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木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.76(後編) (2024年2月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

前編はこちら(NewsLetter No.76(前編))

参加者の感想

 

森林施業研究会飫肥宮崎合宿に参加して

戸田てつお(宮崎県東京事務所)

昨年に引き続き、森林施業研究会の合宿に参加させていただきました。エビデンスがしっかりとした研究的なアプローチに憧れを抱きつつも、粛々とマニュアルに従い事業をすすめる、研究とは縁遠い県の林業職員をしています。

今回のフィールドは我が宮崎県!ということで、地元の現状を簡単に説明しなさい、との任務も頂き、とても充実した合宿になりました。今回の飫肥宮崎合宿のテーマは「主伐・再造林が盛んな宮崎の地で人工林施業を考える」とのこと。確かに主伐は活発なので、そこから何か宮崎ならではの学びがあればと改めて地元を学び直すつもりで参加しました。

(1日目)

〇スギ円形植栽密度試験地

適正な植栽密度(本数)を探るため、同じ斜面での植栽密度による違いは成長にどのような差を生むのか、という試験を実施している試験地。通称ミステリーサークル。国有林内にあるため、我々のような民有林行政職員は用事がなければ、普段なかなか寄りつかない区域。恥ずかしながら宮崎県に奉職して20年、はじめて訪問しました。県内なのに若干のアウェー感…。ミステリーサークルとして有名になったおかげか、遊歩道が整備され歩きやすかったのが良かったです。挿し木のクローンのおかげか、林内はきれいな円形(実生であればもっと成長にバラツキが生じると思われるので、このような視点からも、実生とクローンの差を感じることが出来ますね)。成立本数によって成長にどのような差が生じるのか、リアル密度管理図が実体験できます。

〇堀川運河

かつて弁甲材で財をなした日南飫肥藩。およそ330年前に広渡川の水運で運んできた木材を河口から内湾である油津港まで運ぶため約1.5㎞にわたり掘削した林業遺産。後年、平成の時代に一部が公園として整備された。木造の歩道橋が架かっており雰囲気は良し。

〇セミナー第1夜

飲みつつの参加という、とても古き良きスタイルを堅持しているセミナー。今年は学生さんの発表もあり、身の引き締まる思い。というよりは、当方の学生時代から御指導(?)役であるところの某教授の前座とのことで、背筋が伸びる・伸びる。某教授より、森林簿の森林資源は過小なので過伐とまでは言えないのでは、皆伐後、果たして全てを再造林(植栽)すべきなのか、との御指摘。当方より、現在は伐採しやすい箇所から伐っており、再造林しやすい条件のエリアであるため、そのようなエリアでは再造林すべき、とのやり取り。若干、答弁がかみ合っていなかったような気はするものの、某教授的に問題はなかった模様なのでセーフ(汗)。その他、低コスト造林が正解と思われているが、製材の立場で、それははたして正解なのか(そのような施業で生産された丸太は正解なのか)、など、全体を見ず縦割りで考えがちな我々への苦言を賜る。まさに木を見て森を見ず、ですね。

(2日目)

〇三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林

高齢級のオビスギ林はどのような林分になるのかという試験地。5.07haに1,155本残存。2023年現在145年生。成長量も継続的に計測しており平成26年から令和元年の実績での平均年間成長量はなんと14.5㎥/ha!よく脱炭素の文脈で使われる高齢級になると成長が落ちる云々っていうのは果たして…という疑問が生じる試験地。こちらはミステリーサークルとは異なり、国有林内ではあるけれども駐車場が完備されているため、今までもちょこちょこ訪問したことのあるエリア。いままでは、ひたすらでかい巨木が生えている森林という印象しかなかったのですが、某教授によれば、下層に照葉樹林がまるまる一つ入っている二段林という認識が正しいとのこと。下層木(といっても大きいのですが)にも注意を払いなさい、との教えに、普段お金になりそうな樹種しか見てない当方は目からウロコ。反省をしようと思いました。

〇スギ特定母樹による下刈り省略試験地

成長の早いエリートツリーを用いれば下刈りを省略しても成林するのか、という試験地。こんな試験は所有者が許してくれそうにないので、もちろん国有林。やりようによっては何とか成林するけど、出来るなら下刈りはした方が良いよね、という、まぁ、そりゃそうだよな、という結果。実証するのに意味があると感じました。

