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木霊(TARUSU) 森林施業研究会ニューズ・レター No.75 (2022年3月)

Newsletter of the Forest Management and Research Network

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2021年度の施業研究会活動総括 ~新年度は合宿復活を考えています~


代表 小山泰弘

森林施業研究会の行事と言えば、春の森林学会大会に続いて行われる『シンポジウム』と、秋に現場で議論する「合宿」が定番となっています。しかし、一昨年から猛威をふるう新型コロナウイルスの影響で、本大会がオンラインとなり、大会会場でのシンポジウムが難しくなってしまいました。

他の研究会では、オンラインシンポジウムを開催するところも出てきていますが、本会で進めているシンポジウムでは、複数人の話題提供をきっかけとして、会場全体で議論を進める総合討論に時間をかけています。ここでは、会場の参加者と発表者が意見交換を行うというよりも、話題提供に刺激を受けた参加者同士が、議論を重ねる中で、現在の林業技術に対する課題を共有する時間になっていました。

オンラインのシンポジウムを開催したとして、熱量の多い参加者同士の議論がどこまでできるのだろうか?と悩んでしまい、いくつかのオンラインシンポジウムを参考にしながら、実施方法の検討を進めてみましたが、今年度も難しいという結論に至りました。

でも、森林施業研究会のシンポジウムは、森林学会に参加された林業研究者(学会参加者)を対象として施業研究のあり方・方向性を提言する場として機能させていくということは変わらずに続けていく予定です。まだまだ以前のような「対面式」の学会が復活するまでには時間がかかると思いますが、もう少し議論を重ねながら「オンラインでも可能なスタイル」があるのかどうかを含めて検討してまいります。

一方の「合宿」ですが、これについては、何とか再開したい!と考えています。

2020年の岐阜合宿でも夜の部を簡略化するなど感染症対策を意識しながらも、「何とか開催できた」ことを踏まえ、今までのようなスタイルにはこだわらず、「出来る範囲で実施」の方向で、関係者と打合せをはじめました。まだまだ様々な調整を要することではありますが、2022年度のできるだけ早い時期に、合宿を開催することで調整をはじめました。

施業研究会の合宿では、「昼間は徹底的に森を見て」「夜通し議論をたたかわせる」というのが恒例のスタイルですが、私たちの身近なところでも感染拡大が続く中、私のような「公務員」自らが、感染拡大の先頭を走るというわけにはまいりません。「ついつい口角泡を飛ばす」ことになりやすい「議論をたたかわせる」夜の部を中止してでも、「現場を見る」ことだけでも復活させた合宿から再開したいと考えています。

開催時期としては、梅雨期の集中豪雨に見舞われる前の5月から6月頃に実施したいと考えています。日程的には、せいぜい1泊2日。参加者も少数に絞らざるを得ないと考えています。詳細は固まっていませんが、3月末に開催される森林学会の合間に、関係者で最終調整を行っていく予定で、新年度に入ったところで募集を開始しようと思っています。

募集にあたって、コロナ禍である事を考慮して、開催地に近い近県の方を優先させて頂くなど、一定の縛りをかけることも考えています。すくなくとも、考えられる感染対策を充分に考慮した募集にせざるを得ないかもしれませんが、「まずは現場を重視する」という施業研究会の姿勢を見せて行けたらと思っています。

 

20年の時間は森の姿を変えていた ~第1回合宿会場の今を訪ねてみました~


小山泰弘(長野県林業総合センター)

コロナウイルスの感染拡大に伴い、県外へ出かけることは大きく規制され、警戒レベルが高くなると域外への移動も制限されるなど、日々の業務がめまぐるしく変化する毎日でした。2021年は感染拡大が激しく、どのような形であっても全国から人を集めるようなイベントは簡単にできるようになるとは思えませんでした。

とはいえ、2021年の10月、夏の第5波が落ち着いてきたことで、感染対策に配慮すれば、なんとか県外の森を訪れることも不可能ではない状況になりました。こうした思いは、研究会メンバーの中でもあったようで、11月初旬に元代表の大住克博氏から、「年末まで感染警戒レベルが落ち着く可能性が高いので、少数日帰りで第1回合宿会場となった富士宮の森を見に行かないか?」と誘われました。

