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木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.77(後編) (2025年3月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

前編はこちら(NewsLetter No.77 (前編)

森林施業研究会「北海道合宿」レポート2

時田勝広(北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場保護種苗部)

2024年10月28日

新千歳空港集合

見学地①:安平町の道有林:北海道胆振東部地震被災地

解説:平成30年9月6日未明,北海道胆振地方中東部を震源とする最大震度7の大規模な地震(平成30年北海道胆振東部地震)が発生した。この地震により,北海道勇払郡厚真町,安平町,むかわ町を中心に斜面崩壊が集中的に多数発生した(小山内ら 2019)。今回は安平町の崩壊地にカラマツの植栽を行った場所を見学した。カラマツにエゾシカの食痕が多数見られた。
配布資料:小山内信智ら(2019)平成30年北海道胆振東部地震による土砂災害.砂防学会誌.71(5),p.54-65.

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斜面崩壊跡へのカラマツ植栽

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エゾシカの採食を受けながらも成長するカラマツの植栽木


東京大学北海道演習林セミナーハウスチェックイン

セミナー第1部:「保持林業を理解する」

①保持林業実証実験の経緯:土屋禎治(北海道庁)
道有林では2013年に「公益性を全面的に重視する森林の整備」が打ち出された。そこで行政側と研究者のニーズを合わせて本実験を設定した。そこには景観生態学の視点が必要だった。近年の新たな課題は,①国産広葉樹の需要増加;人工林内に侵入したシラカンバなどを利用しようという取組みが提唱されていること,②保持林業の効果検証および技術としての普及である。

②保持林業と実証実験について:山浦悠一(森林総研四国)
現在は生物多様性保全を官民ともに考慮しなければならない時代である。しかし保護区アプローチには限界がある。先進国スウェーデンでは,全ての森林所有者は保持林業を課せられている。日本ではどの樹種を残すのか?山浦氏は広葉樹の重要性を思った。それは,樹洞ができやすいこと,昆虫が多いため鳥類などの利用を受けやすいためである。そして,高知県でも保持林業を試行している。

セミナー第2部:一般発表

③外来早成樹林業地の生物多様性を修復するポスト経済成長社会の森林管理モデル:時任美乃理(京都大学)
ベトナムでは1990年代以降,アカシアなどの早成樹林が拡大している。チップ生産目的で概ね5年サイクルの皆伐を繰り返すため,環境の劣化が進む。そこで,保持林業を試験的に導入し,生物多様性を回復できないかと考えた。

④天然更新補助作業を起点としたカンバ林施業の可能性:吉田俊也(北海道大学)
「かき起こし」はササを重機で根ごと剥がし更新を補助する。表土を残すかき起こしを試行した。この方法で更新したカンバ林を除伐し回帰年40年程で回すことが経済的に可能ではないかと考えている。

⑤スギ人工林における下刈り省略と課題:山川博美(森林総研九州)
下刈りの省力化を目指した一連の研究成果が発表された。


2024年10月29日

見学地②:深川・芦別市の道有林:保持林業実証実験

解説:2013年から北海道水産林務部,北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場,森林研究・整備機構森林総合研究所北海道支所,北海道大学農学部の共同により,道有林において保持林業の実証実験が開始された。保持林業とは,主伐時に一部の樹木を残して複雑な森林構造を維持する伐採方法により,皆伐では失われる老齢木,大径木等を将来的に確保し,多様な生物の生息地としての機能を維持する森林管理の方法である。開始から10年間の成果を見学した。
配布資料:2023年7月-2024年8月 保持林業の実証実験 研究者グループ.木材生産と公益的機能の両立を目指した保持林業の実証実験.
森林研究・整備機構ホームページ:https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/refresh/index.html

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群状保持区(中央の0.36 haを保残)

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単木保持区

セミナー第3部:「北海道合宿をもう少し深く理解する」

⑥保持林業実証実験結果から:山中聡(森林総研北海道)

⑦東京大学富良野演習林で学ぶこと:尾張敏章(東京大学北海道演習林)

セミナー第4部:一般発表

⑧スキー場跡地造林への取り組み:中井照大郎(GREEN FORESTERS(青葉組))

⑨スギ花粉の増産手法の取組み:牧野吉成(富山県森林研究所)


