木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ス・レター No.4 1998.11.30
Newsletter of the Forest Management and Research Network

防災水源かん養路網試験地(静岡県富士宮市)で現地検討会を開催
11月6日から8日までの3日間,森林施業研究会は,初めての試みとして,合宿形式の現地検討会(富士山合宿)を静岡県富士宮市において開催しました。現地検討の対象としたのは,研究会の代表である渡辺定元氏が提唱,実践している防災水源かん養路網試験地(詳しくは,山林1376号:p2-10)で,参加者は23名,現地の見学と討議さらに参加者の研究発表を含めた内容の濃い検討会となりました。現地検討会の概要は次の通りです。

11月6日
露払いゼミ(雑談に近いものです)
1.静岡の森林林業の現状と課題(静岡県林技センター:大場孝裕)
2. まじめにニホンジカを利用した広葉樹の天然更新技術の開発(森林総研:鈴木和次郎)
3. 韓国の森林・林業の印象/日本との類似と相違(森林総研関西:大住克博)

11月7日
防災水源かん養林道路網施業地案内および現地検討
案内・説明:本会代表 渡邊定元
写真(1)自動植え付け機械を使った日本発の造林地で記念撮影をする現地検討会参加者(90k)
写真(2)渡辺試験地で高性能林業機械のデモ操作を見学する参加者(86k)
本番ゼミ
1.多雪地帯における省力時代のスギ林の更新(富山県林試:長谷川幹夫)
2.ケヤキ・ヒノキ混交人工林(岐阜県森林科学研:横井秀一)
3.合自然的林業を代表する混交林施業の特質(秋田県林技センター:澤田智志)
4.センサカメラによる野生哺乳類の生息確認について(静岡県林技センター:大場孝裕)
5.愛媛県の林業の紹介−久万林業、複層林など(愛媛県林試:石川実)

11月8日
基調講演
「持続的な森林管理(経営)の理論と実践」(本会代表:渡邊定元)
総合討論
講演・現地検討を踏まえた、渡邊理論に対する質疑批判を軸に、「持続的な森林管理」を論議。
以下,富士山合宿に参加された3名の方の意見や感想などです。なお,公式の記録は,次号の森林科学に掲載の予定です。

より実践的な森林施業研究の足掛かりに
小島 正(群馬県林試)
 渡辺定元氏の行っている防災水源かん養路網に興味があったため、現地検討会に参加しました。ヒノキ・スギ林に、低コストで作業路網を整備するとともに浸透桝を数多く設け、雨水の浸透を促進する現場を見学しました。浸透桝により雨水の浸透は促進され、作業道の保全には有効ですが、森林の洪水調節機能の評価については、今後の課題のように思われました。しかし、現実に、間伐木の販売代金で作業路網を整備し、森林管理を行っている現場があることに驚きました。販売代金と作業路網の収支について説明がありましたが、私には、理解できませんでした。ぜひ、経営の専門家に、各作業の作業効率、販売までの収支等、どのようにすれば林業経営できるのか検討してもらいたい。

 研究報告会では、試験地のスライドを中心とした発表が多く、理解しやすく、興味深いものでした。8課題の発表がありましたが、印象に残りました2課題の感想は次の通りです。

1. まじめにニホンジカを利用した広葉樹の天然更新技術の開発(森林総研 鈴木和次郎氏)では、日光地域におけるニホンジカによる森林被害と更新の問題点及び、日光地域に他の地域で採取・育苗した苗木を植栽していることへの問題点が指摘されました。更新については、個々の木ではなく樹高以上程度の区域をゴルフネットで囲い、更新させる方法が紹介されましたが、洞爺湖の中島のような島において、ネットによる囲いで、長期的にシカと植生がバランス良く保たれるのか?試験すると面白いと思いました。遺伝資源の攪乱の問題は、日光地域以外においても根が深い問題と思われました。現在、広葉樹造林が増加していますが、植栽地域で採取した苗木の確保が難しいことから、他地域からの導入が行われています。スギ・ヒノキ等の造林樹種は育種区の考え方が林業技術者に定着していますが、それ以外の樹種では、その考え方は定着していないと思われます。また、公共事業に育種区の考え方が整備されないと、価格のみが苗木選択基準となってしまうと思われました。

2. ケヤキ・ヒノキ混交人工林(岐阜県森林科学研 横井秀一氏)では、ケヤキ・ヒノキ混交人工林とケヤキ林分、ヒノキ林分との比較(胸高直径・枝下高階分布、樹冠幅等)について発表がありました。現在、混交林の研究をおこなっていますが、スギ・ケヤキのパタ−ンが多く、ケヤキ・ヒノキの混交パタ−ンは少ないため参考になりました。また、各林分の階層分布を検定する手法について勉強になりました。ここで、混交林は、林分(林相がほぼ一様で隣接する森林と区別できるような条件をそなえた森林)として混交する必要があるのか?それとも、景観的に混交していれば混交林なのか?との議論がありました。私は、林分としての混交林は無理と思い、イメ−ジで景観的に混交林なら混交林と思い込んでいましたので、混交林の定義の議論は参考になりました。混交林を、景観的な混交林とすると、どのくらいの面積にどの程度の樹種が混交したら混交林とみなすのか?定義・機能評価が難しい問題と思われました。