〇長倉樹苗園

挿し木苗生産の第一人者でもある長倉さんの苗畑見学。挿し木苗が高すぎることから価格破壊が必要との身を切る業界改革に背筋が伸びました。

〇田野演習林

どのような伐採をすると、下層木の萌芽更新による広葉樹化を達成できるのか、という試験地。これですよ!たぶん当方が学びたかったのは…。今までの経験上、広葉樹植栽は上手くいっている事例がとても少なく、かなり手をかけないと広葉樹の再造林は基本失敗するという認識だったのですが、下層木を利用することで(低コスト(搬出は手間が掛かってそうだったので低コストかどうかは不明ですが)かつ短期間で)広葉樹林化を成し遂げようという取り組み。素敵です。そのほか、演習林を歩き回った先でのヤッコソウ探しあり。

〇セミナー第2夜

本日は、当方の発表もないので、緊張感もなく、のんびりとお話を聞くことが出来ました。差し入れにありました富山の日本酒がとても美味しかったことを鮮明に覚えています。

(3日目・オプショナルツアー含む)

〇綾照葉樹林

当時、宮崎森林管理署が最後の隠し蔵として温存していた綾国有林の森林資源の視察。こちらも初めての訪問。トロッコ道や修羅(ケーブル式)、木くずを熱利用して稼働していた製材所など、まさに林業遺産というべきものが多数。途中、川岸に岩からスギが生えている不思議なエリアがあり、綾の持つ生命力の強さを感じました。

〇霧島御池イチイガシ人工林

オプショナルツアーとして、御池キャンプ場周辺のイチイガシへ。大正時代に造成されたれっきとした人工林とのこと。言われてみればすらっとしていて、人工林ぽいような。また、このエリアはヤマビルの生息地であるため、訪問が11月下旬で助かりました。帰りは、霧島のモミツガ林を見るため、大浪池まで登山し、充実した研修を終えることが出来ました。大浪池で、主に図鑑でしか見たことのないハリモミを見ることが出来、とても満足でした。

最後に、開催にあたっては事務局の方々のスケジュール管理能力に驚嘆いたしました。話が長くなる傾向にある(?)あまたの参加者を相手に、ほぼほぼスケジュール通りで進み、時間のヨミが素晴らしいな、と。また、天候も大変良かったです。皆さまの日頃の行いの良さと思います。おかげ様で、今まで知らずに過ごしてきた宮崎県の林業の一部を知ることが出来、大変充実した研修になりました。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

宮崎飫肥合宿を終えて

村田くるみ(岐阜県森林文化アカデミー・学生)

この度宮崎県で開催された森林施業研究会の現地検討会に参加させていただきました。私が通っているアカデミー内で案内があり、普段資料や講義内でスギ素材生産量日本一と見聞きするだけだった場所に自分の足で訪れることができる貴重な機会だと思い参加を決めました。普段アカデミー生として研究に携わる方々にお会いすることが少ないので、お話を伺えることも楽しみのひとつでした。

実際宮崎県での二泊三日を終えて印象的だったのは、消化しきれないほどの情報量や経験の中で研究・苗木生産に携わる方々の熱い思いです。全くの素人からアカデミー入学後基礎知識として学んできたことはもちろん重要なこととして私の中にインプットしてきましたが、特定の地で何か月・何年も時間を掛けてひとつずつ「確かな」ことと「不確かな」ことを選別しその先でまた新たな課題に取り組むその一連の流れの下に通じている思いが全くの新鮮さと共に私の中に入ってきました。

長倉樹苗園を訪れた際、長倉さんの「慢性的な苗木不足もあって山の上で培地がボロボロになる苗木が出回っている」「山に申し訳ない苗を減らしたい」「自分がちゃんと作ったものを送り出したい」というお言葉は特に胸に刺さりました。もちろん挿木生産自体初めてだったのでどのように苗が生産されているのか、穂木がどれだけ貴重で繊細なものなのかを知れたことも貴重でした。しかし、それ以上に長倉さんを突き動かしている思いが私にとっては眩しく胸を熱くするものでした。というのも、厳しい経営状況下でも苗不足解消・培地改良・元気な苗木等のために試行錯誤される長倉さんには強い信念がある一方で、学生とはいえ自分にここまでのものがあるだろうか、また長倉さんのような方々から引き継いだ挑戦の結晶を今まで感謝しながら扱い学んできていたのかと自分に問わずにはいられなかったからです。