2024年10月30日

見学地③:東京大学北海道演習林:林分施業法

行程と解説:
①森林資料館見学
森林管理の拠点となる「布部作業所」として1921年に設置され,1927年に「麓郷作業所」へ改称された。1982年には作業所としての役割を終え,1999年に「麓郷森林資料館」へと生まれ変わった。

②前山長期生態系プロット(非施業林)
1992年に36.25 haのプロットが設定された。50 m四方の区画に区切り,太さ5 cm以上の全ての樹木個体の直径を測定している。5 cm以上の毎木調査をしている日本で最も大きな森林調査プロットである。

③針葉樹択伐林(施業林)林分施業法の手順説明
森林は,その存在自体から生ずる環境保全の公益的機能と,木材など林産物の産出という経済的機能の2つをあわせ持っている。各々の機能は森林の構造によって異なり,また私たち人間が森林をどう取り扱うかによっても変わってくる。正しい森林管理を行えば,二つの機能とも将来に向かって増進するはずだと,「林分施業法」では考えている。(「森林施業研究会」日程・資料集,「林分施業法とは」より抜粋)

④疎生林植栽地+樹冠下地がき 更新補助作業
北海道演習林の択伐林は約7,500 haあり,施業対象となる森林の約4割を占める。これら択伐林のおよそ半分は,更新不良の状態である。更新不良林分の多くの林床はササが繁茂し,エゾマツの倒木更新も困難である。そこで,小面積の群状択伐と樹冠下地がきによる更新補助作業を取り入れている。

⑤直営生産現場 素材生産作業 素材評価
北海道演習林では,近年,年間約2万~3万立法メートルの木材を生産しており,9千万円前後の収入を得ている。このうち,演習林職員が玉切りからはい積みまで行う「素材販売」の現場を見学した。

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はい積みされたシナノキ

⑥人工林の混交林化
1981(昭和56)年8月23日15号台風により大規模な風害が発生した。被害面積は8,735 ha(北海道演習林森林面積の約40%)だった。激害地3,100 haのうち,立地条件が良く更新不良地約1,000 haに補助造林を実施する計画とした。今回,台風から43年経過したトドマツ植栽地を見学した。侵入広葉樹に被圧され,トドマツの成長は低調だった。

⑦広葉樹優良木の単木管理
北海道演習林では,各種優良木等を以下のようなカテゴリーで個体管理をしている。
(ア)    保存木・プラス木
(イ)    優良広葉樹登録木
(ウ)    銘木販売候補木
(エ)    ミズナラ優良木
2022年1月に旭川市で開催された第452回北海道銘木市売で,ウダイカンバの丸太(長さ11.2 m,末口直径60 cm,材積4.516 m3)が税込み総額770万円で落札された。この金額は北海道演習林における1本の丸太販売額の最高記録だった。ウダイカンバは枝枯れ率が95%程度の衰退した状態で伐採すると,材に赤みがあり高値となるとのことだった。

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ウダイカンバの単木管理

 

現地検討会(北海道合宿)の感想2

施業研究会合宿に参加しての感想

持留 匠(京都大学大学院農学研究科森林科学専攻森林利用学研究室 博士1回)

保持林業は,大面積皆伐・一斉人工造林を行う伐採地において,生態系へのダメージを和らげるために,一定の本数の木を残すというアイディアだ。鳥や徘徊性昆虫への保全効果は,少量保持するだけでも大きいことがわかってきた。技術的なハードルも,搬出間伐に比べれば低いといえる。保持林業は,撹乱の規模も強度もとても大きい大面積の皆伐作業において,良いオプションだ。
保持林業は1つの林分に同時にいくつもの機能を期待するLand share型の管理である。その一方,地域内で木材生産と保全の場を空間的あるいは時間的にずらすことで,地域全体で生態系の機能を期待するLand spare型の管理も考えられる。しかし例えば,所有者が複数いるような場所では,理想的なLand spare管理ができず,Land share型の利用を考えなくてはならない場面もあると思う。今回,施業実験が実現したことで保持林業というオプションを科学的に評価・検討できるようになったのは貴重なことだと思った。
一方で,現地見学では保持林業の難しさもわかった。1つめには,保持木の下で造林木の成長が阻害されることはないかという点。保持林業を行える造林樹種そうでない種があるのかもしれない。2つめは,保持林業という施業の終わりはいつなのか,という点。皆伐という強度な撹乱を保持木によって乗り切ったら,その効果は十分発揮されたと考えて他の林分と同じような扱いをするべきなのか,むしろ現在の保持木の助けも借りて,より多くの広葉樹の侵入を見込み,そのように数サイクル回すことで次第に天然林に似た森林を目指すのか。「皆伐再造林をしながら生物も守る」というLand share型の理念だからこそ,生産と保全のバランスを考え続ける必要が浮き彫りになる。