 最終日に行われた総合討論において、持続的な森林管理を議論する場合、林分材積ではなく、樹種・径級別の森林管理方法が必要(東京都 中川昌彦氏)との視点は、非常に大切なことと思われました。つまり、林分全体の材積は保続されるが、高価な木(材)のみが減少している問題点が指摘されました。

 検討会全般の感想としては、報告事例が多いためか、議論の時間が少なかったように思いました。森林施業では、基礎となる理論が一番大切ですが、理論を実践するための制度づくりや、施業の担い手等の立場からの意見が加わる(収集不能?)と、より実践的な施業研究になると思われました。

最後に、このような有意義な研究会を開催していただいた幹事の方々に感謝致します。

施業研究会富士宮現地検討会で思ったこと
桜井尚武(林野庁指導部研究普及課)

私は今、林野庁研究普及課にいますが、農林省の研究を束ねている農林水産技術会議事務局の研究管理官(林業担当)というのも、併任しています。研究普及課では国庫助成や交付金を武器にしての、公立林業試験研究機関の研究調整が主な仕事ですが、前任が森林総研であったためか、研究関係や雑知識の何でも相談所的な面があります。これが技会では、国研、行政の区分けなく、さらには研究であるかも関係ないほど、森林、林業、林産業に関する雑情報の窓口となります。

 で、農林省の目下の大きな課題の一つに、中山間地域の産業振興、いかに山元に人を引きつけておくか、というのがあります。これに、経済的側面から助力できるのは、林産物を元手に収入を確保することを考えることなんですが、これが難しい。行政側の高官からは、行政が今までの手法ではダメなんだから研究の面から応援してくれ、と言われております。この林産物=森林資源には環境(グリーン・ツアーの資源)も公益的機能も入ると言う観点で迫ることが必要と言われています。つまり、施業で公益的機能が増進したら、増進した分の対価を施業者に支払う仕組みも考えたいとなります。そして、そのためには、公益的機能の計量化が必要になります。

 さて、林野庁の側からいっても、間伐は目下の最重要課題の一つです。そんなわけで、今回の研究会は大変に興味のあるものでした。渡邊先生は今年3月頃森林総研にこられまして、講議を頂いたのですが、やっぱり現場をみたい、現物に接したいと思っていました。山林に書かれた「防災水源涵養路網の提唱」を読んで、もう少し知りたいところがあったわけです。

 みて、感心しました。詳細は参加者がそれぞれ感じているでしょうから省きます。特に、実施したところがまさに施業見本としてあること、その一部始終が学会記録として参照できること、これにつきます。

 研究でも、現場対応研究で大事なのは、やったものがそのまま残っていて、しかも、記録がしっかりしていることです。これに過ぎるものはありませんが、そうなっていないものが多すぎます。自分の航跡を振り返ってみると内心忸怩たるものがありますが、まあ、幾つかは論文片手に現場で説明できるものを、是非とも研究会メンバーには確保して欲しいものと思います。私も出来るだけ、そうして人を山へ連れ込むようにしています。

 酒を飲まない事務局の企画だからでしょうか、夜のゼミもなかなか力が入っていましたね。あんなにまじめに討論するとは信じられなかった。でも、酒を飲んでも良いよということで、久々に快酔して丑三つ時を超えてまで歓談できたのは、大変良かった。学生時代に戻った思いです。ああいう仕掛けも良いもんですね。夜中に富士の影が見えて、星が思いの外大きくて、今は寒いでしょうが、心に残る合宿でした。

 霞ヶ関に帰って、指導部の課・室長が集まる部長会議で、検討会で配られた資料を一部コピーして廻し、報告しました。部長たちは久々に良い話を聞いたといいました(先生からは今更何をいってるんだい、という声が聞こえそうですが)。間伐対策室からはすぐさま、もっと資料をくれと頼まれました。林野庁はそう簡単に動ける組織ではないんですが、こういう事実を教えて行くことで、この会の思想、技術が政策になり実際のものになって行くんではないかと思います。

 この次の現地検討会には、本物の行政官を巻き込みたいと思います。皆様もそれぞれの立場で、施業研究会が実際の産業/行動を起こしたということを実現するため、いろいろ試してみて下さい。

 現地検討の日は晴れもせず、ちょうど良い塩梅でした。帰途は少し雪をにじませた富士山が青空の下で奇麗でした。

渡邊大将、御輿を担ぐ事務局、それを応援するメンバーの皆様に感謝申し上げると共に、この会の益々の発展を期待します。

列状間伐のすすめ?「施業研究会 現地検討会の感想に代えて」
大場孝裕(静岡県林業技術センター)

 今回の現地検討会で印象に残ったものの一つに列状間伐がありました。これまで私が列状間伐に対して持っていた見方は、間伐の恩恵を受けない残存列(木)が生じる一方、優良個体が間伐木に含まれてしまい、林分の質の向上にはつながらないといった否定的なものでした。しかし、実際の列状間伐林分をみたことでその有効性について認識することができました。

