木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.68 (2018年5月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

・第22回森林施業研究会シンポジウム記録
 「早生樹は林業の救世主になり得るか?」に参加して・・・・・駒木貴彰(森林総合研究所東北支所)
・シンポジウム参加者の感想


第22回森林施業研究会シンポジウム記録「早生樹は林業の救世主になり得るか?」に参加して

駒木貴彰(森林総合研究所東北支所)

早生樹の造林は、世界的には1990年以降急激に拡大してきた。わが国でもパルプ・チップ用の需要が増大してくると、短期間に大きな材積成長量を期待して早生樹への関心が高まった時期があるが、しばらく経つとあまり話題にならなくなった。ところが近年、国内でマテリアル用広葉樹原材料の確保が要請される状況となり、低コストで造成でき、短期間に資本回収が可能で、しかも単価が高く高収益が期待できる早生樹への関心が高まってきた。加えて、木質バイオマス利用施設(発電、熱利用)の増加による燃料材需要の急拡大も早生樹造林に目が向けられる大きな理由となっている。今回、森林施業研究会では、早生樹造林の林業上の今日的位置づけを確認することを目的としてシンポジウムを開催した。会場はほぼ一杯の人で埋まり、早生樹に対する関心の高さを伺わせた。



横井秀一氏によるシンポジウムの趣旨説明に続いて櫃間岳氏の司会によって四名の方々の講演が行われたので、講演と質疑の内容を簡単に紹介し、若干の感想を述べてみたい。

1)垰田 宏氏は「「早生樹造林」とは何だったのか」という刺激的なテーマで、氏が林業試験場時代に関わったモリシマアカシア研究の顛末を含めて、わが国における早生樹造林の歴史を振り返った。早生樹は皆が忘れかけた頃に時代の要請で再ブームとなり、それも困ったときの神頼み的な存在として期待を集めていると述べた。過去に改良ポプラ、コバノヤマハンノキ、ユーカリ類、モリシマアカシア等の造林が試みられたが、病虫害で多くが失敗に終わっており、その失敗の原因を立地条件や気象条件等からしっかり調べておくことの重要性を強調した。と言うのも、早生樹種の造林成績の調査では、成績の良いものが注目されるが悪いものは注意が払われず、その結果、造林適地の判定(どのような場所に植栽してはいけないのか、成長する条件は何か等)ができていないという問題があるため、失敗の原因が樹種自体にあるのか、植栽地の土地条件や仕立て方にあるのかを明らかにする必要があるからである。垰田氏の講演から、改めて適地・適木・適作業の徹底が早生樹造林を成功に導く重要な鍵であることが理解できた。

2)横尾謙一郎氏は「熊本県におけるセンダンの育成技術の開発」と題して、センダンに取り組むことになった背景とこれまでの研究成果を講演した。それによると、熊本県の早生樹研究は細川知事時代の昭和61年から始まり、様々な選抜基準をクリアした広葉樹(オニグルミ、フウ、センダン)の中から、郷土樹種であること、スギに劣らない市場価格であること、流通量が多いこと、という3条件を満たすセンダンが選ばれたとのことである。センダンは家具や内装用材用にケヤキの代替品として使われ、成長が速く価格も高いが、熊本県内に自生するものは幹曲がりが多かった。それを解決するために植栽密度を変えたり、枝打ちをしたりという様々な研究を重ねた末に、植栽2年目まで芽かき作業をすることによって幹曲りを抑制できることが分かったという。このセンダンの成長スピードは大変速く、植栽後2~3年で樹高6~10m、20年生で皆伐するときには直径46cm以上にも達するということである。こうした成長を確保するには適地選定が重要で、谷筋や斜面下部及び平地が適地であり、斜面上部や尾根筋は成長が悪い。また、ゴマダラカミキリの食害やセンダンこぶ病への対策が必要となっている。このように、センダンは適地造林が行われれば経済的にも有望な樹種であり、国や県の造林補助金を使って平成25年以降急速に造林が進み、現在では約24ha(400本/ha植栽)が造成されている。育林コストは20年伐期で200万円/ha、伐採収入は320~330万円/haが期待できるということであるから、造林樹種としての魅力は十分ある。現在、家具業者が集中する大川地域の原木消費量を考えると20年伐期のセンダン林が200ha必要であるというから、まだまだ造林面積が拡大する可能性がある。

