木霊 (TARUSU)

森林施業研究会ニュ-ズ・レター  No.61  2015年3月5日
Newsletter of the Forest Management and Research Network


目次

森林施業研究会 現地検討会(滋賀県大津市)の報告

森林施業研究会現地検討会 琵琶湖合宿の報告

琵琶湖合宿の報告(清水香代) PDFファイルをダウンロード

長野県林業総合センター育林部  清水 香代

琵琶湖合宿集合写真
琵琶湖湖畔で集合写真

 2014年11月29日~12月1日の3日間、滋賀県大津市を中心に里山広葉樹の管理と利用方法や低地の温帯性針葉樹について、現地にて意見交換や検討を行うことを目的として施業研究会現地検討会が開催されました。

内容

11月29日(土) 13:00~18:00

〇大津市志賀町で里山景観や里山林についての現地検討(里山の景観1)(説明者:大住氏)

 蓬莱駅から琵琶湖と反対の方向に見える比良山(EL≒500~1,000m、琵琶湖はEL=85mなので、一気に上がる地形)周辺の環境や植生についての説明がありました。当時は、少ない平地で耕作を行い、比良山でアカマツやアベマキ、クヌギ(植栽で高級薪)を伐って、大八車で運搬し、琵琶湖の浜で舟に乗せ、大津や都市部へと運搬していたそうです。そのため、山から浜までが一つの生活エリア(村)としていくつも平衡して並ぶ形をとっていたとのことです。
現地を眺めると急斜面に見えますが、実は山の中には当時の大八車での運搬用の「歩道以上、作業道以下」の道が多く通っているとのことで、関西地方は路網整備が盛んだったことがうかがえました。お話から、当時の人々の生活が山から琵琶湖まで一体的に、そして自然と深く密着していたことがわかりました。
その後、宅地の裏に広がる扇状地の棚田に移動。現在の里山の景観についての議論を行いました。


蓬莱駅から見た比良山

 


扇状地に広がる田園風景

 


比良山~琵琶湖までの景観

〇大津市志賀町で里山景観や里山林についての現地検討(里山の景観2)(説明者:大住氏)

 山から琵琶湖までの間に島状の緑地が点在する景観でした。景観的、ランドスケープ的な要素も高いが、ここでは神様を祀る場所として、主にタブノキやエノキで形成されていました。タブノキは、信仰と結びついていることが多く、これは、日本海沿いの舟関係の信仰と同様であるそうです。


田畑に点在する信仰に関わる緑

〇じあれ谷(土石流頻度が高い渓流)(里山林)

  アベマキ-クヌギ林が広がる、元はアカマツの調査プロットを案内して頂きました。アベマキは石礫の多い場所で優占しており、元アカマツの調査プロットは、マツ枯れでアカマツが無くなり、アベマキの樹冠下にスギ(天然生)となっている場所でした。また、アカマツ枯損後にヒノキ林(天然更新)となっている林分はアカマツの枯損による炭素の発生源にもなっていました。
人為的、土石流、マツ枯れなどの攪乱があると一つの更新しやすい条件となる説明を受けました(ここでは、マツ枯れが更新の条件)。当概地のような低地の天然生ヒノキ林は、関西でも点々としており、全国的にはヒノキのみではなく、 サワラ(木曽)やスギ(山形)、ネズミサシ(兵庫)にも存在し、これらの林分は針広混交林化しているそうです。



段丘下の作業道沿いにはスギの天然更新


アカマツ枯損後にヒノキが天然更新した林分


樹高15m程度のヒノキの一斉林になっている(天然更新)


