Newsletter of the Forest Management and Research Network
TOPICS
・誌上討論:保持林業の展開にむけて
小山泰弘(森林施業研究会・代表)
先日発刊したNewsletter No.77で、現地合宿で感じた「保持林業とは「林業」なのだろうか?」とする感想として提出させていただいたところ、合宿を運営していただいた山浦氏から「代表のコメントとしてはいかがなものか」とご指摘をいただきました。
確かに、私自身は2020年のコロナ禍より代表を務めておりますが、本感想は「代表」としてのコメントとして記載したつもりはなく、喧々諤々で進められた合宿全体を眺めた中での個人的な感想であったことは間違いありません。仮に組織代表のコメントであると受け取られたのであれば、申し訳なく思いますが、山浦氏から本会に向けてコメントを頂けたことは、本会が目指す「森林施業の活性化と適切な森林管理の普及に貢献」する良い機会だったと感謝しております。
近年の各種学会誌や報告書・雑誌類で、異論や反論が掲載されることは少なくなっています。様々な事情があると思いますが、私たちが取得したデータを基に執筆した論文は、傍から見れば不備がある可能性は秘めています。特に私たちが相手にしている森林が数百年の単位で変化していく事を考えれば、どんなに頑張っても数十年しか研究できない私たちが、いくら最善を尽くしたとしても違和感を持たれる可能性は当然でしょう。
私たちが毎年現地合宿を続けるとともに、白熱した議論で時間が足りなくなるシンポジウムを続けているのは、企画側の想いを布教するためではありません。正解がわからないから、現場で議論し、幅広い声を受け取るために森林学会の関連集会という場を利用してシンポジウムを開催し続けています。
なかでも現地での合宿は、森林に興味・関心を持つ幅広い方と現場を歩き、幅広い視野で森林に接することを主眼としています。だからこそ、現場で違和感を持つこともあるのが当然だと思っています。その違和感の一つとして、私が感想を述べたことに対する山浦氏から頂いたコメントを、Newsletter No.77に対する誌上討論という形で掲載させていただきます。
こうしたコメントのやりとりをご覧の皆様からすれば、「そんな議論に参画できない」と尻込みをされ、合宿やシンポジウムの報告や感想を提出するのが恐ろしく感じてしまう方もいらっしゃるのではないかと思います。ただし、現場を見て感じた「ちょっとした違和感」というのは、同じ事を繰り返すことが難しい「森林管理」を考える上では、とても大切な視点だと思っています。
今回、紙上討論を行うことに対しては、関係者の中でも様々な意見がありましたが、せっかくの機会だからと紙上討論の場を設けることとしました。今回の合宿報告から紙上討論までの一連の話題をご覧頂いた方の中で、「こうした議論が気になる」と思われる方は、ぜひお気軽に現地合宿へお越しいただき、ご自身の目線で「これは!」と思う「発見」や、「おやおや?」という「違和感」を持ち帰って頂くともに、私どもにも気軽に教えてください。
3月の学会にあわせたシンポジウムも開催したところですので、今後もこうしたコメントを頂きましたら、再び「誌上討論」を行うことがあっても良いかなあと感じているところです。
山浦悠一(森林総合研究所四国支所)
2024年の合宿の訪問先に道有林の実証実験地を選定するように働きかけたのは私である。改めて、森林施業研究会の執行部、そして主催者側として合宿にお力添えをいただいた尾張敏章先生をはじめ東大富良野演習林、道総研林業試験場、森林総研北海道支所の方々には心からお礼申し上げたい。林業試験場の明石信廣氏には、タイムスケジュールや車割など、合宿全体を取り仕切っていただき、北海道支所の山中聡氏や河村和洋氏にはしおりの作成や工程管理を担当していただいた。皆の協力の下、合宿を無事に遂行することができた。
さて北海道合宿のレポート(Newsletter No.77)の最後、小山氏の感想には、実証実験の発案者の一人としてコメントしておきたい点がいくつかある。二日間の合宿でこの点を直接議論できなかったのは残念であるが、短期間の合宿中にすべての論点に触れるのは困難である、とも言えよう。現段階で私からこれらの点に関してコメントすることは、今後の保持林業の展開にとって意義があると考えた。発言の場を与えていただいた森林施業研究会の執行部には感謝申し上げる。本コメントが、道有林ではじめた保持林業について、理解を深める機会になれば幸いである。
私たちはもともと、主伐時に樹木を残す現地での施業を「保残伐施業」と呼んでいた。しかし書籍「保持林業―木を伐りながら生き物を守る―・築地書館」を執筆する際に、「保残木作業」との混同を避けるため、別の単語を当てた方がいいという指摘があった。そこで皆で議論した後、retention forestryの直訳として保持林業を当てることになった。この経緯は書籍の「おわりに」で記しており、ウェブサイトにも掲載されている。
