木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.65 (2017年01月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

・第21回森林施業研究会シンポジウム(鹿児島大学)のお知らせ
・沖縄合宿の記録・・・石川 実(愛媛県農林水産研究所林業研究センター)
・沖縄合宿参加者の感想
・コラム:施業研究会合宿をふりかえる・・・小山泰弘(事務局長)

 

第21回森林施業研究会シンポジウムを鹿児島大学で開催します

第21回森林施業研究会シンポジウム

テーマ:コンテナ苗は再造林に最適な苗木といえるのか?
日 時:2017年3月29日(水)9時00分~12時00分
会 場:鹿児島大学(鹿児島市) 教室は未定、決まり次第お知らせします。
内 容:皆伐後の再造林におけるコンテナ苗への期待は大きく、苗木生産から植栽まで多くの研究が集中的に行われ、並行して現場への導入も進められている。多くの知見が集まりつつある今、コンテナ苗が再造林に適しているのかどうか考えてみたい。

話題提供(敬称略):
 1.伊藤 哲(宮崎大学)「低コスト再造林とコンテナ苗」
 2.長倉良守(長倉樹苗園)「コンテナ苗生産の現状」
 3.壁谷大介(森林総合研究所)「全国で評価した植栽後のコンテナ苗の成長」
 4.渡辺直史(高知県立森林技術センター)「コンテナ苗の林地保管後の活着と成長」

連絡先:横井秀一
    〒501-3714岐阜県美濃市曽代88 岐阜県立森林文化アカデミー
    Tel.0575-35-3884,Fax.0575-35-2529,E-mail:yokoi@forest.ac.jp (@は全角になっています)

 


沖縄合宿の記録

愛媛県農林水産研究所林業研究センター 石川 実

 「今日もてぃだかんかんだね。(今日も太陽燦々だね)」
 お天気に恵ませたおかげで、ぎらぎら照りつく南の島の太陽、高い湿度に、ダラダラと汗が噴き出るなか、沖縄合宿は8月18日(木)午後、沖縄県那覇空港に集合し、県北部の国頭村にある琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド科学教育研究センター与那フィールドへ移動することから始まりました。この日は、移動だけと云いながら、夜には室内セミナー①~⑥を行い、そして、翌19日からは、与那フィールドを基点に、国頭村内の村有林、沖縄県県営林、与那フィールドにおいて現地検討会が、19日は①~④、20日は⑤~⑩、21日は⑪~⑫が実施され、残りの室内セミナー⑦~⑩は19日夜に行われるという、濃厚な合宿だったと思います。

 今回のテーマは、島嶼海洋性気候である沖縄県北部のやんばるの森において、生物多様性の高い亜熱帯林での森林施業を考える」-環境に配慮した持続可能な循環型の森林利用を目指す「やんばる型森林業」を検証する-であり、沖縄県北部の国頭郡国頭村、大宜味村、東村に広がるリュウキュウマツ、イタジイ、イジュ、イスノキ等を中心としたやんばるの森での施業について、全国から集まった24名の参加者により、「やんばる型森林業」について理解を深めるとともに、施策を推進することの手掛かりになれば、との強い思いから、琉球大学農学部谷口真吾教授が幹事を引き受けられ企画・運営されました。

 ここからは、室内セミナーと現地検討会に分け、敬称略で報告します。なお、20日午前までが合宿本体で、20日午後からはオプショナルツアー日程でした。

リュウキュウマツ林の前で集合写真

1.室内セミナー
①やんばるの森の概要・・・琉球大学農学部 助教 高嶋敦史
 やんばるの森は、おおまかにいえば、沖縄県北部の国頭郡国頭村、大宜味村、東村の森林を指します。平均気温22℃以上、年間降水量2,400mm以上のイタジイ(スダジイの地理的亜種とされる)、イジュを中心とした常緑照葉樹林あり、今年9月に国立公園に指定されるとのこと。最近の沖縄県の森林面積は、1966年と2014年を比べてみると、134,555ha(森林率60%)から106,633ha(森林率46%)に減少しており、その減少面積は28,000haとされ、これはやんばるの森の半分に値するという。戦後、中南部の復興のためにやんばるの森は伐採されたため、98%が二次林で、天然林はほぼないとのこと。伐採地には、火入れ後、リュウキュウマツが播種造林されています。その後、火入れすることが出来なくなり、1980年頃からは、有用広葉樹造林が始まったそうです。今後は、造林された広葉樹が伐期に達していくと考えられていますが、まだ、県内での利用が薪くらいしか需要がないため、需要先の開発が望まれているそうです。ただし、径級の太い木は、ノグチチゲラ等の野鳥の営巣のため必要であるため、伐採を控える必要があるとのこと。主な樹種の植栽は、イタジイは全域、イジュは斜面中腹、オキナワウラジロガシは斜面下部が適地ですが、森林の再生までには一定の時間が必要とのこと。
 また、やんばるの森を中心とした北部のダムで貯水された水は、中南部へ送られているらしい。ざっくり言えば、沖縄県民130万人の水が、1万人が住む三つの村に広がるやんばるの森で作られていることになります。沖縄県には年間700万人の観光客があり、今後、那覇空港第二滑走路が開業された後には、観光客を1300万人へ増加させる計画があるらしく、ツーリズムによるオーバーユースーの懸念があり、ルールづくりが急がれるとされました。

