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木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.76(前編) (2024年2月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

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2023年11月23日〜25日に宮崎県日南市および綾町を舞台として開催した「宮崎飫肥合宿」の記録と参加者の感想を前編・後編に分けて掲載します。新型コロナウイルス感染症が5類移行後、初めての合宿開催となり、久々に夜のセミナーを伴う2泊3日の合宿となりました。北は北海道から南は宮崎から総勢34名の参加者が集まり、主伐再造林が進む宮崎の地で、様々な議論が繰り広げられました。

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宮崎飫肥合宿の参加者

後編はこちら(NewsLetter No.76 (後編)

森林施業研究会「宮崎飫肥合宿」の記録


成田あゆ(北海道立総合研究機構林業試験場)

2023年11月23日

宮崎空港集合

スギ円形植栽密度試験地(宮崎南部森林管理署大荷田国有林140ぬ林小班)

解説:1974年植栽(49年生)。ネルダーの系統的配置法に則り、10段階(376-10,000本/ha)の密度でスギが植栽された。間伐は行わず保存林として管理しているが、枯損によって1割程度の個体が失われているため、局所的に密度が低い場所が発生している。

質疑など:
・初期の樹高成長は高密度のほうが早かったが、現在では低密度の樹高が高くなり、林冠はすり鉢状になっている。
→林縁部・低密度は植栽当初こそ風や乾燥ストレスを受け伸長が遅れるが、成林後も受光量が多いため中心部・高密度に比べて樹高が高くなったのではないか。競争が強い中心部では縦方向に投資するものの、光合成量が不足するため、最終的な樹高が低くなるのではないか。
・スギの林冠は重ならない。ヒノキは重なる。根圏はどうか?地下部でも水分獲得競争が起こっており、その結果が成長の差を生んでいるのではないか?
・枝下高は山側と谷側で差がある。円形の試験地での取り扱いはどうするか?

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中心部から見た樹幹の隙間

堀川運河

解説:飫肥スギを油津港に運ぶために開削された。林業遺産の九州第1号。伝統的な石積みの橋や護岸のほか、木造船の技術を活用して整備された飫肥スギ製の橋を見学できる。木材問屋で栄えた周辺地域には当時の3階建木造建築が残されている。飫肥林業は1,000本/ha程度の低密度で植栽するため、生産される材には太く、密度が低く、たわみに耐える、油分が多いという特徴がある。飫肥スギは造船用材(弁甲材)として日本各地や韓国まで出荷されていた。

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近年では観光地として知られるようになった

めいつ丸万(日南市)着、チェックイン

セミナー

演題1:宮崎県の林業
戸田てつお(宮崎県東京事務所)

宮崎県は素材生産量で全国2位、スギに関しては1位の林業県である。人工林面積あたりの素材生産量は全国平均の3倍と高い水準にあり、人工林を活用した林業が盛んに行われてきた。製材工場が多く立地し、中国木材が日向市に大規模工場を設置するなど活発に活動している。このような背景から、川上側にも伐れば儲かるという好況感があり、近年では若齢層の参入によって林業就業者数が下げ止まるという全国的に珍しい現象が起こっている。2018年頃に全国ニュースとなった盗伐問題は落ち着きつつある。県としては誤盗伐に対して相談窓口や指導体制を整備して対応している。

演題2:見学地の説明①:飫肥林業・三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林
伊藤 哲(宮崎大学)

造林学からみた飫肥林業について。飫肥林業は疎植、少間伐という特徴において吉野林業の対極にあり、大径でたわみやすいオビスギは船材(弁甲材)として重用された。伝統的な施業では、前作(木場作)による地拵え、林間耕作による下草抑制といった工夫があり、疎植かつ林地直挿し造成で困難が予想される初期保育を、農業生産と兼ねるアグロフォレストリーが実践されていた。木造船の需要喪失に伴い、飫肥においても国有林を中心に全国平均並の密度で植栽が行われるようになった。宮崎県下では現在、伐採に対して再造林の労働力が不足傾向にある。造林・保育・伐採を長期的に平準化させるためにも、再造林能力を超えた伐採を行わない方がよいのではないか。

演題3:見学地の説明②:円形密度試験地・下刈り省略試験地
山岸 極(森林総合研究所九州支所)

円形密度試験地は、オビスギを高密度で植栽すれば建築材や内装材を供給できるか検証するために国有林が設置した。柱材向けの植栽密度は500 ~3,000本/haと見られ、この範囲外では材質上不向き。蓄積は疎植で低下した。下刈り省略試験地は、2019年に設置された。スギでは通常、造成後5年目まで毎年下刈りを行うが、うち2回を省略して成長を調べている。下刈りを省略した区ではやや樹高成長が減少するが、大きな差ではないかもしれない。系統による成長や反応の差があるかもしれない。

