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木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.74 (2021年3月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

TOPICS​

  • 森林施業研究会「飛騨合宿」の記録と感想

森林施業研究会飛騨合宿記録

森林施業研究会2020現地検討会(飛騨合宿)は「飛騨で広葉樹林施業を考える」と題し令和2年10月4日(日)~10月6日(火)の日程で岐阜県高山市、飛騨市で開催しました。

コロナ禍の中での開催ということもあり例年実施してきた夜のセミナーを縮小したり宿泊を各自別にしたりと変則的な形式となりましたが、多くの方に参加していただきました。

なお、3名の方に合宿の3日間の記録を分担して報告していただきました。また、5名の方に感想をお寄せいただきました。ここに記してお礼申し上げます。

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参加者の集合写真

 

1日目(10月4日(日))

島田博匡(三重県林業研究所)

○清見町有用広葉樹モデル整備林(高山市清見町夏厩地内) 

岐阜県飛騨農林事務所佐野氏の案内により現地検討が行われた。当モデル林は広葉樹二次林を良質な広葉樹林に誘導するための技術の開発を目的として1984年に設定され、所有者の二本木生産森林組合と岐阜県飛騨農林事務所により30年以上もの間、維持管理や定期的な追跡調査が行われている。面積5haの二次林であり、設定時の林齢は40年生(2020年時点で76年生)、ミズナラ、コナラ、クリ、ホオノキ等が優占していた。ここに仕立て本数や施業方法が異なる下記の5つの施業区と対照区が設置された。

No1 中伐期施業区→高伐期施業区 (仕立本数1000→500本/ha)
中・小径木主体で不用木・不良木を間伐、将来的に中伐期種を択伐・収穫して高伐期施業に

No2 対照区
無施業

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写真:No2付近

No3 中伐期施業区→高伐期施業区 (仕立本数1500→500本/ha) 
大径木も含めて不用木・不良木を間伐、将来的に中伐期種を択伐・収穫して高伐期施業に

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写真:No3付近

No4 中伐期施業区 (仕立本数800本/ha) 
大径木を含む不用木等を伐採し、ホオノキ等中伐期樹種の成長を促進

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写真:No4付近

No5-1 コナラ高伐期施業区 (仕立本数300本/ha) 

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写真:No5-1付近

No5-2 コナラ高伐期施業区 (仕立本数600本/ha) 
コナラの高伐期施業の可能性を検証するために密度を変えて不用木等を伐採

現在、胸高直径は間伐率の高かったコナラ高伐期試験区で最も大きい。その他の試験区では間伐後10年ほどは成長量が大きかったが、現在の胸高直径は対照区と大差ない状態になっており、本数率3割程度の間伐では成長促進効果があまり持続しないようであった。これについては、間伐時期が遅かったこと、間伐において収穫できる木から抜き切りを行ったことも関係している可能性がある。ただし、間伐率が高かったコナラ高伐期施業区では雪害が発生しており、林分状況によっては間伐率を上げ過ぎないように注意が必要である。また、コナラ、ミズナラ、クリなどでは後生枝が多く発生したが、発生防止のためには上層木の成長を妨げない中層木、下層木を残す必要があったと考えられる。また、期首直径とその後の成長量の関係にはNo3を除いて相関みられず、間伐時のサイズがその後の成長を左右するとはいえないことがわかった、そのため将来木の選木ではサイズばかりに目を向けず、枝張り、根張り、葉量なども考慮して活力がある個体を選木する必要がある。

このモデル林での調査結果から明らかになった広葉樹の間伐を行う上での留意点は以下のとおりであった。

  • 活力があり、樹冠の張り方が良く形質が優れた木を将来木として選ぶ。
  • 間伐率は、林分の状況や次回間伐時期などを踏まえて設定する。その際には胸高断面積合計間伐率を参考にする。基準となる年輪幅2~3mm以上の直径成長を得るには胸高断面積合計間伐率40~50%に設定する。あるいは優良・優勢木のみの成長を促すようにその周囲だけを強度に間伐する手法の採用を検討する。
  • 間伐の際には後生枝の発生を防ぐために、将来木周囲の中・下層木を極力残す。

2016年、2017年にはNo1とNo3の中伐期施業区→高伐期施業区において「将来木施業」の手法により選木を行い間伐が行われた。今後も引き続き追跡調査を行い、施業の効果が検証される予定になっている。

参加者からは、2016年、2017年の整備について、現地で立木を見ながら将来木を選定したが、これまでの成長量データがある区域については、成長量も加味しながら選木を行うこともできたのではないかとの意見があった。また、対照区の胸高直径はNo1、3、4区とほとんど変わらないことから、コスト面を考えると施業を行う意義についてどのように整理したらよいのか?との質問があり、これに対して、施業を行うことで早期に優良材を生産することを目指しているが、最終的な収益に見合うコストで施業が実施できるかについても十分に検討する必要があるとのことであった。目標径級については、ホオノキ、クリは径18~22cmでも用材として利用できるが、ブナ、ナラ類などは大径化するほど材価があがることから大径材生産を目指している。基準となる年輪幅2~3mmについては、市場から求められる年輪幅は樹種によって異なるが最大公約数としてその数値を設定しているとの説明があった。

私がこのモデル林で最も印象に残ったことは、研究機関であっても維持することが困難な大規模な試験地を生産森林組合と地元行政機関が長年にわたって維持管理し、調査まで継続してきたということである。それには非常に困難が伴ったと推察するが、佐野氏をはじめ関係者のご尽力に頭が下がる思いであった。なお、当モデル林の設定時から2014年までの調査結果は下記文献に取りまとめられている。