それではretention forestryや「保持林業」は何か、ということになる。書籍の「はじめに」では、「森林を伐採する際に樹木をすべて伐採せず、一部をその後の生物多様性や生態系の回復のために残すのが保持林業(retention forestry)である」としている(同上のリンクからも辿れる)。初日夜のセミナーでの私の発表スライドの9ページでも、「森林の伐採時、樹木を残して保全を図る」のが保持林業としている。
このため、保持林業は「なりわい」を意図して当てた単語ではない。ここに誤解がある。もちろん、保持林業を今後展開していくにあたり、経済性を顧みなくていいというわけではないし、むしろ今後の重要な課題である。したがって、小山氏の問いはこの点について先取りしたものともいえる。
ただし、小山氏は上記の問いに至った第一の理由は、なぜ広葉樹を残したのかが明示されなかったため、としている。
この点は明確に反論しておきたい。初日のセミナーの私のスライドの14ページで、「日本で何を残すか?~針葉樹人工林における広葉樹の役割~」と題し、なぜ広葉樹を残すかについて説明を行なった。実際、時田勝広氏のレポートでは、「日本ではどの樹種を残すのか?山浦氏は広葉樹の重要性を思った。それは,樹洞ができやすいこと,昆虫が多いため鳥類などの利用を受けやすいためである」とされている。
この点で、小山氏の上記の指摘は事実誤認である。ただし、小山氏から本件に関して、「現場でそのように感じてしまった」、とのコメントを後日頂いた。確かに二日目の現地視察では「なぜ広葉樹か」という点に関して、そこまで踏み込んで説明できなかったのかもしれない。しかし広葉樹を残した点に関してはこの実験の肝要であり、再度ここで強調しておきたい。
また、セミナーの私の発表では時間の関係から論文一本しか紹介できなかったのが悔やまれる。単一樹種からなる単純なモノカルチャー人工林は木材生産以外の生態系サービスが一般に低く、攪乱に対して脆弱という点から、複数の樹種から構成された人工林や多樹種植栽、そして保持林業が注目されている。私たちの実験で広葉樹を残した理由の一つがまさにここにある。チリでもニュージーランドでも、著名な海外の人工林林業地帯で大きな変化が起きようとしている。
さらに2016年にScience上で発表された、国家森林インベントリデータを用いた論文では(Liang et al. 2016. Science 354:aaf8957)、森林の樹木の種数がバイオマスの生産性に与える影響は上に凸と示されている(種数が少ない時ほど種数の増加の効果が大きい)。この結果を受けて論文では、商業林における樹木の多様性の重要性が指摘されている。なおこの論文では、日本の膨大なデータが使用されており、データポイントで日本地図が描かれているほどである。
私の生産目標や目標林型に関する知識不足が原因で、二日目のセミナーの質疑で明確に答えられなかったことが原因だと思われる。しかし、私は「次回も標準伐期で伐採し、標準的な人工林管理を行なう」と考えており、当日はそのような趣旨の発言をしたつもりである。実際、保持林業のプロジェクトのホームページでも、「伐採の1年前から調査を開始し、1伐期(約50年)の継続調査を目標にする」と明記している。
場当たり的に実験や施業を行なっているつもりでは全くない。
なお小山氏は、haあたり50本(中量保持)、あるいは100本(大量保持)広葉樹を保持したサイトをご覧になって、今後の植栽木の成長を心配された故の発言なのかもしれない。この保持木のレンジ(皆伐~100本/ha保持)は海外の実験を参考にして決めたものでもある。実際、保持林業を実践していく際の現実的な本数としては、50本よりも少ない本数になっていくだろう。しかし、だからといって少ない本数だけで実験をした場合、「もっと本数が多くなければ伐採のインパクトを抑えるためには不十分である」、というようなことが明確に言えなくなる(コウモリの結果で端的に示されている)。中量保持や大量保持のサイトは実験としてあえて設定したのであるが、この点はセミナーや現地視察では明確に触れていなかったかもしれない。ここで言及しておきたいし、書籍第5章の中段でも明記しているので参考にされたい。また、6月に出版予定の新著(実証実験・保持林業―広葉樹を残して生き物を守る―・築地書館)の第1章では、大量保持区だけではなく、伐採しない対照区を含めて伐採年前後で調査を行なった理由、すなわちBACIと呼ばれる実験デザインについて詳述している。
人工林は日本の森林の4割を占める。毎年多くの人工林が各地で皆伐され、再び同じ樹種が植栽され、個性のない人工林が再生産されている。この広い人工林の将来を考えた際、果たして拡大造林期と同じ施業をこのまま続けてよいのだろうか?
