木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.73 (2020年1月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

・「目標林型」をテーマにシンポジウムを開催
・佐渡合宿の報告「天然スギを堪能した4日間」・・・小山泰弘(長野県林業総合センター)
・佐渡合宿の感想

 

「目標林型」をテーマにシンポジウムを開催します

第24回森林施業研究会シンポジウム

日 時:2020年3月30日(月) 9:00~12:00
場 所:名古屋大学東山キャンパス(愛知県名古屋市)

テーマ:「目標林型」を考える

内 容:森林施業は「目標林型」を設定してバックキャストで考えよう-という考え方がある。何かを成し遂げるのに、ゴールを設定して向かうことは大事である。その一方、生産期間が長期にわたる林業において、将来の木材需要を想定した目標を設定するのにどれだけの意味があるのかという疑問も呈されている。このシンポジウムでは、立場が異なる4名から目標林型についての考えをお聞きし、目標林型という考え方にやその具体像について議論したい。

1.目標林型という考え~趣旨説明に変えて(岐阜県立森林文化アカデミー・横井秀一)
2.話題提供
 1)林業経営者の立場から(速水林業・速水 亨)
 2)民間事業者の立場から(山仕事創造舎・香山由人) 
 3)市町村職員の立場から(豊田市役所・鈴木春彦)
 4)森林組合職員の立場から(豊田森林組合・鈴木敬介 / 阿部晃久)
3.総合討論「施業の現場で、目標林型をどう考えればよいか?」

 

佐渡合宿の報告「天然スギを堪能した4日間」

小山泰弘(長野県林業総合センター)

Ⅰはじめに

「佐渡島」と聞けば、「金山」か「朱鷺」の島というイメージが一般的ではないだろうか。長野県に住んでいる私からすれば、直江津からフェリーに乗って出かける島であり、その目的は「海」であり、海産物。

大学1年生の時に参加したゼミで、「佐渡の植生を見に行こう」と車で出かけたことがある。6月の佐渡を歩き、ブナやミヤマナラをはじめ、多くの植物を見た記憶はうっすら残っているが、不届き者の学生であった私の記憶は忘却の彼方。今でも覚えているのは、「するめいかに舌鼓を打ちながら、漁火を眺めていた教授」だけ。実はゼミの先輩が「山に登ると先生がイカに目がない」ので、本当にそうなのかを知りたかったというのが真相のようだが、それにまんまとハマった私は、「佐渡といえばイカ」になっていた。

あれから数十年。その後も佐渡へ出かけたので、「イカ」だけではないことは承知していたが、天然スギの認識は持っていなかった。

ところが、昨年の秋田合宿の時、新潟大学の崎尾さんが、「秋田杉に続いて、佐渡の天然スギも見にきて下さい」とお誘いをいただいた。佐渡の天然スギも魅力的ではないかということで、今回の合宿が実現した。

霧の天然スギに囲まれた参加者

Ⅱ合宿の概要

今回は、大阪教育大学の教員養成課程に所属する学生実習との共同となり、施業研究会のメンバー9名と、学生4名の13名で実施。折しも台風18号の襲来が心配されたが、フェリーの運航に支障はなく、当初予定していた計画をなぞりつつ、以下の様な行程で実施した。

合宿の運営にあたっては、新潟大学佐渡自然共生科学センターの崎尾所長に企画全般をお願いするとともに、集合から解散までの移動、現地案内、技術指導など、合宿の運営面においては、崎尾教授だけでなく、新潟大学佐渡演習林のみなさまに協力をいただき、無事に合宿を終えることができた。演習林の多大なる協力で、普段は立ち入ることが難しい演習林の最深部などへもご案内いただけたことは、感謝の極みである。

月28日(土)
 15時15分 両津港集合
 17時   演習林宿舎着
  セミナー1 佐渡の森林植生

9月29日(日)
 8時30分~17時 新潟大学佐渡演習林
  ・スギ人工林
  ・大倉シラバ半自然草原
  ・スギ・ヒノキアスナロ天然林
 19時~21時 演習林宿舎
  セミナー2(佐渡ゼミ)演題3題