その他の試験地等の視察では、信念や興味関心を持って携わって来られた方々のお話と色んな角度からされる質問が次第に議論上で拡大され新たな課題の認識まで行われる空間で、とてもわくわくするものでした。皆さんの溌剌としたお姿が仕事としての使命感だけでなく林業や山に携わる活動を楽しんでいることを感じさせ、私もそんな風になれたらなと思いました。

今回の宮崎合宿を通して、今まで自分が0地点として見ていたところは沢山の方々が時間と労力を費やしひとつひとつ積み重ねてきた「確かな」ことの延長線上であって、その意味で視界が開けました。ただ日々その確かなことは増えるけれどその結果を、上手に活用するかしないかはまた別問題であるということも感じました。また、よく川上から川下まで情報共有ができていないのでなんとか解決しなくてはというお話を聞きますが、産業に携わる方々がお互い日々抱いている思いを共有する場も同じように増えればと思います。情報や商品として研究結果や苗を引き継ぐだけじゃなく、目に見えないものも一緒に受け取り次につなげることがその先にいる産業外の人たちにも声が届きやすくなるのではと、ふと思いました。今回宮崎県に赴き自分の五感で体験したこと、合宿を通して素敵な方々に出会えたことは本当に嬉しいものでした。

最後になりましたが、合宿でお会いできた方々、運営に携わられた方々にお礼申し上げます。

 

宮崎飫肥合宿に参加して

原田喜一(京都府立大学大学院)

今回、初めて森林施業研究会の現場検討会に参加させていただきました。九州の森林に入り、見て、お話を伺うはじめ機会を頂き多くの気づきがありました。

一番、印象に残っている現場は、飫肥林業のお話を伺えた、スギ円形植栽密度試験地と三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林の2カ所です。京都の大学で林学を学んでいることもあってか、林業は密に植栽し、多くの手入れ(間伐・枝打ち)が必要であると思い込んでいました。しかし、飫肥林業では、疎植・少間伐を実践しており、それが気候の面で考えられた育成方針であり、弁甲材の生産にも活かされている。地域の気候や土地的な特性と生産される商品の特徴が考えられた林業を学ぶことが出来ました。関西では、吉野林業や北山スギの生産があるように、全国にも同様にその土地にあった林業の形があるのだろうなと想像しました。今回、実際に九州に行くことで、地域ごとに土地にあった林業が形成された必然性のようなものを気づくとこが出来たので、自分の足で現場を訪れ、お話を伺う重要さを強く感じ、実際に多くの地域に行ってみたいと思いました。

今回の検討会で、多くの現地を案内していただき、また、セミナーでは研究に関するご意見を頂きありがとうございました。

 

百聞は一見に如かず

福井喜一(京都府立大学大学院)

 今回の合宿では飫肥林業地を中心に各地を見学させていただきましたが、印象的だったのは広葉樹の存在感でした。

スギ人工林というとスギの他には林床にわずかに広葉樹が見られるものという認識でした。しかし、今回訪れた三ツ岩オビスギ遺伝資源稀少個体群保護林では、飫肥林業の植栽密度の低いスギ林の下層に常緑広葉樹林が成立している様子を見ることができ、その認識を変えさせられました。また、広葉樹林化には長い時間がかかるというイメージがあったのですが、宮崎大学の田野演習林では広葉樹林化試験地を見学させていただき、人工林内に生育していた広葉樹が前生樹となり、伐採後、短期間で広葉樹林に移行したという様子を観察し、そのイメージも覆されました。一方で、豊かな常緑広葉樹林が成立しているように見られても、その種組成は萌芽力の高い種や鳥散布種が中心で、近くに種子供給源がない場合、重力散布種が入ってこないという課題もあり、やはり広葉樹林化は一筋縄では進まないテーマであると感じました。

今回の合宿を通して、各地の様々な森林を実際に自分の目で見ることの大切さを感じられました。普段訪れる森林は研究室で調査・研究している場所に限られ、植生や施業の異なる森林を実際に見る機会はあまり持てていませんでした。文字や写真でも多くのことを知ることができますが、実際に現地を訪れて自分の目で見なければ得られないものがあると、改めて気づかされました。