私たちは道有林課と森林室にお願いし、地利のいい場所で実験を実施している。目指すのは木材生産と生物多様性保全の同一林分内での両立で、森林・林業・木材の社会的価値の向上である。まずはhaあたり10本の高木性広葉樹を残す、スウェーデン型が初めの第一歩になるのかもしれない(この考えに至ったのも、中量・大量保持区を設けて調査することができたためでもある)。セミナーで紹介した高知の事例はこの方針で進めている。皆伐再造林の単なる拡張という謗りは免れないだろうが、皆伐再造林が定着した日本では、それでも大きな第一歩である。実施しやすいという長所に注目しているのである。
なお、保持林業の生産目標や目標林型に関しては、セミナー後に有志の間で議論を行なった。また、藤森隆郎氏から書籍出版時の書評でまったく同じ指摘を受けていた。この点に対応すべく、新著の「はじめに」ではイラストを用いて示す予定である。しかし、こうして分かりやすい形で保持林業を多くの人に伝える努力をする一方で、「型にはめる」リスクを感じないわけでもない。保持林業は北米でvariable retention harvestingとも呼ばれ、状況に応じて伐採(保持)方法を柔軟に選択することの意義が強調されている。これは現場を担当する技術者の創意工夫ともいえるかもしれないし、まさに林業を実践する愉しみともいえるかもしれない。人工林といえども、環境や来歴によって樹種の構成は大きく異なるし、いろいろな保持林業があっていいだろう。
さてここで、私がなぜ森林施業研究会の合宿先に実験地を選定するよう依頼したのか、振り返ってみたい。第一の理由は、本州以南で保持林業に関心がある人に現地視察の機会を提供できてこなかった、というものである。3月の森林学会全国大会時に当地は雪に閉ざされている。春から秋にかけて、とかねてから思っていたのだが、北海道での関連イベントもなく、時間ばかりが過ぎてしまった。そしてもう一つの理由は、造林分野の専門家に当地を訪れてもらい、課題や希望について議論し、保持林業の将来の発展の道筋を描きたかったのである。保持林業の実証実験はこれまで生態学を専門とする研究者によって実施されてきた。しかし今後の展開を見るにつけ、造林分野の専門家との連携が必要なことは明らかである。
日本における森林・林業の価値や置かれた社会的な情勢、今後の行く末、保持林業のアプローチに関する価値観が――たとえ部分的にでも――共有できるようであれば、ぜひ保持林業の発展に力を貸して欲しい。保持林業は課題解決のために開発されたアプローチである。生産目標や目標林型を立てるためのデータの収集は継続している。そして生産目標や目標林型の明確化が対話のために必要なのであれば、ともに考えて歩んで欲しい。世界各地で研究や実践が活発に行なわれているのを傍観する側ではなく、日本は分野を率先する国であって欲しい。少なくともこの点で施業研究会の諸氏は力になってくれるのではないか、という漠然とした期待があり、1年前の施業研究会の前夜祭に乗り込み、合宿先の選定を直談判したのである。
なお、小山氏の冒頭で記された「A Richer FOREST(豊かな森へ)」は、スウェーデンの環境保全型林業を分かりやすい形で紹介した名著だと感じており、ことあるごとに皆に紹介している。今や古本などでも入手することは難しい状況だが、多くの大学の図書館で閲覧できる。関心のある方はぜひ手に取っていただきたい。
長くなってしまったが、遠路はるばる北海道の現場に来てくださり、活発に質疑を交わしてくださった各氏に改めて深く感謝したい。