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木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.79(2025年5月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

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・第25回森林施業研究会シンポジウム記録

第25回森林施業研究会シンポジウム「シカ害をどこまで容認するか?-ニホンジカが棲む森林で行う林業のあり方」の記録

長谷川喬平(山梨県森林総合研究所)

代表の小山泰弘氏による趣旨説明に続いて3名の方から話題提供が行われた。

趣旨説明:小山泰弘代表(長野県林業総合センター)

「シカ害をどこまで容認するか? ―ニホンジカが棲む森林で行う林業のあり方―」というタイトルで本シンポジウムの目的が語られた。

現在林業の現場ではニホンジカ(以下、シカ)による獣害対策に費用と時間をかけており、日本全国で問題になっている。その一方で主伐再造林の動きが加速し、国が提唱する「新しい林業」では113万円の黒字化が可能と試算されている。ところが、この収益予測のなかには獣害防止コストが抜けている。獣害防止コストを含めて試算すれば113万円の収益を打ち消してしまう可能性もある。それでは単純にシカを排除すればよいのだろうか?それは簡単ではないし現実的ではない。

本日のシンポジウムのテーマは、シカがいることを前提とした、当たり前のようにシカがいる中で、現実問題としてどういう施業ができるのか、自分たちがどうやっていけばいいのかを議論する時間としたい。

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(写真)趣旨説明をする小山氏

話題提供:山川博美氏(森林総合研究所 九州支所)

「被害レベルに応じた造林地でのシカ被害対策」というタイトルで氏の最近の研究の紹介がされた。今はシカがいればとにかく防鹿柵を設置しているが、被害のレベルに応じた適切な対策をすることでトータルコストを下げられないかという視点から実施された。

被害レベルに応じた対策をするには事前の予測が必要となる。これまでは生息密度が用いられてきたが、生息密度と林業被害は必ずしも関係が無い場合もあることから、北海道の事例(明石ら 2013)を参考に簡易チェックシートを作成し、九州・四国の防鹿柵を設置した320地点のアンケート調査から、柵の破損と植栽木への被害、シカの痕跡から被害レベルの予測を試みた。

その結果、柵の破損では実に全体の6割は破損していることが明らかになった。ではどのような場所で柵が破損しているのか?地形で見ると主に急傾斜や平坦地でも沢や谷を通るような箇所では壊れやすい傾向が見られた。破損した柵内にある植栽木の被害は、地域によって被害レベルが異なり、九州では鹿児島・熊本県境、宮崎の中心部、四国では徳島・高知県境などで激害地が多かった。植栽木への被害とシカの痕跡の関係を解析したところ、5つの痕跡(糞、剥皮/角こすり、植生の食痕、シカ道、足跡)と関係が見られた。その痕跡の程度をスコア化し、合計値をシカ影響スコア(DISco:Deer Impact Score)として算定することで、ある程度は被害予測ができることが見えてきた(Yamagawa et al. 2023)。

単木保護資材についても言及があり、DIScoとの関係を見ると柵でも単木保護でも、シカの影響が大きい場所では激害リスクは高いことが確認された。一般的に使用される140cmの資材ではシカの口が届く高さであり、植栽木がその高さを超えてくると資材から出た部分を食害される。したがって、シカの影響が大きい場所では単木保護資材では不十分である可能性も見えてきた。

こうした結果から、レベルに応じた獣害防除対策をすること、例えばDIScoスコアの低いところでは防鹿柵などではなく高下刈りをする。スコアが高ければ優先的に捕獲し、主伐を避けることなどが提案された。ただし、主伐を先延ばしした場合は、現在ある立木への剥皮害による材価の低下という懸念もあるという悩ましさも同時についてくる。

最後に九州のシカの推定密度について触れ、九州全体で見れば捕獲してもシカ密度は減っていない(Suzuki et al. 2022a)。一方で、スケールを小さくして見れば捕獲した場所では密度も被害レベルも減少している(Suzuki et al. 2022b)ことも判明しており、シカの管理にもゾーニングが必要ではという内容で発表がなされた。

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(写真)山川博美氏(森林総合研究所九州支所)

話題提供:明石信廣氏(北海道立総合研究機構 林業試験場)

「植栽から主伐までのエゾシカ被害と対策」というタイトルで北海道の獣害を中心とした報告がなされた。

北海道は九州・四国・本州と植栽される樹種が異なる。トドマツ・エゾマツといった特有な樹種や、最近では再造林の盛んなカラマツ類が人工林の主役になっている。樹種の違いや生息する動物種の違いもあり、シカ(エゾシカ)だけではなく、ネズミ(エゾヤチネズミ)やウサギ(エゾユキウサギ)も多く、加害する獣種を見極めた対策が必要である等(ウェブサイトで見極め方のパンフレットを公開)、北海道特有の苦労も多いようであった。