林床のマツ枯損幹上にヒノキ実生が発生している

今回のようなマツ枯れ林分は、防災面から考えると、一時的には防災機能が低下していたはずで、その間の防災面の予防的措置は必要なのではと感じました。

11月30日(日) 9:00~18:00
大津市志賀町で里山の薪利用による保全管理や低地の温帯性針葉樹についての現地検討等

〇大津市志賀町の里山薪利用跡地(説明者:奥氏)
 2012年2月~3月にかけて薪生産のため皆伐(A≒0.2ha)を実施した跡地での現地検討が行われました。伐採とシカ柵設置は森林組合で実施し、玉切、搬出は薪利用者が自力で実施、緩傾斜で、周辺は別荘地として開発されているため、道路は縦横に走っていて搬出は容易との説明が奥氏よりありました。
現地は、ナラ枯れが有り、前回の伐採から60年は経過しているコナラを中心とした林分のため、萌芽の発生は厳しそうでした。現状は、キイチゴ類等の低木類やタラノキ等のパイオニアが優占しているため、今後周辺の林分から供給される種子からの実生の発生はどの程度期待できるか不明な状況にありました。
今後、次世代に期待する高木性樹木が立ってこなければ、補植も必要と考えていて、補植には、周辺から採取した堅果を利用し、小学校等で苗木を作ってもらうことも検討しているそうです。木育としてもよい取組だと思いました。
渡邉先生からは、今回必要な分は植栽も行うが、次の伐採は15~20年後に実施し、萌芽による更新を期待できるのではとの助言がありました。また、皆伐を実施し、天然更新を期待する場合は、ネズミを中心とした小動物に手伝ってもらうことができるとのこと。通常ネズミは、落葉層の下に堅果を貯蔵する習性があるそうです。(落葉の上に落ちたままの堅果は虫喰いがほとんど)しかし、落ち葉を掻くと隠し場所が無いので、ドングリを土に埋めるようになります。堅果は乾燥に弱いため、春先までしか発芽しないが、ネズミ等が土中に埋めてくれると乾燥せずに発芽できるようになるとのこと。よって、伐採前に予め計画を立てておくことが重要だそうです。
また、伐採した夏にはススキやキイチゴ類が増加するので、これらは30cmくらいの時期に根から掘り取ると繁茂を防ぐことができ、この時期の作業は軽作業なので、残すべきものと除去する必要があるものさえ分かれば素人でも作業が可能(作業前に現物を示しながら説明)。これを単年ではなく、3年繰り返すことで繁茂は防げるとのこと。樹種によって、管理が必要な年数は異なるので、出てきたところで個別に対処することが必要であるという説明がありました。
刈出し、地掻き等の更新補助作業を実施して、更新が可能かどうかを見極めること、更新をコントロールして確実性を上げることがポイントで、私の印象に残ったのは、「残す木」ではなく、「育てたい木」の感覚で管理してもらうということでした。


周辺の広葉樹林(針葉樹や亜高木層には常緑が混在)

 



小動物の習性を利用(概念図)

 


皆伐後3成長期経過した跡地(萌芽は見られない)

 


直径30cm超えの伐根

 大径木の萌芽や、シカは利用の際に更新を担保できるかに大きく影響を与え、「伐ったら生える」という楽観的な考えは禁物。広葉樹林が乱伐されないためにも、次回の更新を担保した認証等がついた薪にするなど、次世代の森林づくりを考えた工夫がこれからの薪材生産やバイオマス利用には必要であるとの説明を受けました。

 太くすることも伐採コストが上がる一因。伐採に技術も必要となる。そこで、今回の更新で植栽等保育作業を実施し、若い林に一度リセット(今回だけ戻すのに必要なコストがかかる)し、皆伐を前提とした生産林として管理する林分もあってもよいのではとの提案がありました。

〇大津市志賀町で里山の薪利用による保全管理(その他)(説明者:奥氏)
近くの山林内には、空積用水路が下流まで続いています。歴史的遺産として、文化財等には指定されていませんが、維持管理は地元でNPO法人などで協力して実施しているとのことでした。地元の石屋さんにも協力してもらい元の形をできるだけ維持しながら管理しているそうです。森林整備に関わる傍ら、このような歴史的建造物にふれることで、地元への愛着も生まれるきっかけになるのだろうなと感じました。


皆伐地側の空積水路のある林分

 