3)陶山大志は「新規有用広葉樹としてのオニグルミの可能性」というテーマで島根県でのオニグルミ直播き試験の成果を報告した。オニグルミは樹実が食用に供される上に、その材質は強度と寸法安定性が高く、しかも加工もしやすいためフローリングや家具材向けに人気が高まっている。オニグルミの直播き試験をしたところ、4月に播種する発芽率は68%であったという。また、35年生で胸高直径(木部部分)が35~40cm程度になる。再造林コストをスギと比較すると、5年生までにスギの場合は147万円/haとなるが、オニグルミは39万円/haで大幅なコスト削減が可能とのことである。また、35年伐期で収支を試算すると350万円/ha程度のプラスになるというから、その点ではスギと比較しても魅力的である。また、植栽地としては林地ではなく耕作放棄地(農地に再生することが困難と見込まれるB分類の荒廃農地)が想定されており、林業にとっては土壌が肥沃で地形的に良好な条件にあるから、いわゆる樹園地的な造成が想定されているようである。

4)江島 淳氏は「早生樹としても期待できる次世代スギ精英樹」と題して、佐賀県における次世代スギ精英樹選抜方法と現状を説明した。佐賀県内の試験地に植栽されている精英樹F1クローンの中から、成長が速い、強度が強い、花粉が少ない、挿し木が可能、という4条件を満たしている品種を選抜し、これまでに次世代精英樹候補として6品種が選ばれており、2020年には穂木販売を開始する予定とのことである。今後は候補品種の初期成長と立地条件との関係や、下刈り省略の可能性等について研究する予定とのことである。初期成長については、2成長期で樹高2mの成長ということであるから、従来の下刈り実施期間の短縮は十分に可能と考えられる。


四氏の講演のあとに小山泰弘氏の司会で総合討論が行われた。そこでの話題の中心は、早生樹の植栽はどのような条件の場所で可能か、ということであった。ここでの議論で、早生樹には耕作放棄地が植栽適地であるということは、参加者のほぼ共通の認識になったと思われる。その一方で、早生樹の植栽適地はスギの適地でもあるという指摘もあった。次世代スギ精英樹は明らかに早生樹(30年程度の短伐期でローテーション可能)であり、これを立地条件が良い耕作放棄地のような場所に植えれば、確かに低コストで労働生産性の高い林業が実現できそうである。フロアからは、スギの育種研究をもっとやるべきだという意見も出された。スギの後に続く造林樹種を模索している中でセンダン、オニグルミ、コウヨウザン等の早生樹が注目されているが、スギも育種技術の高度化によって早生樹の一つとなり、「スギの後にスギ」という選択肢もあり得るだろう。今回の報告では、パルプ用材や木質バイオマスエネルギー用材ではなく、一般製材用に仕向けられる樹種が報告の対象となった。地域的条件(自然、立地、産業構造)に応じた多様な樹種による様々な林業の姿が考えられる中で、早生樹に何を求めるか(造林の目的や材の用途)、どのようなリスクマネージメントが必要かなど、早生樹への取組を一時的なブームに終わらせず、日本林業の将来を見据えた議論がこれからも必要であると感じた。早生樹が日本林業の救世主になり得るかどうかは、早生樹に関する過去の取組の反省に立脚した今後の研究にかかっている。


シンポジウム参加者の感想

過去の失敗の轍を踏まないようにしたい

藤下定幸(岐阜県森林技術開発・普及コンソーシアム)

森林施業研究会シンポジウムに参加させていただき、ありがとうございました。
当団体では、コウヨウザン等の早生樹が岐阜県で生育できるのか、今年度から実施検証を予定しており、参加した次第です。

今回のシンポジウムでは、残念ながらコウヨウザンは話題に上がりませんでしたが、○過去にも早生樹ブームがあったこと、○立地条件が良ければよく育つこと、○逆に条件の悪い場所では育たないこと、○早生樹の適地はスギの適地であり『日本の早生樹はスギでしょう!』など、勉強になりました。とりわけ、シンポジウムで議論になった、『誰のための早生樹なの?、行政のためじゃないの?』は、肝に銘じなければならない言葉と感じました。

私ども団体が、早生樹(コウヨウザン)を検証対象とした目的は、○主伐後の再造林樹種の選択を増やすこと、○森林所有者からも早生樹の検証要望があることなどです。単に早生樹ブームで検証に着手するわけではないのですが、過去の失敗の轍を踏まないよう、早生樹の成功例(メリット)だけでなく、失敗例(デメリット)も明らかにしながら技術的観点から検証を進めていきたいと考えております。

機会があれば、また研究会に参加させていただければと考えております。