続いてカラマツへのシカ食害の影響に関する研究が紹介された(Akashi 2006)。北海道では夏場に主軸の先端を食害されるが、カラマツは代わりの主軸が立ち上がり、毎年少しずつ樹高が大きくなっていくことが確認された。樹高が100cm(傾斜地では140cm)を超えてくると食害が減る傾向も見られ、いつかは食害される高さを脱出すると想定された。したがって、カラマツは食べられても育つため対策は不要ではないかとのことだった。一方で最近は食害が強い箇所では枯れる、防護柵を張らなければ枯れる、という声もあるとのこと。ただし、枯死原因はネズミである場合もあり、やはり見極めが大切なのだろう。

被害防止の方法や被害の種類についても言及があり、忌避剤では春先に散布してもその後に伸びた部分が食害を受ける、単木保護資材(プラスチックタイプ)もトドマツでは枯死が目立つ(おそらく土壌凍結時期に筒内温度が上昇することによる乾燥害)、防護柵は積雪やヒグマにより壊れるといった問題が報告された。

被害の種類では先述のとおり、カラマツの主軸への食害は大きな問題ではないが、植栽木が大きくなると樹皮剥ぎが出てきてしまう。胸高直径20cmを超えると被害は減り、枝打ちをする時期になれば、打った枝を幹に巻き付ける枝条巻き付けで被害を抑えられるが、胸高直径5cmくらいまでの若い時期の防除方法が無いのが現状とのこと。

最後に森林被害以外にも鳥獣害は問題となっており、個体数管理は不可欠であるという話題から、人口減少の現代では個体数管理をする人もいない。鳥獣害対策は地域づくりを含めて考えていく必要があるだろう。林業だけで対策を考えられるような問題でなくなってきているのではないか、という林業の施業技術から離れた大きなスケールまで問題提起がなされた。

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(写真)明石信廣氏(北海道立総合研究機構林業試験場)

話題提供:長池卓男氏(山梨県森林総合研究所)

「シカのいるところでの主伐を考える」というタイトルで、シカがいるなかでの主伐の意味を問う発表(問題提起)がなされた。

現在の林業で主伐と言うと皆伐・再造林が前提となっている。皆伐には作業効率が良いというメリットがある一方で、シカの高密度存在化で植生回復の遅れ、山地崩壊の危険性というデメリットがある。こうしたデメリットは克服できているのだろうか?また、皆伐地はシカに餌場を提供し、結果的にシカを増やしているのではないか?趣旨説明のなかで「新しい林業」に言及があったが、この中身はアメリカで提唱された「The new forestry」とは異なり、伐採後の再造林コストを下げることにのみ注力されている。しかし、シカがいる状況下で可能なのだろうか?シカがいる中で“皆伐・再造林”の林業を続けるには獣害防止コストは不可避であり、その分は補助金で負担すると言った場合に社会的なコンセントは得られるのであろうか?

造林学の教科書(新版造林学 1981)の中では「伐採は更新と密着し、伐採技術と更新技術とは、一連の林業技術のなかで、有機的に結合されなければならない」とあるが、今は皆伐・再造林というシステムが出来上がり、そこに疑問を持っていないのではないか。シカがいる中で目指すべきは、更新で防除の必要のない「主伐」、鹿を増やさない「主伐」なのでは?

森林・林業基本計画にも育成単層林は“皆伐”することが記載されている。しかし、本当に皆伐・再造林で良いのだろうか?ヨーロッパの多くの国では気候変動への適応策として、森林を混交林化・複雑化していくことを進めている。日本が進める皆伐再造林(Clearcutting with planting)は管理強度が高く森林構造は単純な部類に入る。最近話題の保持林業(Variable retention)では多少の複雑性はあるが、保持する木の本数が少なければ皆伐再造林に近い。ヨーロッパでは他にも部分伐採(Partial cutting)やCCF(Continuous cover forestry)といった複雑な森林を作っていく施業も取り入れている。日本でも皆伐以外の選択肢を模索している例もあり(例えば、梶原幹弘 2020 ; 水永ら 2022)皆伐以外の選択肢も必要なのではないか?