空積水路(近景)



活動の説明状況 (ウッドデッキから撮影)


天然性ヒノキ林(天然に発生したものを保育管理している所も)

 その後、1997年からびわ湖の比良山麓で、里山整備や観察会、ネイチャーゲームなどのフィールドワークを中心に活動しているやぶこぎ探検隊で整備された囲炉裏やヨシ葺きの小屋などを見学。周辺の元薪取り山で元アカマツ林のマツ枯れ後に天然生ヒノキが侵入した林分の説明を受けた後、種の組合せと樹の寿命についての論議がなされました。


可愛らしいヨシ葺き小屋

〇大津市志賀町で低地の温帯性針葉樹(天然性ヒノキ林)での現地検討 (所有者の説明)
・元アカマツ林でその当時はアカマツ樹冠下にヒノキが生育していた。
約60年前にアカマツを材として伐採したら、約20年前からヒノキ林に変わった。
・アカマツを発生させるため、落ち葉掻きして焚きつけや畑の堆肥として利用していた。
・ヒノキは一部植栽もしたが、結局天然生ヒノキが優占したため、伐ってしまった。

(説明者:大住氏)
ヒノキの年輪幅は密。樹冠は小さめなので、間伐して成長を促進することができるかどうかはわからない。効果は緩やかにしか現れないはずであるとの所有者に対する説明がありました。

(説明者:渡邉先生)
将来的に主伐まで残す木を選木することが重要で、曲がりのない木、樹冠が大きく今後の成長が期待できる木、獣害のない木を選木すること。将来木候補木として選木した木に影響を与える周辺の太い木は伐採対象となるが、この木も高く売れるような刻み方をすることが重要であるとの説明が実際の木を見ながらされました。


年輪が詰まったヒノキ伐株

 


天然性ヒノキ林(近景)


ヒノキのシカ害跡(これらは早めに伐採対象とする)

 細い木でも通直で目立った欠点がなく、ある程度成長が期待できるものについては間伐を見送り、16cmや18cmになった時に間伐対象とするような工夫も林分としての収入を上げることに繋がるという考え方も興味深かったです。

〇同所有者敷地内の猪土手を見学
17~18世紀頃のもの。当時も獣害が多く、田畑では有害駆除が必須。猟師は重要な存在であったとのこと。明治には、鉄砲の改良と内陸での戦争のための毛皮の需要等により、獣害は激減し、猪土手は不要になりました。ここはほぼ原型のまま残されている貴重な場所であるそうです。


猪土手(空石積み)

〇近世治山工事を見学


堰堤天端(空石積み)


導水路

〇送電線下伐採跡地見学
 約70年前に設置された送電線で、10年に1回程度伐採しているそうです。近年はシカも出没し萌芽を食害している状況。最近はアカマツが目立ち始めている場所でした。カシ、シイは間伐でも萌芽が確認されているが、落葉樹は間伐での萌芽の期待は難しく、関西では落葉樹を伐採すると常緑樹が増える (ソヨゴやカシ類が増加) ことが多いそうです。
 コナラは、10~20年に1回程度のペースで伐採し萌芽更新しても1割程度は株が枯死するが、それを補完するかのようにこの場所のコナラは、萌芽後2年目くらいから結実を始める個体が確認されているそうです。



線下にはコナラのみが生育

 


枯損した伐根(コナラ?)

 


アカマツが増加してきた周辺状況

12月1日(月) 9:00~14:20
〇信楽・甲賀の古代のヒノキ生産地跡での現地検討(説明者:大住氏)
 ヒノキを1番産出していた中心地の現状を見学しました。東大寺が所有する森林で、奈良~平安時代にかけて西大寺、延暦寺、東大寺等へヒノキを産出していた森林資源の宝庫だったそうですが。。。1000年が経過した現在は、特に何があるわけでもなくというような里山の景観が広がっていました。東大寺の古文書にも「木を使いすぎて木が無くなる・・・」というような記録があるそうです。
 西日本の里山は同様の人による攪乱度が高い森林であり、現在の冷温帯のイメージのヒノキ等の針葉樹は、実は現在より低標高地にも広がっていたと考えると、西日本の極相林のイメージは違うのではないかという問題提議がされました。
 現在見ている林分は、それまでの歴史の上にあること、変わり行く途中段階であることを常に考えながら向き合う必要があると感じました。


