木霊 (TARUSU)
森林施業研究会ニュ−ズ・レター 
No.18 2002.12.9.
Newsletter of the Forest Management and Research Network


苦行か、快感か、笠間合宿は無事終わる!

2002年現地検討会(笠間合宿)報告

谷口真吾(兵庫県森林林業技術センター)

 森林施業研究会の第5回現地検討会(通称:笠間合宿)は,平成14年11月6日_8日に茨城県笠間市などの国有林を舞台とする初の現地検討会が関東森林管理局東京分局森林技術センターと共催で開催されました。今回は,国有林(関東森林管理局東京分局森林技術センター)の森林管理の取り組みを中心に,「新たな人工林管理・施業」をテーマに開催されました。

 今回は,国有林の事業ならびにモザイク林造成,水辺林造成,集水域の生態系管理ならびに高齢級人工林など,森林技術センター(笠間)が取り組んでいる新たな森林施業の現場を現地見学し,その理論(考え方)と実践(技術)を検討しようと計画された合宿でした。施業研究会の現地検討会としては,初めて国有林が受け入れ先(共催)となり,国有林の施業を検討の対象とするもので,有意義な論議や情報交換ができ,大変に有意義な現地検討会でした。

 出席者は,60名であり森林総合研究所,大学をはじめ,行政,森林管理署および都道府県林業試験研究職員,学生が多数参加されました。

 11月6日(水)

 17時につくば市の「筑波ふれあいの里」に現地集合し,18時の夕食後,19時から2件の特別講演,21時過ぎから3件のセミナー発表があった。それらの講演の概要を記す。なお,初日の日程がすべて終了した10時30分頃から,プレ懇親会が開催された。

特別講演

(1)「霞ヶ浦の再生と森林」:飯島 博さん(アサザ基金)

 1995年より「アサザプロジェクト」による茨城県霞ヶ浦とその流域での環境再生事業に取り組んでいる飯島氏が講演された。このプロジェクトには地元の学校や市民などが多数参加し,霞ヶ浦流域全体を動かす市民参加の取り組みへと発展していく過程と現状が紹介された。

 霞ヶ浦の自然環境は利水治水を目的とした護岸工事と淡水化ならびに開発や汚水の流入によって損なわれてきた。こうした背景から,アサザプロジェクトは流域を視野においた環境保全策を実施することを目的として開始された。

 アサザプロジェクトは,大学研究者による助言をうけ,「生物多様性の確保」「湖の自浄力の再生」「流域管理の確立」「行政政策の統合化」などを掲げ,流域の様々な社会活動と作業,教育などとのネットワークによって活動を展開している。

 1.アサザプロジェクトの特徴は,多くの人びとや団体(行政:国土交通省と流域の市町村,企業:地元企業,漁協,市民:一般市民,小学校,大学,市民団体)などが協働して参加していることである。

 プロジェクトは湖岸の再生をアサザの植栽によって行うことを提案しており,アサザを育てる「アサザの里親」を公募している。これには流域にある167の小学校のうち,160の小学校がアサザの里親制度を取り入れている。これは流域内の9割以上の小学校が参加していることになる。アサザ基金は,出前授業をして,アサザプロジェクトの全体像とアサザを育てる意味を子どもたちに話す。その後,子どもたちは,アサザの種を植えて,苗を育てる。あわせて,小学校にビオトープを設置して,ヨシやガマも植えて,ミニ霞ヶ浦をつくる試みもしている。学校をターゲットにすることで教育効果もねらっている。

 2.アサザやヨシを霞ヶ浦の岸にそのまま植えても,高い波が押し寄せて流されてしまう。そこで粗朶(そだ)沈床を置いて波を抑え,植えると群落として生育した。材料として使う粗朶(そだ)は,流域の手入れがなされていない荒廃した森林で伐採された間伐材を使っている。

 アサザ基金が仲介役となり,河川管理者(国土交通省)と森林組合の協力で行われている。このように国土交通省による湖の再生事業が,林野庁がすべき森林の再生事業につながっているなど,行政と行政の間にNPO法人がはいることで相互にメリットを生む仕組みをつくった取り組みが紹介された。

 プロジェクトによって,産業と雇用を創出する効果がある点が大きな驚きであった。有限会社霞ヶ浦粗朶(そだ)組合は,アサザ基金が出資して設立された。粗朶沈床に使う材料を伐採している。このように,アサザプロジェクトは流域の人びとや団体を多く巻き込むことに成功した。

 3.プロジェクトによってヨシ原が創出されており,これを魚類の保護増殖の場として重視した漁協,茨城県も活動に積極的に参加をはじめている。

 4.アサザプロジェクトでは,水辺の自然復元の将来計画を,そこに暮らせるような鳥で描いているのがおもしろい。広いヨシ原が復元される10年後には,オオヨシキリがにぎやかにさえずるだろう。水辺の移行帯が再生する20年後にはカッコウやオオハクチョウの声が湖面に響きわたる。移行帯の幅が増し,その背後に水辺林が成立する30年後,晩秋の空には,ガンの仲間のオオヒシクイが数え切れないほど渡ってくるのが見られることだろう。そして植生がすっかり再生し,湖の周りの谷津田や斜面林も復元される40年後からあとは,復元の進行の度合いに応じ,野生復帰したコウノトリ,ツル,トキが湖面に戻り,人との新たな共生の歴史をつくりはじめる。そんな未来がプロジェクトの夢であり,目指す目標だそうだ。素晴らしい取り組みにエールを送りたい。


写真1 飯島博さん(アサザ基金)の特別講演

(2)「マルチキャビテイ・コンテナを使った苗木の育成法」:遠藤利明(森林総研)

 マルチキャビテイ・コンテナを使った苗木の育成法について講演された。

 1.マルチキャビテイコンテナ苗の特徴

 マルチキャビテイコンテナ苗は樹木のプラグ苗のことで,細長い栽培容器で育成し,培地内に伸長した根系によって培地を拘束したものである。マルチキャビテイコンテナ苗の特徴は,小型で軽量であるため育成,貯蔵・運搬,植栽の能率が良いことと,他の培地付き苗(ポット苗木など)に比べて根系の変形が少ないなどがある。

(1)小型軽量なコンテナ苗

 温帯の針葉樹や熱帯・亜熱帯での早生樹種用と用いられるマルチキャビティコンテナの育成孔の容量は,50_150cc程度,多くは80_100cc程度であって,この場合,根鉢の径は35_45mm程度,深さは100_150mm程度と,ごく小さなものである。また,広葉樹の場合も,150_250cc程度である。さらに,重量については,コンテナ苗の場合には,保水量と気相容量を同時に少ない容量で確保するため,孔隙率の高いピートモスなどの有機培地を常用するため,重量の大部分は培地に含まれる水分になる。したがって,重量は,その時点での保水量にもよるが,小さなものは20グラム,重くても100グラム以下という軽量なものである。

 コンテナ苗は,根鉢付き苗であるうえ,根鉢が小さく,細長いので,植栽が簡単である。特に土壌が膨軟で水分に富む湿潤温帯の林地においては,根鉢の形状をした小孔をつくり,そこに苗をはめ込むだけの非常に簡易な作業であり,このような孔を押し込み形成するディブルという道具や,くちばし状の先端を踏力によって開いて孔をこじあけ,上部の中空パイプから苗を落とし込む構造のプランティング・チューブが広く使用されている。プランティング・チューブをつかった場合には特に植え付け能率が良く,一人一日当たりの植え付け本数は一般に2000本とされている。

(2)コンテナ苗の根系の変形防止

 滑らかな内壁と平坦な底をもつ栽培容器(広義のコンテナ)で苗を育成した場合,内壁に沿って回転しながら下降する側根,底面で垂下を妨げられ底面上を蛇行する直根,内壁面に沿って回転しながら底面に達し底面の隅に沿って幾重にも回転する側根という,3つの根系の変形が生じる。第3にあげた変形は,ポットから根鉢を取り出した場合,よく目に付きやすく,広く認識されている。これらの変形は,樹種の特性に強く影響されるが,例えばマツ属の場合には,そのような苗の時の変形のまま肥大するため,植栽後太い根が幾重にも巻き付いたボール上の根塊を形成し,成育不良,風倒や根腐れの原因になる。

 他の樹種においても,程度の多少はあるものの,このような苗の根系の変形が長年にわたって成木に障害を及ぼす恐れがあると考えられる。

 マルチキャビティコンテナでは,このような著しい根系の変形をふせぐため,エア・プルーニング(空気根切り)を利用している。エア・プルーニングは,根が十分な通気性と体積を持つ空気層に到達した場合,根端を機械的に剪定されたのと同様に,伸長を停止する現象である。マルチキャビティコンテナでは,育成孔の内面に「リブ(肋骨)」と呼ばれる低く鋭い壁を垂直に配置して,側根の回転を止めるとともに,下方へ誘導している。底部は,根が止まらずに誘導される程度のすぼみ型か,すぼみ無しの,全開口あるいは培地の脱落を防ぐための粗いグリッドがはいっている。底面を空気層とするため,マルチキャビティコンテナは,育成時は中空に懸架する。