佐野公樹(2020)天然生広葉樹林における間伐の効果 ~「清見町有用広葉樹モデル整備林」の30年~.森林技術937:28-32

○セミナー(場所:高山市民文化会館)

4名の参加者から話題提供があり、意見交換等を行った。

話題① 「ドイツの林業専門大学で学んだこと ~造林学の基礎・林分の状況描写~」
岐阜県立森林文化アカデミー 小原光力

演者は昨年6月から今年8月までドイツのロッテンブルグ林業専門大学に交換留学生として留学した。この大学では区域担当森林官の養成を行っている。ここで学んだことのうち、土壌特性を把握するための指標植物表、林分評価のための状況描写シートに関して報告があった。指標植物表はロッテンブルグ林業専門大学で作成されたものであり、指標植物から土壌特性(乾湿、痩肥の軸を基準にいくつかに分けられる)、各土壌に適した植栽樹種が判定できるものであった。なかには「乾燥且つ肥沃地」の区分があり、水分環境が肥沃度と密接に関連する日本の森林ではイメージしにくい区分もあったが、後に演者に質問したところ、このような区分に適した植栽樹種があるものの積極的な森林施業は行わない区分とのことであった。学生は植物の同定と合わせてこの表から導かれる土壌特性、植栽に適した樹種まで徹底的に学習する。また、状況描写シートは林分特性に関する様々な情報を記録し、そこから現状の判定、望ましい今後の施業を判断するものであり、これについても様々な森林で状況描写による森林状況の診断と施業方針の決定について徹底的な現場主義でトレーニングを行うとのことであった。

話題②「繁殖特性に基づいた多様な広葉樹の苗づくり」 
TOGA森の大学校 長谷川幹夫

2016年に富山県で開催された全国育樹祭に合わせて、富山県森林研究所で多品目の地域性種苗を生産することとなり、50種の育苗(ポット苗・コンテナ苗)に取り組んだ結果が報告された。種子、山引苗のいずれにも取り組んだが、山引苗の育成により比較的容易に苗木を育成できることがわかった。山引苗用の実生採取は日頃から森林を観察して生育場所の特性を知ることで比較的簡単に行える。山引苗の育成培地は培養土と赤玉土を50%ずつ混ぜたものであり、これに緩効性肥料も加えている。50種の種子特性は概ね過去の知見と一致していたが、なかには異なるものもあり、例えばマンサクは過去の文献では翌年までに発芽力を失うとあるが、乾燥することで3年くらいは保存できる。これらの結果は下記において報告されている。

長谷川幹夫(2019)身近な森づくりのための多様な樹木の苗づくり.富山県農林水産総合技術センター森林研究所研究レポート20:1-6

話題③「広葉樹林の有効利用に向けて」 
森林総合研究所関西支所 齊藤 哲

森林総研関西支所が中心となって今年度から行われている研究プロジェクトについて説明があった。日本の森林において蓄積の3割、面積の5割が広葉樹である。採材次第で様々な用材として活用でき、材価もスギ、ヒノキより高いこともあるが、現状、素材生産の1割が用材、9割は安価な低質材であり、高いポテンシャルが活用されていない。広葉樹施業により収益が見込めれば、広葉樹の有効利用が広がる可能性がある。そのため広葉樹が適正に売買された場合の収入、材生産にかかるコストなどの評価を行い、広葉樹の資産価値、収益性を明らかにしようとするものである。具体的な実施内容としては、広葉樹生産コスト予測(作業道開設や伐出作業のモデル化・コスト計算)、資源量の評価(衛星データ、ドローン空撮画像などを活用)、資産価値の評価(地上レーザ測量で得られた点群データ解析による適正な採材方法の検討)などが行われる予定である。

話題④「飛騨市の広葉樹によるまちづくり」 
飛騨市地域おこし協力隊 及川 幹

飛騨市では「広葉樹のまちづくり」を推進しており、これまではほとんどがパルプ・チップ材として市外に安価で流出した広葉樹材を有効活用するために「地域内広葉樹活用体系」を確立し、広葉樹主体とした地域経済循環の創造を目指している。そのなかで広葉樹大径材の育成、小径木の有効活用を中心に取り組んでいる。大径材育成ではスイス式の育成木施業に平成26年度から取り組んでおり、市有林の広葉樹林において、飛騨市森林組合がスイスのフォレスタ―による研修で得た知識と技術を活用した施業を実践的に行い、経験を積むとともに最適な施業方法の検討を行っている。小径木の活用については、株式会社飛騨の森でクマは踊る(ひだくま)が行う様々な取り組みのなかで木工作家などによる利用が増加しているが、50m3/年ほどにとどまっており、生産される数千m3/年の材をどのように活用するかが課題となっている。演者は飛騨市役所で広葉樹の利用拡大と需給マッチングの推進に取り組んでいる。

 

日目(10月4日(月))   

中田理恵(静岡県農林技術研究所森林・林業研究センター)

朝から小雨が降る中、道路事情の関係で飛驒市宮川町の飛騨市の施業地へ行先が変わった。前日のセミナーで飛驒市広葉樹活用コンシェルジュ及川氏より「飛驒市の広葉樹のまちづくり」が紹介された。森林率93%の飛驒市は、地域資源として豊富にある「広葉樹の森を活かす」ことで持続可能な地域づくりを目指している。具体的には、広葉樹林に手を入れ、育成し、商品として流通する仕組みの整備、新しい商品の開発、高付加価値化等を飛騨地域内で行い、広葉樹を安定的かつ継続的にその価値を高めながら利用していくことで、新たな地域経済循環の創造を目指す取り組みである。 その飛驒市広葉樹資源活用モデル林整備事業で整備した広葉樹林を見学した。現場は池ケ原湿原近くの飛驒市有林2か所である。