また、大学や研究機関から行政の方まで多様な参加者の皆様と現地を見ながら議論できたことは非常に貴重な経験となりました。ありがとうございました。 

 

刺激

山下淳也(京都府立大学大学院)

研究室の指導教員の先生からこの合宿をご紹介いただきました。普段、馴染みのない九州の森林・林業について実地で学べる良い機会だと考え、参加させていただきました。

この合宿で見聞きしたことを通じて、普段フィールドにしている京都の森林・林業との違いを強く感じました。1点目は林業の盛んさです。移動中の車窓では、皆伐後の植栽地がパッチ状に点在している様がいたる所で見られ、林業が盛んに行われていることを実感しました。また、2日目に見学に行った長倉樹苗園さんで伺ったコンテナ苗のお話や、セミナーで伺った宮崎県内の製材事情のお話などから、苗の生産から製材まで県内で揃っており、林業が宮崎県の一大産業の1つであることを感じました。京都の林業との規模の差を強く感じ、林業は様々な課題を抱えていると言われていますが、それぞれの地域で抱えているものは大きく異なるなと実感しました。

2点目は下層植生の豊かさです。京都はシカの食害で下層植生が貧弱なところが多いので、下層植生が発達しているのは新鮮に写りました。飫肥林業は疎植で下層に日が入りやすいこともあって下層植生が豊かで、特に2日目に見学した三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林は、オビスギ林の下に広葉樹林が丸々入っているのではと思えるほど広葉樹林が発達しており、複層林となった人工林は初めて見たので感動しました。飫肥林業は弁甲材用のしなやかな材を作るために疎植にしていたというお話も伺い、木材の利用方法が大きく変化している中で、木材に求められる材質と、人工林に求められる生態系的な面の双方から、どのような施業方法が良いのか改めて考えていかないといけないのではないかと思いました。

このように普段のフィールドとの環境の違いを強く感じ、この違いを実感できたことは今後、森林について考える上で大きな刺激になったと思います。また、夜に行われたセミナーやその後の懇親会だけでなく、見学地でもすぐに方々で議論が始まる環境には圧倒されてしまいましたが、聞いているだけでもとても勉強になりました。

このような刺激的な経験をできる合宿に参加することができ、大変貴重な経験になりました。この合宿を企画・運営してくださった森林施業研究会の皆様、見学地の皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

森林施業研究会 感想

上岡洸太(京都府立大学大学院)

印象に残っている場所をいくつか挙げながら感想を並べていく。

■スギ円形植栽密度試験地

数年ほど前にテレビで見たことがあったあのミステリーサークルを見に行けるということで、もとより楽しみにしていた場所だった。テレビでは空撮映像しか映されなかったが、この時見た内部からの景色は深く記憶に残っている。外に行くほど大きくなる四角い樹冠、内側で枯死してしまった木々、密度試験地に関して議論する伊藤先生たちの姿など、合宿初日にして既に圧倒されはじめていた。

■三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林

針広混交林という言葉は幾度となく聞いてきたが、今まで見た森林では人工針葉樹林と少しの広葉樹が限界であった。遺伝資源希少個体群保護林を見て、はじめて針広混交林という言葉が目指す目標林型が理解できた気がした。はるか上方まで育った飫肥杉と、枯れあがった樹冠のもとで大きく広がる広葉樹林の姿は、シカの被害を多く受ける京都では滅多に見られないであろう光景だった。

■長倉樹苗園

植樹に関する行為は今までにたった1度、卒業記念植樹として1本を植えたきりであり、他には授業でコンテナ苗の話を聞いたくらいの知識であった。そのため、苗の生産者さんを見学すると聞いても当初は特に感慨はなかった。しかし、より良い苗を作ろうと様々な努力を行う熱意や従事者の生活のことも考えた経営方針など、話を聞いていくうちにどんどん惹かれていった。森林を見る以外にこれほど興味を惹かれるとは思っておらず、楽しく見学させていただけて本当に良かった。

■全体を通して

いずれの場所にしても京都では見られない場所ばかりで新鮮な気持ちで見学できた。しかし、森林に対する知識不足や考えの甘さを体感させられた3日間だった。

 

森林施業研究会 宮崎飫肥合宿に参加して

木野朗斗(京都府立大学大学院) 