 直根およびリブに誘導された側根は底面に達すると,マルチキャビティコンテナ下方の空気層に触れ,根が「切られ」て,伸長を停止する。それとともに根元(つまり上方)で新たな分枝を発生する。新たな分枝はやがて同様に停止し,さらに分枝を生む。こうして,裸苗を地植え育苗するときの「根切り」作業と同様のことが自動的に行われ,培地内の根の密度が高くなるとともに,植栽後の根の伸長開始点となる根端が非常に多数形成され,根鉢のしまった良苗になる。

2. コンテナ苗の利用

 コンテナ苗の利用は,従来の裸苗や,ポット苗に替えて,作業の能率化や,ポット苗の根圏の根系の変形の問題を解消するというだけではなく,小型軽量で低コスト,また植栽が容易なコンテナ苗を導入することによって,造林や緑化における新しい手法を適用する可能性がある。まず,苗のコストが低く,植え付け功程が高いことから,haあたり5千本以上というような,より高密度の植栽が可能になり,これは,広葉樹林造成に特に有利と考えられる。すなわち,広葉樹は,裸苗生産が定着していないため,緑化種苗業界の生産するポット苗に広葉樹造林が頼っている現状にあるが,コンテナ苗による広葉樹種苗の生産が行われれば,数分の一の苗の価格と数倍の植え付け功程を生かして,従来と変わらないコストで高密度植栽が可能になると考えられる。

2.「森林技術センターの事業紹介」:石神智生(森林技術センター所長)

 森林技術センターの事業に関する講演であった。関東森林管理局東京分局森林技術センターは,平成7年3月に茨城県笠間市に設置された。森林技術センターでは,将来の人々に引き継ぐための森林環境の保全と森林資源の循環利用をともに実現させていく森林管理技術を探究する多様な林分管理手法の実験・評価を進めている。森林技術センターの技術開発は自主課題をはじめ,技術開発指針に基づき,開発課題を各大学や試験研究機関から広く募集し,共同試験として国有林を使用して技術開発を進めている。

 1.森林技術センターの技術開発指針

 森林技術センターの業務概要がわかりやすい資料によって説明された。森林技術センターはその位置する自然的立地条件および森林総合研究所等研究機関に近いという条件を生かし,特定区域内において3つの機能類型に応じた森林整備を確立するために(1)_(3)の目標を設定し,これらの目標の達成のため具体的に推進すべき森林の管理および作業について,(4)_(6)の共通目標を設定して試験林の設定等を進めている。

 (1)水土保全を重視した森林施業および保全技術の確立

 (2)森林と人との共生を重視した森林施業および利用技術の確立

 (3)資源の循環利用・有効利用技術の確立

 (4)森林管理の高度化・効率化

 (5)健全な森林の育成技術の確立

 (6)効率的で安全な作業技術の確立

 実証の場として,小集水域の生態系管理,水辺林の造成,林道の法面や路肩への広葉樹の導入,林床植生の維持,倒木・枯立木の確保など生物多様性の保全に向けた取り組みについて説明された。

 宿命として生態的な脆弱性をもつ針葉樹人工林において,多様な生態的機能,生物多様性を確保しつつ経営・管理するためには,生態系として森林の管理,すなわち「生態系管理」が差し迫った課題としてあり,景観ないし小集水域,あるいは流域といった空間スケールでの経営・管理が求められている。

 森林技術センターによって行われている針葉樹人工林の「生態系管理」の取り組みは,小集水域における管理(施業)区分による「景観モザイクの確保」と,木材生産林における人為的な撹乱体制(部分的かつ連続的な伐採,収穫)による「林分モザイク」の形成であるとの説明がった。

 この小集水域レベルでの森林管理と施業を通じ,「生態系」としての健全性と生物多様性を確保しながら,それらの機能を低下させることなく,森林資源の循環的利用を図ることを最終的な目的としている。対象林分の個別の目標にしたがって,生態系モニタリングを通じて絶えず施業の結果を評価し,施業計画や個別技術の修正・改善・適正化を行っている。

 個別の試験林等の設定は,上記の技術開発大目標の枠内で,研究者から技術開発課題(試験林設定提案,手法,想定される林分推移等)を募集し,しかるべき学識経験者等による審査を経て進めることになっている。また,技術センターが独白に設定した課題等についても学識経験者等の意見を聴いている。

 さらに,提案した研究者グルーブ等と協同で技術開発,試験林等の造成,維持管理を行っている。

 技術開発課題の試験地を設置する区域は,茨城県笠間市を中心とする茨城森林管理署管内の国有林で,提案された課題は森林技術センターにおいてヒヤリングを行い,「関東森林管理局東京分局技術開発委員会」において審議し,採否を決定します。採択されれば森林技術センターの技術開発実行委員会において業務の分担等,具体的な事項を協議調整し,共同で試験研究を進めていくシステムになっている。広く公募を期待したい。

セミナー発表

(1)帯状複層林の林縁からの距離の違いによる下木の成長と林床植生の変化

谷口真吾(兵庫県森林林業技術センター)

 帯状複層林における植栽木の成長過程,光環境,生物多様性を議論するため,帯状複層林の残存林帯の林縁からの距離別に植栽位置の光環境,植栽木の成長,林床植生の種数と量を調べ,近隣の一斉林と比較した事例報告を行った。その結果,帯状複層林に植栽したケヤキ,スギ,ヒノキの成長量(樹高,胸高直径)は,植栽位置による光環境(日射量)の違いに影響されて成長が不揃いになり,この影響が毎年の成長差に反映され,成長差が生じた(伐採帯の中央部付近で大きく,残存林帯に入るにつれて次第に小さくなった)。

したがって,帯状更新地の植栽は光環境の良い帯幅の中央に集中して植栽する必要があり,ケヤキは帯幅の中央を中心に53%のエリア,スギは88%,ヒノキは85%までのエリアに植栽すると成長長が低下しなかった。また,帯状複層林の林縁付近の植生種数・植生量は皆伐帯中央部なみに増加した。

 これらのことから,スギ一斉林を帯状複層林に誘導する場合,スギ林の種多様性の回復に林縁からの距離と小面積の皆伐の効果が大きく,林縁は林床植物の種多様性の増強効果が高く,帯状伐採などの大きな林冠の疎開を生み出す施業が必要であると考えられた。帯状複層林の特質として,多くの林縁を有するという構造が林内の林床植生の成立にとって非常に有効であり,その生物多様性保全機能が高いものと考えられる。

 今後の問題点として,帯状の列の幅(樹高との関係)と帯の方向(方位)の違いによって,林内の日射量がどのように変化するのかの課題が残っている。「線的な更新面を帯状の更新面に拡大し,伐採跡地に更新樹を導入して,持続可能な森林経営のできる伐採・再造林」につなげていけるように今後とも調査する必要がある。

(2)ヒノキ_ヒノキ二段林の上木皆伐に伴う下木の損傷事例

中田理恵(静岡県林業技術センター)

 上木ヒノキの樹齢64年生(270本/ha)の短期二段林施業において,上木の皆伐前に上木の樹高の約80%までの高さを枝払い後に上木を伐倒した。これらの一連の作業の功程,上木伐倒の際の下木に対する損傷状況を調査した事例が紹介された。1日の労務時間を6時間として,上木の枝払いを約18m程度枝払いする作業で5.64m3/人・日,伐倒,造材に7.56m3/人・日,ウインチ集材,採材に8.16m3/人・日,全体で2.31m3/人・日であった。下木の9カ月後の損傷,枯損状況,被害形態,被害の分布を調査した。その結果,枝払いを実施すると9年生ヒノキ下木(2,800本/ha)の損傷率は15.5%であった。20%以下に低下したという内容であった。

 ヒノキでは,上木の密度を保ちつつ,下木の成長に適した光環境を維持する難しさを感じた。また,上木の伐採時に下木を傷つけないように上木を収穫するには,かなりの高い技術力とかしこい工夫が要求されると感じた。

(3)林冠ギャップの光環境管理図について_人工林内への広葉樹導入のために_

小島 正(群馬県林業試験場)

 スギ,ヒノキなどの針葉樹の一斉造林は,環境保全や地力維持等の面から数々の問題点が指摘されており,その対応策のひとつとして,広葉樹の導入による針広混交林への誘導が考えられる。しかしながら,針葉樹人工林に広葉樹を導入するためには,更新面の明るさを持続的に確保することが重要である。そのためにはギャップのサイズと光環境の関係やその将来の変化についてある程度予測できることが望ましい。

 そこで,平山(1948)の昼光率のモデルを利用し,ギャップ林縁木の林冠高,ギャップの大きさ,ギャップ内に植栽した下木の成長などから方形あるいは円形ギャップ内の相対照度を推定した光環境推定式からギャップの「光環境管理図」を試作した。

 この手法は,ギャップ内の受光面からギャップ林縁の上層林冠までの距離別にギャップ直径ごとの相対照度の算出が可能となったことが大きな特徴である。光環境管理図の推定式から算出した相対照度と全天空写真の開空率とほぼ同値であった。したがって,更新面における明るさの持続的な確保のために,ギャップの光環境推定式や光環境管理図は利用が可能であると結論された。

11月7日(木)8:30_17:00,現地検討

 8時に「筑波ふれあいの里」を出発し,3カ所の現地検討後の午後6時,国民宿舎「御前山」に到着。18時の夕食後,19時から10件のセミナー発表があった。それらの講演の概要を記す。なお,この日の懇親会(交流会)は11時10分頃から翌日の2時頃までであった。

