1 回は素掘りで排水する。
・作業道の作設では、台風がくる前に作業道の適当な場所に盛り上がりをつけて、排水を促すなど細 かな対応を心がけている。作業中、フォワーダを走らすと山側が掘られてしまうことになるため逆 カントはできるだけ控えるようにしている。
・0.45m3(16t)のプロセッサ系の搬出を行っているため、ヘアピンカーブは耐えられないのでスイッ チバックを導入。なお、視察現場の作業道は、約 3,000 円/m の単価で作設された。
【素材生産】
・森林所有者に対する提案書には特にこだわりがなく、提案書がないケースもある。
・16 上以上の原木は搬出し、フジイチが求める 6m 材(平角用)の生産を考慮して採材。山の現場を見 て、A~B 材に割り当てているため高い目利きの能力が現場の技術者に求められる。県森連天竜営 業所の市が週1回から、隔週に 1 回と減ったため、確実に川下のニーズに対応できにくくなった。
・天竜で林業をやっていく上での良点は木の質が良いこと。静岡県内であっても東部に行くと材価 が芳しくない。ただし、地域の課題として、静岡県東部は比較的財産区が多いのに比べ、所有区分 が小さく、集約化が不可欠である。
・2014 年度(平成 26 年度)からタワーヤーダで全木集材を行っており、今後コンテナ苗による再造林 につなげていきたい。

写真.天竜フォレスターの施業地

写真.砕石を埋設した箇所

写真.金原明善翁顕彰碑

写真.木札「選鉱インクライン 1 号」(龍山ふるさと村)

8.瀬尻学術参考林見学
  ご案内:農林水産省 田中ゆり子氏
a)概要
・1917 年(大正 6 年)に金原疎水財団から買い入れ、御料林時代を経て、1947 年(昭和 22 年)の林政統 一により水窪営林署の管轄となる。金原明善翁は、1886 年(明治 19 年)から、天竜川下流域の瀬尻官 林へ植林を行っているが、当林分は 1988 年(明治 21 年)に密度約 3,000 本/ha で、吉野系または地元産 3 年生の苗木を用いて植栽された。
・日本で最初に設置された路網は、1901 年(明治 34 年)、御料局嘱託員であった普国(ドイツ)の山林監 督官シルリング氏の指導のもと、静岡県瀬尻御料地に敷設されたもの。
・これまでの施業履歴の記録によれば、1955 年(昭和 30 年)、1978 年(昭和 53 年)、2003 年(平成 15年)に間伐を実施しており、次回は 2016 年(平成 28 年)を予定。

「学術参考保護林・瀬尻国有林 166 林班と小班」の標識

瀬尻学術参考林の林内の様子

9.株式会社 フジイチの見学
  ご講義:株式会社 フジイチ代表取締役社長 石野秀一氏
a)会社概要
・1946 年に設立され、社員数は 56 名、平均年齢は 38 歳と若い社員が多い。
・原木の多くを森林から直接仕入れ、通常には手に入りにくい長さ、大きさ、曲がりの材の供給も行っ ている。一般の木材の流通過程のなかで(①植林(育林)、②伐採(素材生産業者)、③丸太市場、④ 製材所、⑤製品市場、⑥商社、⑦材木問屋、⑧材木店、⑨施工会社(工務店、ビルダー)、⑩施主) で植林(育林)から材木問屋(①から⑦)までの過程に関わっている。
・自社山林はなく、個人有林において、森林経営計画(属人計画)を立てて施業を実施。

b)現場
・搬出現場では、ほとんどが架線系で行っており、車両系は天竜フォレスターに任せている。架線集材 は、ラジキャリが多く、ウッドライナーも所有。管内の春野森林組合と同様に索張りでダブルエンド レスを多用。
・10 名以上の職員が索張りを習得するなど技術の伝承に力を入れている。
・3m、4m の採材は 1 日単位でニーズが変動するため、その都度、各班長への伝達など細やかに対応。 7 箇所くらいの個所で常時索を張っており、用途に合わせた原木をいつでもどこかから提供できるよ うになるため注文はほぼ 100%受けるようにしている。なお、160 年生の 8m 材は、置いておいても 1 年以内に買い手がつくそうで、頼んで売ることは少ない。最近では、草薙総合運動場体育館(2015 年 3 月竣工)の建築用材として、1,300m3 を納材。
・基本的に、葉枯らし(樹木を伐倒した後そのまま枝葉を付けた状態で、一定期間林内に放置しておく 林業技術)を行い、山を倉庫のように位置付けている。
・乾燥は、約半数が人工乾燥であり、残りの天然乾燥(約 2,000m3)では、乾燥に約 1 年半もの期間が必 要。乾燥機は協同組合のものを使用しており、現在のところ会社で購入する予定はない。
・製材品が売れない時には、天然乾燥に回したり、民間の市場に出荷したりして対応。人吉・球磨の木 を天然乾燥している九州の新産住拓の取り組みがモデル。
・全国的には、10 万 m3 規模の製材工場が増加し、ツインバンドソーの導入件数が増えたが、ここでは
内装材の生産に集中するためツインバンドソーの使用はやめた。
・ラミナ材は、適寸原木を径 28cm-32cm とし、2番玉を採用しています。芯を除いてヤング率 L70 以上 を使用。ヤング率は、計測器 Woody を用いて原木段階で把握しています。Woody の価格は 18 万円と 比較的安い印象を持っている。
・製材過程の最初でとれる「ガワ」を役物として売る業者がいましたが、ヤング率が低かったので納材 をやめてもらった経緯がある。なお、「ガワ」は内装材として用いる。
・建築設計で対象部位は、構造材から内装材に変化するが、製材ではその逆方向になる。築設計におい ても、構造と内装を同時に考える必要がある。