②やんばる型森林業の説明・・・琉球大学農学部 教授 谷口真吾
 環境に配慮した森林利用の構築を目指して、平成25年に沖縄県では、「やんばる型森林業の推進」が施策方針として掲げられ、水源の森、林産物供給の森、野生生物の森、保健文化の森、地域資源の森の5本柱とし、利用区分(ゾーニング)が行われ、利用区部ごとに森林施業の基本方針・施業方針が厳格に定められました。これにより、林業生産区域においても、皆伐面積は出来る限り小面積化し、可能な限り択伐を実施し、これまで実施されてきた5haを超える大面積皆伐は行わない方向が打ち出されました。沖縄県の森林所有形態は、国有林、県有林、市町村有林が多く、私有林が極めて少ないとのこと。このため、策定した施業指針も普及しやすいのではないかと思われました。現地検討会の②③は、やんばる型森林業により施業された林分でした。現場では、指針作りを行った沖縄県の職員とともに、やんばる型森林業について議論してほしいと要望されました。

③25年間放置したら森林はどうなるのか?-潰れたスキー場の変化-・・・長野県林業総合センター 小山泰弘
 長野県で増えているスキー場跡地の植生遷移をテーマとして、放置されるとどうなるのかという話題でした。スキー場開発前の履歴が、カヤ場であるとか天然林であるとかで、遷移の状況も変わるが、放置後、ススキ、クズが繁茂するとダメで、樹木でもニセアカシア、シラカンバではダメ、ナラもナラ枯れが入るとダメになるため、今のところ、うまく森林化されているのはカラマツが天然更新した場合だけらしい。

④モウソクチク林の広葉樹林化について-皆伐や除草剤と植栽、刈り払い処理の12年後の植生変化-・・愛媛大学 豊田信行
 モウソクチク林を伐採、または除草剤を散布したり、そのまま放置したりした結果、12年後の植生について報告された。伐採後、棚積みせず、すべて林外に持ち出し、下刈りを7年間すると、モウソクチクは淘汰することが出来たそうです。棚積みすると、棚積みの間からタケが発生してきたし、除草剤散布では、周囲にモウソクチクがあったため新たに侵入されたし、伐採後そのまま12年間放置すれば、元のモウソウチク林に再生したとのこと。

⑤豊田市の森林の現状と森林政策の展開・・・豊田市森林課 鈴木春彦
 愛知県豊田市西部は、明治期の日本三大はげ山として有名であったとともに、市の東部は里山や草刈場が多く、荒廃地や非林地が広がっていた地域で、戦後の植林により森林は広がっていった現在では、過密人工林が多く占めるようになってきているとのこと。豊田市の山林は、国土調査もほとんど進んでいない。そのようななか、市では平成19年度から、森づくり基本計画を策定し地域森づくり会議団地化推進プロジェクトをスタートさせ、団地化を進めているが、森林組合の可能な作業量が一杯一杯で、間伐実績が伸び悩んでいるらしく、これは、景気が良ければ労働者はトヨタ自動車に流れ、悪ければ林業にも流れてくるという構図が原因らしい。

⑥関西地区でのセンダン試験植樹について・・・京都府立大学 糟谷信彦
 早生樹として期待されているセンダンの植栽試験を、関西地区で10数か所行っている報告でした。シカに食べられにくいが、一部食害が発生している。暴れるので成長は良い。芽かき後の成長は通常通り見込めないかもしれない。尾根筋では倒れる。ゴマダラカミキリの虫害やこぶ病が発生したとのこと。