1.筑波山複層林試験地(各種複層林)

 まず最初に,関東森林管理局東京分局森林技術センターが筑波山に設定した多様な複層(相)林試験地を現地視察した。上木の点状伐採後に下木植栽による二段林造成はもとより,等高線伐採,群状伐採,魚骨型伐採(試験地面積35haのなかに複層林のタイプ別(上木の保残タイプ別に点状,列状,帯状,魚骨型などを造成している)などによって,空間的な多層構造を生み出す複層(相)林造成の取り組みや造成趣旨の説明が各所で,各担当官からあった。

 造成の目的:風致景観をできるだけ損なわないような森林経営を進めるため,筑波山(877m)山麓に樹齢や受光の異なるヒノキの『複層林』のモデル林(8タイプ20区画)を設定している。複層林試験地は昭和52年から設定された試験地で,約34haの区域のなかに点状,列状,帯状,群状,魚骨型などの上層木の保残方法や二段林,多段林などの階層構造別,下層木の植え込み密度の違いなどにより8タイプ20区画を設定している。上木は明治33年から34年に植栽された約100年生のヒノキで,下木は1年生から21年生のヒノキであった。

 現在は高齢級の上層木で構成される複層林の一部伐採,2回目の伐採・搬出による下層木の損傷被害の調査,さらに複層林に誘導後の森林経営手法の検討などを行っている。

複層林試験地の構成はつぎのとおりである。

 (1)点状,列状保残区(二段林):上木を点状,列状に残し,下層木を植栽。保残した上層木の密度は,ha当たり100本,200本,300本,400本,500本の5区を設定している。
 (2)群状保残区(二段林):上層木を樹高を基準にほぼ円形の群に残し,伐採箇所に下層木を植栽している。
 (3)等高線帯状保残区(二段林):樹高幅を基準にして,保残帯と伐採幅を等高線に沿って交互に設定し,伐採箇所には下層木を植栽している。
 (4)直線帯状保残区(二段林):樹高幅を基準にして,保残帯と伐採塙を交互に直線状に設定し,伐採箇所には下層木を植栽している。
 (5)受光調整伐区(二段林):上層木を点状に残したha当たり500本保残区を林内の照度を調節するためにha当たり250本の受光調整伐採を実施した試験地。
 (6)植栽本数調整区:上層木をha当たり200本,300本に点状に残した箇所に下層木の植栽密度を変えて設定している。
 (7)魚骨型伐採区(多段林):魚の背骨と小骨の形に数回に分けて伐採し,その都度,下層木を植栽し,多段林に誘導する試験地。

 複層林(二段林)施業は,上木の伐採時に下木の損傷が多いことや,皆伐に比べて収穫時の生産性が低いことなどから,林業経営的に必ずしも有利であるとはいえないと考えられる。この試験地では採算を念頭において,実際に各種の複層林の上木伐採,搬出を行い,伐採・搬出時の下木の損傷,作業効率などの生産コストの把握等の結果を検討して,経営的にも成り立つ複層林施業技術の確立をめざしている。

 現地視察では,複層林造成後の林分において,平成11年度,12年度に3タイプの複層林試験地において,上木の伐採・搬出を行い,下木の損傷率および作業能率等を調査した試験地を視察した。


写真2 筑波山複層林試験地での現地検討

1.点状保残型(400本区)

 点状保残型(400本区)は,昭和55年に上木伐採を行い,上木をha当り400本の密度で点状に保残した試験区で,面積は0.87haであった。平成12年度に第1回目の上木伐採を行い,本数伐採率21%で実施した。現在,上木は100年生ヒノキとサワラ,下木は21年生ヒノキで,植栽本数はha当り2500本の二段林を形成していた。

 平成12年度に行った上木伐採での作業能率は,1人1時間当たり1.4本(枝払いも含む)という結果であった。このように作業能率が低かったのは,点状保残型の複層林であったため,伐倒時の方向性に乏しく,またヒノキの高齢級であり枝条が太く,樹冠の幅も広いため掛かり木の発生が多く,その処理に多くの時間を要したためということであった。

 点状保残型(400本区)における下木の損傷率と損傷程度は,面積0.43haにプロットを設定し,約800本の下木について伐採・搬出別に毎木による被害調査を行った結果,伐採による損傷率が最も高く14%であり,搬出によるものが4%,伐採・搬出によるものが2%で全体では16%でした。

 また下木の損傷の程度については,下木の成長,形質に影響を及ぼさない被害および下木の成長,形質に影響し,良質材生産を難しくするという被害がそれぞれ8%であり,下木の枯死につながるか,形質に致命的な影響を及ぼす被害は8%であった。被害の形態は,傾斜,枝抜け,倒伏,剥皮,幹折れ等で,その大部分は伐採木の樹冠による被害であった。また,保残木の損傷率は全体の2%に留まり,すべて搬出時に生じた根元部分の剥皮であ

2.魚骨型

 魚骨型は,多段林誘導型で植栽木列を基準に設定し,全体を23の列に区分した試験地であった。設定は昭和63年度,面積は3.49haで,4回に分けて上木の伐採・更新を計画しているとのことであった。

 第1回目の上木伐採及び下木の植栽は,それぞれ平成元年度,2年度に行い,平成11年度は第2回目の上木伐採を行っている。

 上木伐採前の本数はha当り606本,伐採後の本数はha当り260本で本数伐採率は57%であった。2回目の下木の植栽は平成12年度に行い,植栽本数はha当り2500本であった。 現在,上木は100年生ヒノキ,下木は11年生ヒノキ及び最下木が2年生ヒノキの3層からなる多段林を形成している。

 平成11年度に行った上木伐採での作業能率は,1人1時問当たり4.2本(枝払を含む)という結果が得られ,皆伐の伐採功程との違いは小さかった。魚骨型での伐採は基本的に列状で伐採をしており,点状保残型等の他タイプの複層林より伐倒方向での有利性が高いようであった。

 林道までの搬出作業時の作業能率は,トラクタを使用した場合1人1時間当たり5.1m3,タワーヤーダを使用した場合2.9m3であった。当試験地のように搬出ラインが明確で,搬出距離が長く,十分な垂下量が確保できればタワーヤーダ等の架線集材が有利と思われた。

 魚骨型における下木の損傷率と損傷程度は,伐採による損傷率7%であった。魚骨型では下木が列状に植栽されているので,正確な伐倒方向により下木の被害を最小限に抑えることが可能ということであった。

 搬出による損傷率は7%であった。搬出ラインの決定は,作業能率や下木・保残木の損傷に大きく影響すると考えられた。また,下木の損傷程度について下木の成長にほとんど支障がない被害は5%,下木の成長がほとんど見込めない被害という被害は9%であった。

3.魚骨改良型

 魚骨改良型は,魚骨型が列を基準に設計されているのに対し,魚骨改良型は帯状に伐採された面を基準に設計された試験区であった。魚骨改良型は,魚骨の背骨部分を5mの固定搬出路とし,7mの伐採幅を設定していた。

 設定は,昭和63年度,面積は0.97haであった。第1回目の上木伐採および下木の植栽時期は魚骨型と同様である。平成12年度は第2回目の上木伐採を行い,本数伐採率は22%であった。下木の植栽は平成13年度に行い,植栽本数はha当り2500本であった。

 現在,上木は100年生ヒノキ,下木は11年生ヒノキ,最下木が1年生ヒノキで,魚骨型と同様に多段林を形成している。

 平成12年度に行った上木伐採での作業能率は,1人1時間当たり3.1本(枝払いを含む)であった。林道までの搬出の作業能率は,トラクタでの作業では,1人1時間当たり2.3m3であった。今回の調査結果では搬出木全てが下げ荷集材で,搬出距離も長く,荷掛けのためのウインチロープの引出しに多くの時間を要し,低い功程となったようである。

 魚骨改良型における下木の損傷率と損傷程度は,上木の伐採による下木の損傷はなく(0%),搬出による損傷は1本という結果であった。下木の被害がなかったのは,今回の伐採・搬出作業が下木に隣接していない箇所であったと説明された。

2.筑波山複層林試験地(モザイク林造成地)

 筑波山複層林試験地(100年生ヒノキ人工林35ha)において,様々なタイプの複層林の造成が行われているが,こうして出来上がった各種の複層林について,構造的な多様性を兼ね備え,資源としての循環利用を可能とするための「モザイク林の造成」に取り組まれている。モザイク林造成の基本的な考え方は,人為的な撹乱(小面積の伐採)を連続的に繰り返すことによって,天然林にある異齢の小パッチからなるモザイク構造を人工林に持ち込もうとする考え方である。


写真3 小面積部分伐採によるモザイク林造成試験地での検討

 本試験では,9.65haの帯状二段林(帯の形状:幅25m,長さ60_150m)(ヒノキ100年生と下木ヒノキ20年生の帯状二段林:本数密度上木300_1000本/ha,下木1400本/ha)を65の区画に細分し,20年ごとの分散伐採により,最終的に伐期160年の多段林(8段林:160年生で100本/ha)を造成しようとするものである。

現況の上層木については,平成14年(100年生)から74年までの60年間に20年おきに区画単位で4回に分散させて伐採・更新する。現況の下層木については,平成94年(l00年生)から154年までの60年間に20年おきに区画単位で4回に分散させて伐採・更新する。