○飛驒市宮川町洞サイノカミ 広葉樹活用モデル林 

標高1,050m、北西斜面10°~15°、降雪1m以上。以前は薪炭林として利用し、その後放置。育成木施業5.0ha。

2016年に47年生で育成木施業を開始し、2020年現在51年生。これまで活用されてこなかった小径木広葉樹の活用を目指し、飛驒市森林整備計画に則り育成木100本/ha、支障木(ライバル木) 300本/haの選木を行い、支障木を伐採し搬出した。

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写真:育成木施業地(51年生)

育成木:ホウノキ、ミズナラ、ブナ、ミズメ、ウダイカンバ、トチノキ、イタヤカエデ他
支障木(伐採):シラカバ、ホウノキ、コシアブラ、ブナ、ミズメ、ドロノキ他

作業道開設(幅員3.0mバックホウ)→チェーンソー伐採→ウインチグラップル集材→チェーンソー造材→フォワーダー搬出→トラック運搬で実施し、伐採木は搬出した。

現地では、ぎふフォレスター協会の中谷氏の説明の後、岐阜県立森林文化アカデミー横井教授より「育成木施業ってわかる人いますか。手を挙げてください。」と講義が始まった。育成木施業とは、将来木施業とも呼ばれ、目標の本数密度に見合う本数を育成木(将来木)として選木し、支障となる木を伐採して、育成木を育てていく施業。育成木施業は、スイスの言葉を翻訳した(ドイツでは将来木施業)。育成木は①バイタリティ、②クオリティー、③スペースの優先順位で選木する。樹木は本数が多く樹高成長が盛んな時期は、枝が枯れあがっていく。そのままでは樹冠が広がらず細いままである。そこで、あらかじめ育成する木を選木し、育成木の樹冠拡張に支障となる木を取り除き肥大させる。育成木の目標を100本/haとするなら、10m毎に1本の育成木を決めてマーキングする。樹冠を拡張させるため、支障木を切って(巻枯らし、伐採)いく。育成木1本に対して1~2本の支障木を切る。育成木と育成木の間の木や低木は伐採せずにそのままにして、後生枝の生存を抑え、風倒害、雪害等が出ないよう育成木を守る木とする、というものらしい。

飛驒市は2016年に育成木施業の方針で選木、支障木伐採を行ったのだが、木材生産の方針のもと、支障木だけでなく、育成木を守る木、下木も刈払いしてしまい、残存木が少なくなってしまった。結果として本数伐採率50%の予定以上の伐採となり、風倒、雪害の発生、後生枝の残存が心配されている。環境保全と木材生産の両立を目指して育成木施業を実施したが、山が良くなるためという視点が欠けてしまい、両立はなかなか難しかったとのこと。また、多様な種がある広葉樹林では、どの種を育成するかで将来の収益が変わってくる。かつて高値だったケヤキは、今は価格が下がってしまっている。収穫期にどの樹種が高値になるか誰も分からないため、育成する樹種は多い方が望ましい、と話があった。

雨はすっかりやみ、日差しが育成木の幹を白く照らしていた。林床や作業道にはシラカバ、ミズメ、ウダイカンバ、ミズキ、キハダ等の実生がたくさん発生していた。林内は明るく、枝下高が高く、広葉樹にしては比較的まっすぐで、枝が枯れあがっていた。このまま肥大成長すればよい材が取れるのではないかと思ったが、育成木施業はもう少し早い時期、枝がここまで枯れあがる前の競争が盛んな10~30年生位を目途に実施がする方がよかったとのことだった。

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写真:実生が発生している作業道

 

○飛驒市宮川町菅沼ククミカ谷 広葉樹施業・ストック確保実証試験地 

2019年に72年生広葉樹林2haにおいて、広葉樹のまちづくりを推進するため、広葉樹活用の流通の仕組み作りに向けた実証試験として、育成木施業の搬出にタワーヤーダを活用し、搬出した材は、試験地近くの山土場で製材業者等に売り払いを行った。伐採前立木材積424㎥/ha、胸高直径14~62㎝、樹高14~22m。

育成木:ミズナラ、ブナ、ウダイカンバ、イタヤカエデ、ミズメ、ホウノキ、シナノキ、トチノキ (平均胸高直径37㎝)
支障木(伐採):ミズナラ、ブナ、ウダイカンバ、イタヤカエデ、ヤマザクラ、ホウノキ、シナノキ、ミズメ 

タワーヤーダによる架線搬出のため列状の伐採地が三列あり、列状間伐を実施した林に見えた。架線搬出のため、架線設定→支障木の選定→育成木の選定→支障木(ライバル木)の選定の順に実施したが、架線集材や広葉樹の枝張りの複雑さによる支障木の追加、掛かり木処理により、当初選定した伐採木を超える伐採になり、選定した育成木の伐採を余儀なくされた。また、72年生の広葉樹は樹冠が大きく、谷部では密度が低いので、1本伐採すると大きな空間が開いてしまい、育成木施業は難しかった。育成木は、80本/haを選木していたが、結果として60本/ha程度となった。