現在の状況

〇甲賀前挽き鋸資料館見学
甲賀は森林資源が豊富だったことから甲賀杣が置かれ、木に関わる生業が発達していたそうです。その一つとして、大型の製材鋸である前挽鋸の生産地で、「木挽き」と言われ。る樹木の採・製材などに携わる多くの職人が昭和30年頃まで活躍していたが、現在は衰退。製造用具が残されている資料館を見学させて頂きました。


甲南ふれあいの館

 


前挽鋸で挽いた板の展示

 



前挽鋸

〇天然記念物平松のウツクシマツ自生地見学
根元からいくつも分かれた幹が並び、葉先が平らになった傘型の珍しいマツの自生地を見学。雨の中でしたが、一斉に並ぶ傘型のマツは圧巻でした。


ウツクシマツの自生(遠景)

 この後、道の駅で昼食後、解散となりました。

 

森林施業研究会現地検討会琵琶湖合宿の報告-研究発表会の概要-

森林総合研究所多摩森林科学園 教育的資源研究グループ  島田 和則

 現地検討会では2夜にわたって、今回のテーマの里山林やその他森林施業全般にわたり、熱く室内研究会が行われた。それらについて報告する(敬称略)。

11月29日

第1部:セミナー「比良山麓の里山」

大津市旧志賀町での現地検討を終え、BSCウォータースポーツセンターに投宿し、速やかに夕食をとって守山公民館に移動した。ここで、室内研究会1夜目の第1部として、基調講演的な位置づけで、深町氏、奥氏によるセミナーを、大津市旧志賀町の地域の皆さんとともに聴講した。地域の皆さんから手作りの差し入れを頂き、和気あいあいとした雰囲気であった。内容は以下の2題である。

比良山麓の里山の市民活動とその意義  深町加津枝(京都大学)

比良山麓地域で活動する「NPO法人比良の里人」、「やぶこぎ探検隊」の2つの団体の紹介を通じて、里山などの地域資源を活かしていかに地域を盛り上げていくかについて、具体的な事例を基に話題提供された。質疑応答の時間では、紹介された2団体の方の発言やコメントを交え、地域活動の現状やこれからについて盛り上がった。知恵や技術を持っているが高齢化が進んでいる旧来の住民と、それぞれの思いを持った子育て世代の新住民が協働して活動していることに、今後に向かった可能性を感じられ印象深かった。

里山からの薪づくりを通して考えたこと   奥 敬一(富山大学)

旧来の利用がなくなってしまった里山を継続的に管理するためには、「管理のための管理」ではなく持続的な利用が必要である。その手立てとして薪ストーブ利用の社会実験を行い、その可能性について熱く語られた。質疑応答の中では、薪の利用が永続性を持つためには、山の所有者への利益還元と、薪利用者が他のエネルギー源と比べて負担感をもたない価格設定ができることが重要であることも話題となった。都市近郊の里山林では様々な事情から伐採だけが先行するものの、伐った木が有効利用されず"産業廃棄物"扱いになってしまう場合もあり、興味深い内容であった。

第2部:主に里山林に関する話題提供

  地域の皆さんと別れてBSCウォータースポーツセンターに戻り、主に里山林に関する以下の4題の話題提供があった。酒も入り活発な議論が行われた。

関東の丘陵地における雑木林  松本 薫(明治大学)
  東京都の丘陵地公園で約30年ほど前から萌芽更新が行われてきた林の現状と現在、大学農場(神奈川県川崎市麻生区黒川)にて行っている萌芽更新の事例について紹介された。伐った木の利用について、どういう個体が萌芽しやすいか、生物多様性の視点から里山特有の種についてのチェックをしているか、などについての質疑応答があった。