⑦高齢ヒノキ人工林内の天然更新・・・愛媛県林業研究センター 石川 実
 高齢ヒノキ人工林内に更新した広葉樹樹種と隣接する広葉樹林出現樹種を比較した内容で、ミズナラを主とする広葉樹林であるが、ヒノキ人工林内にミズナラは出現しておらず、出現した樹種は、ほとんどが周食散布であったことから、それは埋土種子の可能性があるとの意見が出された。この点を確かめるために、更新木の齢構成を確認する必要があるとされた。

⑧オーストリアの天然更新・・・長野県林業大学校 野本浩幸
 長野県林業大学校でのオーストリア研修で、見聞きした内容の報告でした。森林率47%でドイツトウヒが54%、私有林は80%。1次エネルギーの1/3が再生可能エネルギーで、そのうち60%がバイオマスエネルギーで、そのうち60%が木質系燃料とのこと。強度間伐後の天然更新や帯状皆伐後の天然更新、択伐による恒続林施業が実施されており、バイオマス利用なので、一年中伐採されているとのこと。林業機械は、個人所有なのでフル回転しており、特に夏は日が長いため、稼働時間も長いらしい。

⑨イタヤカエデは乾燥に弱いのか?-突然発生したイタヤカエデの紅葉-・・・長野県林業総合センター 小山泰弘
 2016年7月に飯山市において、イタヤカエデが紅葉するということが観察されたそうです。通常、秋には黄葉するが、梅雨の間に紅葉するという観察例はなく、2016年は、気温が高く、降水量が少なく、冬期の降雪量も少なかったという条件が、梅雨の間に、紅葉をもたらせたのか? 他の樹種では、ヤマウルシ、ハウチワカエデ、ナナカマド、ホウノキ、コナラ、クリ、オオヤマザクラが観察されたようで、参加者から、過去に他の地域では、奥日光でミズナラ、九州の常緑樹では、急斜面のガレ場で、夏の乾燥で枯れが見られたとの情報も寄せられました。

⑩地中海地域の森林景観・・・鳥取大学農学部 大住克博
 地中海地域を旅行する機会がありその時のお話でした。南フランスの冬多雨夏乾燥する気候で、人為攪乱があり天然林はない地域で、この地域では、常緑広葉樹から落葉広葉樹の連続性はないとのこと。この点は、日本の景観とは異なるようです。

セミナーの様子

2.現地検討会
①「やんばる学びの森」常緑広葉樹二次林の林内踏査と林相の観察(村有林)
 現地検討会は、やんばるの森を代表する常緑広葉樹二次林を踏査し、林相を観察することから始まりました。やんばる学びの森は、1992年に米軍から返還された森林で、戦後の強度伐採後は、ほぼ手つかずの森となっており、国頭村が「やんばるの森、川、海、集落等を学びの場として、自然への多様な感性をやしない、探究心を育て、環境問題への気づきを得、より多くの人が、『自然を大切にする心を育てる』ことを目的に運営」されている施設で、施設内の常緑広葉樹二次林では、琉球大学農学部がモニタリング試験地も設置されており、定期的に調査が行われています。台風や夏の乾燥、冬の北西風の影響から、樹高は18m程しかなく、モニタリング試験地の種構成は、胸高断面積合計で、イタジイが45.6%を占めて突出し、イジュ14.4%、コバンモチ4.4%、ヒメユズリハ3.5%、タイミンタチバナ3.1%と、なっている。他には、オキナワウラジロガシ、フカノキ、ショウベンノキ等々、見たこともない樹種ばかり観察することが出来ました。林内は、谷部に行けば湿度の高さを感じるし、尾根部に行けば風を感じ乾燥していることが、樹種の違いによっても分かりました。高嶋さんの説明では、ちょっとした斜面の位置の違いでも、成長量が大きく変わるという話も理解できました。尾根部は、特に風害が発生するようで、林冠が疎であることからも想像がつきました。やんばるの森では、風の影響を外しては考えられないようです。今回は、60年生程度の森を見ることが出来ましたが、60年生程度では、遷移の途中であり、150年生くらいが森林の寿命ではないかとの話でした。