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写真:タワーヤーダによる架線搬出跡が見える

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写真:架線下の状況

広葉樹の伐出は、枝張が大きく幹の曲がりがあることからプロセッサーが使用できないことや、針葉樹に比べ単木材積や歩留まりが低いことからコスト高になる。手入れがされていない高齢林で育成木施業と木材生産を合わせて行うことは無理があり、木材の安定供給と将来に向けての育成木施業の両立は難しく、別と考えるべきとのことであった。

伐採木は全幹で搬出、近くの山土場に集積し、需要側(製材業、木工作家等)に山土場に来てもらい販売した。山土場では、需要側の要望を聞きながら既定の長さにとらわれることなく採材した結果、用材率は単純に規定の長さに造材した場合に比べ2割程度アップした。

山土場での山側と需要側との意見交換では、山側は節や曲がった材は売れない等の既成概念が払拭され、需要側は販売の少ない規定外の材に創作意欲が高まり、材が高く売れ(ただし山土場までの運搬、造材経費の検証が必要)、有意義だった。

広葉樹の伐採事業の注意点として、夏季はカビの発生や虫害を受けやすく用材としては適さないため、伐採は秋季から冬季が望ましい。しかし、冬季は降雪のため林道が通行不能となるので、実施時期は10月から11月までに限られることになる。この時期は降雪前の繫忙期にあたるので、実働に余裕を持たせ事業面積を大きくしない、早期発注に努める、広葉樹の伐倒、搬出、造材は人工林より手間がかかるので積算に注意が必要、などが述べられた。また、ここでの育成木施業は、対象林齢として競争が盛んな10~30年くらいを目途に、育成木の成長促進を行い、胸高直径30㎝程度に達したころ(60年生ころ)から育成木施業による収穫を行うことが望ましいとのことであった。

うっすら紅葉が始まった広葉樹林内には萌芽や実生がびっしりと発生していた。ヤマブドウのつるも見える。空は青く晴れ渡り、爽やかな秋風の下、参加者の議論は、今後の施業、伐採方法、更新のタイミング、日本とスイスの林業教育、広葉樹林の活用をどう地域活性化につなげるか、ヨーロッバと日本の広葉樹の違い等々と続き、止まる様子はなかった。

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写真;林床の状況 この萌芽は生き残るのだろうか

 

日目(10月6日(火))

今井正憲(京都府南丹広域振興局(元 京都府森林技術センター))

研究会3日目は、高山市荘川町六厩(むまや)地内にある、岐阜県森林研究所の荘川広葉樹総合試験林を見学し、横井氏と大洞氏から現地を歩きながら説明を受けた。この試験林は、1985年に当時の岐阜県寒冷地林業試験場が設定したもので、両氏は設定初期から今日まで、下刈りをはじめとする保育作業、成長量の計測、気象災害の影響など成林に至るまでの過程に関わって来られた。

○試験地の概要

ここでは、天然林の成長・更新試験林、人工造林試験林、除伐試験林など9種類もの試験目標の区画がある。当試験林は、針葉樹の林業樹種に比べ、ほとんど知見がなかった広葉樹について、その人工造林を実用化するための施業技術の確立を目指したものである。私たちが主に案内されたのは、このうちの天然林の成長・更新試験林と人工造林試験林であった。

林道を挟んで渓流側の渓畔域に天然林の成長・天然更新試験地、その反対側の山腹斜面に人工造林試験地が配置され、樹種の特性と植栽地の条件との関係、保育施業の有無による成長量の違い及び雪害をはじめとする気象災害による影響などについて調査が続けられている。

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写真:除伐試験地

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写真:カツラ人工林

天然林の成長・天然更新試験地は、ミズキ、イタヤカエデ、シナノキ、ハルニレなどが混交する二次林の林相であり、順調に再生しつつあるように見える。説明によると、皆伐直後は先駆樹種のヌルデが純林に近い状態で優占していたが虫害で一斉に衰退し、その後に現在の構成樹種が侵入または稚樹が勢いづいて成長したとのことである。ヌルデの寿命は長くはないので、いずれは他の樹種に置換したであろうが、偶然にも虫害が植生遷移を加速させた貴重な例である。

次に案内された人工造林試験林は人頭大かそれ以上の転石が多く、設定時の植栽作業は植穴を掘るというより石を起こして、そこに客土をしてポット苗を“置く”という感じで行われたとのことである。このことから、山腹から斜面下部は崩積地であると推測できる。山腹斜面に下部から上部に向かってカツラ、ケヤキ、クリの順に樹種ごとに3,000~4,000本/haの密度で人工植栽され、さらに、それぞれの樹種について、下刈り及び間伐等の保育施業を実施した集約区とこれらの施業を行わない粗放区に細分化されている。

○林分の状況

植栽から35年が経過し一部に他樹種の侵入木もあるため、林外から見た景観は普通の広葉樹林に見えるが、試験区内に入ると区画ごとに径級が似通ったクリ、ケヤキ、カツラがそれぞれ優占する林分であり、そこが人工植栽地であることがわかる。

施業が異なる試験区の比較では、下刈り及び間伐が実施された集約区の直径が大きい傾向が見られた。これら施業による初期成長の促進が個体サイズを大きくし、植栽木の枯損を抑え優占度を高める上で重要であることを示している。一方の下刈りを省略した粗放区は植栽木の形状比が高い。樹冠が横に広がる広葉樹は幼樹期に被圧されると挽回するのは難しいようである。