この合宿には、担当教員から誘われ、近畿以外の林業について勉強ができると思い参加することを決めました。担当教員の不在という予想外の形で始まり、学生たちだけでの参加でかなり緊張していました。しかし、始まってみると見学地の説明や参加者の方々の質問の内容についていくことに必死で気が付いたら夜になっていました。

特に下刈り省略試験地の現地見学会は、来年から現場に勤める自分にとっては非常に興味がある分野で、下刈りをしなかったらどうなるのか、それによるメリットやデメリットを現地で見学しながらお話を聞けたのは非常に有意義なものでした。また、噂に聞いていた夜のセミナーや懇親会では様々な人に声をかけていただき、多くの議論やお話を聞くことができて、とてもためになる会でした。

この合宿において、近畿や中部の林業しか見たことのない自分とっては、全てが新鮮でした。宮崎県は林業先進県ということで、どれほど林業をしている山があるのだろうとわくわくしていましたが、運転中の車窓から見える山ほとんどで主伐・再造林をしている山が多く、同じ日本でもここまで違うものかと驚きました。スギの生産量日本一という文字では知っていましたが現場を見てみないと、そのすごさが体感できないのでこの学問は現場をもっと見て知らないといけないのだなと強く感じた合宿でした。

この宮崎合宿で貴重な体験やお話を聞くことができてとても楽しかったです。学生たちだけで参加して扱いにくいこともあったと思いますが、みなさん親切にしていただいてありがとうございました。

 

圧倒された3日間

長谷川喬平(山梨県森林総合研究所)

森林施業研究会の合宿に参加したのは2022年の静岡以来2回目でしたが、今回も濃密で終始圧倒されてばかりでした。端くれとはいえ造林の研究を生業として禄を食む身でありながら、知らない事だらけで修行不足を思い知らされた合宿でありました。脳の処理が追いつかない3日間で、既に記憶が混濁しているため全体の振り返りは無しに、何枚かの写真で振り返ることで感想に代えさせていただきます。

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円形植栽密度試験地

円形植栽密度試験地(通称ミステリーサークル):この試験地は研究サイドが設定したものと思いこんでいましたが、当初は行政主導であったこと知り驚きました。弁甲材生産を目標に疎植を行っていた飫肥でも、戦後は世間の流行に合わせ植栽密度が高まる機運があるなか、素材生産の有利さだけで植栽密度を決めるのは早計である、という営林署の判断で設置されたそうです。現在は造林コスト低下のため、低密度植栽が流行の兆しを見せています。本来、植栽密度というものは生産目標や目標林型により変動するもの、この試験地で一線の研究者・技術者の方々の議論が聞けたことは良い経験となりました。

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苗木の説明をする長倉さん

株式会社長倉樹苗園:平成21年に全国で初めてスギ挿し木のコンテナ苗の栽培を開始した(同社HP情報)苗木生産者さんのところを見学しました。九州では挿木苗が標準なため、特有の悩みもあったようです。写真左のコンテナ苗は根鉢上部に根系が見られませんが、挿木では挿し穂の根元からしか発根しないため、上部には根が回らないそうです。ここから根鉢が崩れてしまうことを防ぐため、写真右のようにペーパーポットに入れることを開発したそうです。他にも挿し穂を吟味したり、培地を既存のものから改良したりとかなりの努力をされていました。私は正直なところ、コンテナ苗に良い印象を持っていませんでしたが考えが変わりました。同時に完成しているように見えて改善の余地がある分野と感じました。

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イチイガシ人工林の看板

イチイガシ人工林:オプションツアーで訪れたこの人工林は、明治43年~大正元年にかけてイチイガシとアカガシを植栽した人工林です。この時代の国有林は特別経営をしていたはずですが、どういう目的で植えられたのかはわかっていないようです。後日知ったことですが、イチイガシは材が船の櫓に使われたことから「ロガシ」という別名もあるそうです。弁甲材を生産していた宮崎なので、櫓にすることを想定していたのでしょうか?また現在ではアカガシがほぼなくなっており、こちらも謎となっています。この場所は後日再訪したのですが、その際にカシノナガキクイムシにアタックされ枯れかけているアカガシを見つけました。ナラ枯れといえば東北や北陸で発生したイメージが強いですが、実は戦前に南九州で問題になったことがあります。もしかしたら、ナラ枯れでアカガシが大打撃を受けたのかもしれません。