東大富良野演習林では,林分施業法が行われている森を見学した。1955年に施業法が定まってから,基本的な思想は変えることなく現在まで続けられている。
高橋延清先生は,林分施業法の立案にあたって,林分を仕分けするために林内を時間をかけて踏査した。すると,林分の種類は数多くあるものの,時間的な変遷を考え合わせると,いくつかの数少ないパターンに分類するできることがわかったという。恥ずかしながらこれまで,そのような時間と空間を結びつけた森の見方に思い至ったことがなかったので,目から鱗だった。こういった森の見方ができるのには,どれくらい時間がかかるのだろうか。これからは意識して山を歩いてみようと思う。
広大な演習林(2万ha)を対象に,林分の仕分け・蓄積の調査・単木レベルの選木・それらを可能にする路網の維持といった集約的な森林施業を,どうやって限られた労働力でこなしているのか,気になっていた。技官さんのお話を伺うと,(考えてみれば当たり前なのだが),毎年2万ha全域を対象にするわけではなく,設定された回帰年に当たるエリアでだけ調査・伐出を行うということだった。森林は畑とは違って,年単位で放っておける期間があるのは良いことだ。拡大造林のような例だと,ある時期はどこもかしこも植栽,別の時期には至る所で間伐というように作業の種類が時間的に偏ってしまうが,択伐がされてきた森林は,作業量・種を平準化しやすいという利点があることに気づいた。
もう一つ知りたかったのは,林分施業法を実行する技術者はどれほどの時間をかけて施業,特に選木を習得できるのか,という点だった。技官さんによれば,意外にも,5年もすればある程度選木はできるようになるという。pre-climaxという目標林型が決まっていて,収穫量は成長量調査をもとに皆で判断するという大枠のプロトコルを決めたことが,林分施業法を実践可能なものにしたのではないかと思った。

今回2つの,それぞれに思想のある林業を見学することができ,とても興味深かった。2つは,全然違う林業であるけれど,2つセットで見ることで考えられることも多かった。たとえば保持林業で思いがけず現れた林分の未来を知るために,林分施業法の林を訪ねるといったことが有効だと思った。
開発した施業法が実践されつづけるかどうかを決める要因には,もちろん社会情勢,政策,市場,管理主体の変化といった外的なものが多いと思う。しかし,その施業法そのものがもつ魅力があればこそ,外圧にまさって続けたいというモチベーションが働くのではないだろうか。富良野演習林にはたくさんの仕事があるが,やはり林分施業法を担当したいという技官さんが多いそうだ。保持林業の,生物も守りながら木材を使うという思想によって,関わる人がより誇りを持てるような林業が育っていけば良い。


施業研究会合宿に参加しての感想

中井照大郎(株式会社GREEN FORESTERS)

今回の研修会に初めて参加させていただき、多くの方々の貴重なお話や研究成果に触れることができ、とても充実した3日間となりました。この場を企画・運営してくださった皆様に心より感謝申し上げます。

これまで「保持林業」がもたらす効果やその重要性について実際に現場をみる機会はありませんでしたが、今回の研修を通じて、生物多様性の保全や地域の林業への新たな可能性について理解することができました。特に、現地で実際に保持林業のスケール感を体感することで、書籍や文献だけでは得られない具体的なイメージを掴むことができました。

また、参加者の皆様との意見交換を通じて、本州の林業現場で収益を兼ねた保持林業をどのように実践していくかという課題が浮き彫りになりました。スギやヒノキの人工林が多い中で、どの樹種を残せば効果的なのか、そのポイントを共有し、地域の森林組合や林業事業体と協力体制を築くことの重要性を再認識しました。