やんばる学びの森

②播種造林によるリュウキュウマツ林の成林状況、壮齢リュウキュウマツ林に帯状及び郡状択伐を行った収穫施業林(県営林)
 沖縄県では、本土復帰後、造林補助金対象としてリュウキュウマツの播種造林が行われてきたようです。皆伐後に野焼きした後、5000穴/haの密度で直径2cm深さ3cm程度の穴をあけ、1穴に10粒播種し、10本生えたら5本に、4本から2本に、最終的に1本になるようにはさみで切り、その後5年間下刈りし、17年間3年に一回の割合で、除間伐するというのが、基本的な施業方法らしい。この方法により、リュウキュウマツが植えられていきましたが、最近は、マツクイムシの被害が発生しており、平成12,13年頃に一斉に枯れたため、現在のリュウキュウマツ林は、被害後に発生した二次林が多いとのこと。ちなみにマツクイムシへの抵抗性は、アカマツ>クロマツ>リュウキュウマツの順に弱くなるようです。リュウキュウマツの需要は、当初、パルプチップしかなかったようで、鹿児島県の製紙会社が購入しないと販路もなかったのですが、最近では、内装材や家具材としての取引もあり、出材すれば販路はあるようです。
 現地は、リュウキュウマツ二次林に広葉樹が混ざった林分を帯状及び郡状に択伐した施業林を見学しました。現地で収穫量は、230m3/ha程度であったが、沖縄県では、そのくらいが限度らしい。単位面積あたりの収穫量が少ないせいか、収穫経費が出材した木材収入を上回るのが普通なようで、まして小面積伐採で、しかもスイングヤーダを用いた施業だと、なかなか黒字にはならない。パルプ材の価格が、4000円/m3というから、無理もないでしょう。帯状や郡状択伐を選択した理由は、林地を乾燥させないためとのこと。イジュ、リュウキュウマツを植栽していましたが、植栽樹種以外にもアカメガシワのような先駆種が多く見うけられました。下刈りや除間伐では、植栽樹種以外にも有用と思われる樹種は残していくようですが、かなりいろいろな樹種が出現するなかでの作業は、大変ではないかなと感じられました。
 「なぜ伐らなければならないのか?」材価と伐出経費から考えると、伐らなければならない理由が分からないので、伐ることで一旦林地が若返るというか、草地化することで、生物多様性が維持できると考えると、伐採更新作業も必要なのではないかとの意見も出されました。

小面積皆伐を行ったリュウキュウマツ林

炎天下で熱心に議論する参加者

③尾根筋と谷部を保残し斜面中腹部のみを伐採する環境配慮型の小面積帯状伐採地の更新状況(県営林)
 平成19年に、沖縄では初めてとされるスイングヤーダとグラップルローダの組み合わせによる集材作業だったらしく、当時の伐採業者も不慣れな作業であったため、作業効率は悪かったとのこと。やんばる型森林業の始まりともいえる小面積伐採に取り組んだ初期の事例でした。イタジイが萌芽更新しやすい樹種でもあり、伐採後の更新も順調に進んでいるように見られた。

④段々畑、棚田の放棄地にリュウキュウマツを造林した林分
 奥集落にある林分で、見た感じは立派なマツ林である。リュウキュウマツの標準伐期齢が30年生であり、マツクイムシ被害が進んでいるということから、利用できるリュウキュウマツは早期に収穫をしたいらしいが、内装材や家具材に利用が進んできたけれども、フローリングには使わない等、まだまだ需要の掘り起こしや製品開発が必要であると、沖縄県の林務担当者の方も認識されていた。

段々畑に造林したリュウキュウマツ林

⑤大面積一斉皆伐後に有用広葉樹を造林した混交造林地の更新状況(村有林)
 国頭村村有林で、2006年に皆伐され、イスノキ、イジュを4400本/haの密度で植栽、谷部にオキナワウラジロガシ、ヤブニッケイが植栽された林分であった。タワーヤーダでの集材で3ha以上なら収益が出るらしい。下刈り時には、有用な広葉樹を残すというが、実際は請け負った作業班によりけりということらしい。植栽後30年で、200m3程度の幹材積になるという。生産される材積量から考えると、あまり多くないが、植栽や下刈り、除間伐に対しての補助金があることから、こうした皆伐が進められてきたとのこと。