とりとめのない振り返りですが以上です。他にも林業遺産、オビスギ遺伝資源希少個体保護林、特定母樹による下刈省力試験地、宮崎大学田野演習林の試験地、綾の製材跡地見学といった現地検討に加え、1、2日目の夜にはセミナーがありと、とにかく盛りだくさんの合宿でした。それらの感想は他の方に譲るとして、最後にご一緒させて頂いた皆様へそして今回の主催を務められた山川さんへ感謝を述べて終わりにいたします。ありがとうございました。

 

宮崎飫肥合宿に参加して

安達直之(島根県中山間地域研究センター)

【感想】
宮崎の飫肥地域は古くからの林業地であり、今回の視察ではその研鑽の積み重ねを垣間見ることができました。飫肥林業は伝統的な低密度植栽施業地であり、低密度植栽による山の仕立て方などへの理解を進めることができました。また、個人的に強く興味を持っている森林ゾーニング論を唱えている宮崎大学の伊藤先生から直接お話を伺うこともでき、より強く森林ゾーニングの必要性を感じることができました。さらに、私の現在の研究テーマである下刈りの省略についても九州地方では早くから取り組まれており、その成果も出つつあるところで非常に参考になりました。 

総じて、古くから林業に取り組み、先進的な取り組みも数多く行っている宮崎県の視察をこの分野のトップレベルの専門家に案内してもらいながら視察できたことは大変貴重な体験でした。今回学んだことを参考にしながら、今後の仕事を進めて行きたいと思います。ただし、宮崎県でうまくいった事例が島根県でもうまくいく保証は全くないでしょう。それは、島根県は宮崎県と気象条件、社会状況、政策の方向性などが違うためです。飫肥林業は何百年というスケールで形作られてきたものであるからこそ、針葉樹林業の歴史が浅い島根県では、本県なりの林業の形を長い時間をかけてでも模索し続けていかなければならないと考えています。

【疑問】
・円形密度試験の資料で2326本/haあたりが妥当という評価が書いてあるが、この密度なら無間伐でもそれなりの材が採れるということか
・垂直の競合状況の判定(C1~C4)では判断できない可能性があるという話でまとまったと思うが、少なくともC1の状態ならば成長には問題ないと言えるか
・スギが接触刺激によって枝を伸ばさないということであれば、ツリーシェルターを設置した場合も枝を伸ばせないと考えられる。ツリーシェルター設置木が健全に成長するならば、ススキに2m程度まで接せられているスギも健全に成長するのではないか。

 

宮崎飫肥合宿に参加して

奥村隆士(東京都山林種苗緑化樹生産組合)

森林施業研究会飫肥合宿に参加させていただき、ありがとうございました。

私は所属している地域の山に関わり始めて10年目を迎えたところです。以前は全く森林と関わりのない仕事をしていました。今の仕事の重要さはそれなりに理解しているつもりですが、森林林業に対してはその重要さが日に日に謎に包まれていくような感覚があります。何故でしょうか分かりません。そんな話を神奈川県の小宮さまに聞いてもらったところ、まずは森林施業研究会に参加しなさいと言われたことから参加させていただいた次第です。

合宿に参加された皆様のように専門知識を持ってない私が、合宿解散時に小山さまに肩を叩かれレポートを書くように言われた訳ですが、その内容について何を書こうか散々悩んだ末にChatGPTに「森林施業研究会の合宿に参加したレポートを600文字以内で作成」なんてリクエストをして、1秒程度でそれっぽいレスポンスを返してくる事に「おぉ?」と驚いたりしているところです。この内容をいじってレポートにしようとしたところ、同行者に却下されたので止めておきます。

参加して良かったと思える点を1つ挙げるとしたら、初めてお会いする方々と森林というテーマで話をするということが意外と楽しかった、ということでしょうか。それは普段では広く自由な意見交換をする場がないということなのかもしれません。そんな場を作る事が私にとって森林林業の仕事を継続していくための1つのポイントだと思いました。

それと、皆様のような方々にお会いするといつも思うのですが、なんでそんなに楽しそうに森の話ができるんでしょうか。私が単純な労働者だからでしょうか。身近に教えてくれそうな人がいないのであれば自らで探しにいくしかないのですが、適当と思われる本を読みつつ、また森林施業研究会のイベントに参加させていただければ何かみつかりそうな気がしますので、その際はどうぞよろしくお願いします。

