木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.10 2000.10.05
Newsletter of the Forest Management and Research Network

「持続的な森林経営(経営)の基礎」研修会を兼ねる森林施業研究会

第3回現地検討会(九州合宿)を宮崎県西郷村・諸塚村で開催

森林・林業関係者の多数の参加を!

 

 森林施業研究会(通称)では、森林・林業に関る試験・技術交流と情報交換のために、毎年秋に現地検討会(通称合宿)を行っています。今年の合宿は、平成12月11月中旬に、スギ素材生産量で日本一を誇る宮崎県で開催されます。今回の合宿では、「持続的かつ省力的な林業を目指した林畜複合生産」をテーマの中心に据えて、宮崎県北部地域で試みられている様々な森林管理の取り組みについて意見を交換し、高密度林道網で有名な宮崎県諸塚村の山林の現地見学のを行います。諸塚村の山村・林業振興については、前村長で現耳川広域森林組合長の甲斐氏よりご講演いただく予定です。また、特別講義では、本研究会代表の渡邊定元氏が、持論の「持続的森林経営(管理)論」を展開します。

 宮崎県は膨大な針葉樹人工林を有し、その多くが日本国内でもいち早く予定の伐期齢を迎えようとしています。この「宮崎合宿」では、いよいよ「国産材時代(!)」を迎える日本の森林管理の行方について、現場の意見を交換し合い、日本の森林管理・林業の新たな方向を探ることを目指しています。相変わらず、いかがわしいカルト集団のような研修会ですが,その分、肩肘張らずに自由な議論が可能です。少しでも新しい発見を期待して、是非ご参加ください!

 

森林施業研究会・第3回現地検討会および研修会(通称:九州合宿)

日時:平成12年11月15日(水)−17日(金)

場所:宮崎県西郷村、諸塚村

主催:森林施業研究会(代表:渡邊定元)

参加費:宿泊費+酒代のみ(全部合わせて10,000円は切れると思います?)

 

スケジュール

11月15日(水)

午後4時30分:現地集合(宮崎県西郷村:宮崎県林業総合センター)

午後5時より特別講義

「持続的森林経営とは何か_その理論と実践_」渡邊定元

夕食後午後7時よりセミナー

「林畜複合生産」等に関する話題提供(3題程度)

 

11月16日(木)

午前8時30分より午後5時まで

「林畜複合生産」および「高密度林道網」の現地検討(諸塚村)

「針広混交林施業」等の現地検討(西郷村)

夕食後午後7時より特別講義(林業総合センター)

「(仮)諸塚村における山村・林業振興」甲斐重勝氏

午後8時よりセミナー

森林管理・林業技術に関する研究発表と討議(2題程度)

 

11月17日(金)

午後8時30分より午前11時まで

森林管理・林業技術に関する研究発表と討議(2題程度)

午前11時 現地解散

※ 都合により、スケジュールの順序が若干前後する可能性があります。

 

参加申込みは,住所,氏名,連絡先明記の上,下記の担当者宛にFAXかe-mailでお願いいたします。

締め切りは10月20日とさせて頂きます。

 

「宮崎合宿」事務局

伊藤  哲(宮崎大学農学部)

e-mail:s.ito@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL/FAX:0985-58-7178(研究室直通)

溝上 展也(宮崎大学農学部)

e-mail:mizoue@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL/FAX:0985-58-7183(研究室直通)

 

第二回日韓森林研究者交流セミナー開かれる

大住克博(森林総研関西支所)

 去る9月4〜7日に日光市(宇都宮大学日光演習林)において、昨年に続いて二回目の日韓森林研究者交流セミナーが開かれました。今回は、韓国側から林業研究院や忠南大学に宇都宮大学留学生をあわせて約10名、日本側からは約15名の参加がありました。このセミナーは、文字通り日韓両国の森林研究者の草の根レベルでの連携を目的とするものですが、当施業研究会に関係深い方々も何人か参加されています。

4日間のセミナーでは、日韓双方からの研究紹介と日光周辺の森林の現地見学が行われました。宇都宮大学谷本教授による日光周辺の森林植生のガイダンスを口切に、日本側からは、日本列島のコナラ属各種の遺伝的多様性の検討、シデ属を中心にしたカバノキ科樹種の生態的地位の解釈などについての発表が行われました。また韓国側からは、韓国の森林植生と日本の森林相観の比較、韓国における長期モニタリング試験の紹介、山火事後の植生回復と埋土種子の実態、韓国北部で発見された湿原の群落構造などの発表があり、それぞれについて活発に意見が交換されました(写真)。韓国と日本の森林の間には、植物相において基本的な類似がある一方で、ブナの有無、積雪量の違い、林床におるササの優占度などの点で決定的な違いもあります。そのような類似と相違を併せ持つ背景のもとで、双方の研究者は、同じような植生や種についてしばしば異なった視点と解釈を持つに至ることがありますが、その違いを認識しながら議論ができたことは、大変面白い経験でした。また、日光一帯における現地見学では、亜高山帯針葉樹林からブナ林、河畔林、高齢なスギ人工林までという変化にとんだ森林植生を観察しましたが、韓国側参加者にとって、その林相の多様さと構成種数の多さは大変印象的であったようです。