また、現地での説明にもあったが、凹地形に植えられた個体の成長が良好であり、土壌や水分条件などの立地環境の差による影響が大きいことが観察できる。加えて、樹種の比較では中腹斜面のケヤキ試験区の成長は芳しくなく、試験区の中で最も下部の斜面で水分環境に恵まれた場所に植えられたカツラの成長も特に旺盛という状況ではなく林齢相応に感じられた。

これらのことから、成長の面から見るとケヤキは立地の影響を強く受けるのに対し、クリは立地条件に対する適応範囲が広いことが観察できる。

○所感

これら試験区の林相は有用広葉樹の植栽と保育施業について多くの示唆を与えてくれている。

一つは植栽木の活着と成長量は立地、中でも水分環境の影響が個体間競争における優劣に大きく影響することであろう。針葉樹の人工造林でも適地的木は最も重視すべき条件であるが、広葉樹の場合は斜面における配置に加え地形よる水分環境の差が、結果的に植栽後の優勢木と劣勢木を分ける要因になる可能性がある。人工植栽の際には、等間隔の植栽にこだわらずに、不利な場所は植栽除地にするなどの工夫が必要と思われる。

二つ目は単一樹種の一斉植栽による単相林仕立が広葉樹に適しているかどうかという点である。これは、材の用途と育成目標とする個体サイズ、すなわち収穫適期をどう判断するかによって幾通りものストーリが想定できるため正解を見出すことは甚だ難しい。それでも3,000本/ha程度の密度で等間隔に植栽し、除伐や間伐によって密度管理しながら標準伐期を目指す、といった拡大造林全盛期のスギやヒノキの一斉造林の育林体系を広葉樹にも適用するのは不向きな印象を受ける。

三つ目は上記の二つ目とも関連するが、広葉樹造林において伐期や目標林形の設定が必要なのかどうかという点である。有用広葉樹と言っても、その用途は建築用材、家具材などにとどまらず各種の器具材、工芸品、装飾・美術材料など様々である。これらを手掛ける職人の技術や好みによっても欲しい材質やサイズも多種多様で、それも時代時代の社会や生活様式によってニーズや価値も変化する。植栽時に用途や伐期を設定しても、価値が決まるのが先のこと過ぎて実感がわかない。不確実性が高い想定は脇において、材質やサイズが異なる樹木で構成される多様な林分を用意するのがリスク分散の面からも妥当なのかも知れない。

このように考えると、言葉の意味としては全く矛盾するが、広葉樹造林は人工的に天然林を育てることのように思えてくる。収穫伐期が長いことを考えると、植栽本数は植栽木同士での密度管理を必要としない程度とし、活着及び初期成長の促進に必要な下刈りは励行した上で、後は植栽木以外の樹種との混交を前提に、侵入してくる他樹種を含めた植生遷移を利用した長期育林がコスト面からも現実的だろう。今日植えた広葉樹の苗が育って収穫されるのは100年、150年先だと思えば、価値や用途、伐期のことは先々の世に委ねて気長に成長を見守りたい。

岐阜県森林研究所の広葉樹試験地が設定されて35年。これまでに多くの知見が報告され、現在の林相は見る人それぞれに様々な示唆を与えてくれる貴重な試験地である。これからも大切に育てられ、後々の研究員の方々に継承されていくことを願いつつ試験地を後にした。

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写真:間伐試験地付近

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写真:林内での議論

 

現地検討会(飛騨合宿)の感想

 

飛騨合宿の感想、広葉樹の森を紐解いた3日間

及川 幹(飛騨市地域おこし協力隊/広葉樹活用コンシェルジュ)

広葉樹施業を主題とした森林施業研究会が飛騨で開催されるということで、研究者でも技術者でもない身分の自分ではあったものの、思いきって参加させていただきました。更新の度合いを確認するために、稚樹を探して回る技術者たちの下向きな目線がとても新鮮で、議論に占める割合も少なくありませんでした。森林内での更新の重要性と不思議さ、そして面白さを痛感しました。林業をはじめとする経済的利用の悪いところでもありますが、有用広葉樹といわれる樹種以外は雑として認識されがちなのに対し、稚樹の同定には「雑」など存在しない樹木全般に対する知識が求められます。こういう生態学的知識を土台に、本来林業はあるべきなのでしょう。

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写真:荘川実験林 1 老齢木の下に植樹したブナ林

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写真:荘川実験林 2 カツラの人工林

荘川の実験林に関しては、天然林では起こりにくい条件下での遷移過程が見られて興味深かったです。これこそ研究分野の成果であるとも感じました。ケヤキ人工林において、土壌条件の微妙な違いでケヤキの優勢具合が異なったのは、木目が明瞭で、強度に優れた木材としての、力強いケヤキの姿からは想像もできませんでした。こんな繊細な木だったのかと思うと、もっと大切にしようという気にもなります。

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写真:荘川実験林 3 他樹種に負けるケヤキ人工林

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写真:池ヶ原湿原 1 自然はよくできているなと改めて感じました

そして、広葉樹林に対して森林施業をやることの意味について、これが3日間を通して一番重い議題でした。多様な価値観があってしかるべき議論ではありますが、個人的な想いとしては、やはり人間が自然とどう関わり、持続可能な関係性を築いていくかということは、これからの社会にとって避けては通れない課題だと思っています。森林施業を通して、自然に無理のないかたちでコントロールを利かせながら、付加価値の高い樹形に仕立て、多種多様な森林構成に誘導していく、そしてそれらを利用できるような流通の仕組みを整え、需要を掘り起こしていくこと。そこには森林と科学的根拠をもって向き合うことからマーケットの開拓まで、まさに人間の知恵の総力が求められ、これ以上に魅力的な分野はあるのだろうかと、楽観的かつ前向きな展望をどうしても抱いてしまいます。