 これにより,現況林分は伐採が一巡することとなり,以降は20おきに160年生の主伐を永久的に継続していく施業である。

 更新は,基本的に主伐の翌年にヒノキの植栽により行うが状況に応じて広葉樹による更新も行う。なお,最終伐期(160年生)に近い段階では,相当な広葉樹の成長が予想されること,また,森林空間利用タイフの森林については人工林の取り扱い方針のひとつとして針広混交林に誘導することとされていることなどを踏まえ,これらの保残については主伐の段階で林分の状況により検討する。

 植栽本数は,保安林の新たな指定施業要件により2,028本/haを基本とし,植栽に当たっては隣接区画の立木の状況,帯の方向等を勘案し検討するようになるとの説明があった。

 路網であるが,幹線となる作業道を等高線に沿う形で循環させ,必要に応じて支線(トラクタ道)を設けることにしている。幅員3.5m(路肩含む),縦断勾配は7%以下である。

 施業の実施には,高密度路網の整備も不可欠である。こうしたモザイク構造の人工林を造成することにより,皆伐一斉更新の施業的合理性と循環的利用(収穫),さらに構造的に多様な人工林を実現し,モノカルチャーの弊害の解消につなげようという趣旨である。

3.佐白山高齢級ヒノキ人工林(長期モニタリング・プロット)

 木材生産を目的として経営する高齢級人工林では,目標とすべき高齢級人工林について,林分の群集組成・群落構造・林分動態などを継続調査し,その生態学的特性を明らかにする目的で行っている。この佐白山(笠間市)の高齢級ヒノキ人工林は170年生ヒノキ人工林1区(50×50m)をモニタリングサイトとして継続調査している。モニタリングの手法は,固定プロット区内に出現する胸高直径5cm以上の樹幹にナンバーリングし,その樹種名,樹高を測定する。高木性樹種の更新木(樹高1.2m以上,胸高直径5cm未満)については,区内に10m×50mの小方形区を設け,区内に出現する全更新木に番号を付け,樹種名,胸高直径,樹高を測定する。

 こうして得られた調査資料は,データベース化するとともに,今後事業(施業)の実施にあわせ,2_5年ごとの再調査を実施している。


写真4 笠間市佐白山(城山)での昼食風景

4.大沢試験地(集水域管理・広葉樹導入試験)

 人工林を生態系管理する取り組みとして,茨城森林管理署管内大沢国有林(茨城県七会村)内の大沢広葉樹導入試験地(50年生スギ・ヒノキ人工林21ha)を現地視察した。

 モデル林の造成は大沢源流部の小集水域316haを試験地エリアとしている。集水域全体で景観管理を行い,施業管理は,小集水域の一部である大沢試験地で実施している。

 小集水域内の森林を次の4つの区域区分し,管理(施業)している。これは森林の小集水域生態系の最適な管理を目指したもので,生態系としての健全性を確保することを管理の目的とするものであり,それぞれの管理(施業)区分ごとに目的に応じて施業を実施する。 こうした区分と施業によって,多様な景観構造(植生モザイク)を生み出し,人工林の弊害,脆弱性を景観的に回避し,森林生態系の多様性と健全性を確保しようとするものである。

 1.針葉樹育成区:土地生産性が高く,路網密度が高く生産効率の高い斜面で,集約的な施業により良質材生産を目指し,高齢級林分への誘導を図る(長伐期施業)。

 2.渓畔林保残区:谷底氾濫原で,河川流域の保全と野生生物の生息場所,生態学的回廊の確保を目的とし,将来的に自然度の高い広葉樹林への誘導を図る(水辺林造成)。

 3.針広二段林区:斜面上部の植栽木の成長が若干劣る場所で,伐期を引き延ばすことで,将来的に木材生産を期待する(粗放的施業)。間伐を通じて広葉樹を侵入させ,針広混交状への誘導を図る。

 4.広葉樹育成区:尾根部や急傾斜地,岩石地など林業行為を回避すべき場所で,林地保全を目的に広葉樹林への誘導ないし維持を図る。

 林業の生産基盤整備と施業の効率化を目的に,針葉樹育成区を循環する路網の整備を行っている。この循環路網の特徴は,路肩を広く取ることにより,隣接林分の成長を促すとともに,路網に沿ってヤブないし広葉樹林帯の形成を促し,生態系としての構造的多様性を高める効果を狙う。一部,路肩への広葉樹(ケヤキ,ハルニレ)の植栽導入も行っている。事業地内には幅10mの作業道が整備されている。その作業道は通常3m幅の林道として使用し,残った両側には広葉樹を植栽していた。この作業道に沿った広葉樹林も,自然の回廊とする目的で植栽されたとのことであった(これだけの幅の伐採は,林内に側方からの光を入射させ,林内の光環境が良好になると思われる)。伐採収穫の際は,大型の高性能林業機械が入るときには,それに合わせて両側を整備し,道幅を広げることが可能である。

 大沢試験地では,水辺域における自然植生の修復・再生を図るため,植栽木の強度間伐や部分伐採跡地に広葉樹苗木の植栽や天然更新などによって,水辺林造成を目指している。

特に広葉樹の植栽には,ケヤキ,ハルニレ,エノキなど数樹種につき,試験地周辺から種子を採取,コンテナ苗を育苗して,植栽導入を行っている。

 さらに,人工林内には天然林と比べ,圧倒的に枯立木,倒木の量,数が少ない。そのため野生生物(鳥獣・昆虫類)の営巣,採餌の場所が不足し,生物的多様性を低める原因ともなっている。そこで,キツツキ類を導入するため,営巣用の巣丸太としてシラカバの材幹を植栽木に取り付け,営巣の場を提供している。同時に林内にある不良形質木を環状剥皮し,人為的に枯立木をつくる試験も行っている。

19:00_23:00セミナー「森林管理・林業技術に関する研究発表」
(1)森林技術センターの業務概要

佐藤信幸(関東森林管理局・森林技術センター)

 管内の概要は,森林のもつ木材生産機能を始め,各種公益機能の維持向上を図るため,産業界・学会・官庁が連携し,森林管理に必要な森林施業技術の開発・普及を目的に,平成7年3月1日に旧石川営林署が棚倉営林署に続合され,同時に前橋営林局の森林技術センターが設置された。試験研究区域は,特定区域として棚倉森林管理署管内(須賀川市・石川郡・東白川郡)に1市6町3村を包括する約3万haに及ぶ広範な国有林野内において様々な施業試験地等を設定し,森林・林業に関する技術開発を拠点的・集中的に取り組んでいる。

 技術開発は,1.公益機能に配慮した技術開発として,(1)針針複層林施業の開発,(2)針広混交複層林施業の開発,(3)森林景観に配慮した施業技術の検討を行っている。2.間伐促進のための技術開発については,(1)列状間伐の効果の検証(列状間伐方法や残存木の生育・被害状況等の調査),(2)間伐促施業技術の開発(間伐方法や搬出方法,残存木の生育・被害状況を調査),(3)強度間伐における作業功程等の検討(50%の強度間伐を実施し,普通間伐との作業功程や生育状況等を比較)を行っている。他には,3.効率的な循環高密度路網敷設の課題,4.育種センター等との共同開発,5.高性能林業機械を活用した技術開発,6.森林とのふれあいに関する技術開発,7.その他の技術開発として,(1)下刈回数の検討,(2)薬用木等の効果的な栽培方法の検討,(3)スギ密植地の施業方法の検討,(4)植付本数の検討,(5)ケヤキ人工林施業技術の開発,(6)広葉樹等人工林の初期育成方法の研究,(7)天然林施業における保育方法の検討,(8)ヒノキ育成天然林施業の検証,(9)次代検定林における間伐方法の検討,(10)枝打ち技術の検討,(11)展示林の育成整備,(12)特殊施業方法の検討(人工林整形),(13)長伐期施業モデル林の造成試験を実施し,森林・林業に関する技術開発に取り組んでいるという報告であった。

(2)スギ人工林の高齢級での成長を持続させるための本数管理

澤田智志(秋田林業技術センター)

 スギの大径材の生産を目的とした長伐期の研究についての研究成果の発表であった。まず,長伐期林のメリット,デメリットを比較し,長期的な育林技術体系の検証あるいは過去に行われた作業性の再評価をする必要性が述べられた。特に80_155年生13林分の単木的な高樹齢の木の成長解析を行い,地位級,収量比数別の材積成長量の調査データが紹介された。立木本数700本/haの林分では樹齢50年生以降に肥大成長が低下するなどの説明があった。また成長階ごとに,1ha当たりの成立本数を樹冠の占有面積から算出するという考え方の提示は興味があり,高齢木は個体管理をすべきであり,価値のある木を残す施業をすべきであると結論づけた。最近のスギ並材価格の下落が著しく激しい中で,秋田では大径材の価格が依然として高いようであった。高齢林に誘導する際には,収入間伐によって収穫を得ることができるため,森林所有者の関心が高いのも事実である。今後,長伐期施業あるいは高齢林の研究成果のたくさん得られることを期待したい。

 

(3)林地生産力の違いを考慮したカラマツ林の主・間伐スケジュール

光田 靖(宮崎大学)