私自身は、第1回合宿が開催された1998年は、広葉樹造林の調査を始めたばかりで、興味深い内容ではあったものの、「広葉樹の研究を始めたばかりの人間は、広葉樹の勉強に専念すべき」と上司に拒絶され、参加することは叶いませんでした。それでも2007年5月には機会を見つけて現地を訪問することが出来ており、その後が気になっており、誘いに乗ることにしました。

実際に現場を訪れることが出来たのは、ご案内いただける渡邊定元先生のご都合に合わせた2021年12月12日のことでした。思い返せば、年末からは第6波と呼ばれる感染拡大に見舞われ、私が住む長野県も「まん延防止等重点措置区域」に指定されるようになり、あの時期を外せばお邪魔することが出来なかったとは思います。

昼を挟んだごく短時間の訪問になることから、駆け足での見学ではありますが、当日のレポートを簡単に御届けします。

今回の合宿では、私を含めた5名が会場の最寄りとなる東海道新幹線の新富士駅を経由して身延線の富士宮駅で集結し、できるだけ密にならないように2台の車に分乗して、渡邊先生のご自宅へ。まずは、第1回合宿で案内いただいた渡邊先生と、渡邊先生が代表を務めるΦ森林環境研究所の望月氏から最近の研究成果の概要をご紹介いただいた後で、早速現場の森へ。

第1回の合宿では「高密路網を整備して、その中で列状間伐を行う」という渡邊先生の提案に疑心暗鬼な参加者が多かったようでした。ところが、10年後にお邪魔した私の記憶では、高密路網を整備することで、チェーンソーで伐採した木材はどこに倒しても機械で直取りが可能になり、ハーベスタが自由に走り回れる道を整備することで、造材した場所からトラックで直ぐに運搬できる事が強調され、施業として成り立つのだと逐次強調されている渡邊先生の姿が印象に残っています。

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写真1.施業地の様子(2007年当時)

そこで、改めて私が訪れた2007年当時の写真(写真1)を探してみたところ、過密だったヒノキ林を3残1伐の列状間伐を行い、林床に光が差し込んだことで、下層植生が少しずつ出てきている姿が写っていました。当時の写真を見返すと、残存列の中を縦横無尽に参加者が歩き回っていた一方で、伐採列を歩く人の姿はなく、列状間伐を行った森でありながら、伐採列の光環境が改善されたことで、伐採列には植物が繁茂し、残存列が歩きやすくなっていたのだと思い出されます。

このときの林齢がおよそ45年生だったと記憶していますが、最終伐期を150年として、1本あたり3立方メートルで、立方単価で5万円が見込まれる樹木を「将来木」として、100本/ha選定したと記憶しています。渡邊先生が強調されていたのは、150年生で1500万円の売上げがあり、1000万円は所有者に返せる可能性が高い山とすること。それだけではなく、途中で間伐を繰り返すのだから、間伐する度に、一定の収入が得られるので、ちゃんと儲かる林業になると強調されていました。

そして今回、第1回合宿から20年以上が経過した現地では、列状間伐後に2回の収穫が行われ、下の写真(写真2)のように3回目の収穫に向けて成長しているところでした。前回の写真とは大きく異なり、残存木の間からは更新木がすくすくと成長しており、よく観るとその中にはスギやヒノキの稚樹も多く、光と土壌が更新に最適な条件であったと感じました。今回の施業をみると、将来木として育てたい木がはっきりと見えるようになり、将来木の育成が順調に進んでいることがわかります。

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写真2.施業地の様子(2021年)

さらに、施業前に整備されていた高密路網に加えて、列状間伐の特性をさらに活かした施業が行われていました。今回撮影した写真に写る渡邊先生の左にある空間は、列状間伐で伐採した伐採列なのですが、この伐採列がその後の収穫時には作業路となり、高性能林業機械による伐採がさらに効率化していました。とはいえ、3残1伐の伐採列すべてが作業路になったわけではなく、作業として利用する列と、天然更新を促す列が交互に展開され、収穫作業の差異は、作業路から左右3列を対象とすれば良くなり、ハーベスタで直取りが容易になっていました(図1)。