⑥壮齢期の常緑広葉樹林における除間伐施業後の林分状況、スギ人工林試験地の生育状況(琉球大学農学部与那フィールド77林班)
 与那川沿いの湿気のたまるような地形なのか、やや樹高の高い森林が広がり、イタジイ、イジュ、オキナワウラジロガシが見られる常緑広葉樹二次林である。途中、矢印の先のようなヤンバルクイナの足跡や樹幹を登るオキナワキノボリトカゲを発見しました。1980年代以降、有用な常緑広葉樹として人工植栽されたイジュ、イスノキ、クスノキ等の体系的な施業方法については確立しておらず、除間伐が適切に行われていないとのこと。そこで、イジュの除間伐基準を検討するために、相対幹距の違いによる試験地を設置していました。35年生林分で初めての間伐(H28.3)ということで、残存木の樹冠から、やや間伐が遅れているような印象は受けました。イジュは樹高成長の鈍化が早く10年生くらいといわれており、3~4mくらいの枝下高が確保できたら密度管理を始めると考えると、10年生くらいが除間伐の適期ではないかと議論された。⑦の現地近くに平成14年植栽のイジュで、3年前に間伐した林分がありましたが、こちらは、12年生時に間伐したことになり、枝下高も確保され順調な成育をしていると見られました。
 九州のさし木スギを試験的に植栽した人工林を見ることが出来ました。谷筋で水分条件は良いと思われましたが、36年生らしいが20年生そこそこの林齢かと感じられ、全体に成長が悪い感じでした。植栽木を伐採してみると、年輪が36年形成しておらず、秋のない年があり年輪がつくられていない年があるとのこと、強度を測ってみるとヤング率はE30と、極めて低い値を示したらしい。成熟材がまだ出来ずに未成熟材のみで占められているのではないかとの説明でした。気温が高く日射量もあるから光合成も盛んに行われているのかと思うが、呼吸量も多いため同化量に回らず、材の成長量も小さく、やんばるの森ではスギは不向きであるとの結論になるようです。

間伐が行われたイジュ人工林

36年生のスギ人工林

⑦5ha大面積一斉皆伐地での天然下種更新地の更新状況(村有林)
 大面積皆伐地の一部で(大部分は、イジュ、クスノキ、ヤブニッケイ植栽)、凹斜面と凸斜面での天然更新状況を比較しており、凹斜面の方が、更新が良好でした。凸斜面の方が、乾燥が進むようです。皆伐地の周囲、特に尾根部に残された保残木は、乾燥と風の害により枯損しているのが目立ちました。大面積になればなるほど、残存帯も大きくなり、被害も多くなると考えられることから、やはり大面積皆伐というのは避けるべきなのでしょう。

⑧常緑広葉樹二次林における進行中の伐採現場
 これまで見てきた中でも、最も立派な林分かとも思える常緑広葉樹二次林が、今まさに伐採中、という現場に偶然出くわしました。この日は、現場作業が動いていませんでしたが、架線集材の準備も整い、3haは超えようかという伐採後の状況が見られました。谷部では、樹高20mは超えるようなイタジイ、イスノキが伐倒されており、このような林分でも、収穫量は多くて300m3程度だという。気温が高くて降水量もあることから、樹木の成長量は多いのかと思うが、イタジイやイジュは、年間1mm程度の直径成長しかないとのこと。意外に成長量は低いようでした。

⑨辺戸蔡温松(へどさいおんまつ)並木保全公園
 公園内のリュウキュウマツをマツクイムシ被害から防除し保全しており、胸高直径で1mほどになろうかというリュウキュウマツが青々としていました。マツクイムシに一度は枯らされたという森林が多い中、枯らされずに残しているのは貴重です。

⑩辺戸(へど)岬石灰岩地帯の植生観察
 沖縄本島の最北端に位置する辺戸岬は、石灰岩地帯で独特な風景を醸し出す。隆起したサンゴ礁の断崖絶壁から一望する太平洋と東シナ海の紺碧の海原、独特な植生がみられました。

⑪持続可能な森林経営モデル事業地(名護市市有林)
 やんばる型森林業を見本に、名護型施業として作業道を開設し小面積皆伐を実施した林分で、伐採後は一部リュウキュウコクタンを植栽していますが、イタジイ等の萌芽枝がみられました。伐採時には、胸高直径6cm以下の樹木は残したとされ、伐採作業が平成28年2月に終了したばかりにもかかわらず、多数の木本植物が見られました。伐採された木材は、リュウキュウマツやイジュが中心で、板材や畜産用のチップとして、名護市内で利用されたとのこと。ここでも、リュウキュウマツを播種造林する際に火入れが行われたそうで、今回の伐採時には、リュウキュウマツに混ざってイタジイやイジュが見られており、それらはどこから侵入してきたのか、火入れ後も種子は埋土種子で残っていたのではないのか、イタジイは根萌芽するので、再生力は強いという意見もありました。伐採後、早期に森林が再生するというのは、天然更新施業において最も重要なことと考えられました。