貴重な3日間を過ごせて、大変勉強になりました。どうか、こうした場が途絶えることのないよう、心から願っております。

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写真:池ヶ原市有林 1 どうやって地域に森林の価値を伝えるのかという議論もとても熱かったです

 

広葉樹林施業現地検討会に参加して

齊藤 哲(森林総合研究所関西支所)

10月4-6日、森林施業研究会の広葉樹林施業現地検討会に参加してきました。ちょうど広葉樹林施業に関するテーマで研究プロジェクトを今年度から始めたばかりで、非常にタイムリーな内容であったことから、受付早々に申込みをしました。参加者名簿の一番目に名前が出ており、申込一番乗りだったのかもしれません。この検討会にぜひ参加したいという意気込みを感じ取ってもらえたら幸いです。

初日は、清見町有用広葉樹モデル林を案内していただきました。管理手法の異なる林分での成長量について説明していただき、かつて全国で大規模に展開されたスギ、アカマツなどを対象とした「保育形式試験」の小型版のような印象を受けました。ここでの本題から少し外れますが、頂いた広葉樹材の価格の資料に非常に興味を持ちました。スギ、ヒノキなどに比べ広葉樹材は材価が高いことが一般に認識されている反面、そうした価値で取引されるのはごく一部で、実際は価値がありながらも低質材として取引されているケースが多いのが現実です。いま自分たちが進めている課題では、低質材として扱われることの多い広葉樹資源を正当な価値で評価しようということを試みています。頂いた資料では、樹種・サイズごとの実際の取引価格がグラフで示され、広葉樹資源の価値のポテンシャルの高さを定量的にも示すものでした。

2日目は通行止めのトラブルもありながら3日目の見学予定地と入れ替えるなど、主催者の機転・尽力のおかげで、池ヶ原湿原周辺の飛驒市市有林、および荘川広葉樹総合試験林も堪能することが出来ました。飛驒市市有林では、保育木施業を実施した林分を見せていただきました。伐採時の採算を考えてどうしても多く伐りすぎたためうまくいかなかった事例として説明されていましたが、比較的形質のよい木も残されており、 “将来木”を育てるという意味では必ずしも失敗例ではなく、大径・高価値な広葉樹材生産の可能性もある林分のように感じました。次回の間伐など、今後の管理も重要になりますが、今後注視していきたい林分と個人的には思いました。みなさまはどのように感じられたでしたでしょうか。

将来木の選木や、保育木施業後の残存木の成長や後生枝の問題が盛んに議論されていましたが、私の専門が造林分野のこともあり、初日の清見町モデル林も含め、全体を通して気になったのが更新のことでした。いまある広葉樹林をいかに高価値材を生産出来る林分に誘導するかという視点に加え、いかに循環利用するかという視点も重要です。そのためには更新は避けて通れない要素です。この地の多くはかつては薪炭利用されており、現在は50〜100年くらいの二次林、しかも、植栽とかではなく天然更新した林分とのことでした。以前森林総研を中心に実施された広葉樹林化のプロジェクトでは、伐採後先ず更新するのはパイオニア種で、目的とする樹種の前生稚樹がなければ天然更新は容易でない、ということも指摘されています。個人的にも、萌芽更新を除き、天然更新は限られた条件下かよほど時間をかけないともとの林分構造には戻りにくいという印象を持っています。天然更新後50〜100年くらいで今回見学したような林分に戻るのであれば悪くはないと思いますが、それは特殊な条件下であったのか、この地域では普通にみられることなのか非常に気になりました。ある程度成林した林分で天然更新だったといわれている林分や、あるいは伐採直後の広葉樹の実生が発生している現場は見たことはありますが、寡聞ながら、パイオニア優占ではなく主要樹種が更新途上である若齢の天然更新地をあまりみたことがありません。そのためか、実生の発生から成林まで天然更新ってうまくいくんだという実感がわきません。今回の見学地のように実際に成林している林分もあり、天然更新って実際はどうなのかますます悩んでしまったところです。

飛騨高山は広葉樹利用に積極的に取り組んでいる地域のひとつといえます。それは、天然林から大径材が豊富に出てくる東北、北海道とはまたタイプが異なりますが、地域に適した広葉樹の循環利用システムというものがあるはずです。それがどういう形がいいのか、またどう構築していったらよいかについて、深く考えさせられることの多い3日間でした。

コロナ騒動でリモート開催や中止となるイベントが多いなか、現場での開催に尽力して頂いた方々に敬意を表します。また、いろいろご意見をくださった方々にお礼申し上げます。

 

現地検討会に参加して

持留 匠(京都大学 農学部森林科学科3回生)

はじめて森林施業研究会の合宿に参加させていただきました。今年はコロナで演習林実習がことごとく中止になり,自分から動かなければ!と思って参加した"森の道づくりWS in ひだ"という研修で,中谷さんにこの会のことを教えていただきました。HPの「まだ林学をやっている。」というコピーに惹かれ,その場で参加申し込みをしました。

自分は大学に入ってから,林道作業道,林業機械,架線集材など,森林利用学分野を中心に勉強してきました。今回のように造林・生態の先生方と山に入るのは初めてでしたし,なにより不勉強だったので,広葉樹施業の現場に入って「この山,どう思われます?」と言われても,どこをどう見れば良いのか分からずに,他の方々の質問を聞き逃すまいとするのがやっとでした。それでも感じた事といえば,今まで自分が想定してきたスギ・ヒノキ林業にくらべ,広葉樹林業がなんと複雑で面白いことか!ということです。