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図1.列状間伐後の植栽列の模式図

また、実際の作業に関しても望月氏から「収穫作業では、本数伐採率を目標とする間伐率(実際には20%のところが多いようである)の半分以下に設定し、将来木の周囲で、将来木の成長を最も阻害する1本のみを収穫木とする。このため、概ね中層木が収穫木に選ばれ、結果として収益性の良い立木のみが利用されることになり、収入は確保できる。」と作業を解説?していました。

目標の半分しか伐らないと、間伐にならないのではないか?と気になりましたが、「収穫時は丁寧な作業に心がけるけれど、将来木を傷つけないことが最優先となるため、どうしても伐採時に傷が付いてしまう事がある。また、調査時には気づかなかった不良木が見付かることもある。こうした樹木を残しておいても価値が低下するだけなので、収穫時に合わせて伐採する。その結果、毎回の伐採率は概ね目標に沿った数字になる。最初から目標の伐採率で選木すると、結果として傷をつけた木などの不良木が残る上、これらを含めて伐採してしまえば、将来の収入が減少するだけでなく、林床や競合木との関係を含めた環境改変が大きくなるので、絶対に行わない。」とのことでした。

また、通常の間伐のように劣勢木を伐るということはせず、将来木に影響を与える中層木を伐採木にすることで、収益性が担保されるだけでなく、一般的な人工林にある「一山型」の直径階級から、最も高い山となる中層木を伐採することで、劣勢木と優勢木が多くなるU字型から、将来木のスペースを確保することで、肥大成長が進み、本来の天然林に見られるL字型になると想定していました。この形であれば、同齢でスタートしたはずの人工林でありながら、直径階級におおきな幅がある「同齢択伐林型」が出来上がることになります。この形が、理想型だと渡邊先生は強調します。確かに択伐林型ができあがっていれば、将来木を伐採して出来たギャップに天然更新木が育ち、林業の課題とされる初期保育の手間が大きく減少する可能性が出てくるのだと感じました。

施業間隔は、山の様子を見ながら7~10年に一度実施することとしており、「金額は些少ではあるけれど、10年以内の短い期間で収入を得ることができるため、所有者としても山林所有に対する意欲が湧く。さらに、常に山の異常を見守ることが出来るため、山を荒らさないことにもつながる。」ことを渡邊先生も強調していました。

こうした現場を見ることで、細かい施業の繰り返しは、被陰下でも成長が可能なスギやヒノキでは、天然更新適地であれば、良好な成長が期待できると感じました。一方で、「中層木を伐採することで、天然更新木を痛めてしまい更新阻害になるのでは?」と気になったので尋ねてみたところ、「天然更新木に配慮していたら、収穫は出来ない。収穫にコストをかけているうちは林業など成立するはずがない。植栽の技術はある程度確立していることを考えれば、ダメなら植えれば良い。」と一蹴されました。

ただし、現地を見る限り、天然更新が難しい場所もありそうで、そういう場所に関しては望月氏も「天然更新ありきではなく、現場にあわせますよ」とヒトコト。現場を見ながらその後も時間の許す限り議論を重ねてきました。

渡邊先生が企画して実施した第1回合宿。その記録を読む限り、批判の方が目立っていた雰囲気ではありますが、それから20年にわたり、実直な施業を繰り返すことで、学者としての理論だけでなく、「実践して見せた」ことは、感服するしかありませんでした。

そして、現場からの帰り道。渡邊先生から「オレはヒノキで実践した。長野にいる以上、カラマツでどうすれば良いのかを考えろ」と宿題を頂きました。職場に戻った後、元上司からも「あちこちに増えているカラマツをこれからどうすれば良いのか難しくなっている。カラマツの価格が良いとは言え、皆伐再造林を行う体力とコストが見合うのかどうか疑問も残る。」とお悩み相談がありました。渡邊先生のような実践にはまだまだ遠いかもしれませんが、「私ならどう答えればよいのか」を真剣に考えていかなくては・・・と悩みを深くしています。

今回の現地での学びを受け、「現場でじっくり議論をする」ことの大切さを改めて感じました。「鉄は熱いうちに打て」とは良く言われますが、熱が冷めないうちに、今回の現場をこのレターを見て頂ける皆様と一緒に歩けたら良いなあ・・と願っています。