話は変わりますが、山に植栽してシカなどから食害を受けて棒状になったスギがその程度によって再び成長を見せることがあります。その成長過程の様子を記録に残すべく、棒状になったスギを鉢に植え替えて定点インターバル撮影を始めてみました(趣味です)。その様子を見た事がありますか?うまくまとめられたら次回の合宿で発表させてください。

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【同行者追記】

奧村さんが、ChatGPTが返してきた面白くもなんともない文章をレポートの骨組みにするという提案をしてきたので、速攻却下しました(笑)。自分の頭で考えることなく、それっぽい文章や答えでよしとするつまらない世の中にならないことを祈ります。

今回、初めて森林施業研究会の合宿に参加したところ、30年近くお目にかかっていなかった大学の時の先輩(森林総研の酒井武さん)に再会し旧姓で名前を呼ばれてびっくりしたこと、合宿後の12月1日に開催された全国林業普及研修大会で合唱で知り合った宮崎の戸田てつおさんにばったりお会いしたことなどから、林業界の狭さを改めて感じ、悪いことはできないなとちょっぴり身を引き締めた次第です。

来年の合宿は私が学生時代に4年間過ごした北の大地というウワサを小耳にはさみ、密かに楽しみにしていたりします。

みなさま、合宿では色々とお世話になりました。どこかで再開した際にはぜひお声がけ下さいね。(桶川)

 

まだまだボクたちは「スギ」だってわからないことだらけ

小山泰弘(長野県林業総合センター)

スギが日本を代表する造林樹種である以上、様々な研究においてもスギは最先端を進んでいると思っている。だからこそ、スギ林業が盛んに行われ、全国に先駆けて皆伐再造林が進んでいると言われる「宮崎」は、訪れたい地の一つであった。それだけに今回、宮崎飫肥合宿を引き受けていただいた山川さんに深く感謝するとともに、現場で熱く語る伊藤哲さんをはじめとする参加者同士の議論は、明るいうちは常に現場を見続け、夜は座学で討論するという、施業研究会合宿らしさが戻ったと感じている。その象徴が「昼飯時間も現場で!」という気合い。宮崎と言えば、皆伐再造林が進むとともに、造林放棄地も多いと聴く。宮崎を歩いたことがない私としてもそこは気になるところ。確かに車窓からいくつのも伐採現場が拡がってくるが、車内では、なかなか多くの人との議論には至らない。しかし、昼食場所の目の前に皆伐地が拡がり、議論できたことは、幅広い目で地域を見つめ直すきっかけともなった。

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皆伐地を見ながら食べる昼食

私が、3日間の合宿で改めて感じたのは、「まだまだわからないことだらけ」ということ。それは、案内していただいた伊藤哲さんや山川さんが悪いわけではない。

実際、現場を先頭で歩いていただいた伊藤哲さんからは、調査を行った現場で、実際の成果を並べながら紹介いただき、成果としては非常に多くの答えが示されていたことがわかる。では、どんな議論だったのかと言えば、森林遺伝育種の12巻で紹介されており、議論の主役はこちらに譲るとして、こうした成果をもってしても(成果があったからこそということもあるが)、まだまだわからない事がばかりで、施業の研究が更に重要性を増していることを痛感した。

では、なぜ今まで何とか施業が成り立ってきたのは、幾多の失敗を乗り越えてきた経験とそれを口伝で伝え続けてきた先人が培った技術があったからではないだろうか。

その象徴が、今回お邪魔した長倉樹苗園でお話しを伺った長倉さんの言葉に表れている。氏は、「コンテナ苗木の生産に10年間携わりながら、いろいろな失敗を繰り返して、今に至っている。」と語られた。毎年毎年生産することが出来る苗木生産であっても、10回繰り返したことで、「今に至っている」との境地に立ったのではないかと思う。それでも「これで良い」と結論めいたことは一度も語る事はなかった。私たちからの質問に対して、「この方法はどうなの?」という問いには「このように失敗した。」との回答が続き、私たちが考える程度の発想は、経験者に勝てない現実を見せつけられた。