持続可能な森林経営モデル事業地

⑫大浦湾のマングローブ林
 米軍キャンプシュワブ辺野古の近くに位置する大浦湾のマングローブ林を見学することが出来ました。メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギが観察できるマングローブロードが整備されていました。メヒルギは、矮性化しており、定期的な測定によると、一定のサイズ以上にはならず、占有面積も減少しているとのこと。マングローブ林内に入る機会があまりなかったので、貴重な体験となりました。

大浦湾のマングローブ林

 今回、社会背景も自然環境も違う沖縄県北部のやんばるの森において、天然更新を中心にした施業研究の現地検討会に参加し感じたことは、天然更新技術は、伐採面積、伐採方法や伐採時や育林時の作業者による樹種同定能力が重要であること、いかに速やかに森林化することが大切であるか、更新木は伐採時に準備されていること、構成する樹種が違っても基本的な考え方は変わらないということでした。
 最後になりましたが、沖縄合宿幹事の谷口真吾さん、そして高嶋敦史さんには、合宿の企画から準備や段取り、運営に際して、多大なご尽力をいただきましたことを厚く御礼申し上げます。

 


沖縄合宿参加者の感想

2016森林施業研究会沖縄合宿を通して

宇都宮大学大学院農学研究科 修士2年 森嶋 佳織

 今回、ずっと行ってみたかった沖縄での開催ということもあり、初めて森林施業研究会の現地検討会に参加させていただきました。宿舎の周辺に生えていたパパイアの木、初めて見るイジュやオキナワウラジロガシ、デイゴの大木等、関東にはない植物や動物が多数見受けられました。
 本州のスギ・ヒノキ主体の林業とは異なり、沖縄では、イスノキ・イジュ等の照葉樹が植栽されており、現場を見学しながら琉球大学の谷口先生、高嶋先生にご説明いただきました。特に印象に残ったのは、琉球大学の与那フィールドに植栽されていたスギ林が、36年生とは思えないほど細く風が吹くとしなやかに揺れていた様子です。谷口先生から、土壌が弱く、沖縄の四季は「夏・夏・夏・冬」のようであるため、秋から冬にかけての晩材形成がない年もあり、年輪数が林齢と一致しない場合があるという様なご説明をいただきました。同じスギでも、植栽地の環境によってここまでの違いが生じていたことは、興味深いことでした。
 もう一つ印象に残ったのは、やんばる型森林業についてです。リュウキュウマツの造林地を見学させていただき、環境に配慮した森林施業の難しさを感じると同時に、科学的根拠に基づき数十年後を予測した上で、やんばるの森を守っていく人々との合意をどう得るか、という点の重要性を感じました。
 夜のセミナーでは、国内外の森林に関する話題提供や皆様方の熱い議論を聞き、非常に良い刺激となりました。
 2泊3日と短い時間ではございましたが、盛り沢山の内容で、初めての沖縄の地が印象深いものとなりました。また、沖縄の現地見学および森林施業研究会の皆様とのお話を通して、自身の知見の浅さと林業の面白さを再認識し、益々、勉学に励みたいと強く思いました。
 最後に、沖縄合宿の企画および開催していただいた皆様、森林施業研究会の事務局の皆様、初対面であったにも関わらず、温かく迎えて下さった森林施業研究会の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

 

ふるさとの沖縄、はじめての林業

長野県林業大学校 野本浩幸

 私は、長野県に婿入りし、現在、林業大学校にて林業を勉強中の身ですが、実は沖縄の出身です。しかし、元々工業系の出身ということもあり、沖縄の植生や林業に関しては全く知らない状況でした。今回、森林施業研究会のテーマが「沖縄の林業」ということで、これは何かの縁だと参加を決めました。
 地元民ながら、ジャングルのようだろうと勝手なイメージをもっていた沖縄の森林ですが、予想外の樹高の低さと径の細さに驚きました。戦中・戦後の伐採後、色々と生えては来るものの、分解が極めて早いことによる土壌の薄さと、風衝によって育ちが制限されるとのこと。やはり林内に入ってみないとわからないものだなぁと思いました。
 沖縄の林業ですが、現状の九州にパルプで出すという売り方だと、赤字を出し、環境破壊との批判を受けてまで、何のために伐るのかということが気にかかりました。一方で名護市の事例のように、地域内消費というところにこだわれば意味有りだと思います。将来的には、天然更新で有用広葉樹を残して行く施業や、マツ枯れを撲滅した上で(マツノマダラカミキリは沖縄在来ではない)リュウキュウマツの播種造林を復活させることができれば、樹種の珍しさから高値が期待できるのではないかと思いました。
 最後になりますが、暑い中ご案内を頂いた谷口先生、高嶋先生、また横井会長をはじめとする森林施業研究会の皆様方に心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。