東京多摩地方の雑木林の現状と課題  島田 和則(森林総研多摩)
  関東地方の台地から丘陵にかけてかつてひろがっていた雑木林(里山林)の歴史的変遷と現状について、かつての伝統的利用とその停止、および都市化の影響による変化について、多摩の研究成果を交えながら話題提供された。伝統的な管理では下刈りは冬季だが、放置期間が長くササの繁茂がひどいところでは夏下刈りの必要性はないか、出現した種ごとのさらなる分析の必要性などが議論された。

山形県の里山林事情  上野 満(山形県森林研究研修センター)
  森林病虫害(ナラ枯れ、カツラマルカイガラムシ等)の対策、ヤブ化、集材搬出路からのガリー発生など、山形県で行っている里山に関する研究、事業や問題などが紹介された。太い木だけ搬出されて枝条が放棄されることなど、里山林の現代的な問題が議論された。

森林散策路を活用した山村活性化事例  中田 理恵(静岡県立農林大学校)
  山村において地域の人が見過ごしている自然的、文化的に価値のあるスポットを巡る森林散策路をつくり、これによって地域の人が元気になっていく事例について紹介された。当該地域のみならず、他地域も刺激されるところが興味深かった。

11月30日

2日目は宿を民宿白汀苑に移し、夕食後広範な内容の話題提供6題があった。

話題提供

専門高校森林・林業教育の科目「森林科学」(育林分野)の教育内容の変化   井上 真理子(森林総研多摩)

 専門高校教育での育林分野の教育内容を分析した結果、1.意義,2.森林生態(植物、分布、環境)、3.育成(育苗育種、造林、保育、保護)、4.その他(人間社会と森林)に整理できたこと、近年では、技術に関する内容が減少してきていたことが紹介された。

最近イチイについて調査していること  大洞 智宏(岐阜県森林研究所)

  イチイは岐阜の県木である。これを使った伝統的工芸品である一位一刀彫の原材料生産に適した施業方法を検討するため、岐阜県高山市久々野町有道のスギ-イチイ人工林での調査、植栽イチイが由来と思われる天然更新した実生についての調査について報告された。

林冠疎開規模の異なるイヌブナ天然林の再生過程   佐原 奈々美(宇都宮大学)

  林冠疎開規模の異なるイヌブナ天然林の長期再生過程を明らかにするため、秩父演習林内に1984年に設置された天然林区と1990年皆伐区において、2014年に毎木調査の再測を行い、種組成と林分構造の変化を調べた。天然林区では、30年間で種組成や林分構造に大きな変化はみられなかった。2004年にみられた林冠ギャップは、周囲のイヌブナ萌芽幹などの成長によって10年間でほぼ閉鎖していた。皆伐区は皆伐後24年目の現在、2004年同様にウダイカンバが高木層から亜高木層にかけて優占し、BAの増加が見られたものの、枯死幹数の増加と相対優占度の低下がみられた。一方、イヌブナは亜高木層に集中しており、2004年時点よりもBAおよび相対優占度の増加が見られた。このようにイヌブナが徐々に伸長・肥大成長していたことから、長期的には皆伐区ではイヌブナが優占種になることが示唆された。

カラマツの樹下に植栽されたブナの上木伐採による効果   清水 香代(長野県林業総合センター)

  針葉樹人工林で、針広混交林や広葉樹林等に誘導するためには、下層の高木性広葉樹を成長させることが重要である。本研究では、45年生カラマツ林の樹下に1999年に植栽されたブナを対象として、植栽後10年となる2009年に上木カラマツの半分を皆伐し、5年後の2014年に皆伐区と、無処理区に成立するブナの樹高と胸高直径の調査を行った。皆伐5年後の2014年の調査では、皆伐区は残存区より胸高直径、樹高ともに有意に大きかった。加えて、周辺で発生した天然性広葉樹の成長を比較しても胸高直径が有意に大きかったことから、下層に生育した広葉樹の成長促進を図るためには、早い段階での上木伐採が有効であると推察された。