 北海道内のカラマツ人工林で間伐時期,間伐強度,間伐の作業種を変えた成長モデルによって成長予測を行い,オペレーションリサーチ手法を利用した動的計画法モデルという手法で,いつの時期にどのような間伐を行うことがカラマツの成長に良いのかを考察した研究成果が発表された。最適なのは,相対幹距が30%を超えないように強度の上層間伐を10年ごとに繰り返し,主伐は80年に行うのがよいという結果であった。ただし,地位が良いところ,高齢時には間伐率の高い間伐を行う必要があると考察された。

(4)奥日光におけるシカ被害対策について

由田幸雄(日光森林管理署)

 奥日光では平成4年頃からニホンジカの個体数が急激に増加し,森林植生に大きな影響を及ぼしている。管内の保護林においても,シカによる樹木の剥皮や更新稚樹の採食が確認されている。特に被害の著しい千手ヶ原保護林をシカの食害から守るために,平成10年度より保護林内にシカ食害防護柵(保護柵)を設置した。この事業が始まって3年が経過していることから,更新稚樹の生育状況を保護柵の内側と外側とで調査した結果について報告があった。

 千手ヶ原保護林のシカの生息密度は20_40頭/km2であった(奥日光地域の平均生息密度は8_13頭/km2。千手ヶ原保護林の被害状況は,ミズナラ,ハルニレ,カラマツ等の樹木が多く,その中ではハルニレの被害が目立っていた。下層植生は,ほとんどの植物がシカに食べられてしまうため,キオン(キク科),シロヨメナ(キク科),イケマ(ガガイモ科)などが群生する特異な景観となっている。調査の結果,保護柵の効果は保護柵の内側は30cm以上の更新稚樹が2.1万本/haあり,天然更新が可能な状態になっており,保護柵設置による保護効果があった。一方,柵の外側は30cm以上の更新稚樹は0本で,天然更新は期待できなかった。

 今後のシカ被害対策については,抜本的には個体数調整を行ない,適正密度で管理することであるが,これは時間を要することなので,緊急的な保全対策として保護柵の設置を行う必要がある。保護柵を設置するとその設置効果は高く,天然更新が可能であった。

 しかし,保護柵は大面積に及ぶ場合は多大な施工費用を要することと,シカを完全に閉め出すためシカとの共存を図る点で問題がある。よって,今後,少ない経費で確実な保護効果をあげるためには,例えば林冠ギャップに20m×20m程度の小さな保護柵を設置し,稚樹を保護するとともに,将来にわたって,種子の供給が可能となるように保護柵周辺樹木に単木ネット巻きを行って保護する方法が効果的であること,また,このやり方だと保護柵が小さいので,大型哺乳類の移動や採餌行動への影響を少なくすることができるメリットがあるという報告があった。

 

(5)埼玉県における渓畔林造成の試み

崎尾 均(埼玉県農林総合研究センター森林支所)

 埼玉県で行われている天然の渓畔林の動態解析,ニセアカシアなどの除去による二次林の修復,開発跡地に広葉樹等を植栽し,人工林を水辺域に導入(山火事跡地に渓畔域を決めて植栽によって広葉樹等を導入する)する試みなどが発表された。特に最近各所で目に付く,治山ダム周辺の無立木地への渓畔林の導入については,土砂生産源(域)での急速な作設は無理であることが示された。また渓畔域の樹木の樹高は30mぐらいになるので,それで渓畔域を30mにする必要性があるという提案は,今後の渓畔林造成に参考になる知見の紹介であった。このような知見が県などで渓畔林を造成している事業担当者に有益な最新情報として,即座にもたらされることを期待したい。

 

(6)ヒノキ人工林群状択伐地における天然更新の試み

石田香織(栃木県烏山林務事務所)

 ヒノキ林に広葉樹を導入する方法のひとつとして,天然更新を試みた報告があった。その理由として,伐採跡地にヒノキを植栽すると植栽費,保育費などの管理費用に加え,シカの植栽木の食害対策などに経費がかかることが挙げられる。そこで,定性間伐,列状間伐,群状択伐した区とその保残林にシカ防護柵の有り,無しの区をそれぞれ設定し,天然更新に最適な組み合わせを追跡調査するという試みであった。試験地の設定からあまり期間が経過していないので,更新稚樹の高さが小さく,シカの食害被害は少ないようであった。今後の追跡調査が行われて,ヒノキ人工林に設定された群状択伐地において天然更新が可能な否か,あるいは天然更新ができない原因などが解明されることを期待したい。

 

(7)マルチキャビティ・コンテナを使った広葉樹の育苗

豊田信行(愛媛県林業試験場)

 持続的な森林管理を行うための選択肢として,針広二段林や広葉樹林の造成があり,その誘導方法のひとつとして,高木性広葉樹の人工植栽がある。人工植栽後の「低コスト化」とは,「低価格な育苗技術」のみならず,「育苗_造林用苗木の植え付け_下刈」という育林初期の作業体系全体の低コスト化を目標にする必要性が一層高くなっている。そこで当センターで実施している高木性広葉樹の人工植栽の低コスト化を目的として,北米や北欧で実用化されているマルチ(多)キャビット(孔)コンテナ(育成容器)を用いた,育苗試験についての報告があった。マルチキャビティ・コンテナの育苗は(1)育成孔に突起があり,根の回転が発生せず,空中保持により空中根切りが行われ,根の変形が従来のポット苗に比べ少ない。(2)(1)の根の形状により機械化に適した,また林床マルチング植栽に適した苗が作れる。という2つの利点がある。

 供試樹種はケヤキ,コナラ,ヤシャブシ,ハルニレ,キハダ,ヒノキなどである。使用コンテナは,植孔の内容積が150mlのスウェーデンBCC社のV150SSと,250mlのタイJICAのREX250の2種を使用し,空中保持して育苗した。

 培地は,ピートモス又はココナツハスク(成熟ココナツ果実の中果皮の粉砕物から粗繊維を除いたもの)を基本培地とし,容積割合は約50_70%とし,水分調整用にパーライト又はバーミキュライトを用いた。この培地は軽量な苗木を作るために,通常の培地に多く含まれる畑土や山土・鹿沼土等をほとんど使用していない。その結果,これらの樹種については,良好に育成できる育苗条件が明確になった。

 

(8)茨城森林管理署における水辺林再生の試み

平野辰典(茨城森林管理署)

 水辺林は,野生動植物に多様な生息場所を提供し,生物多様性を保全する上で森林生態系の中でも重要な役割を果している。このため,茨城森林管理署で実施された水辺林再生の試みについて研究発表がった。まず,水辺域にケヤキ,クリ,ヤマモモなどを3000本/ha植栽した。その1年後の生存率はケヤキが80%,クリ20_30%,ヤマモモ80%であったことが報告された。水辺林の修復・再生を行う上で,その対象地域や場所で生育する樹木群集の構成樹種によって再生する必要性について報告された。

 

(9)山梨県「森林生態系モニタリング事業」の概要

長池卓男(山梨県森林総研)

 山梨県は,森林面積が県面積の78%を占め,県有林面積は県森林面積の44%を占めている。今後の持続可能な県有林管理を目的に,温帯諸国の国際的な取り決めであるモントリオール・プロセスにのっとった森林生態系モニタリング事業を1997年度から10年計画で始められた事業の概要説明があった。

 モニタリング事業は,県北部の北巨摩郡須玉町内の県有林を中心とした約8000haを対象に,モントリオール・プロセスの基準・指標について明らかにし,継続的にモニターしていくことから,今後の県有林管理への指針を導き出そうという事業の趣旨であった。

 モントリオール・プロセスでは7基準67指標が定められているが,調査内容は,そのうち「生物多様性の保全」「森林生態系の生産力の維持」「森林生態系の健全性と活力の維持」「土壌及び水資源の保全と讐持」「地球的炭素循環への森林の寄与の維持」「社会の要望を満たす長期的・多面的な祉会・経済的便益の維持及び増進」の6基準29指標が対象となっている。演者が担当する「種の多様性」という指標に関しては,対象地域の主要な森林タイプであるカラマツ人工林およびミズナラ二次林に多数の調査地を設け,森林管理と植物種多様性の関係を明らかにする計画であり,ミクロな視点を基に,ランドスケープレベルでの生物多様性を生かした森林のゾーニング区分に発展させるための基準づくりについて,その調査手法,検討項目や解析手法などについての説明があった。

(10)神奈川県の県有林における生態系を考慮した森林管理の取り組み

牧 三晴(神奈川県自然環境保全センター)

 県有林の生態系を考慮した森林管理の指標となる「丹沢大山保全計画」の概要について報告があった。まず,現在の県有林の概況あるいは県有林の問題点が示された。県有林は,シカの樹皮剥ぎ,土砂流亡,クマの樹皮剥ぎ,間伐後に植生が繁茂しない。などの問題点が顕著になっているようで,「多様な生物を育む身近な大自然」を目標にシカのコリドーの設置や森林の保全,再生,県民の連携を図っているとの説明であった。

 具体的には(1)ブナ林の林床植生の保全や個体群の保全,希少植物の保全などでは,科学的な自然環境の管理,生物多様性の原則による管理,県民との連携などの目標を定めて実施している。また(2)木材の循環利用では,生物多様性の保全(具体的な調査項目として,植生回復,土砂流亡調査,間伐率の変化による下層植生の回復調査,人工林の固定プロットで稚樹の導入調査)植生保護柵の設置(主に平坦地に20m×20mの保護柵の設置)が行われている。