さてワールドカップを控えるなど、近年の日韓関係改善の時流を反映したようなこの交流セミナーですが、そもそもはそれほど立派な使命を背負って始まったわけではありません。意外にすぐ隣の韓国の森林を見る機会が無い、先進国である韓国には援助関係で行くことも無い、さりとて韓国で開かれる国際学会に参加してももっぱら観光地周辺しか見られない、だったら個人的に押しかけていって見せてもらおうというのがきっかけでした。それで昨年、我々10人ほどが渡韓して、南部の智異山を韓国林業研究院他の方々に案内していただき、彼の地の森林をすっかり堪能して参りました。その折に韓国の皆様には大変お世話になったので、どうもそのまんまという訳にはいかない、ならば次は日本に来ていただこうということになり、今回の第二回目のセミナーが開催されたわけです。

 

このように気楽なスタンスで始まった交流会ですが、二回続いてしまった現在では、関係者一同、それなりに交流会の役割、存在意義のようなものを感じ始めています。欧米や熱帯諸国のように、日本と大きく異なった風土の森林、林業を知ることは、我々の視野を広げ、我々自身の仕事を大きな体系の中で定位するのに貢献してきましたが、一方で、日韓のように基本的な枠組みが類似する地域同士が相互理解を深めることには、また別の意義があるだろうと思います。それぞれの微妙な相違を吟味し明らかにしながら共通の問題について議論を進めれば、より精緻な検討を行うことができるのではないでしょうか。例えば、日本の森林を議論する装置として熱帯林などで発展した仮説を使用するといった近年の試みは、有意義であり多くの成果を生んでいますが、加えて、地史的背景や独特の高い種多様性で共通する東アジア地域内での相互検討から、森林についての新しい視点を見出していくことができれば、我々の森林の理解はより豊かなものになるでしょう。落葉ナラ林、ブナ林、温帯性針葉樹林、その人工林、照葉樹林、マツ林、亜高山帯針葉樹林等々、日本列島を代表するどの森林をとってみても、少なくとも朝鮮半島、中国、台湾、極東ロシア、あるいは東南アジア高地といった空間を視野に入れて議論する必要があることは自明です。

東アジア地域で我々が共有できる領域の広さと、共有することにより生まれる展開の可能性を考えれば、もはや我が国のような一国によって閉鎖した林学(あるいは森林管理・林業政策も)は終焉させるべきなのかも知れません。北米、南米、東南アジア、ヨーロッパといった地域では、既に林学(あるいは森林・林業政策も)は国境を越えつつあるように見えます。もちろん同じ地域だからといって、安易に共通性と統合のみを強調することは危険であり、そのことには十分に慎重である必要があります。かつての汎アジア主義のように、日本という一国の価値観の押し付けに陥る愚は避けねばなりませんから。共通性の裏にある差異を認識しつつ、互いの状況を相対的に理解するという姿勢が必要でしょう。進んだ日本が他の国の森林を診断してやるという思い込みを捨て、自分の視点も、あまたある視点の一つであるという相対性を自覚した上で、どんどん越境して行きたいものです。

韓国へ遊びに行こう、ついでにうまいものが食べたいという観光客にしては、いささか壮士風の演説になりました。が、日韓セミナーの今後の使命をウーンと真面目に考えれば、つまるところ日本林学(会)を解体し、Journal of Forest Research を解消し、新たに東アジア地域をカバーする組織体を発足させ、共同運営のジャーナル(Asian Journal of Forest Research?) を刊行する。多分、そんなところに行き着くことになるのでしょう。まぁ、そんなことまで考えてしまうと、重くて息切れしてしまいますので、当面交流ゼミは友好を第一とし、楽しくやっていきたいと思っていますが。なお、第一回目の交流セミナーは昨年韓国で開かれましたが、これについては林業技術(2000年2月、第695号)に、拙稿による紹介がありますので、こちらもご覧ください。

 

研究レポート 木材の利用と育林と
上田友彦
(長野県工業試験場)

 

編集後記

日韓合同セミナーで、3晩ほど韓国の学生と同室した。その翌週には、日本の学生たちと1週間ほど野外調査を行い、さらにまた、別の大学の学生たちと仕事をともにした。3週間にわたり、国も年齢も専攻も異なる様々な学生たちに接し、色々なことを考えらせられた。生真面目で、礼儀正しい韓国の学生達は、勉強したてのたどたどしい日本語で自分達が勉学と人生を語り、私に意見を求めた。日本の古き良き時代の学生を髣髴させる(?)。林床植生の現存量調査で、のこぎりと剪定バサミを渡された日本の学生達は途方にくれ、さらに極めて奇怪な使用法で、はらはらさせ、また笑わせてくれた。また、日本の学生たちの間には、女子学生の優位と男子学生の優柔不断が際立っていた(たまたまか?)。不器用さと世渡りの上手さ、冗談と生真面目、自信と不安、それらがすべてコインの裏表として現れてくる日韓両国の学生たちに、ふと私は彼らに何を伝えたいのか、何が伝えられるのかと考え込んでしまう。私達の失敗の蓄積か、成果の蓄積かと。もっとも、彼らは、「そんなのいらない!」と言うに違いないなー(狢)。


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