9月30日(月)
 8時30分~17時 佐渡市内
  ・実習林で間伐木選定実習
  ・土石流被害跡地
  ・黒姫地区渓畔林
  ・大佐渡石名天然杉

10月1日(火)
 8時30分 宿舎発
  ・大野亀 トビシマカンゾウ自生地
  ・熊野神社 暖温帯林
 11時30分 両津港で解散。


Ⅲ 合宿の記録

ここからは、時系列に沿って、合宿の内容を紹介する。

1 セミナー1 佐渡島の森林植生(新潟大学 崎尾均)

佐渡に来て最初は、佐渡を知ることから。
「イカの島」と思い込んでいた私のような人間に向けて、佐渡の概要説明。

佐渡の特徴としては以下のとおりだと感じた。
・佐渡はオオミスミソウやトビシマカンゾウなどの花が咲き乱れることから「花の島」と呼ばれ、雪が融けた4~5月は春植物、6月はトビシマカンゾウとこの時期まではとても美しい。
・日本海に面した多雪地域と思われがちだが、暖流の影響で生活圏では雪がほとんど積もらないため、暖温帯の植物が分布する。
・ただし大佐渡の山岳地域は標高が上がるごとに急速に積雪が深くなる。
・標高1000mを超える山岳地帯を有し亜高山性の植物も多く、ツバメオモトやオサバグサなどが生息。海岸も風が強いためにハクサンシャクナゲなどの亜高山植物が下り、標高100mでも確認できる。結果、垂直分布は不明瞭。
・ミズメなどのカバノキ属の植物を欠いている。カエデやヤナギ、ツツジなども種類数が少ない。
・風の影響により900m付近で森林限界になってしまう。
・高い山がある大佐渡はスギもブナも天然林があるが、ブナとスギの分布は異なっている。
・大佐渡は霧が巻きやすい影響で尾根にスギが発達するだけでなく、尾根近くまでサワグルミやカツラなどの渓畔植生が卓越。
・小佐渡は人為影響が大きく、コナラを中心とした里山植生が広がる。

島は植生の感覚が違うという話は、一昨年の隠岐島でも実感したのだが、改めて、島は本土との違いを感じ、現地を観る感覚を身につけ、現場に臨むこととなった。

 

2 新潟大学佐渡演習林(9月29日)

2日目は雨予報が出る中、新潟大学佐渡演習林へ。宿舎の裏にある大佐渡山地の主稜線に沿った約500haが演習林。標高250m~950mに位置しており、低標高地には渓畔林やスギ人工林が広がっている。高標高となる主稜線には今回の目玉である天然スギの林が残されている。

1) 渓畔林、人工林、半自然草原

まずは、演習林の入り口で渓畔林を見る。
佐渡の渓畔林は、カツラ、サワグルミ、トチ、オニグルミ、オノエヤナギ、ヤマハンノキ、ヤマトアオダモなどを主要構成種としており、流域によって優占種が異なっている。演習林入り口付近では、サワグルミやカツラの優占する渓畔林が確認できた。

 

次いで、演習林内の50年生のスギ人工林へ。
今回の合宿には大阪教育大学の学生も参加しているということで、スギ人工林の施業の方法を説明。大学の演習林らしく、教授だけが一番高いところに上ってよいとされる「お立ち台」で崎尾さんが語る姿が印象的だった。

 

実は、このスギ人工林。前生樹はヒノキアスナロ天然林だったとのことで、人工林の一角に伐らずに残した場所があり、ヒノキアスナロ天然林との違いも観察。

 

大型野生獣を欠く佐渡島だけに、幹剥皮や下層植生の食害が全く認められず、獣害に苦労している全国の参加者からはうらやましそうな声も漏れてきた。

さらに、佐渡を代表する景観として、放牧によって維持されてきた半自然草原へ。佐渡は地質的な影響で、尾根部が平坦になりやすく、この平坦面を利用して牛馬の放牧も盛んに行われていたという。近年では牧場も減少したことから放牧はほとんど行われていないが、演習林内にも「大倉シラバ」と呼ばれる放牧跡地があり、放牧の影響を受けた半自然草原が残されている。

このころから、天気が下り坂となり、雨衣を着用しないと動けなくなってきたうえに、ガスがかかって見通しも効かなくなり、天気が良ければ海も・・・という計画は果たせなかったが、サドアザミやウメバチソウ、佐渡には多いというヤマトグサなどを観察することができた。

 