 富士山麓のヒノキを中心とした人工林をご覧になったことのない方のため、この地域の林の状況を説明します。多くの地域と同様、戦後に造成された林分が多く、8・9齢級に高いピークを持つ齢級構造です。3,000本/ha以上の密度で植栽され、その後除間伐がほとんど行われずに今に至っている林が多くあります。富士の土壌の影響もあって、そういった林には林床植生がなく、表土が流失しているところもみられます。ここでは間伐の促進というのが非常に重要な課題です。また、平成8年度に台風17号による大規模な風倒被害を受けたこともあって、この地域の林分の立木密度を下げ、少しでも耐風性を高めていくことも大切な課題です。一方、地形は富士の裾にあることから緩斜面で、起伏の少ないことが特徴です。そのため、植栽列は非常に揃っていて、3,000本/haの林でも遠くまで見通すことができます。つまり、木の選択に悩むことなく一直線に列状間伐ができる条件なわけです。

 渡邊定元先生は、これまで手入れのされてこなかった林分で、まず1伐3残(25%)の間伐を行い、その後中層間伐を行って同齢複層林にしていく施業方針をとっています(詳細は省略します)。

 効率的に間伐を進めていく方法として、この列状間伐の有効性は極めて高いと感じました。渡邊先生の考えから私が勝手に考えた方法は、まず、1伐3残(25%)の間伐で3,000本が2,250本に、若い林ではすぐに林冠が閉鎖するでしょうから、数年後に今度は前回と直角方向に列状間伐をすることで、2,250本が1,688本に(最初の56%)なり、9本からなる巣がたくさんできます。あとはこの巣を1つの単位にこの中で間伐木を決めていくことで、比較的簡単に間伐が行えるというものです。いかがでしょうか?(すでにどこかで実行されているのかもしれませんが・・・)

今回の現地検討会には様々な場所からの参加があり、主として自然環境の違いから来る施業方法や更新方法(その考え方を含めて)の違いが再確認でき、勉強になりました。 次回の現地検討会が、より盛大に開催されることを今から楽しみにしています。

森林施業研究会現地検討会に参加して
山田容三(森林総合研究所)

今回初めて施業研究会の集まりに参加しました。とかく生態だ環境だと流されがちな趨勢の中で、こんなにまじめに人工林施業を考えているグループがいることに若干の驚きを感じるとともに、森林利用分野の研究者としてある種の連帯感を抱きました。渡辺先生の高密路網施業現場では、水源涵養保安林なのにやけに広い道路幅、大雑把な排水設備、高密路網なのに列状間伐(!?)など頭の固い森林利用分野の常識では考えられないことばかりでした。しかし、先生の説明を聴くうちにひとつひとつに根拠があり、地質・地形・林況を活かした高密路網施業になっていることがよくわかりました。他にも、路網は道路支障木の利益で整備する、間伐は売れる木を伐る、高く売れる市場を探すなど現場的な物の見方がとても勉強になりました。とにもかくにも山をよく見ることから全ては始まる気がします。そこにいろんな分野の人が集まり、山からの発想をともにできれば、これからの人工林施業にも現実的な展望が開けてくるのではないでしょうか。その意味で施業研究会に期待するとともに、これからもよろしくお願いします。

<研究レポート>
伐採前のかき起しによる多様な樹種の更新
佐藤 創(北海道林試)
(約250k)

次回の研究集会(愛媛大学)のお知らせ

 例年通り,次回の森林施業研究会(研究集会)は,愛媛大学で開催される林学会大会最終日に予定し,テーマとして「間伐問題」を取り上げます。進まぬ間伐と森林管理の上での間伐の重要性を改めて論議したいと考えます。

第4回森林施業研究会

テーマ「間伐問題の新たな視点」

内容(暫定案です)
(1)間伐理論の再検証−定性か,定量か−
(2)生態系管理としての間伐
(3)間伐を実践する理論と技術の距離
話題提供者については,現在,折衝中です。

<編集後記>

初めての現地検討会,現地検討はもとより,延べ10時間にわたる研究報告・話題提供そして討議を集中して行なえたことは,参加者の「森林・林業」に対する篤い情熱と技術者としての使命感がその背景にあったように思われます。今後の現地検討会(合宿)の大きな足掛かりとなったように思われる。ちなみに,次回は,東北地域で「林間放牧と広葉樹の天然更新」についての現地検討が提案されています。お楽しみに。

 今号で初めて,北海道林試の佐藤創さんに御願いし,「研究レポート」を書いて頂きました。ニューズレターの一つの役割である森林施業に関する「情報」の提供・交換を今後も,このような形で行いたいと思います。会員の自主的な情報提供(投稿)をお待ちしています。

 次回の研究集会は,例年通り,林学会大会の最終日に予定しています。今回は「進まぬ間伐・売れない間伐材」問題を考えます。集会の裏方は,四国地域の世話人である愛媛県林試の石川さんに御願いしてあります。集会ではご苦労をかけると思いますが,せめて前日の懇親会では,あまり迷惑を掛けないように努力しましょう。でも,あまり自信がない!事務局です。

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