カラマツ人工林における地掻き処理を伴う帯状皆伐によるウダイカンバ、カラマツを含む混交林への誘導   杉田 久志(森林総研四国)

  小岩井のカラマツ人工林で帯状皆伐・地掻きをしたところ、下層に混交していたミズナラ等が萌芽更新するとともに、ウダイカンバ、カラマツなどが実生により更新して、有用樹種を含む多様な樹種に構成される混交林が成立したことが報告された。

京都大文字山の下層植生の変化   伊東 宏樹(森林総研)

  京都東山の大文字山の大半をしめる広葉樹二次林では、2000年代以降ナラ枯れとシカ増加により森林構造が変化した。そこで、大文字山内にある銀閣寺山国有林において1991年と2014年に行われた下層植生の調査結果を比較し、実際にどのような変化が起きたのかについて報告された。

現地検討会参加者の感想

奈良県森林技術センター 迫田 和也

 これまで、森林学会に合わせて開催されるシンポジウムには参加させていただいたことがあったのですが、現地検討会には初めて参加させていただきました。テーマが里山であったこと、近県での開催で参加しやすかったこと、森林総研関西支所さんの調査地にお邪魔したいと以前から思っていたことから、参加を決めました。全日程参加したかったのですが、2日目の都合がつかず、初日のみ参加させていただきました。

 初日から盛り沢山の内容で、里山景観、社叢、アベマキ・スギ林、天然生と思われるヒノキ林など、3,4時間の間に多くの現地をご案内いただき、元森林総研関西支所の大住さん、同じく元森林総研関西支所の奥さんから色々なご説明をいただきました。特に印象に残ったのは、琵琶湖の美しい里山景観と昔の里山林の資源循環、天然生と思われるヒノキ林です。山の上から琵琶湖までつながる細長い村における資源循環の話は、とても興味深かったです。また、私であればヒノキ林を見たら人工林だと先入観で決めつけてしまいそうですが、調査データをもとに天然林ではないかと推測する大住さんの姿勢は、研究者として非常に大切なのではないかと感じ、見習わせていただきたいと思いました。

 私は、里山林の萌芽更新・資源利用に関する研究課題に取り組んでいるのですが、他県の現地を見る機会はなかなかなく、半日という短い時間ではありましたが貴重な機会となりました。奈良県内の里山林は放置されているところが多く、その資源を活用するにはどうすれば良いのかと思案しています。ボランティアであれば、人件費を考慮せず、伐採して薪などに活用できると思いますが、事業として成り立たせるためにはどうしたら良いのでしょうか。お手本あるいは参考となる事例をご存じの方がいらっしゃいましたら、ご教示下さい。

 最後に、この現地検討会を企画し開催していただいた皆様にお礼申し上げます。

愛知県立安城農林高等学校 森林環境科 雨宮 永


  私は、今回初めて森林施業研究会に参加させていただきました。今回は、里山をテーマに滋賀県の入会林から、森林文化や森林施業の歴史、現在地域で行われている里山保全活動など、様々な見聞を深めることができ、有意義な時間を過ごすことができました。

  私が最も印象に残っていることは、入会林の中でかつてマツ林であったところが、時が経ち天然生のヒノキ林へ遷移している現場を目の当たりにしたことです。多くのマツが林床に倒れ、原形を残しながらも腐朽が進み、樹皮にはヒノキの小さな実生の芽生えがたくさん確認でき、更に更新しようとしている自然の力を感じることができました。また、天然生のヒノキは、まるで人が植えたように規則正しく生えており、樹木社会の織り成す技に興味が湧き、林学の奥深さを身をもって体験しました。琵琶湖に面しているこの地域は、昔から入会林のある山から湖までを地区ごとに割山して管理していたことから、林道や作業道、水路まできめ細かく整備され、里山として高機能に人々の生活の糧となっていたことが理解できました。現在でも地域で積極的な活動がなされており、その姿を観ることができました。