2)天然杉の世界へ

演習林入り口の渓畔林から尾根にある大倉シラバへとあがったのち、天然杉が観られる稜線へと向かった。ここからが、合宿の核心部分である天然杉のエリア。天然杉のエリアを含む大学演習林は、貴重な自然が残るということもあり、一般公開はしていない。立ち入るためには、専門教育を受けた認定ガイドが引率し、一日15名以内に限るため、気軽に入れる場所ではない。

今回は、演習林の計らいで、核心部のスギを次々と案内していただいた。稜線部の緩い尾根沿いに作られた遊歩道に分け入ると、いきなり林立する天然杉。昨年の秋田合宿で見た樹高50mを超えるという通直で背の高いスギとは全く異なる樹形。まさにここでしか見られない光景が目の前に。

写真.株立ち個体

パッと見れば、2個体が並んで成立しているように見えるが、よくよく観察してみると、稚樹の時代に雪でつぶされ、株立ちが育ったと思しき個体。

写真.伏条更新

成木の枝が、雪圧で地面に接して伏条更新した個体など、様々な更新をしていることから、一本一本の樹形が個性的。

演習林内で最も大きいとされる「大王杉」も、ぱっと見たところ、雪上伐採を行った「あがりこ」ではないか?と思ったが、これも「あがりこ」ではなく、自然に出来たとのこと。

写真.大王杉

とにかく、歩けば歩くほど、不思議なスギばかりが出てくる景観は、魅力的でしかない。雨合羽が欠かせない雨ではあるが、雲に囲まれたスギ林は、幻想的な風景になって、さらに美しく見える。雨が降り始めた時、崎尾さんは「今日は最高の天然杉日和」だと言っていたが、その意味が良くわかる。

これだけ個性的なスギがあれば、世に広めたいと思うようで、JRのポスターに使われたという「(通称)JR杉」、洞爺湖サミットの背景に使われた「金剛杉」など、著名なスギも点在していた。

写真.JR杉

写真.金剛杉

これだけ多くの天然杉を観ていると、徐々に感覚がマヒしてくるのが一般的であるが、それを上回る杉が次々と出現してくれるため、いつまで経っても飽きない。

そのうち、どうしてこういう姿になったのか?想像を絶するスギにも出くわしてしまう。その一つが、幻想的な霧の中に浮かび上がる幹が、「馬」に見えてしまう「ウマスギ」。


どうしてこうなったのかはわからないけれど、森の中を闊歩していそうな「獣」に見えてしまう。


さらには、どこからどうやって育てば、こんな形になるのか?参加者一同で推理するものの、何が何だかよくわからない個体も。天然杉の観察の合間には、佐渡演習林に強風が吹きつけていることを示す風衝地も。さすがに雨が強く、霧が濃いために写真で表現することは難しかったけれど、天然杉の森では全く感じなかった風が、風衝地に入ると日本海から強い風が吹き付けていた。演習林実習で「車のドアが飛んだ」との逸話も残るような場所があり、防風柵を作るなど手をかけて木を育てようと実験は試みたものの、木が育つ前に防護設備が飛ばされてしまったらしく、残骸だけが風の強さを語っていた。

風衝地を含むような場所で育っている天然杉を見ると、佐渡の天然杉は、「雪と風が創り上げた芸術作品」とでもいえるのかもしれない。雨と闘いながら演習林を歩きまわり、天然杉を堪能する一日になった。

3 セミナー2 (佐渡ゼミ)

今回の合宿は、施業研究会の参加者が9名という少数精鋭。9名中7名は1か月前の蒜山合宿と連続参加という猛者。その蒜山合宿ではひたすらセミナーを繰り返したことから、本合宿での発表者は3名に留まり、セミナーは2日目の夜一回にまとめた。

新潟大学の佐渡演習林では、全国の大学生や研究者を受け入れて実習や研究協力を行っている。せっかく専門家が来るのだからと、来訪された研究者などの技術や知見を公開する「佐渡ゼミ」を開講している。今回のセミナーも、「佐渡ゼミ」の一環として公開し、地元の方にも聴いていただいた。

今回のセミナーでの発表内容は以下のとおり。

1)「育林ガイドライン」の方向と着地点-現在迷走中
  今井正憲(京都府森林技術センター)

京都府でも木材利用拡大に向けて皆伐が進んできている。しかし、林業現場を指導する林業普及指導員から、「伐採跡地をどのようにしていけば良いのかわからない」と問われてしまっている。これは、「伐採再造林の技術がない」ということではなく、「再造林経費が回収できない」ために、どのように指導してよいのかわからないということ。次世代の森林を育てるための「育林ガイドライン」を示せといわれるが、近年話題となる「低コスト造林」に関しても「お買い得感」を感じない。今後の森づくりを考えると、京都では林業の振興よりも昨年の台風被害でもあったように防災面での検討が重要となり、迷走しているとの報告。

