木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.66 (2017年12月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

・「早生樹」をテーマにシンポジウムを開催します
・記録:第21回森林施業研究会シンポジウム「コンテナ苗は再造林に最適な苗木といえるのか?」

 

「早生樹」をテーマにシンポジウムを開催します

第22回森林施業研究会シンポジウム

テーマ:早生樹は林業の救世主になり得るか?

日 時:3 月 29 日(木) 9:00~12:00
場 所:高知大学朝倉キャンパス 共通教育棟1号館 127講義室

内容:昨今、早生樹造林の機運が高まりつつある。各地で、地域に合った早生樹の探索、その造林や育苗の試験が試みられ、植林も行われ始めている。はたして早生樹は、林業界の救世主となり得るのか。このシンポジウムでは、早生樹造林に関する研究事例の報告をいただき、早生樹造林の可能性や課題を議論したい。

話題提供(敬称略):
 1.「早成樹造林」とは何だったのか・・・・・・・・垰田 宏
 2.熊本県におけるセンダン育成技術の開発・・・・・横尾謙一郎(熊本県林業研究指導所)
 3.有用広葉樹としてのオニグルミの可能性・・・・・陶山大志(島根県中山間地域研究センター)
 4.早生樹としても期待できる次世代スギ精英樹・・・江島 淳(佐賀県林業試験場)
 5.総合討論:早生樹造林を考える


記録:第21回森林施業研究会シンポジウム「コンテナ苗は再造林に最適な苗木といえるのか?」

長野県林業総合センター育林部 大矢信次郎

司    会:山川博美氏(森林総合研究所)
総合討論司会:櫃間 岳氏(国際農林水産業研究センター)

【趣旨説明】横井秀一代表(岐阜県立森林文化アカデミー)
 拡大造林の終焉とともに、苗木の生産量は減少したが、近年の皆伐面積の増加により苗木の供給量が不足してきている。一方で、造林コストの削減も求められ、伐採・造林一貫作業を進めるうえでは①通年植栽が可能で、②初期成長が大きい、という期待がコンテナ苗に寄せられた。これまでに、森林総研、各地の大学、都道府県研究機関、国有林で研究・検証が進められ、様々な知見が出てきている。
 コンテナ苗の現場への普及状況をみると、例えば岐阜県では、51事業体のうち過去5年間に植栽を実施したことがあるのは67%で、そのうちコンテナ苗を植えたのは33%だった。コンテナ苗に対する評価としては、大きさの割に重い、価格が高い、運びにくい(取扱い困難)、植えるのは楽、など。また、コンテナ苗の利用が進まないのは、植栽する事業地がない、一貫作業の現場がない、などが主な理由であった。
 本日のシンポジウムでは、再造林を行うにあたって、「コンテナ苗がいいのか?コンテナ苗でいいのか?」を議論したい。

写真.会場の様子

【話題提供】

1.低コスト再造林とコンテナ苗(宮崎大学農学部 伊藤 哲氏)
 全国森林計画の伐採計画量は、H26~41年の間に約180万haを主伐し、そのうち約半分は再造林することとしている。しかし、どこにでも同じように植えられるのだろうか。
 これまで、わが国が目指してきた森林管理の概念は、常に目標が達成される前に方向転換されてきた。明治期の治山重視の森林整備→それが成熟する前の戦時中の強度伐採→戦後の拡大造林→人工林批判→石油ショック後のバイオマス林業→公益的機能重視の複層林施業→温暖化対策→バイオマス利用のための早生樹…。管理目標が変化し続け、時には回帰し、多くの問題は解決されないままである。中央も、現場も、研究も、全国画一管理に踊らされた。それぞれ必要な場所や適地があったのは間違いないが、「どこで」の視点が欠けていた。
 九州での再造林プロジェクトでは、「どこなら適用可能か」に気を付けた。一貫作業は車両系が適地。コンテナ苗の初期成長に過度の期待をしてはいけない。活着についても条件が良ければ裸苗でもいい。コンテナ苗が優位性を発揮するのは、裸苗では生残率が落ちるような乾燥条件のとき。コンテナ苗は植栽が楽だからコストが安い、というわけではなく、苗木が高いので低コストではない。育苗システムの改善が必要である。
 今後は、コンテナ苗に+αが必要。大苗にすることは、シカの食害軽減、下刈り省力化など、トータルコストを考えると現実味がある。裸苗以外のオプションが増えたと考えよう。「適地、適時期、適苗種」が大事で、「みんな揃ってコンテナ苗」はナンセンス。なお、「実生苗と挿し木苗」「多雪地域と寡雪地域」「苗のサイズ」はこれから検討すべき事項である。