 もう一つは、甲賀市の里山の姿です。現在はのどかな街並みで田畑が多い地域でしたが、現鳥取大学の大住先生から詳しい話を聴く中で、私の目の前に直径5m~10m、樹高50m~80m級の大きなヒノキが散在している里山の景色が現れました。ヒノキの巨木があちらこちらに凄然と立ち並び、巨木と比べるとアリのように小さい人が、田畑を耕してる光景。これは話を聴く中で私が勝手に想像した話ですが、かつてこの地域は、このような里山の景色であったと想うと、その時代にタイムスリップしてみたいと、胸が高鳴りました。その後に訪れた、甲南ふれあいの館では、そういった巨木を伐採、製材した歴史と技、道具を観ることができました。今では、考えられないほど大きな前挽鋸を使い精巧な製材をしていた事実を知り、昔の技術の高さに感銘を受けました。

 今回、この研究会に参加し、2泊3日と短い日程の中で滋賀県の里山についてほんの少し見聞を深めることができました。この中で、「森の国日本」を再認識したと同時に、過去の伝統と技を振り返り、これからの新しい「森の国日本」へ生かすことが大切ではないかと思いました。そのために、更に森を科学し、多くの勉学に励み、邁進しようと決意を新たにすることができました。

 最後に、この機会を紹介してくださった森林総研の井上真理子様、鳥取大学の大住克博先生、当日お世話になった恩師渡邊定元先生、森林施業研究会の事務局の皆様、各地域の話題を提供していただき夜遅くまで議論し、話に明け暮れた皆さまに感謝申し上げます。ありがとうございました。

第19回森林施業研究会シンポジウム(北海道大学)のお知らせ

第19回森林施業シンポジウム「北海道から択伐林施業を考える」を北海道大学で開催します

研究集会名:第19回森林施業研究会シンポジウム

日時:3月29日(日)9時~12時

開催場所:北海道大学学術交流会館・第1会議室

テーマ:北海道から択伐林施業を考える

内 容:択伐林施業に対する指向には根強いものがあるが、その可能性に関して、科学的根拠に基づく議論は十分に尽くされていない。森林学会大会がこの地で開催されるのを機に、以下の話題提供を受け、経営的な側面と技術的な側面とから択伐林施業を考えてみたい。

1.石橋聰(森林総研)「北海道における天然林択伐施業の可能性と今後の方向-持続的管理の観点から-」

2.吉田俊也(北大)「林床にササが優占する天然生針広混交林における択伐施業」

連絡先:横井秀一、〒501-3714岐阜県美濃市曽代88、岐阜県立森林文化アカデミー
Tel. 0575-35-3884、Fax. 0575-35-2529、E-mail:yokoi@forest.ac.jp

参加費:森林学会大会(会費必要)の一環として開催されますが、このシンポジウムだけの参加の場合は無料です。また、申し込み不要でどなたでもご参加いただけます。

 

 

<編集後記>

 滋賀県での現地検討会は12月にまたがる日程となり、参加者がなかなか増えず、とても寂しい集まりになるのではと心配された。幸い、「里山」の魅力や関係者の努力により、そこそこの人数が集まり、無事開催にこぎつけられた。2つのNPO団体と交流ができたのもいい経験になった。NPOの方々、現地でコーディネートをお願いした奥・深町・大住の各氏にはこの場をお借りして感謝を表したい。

  林業とは別に住民が常に森林に入り、利用しながら保全するという風景は数十年前までは日本中で当たり前のことだった。「里山」と言えば京都近辺を思い浮かべる人も多いが、同様のことができる土壌は全国にある。最近は新たに林業に従事する人が増えているらしいが、森林に興味はあるがそこまで本格的に入り込めない多くの人にとって、里山のような活動が受け皿として広がる素地があるのではないか。

 

森林施業研究会ホームページに戻る