フロアからは、目標の持ち方に柔軟性を持つべきではないか、山林所有者が好きなように考えられる仕組みを整備すべきではといった意見が出されていた。反面で、人員・経費の節減により、現場を歩いて評価する人材はいなくなっており、本来高コストとなる調査、補植費用をどのように担保すればよいのかが議論されていた。

2) 散水条件が菌床椎茸発生に与える影響
  中田理恵(静岡県森林・林業研究センター)

生しいたけ栽培の80%を占める菌床栽培では、ブナシメジやエノキのように1回の発生で菌床を使い捨てすることなく、21日間の休眠期を置いて2回目以降を発生させる。1回目の発生から2回目の発生までに菌床を休ませる休眠期をどのように管理するかが全体の収量に関わるため重要。そこで、休眠期の散水条件を変え、最適な散水管理を検討した。

その結果、休眠期であっても散水量を多く、毎日実施することが重要となった。2回の収穫を比較すると1回目は収量が稼げるが、2回目以降はサイズが大きくなる傾向があり、1回目と2回目以降の菌床をうまく回転させることで収量と質のバランスが取れると報告。

佐渡から参加された佐渡振興局の職員からは、佐渡ではアカマツ林下で育てる「天白どんこ」が干しシイタケの優良ブランドとして、高評価を受けていることを紹介された。

3) 戸隠神社杉並木における近年の樹高成長
  小山泰弘(長野県林業総合センター)

県の天然記念物に指定されている戸隠神社の杉並木に関して、成長解析を行った結果を報告。並木が誕生してから400年とされているが、台風で倒伏した個体を用いて行った解析では、成長解析を行った個体は200~300年生のスギで、ここ100年間の成長はほぼ均質で、明瞭な成長停滞は見られなかった。200年を超えるスギでも一定の成長を続けることは各地で報告され始めているが、今回の結果もこれを支持していた。

なお、調査木は根元が腐朽していたために台風で倒れたと考えられ、こうした木がどの程度存在するのか?その場合の危険性はどうなっているのか?といった形での質疑があり、心材腐朽木が増えていることは事実であるが、参道の対岸が自然林のため踏圧等の心配はそれほど大きくないことを報告した。また、心材の腐朽程度は個体によって違っており、成長解析の結果からも杉並木は、同齢林ではないため、老齢化による衰退が激しいとは言えない結果となった。

4 間伐実習

合宿3日目は朝から新潟大学の学生実習にお借りしている地区の共有林へ行き、大阪教育大学の学生を主な対象とした間伐実習を行った。現地では、まず間伐の目的を含めた森林施業全体の説明を代表の横井さんから。


その後、大阪教育大学の学生4名が森に入り、一人一本ずつの「育てたい木」の選木を実施。


残したい木を選んだ理由をそれぞれから述べていただき、まわりが選木に納得したところで、演習林の技術職員によって伐採作業を実施。


間伐を行うことで、林内に空間が確保され、枝が伸びる環境が生まれることを学生に実感してもらう時間に。私たち自身も、日ごろ林業に親しむことがない人への指導方法を学ぶ時間になった。

5 渓畔林を観る

間伐実習を行った森林の脇にある森林は、1995年に発生した土石流で崩壊した後に発生した渓畔林。そこで、攪乱から20年が経過した現場で、更新状況を確認した。

今回の結果から、オノエヤナギやヤマハンノキといった攪乱直後に優占するパイオニア樹種と、カツラやサワグルミのように安定した渓流で優占する遷移後期種は、同所的に発生していることを突き止めた。大規模攪乱が発生すると、成長が早いパイオニア種だけが先行して成林することが多いため、パイオニア種だけが優先して育つと思いがちである。しかし、今回の結果から大規模攪乱が起きれば、パイオニア種から遷移後期種までが一斉に森林を形成することが伺えた。

初期成長の早いパイオニア種は、一気に製成林して優占するが、寿命が短い。一方で、同時期に発生で来た遷移後期種は、パイオニア種にすぐに抜かれるものの、耐陰性があることから、下層木として緩やかながらも成長し、パイオニア種が寿命を迎えることで、取って代わると推察されていた。