演題4:見学地の説明③:宮崎大学田野演習林
山川博美(森林総合研究所九州支所)

田野演習林での見学地について。広葉樹林化試験地では、下層の稚樹を保残しながら上木のスギ・ヒノキを伐採した。稚樹は6割程度残存した。アカメガシワなどの先駆種はすぐに見られなくなり、10年ほどで前生樹が成林した。伐採時点である程度の大きさ(樹高2 m程度)ある個体や、萌芽しやすい種が生き残りやすい。下刈り省力化試験地では、競合植生としてススキまたは広葉雑草木がある造林地でスギの成長を評価した。この地域では、下刈りを繰り返すとススキ化し、ススキの下では樹木の生長が難しい。照葉樹二次林試験地では、下層木がある状態で上木のスギを伐採して照葉樹を更新させられるか検討した。

演題5:下刈り回数削減のための研究
安達直之(島根県中山間地域研究センター)

植生の差異がスギ植栽木との競合状態に及ぼす影響を調べるため、ササまたは落葉広葉樹のある造林地でスギ植栽木の競合を調べた。植生の種類によっては、下刈り5年目を省略できる可能性がある。

会場の議論など:

低コスト造林は集成材を前提としてB材を量産し、薄利多売する戦略だが、川上側では漫然と「良い山」を作りA材を出すことが目標になっている。飫肥のように、伝統的な林業地では材の利用目的が決まっていて、その用途に合う材を生産していた。例えばスギは樹種として強度がないので、建材より内装材を目指すほうがいいかもしれない。木材は工業原料かつ国際商品なので、適切な用途を定めた施業による安定品質・安定供給が求められている。

2023年11月24日

三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林

解説:2023年時点で145年生となり、樹高30 mを越えるスギの下層に15 mほどの照葉樹林が成立している。江戸時代は狩り場として利用されていたススキ原に、無地拵え・直挿しで造林したと伝えられる。挿し木造林のため、オビスギ品種の遺伝資源が保存されている。

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下層の照葉樹が成長してスギの樹冠が見えない

スギ特定母樹による下刈り省略試験地

解説:植栽5年目となった。特定母樹、中苗植栽のため既に植栽木が大きくなり、5回目は省略できると考えている。

質疑など:
成長が早くなれば、除伐など以降の作業が繰り上がるのではないか。トータルで造林コストは下がるだろうか?

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←省略なし 下刈り 省略あり→
黄葉はアカメガシワ

道の駅田野(昼食)

道の駅の対岸斜面を観察。主伐直後、植栽直後、若齢林、成熟林をひとつの山の斜面に見ることができ、安定した施業を感じられる。

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異なる林齢の人工林が同じ斜面に存在している

長倉樹苗園

解説:宮崎県で最大規模の苗木生産者。宮崎県ではスギ苗は裸・コンテナいずれも挿し木が基本で、春秋の挿し付け後1年で山出しできる。コンテナ苗生産に取り組んだために一時は経営が傾いたが、現在は立て直し、住友林業と資本提携しつつ年100万本生産を目指している。挿し木育苗では穂の供給が律速となるため、近隣の農家に採穂園を造成し採穂木を増やす、採穂作業を森林組合に指導・委託するなど増産に取り組んでいる。コンテナへの挿し付けでは障害者を雇用し、林福連携を実現している。

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異なる林齢の人工林が同じ斜面に存在している

宮崎大学田野演習林

広葉樹化試験地:80年生ヒノキ林の上木を伐採し16年が経過した。以前の様子を想像することができないほど広葉樹が発達している。様々な施業パターンで調べた結果、下層木をすべて伐採しても、萌芽更新できる樹種は十分に再生する。鳥散布も侵入できるが、重力散布種子は種子源となる個体が付近になければ更新できなかった。

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ヒノキ伐採後16年が経過した広葉樹林化試験地

ヒノキ壮齢林:100年生。田野演習林となる以前は国有林として経営されていたため、成熟人工林が多く含まれる。ヒノキ高齢林は南九州では珍しく、学術参考林として保存されている。ヒノキ林は林床が暗いイメージがあるが、あくまで30-40年生頃の状態であり、高齢林になると明るく、下層木も発達する。

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ヒノキ壮齢人工林

フォレスト綾川荘(綾町)着、チェックイン

セミナー

演題6:閉鎖型採種園の管理技術
庄司優太(島根県中山間地域研究センター)