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苗木の説明をする長倉さん

今回の舞台となった宮崎県の飫肥地方は、オビスギと呼ばれる弁甲材の一大産地として名を馳せてきた。その一端が、川流しをした木材を港に引き入れるために開削した堀川運河でも感じることが出来る。木材利用の分野において、搬出距離は今でも重要な指標である。どこから木を出して、どこへ売るのか。マーケットを意識することは、必要不可欠である。とはいえ、土地に合わない木を育てても無駄である。飫肥の地に育っていた杉は、油分が多く耐朽性があることが知られていた。軽くて、耐朽性があり、脂分を含むとなれば、屋外利用、特に海上利用ではありがたい。そこで、木造船にという発想に繋がるのであろうが、荒波を越えて進む木造船を考えたとき、必要なのは強度よりもしなやかさ。つまり、年輪幅の広いしなやかな木が必要となる。その結果、疎植で木を太らせて、板材生産を進める「飫肥杉」の生産体制が生まれたのだという。

林業は、それぞれの立地環境に合わせて、目的をもって生産することが何より重要である。だからこそ、地域に根付いた産業として高く評価され続けてきたのだともいえる。堀川運河をはじめとする飫肥林業が「林業遺産」に認定されたのも、その背景があったからにほかならない。

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「林業遺産」の説明看板

こうした背景を汲んで、今回の試験地を考えると、ミステリーサークルとして巷で有名になりすぎた「林分密度試験林」や「三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林」は、それぞれの時代背景に即した森林であることが伺い知れる。

今から50年前に設定された「林分密度試験林」は、板材生産から完満な柱材生産を主体とする森林管理にはどのような植栽本数が最適なのか?を改めて問うための試験地だったことが示唆される。伝統的な飫肥杉生産では、直差しにより1,000~1,500本/haを初期本数として少間伐で管理してきた。一方で、柱材生産が主軸だった吉野では、8,000~10,000本/haが初期の本数である。そこで、吉野林業の最大本数である10,000本を上限として、飫肥林業の最終形である300本程度を下限値として試験地が組まれている。つまり、板材生産しか指向していなかった飫肥杉を柱材で生産するにはどうすれば良いか?を真剣に考えたのである。ここには、「本来であれば板材生産で歴史を担ってきた飫肥杉を、木材としての特性は保証できないまでも、柱材としてそだてなければ」という外圧とたたかった担当者の苦悩が見え隠れする。

一方、「三ツ岩オビスギ遺伝資源希少個体群保護林」は、145年前に育てられた飫肥杉の人工林。当時の飫肥杉は弁甲材生産に特化しており、そのための森林管理が進んでいた。弁甲材に適した飫肥杉の遺伝資源を保存するために作られた保護林であったため、当時の技術で解明していた育て方が踏襲され、それが現在まで残され、228本/haの飫肥杉が残されている。つまり、この山からは「飫肥杉はこう育ててきた」という証拠が見て取れる。

両者を見比べながら、改めて林業技術が「生産目標」にあわせて創ることの意味を教えてくれる。そこには、「創っておけば何とかなる」という曖昧な目標は存在しない。常に「何のために」があり、そのために技術を磨き、経験を蓄えてきたのであろう。

コンテナ苗を生産していた長倉さんも、「植えた後でしっかり伸びる苗木が求められるから、下枝同士が重なり合って枝が拡げられない150ccのコンテナではスギを創らない。300ccコンテナの間隔が適当だけれど、300ccの培土に根が回るのは時間がかかって非効率な上、苗木が重くなって植栽が大変。」として、300ccのコンテナにスペーサーを入れて培土が150ccになるように調整しているという。まさに目的が明確である。

林業が「業」である以上、「生業」としての樹木を観ることの重要性を改めて感じた3日間であった。

上記のような真剣な議論とは別に、多くの森林に触れることが楽しみとしている個人的な視点では、普段は絶対に出逢うことがないイスノキやイチイガシを堪能できたこと。さらに、宮崎県内で収束するハズだったオプショナルツアーが、伊藤さんの計らいで、霧島を半周して鹿児島県に突入し、大浪池に登ったことで、鹿児島県のブナをしっかり観察できたことである。遠くまで来たのだという感動を照葉樹林が教えてくれ、ブナを研究対象にしてきた一人としてブナに出逢えたことは、密かにうれしかったことは言うまでもない。

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大浪池登山道で見つけたブナ

前編はこちら(NewsLetter No.76(前編))