土石流での攪乱後の植生変化に関しては、崎尾さんが書かれた「水辺の樹木誌 東大出版会2017」に詳しく記載されている(P140-149)。


佐渡の渓畔林の最後は、地区の共有林があった外海府から山越えをして内海府へ渡り、黒姫集落の上流へと向かった。ここは、実際の調査は行っていないものの、カツラやトチ、サワグルミなどの大木が残り、道路際ではあるが渓畔林が良く残されていた。急な渓谷で沢に下るのは出来なかったけれど、成熟した渓畔林を眺め、佐渡の渓畔林をじっくりと楽しむひと時となった。

 

6 そして再び天然杉

施業研究会の案内では、これで終了の予定であった。

しかし、前日に演習林へ向かう車窓に、「大佐渡石名天然杉」と書かれた大きな看板が参加者の目を引き付けていた。
「あれは何?」と尋ねる参加者があまりにも多かったためか、「時間を調整して、そちらのスギにも案内します」と崎尾さんの機転で、「大佐渡石名天然杉」を見学することに。

これは、佐渡演習林の天然杉が有名になった一方で、自然環境保全の観点から入山制限をしてしまったため、制限区域外の県有林に残る天然杉を公開しようとして一般に開放したところ。佐渡演習林とは異なり、誰でも見学ができるのが特徴で、初心者向けとのことだが、せっかくの機会ということで一周1時間の遊歩道をゆっくり歩いて観察させていただいた。

石名天然杉は、内海府の和木と外海府の石名を結ぶふるさと林道の峠付近に位置しており、スギ林の入り口には林道開通記念の石碑が鎮座していた。


石碑の脇にある作業道から山に入り、さらに遊歩道へ向かうと、まずは、象のようにも見える「象牙杉」が登場。観光地として売り出したいらしく、立派な看板がつけられている。こうした看板を付けたスギが点々と見られる石名天然杉の森であるが、奇形のスギが点々としているほかは、細いスギしかなく、売れそうな木を伐採して、切り残された奇形木だけが残っているような雰囲気。


確かに点々と、巨木はあるものの、森としてみれば、細い個体が多く、森林としての健全度は新潟大学演習林の比ではない。それでも、演習林で見た不思議な世界はここでも味わうことができ、見学順序が逆だったらと考えたら、ここでも満足できたのではないかと思えるほどだった。

もう一つ面白かったのが、天気。
この日は、昨日とは打って変わった晴天だったので、快適な山歩きで、天然杉も青空に良く映えていた。ところが、ファインダーを覗いて大木のスギを観ると、コントラストが強くぎる。根元を強調すれば林冠が白くなり、林冠にあわせると根元が暗くなるといった感じで、美しさも半減。石名の天然杉が悪かったということでないが、「スギは霧の方が美しい」と言っていた意味を納得した。

こうして2か所めの天然スギ林までを見学して3日目の工程を終えた。

 

石名天然スギ林にて

7 帰途の前に

佐渡合宿最終日は、宿舎で崎尾さんと別れ、阿部先生のガイドで海岸線を巡りながら両津港へと戻った。昼のフェリーで佐渡を離れることから、駆け足での佐渡巡りである。最初に止まったのが、佐渡最北端の大野亀にあるトビシマカンゾウの群生地。トビシマカンゾウの時期ではないことからススキ草原となっていたが、昨日までの森林環境とは異なり明るい草原でのんびりと散策。こういう景色を見ると、「花の時期に来たかった」と思わせてくれる。


さらに、もう一か所。大佐渡ではここだけという熊野神社のタブ林。


冷温帯をフィールドとしている私とすれば、全くなじみのない常緑樹であるが、大阪教育大学の学生にしてみれば、「どこかで見た懐かしい景色」。

遥か遠くまでやってきて、懐かしい植物に出会うというのも、旅の一部には逢ってもよいのかな?と感じた次第。私はといえば、他地域の常緑樹林と異なり、タブノキのほかは、ヤブツバキとシロダモだけしか生えていないと聞き、ちょっとだけ安心。タブノキの観察に時間を費やした。