 

沖縄合宿感想

田中ゆり子

 沖縄の山を森林として、また一つの施業のフィールドとして見たのは初めてで、これまで沖縄の林業というものを、正直、あまり想像したことがなかったのですが、今回の合宿ではリュウキュウマツ壮齢林から広葉樹の新植地まで、色々な山を見させていただき、とても刺激になり、勉強になりました。
 一つの選択肢である針葉樹、リュウキュウマツは松枯れで今後は難しいとのこと。一方で印象的だったのが、視察で訪れた、とあるイジュ造林地の樹高の低さ(30年生超えで10m程度)でした。今回の限られた日程の中では色々な場所をくまなく見たわけではないし、確かにその造林地は尾根地形の場所ではあったものの、私の頭の中にある林業地というもののスケール感は少し見直す必要があるのかも知れないと感じました。お話によれば、降雨その他の環境の影響で、10m離れれば生育状態が違う、というほど、ピンポイントで樹木が生えている場所の土壌条件に影響されるとのこと。暑いところというと何となく、ものすごい樹高の木があって、幾層もの階層構造になっていて、、という漠然としたイメージがあったのですが、見事に覆され、その昔、高校の地理の授業で、熱帯は分解速度の速さと降雨により土壌が薄いのだという話を確かに聞いた記憶がよみがえってきました。
 夜のセミナーでも興味深い内容がたくさんありましたが、今回の視察の内容も踏まえて印象的だったのは、これまた対照的な(日本では考えられないほど成長がよく通直な)オーストリア林業のプレゼンでした。
 合宿の中ではほかにも、樹齢200~300年と言われるリュウキュウマツの大木や、見上げるようなアカギの大木があったり、伐採跡地の一角では、かなり良い木があるものの林地保全のために伐採区域から外したという沢地の広葉樹林もありました。また一方、ごく一部ではあるものの、コクタンをこれから造林するという個所のお話もあり、一口に沖縄の森林といっても様々だし、林業の戦略も色々あるのだと感じました。
 合宿全体としては、樹種や森林構造から言えば、これまで私が親しんでいる針葉樹林や落葉広葉樹林とは相当異なる沖縄の森林でしたが、そうは言ってもやはりその土地の自然環境、これまでの人々の暮らしと森林との付き合い方等々、様々な要素が混ざり合った結果が今、目の前にある森林なのだな、と改めて感じた山見でした。
 貴重な機会をいただきました谷口先生、髙嶋先生はじめ今回の合宿をサポートしてくださった皆様、施業研そして参加者の皆様、本当にお世話になり、ありがとうございました。沖縄に行きながら海水浴までたどり着かない、盛りだくさんのとても豊かな夏休みを過ごさせていただきました。

 


コラム:施業研究会合宿をふりかえる

事務局長 小山泰弘

 一年に一度、全国どこかの場所で、集まれる人が集まって、地域の森林を見ながら議論を重ねる森林施業研究会の合宿。2013年の合宿で北海道の定山渓を訪れ、今年は沖縄県のやんばるの森。ここ数年の活動だけで、「北は北海道から南は沖縄まで」となんとなく全国制覇をしてしまった感はある。そんなことが頭をよぎったのかも知れないけれど、今回の沖縄合宿の折、「これまでに何回合宿を行ってきたのだろうか?」との話題が出た。
 施業研究会の合宿は、会が設立されてしばらくしたときに、静岡県富士宮市を会場に現地研修会を開催しようということで企画され、現在に至るようであるが、いざ聞かれると記憶が定かではない。私自身をふりかえってみると、初回の案内チラシを見た記憶はあるものの出席しなかったことは間違いなく、毎年参加しているわけではないので、記憶はあいまいなまま。合宿を終えて帰宅した後にも、今までの活動履歴が気になり、改めてホームページをめくりなおして、記録の整理をしてみることとした。その結果が表1のとおり。