広葉樹ではスギ・ヒノキと異なり,除伐ひとつとってもどの樹種を育て残すのかという判断を必要とし,自ずと長期的な視点にたって「目標林型」と向き合わざるをえないです。また,樹種や現場の環境,材の用途などによって保育の方法,伐期,更新,その他の組み合わせの,多様なパターンのなかから,一定程度妥当な選択をする必要があります。こういった決定はすべて,十分な知識と,細かな観察,そして継続的な実践を基になされるべきものなのだろうな,と感じました。と同時に,本当に理想的な広葉樹林業は,愛着ベースで長期間山をみることのできる篤林家のような人にしか出来ないのではないか,とも思ったのですが,そのギャップを埋めるような仕事にも興味があります。

他にも印象に残った話題がいくつかあります。まずは,前述のような知識・観察・実践に基づいた妥当な判断ができるような人材が足りていないということ。ただ,今回のような話題は,森林科の学生の持っているアカデミックな興味と相性が良いように思ったので,少し誘導すればそういった人材の育成につなげることは出来るのではないか,併せてそういった人たちが,その能力を存分に活かせるような職場が多数あることが求められているのではないか,と感じました。

つぎに,理想的な施業体系があったとしても,補助金体系がそれに合致せず,本来的でない形の施業になってしまうということ。これも結局,知識・観察・実践に基づいた判断ができるような人材に事業の質を担保させ,現場に即した個別的な補助を認めていくような形が理想なのかな,と思いました。

最後に,ある森林に対して,そこから材を出すことでなく,その森林があること自体に価値を見出し,それを多くの人で合意することは出来ないのだろうか,という話題です。道を入れて人を呼んで...という地道な手法の他に,ウルトラC的なアプローチはあるのだろうか,と気になっています。

以上のようにまとめてはみましたが,なかなか本質に辿り着けていないような気もしています。今回を機会に,造林や樹木の生理生態のことをもっと勉強し,また来年の合宿にも挑戦してみたいと思っています。

最後にはなりますが,山でご一緒させていただいた皆様,学生の荒削りの話にご相手してくださった方々,そして主催の方々,3日間たくさん勉強させていただきました,ありがとうございました。

 

森林施業研究会「飛騨で広葉樹施業を考える」 in 飛騨高山

小松玄季(関東森林管理局)

初日は清見町有用広葉樹モデル整備林を見学した。ここは元薪炭林だった林分だが、1984年に有用広葉樹(コナラ・ミズナラ・クリ・ホオノキなど)のモデル整備林として設定された。将来木(立て木)を決めてその木の成長を阻害するような木を取り除くという将来木施業を行っており、中伐期(DBH30cmくらい)と高伐期(DBH40cmくらい)での収穫を目指している。将来木はできるだけ均等な配置になるように選ぶが、何m離すというよりも樹冠が接しないくらいの間隔で決めている。モデル整備林として設定後、おおむね10年ごとにモニタリング調査を行って林分の現況を把握しており、1984年と2016年には間伐も行っている。1984年の間伐は林分によって強度や種類が異なり、15%ほどの本数間伐率となった場所から70%以上の間伐率となった場所まで存在する。DBHの成長が最も良いのは一番大きな本数間伐を行ったところだった。適切に肥大成長をさせるのなら間伐は強めに行う必要があるが、強度な間伐は気象害を引き起こしやすくなるほか、後生枝(価格を下げてしまう)を発生させやすくなるというデメリットがある。ということは、数年~10年おきぐらいにこまめに間伐を行うのがいいということになる。間伐が必要なことも目標林型によって施業方法を変えるのも針葉樹と同じだが、針葉樹よりもこまめな手入れが必要かもしれないと感じた。前回の間伐はもともと10年以上前に行う予定だったが、実施できずやや高齢に入ってからの間伐となってしまった。人事異動による仕事のムラは、国有林だけでなく地方でも課題となっているようだ。

2日目は飛騨市宮川町の池が原湿原周辺の市有林で広葉樹資源の活用事業を行っている箇所を見学した。林分は2箇所あり、両箇所とも将来木施業を行っているが、片方は定性的な間伐による施業を行い、もう一方は架線集材を前提にして将来木施業を行っている点が異なる。

飛騨地域は日本海側の植生になっているようだ。下層にはエゾユズリハ、ハイイヌガヤ、クロモジなど。将来木施業と言っても、間伐を行ったのは50年生(2箇所目は約70年生)程度の頃で、本来の将来木施業でいう「副木、あるいは添え木」は存在せず、単なる間伐となっている。副木がないままで間伐を行うと、後生枝が出てしまい、価値が低下してしまう。しかしながら飛騨地域の広葉樹は4、50年生以上が多く、副木をきちんと確保できる状態ではない。「ヨーロッパの方では広葉樹もまっすぐ伸びて樹高もある。原因は分からないが曲がりが多く樹高も低いのは東アジアだけだ(もしかしたら台風の影響とか?)」という参加者からの発言もあった。そうであるのなら、ヨーロッパ生まれの考え方である将来木施業をそのまま日本に導入するのは難しいのではないかと思った。