最後に、それでも皆伐をするならと前置きし、植生保護柵の意味とコストについて言及した。前の演者2人はシカの侵入を防ぐ柵のことを防鹿柵や防護柵と呼んでいた。これは林業的に植えた木を守るという意味が強い。しかし、それだけではなく、植生を保護しシカに餌を提供しないことが重要ではないか。林業がシカを増やしたと言われないために、シカの生息地管理としての「植生保護柵」を考える必要があるだろうとし話を結んだ。

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(写真)長池卓男氏(山梨県森林総合研究所)

総合討論

3氏の話題提供のあと、櫃間岳氏(森林総合研究所植生研究領域)の司会で総合討論に入った。皆伐をしてシカは本当に増えるのか?皆伐以外の選択肢として択伐を選んだ場合の具体的な施業方法は?といった科学・技術論的な議論も多少あったが、大部分はシカを減らすにはどうすればよいか?人口減で高齢化が進む現代でシカを減らすことは困難だろうという話や、明石氏が問題提起しした地域づくりや社会的な仕組みの問題から誰がシカの個体数管理を担うのか?という、森林施業の技術論から離れた議論が多かった印象をうける。林業以外でも生物多様性や環境保全の面からシカの存在を考える必要があるだろうという話から、ネイチャーポジティブに興味のある企業が増えている中で民間企業からお金を持ってくることもできるのでは無いかという議論も出てきた。こうした議論が展開されるなかで、現場の施業技術だけで解決するのは困難ではないかという意見も出てきたが、最後に代表の小山氏から、そうした社会的流れは意識しつつ、企業や経済事情に泳がされず、常に技術論を大事にしていくことも大事だと考えている。様々な意見を取り入れつつ議論を続けていきたいとして閉会した。

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(写真)会場の様子

 

施業研究会に参加して

野宮治人(森林総合研究所九州支所)

研究会には久しぶりの参加でしたが「シカ害をどこまで容認するか?」というテーマは、自分も常日頃から意識しているので楽しみにしていました。

発表者の講演内容についてはシンポジウム記録にまとめられるだろうから詳細な言及はしませんが、山川さんが発表されたDIScoでシカ被害の大きさを精度良く予測できれば、柵の要不要や保守管理の頻度を判断できることに有用性を感じるし、これからの精度向上や普及にも期待しています。明石さんは以前から全道の膨大なデータからシカ被害の空間分布を可視化されたり、ツリーシェルターの導入初期から試験をされたりと非常に参考にさせてもらっていますが、発表を聞いて「北海道は広いし人が少ないし、九州とは全く別規格だなあ」と再認識しました。ただし、幹直径5cmまでの個体に対する角擦り被害への対策は、九州でも無視できない造林地が少なくないので同じく頭の痛い問題です。長池さんは、皆伐のインパクトを小さくすること、植物の多様性(ひいては生物の多様性)を担保する植生保護柵でしっかり守ればシカを増やさないですむのでは?ということを主張されたと認識しましたが、漠然とした問題提起で発表を終えて総合討論に入ったので、ここを起点にして議論を進めていきたいのかなと感じました。

総合討論では、長池さんの主張に対して伊藤先生が「技術論は?」という問いかけをされたので、具体的な話しに進むかと期待しましたが、議論が「ネイチャーポジティブをテコにして、もっと公的なお金を引っ張ってこれないか?」という方向へ進んでしまったのが、個人的興味からは少し残念でした。(もちろん、その議論も必要です。)明石さんの発表にあった「人がいない」「お金がない」というところにインパクトがあったので、それに引っ張られたのも仕方なかったかもしれません。

話しを元に戻して、長池さんは「柵を作ったらシカを中に入れないようにしよう」ということを言いたかったのではないかと感じました。柵が機能するためには、柵を設置して終わりでなく維持管理が必要であることは誰もが知っていることではあるけれど、有効な維持管理を実施できている箇所は少ないのが現実だと思います。そのため、山川さんが紹介した2020年のパンフレットでは「柵は壊れにくい場所かつ維持管理が容易な箇所に設置しよう」という提案をしています。会場では発言しませんでしたが、折角なので関連して少し意見を述べさせてもらおうと思います。