研修中に挙げられた事例も大変参考になりました。例えば、伐採後の造林現場において落葉広葉樹を残す工夫をすることで、越冬期には生物が利用する場を提供できる可能性を生む小さな工夫が生物多様性に寄与し、森林管理に新たな価値を生み出す一歩になると感じました。

一方で、まだまだわかっていないことも多いという点でも勉強になりました。スギ単純林しかなく広葉樹もない現場でスギ枯損木や劣後している杉を残すことのインパクトがどの程度あるのかなど、また、どういう場合であればどの程度どのような価値が生まれるのななど、今後、我々としても研究においても価値があるような作業を行っていきたいと感じました。

このような貴重な学びの場を提供していただいた皆様に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。


保持林業とは「林業」なのだろうか?

小山泰弘(長野県林業総合センター)

1997年に日本語版として「A Richer FOREST  (豊かな森へ)」が発売されたとき、ブナ林の研究を始めたばかりだった造林学に造詣が浅い当時の私は、「これからの森林づくり」の一つの方法として非常に興味深く感じていた。
その後、縁あって森林施業研究会の合宿に参加するようになり、2002年の笠間合宿において、谷部は渓畔林として管理し、尾根部に広葉樹を誘導しながら、斜面中部では針葉樹林施業を行う大沢国有林を見学させたもらったのだが、その時のモデルにしたのが、この「A Richer FOREST  (豊かな森へ)」本だったと記憶している。

なぜ、こんな話を枕にしたのかと言えば、「保持林業」を紹介するスライドで「A Richer FOREST  (豊かな森へ)」投影されたことに他ならない。日本語版の「A Richer FOREST  (豊かな森へ)」が「保持林業」の名の下で、日本版「A Richer FOREST」を事業として実施したのか!との期待が高まる中での現地であった。

現地での感想をひと事で表せば、表題の通りである「これは林業なのだろうか?」。

生物多様性のために枯木を遺すことの是非を問いたいわけでも、生きても死んでも良いから広葉樹を遺すという施業が「良い」とか「悪い」とかを論じるつもりはない。
それは、あくまで「手法」の話であり、現場ごとに取り入れる手法は多様であって良い。

ただし、「広葉樹を遺した理由」が不明なこと(残存本数しか示されなかった)と、植えたトドマツの使い道(生産目標)が示されなかったことに尽きる。

今回の現場が山地保全のための「森林管理」であれば、森林にすることが目的となるため、生産目標を定める必要はない。でも、あえて「保持林業」・・・つまり「林業」を謳っているのである。
林業を謳いながら、生産目標が存在しないというのはどういうことなのだろうか?

農業で考えれば、太い根を食べるためにダイコンを植えるのであり、コメを食べたいから田植えをするはずで、植えるときには生産すべき目標があるのが、「なりわい」ではないのだろうか?
だからこそ、ダイコンは間引きをするし、コメは水の管理を怠らない。
その生産目標を達成しながら、生物多様性への配慮や、農薬を使わない配慮が存在することで、無農薬や減農薬、有機栽培など様々な栽培方法があるのだと思う。

林業現場で近年再造林が注目されているが、様々な場所で話をしていると、「なぜ?この木を植えているのか」がわからないまま、とにかく植えている事が多い。
低密度植栽であるとか、早生樹の導入だとか、下刈り軽減など、様々な手法が話題となっている昨今の造林だが、そこに「生産目標」の文字は躍らない。
今回主伐を行っている人工林が、植栽時の生産目標を失ったことで、管理が行き届かなくなり、慌てて主伐をしているのかもしれないが、このままでは同じ轍を踏むのでは無いかと心配している。

「保持林業」が、林業と生物多様性の両立という高い目標をたてて、何とか進めようと努力している姿勢は理解出来るが、このままでは、「伐採後の森林が再生しました」だけで、「業」にならないのでは?と心配してしまった。

今回の合宿では、幸いにも東京大学の北海道演習林を見学させていただき、「売るために育てている」姿を見ることが出来たことで、「A Richer FOREST  (豊かな森へ)」の実践例を見ることが出来たのはとても良かったのである。
 

前編はこちら(NewsLetter No.77 (前編)