この中で興味をもったのは,人工林の取り扱いの検討の中で,人工林の混交林化への取り組みである。長さ50m×幅20mの帯状の伐採を行い,その伐採跡地に広葉樹を導入するというものである。この帯状の更新地をパッチ状に設定するようである。今後の具体的な成果が楽しみである。

11月8日,現地検討2日目(茨城県御前山村)

 御前山荘前の那珂川の川原で全員の記念写真を撮影した後の8時30分に御前山荘を出発し,次の1カ所の現地検討を行った。その後11時ごろに現地解散した。 

1.ケヤキ展示林(水辺林の修復・再生事業)

(ケヤキ展示林の概要)

林齢:108年生(明治17年植栽)
立木本数:250本/ha
平均胸高直径:47.6cm(10.8_90.1cm)
平均樹高35m
断面積合計:54.3m2/ha
推定幹材積:745m3/ha

 この展示林には,固定調査区を設け,林分の成長・構造についての継続的な調査が実施され,渓畔林あるいは水辺林造成に関する基礎的な情報の蓄積が行われている。


写真5 御前山ケヤキ展示林で説明に聞き入る参加者

 

2.カタクリ・イチリンソウ群落の再生の取り組み

 森林生態系おいて,水辺域は野生動植物に多様な生息場所を提供し,生物多様性を保全する上で重要な役割を果している。水辺林の修復・再生を図る上で,まず樹木群集の選択が主要な目標となるが,林床植生もその対象である。しかし,周辺の土地開発や河川の撹乱体制の変化に伴って水辺域本来の生物群集が損なわれる場合も見られる。

 今日,水辺域の林床植物群落をめぐる問題のひとつが,水辺域へのネザサの侵入と優占である。ネザサの侵入・優占は,本来の水辺植生を著しく変質させ,生物多様性を低下させている。

 御前山ケヤキ展示林では,アズマネザサの進入・繁茂により,林床に存在したアズマイチゲ・キクザキイチゲ,カタクリ,イチリンソウなどから成る春植物群落が急速に衰退してきた。この事業地では,アズマネザサを刈り払い処理することにより,水辺林本来の自然の林床植生の群落を回復させるため,下刈りが自然植生の有効な手段となりうるかの検証と,水辺林本来の植物群集の再生を図り,生物多様性を始めとした生態学的機能を取り戻せるかを検証している。

(調査方法)展示林の一画を4区画に分割し,それぞれに区に2m×2mの方形区を連続的に10個設け,それぞれの区につき,ブラウン・フランケの優占度法により植生調査を行う。

 4区画につき,交互に刈り払い区と無処理区とし,刈り払い区については,刈り払いを行い(1999年12月実施),無処理区は放置した。

 刈り払い後の植生変化を継続調査すると共に,カタクリ・イチリンソウなど春植物の個体群動態を調べるようになっている。

 またこの水辺域では,将来水辺林の骨格となる樹種(ケヤキ,ハルニレ,エノキなど)の人工植栽により水辺林の再生に取り組んでいる。その施業的な特徴は(1)谷底氾濫原に広葉樹コンテナ苗の植栽とマルチング処理,(2)広葉樹苗は樹下植栽せず,自然の攪乱に近い小面積皆伐地に植栽するというコンセプトで,水辺林の修復・再生が行われていた。

今回の森林施業研究会,記録者の感想

 今回の施業研究会も,森林施業について真剣に取り組んでおられる大学,森林総研,地方林試,行政,民間,学生の方々などの関係者がたくさん参加された。

 閉塞感の漂う林業界であるが,それ故に森林施業への関心の高さと期待感をひしひしと感じました。夜は2晩ともセミナーと称する研究発表が夜遅くまで続けられ,参加者の皆様のやる気と熱意が伝わってきました。

 森林の施業研究では,成功した施業事例あるいは失敗した施業事例をきっちりと何かの形で残すことがますます大切な責務となってくると考えられます。どのような施業事例もきっちりと調査データをとって,なぜそうなったか,それらの問題点について考察することが,現在あるいは次世代へ贈る貴重な財産となることは間違いありません。

 その意味からも,今回は誰もがいままでに手がけてこなかった施業事例や,長期間を要するモニタリング調査などの話題が多く,地道な調査を重ねることで,そのすべてが将来につながるかけがえのない施業事例になると痛切に感じています。

 今回は,現地検討で訪れた施業地が多く,実際の現場で発生している様々な問題に取り組んでいる現場の人々からのお話しは,とても身に付きました。いわゆる「現場を良く見て,それからものを考える」という基本原則に基づいた解説が随所にあり,現場の実情にあわせた,きめこまかな,うまい施業をどのように行っていくかを日々考えている現場からのメッセージは学ぶものが多くありました。

 また,全国各地で森林施業を研究されている研究者あるいは行政を含めてそれを取り巻く仕事をしているたくさんの方々と意見交換ができたことは,とても有益でした。これから森林,林学を志す若い学生や森林・林業を日々の仕事として携わっている多くの業界人の方々に森林施業研究会への参加を望みます。

 私は,今,間伐の遅れなどで問題となっている針葉樹人工林では,木材生産を含めた多様な機能,生物多様性を確保するための施業が求められています。このためには,地形や植生に配慮した「個性的な森づくり」を進めていくことが生物多様性を維持することになると考えています。このために,今なにができるかを日々,研究業務を行いながら考えていきたいと思います。

 最後になりましたが,セミナー等の発表者のご了解を得ぬままで,ご発表内容を記しました。発表者の意図する内容でなく,そのご意向にそぐわない場合が多々あると思いますが,森林施業研究会のすべてを記録に残したいと思う記録者の熱意に免じてそれらの数々の失礼を容赦いただきたいと思います。

<合宿参加者の意見・感想>

国内外の様々なメディア,林業専門誌,学術誌を通じてアピールする価値がある!? 

    溝上 展也(宮崎大学農学部)

 今回は国有林を舞台とした,主に針葉樹人工林についての先進的な取り組みを見学することができた。針葉樹一斉人工林をどのような林型に誘導すべきか(林分管理),そしてどこにどのような林分を配置すべきか(ゾーニング)に関しては,現在宮崎大学でも取り組んでいる課題であり(http://www.agr.miyazaki-u.ac.jp/~forest/index.html),筑波山複層林試験地と生態系管理を実践している大沢試験地は特に興味深かった。

 筑波山複層(相)林試験地は,いくつかの伐採方式(点状,等高線帯状,傾斜方向帯状,魚骨状)が試されており,かつ造成後20年近く経過したものである。一大学の一研究室レベルでは不可能と思われる試験地の規模に驚いた。少し残念であったのは,伐採方式の違いがどのような効果を生じさせているのかがよくわからなかったことである。上木伐採が下木の損傷に与える影響や作業効率の差異については詳細な分析結果が示されていたが,下木の成長・形質や下層植生多様性などの違いについてもより詳細な情報を知りたかった。

 平成13年度から始まった「長期育成循環施業」事業では点状伐採のみならず群状伐採や帯状伐採も含まれており,筑波山複層(相)林試験地はその事業のモデルケースとして大いに参考になろう。点状保残では幾つかの上木密度が試されていたが,帯状伐採では帯幅25mが基本になっていた。群状・帯状林においても伐採幅がいろいろと異なる試験地が設定されているとさらに有効なモデル林になると思った。

 2年前,宮崎県諸塚村に造成されている帯状複層林の調査に着手したときにいろいろな検索エンジンを使って関連資料を探してみた。僕の探し方があまかったせいか,以下のような海外の報告書は見つけることができたが,残念ながら筑波山試験地の存在は知ることができなかった。筑波山試験地はその時間的・空間的規模からいって,もっともっと国内外の様々なメディア,林業専門誌,学術誌を通じてアピールする価値が十分にあると思う。今後のモニタリング結果がとても楽しみである。

Coates, K. D. et al (1997) The Date Creek silvicultural systems study in the interior Cedar-Hemlock Forests of Northwestern British Columbia: overview and treatment summaries. (Land Management Handbook :38), 129pp.

Hart, C. (1995) Alternative silvicultural systems to clear cutting in Britain: A Review. Bulletin 115, HMSO, London. xiv + 101pp.

Phillips, E. J. (1996) Comparing silvicultural systems in a coastal montane forest: productivity and coast of harvesting operations. FRDA report

Robinson, F. C. et al (1987, 1988) Alternate strip clearcutting in upland black spruce. The Forestry Chronicle, December 1987: 435-456 & February 1988: 52-75

何も無理をして伐採しなくとも!