閉鎖型採種園で使用する花粉を効率よく生産するため、花粉木をジベレリン処理して雄花を多く着生させられるか検討した。ジベレリン処理を行うと、雄花の着生時期が早まったが、数は飽和した。ただし、着生が早い分、雄花が大きく成長して多くの花粉が得られるかもしれない。病害虫が発生した。ハウス環境を好むスギノハダニ、スギノハダニを捕食するハダニタマバエ、葉を食害するハマキガ、根切り虫の一種ドウガネブイブイなど。挿し木の発根を促進するために基部を損傷させる処理をしたところ、切り傷は有効かもしれなかった。

演題7:樹高成長と立地環境の関係および最適メッシュサイズの検討
上岡洸太(京都府立大学大学院)

地形から地位を推定したい。試験地の航空LiDARから1, 2.5, 5, 10 mのメッシュデータを作成し、樹冠解析の結果と比較したところ、5 mメッシュの説明力が最も高かった。
質疑など:堆積様式のモデルや、5 mメッシュの解析で実際に考慮される面積など検討が必要かも。

演題8:立木段階での原木強度推定
原田喜一(京都府立大学大学院)

立木段階で材強度を推定したい。立木時点でのFAKOPP測定値と伐採後の動的ヤング率の相関は係数0.4程度に留まったが、今後は地形も考慮して精度を高めたい。高強度材の出材量が予想できれば、大規模な木造建築の建材調達に役に立つだろう。

演題9:広葉樹林化?多様性復元?その施業事例と種々の課題
酒井 武(森林総合研究所)

赤谷プロジェクトなど国有林事例を紹介。広葉樹林化は十分にありえる施業だが、きめ細かい管理が必要となる。現在の国有林のように、林班単位で発注し、作業は委託する業務形態では難しいかもしれない。保安林指定や国有林5カ年計画との調整も必要となる。

演題10:シカの管理捕獲を20年やってわかってきたこと-丹沢の事例
田村 淳(神奈川県自然環境保全センター)

神奈川県のシカ分布は全域(江戸時代)から奥山まで縮小(’60年代)したのち、山地全体に回復(’90年代)してきた。回復過程で林業被害が生じるようになり、防鹿柵や有害駆除といった対策が普及した。奥山から平野部まで、4段階のゾーニングに基づいて管理目標を立ててきた。捕獲には一定の効果を認めるものの、課題の解決には道半ばと感じる。

演題11:ニホンジカの行動を制限するものはなにか?
小山泰宏(長野県林業総合センター)

ニホンジカが好む立地は植生(ササやイネ科植物)によって議論されてきたが、嗜好性植物が生えていてもシカがいない場所がある。そのような場所で土壌貫入試験を行うと、地面が不均質で歩きにくい不整地であった。シカはまず歩きやすさを重視して移動し、その場にある食べられる植物を食べているのではないか。

2023年11月25日

川中神社周辺

シカ柵の内外で下層植生に差が見られた。シカ柵の設置など管理作業の一部は市民ボランティアが担う。

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綾プロ復元作業の一環で人工林に間伐を行いシカ柵を設置

インクライン(修羅)の跡地:ここにレールを敷設し、丸太を乗せたトロッコを動力機で制御しながら林業鉄道まで降ろした。

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インクライン跡

川中製材所の跡地:枕木やフローリング材を生産していた。労働者が暮らす集落には小さな小学校まであったという。廃止後、一度は植林されたが、近年、観光のために再整備したらしい。

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製材所跡

照葉大吊橋

長さ250 m、高さ142 mの観光用吊り橋。山肌一面が照葉樹となる独自の景観を観察できる。

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標高200~600 mまで照葉樹がびっしり

オプションツアー

霧島御池

展望台から高千穂峰の周辺植生を観察できる。北斜面は標高順にミズナラ、スダジイ、イチイガシの林となっており、最も里に近い部分は人工林として利用されている。攪乱のなかった南斜面はモミ・ツガ林が残っている。

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霧島御池からのぞむ高千穂峰

イチイガシ人工林


約110年生のイチイガシ人工林。以前は天然林とされていたが、造林を示す石碑などが発見され、情報が整理された。3,000 本/ha植栽、下刈り7回、つる切り9回と初期保育の苦労が推察される。イチイガシはギャップ更新のため、一斉林になりにくい。また、大規模攪乱が起こった場合でも種子源から均一かつ大量に種子が散布されると考えにくく、人工でなければ成立しない林といえる。

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林内の様子(左)と風倒で生じたギャップ(右)

後編はこちら(NewsLetter No.76 (後編)