c)天竜林業の発展に対し、フジイチが果たす役割
・今後、国産材の産地間競争が激化していくことが予想されるが、そのような流れの中で天竜林業の再 興を果たすためには、「戦略的差別化」が必要。
・最近始まった天竜型水平連携事業では、製品の新しい基準を地域で確立し、担保していくことで、天 竜材のグレードを高く維持することが目的。この水平連携だけでは不十分であり、FSC 認証事業を引 き続き定着させ、製品(流通)のコーディネート機能を果たしていくことが重要。
(その一例として、施主に FSC 認証更新費用の負担を求める仕組みが紹介されました)
・素材生産以外にも、さまざまなサービスを提供。植林ツアーや高校生の環境教育などが含まれる。植 林ツアーでは、参加者にあえて 30 分から 40 分歩いて現場に来てもらっている。

株式会社 フジイチの事務所

製材所の様子

商品倉庫の様子

6. レポートを書かせていただいて 私自身、普段は地方自治体の職員として、森林・林業に関わっていますが、今回はその立場を離れ、公務の傍ら参加させていただきました。普段の仕事の中では、地域の林業現場に向き合っていますが、なか なか日本全国の森林や取り組みの現状を知ることはできません。今回の研修は、そんな私にとって、貴重 な知識を獲得する良い機会でした。
 私事ではありますが、2016 年 2 月に『森林再生に向けた次世代林業技術』(日本造林協会発行)を出版 しました。研修時機がちょうど執筆の時期と重なったこともあり、このレポートの提出が遅くなってし まい申し訳ございませんでした。拙著は大正時代から現代までの林業技術をまとめたものになっていま す。それぞれの時代で森林に向き合った方々の知識や情熱を学びながらこれからの森林再生を考えてい こうという思いをこめました。この研修を通して本にこめた思いをより強固にする機会をいただけたよ うに感じております。
 末筆になりますが、段取りをしていただいた静岡県志太榛原農林事務所の中田理恵様をはじめ関係者 の皆様に厚くお礼申し上げます。そして、場所は違っても同じ時代に森林に向き合っている方々と有意 義な学びの時間を共有できたことにとても感謝しております。

鈴木林業の山林で集合写真

 


施業研究会に初めて参加

広瀬幸泰

 私はまだ林業のことを机上で勉強しはじめたばかりでしたので初日、駅に集合したとき名簿をみて専門の方々の多さに正直驚きました。当初は私のような門外漢にもついて行けるのか不安な思いから始まりましたが分け隔てなくお話いただける雰囲気があり救われました。それだけ、見識の深い方が集まっておられるからだと思います。

 昼間の見学会は、濃密にスケジュールが組まれ、大変充実した時間を過ごすことができました。おかげさまで見学先のお話にも集中できました。その分、運営はとても大変だったと思います。

 また夜の研究会が素晴らしかったです。皆さんの見識の深さに驚かされました。私には発表できるようなものを持ち合わせておりませんが、ずうずうしく言えば、夜が遅くなってももっとお話が続けば良いと思っておりました。

 素人にもオープンに、というのは我が侭な意見です。そういう意図がないことを申し上げておきます。良い活動を毎年続けることは並大抵のことではないと思いますので、幹事の方々の努力には本当に頭がさがりました。

 


貴重な体験

鳥取大学農学部 三谷絵理子

 合宿に参加した当初は、人工林や森林施業に関して全く知識がなく、難しい内容のお話もありましたが、参加された皆さんから
教えていただくうちに、少しずつ理解ができるようになりました。さらに、理解が深まることで施業や管理に関して興味を持つことができました。合宿に参加させていただいたことで多くを学び、成長することができたと思います。

 また、参加された皆さんとのお話を通して、これからの林業や自分の進路について考える貴重な体験をすることができました。来年の合宿にも参加したいと強く思います。