    津布久 隆(栃木県今市林務事務所)

 初めて参加させていただきました。栃木県で普及員をやってる津布久(ツブク)と申します。若輩者ですが感想を述べさせていただきます。

 今回最も感じたのは、セミナーや現地での質問、そして夜の酒宴にみられた参加者各位の熱気の強さでした。最終日にそのことをある先生に話したところ、「日本の森林を何とかしなくてはという熱意なら、他のどの学会や研究会にも負けないと思います。」との返事でした。ただの研究のみにとどまらず、このように日本のトップレベル(?)の研究者の皆様が、助言をしあいながらよりよい手法を確立し、実際に現地に適応させていくということはすばらしいと思います。また、それを実践している森林技術センター等の皆様の努力にも敬意を表します。

さて、合宿の感想とは多少離れてしまいますが、実際に一般の森林所有者と接している普及員の立場からの要望です。今回の試験地はそのほとんどが最終的には「伐採する」そして「再び針葉樹を植える」ことが基本であったように見受けられました。特に広葉樹導入林分も将来的には再度針葉樹林にするとの説明がありました。しかし実際にそんなことが可能もしくは必要なのでしょうか。あの林分は大径針葉樹と広葉樹の混交林にしますという方が多くの人に理解が得られると思います。林業にとっては伐採や搬出も重要ですが、森林には公益的機能の維持増進が必要とされています。ぜひとも水土保全林とはこのように管理せよという指針を作成してください。森林・林業基本法はそのための制定であり、多くの国民もそれを望んでいるはずです。歳入を上げなくてはならない内情は十分承知しておりますが、今国有林がやらなくて誰ができるのでしょう。

事務局から、社交辞令は抜きにして辛口に書けとの要請だったので、このような文章になってしまいました。失礼をお許しください。

 

更新状況、成長状況、雑草の侵入状況などから最適伐区の検討を!

    岩岡正博(東京農工大学) 

笠間合宿の資料を見てまず目についたのは、「複層林」という言葉でした。「2年前のシンポジウムで複層林はやっぱり駄目という結論になったのではないか?」という疑問を感じながらの参加となりましたが、話を聞いてみると2段林などのいわゆる複層林に関するものは少なく、小面積の異齢林が隣接して存在する、小生の身近なところでは木平勇吉氏の言うところの森林モザイクのような概念であることがわかり、納得しました。この意味で、渡邊先生が提唱された「複相林」いう言葉を使うべきという意見に賛同いたします。

さて、筑波山複層林試験地では、上木を伐採した時に隣接する下木を損傷しないミニマムな大きさを基準として小林分に区分していましたが、せっかくの試験地なのですから、様々な大きさの林分に分割して、更新状況、成長状況、雑草の侵入状況などから最適な大きさを検討してみても面白かったのではないでしょうか。現場では、伐採搬出の1日の作業量を基準に小林分の大きさを決めることもできると考えたのですが、生態的に最適な大きさが示されれば、それに合わせた技術開発も可能になると考えます。なお、魚骨改良型については、帯状に対する利点が今一つ理解できませんでした。

大沢試験地は、試みは非常に面白いのですが、面積が狭過ぎることが残念です。渓流沿いのバッファゾーンも申し訳程度にしかとれませんし、経済性を含めた検討もできません。特にバッファゾーンについては、様々な幅を試していただいて、日本の渓流に必要なバッファゾーンの幅を明らかにしていただけることを願っています。本試験地では、メグ谷地のトンボ池について、山の中に人工的なビオトープを作ろうという発想が理解不能でした。

小生の専門は技術部門(森林利用学、林業工学)ですので、生物の立場からみて、生態学の立場からみて必要な条件を示していただくことによって、その条件を満たすような技術の開発が可能となります。逆にこちらからも、こんな技術があるよといった情報を積極的にお知らせる必要があると感じました。プランティングチューブを初めて見る人が多かったのは非常に意外でした。将来的にも、このような形で協力体制を作っていけることを願っています。

最後に、噂には聞いていましたが、深夜までのセミナーとその後の懇親会はやっぱり強烈でした。夜中3時までの懇親会というのは、普段大学で学生と一緒に飲んで翌日後悔するパターンと同じで、皆様の元気さに頭が下がりました。

参加者の意見や感想を聞いてみたかった!

    坂本知己(森林総研)

 森林施業研究会の現地検討会(合宿)は,日本林学会の「森林科学」に報告文が何度か載せられていたので,そういうものがあることとと,かなり熱のこもった集まりであることは知っていた。ハードスケジュールとそれをものともしない参加メンバーに恐れをなして,これまではただ報告を拝見しているだけであったが,今回は,仕事に関係の深い渓畔林が対象地に含まれていたことと,地元開催ということもあって少しハードルが低くなったので,気後れさせずについていけるかという不安を抱えながらも参加することにした。何とか合宿を乗り切り,日常生活の中でその余韻も薄れかけたころ,合宿に対する意見と感想を求められた。いろいろとお世話になったので,お礼代わりの一文をお送りすることにする。

 まずは,盛りだくさんの企画とそれを滞りなく運営されたことについて,感謝したい。大人数を予定通り移動させることは,盛りだくさんのスケジュールだっただけに,運営側の方々は精神的にも体力的にも大変だったと思う。

 もう一点,印象に残ったのは,現場の皆さんの全面的な協力の下で,試験研究を進められている現場である。ラインからの指示による協力というより,個々の信頼関係に基づく協力関係という点でそこまで持っていった努力に頭が下がった。

 セミナーでの話題提供は,盛りだくさんでいろいろな興味深い話を聞くことができて有意義であった。また,話題提供に対する討論も熱がこもっており,参加しながらこれまで森林科学で拝読した報告の通りだと思っていた。

 やはり恐るべきは,夜のセミナーが終わり,ふつうでは明日のために寝ようかという時刻から当たり前のように懇親会が始まることである。それも四方山話をしながら飲むことを楽しむというより,熱がこもった議論が貪欲になされている。そういった輪があちらこちらできていた。力つきて一足先に寝床に向かうとき,参加する前に想像したとおりのことが目の前で繰り広げられることを朦朧とする意識の中でながめていたような気がする。

 さて,原稿の依頼にあたって「社交辞令的なものではなしに、厳しい意見や批判も欲しい」という但し書きがあった。上に述べたことは社交辞令ではなく素直な感想であるが,「期待していたけれど・・・」という点がないわけではない。ハードスケジュールであるから,これ以上望むことは実質的に無理かもしれないけれど,せっかくだから書いておこうと思う。

 それは,当日の見学地を対象とした議論である。現地では時間の関係もあって説明を省略したり,質問し損なったりすることがある。あるいは,そのときは気にならなかったが,振り返ってみて気になることや人の話がきっかけになって考えることもある。その日の見学箇所を復習するとずっと理解は深まると思う。多くの参加者が同じ場所を同じ時に見ての意見・感想を聞くことの意義は大きいと思う。それだけでも勉強になるだろう。参加者の受け止め方は,それぞれの知識や経験において異なっているだろう。それを聞いてみたかったと思う。通常の現地見学会と違って合宿形式のセミナーだからこそ,可能ではないかと思う。

 ついでにいえば,写真についても同じようなことを思った。現地では皆が同じところでシャッターをきっていた。実に多くの同じような写真が撮られていたことになる。しかしながら,必ずしも同じものを写していたとは限らない。もちろんすべて場面については無理ではあるが,特定のテーマについて何人かが撮った写真を比べることは可能かもしれない。同一地点でどういった写真を写しているか比べてみるのはおもしろいと思う。また,同じ意図を持って写した写真であってもうまい下手はあるだろう。いろいろな写真を比べることによって,何に注目するかということのほかに,写真の写し方の勉強になると思う。

 これらのことは,今以上に運営側の仕事を増やすことになるので実際にするのは簡単ではないのだけれど,実現できれば有意義ではないかと思う。

 強いて申せばこのような希望をあげることはできるけれど,それがなくても十分に有意義な2泊3日であった。

複層林は本当に実行可能か?との想いとらわれた

    丹羽花恵(岩手県林業技術センター)

 今回初めて「森林施業研究会」に参加させていただきました。以前から、関東森林管理局東京分局森林技術センターが実施している様々な森林施業の取り組みに興味があり、参加しました。現地検討会、セミナーともに大変興味深く、私にとって実り多き機会となりました。

現地検討会で複層林試験地を案内していただいた時に、素人的な考えですが、ふと感じたことがあります。「これは民有林で可能か??」と考えてしまいました(モデル的な各種複層林試験地を見せていただいたということもあると思いますが)。複層林とひとえにいっても様々な種類の施業方法があり、それらを十分理解できていませんが、どの施業方法も単層林施業に比べて高度な技術と集約的な管理が必要になると感じました。仮に複層林施業の導入を民有林で考えた場合、人材、技術、コスト等問題が山積みだと思います。

今は複層林施業という言葉だけ一人歩きしている現状があるので、まずは実験的に施業を試して、その結果どのような問題点があり、それはどのような要因によるものかを明らかにする必要があると思います。そういう意味でも、今後の筑波山での複層林施業の結果がどのようになるか大変興味がありますし、得られた結果をどのような場で活用するかということにも興味があります。

今回参加してみて、まず第一に、森林施業研究会は人も濃く、熱い研究会だという印象を受けました。11時までセミナー。その後も2_3時まで親睦会。寝不足は堪えましたが、いろいろな方々とお話でき、様々な森林施業事例の情報を得ることができ、また自分自身も新たな興味が湧き、今後の仕事のヒントになるものが得られたと思います。

研究会を運営してくださった鈴木さん、現地案内をしてくださった森林技術センターの皆様には大変感謝しています。

現地検討を踏まえた十分な検討の機会が欲しかった

    由田幸雄(日光森林管理署)

今回、初めてこの研究会に参加しましたが、企画・運営等にあたられた方々には大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。