2.コンテナ苗生産の現状(長倉樹苗園 長倉良守氏)
 スギ苗生産を始めて60年、コンテナ苗生産8年目。現在の生産量は、スギ挿し木コンテナ苗20万本、スギ挿し木露地苗80万本。コンテナ苗は植栽作業効率がいいので需要が高く、供給が間に合わない状況。
 コンテナ苗生産の年間スケジュールは、10月床挿しまたはコンテナに直挿し→5月移植(床挿しの場合)→1月以降、出荷(育苗期間:15か月~)である。宮崎県の挿し木コンテナ苗は130円/本で、6割は人件費。培地充填は、今は機械化している。コンテナでも縦方向のルーピングが見られるが、問題はない。
 宮崎県全体では、毎年50万~60万本の規格外苗(規定サイズ未満)が出ている。これらをペーパーポット(7円/枚)に移植し活用している。2月~6月にペーパーポットに移植すれば、9月から順次出荷でき、苗木不足に対応できると考え、検証を進めている。

3.全国で評価した植栽後のコンテナ苗の成長(森林総合研究所 壁谷大介氏)
 全国1道7県の植栽試験情報(112グループ、7、923個体分)を収集した。これらの生データを基に、活着率、樹高・肥大成長率を推定し、コンテナ苗vs裸苗で比較した。
 結果として、活着も樹高成長率も「コンテナ苗≒裸苗」であった。直径成長率は、少しコンテナ苗が大きかった。一方、形状比は、コンテナ苗も裸苗も1年で65前後(55~70)に収束する。「苗木を論じるには成木に倣え」で、コンテナ苗に存在可能な幹断面積合計には上限があるはず。コンテナ内に存在可能な幹面積合計上限を推定すると、1個体当たりの枝下直径上限は、40穴で5.2mm、24穴で6.8mmとなった。形状比65とするならば、苗高は40穴で34cm、24穴で44cmとなる。多くの事例で検証が必要だが、苗木規格を決める際の参考にできるかもしれない。

4.コンテナ苗の林地保管後の活着と成長(高知県立森林技術センター 渡辺直史氏)
 架線で苗木運搬する場合、搬出を終え架線を撤去するまでに時間がかかるため、苗木の林地保管が必要になる。シカ柵設置をする場合は更に長期間の保管が必要になる。そこで、林地での苗木保管期間を0・7・14・28日に設定し、植栽後の活着率を比較した。結果は、運搬当日に植栽するより保管期間をおいた方が、活着がよかった(スギ、ヒノキとも)。1ヵ月程度なら、現地保管しても活着は落ちず、むしろよくなるという結果であった。順化の効果である可能性がある。これらのことから、架線があるうちに苗木を運搬し現地保管することは可能と考えられた。


【総合討論】
 4人の話題提供者からの報告を受けて、後半はフロアを交えた総合討論が行われた。参加された方の中には、研究や事業でコンテナ苗を扱っている人も多く、フロアでの意見交換は話題提供者を交えた白熱した議論となった。
 総合討論は、主に1)山での造林に関する技術的な話題と2)苗木価格と苗木生産コストに関する話題、3)コンテナ苗に求められた造林コスト削減効果への評価に関する話題で繰り広げられた。

1)山での造林に関する技術的な話題
 この話題の一つが、植栽時期。「コンテナ苗は、裸苗では厳しいときに植えるべき」や「夏植えは、直前に地拵えがなされることから初年度の下刈りが省略できるメリットがある」という発言がある一方で、「遅い秋植えだと寒風害や根の浮き上がりが心配」や「秋植えだと雪による引き抜けも心配。ただし、これは深植えで改善できる」という注意を喚起する発言もあった。
 山行きに適した苗の形状に関しては、「JFAで作ると形状比60は難しいが、不織布ポットなら自由がきく。JFAを使うなら、1つ飛ばしにするという手もある」や「(コンテナ苗の初期成長がとくによいわけではなく)下刈り抑制に貢献しないなら、30cmくらいの苗高で、植栽後によく伸びるものにしたらどうか」という意見や「根鉢が大きい方がポテンシャルは高いが重くなる」という指摘があった。
 また、「コンテナ苗で植栽の人件費を抑え、造林プロセスを効率化できる」とか、「現地保管の可能性が期待できる」というコンテナ苗の優位性の指摘がなされた一方、「コンテナ苗の優位性は限定的。もっとデータの蓄積が必要。形状比も樹種による差がある」との指摘もあった。