2箇所目の林分を見て、広葉樹の伐採はもちろんだが集材も工夫をしなければならず難しいと改めて思った。谷側に倒して上げ荷集材でないと樹木の形状上枝が引っ掛かって集材が困難である。また、広葉樹は1個体あたりの樹冠面積が大きいため、間伐と言ってもかなりの大きい面積が開いてしまう。将来木を決めていても伐採時に巻き込まれたりして、当初想定より2割ほど将来木が減ってしまっていた。2箇所目では広葉樹を伐採し土場に出す際に買受業者の人に見ていてもらい、業者とどのように造材するかを決めてから造材するという方法をとっていた。伐採する側としては市場を通すより高く売れるし、買う側にとっては思った通りの長さの丸太を買えるのでとても好評だったとのこと。個体の形状や質が重要になる広葉樹ではこういう直売方式が適していると思ったが、スギ、ヒノキでも市場を介さずに直接製造工場へ納入する方式へ変換していく方がいいのかもしれない。バイオマスはもったいない…

最終日は荘川広葉樹総合試験林を見学した。本来は2日目に行くはずだったが、林道の工事が行われていて通行できなかったため3日目に変更となった。ここは広葉樹(二次林)の間伐・皆伐実験、広葉樹(ケヤキ・クリ・カツラ)の植栽を行っているところで、面積は100haほど。しかし1試験区あたりの面積が小さく、新しく試験しようとしても十分な反復が取れないという。カツラの林分にはミズメやミズキなどが侵入してはいるものの上層はカツラで占められていた。比較的まっすぐ育つ種なので見た目にもすっきりした林分になっていて、歩いていて気持ちがよかった。ケヤキ植栽林は下刈りを行っても純林にはならなかった。畦畔種にとってBdドライの土壌は適地とはいえないせいもあるが、ケヤキは土壌水分量に対してシビアな性質を持っているようだ。クリの植栽地はほぼ純林となっており、適地であったことがうかがえた。クリは還孔材であるために燃やすとぱちぱち爆ぜて薪には向かないというので、もっと大きな径級を目標にするのだろう。

印象的だったのが天然林皆伐区(小屋のとなり)のこれまでの経過だった。ミズナラを主とする天然林を皆伐するとヌルデが一斉に生えてきたが、ガの食害により全滅したとのことで、現在はミズキなどの亜高木性の木本種が優勢となっている。低木性の種が優占している状態から高木種が出てくるようになるまでには、数十年程度の比較的短い時間で到達するのかもしれない。それと同時に本来生えていたミズナラはまだ出てこず、元の林相のようになるには気の長くなるような時間が必要であることをあらためて実感した。

研究会の3日間をふりかえって

・普段職場ではスギ、ヒノキの話題しか出ず、広葉樹はその他Lとくくられてしまっていて淋しい思いをしていたので、広葉樹の名前がふつうに飛び交っていることが嬉しかったし、成長の特徴や種の持つ性質、使い方などの話を聞けた/できたのはとても刺激を受けた。

・国有林で扱っている木材はほぼスギ、ヒノキ等の針葉樹だが、そのうち広葉樹を利用した林業(ヤナギなどを利用したバイオマス的な使い道から、ウダイカンバなどの銘木を単木的に管理する方法まで)がふつうになるかもしれない。

・副木を配置して「将来木施業」をきちんと行える20~30年生の広葉樹林は日本には少ない。今ある広葉樹林分に将来木施業を適用しても、ただの間伐となり後生枝が出て材価が低くなってしまう。ということは、今の日本で将来木施業は難しい…?

・将来木施業を行ったとして、最終的な行き先は皆伐、というのは気にかかる。皆伐後は各地で失敗している天然更新を期待するのか、それとも人を使って植栽するのか?

これから先労力もコストも限られる中、森林を保持しながら持続的に資源を利用していくことも大事なのではないだろうか。

・飛騨のような昔から木材(広葉樹材)を扱う文化がある街は良いが、それは日本のほんの一握り。そのほかの街でどのように広葉樹を使う文化や需要を作るか。ドイツ林学が入る以前はスギ、ヒノキ以外を扱う文化が日本各地にあったはずなので、そういった地域の文化に再度光を当てて評価して、地域の特性を生かしていく機運が必要だと思う。

 

森林施業研究会飛騨合宿に参加して

新井彩香(関東森林管理局)

この度は、森林施業研究会の飛騨合宿に参加させて頂きありがとうございました。

大学では森林・林業について学んだものの、現在、業務では現場に関わる担当ではないため、久しぶりに樹木を近くで観察することができ、まず新鮮に感じられました。

広葉樹林施業については、まだまだ施業方法などが確立されておらず、川下の需要も安定的な確保には至っていないことが改めて分かりました。また、経験やデータが蓄積された林分が少なく、求められる年輪幅や径級が様々であり、細かな地形によって植生が異なる。広葉樹材に対応できる製材所などが少ない。そもそも広葉樹の需要が創出できていない。など、産業として成立させるには課題が多くあると実感しました。しかし、そのような中で先進的で様々な試験や事業を進める飛騨市は、今後の広葉樹林施業にとって貴重な取り組みであると感じました。

林業は何十年、何百年先を見通す仕事であるにも関わらず、一般の方にはどうしても目の前の結果を求められることが多いため、もっとたくさんの方に理解してもらえるよう努力する必要があるという意見や、スイスのフォレスターからは言われたことをそのまま取り入れるのではなく、考え方を学び地域に取り入れるという姿勢、長期にわたるモニタリングは必要だが現在のしくみでは継続が難しいという実情など、様々な立場の方がいたからこそ知れたことが多くありました。補助金などの話については理解が追いつかず、これから勉強しなければと感じたところですが、国有林としてできること、やらなくてはいけないことが何であるのかを、自分なりに考えるきっかけとなりました。