さて、今回の実施について率直な感想を求められているので、運営のやり方について意見を述べます。

本研究会は、大きく ア.現地検討会 イ.発表会(情報交換) ウ.懇親会 と3つからなっています。

研究会の趣旨、目的からすると現地検討会がメインと思われます。今回の現地検討会のテーマは複層林施業であり、森林技術センター職員から複層林の概要説明や問題点等について話がありました。複層林施業の現状なり課題はわかるのですが、今後どのように進めて行くべきか、今後のあり方については十分な議論ができなかったと思っています。

森林技術センターではいろいろなタイプの複層林がありましたが、それらに対する評価とそれを踏まえた今後の展望が示されて、議論することができればさらに良かったと思います。

今後の現地検討会では、森林施業の現状や問題点について説明した後に今後のあり方を議論する、という形で進めたらと思います。また、議論は現地では時間の制約もあり十分にできないので、早めに切り上げて、別途、グループ討議等を行っても良いと思います。どうしても時間が取れない場合は、主催者側が参加者に問題点を提起し、参加者に考えさせるという方法でも良いと思います。

複層林施業について、私個人としては、照度管理も含めて技術的に難しく、集約的な施業となるので、国有林では間伐を繰り返して長伐期林分を造成した上で、小面積皆伐(1ha程度以下)を行う方が現実的であると思っています。また、複層林施業を行う場合は20m幅程度で帯状に皆伐する、小面積交互帯状皆伐により複層林(二段林)を造成するシンプルな方法が良いと思っていますが、このようなことを議論できればと思っています。

 

将来について考えるうえでも参考になった

    尾崎敬子(京都大学) 

昨年の秋に、森林総研関西支所の大住さんにご紹介していただき、今回、初めて森林施業研究会の合宿に参加させていただきました。どのような方々がいらっしゃるのか、学生も参加しているのか、など全く知らなかったのですが、とにかく興味をもったので、じゃあ参加してみよう、という気持ちでした。

私にとってまず嬉しかったことは、これまで論文の中で名前を見るだけだった方達が、実際に目の前にいる、という事実でした。他の参加者の方たちにとってはおそらく当然のことではあるのでしょうが、これまで学会にも参加したことのない私にとって、論文上の人の実在を確認する、というだけで実際心の中では舞い上がってしまいました。

また、この3日間は非常に充実したもので、セミナーや現地検討会はもちろんのこと、それ以外の移動中や食事中もずっといろいろな方たちとお話をする機会がえられ、非常に勉強になりました。セミナー後の懇親会でも、まだ話したい、まだ話したい、という気持ちが強く、かなり遅くまで多くの方とお話をしてしまいました。森林や林業について、普段は大学の中でしか話さないので、それ以外の場で働いている方々の話をお聞きし、世界が広がったように感じます。合宿の中身とは直接関係ないことではありますが、県や国で働いている方がどのようなお仕事をしていらっしゃるのか、など将来について考えるうえでも参考になりました。

現地検討会では、様々な複層林のモデル林、水辺林などを見ることができました。これまで、魚骨型や帯状に伐採された複層林は見たことがなく、イメージするだけに終わっていたのですが、やはり、百聞は一見にしかず、何事も実際に見るのが一番よくわかるものだと感じました。

上でも述べましたように、今回の合宿は、本当に中身の濃い、充実したもので、非常に楽しく、また勉強になりました。セミナーの中で、神奈川県の行政、研究が一体となった取り組みが紹介されていましたが、このように、今後この研究会においても、行政や大学の参加者がもっと増えることで、ますます面白い(?)合宿になるだろうな、と思います。

最後になりましたが、合宿の運営にあたられた皆様、セミナー発表をなさった皆様、技術センターの皆様、そして様々なアドバイスを下さった皆様、本当にありがとうございました。

組織や業務にとらわれない幅広い知識を得る機会が欲しい!

    金澤 裕子(茨城森林管理署) 

 11月に開催された森林施業研究会現地検討会での感想の依頼を受けました。解散間際にどうか断らずに受けてというお話もあったので、私なりに感じた点を書かせていただきます。他に感想を寄せる方もいらっしゃると思うので、検討会の内容についてはその方達にお任せすることとしまして・・・、職員がこういった会に参加することについてです。私は森林管理署に勤務しておりますが、署内では職員が「業務」外の会合に出席することについて、なかなか理解が得られないのが現状です。旅費の工面が難しいとか、あなたの業務には直接関係がない、とかいった理由で、確かに一理はあるのですが・・・・。

 以前こんなことがありました。私は林野庁のとある組織の係員。所属する課には30名弱の課員がいました。課長があるとき、ある団体がその職員に実施する猛禽類研修があることを聞きつけ、すぐさま課員から数名を選び出張扱いで参加させると決断。その数名とは、猛禽類関係の業務に携わる職員、鳥類の知識に秀でた職員、個人的に鳥類に興味を持つ職員・・・と、まさに(課長の)独断と偏見!!もちろん課内では、「社団法人が主催する研修に公務員が出席する必要があるのか!」とか「どういう理由で参加者を人選したのか?」など批判めいた様々な意見が出ました。しかし、百聞は一見(○○タカ等)にしかないこと、林業だけで国有林が成り立つはずがなくこれから猛禽類と林業の共存は不可欠であること、異分野の人との関わりが大切であることを一貫して主張されていました。当時、林業としてのフィールドと猛禽類の生息域がたびたびブッキングし、現場作業の停滞・中止が余儀なくされ、職員にとって猛禽類は邪魔な厄介者とされていた頃(今もか?)。避けることをせずに積極的に関わっていこうという課長のおかげで、私たちは○○タカを見、餌の解体跡から種の同定をし、猛禽類某種の第一人者から一泊二日の有意義な研修を受けました。またなによりも、粒ぞろいの職員の方々にも感心。年齢に幅はありますが、技術者である彼らは朝食の間も仕事(専門的な)の雑談をし、まぶしいばかりにきらきらして見えました。通常の業務だけなら知り得なかった知識・技術・そして人。

 いろいろな部署に配属されるたびに、やり手だった当時の課長をなつかしく思い出します。なんだか昔話になってしまいましたが、忙しい2と目の前の仕事をこなすだけでなく外へも意識を向けることは、人にとっても組織にとっても重要だと思うのです。その効果に即効性はないかもしれませんが。


何やら怪しげな「西日本ナラ・カシ振興会」が発足!

(仮)西日本ナラ・カシ振興会発足にあたって

顧みれば、過去数千年にわたり、二次的森林群集の主要な構成種として、本邦の山々を覆ってきたのはコナラ属樹種であります。しかるに、生態学や林学における検討は、まだまだ十分とはいえません。近年、二次的な生態系の管理や里山が衆目を集める中で、コナラ属のより広範な理解が必要となっています。本会は、生態学、林学、景観管理学、民俗学などを超えた知識の交換により、ナラ・カシ(の研究?)の振興に寄与することを目標といたします。賢明なる諸氏のご賛同を得るあたわば、誠にもって多とするところであります。(振興会当番 大住克博)

第一回ゼミ報告

 第一回のゼミは、2002年9月27日、森林総研関西支所において開催しました。鳥取大学の山中典和さんには、「東アジアにおけるナラ類の分布および、中国のナラ林(遼寧省のモンゴリナラ林と黄土高原の遼東ナラ林)」と題して、中国東北地区のモンゴリナラ林の構造および、中国におけるコナラ属分類地理を概説していただきました。続いて、鳥取大学大学院の渥美裕子さんに、「東アジアのナラ類実生の発達に伴う水分生理特性の変化、および光合成特性(予報)」という題で、研究中の苗畑で栽培したコナラ属各種稚樹の光合成、水分生理特性について、中間報告をしていただきました。要旨は以下をご覧ください。

 なお次回は、年内に、同じく森林総研の関西支所で開催することを予定しています。詳細は下記の当番まで問い合わせください。また、会員制度や会費は無く、参加は自由です。

大住克博 森林総合研究所関西支所 

e-mail:osumi@ffpri.affrc.go.jp 電話:075-611-1357

東アジアのナラ類とナラ林(248k)

山中典和(鳥取大学乾燥地研究センター) 

 

ブナ科植物の耐乾性に関する研究(36k)

渥美裕子(鳥取大学乾燥地研究センター) 

 

<編集後記>

「枯れ木も山の賑わい」と言うが、我が業界の人々にとって、枯れ木はあまり好ましい存在ではないようである。人工林内にあって、立枯木は病虫害の温床になり、労働災害の原因となるから撤去すべきと考えられてきた。自然公園内の天然林であっても、強風時の枯れ枝の落下や倒木の発生からハイカーが危険にさらされ、管理責任が問われるなどとして敵視されてきた。時代は変わって、枯れ木が森林生態系の重要な構成要素であり、その存在が森林の成熟度や健全性を計る指標となり、野生生物の生息場所として大きな役割を果しているとの認識がされるようになった。一方、若齢林の間伐材は利用目的を失い、林地に捨て切り状態で放置され、「病虫害の温床」である枯れ木は増加の一途をたどっている。そうであれば、いっそ人工林内の利用価値の低い植栽木は伐倒するのではなく、巻き枯らし(葉枯らしではない!)にでもして、立ち枯れ木の発生を促し、野生生物の生息場所の確保や彼らを利用し、生態系としての健全性維持に役立てれば良いのではないかと思うのだが・・・・。いまどき「枯れ枝が落ちて危険ですから、林地への立ち入りをご遠慮ください」はね?!(狢)

 

森林施業研究会ホームページに戻る