8 おわりに

4日間にわたって、山に登り、天然杉を眺め続ける贅沢な合宿。一昨年のオプショナルツアーで出かけた隠岐の島から、昨年度秋田に続いて、三年連続で天然杉と戯れる時間となった森林施業研究会の合宿。3カ所とも日本海側の俗にいうウラスギを観てきたわけだが、それぞれの表情が異なってきた。しかも、記憶が薄れないうちに次の森を観ることができ、結果として頭の中で比較できたことはとても良い経験となった。

今回の合宿では、大阪教育大学の実習と重なったことや、現場を歩いて楽しんでしまう時間が多く、現場見学でも普段のように昼間に現場で徹底討論になはらなかった。しかも少数精鋭の参加者だったこともあり、口角泡を飛ばすような議論ではなく、和気あいあいの雰囲気となった。これは参加者がそういう雰囲気を望んでいたのか、佐渡の天然杉がそうさせたのかは定かではないが、昼夜を問わず議論が紛糾する、過去の合宿とはちょっと離れたゆるやかな時間になったことは印象的だった。

いずれにしても、「良い山を観て、頭を整理し、眼を肥やす」という本来の目的が達成できたことは間違いがない。こうした合宿の運営に携わっていただいた、新潟大学の崎尾教授をはじめとする演習林のみなさまに、改めて感謝申し上げます。


佐渡合宿の感想

はじめまして、ヒバ。

阪口 奨(大阪教育大学教育学部4年)

大阪教育大学の授業「植物野外実習」では、ここ数年は毎年この新潟大学の佐渡演習林にお邪魔させて頂き、崎尾先生の講義を受けるという予定でしたが、今年度は参加する学生の数が4人と例年よりも少なかったことから、森林施業研究会様の合宿と合同という形になりました。

初日の夜は、崎尾先生に佐渡の森林についての講義をして頂き、演習林の植生について学ぶと共に、いよいよ演習林に行くのだ、という気持ちを高めることが出来ました。

2日目はまずスギの人工林について見学させて頂き、スギの林床にヒノキアスナロをはじめとした様々な植物が存在すること、逆にヒノキアスナロの林床には下層植生がないことを学びました。ヒノキアスナロについては初めて知った植物でしたが、スギと違って葉が鱗片状で龍のようでかっこいい、というのが第一印象でした。

その後、スギの天然林について見学させて頂きました。歩きにくい足下、枝打ちされていない木々、太さもまばら、根元から曲がっているものが多数など人工林との違いがたくさん見られましたが、それでも懸命に空に向かって伸びようとする底知れない力強さを感じることができました。また林床ではスギに負けてしまったのか、ヒノキアスナロが小さく生えており、ヒノキアスナロを見つける度に「負けるな、がんばれ」と応援している自分がいました。その後、風衝地で咲く植物について見学させて頂きました。

3日目の午前には間伐の体験として、実際に間伐する木を自分達で選ばせて頂きました。自分が間伐する木を選ぶ時は、光も届いている上、こんなにたくさん太くまっすぐ育っているのに勿体ないな、という感覚を抱きました。しかし実際に間伐してみることで、大きなギャップが出来ること(写真)、その木のみならず周囲の木もさらに光を得ることが出来ることを感覚的に知ることができ、多くの考えを経て、実際に間伐がされているのだということを学ぶことが出来ました。また、スギの樹皮をめくると甘い部分(師部)が存在することを舌で確認でき、鹿がなぜ樹皮を好んで食むのか、自らの感覚で理解出来ました。

間伐前

間伐後

また、午後は渓畔林のパイオニア種であるヤマハンノキやオノエヤナギに、それらに追いかけて優占するカツラやサワグルミの巨木を見学しました。ちょうどヤマハンノキやオニグルミは地面に果実が落ちており、手で触って確認することが出来ました。この後、今度は県が整備している天然スギを見学させて頂きました。

4日目は、大野亀や熊野神社の植生を見学させて頂きました。大野亀では名物であるトビシマカンゾウは時期違いで咲いていなかったものの、ハマベノギク、ゲノショウコウ、ヤマジソが咲いており、それらの特性について教えて頂きました。また熊野神社では風が弱いため、照葉樹が発達しており、自分でも見たことがある、シロダモやヒメアオキといったものが生え、演習林とは植生が大きく異なることを教えて頂きました。