シカを柵内に侵入させないためには、ネット目合いを5cmにしてL字張りにしてはどうでしょうか?これは三重県の森林整備センターが実施しているシカ柵を倣ってのことです。2020年のパンフレットで提案したように、柵は張り易くて見回りをしやすい箇所に設置されていて、残りの林地は単木保護資材で対応されていました(写真参照)。結果的に林地の中に複数の柵を設置することになり、パッチディフェンスのようになっていました。5cm目合いの利点は、ノウサギが侵入しないことに加えて、シカが首をつっこまないことです。九州ではネット目合い10cmが標準ですが、柵の内側に茂った植物を食べるためにシカが頻繁に首をつっこむし、角が少し伸びた若い雄ジカがネットに絡まって死んでしまうこともしばしばです。シカが絡まると柵は壊れてしまい、補修が遅れればシカの侵入を許すことになります(錯誤捕獲個体の除去や柵の補修も大変です)。三重県で見た5cm目合いの柵の内部では、キイチゴをはじめとした雑草木がびっしりと繁茂していましたが、ネットの外には一枝も出ていませんでした(写真参照:"一枝も"とは言い過ぎか)。L字張りしたネットの上にも、その外側にも、シカの食べそうな植物はほとんど見られなかったことから、柵外でのシカの採食圧は大変なものだと推察されます(実際、柵を見学して帰る少しの間で、昼間なのに10頭ほどのシカを見ました)。5cm目合いのネットだと資材費が高くなることに加えて資材が重くなるので簡単に採用できないかもしれないですが、柵が壊れにくくなる(=柵内が守れる)のであれば、確実に守りたい林分では目合いの変更を検討すべきではないでしょうか?

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(写真)シカ柵が設置された造林地の様子

※ 最近では「どうやって守るか」ということに限界を感じています。今後は「シカを捕獲しながら守る」ことが必要かもしれません。
 

喰われることを前提にすれば

小山泰弘(長野県林業総合センター)

シカ害をどこまで容認するのか?というタイトルを提示したシンポジウムであったが、その解が得られたのか?と主催側の一人として思い返してみれば、総合討論の主役が「個体数調整は森林管理の一つである」との見解が主役の座を占め、「どこまで容認」の声は聞こえてこなかった。

この主題に対して、宮崎大学の伊藤先生から「面積と経済性に関する具体的な技術はあるのか」と極めて明瞭な「問い」が出されたが、残念ながらその解につながるヒントが出ることは無く、私としてもそこへの意見が出るのではと期待したのだが、残念だった。

ま、100名を超える参加者が集結したシンポジウムの席で、コメントをするのは難しいという事情もあるが、私としてもこの点は議論したかった。その意味で、私自身が「マクロの個体密度とミクロな個体密度との間には大きな差があるので、地域の個体数が多いとしてもほとんど来ない場所がある」と発言したのは、「ミクロな個体密度が低い原因を探ることで、林業ができる条件が見つかるのではないか?」と思っているからであったのだが、やはりシカは何が何でも減らさなければ、技術論では語れないと言うことなどだろうか?そうなれば、施業研究会が取り組むべき課題なのかどうかすら悩ましい話。

仮に「持続可能な林業が実現するためには、木を伐るとか植えるとかではなく、シカに消えていただくこと」が唯一の解だとすれば、会の方向性を見直さなければならない。

私自身は、古くさい研究寄りの技術者なので、「それでも何とかあがけないか」と調査を続けている。幸い、シンポジウム終了後に参加者の一人から、豪雪地では柵が作れないけど、クヌギの原木生産を続けるための方法はないのか?と尋ねてきてくれた。

その瞬間、本県で杭材生産のためにカラマツの密植試験を行っている話を思い出した。杭材生産を目的とすれば、高密度植栽が最適ではないかとして、喫緊の情勢に反した高密度植栽を行っているのだが、この試験地でニホンジカの食害を受けたときに議論になった。試験地の管理をしている現地の普及員からは「試験成績を明らかにするためにも忌避剤を塗布するか、柵を設置したらどうか」と言われた。とはいえ、試験地外ではニホンジカの食害は当然のように起きているため、私は「被害を含めてそのまま置いておき、利用可否まで分析すべき」と提案し、今のところ獣害対策をしていない。

獣害対策を提案しなかった最大の理由が伊藤先生の言われた「経済性」の論点である。当日の発表で北海道の明石さんが言われたように、カラマツはニホンジカで枯れることは少ない。獣害の防除費用と苗木の植栽コストを天秤にかければ、植栽コストが下回る可能性はある。私自身が「経過観察」を謳った背景には、こうした視点があった。

この試験の成果は、まだまだ出せるものではないけれど、「シカが居ることを前提とした林業」では、こうした全く異なる発想を持つ必要があるのでは無いか?シンポジウム終了後のふとした疑問から生まれたこんな話題が、「シカの存在を容認する林業」の入口になればと思っている。