2)苗木価格と苗木生産コストに関する話題
 これは、コンテナ苗の価格が下がらなければそれを使うことによる造林コストの削減は困難であるという現実に対する、苗木生産の現場の苦悩に関する話題である。
 苗の価格に関しては、「全部売れれば120円でもいい。JFAだと中心部の苗が小さくなる。ロスが大きい(得苗率が低い)と120円は無理」や、「残苗が問題だが、全部買ってもらうのは難しい。きちんと原価計算しないといけないが、130円を120円にするのが限度だと思う。苗木の総量が増えれば単価が下がってもいい」という現場からの声が聞こえた。
 こうした声に対して、「需給調整が大事。どの時期にどれくらい必要か、示す必要がある。徳島県では年1回では足りなくて2回やっている。リアルタイムで情報交換ができる体制が必要」、「300ccのコンテナ苗に限っては需給調整がしっかりできているが、不落現場もあるので難しい。発注はその都度に行っている」、「国有林で決めにくいなら、民有林はもっと難しい」などの声が返された。
 また、「挿し木苗をつくるための穂木の調達が難しい。企業体として伐採業者が苗を作り、植えるのがいいと思っている」との意見もあった。

3)コンテナ苗に求められた造林コスト削減効果への評価に関する話題
 以上のような議論がなされた後、改めて「コンテナ苗はコスト削減が命題だった(下刈り減も含めて)が、その評価はどうなっているのか」という疑問が呈された。
 この疑問に対して、「オプションが増えたことはいいこと。コンテナ苗はコスト削減の一つの材料。森林総研でトータルコストの削減評価をしているので、公表してほしい。ただし、育苗コストの削減には限界がある」、「コンテナ苗は一貫作業との組み合わせでメリットがでてくる。一貫作業は、車両系システムで伐出できる傾斜20~30°までのところで行うべき。コンテナ苗は伐ってすぐ植えられることで優位性が発揮され、春植えではそのメリットはない」、「消極的な夏植えは、どうしてもある。人が足りないので乱暴な植え方になるのに対し、コンテナ苗で安定的な活着が得られればいいのでは」という意見が出された。
 そして再びコンテナ苗生産の話に立ち返り、「コンテナ苗単価の130円には(補植しなくてもいいという)保険代が含まれていると考えるべき。自立できないほどの形状比ではダメだが、苗の形状比を65に合わせる必要はない。気にしないでいいところの形状比が欲しい」、「コンテナ苗のシェアは、今は1%くらい。種苗生産者に跡継ぎいない中、コンテナ苗の方が作業的に楽で大量生産に向いている」、「生産者にとっても、育苗中に草取りがいらないので人件費を減らせる。コンテナ苗生産をやりたい人は増えている。残苗率は、行政課題である」という発言があった。

 最後に、「コンテナ苗というオプションが増えたことは、いいこと。どこに使うかが大事で、トータルとして安くなる使い方もあるだろう。具体的な場面を、地域で考える段階にきている」という意見や、「コンテナ苗は、ツールの一つとして考えていくべきか」、「何にしても、画一化は避けるべき」という意見によって総合討論が締めくくられた。

【記録報告者の感想】
 コンテナ苗については、山に植えてからどうなったか、という評価がこれまで多く報告されてきました。活着に関しては、裸苗より成績がいいという報告が多い一方、成長に関しては裸苗と同等、良い、悪い、と結果は分かれています。しかし、山に植える以前に、使用したコンテナ苗がどのように育成されてきたのか、ということも重要で、挿し木or実生、移植or播種、育苗期間、培地組成、培地の充填量、肥料の種類・量・施肥のタイミング、灌水条件、温度、日射量…等々、条件は様々です。私もこれまでカラマツを中心にコンテナ苗の活着や成長、植栽時期の評価をしてきましたが、悩ましい結果が出ることも多くありました。
 5年前に作られたコンテナ苗と今のコンテナ苗では品質的にだいぶ違います。今でも、生産者によってだいぶ違います。同じ生産者でも、ひとつのトレイの中でかなりバラツキがあります。需要を満たしきれない中で、コンテナ苗の選苗は裸苗と同じレベルで行われるのでしょうか。そもそも、「標準的なコンテナ苗」と言えるものは、存在するのでしょうか?
 育種と造林・育林の狭間で、育苗分野の研究がこれまで手薄であったかもしれません。この分野の研究が急速に進み、「これぞコンテナ苗!」というコンテナ苗が早くできることを期待します。