自分は、卒業研究でツリガネニンジンという草本植物に関することを行っていますが、3年生になるまで草木の名前を進んで覚えようとしたこともなく、当然林業に関して学んだことはこれまで一度もありませんでした。自分なんかでついて行くことが出来るだろうか、と不安を抱えたまま参加することとなった今回の実習でしたが、森林施業研究会の皆様には、植物名にはじまる植物に関する質問に一つ一つ丁寧に答えて頂いたり、植物や林業の知識に関してたくさん教えて頂いたりと大変お世話になりました。また、林業に関する現場を見てきた方々の熱い思いをたくさん聞かせて頂き、林業に関して強い興味を抱く機会となりました。今回の実習の経験を活かし、さらに学びを深めて、植物とはこのように不思議で面白いものであるということ、現在林業で抱えている問題に関心を持ってもらうことの大切であるということを伝えられるような先生を目指したいと思います。

改めて、新潟大学の崎尾先生、阿部先生、松倉先生をはじめ、数々の知識をご教授頂いた森林施業研究会の皆様に心より感謝申し上げます。


天スギを堪能して

横井秀一(岐阜県立森林文化アカデミー)

自分が森林施業研究会の合宿に参加する(会の代表という立場からは主宰すると言うべきでしょうか)第一の動機は、各地の様々な施業を見ながら議論することで、施業に関する知見や考えを深めることです。それと同時に、あちこちの天然林(自然林や二次林)を訪れたり、移動中に眺めたりすることで、森林に対する知見を広めることも重要な動機になっています。

今回の佐渡合宿では、新潟大学佐渡自然共生科学センターの崎尾均さんに、佐渡島に分布する天然林をいくつか案内していただきました。佐渡を訪れるのは2回目ですが、前回は森林を見る時間があまりなかったので、佐渡の森林に本格的に触れるのは今回が初めてです。期待に背かず、それはとても楽しいものでした。

島嶼の植生ということでは、一昨年(2017年)の島根合宿のオプショナルツアーで訪れた隠岐と比べながら見ていました。また、その前(2016年)の沖縄合宿で訪れた沖縄本島北部の沿岸部の景観とよく似た景観を佐渡の沿岸部にも見ることができました。海洋に囲まれているという環境の作り出す植生や植生景観は、なぜそうなっているのかなど自分ではまだ十分に理解できていないのですが、知的好奇心をそそるに十分なものでした。

佐渡北部の広葉樹天然林については、渓畔要素があちこちに見られるというのが第一の印象でした。とくにサワグルミが目立ちました。案内してくださったのが渓畔林研究の第一人者である崎尾さんの姿とダブって、何か妙に納得してしまいました(全然、科学的な話ではありません)。

そして、何と言ってもおもしろかったのがスギ天然林。崎尾さんによると、佐渡の天然スギの樹齢はそれほどには高くないということですが、それでも3ヶ所で見た天然スギは、それぞれ十分に魅力的でした。これまでに参加した合宿では、いくつもの天然スギに触れています。最近では、秋田・白神合宿(2018年)の天然スギ、島根合宿(2017年)の太古の天然スギ埋没林(今年の蒜山合宿のオプショナルツアーで再訪)、島根合宿のオプショナルツアーでで訪れた隠岐の天然スギ、琵琶湖合宿(2014年)で見た扇状地に生える天然スギ(威厳のある木ではありませんが)、山形合宿(2010年)での最上川沿いの尾根に分布する天然スギなどです。それぞれに生育地の立地が異なり、それに過去の人為の影響が加わるものもあり、スギの樹形や林分構造もそれに応じて異なっています。それが、なんともおもしろい。ふだんスギ人工林を見慣れた目には、いずれも新鮮なものでした。スギという樹種のたくましさも感じました。

佐渡の天然スギは、秋田や隠岐のスギと異なる樹形を呈しています。これまでにも伏条更新で個体維持をしている天然スギはいくつか見ていますが、これほど多くの伏条樹形の個体を見たのは、今回が初めてです。株状に生育するスギを、どれとどれが同じ個体でどれが違う個体なのかとか、どれがどうなってこの樹形になったのかとか、いろんなことを考えながら、次々と現れるスギを眺めながら歩くのは至福の一時でした。

今回の合宿を企画・運営してくださった崎尾さん、ありがとうございます。同じ時間を過ごさせていただき、いろいろと情報交換させていただいた参加者の皆さんにも感謝いたします。

株立ちのスギ―左下に伸びるのは根か枝か

株立ち&伏条のスギ―何がどうなっているのか

スギの根元にわさわさ生えるひこばえ―これらも株立ちや伏条の元になるのか