表1.森林施業研究会合宿の開催年、開催場所およびテーマ

開催年 回数 日程 開催県 地域 メインテーマ 担当者
1996            
1997            
1998 1 11/6-8 静岡県 富士宮 防災水源かん養路網試験地 渡邉定元
1999 2 10/2-4 岩手県 安比 林間放牧と長伐期施業 澤田智志
2000 3 11/15-17 宮崎県 西郷・諸塚 持続的な森林経営(経営)の基礎 伊藤 哲
2001 4 8/29-31 富山県 立山 雪国の多様な森林管理 長谷川幹夫
2002 5 11/6-8 茨城県 笠間 新たな人工林管理・施業 鈴木和次郎
2003 6 11/4-6 愛媛県 久万 スギ・ヒノキ施業 石川 実
2004 7 11/10-12 神奈川県 丹沢 森林認証 田村 淳
2005 8 9/28-30 長野県 松本・上松 脱ダム宣言と木曾ヒノキ 小山泰弘
2006 9 11/1-3 三重県 伊勢・紀北 伊勢神宮と尾鷲ヒノキ 島田博匡
2007 10 9/26-28 新潟県 苗場 ブナ天然更新と多雪地の林業 長池卓男
2008 11 11/5-7 岐阜県 美山等 針葉樹人工林施業の持続 横井秀一
2009 12 9/9-11 茨城県 笠間 国有林の新たな施業と技術開発 竹澤和亮
2010 13 10/4-6 山形県 最上・庄内 積雪地帯スギ林の長伐期経営 上野 満
2011 14 9/19-21 奈良県 吉野 吉野林業 大住克博
2012 15 9/22-24 福島県 只見 只見地域の生活文化と森林 太田敬之
2013 16 9/4-6 北海道 定山渓 北海道の天然林施業 石橋 聡
2014 17 11/29-12/1 滋賀県 大津 里山の管理と利用 大住克博
2015 18 9/21-23 静岡県 天竜 天竜林業 中田理恵
2016 19 8/18-20 沖縄県 やんばる やんばる型森林施業 谷口真吾

 

 1996年の森林学会関連集会をきっかけに始まった第1回森林施業研究会シンポジウムから遅れること2年。1998年の11月に静岡県富士宮市を会場として合宿が始まり、その後各県をぐるぐる回り、今年で19回目であることが整理された。過去のニュースレターを読み返すと、「第○回 森林施業研究会合宿」と謳っていたこともあるが、いつの間にか「○○年度」に姿を変え、開催回数の意識は遠くへ消えていたのかもしれない。
 とはいえ、北海道から沖縄までを一応網羅できた施業研究会合宿。果たしてどこに出かけたのだろうかと、色塗りをしてみたところ、19回のうち、茨城県と静岡県で2回開催していたため、17道県ということにはなるが、広域的に開催していることが見て取れる(図1)。

図1.森林施業研究会の開催地

 一方で、2016年の春で20回を迎えた森林施業研究会シンポジウムの開催地を記してみると、森林学会の開催に合わせて行っているため、12都道府県に留まっている(図2)。このうち、北海道大学、岩手大学、宇都宮大学、筑波大学、日本大学、九州大学では2回開催されており、東京都では東京大学、東京農業大学、東京農工大学と大学の数が多いだけ回数も多い。
 森林施業研究会のシンポジウムが日本森林学会の関連集会として開催していることを考えると、シンポジウムの場所を変更するというわけには行かないため、ある程度偏りが出るのも仕方ないとは思う。

図2.森林施業研究会シンポジウム開催地

 一方で森林施業研究会の合宿についても「ここでやってみたい」とは思ってみても、簡単には事が運ばない。森林施業研究会の合宿は、単に物見遊山ではなく、それぞれの地域で起きている森林施業にかかわる課題を考えるため、実際の森林施業現場を見ながら議論を重ねることを主眼としているため、地域を熟知した方の協力が不可欠である。
 これまでの合宿でも、実施に当たってはその地域の森林を調査研究されている方や地域に熟知した方に無理にとお願いして、合宿が成立した経緯がある。私自身も、今から10年以上前の2005年の長野合宿を担当させて頂いたが、メンバーからの要望が強かった「木曾ヒノキ」については、当時は知見が少なく、受け入れ先の判断が出来ずに別の担当者にお願いした経緯がある。
 今回改めて、これまでの活動を日本地図に落としてみると、北海道から沖縄まで出かけたといってもまだまだ空白地帯が大きいのだと改めて感じてしまう。
 私自身も、前回の合宿から10年以上が経過したことを考えると、もう一度皆さんと議論したいとも思いもあるけれど、北海道にも沖縄にも出かけたけれど、まだまだ空白地帯が広いことを考えると、できればこれまでの空白地帯を埋めるような形で、現地へ出向き、森林施業の課題解決に向けて一緒に議論が出来ればよいかなあと感じた次第。

 まだ空白地帯だなあと感じた皆さんの積極的なオファーをお待ちしています。